(発言)私人間の契約で差別行為が行われる場合に何が問題になるのか。
この場合、差別される側の平等に扱われる権利や人格権が害されるが、相手方にも権利があり、私的自治あるいは契約の自由がそれにあたる。民法でいう私的自治は広く意思の自由ととらえられており、基本的な自由として認められている。更に、私的自治は、憲法13条の幸福追求権にさかのぼる基本的な自由である。契約をするとそれに拘束されるという点で、契約の自由は私的自治と似ているけれども違う点がある。しかし、契約を守ってくれないと、こうしようと思っていたことができなくなるので、拘束力も含めて契約の自由も幸福追求権、つまり憲法にさかのぼる基本的な自由にあたる。
契約で差別行為が行われている場合は、平等権等の基本的人権が問題になるが、憲法上の基本的人権は国と個人の関係に妥当するものである。私人間で問題が生じた場合は、民法を適用するときに憲法の趣旨を考慮するという形で、憲法の規定は間接的に適用されるというのが通説である。具体的には、民法90条の公序良俗に反する契約等は無効とする規定や、民法709条の不法行為に基づく損害賠償に関する規定を解釈し適用するときに、憲法の価値を考慮するということである。
XがYに権利を侵害されているときは、国は、Xの基本的人権をYによる侵害から保護する基本権保護義務を有しており、先の間接適用説はこれによって基礎づけられる。ただ、国が保護することで相手方の権利の制約が大きくなり過ぎないよう、双方の権利や自由を衡量して判断する必要がある。
まず、契約ができない又は不利な契約しかできないため、障害者であるXの権利が著しく侵害されているときは、国はXを保護しなければならない。特に生活する上で不可欠なサービスの場合や代替手段がない場合には、保護されやすくなる。
次に、Xを保護することで、Yに契約上の義務を課すことによって生じる不利益がどの程度かが問題なる。Yが提供する商品や役務の本質を変えなければならない場合は、Yへの過剰な制約であり、例外として正当化されるだろう。見合わないほど低い費用で商品や役務を提供する契約をYに強制できるかは難しい問題である。実際には高い費用が必要であるときに、X以外の人に価格を転嫁できなければ、そのサービスをやめざるを得ない可能性もあるし、大変でも障害者等の権利を害する場合はだめだということになるかもしれない。
また、契約の自由だけではなく、Yの重要な実質的権利が問題になる場合は、それも尊重されなければならない。Yが閉鎖的なメンバーズクラブである場合、相手を選んで親密な関係を形成する自由は幸福追求権の一つであるから、国がXとも交流せよと強制できるかは難しい問題である。ゴルフクラブについての判例は、親密な関係を形成する自由を尊重したものと、ゴルフクラブはパブリックな性格を持つのでオープンになるべきだと責任を認めたものに分かれている。