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第15回障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(2012年3月9日)
議事要録
【議事 医療の分野における差別禁止について】
- (東室長)まず「精神障害分野に特有の医療に関する事項」について、ご議論いただきたい。障害者権利条約(以下、権利条約)14条では、身体の自由及び安全という観点から「いかなる場合に置いても自由の剥奪が障害の存在によって正当化されないこと」という規定があるが、差別禁止という観点から見て、これをどう考えるべきか。特に、精神障害の強制入院を定めた法制度との関係について、議論していただきたい。精神保健福祉法の入院形態には任意入院、措置入院、医療保護入院、応急入院があり、任意入院以外は一定の要件の下で強制的に入院させる規定だ。医療観察法にも裁判所が入院等の決定をする規定がある。このような現行法についてどう考えるのか、また差別と合理的配慮の定義、その例外をどう考えるかという議論をお願いしたい。
- (発言)委員提出資料「医療の分野における差別禁止について」(以下、「医療分野の差別禁止」)の説明をする。精神障害のない人は自傷他害のおそれがあるというだけでは入院にはならないが、精神障害のある人はそれだけで強制入院になる。権利条約14条が障害を理由とした自由の剥奪を禁止しているのは、障害のある人とない人の間で自由の制約の仕方が異なるのは差別に当たるということだ。権利条約19条は、地域生活の権利を規定し「特定の生活様式で生活するよう義務づけられない」としている。知的障害や精神障害のある方が地域から隔離、収容されている状況を改善すべきだということだ。日本の精神科の入院期間は他のOECD諸国の約15倍で、5年以上入院している人が15万人以上いるという実態から考えなければならない。権利条約25条、26条に関わって、医療、福祉やリハビリテーションは利用者の自発的な意思があってはじめて成り立つので、「他の者と同一の質の医療」には任意性や自発性が含まれるべきだ。権利条約17条は障害のある人の心身のあるがままの状態を尊重することを求めており、本人の意思にかかわらず障害を治療すべき状態と考えてきた医学モデルの否定的評価と差別はなくすべきだとしている。差別禁止法が成立しても、現行法で明文化されている強制入院制度を直ちに改廃するのは難しいが、国内法より上位の規範である権利条約を批准すれば、これに矛盾する法律は変える必要が出てくる。個別的治療行為の強制等については現行法に明文化されていないので、障害を理由として、医療上の基本原則であるインフォームド・コンセントを否定することは差別であると規定することは、現行法と抵触しないと考えられる。また、差別禁止法によって強制入院の要件を変更することは難しくとも、合理的配慮があれば地域で生活できるにもかかわらず、その配慮を尽くさずに入院を継続させることは合理的配慮義務違反であり差別に当たるという観点の規定は可能ではないか。
- (東室長)医療に関しては精神障害関係の特別な法制度があるため、障害者一般ではなく精神障害に特化した議論をして頂きたい。
- (発言)精神障害団体は、精神障害に特化した議論は精神障害を特殊な枠組みに入れることになると考えている。最終的にはこの枠組みをなくすべきだが、現行法が精神障害に特化したシステムであるため、これについて議論せざるを得ない。
- (発言)委員提出資料の中の法案骨格試案(以下、「骨格試案」)について説明する。「骨格試案」14条3項で、障害を理由とする差別には、障害者が希望しない長期入院による医療を受けることを強制することが含まれるとしている。その上で、現行法との整合性を図るために「法令に特別の定めがある場合を除く」を加えた。次に14条4項で差別の例外については、合理的配慮を尽くした上で、役務の質を適正に保つこと、生命及び身体の安全を保つこと等に支障が生じたかどうかを考慮し、解釈しなければならないとしている。
- (発言)強制治療や強制入院を受けさせられている人の中に精神障害者が多く、また精神障害者特有の差別の問題があることは認識を共有しているが、精神障害者以外にも強制治療等を受けている人はいる。インフォームドコンセントと合理的配慮を徹底し差別をなくすべきで、精神障害者の問題であると同時に、多くの障害者の問題だという見方が大切だ。「骨格試案」についての説明で、現行法との整合性を図るために「法令に特別の定めがある場合を除く」を加えたとあったが、これでは現行の精神保健福祉法や医療監察法に規定されている強制入院を維持するのではないか。また「生命及び身体の安全を保つこと」についても詳しく説明してほしい。
- (発言)権利条約を踏まえれば精神保健福祉法や医療観察法等現行法に問題があることが指摘されたが、このように差別禁止法は現行法とバッティングする。差別禁止部会が厚労省所管の現行法の改正案を提言することはできないが、関連する事柄を扱っているこの部会としては、現行法の問題点を果敢に指摘すべきだろう。「骨格試案」について、差別禁止法と現行法との整合性に関する文言を置く際に、どのような解決策が可能なのか。
- (発言)「骨格試案」で「法令に特別の定めがある場合を除き」と書いたのは、現行法を支持しているのではなく、現行法との関係を念頭に置かなければいけないという趣旨だ。強制入院だけでなく、教育や労働等他の分野でも現行法との関係を踏まえ議論している。現行法の差別性や欠格条項の問題について、この部会でどこまで踏み込んで議論するかは、難しい問題だ。
- (棟居部会長)「骨格試案」に「法令に特別の定めがある場合を除き」と書くということは、現行法との関わりという点では、これに触れないという消極的な立場をとるということか。
- (発言)条文は消極的に見えるが、そのような消極性を表明しているのではない。
- (棟居部会長)「医療分野の差別禁止」では、インフォームド・コンセントをしないことや合理的配慮を尽くさずに入院を開始または継続させることが差別になると規定することは現行法とは抵触しないとしているが、これはギリギリまで頑張るという趣旨か。
- (発言)「骨格試案」の条文の趣旨は分かるが、現行法を追認するように見えるという懸念があるので、「医療分野の差別禁止」では現行法について言及しないこととした。そうすると、インフォームド・コンセントのように、コンセンサスが得られつつあり、かつこれをしなくてよいという規定もない領域が出てくる。こうした領域は差別禁止法が先取りできることになる。また、インフォームド・コンセントをしないことや、地域生活のための合理的配慮をせずに入院させることは差別だと規定することで、一つ一つの治療にインフォームド・コンセントを重ねることが必要だとの認識が広がり、強制入院の乱用が抑制されるのではないか。
- (棟居部会長)「医療分野の差別禁止」では、権利条約14条1項(b)の「・・いかなる自由のはく奪も法律に従って行われること・・」を踏まえ、強制入院も現行法に従って行われているのでとりあえずは認め、その後の「・・自由のはく奪が障害の存在によって正当化されないこと」という規定から、精神障害を理由にインフォームド・コンセントを省いて自由をはく奪してはいけないとするということか。
- (発言)権利条約14条1項(b)の「自由のはく奪」は入院のように地域で生活する状態を根こそぎ奪うような状況を想定しており、個別的な治療行為についての規定ではないだろう。今のところは障害者権利条約に違反しているものの、所管事項ではないため踏み込んだ規定していないということだ。
- (発言)「医療分野の差別禁止」は、医療の原則として任意性が保障されるべきで、自発的意思に基づかない医行為は差別だという考えをベースにしている。その上で、「法令に定めがある場合を除き」として現行法にまかせるのかどうかを議論しているわけだが、その医行為に正当な目的があることを証明できた場合を除く等の例外事由を差別禁止法に設けるという方向もあるだろう。強制入院は問題が大きいので、差別禁止法に現行法の解釈を制限する条項を入れるべきで、その限りでは現行法に抵触しないだろう。
- (東室長)「医療分野の差別禁止」が例外に触れていないのは何故か。
- (発言)「医療分野の差別禁止」の「保健医療における差別の定義」で「障がいを理由として、自発的意思に基づかない医行為等を行うこと」を差別と定義しているが、これには例外は必要ないのではないか。
- (東室長)交通事故で植物状態になった場合は、本人の意思に基づく緊急治療行為はできない。植物状態を障害だとみる可能性もあり、その場合は今の理屈は成り立つのか。
- (発言)総論を検討した際、障害の定義は機能障害に限定するという議論があった。そうなると例外要件が必要になる。
- (発言)生命の問題で例外を設けることはイメージできないので、障害を理由とした自発的意思に基づかない医行為には例外を設けないという意見を支持する。緊急治療の場合の例外の検討は必要だが、緊急事態以外で「本人の生命、身体、安全の保障」と言って例外を設けることについては精査が必要だ。
- (棟居部会長)差別禁止法と現行法との関係を議論しているわけだが、現行法は身体の拘束を自由のはく奪として禁止せずに、「こういう症状があるから強制入院が必要だ」と医療モデルの立場で理由を挙げ、障害者を社会から排除している。これは差別に当たるということを明確にする必要がある。医療モデルに戻りがちな分野なので、議論の際にも注意が必要だ。
- (発言)「医療分野の差別禁止」では、現行法で強制入院が規定されていることに言及した時点でこれを追認したことになるとして言及していないが、それでは予測可能性を失うことになる。差別禁止法と現行法が抵触し得るなら、その点を議論するべきだ。
- (発言)強制入院のように両者が抵触する点について、権利条約の観点からその要件を変えることができれば有効だ。しかし、強制入院は差別だけれども現行法ではこの限りではない等と書くことは、現行法はこのままで仕方がないということと同じではないか。
- (発言)障害を理由とする自発的意思に基づかない医行為は認められないが、自発的意思に基づかない医行為すべてを否定するわけではない。感染症の場合は限られた期間だが強制治療が認められており、このような例外的な強制治療は認めた方がよい。
- (東室長)次に「医療全般に関する事項」「医療における差別禁止について、役務サービスとは別個に規定すべきか」についてご議論いただきたい。「相手方の範囲」について、「骨格試案」では「医療分野において業として物品又は役務を提供する者」として具体例を規定している。韓国の差別禁止法では医療機関及び医療従事者等としており、日弁連が2007年に示した法案要綱では医師、歯科医師、薬剤師等の例示を列挙している。「医療分野の差別禁止」では「医行為、医業類似行為又はこれらに関連する行為に関与する者」とある。規定の仕方と併せて、薬品等を提供する人やリハビリ関係者等周辺の関係者も含むのかについても議論して頂きたい。「差別の定義と例外」について、千葉県条例では「本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、医療の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること」「法令に特別の定めがある場合を除き、障害を理由として、本人が希望しない長期間の入院その他の治療を受けることを強い、又は隔離すること」としている。「骨格試案」では例外について、合理的配慮を尽くした上で「障害者及び他の者の生命及び身体を安全に保つこと」に支障が生じたことを考慮すると規定している。例外については、生命又は身体の安全という抽象的な文言を正当化事由とすることがどうなのかについてご議論いただきたい。「合理的配慮と例外」について「医療分野の差別禁止」では精神障害を念頭に置いて規定しているが、これは医療全般にも当てはまるだろう。「役務サービスとは別個に規定すべきか」については、医療の分野は普通の役務サービスとは違う形で規定できるという議論もあり得るだろう。
- (発言)保健医療分野には、性別を考慮した医療行為の必要性という点で、他とは異なる特徴がある。総論で障害者差別と性差別の関係について議論するとともに、各論でも触れていただきたい。韓国の差別禁止法では、性に関する権利や性的自己決定の尊重、医療機関と医療従事者等が医療行為に関して障害者の性別を積極的に考慮すべきこと、障害女性への差別禁止等を規定している。男女ともに同一に処遇することが、女性の尊厳の侵害につながるということは、この分野では明確になっている。
- (棟居部会長)一般的には、女性が女性の医師に診察を求めるということまでは保障されていないが、女性障害者への医療行為については、ハラスメントの防止や尊厳の確保のために医師等は女性でなければいけないということか。
- (発言)一般的な医療行為がどのように行われているかが基準になる。障害を持たない者も医師の性別を選べないので、障害を持つ人と持たない人を平等に扱うという要請に従うことになる。ただ、性別に基づく医療行為が行われている場合は、障害者もそれを選択できるようにするべきだ。
- (発言)聴覚障害の人が病院で通訳者を介して診察を受けようとした時に、医者が通訳者は出ていくように言ったため、適切な診療が受けられなかったという事例がある。生命又は身体の安全が確保できないことを直接の理由にして診察を拒否できるという例外規定は、診察そのものが生命の問題なので適切ではない。安全が確保できず、本人の意思表示が困難な時等と規定するべきだ。拡大解釈がされない規定にするべきだ。
- (棟居部会長)聴覚障害者の事例は、医者としては守秘義務があるため通訳者であっても本人以外の第三者には話を聞かせられないということか。
- (発言)そのような趣旨だと思うが、手話通訳がいないために適切な治療を受けられず症状を悪化させたのは人権侵害であり、障害に基づく差別が招いた結果だ。
- (棟居部会長)医師法19条に「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」とあるが、聴覚障害者の診察に手話通訳を入れないのは診療を拒んだことに等しいという指摘だ。
- (発言)性別を考慮した医療行為の必要性についての意見に関連して、「医療分野の差別禁止」では「保健医療の公平な水準の保障」という項目で「何人も、障害に基づく差別なしに、障害のために必要とされる保健サービスを含め、他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の保健医療を本人の求めに応じて保障されなければならない」と規定しているが、ここに性別への配慮の必要性を加えることも考えられる。相手方の範囲には人や機関という行為主体から限定を加えるアプローチと、行為から規定するアプローチとがある。医師法では医行為を業とするものを医師と呼ぶと規定しており、医行為の概念は判例等で蓄積されている。鍼、灸、あん摩等医師以外の一定の技術を持つ者が行う医業類似行為や、検査や薬剤の製造等の医療関連行為という行為類型もあり、これらも事例が集積されている。行為から相手方を規定する場合、どこまでがその行為に当たるか曖昧だが、網羅性はあるだろう。この他、合理的配慮を尽くさない入院が差別に当たるという点に関連して、措置入院が問題になる。すなわち、措置をする主体は都道府県知事や政令指定都市の長であるため、合理的配慮義務者を医療機関や医療従事者と規定すると知事等が漏れてしまう。これでは意味がないので、「医療分野の差別禁止」では「医行為、医業類似行為又はこれらに関連する行為に関与する者」と規定し、知事等も含むようにした。
- (東室長)「関与する者」という場合、保護入院では医師が2名と保護者だが、保護者にも合理的配慮義務があるのか。医療観察法では裁判所が関与する者になるのか。
- (発言)保護者制度は権利条約12条の法的能力の平等性からみても重大問題で、厚労省でも廃止の方向で検討していると聞いているが、保護者も配慮をせずに入院させた場合は公的責任を問われてもやむを得ないだろう。医療観察法における裁判所については、入院や退院に当たり生活環境調整を行う社会復帰調整官が合理的配慮を行い、その上で裁判所が判断する枠組みとしてはどうか。
- (発言)今年の4月からたんの吸引、経管栄養等の医療行為については、医師の指示を受けて居宅支援や福祉サービスの事業所、介護従事者、特別支援学校の教員等もできるようになるが、この人たちは相手方に含まれるのか。
- (発言)含まれる。リハビリを提供する者や薬品を提供する者も含まれる。行為から相手方を規定する方が網羅的だという意見があったが、義務を負う者と行為の双方を明確にしないと義務を負う者にとって予測可能とはならない。差別禁止法は私人の社会経済活動を規制する法律なので、義務を負う者と対象事項を明確にする必要がある。「骨格試案」14条「医療・福祉」では「医療分野において業として物品または役務を提供する者」として義務を負う者を、これだけに限らないが、一号から十六号まで挙げた。
- (発言)相手方の規定の仕方については、職種で規定すると網羅できない。差別事例を見ると、医療機関の窓口の人や資格の不要な医療事務の人も登場する。「医療分野に従事する者」とすると広く網羅する。
- (発言)リハビリは一般的に医療分野に限定されがちだが、実際には幅広い分野を含む。「骨格試案」14条2項の福祉の相手方のリストには、リハ専門職が含まれていないので、網羅的なリストにするべきだ。
- (棟居部会長)医療は役務とは違うという前提で議論をしている。医療の特殊性として、医師のように免許により独占的で公的な性格が与えられている業務である点、生命や健康に関わるという点等が挙げられる。従って医療は私的自治が馴染まず、差別禁止という方向が強い領域だ。他方で、病気や精神障害に起因する自己加害や他者加害が潜在的にあり得るとして、現行法では拘束や強制入院が行われている。差別禁止の方向性と現行法の拘束という矛盾する両者をどう調和させるかという、難しいテーマだ。
- (発言)精神科病院の長期入院者は減少している一方、認知症の方の入院が増えている。福祉の事業所では身体拘束が禁止されているため、精神科で受け入れていると言われているが、認知症を障害に含めるのか。ある調査によると、行動障害が改善された認知症の人のうち約4割は、支援体制や受け皿は整備されていても地域に戻れないとのことだ。その理由として自傷他害の恐れがあることが挙げられていたが、これは医師の判断だと思われる。医師は、行動障害のある人等の地域生活を支援している人たちとは違い、簡単に地域に出せないと考えている。パニックや噛みつき等はその場面だけ見れば危ないと思われるが、その障害者のことをよく知る人にとっては迷惑でも危なくもない。地域の支援スキルや環境と問題行為との相関関係が問題なのに、障害特性のみが注目されて例外にされるのは納得できない。一般の感覚とズレないようにしつつ、例外はできるだけ狭める必要がある。本人の生活の質の向上に結び付くよう、本質を押さえた議論が必要だ。
- (発言)自傷他害は本人自身に内在するのではなく、社会的支援が足りないところで起きるので、本人の地域生活を支える合理的配慮が足りていれば極小化されるだろう。例外を拡大しないようにすべきである点は意見が一致している。差別禁止法の総論に差別と合理的配慮の定義と併せて例外規定を置くならば、各論で例外を書く必要があるのか。総論の例外が各論で限定的に使われるならよいが、総論の規定以外に分野特有の例外を書くのはマイナスだ。その意味で、医療分野で生命又は身体の安全を図る場合を例外として書くと、総論で述べる例外以外にも医療の分野特有の例外があるということになってしまう。
- (東室長)千葉県条例は「本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合」を例外としているが、医療機関がこれを理由に治療を拒否するのはどのような場面か。
- (発言)自閉症のお子さんが暴れるために歯や目等の治療をできない時に断られる。きちんと座れるようになってから来るように言われる。
- (東室長)自閉症の場合でも医療スタッフに適切な研修をすれば、治療ができるのではないか。そうした配慮をしてもなお、治療できない場合があるのか議論して頂きたい。
- (発言)合理的配慮を尽くせば、かなり治療できるようになるのではないか。障害児等の歯の治療が得意な歯医者では、時間をかけて本人の特性をつかみながら安心感をもたせていく。このような専門性を積み上げていけば、例外は無くせるのではないか。
- (発言)統合失調症は治療をせずに放っておけば人格まで破壊し、知的障害も生じるため、強制治療を行うことは本人のためだと精神科医は言うが、それを否定できるのか。医療の分野では、原則として強制医療を否定しても例外を認めざるを得ない。強制医療を認める建前が本人の生命や身体の保護のためなので、規定の設け方が難しい。
- (発言)統合失調症については、3分の1は治療しても病気の進行を止められず、3分の1は薬物療法の効果があり、3分の1は自然治癒するというのが医療界の認識なので、治療しないと必ず人格崩壊に至るというのは前提認識が違う。このように医療の治療効果は不確実であり、それに対する自分の態度を決めるのがインフォームド・コンセントの問題だ。癌は治療しなければ死に至るが、治療を受けるかどうかは患者の自己決定に委ねられる。これに対し統合失調症の人が治療等を強制されるのは判断能力がないという先入観に基づいているが、精神障害以外の場合でも適切な医療選択ができない場面はあり得る。この他、合理的配慮を尽くし、インフォームド・コンセントを実現できるような自己決定支援をどのように差別禁止法に書き込めるのかが課題だ。
- (棟居部会長)医療と役務サービスを別個に規定すべきかどうかについてどう考えるか。
- (発言)私的自治という観点からすると医療は独特な分野だ。やってほしい医療を受けられないという側面と、やってほしくないのに無理にされるという側面がある。対等な商品交換の世界とは違うと思うため、独自の領域として規定した方がよい。
- (発言)医療は他のサービスと違い需要と供給の関係がアンバランスで、救命救急や産科、小児科等では需要はあるが供給が十分ではない。介護の現場でも同性介護とするべきという考えは一致しているが、そのための人的確保や対応はできていない。緊急の場合には異性介護で対応しなければ、放置することになる。理想論だけを語っても世の中の状況に合わなければ有効に機能しないので、社会の現状に配慮して法制度の中身等を検討すべきだ。
- (発言)医療については憲法25条に「健康で文化的な最低限度の生活」とあるからといって、最低限のものを提供すればよいということにはならず、常に適正な質の医療の提供が義務として存在する。また、医師は医師法で正当な理由のない診療拒否はできないとされている。以上を踏まえ、障害のある人への医療の保障を考えると、一般の役務提供とは性質が異なるので、分けて規定する必要がある。
- (発言)今、医療現場では、救急等で来た患者に精神障害があることが後で分かり、医師が対応できないとして、診療を拒否することが増えている。今回の診療報酬改定では、このような方の受入れにインセンティブを与える形にしたと聞いた。生命又は身体の保護という点で、診療の条件が整わないことは本人のためにならないという考え方も分かるが、出来る限り診療拒否をなくし、各医療機関に受入れを促す法律にする必要がある。
【議事 中間の論点整理について】
- (東室長)障害者基本法改正を受け差別禁止部会が衣替えの時期を迎えつつあることを踏まえ、差別禁止法の骨格提言を夏頃までにまとめるために議論の整理が必要だ。この中間論点整理は今後の議論を縛るものではなく、ここに示された点を柱として議論は継続する。まだ議論していない点は、これとは別に議論する。「1、差別禁止法の必要性・有用性」では差別禁止法がなぜ必要か等について、「2、現行法体系の下における差別禁止法の位置づけ」では差別禁止法制を日本の法体系に組入れることができるのか等について、「3、差別禁止法の対象範囲」ではすべての人を対象とするのか障害者に限定するのか等について、議論を整理し紹介している。「4、『障害』の捉え方」では、<1>差別禁止法における障害の概念を社会モデルで規定するのか機能障害に限るのか、<2>機能障害の範囲をどうすべきか、<3>機能障害の程度や継続期間という視点から限定すべきか、<4>過去の機能障害、将来発生するかもしれない機能障害をどう考えるかについて議論を紹介している。「5、差別」では、差別の概念に関わる議論として以下の5点を紹介した。(1)差別は異なる取り扱いか不利益取り扱いか等、(2)差別を直接・間接・関連差別を包括したものと合理的配慮の不提供の2類型とする方向性について、(3)差別が成立する要件として障害者を排除する意図が必要かどうか、(4)合理的配慮を必要とする根拠、合理的配慮を必要とする分野の範囲、合理的配慮の内容及びその例外、事前に配慮すべき処置を想定するのか等について、(5)差別の例外を認める必要性やその根拠、差別類型ごとの正当化事由、合理的配慮の正当化事由、正当化事由の立証責任について。
- (発言)欠格条項についてのヒアリングの際、欠格条項と成年後見制度の問題については引き続き検討することとされたが、どのように扱うのか。
- (東室長)今回の提案にはまだ書いていない。成年後見人制度については、各論の「選挙等」で触れる予定だ。
- (発言)「5、差別 (1)『差別』の捉え方」では、異なる取り扱いが差別だという点で意見は一致したが、権利条約が合理的配慮の提供を求めている趣旨を踏まえると異別取扱いも許される場合があるとしている。これは、機会の平等を実現し社会参加を進めるためには同一取扱いと異別取扱いの両方が必要だということではないか。「5、差別 (2)禁止されるべき差別について」では、直接差別・間接差別・関連差別を区別しているが、間接差別と関連差別は機能的には同じではないか。「5、差別 (4)合理的配慮」では、事前的改善措置について触れているが、なぜこれが必要であるのかを述べることが重要だ。すなわち、その場で配慮を求められてもすぐには対応できない場合があるという合理的配慮の限界を見据えて事前に改善措置を準備することで、合理的配慮の不提供により排除される人も減るだろうということだ。
- (発言)救済の在り方については項目がないが、いつ検討するのか。今後のスケジュールを教えて欲しい。
- (東室長)救済の在り方については、今のところ議論していないので触れていないというだけだ。各論でまだ議論していない項目と併せて4~5月に議論し、その上で結論に向けてさらに全体を議論したい。
- (発言)各論の項目として挙げている中に教育がないのは、何か意図があるのか。教育については文科省の研究会で、雇用と就労については厚労省の研究会でもそれぞれ検討されているが、そことの整合性をどうとるのか、考え方を教えてほしい。
- (東室長)各論の項目に教育がないのは単なる書き忘れだ。文科省や厚労省の研究会での検討との整合性については今後の議論なので、ここでは触れていない。
- (発言)項目によって、語尾が「・・という意見もあった」「・・すべきである」等紹介的な表現と断言的な表現がある。この語尾はこう書くべきだというような意見を出してもよいのか。
- (東室長)表現が統一されていないのは指摘の通りだ。意見の紹介なので「・・という意見がある」という語尾が適切ではないか。この点は全体的に見直す。
- (棟居部会長)「・・という意見もあった」と書かれた意見は少数意見だと受け止められやすいが、そうではないということか。削除すべき意見には×、少数意見としてグレードを落とすべきものには△、大事なので強調すべき意見には○や◎を付ける等、記号によって意見に濃淡を付けてはどうか。
- (東室長)今回の中間整理案では、評価は加えずに議論を正確に出す。分量に制限があるため意見を要約する必要があり、詳しくは議事録を見ていただくことになる。
- (発言)提案された中間整理案では、委員の意見が一致したというのは例外的で、大部分は意見が羅列されている。今回はこういう形で整理をして、今後はこれを受けてコンセンサスづくりをすることになるのか。
- (発言)「4、『障がい』の捉え方」では「障害者差別禁止法はインペアメントをもつ人を対象にしている」等と断定的な表現をした後で、最後に「・・という意見があった」と書いている。断定した箇所は部会として合意したと読めるので、断定的ではない書き方にすべきだろう。
- (発言)「1、差別禁止法の必要性、有用性」の<8>で「障害者基本法の差別禁止規定は理念であり、裁判規範性も救済手続もない」と言い切るのはおかしい。「裁判規範性があるのかどうか疑わしい」としてはどうか。
- (東室長)表記の統一に関しては、事務局で全般的に修正したい。この中間整理案は意見を短くまとめたものであって、部会の総意を示したものではないという点は押さえていただきたい。
[以上]
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