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第17回障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(2012年4月27日)
議事要録
【議事:ハラスメントに関わる課題について】
[ハラスメントと障害者差別について]
- (東室長)まず、差別とハラスメントは行為の類型として同じ構造なのかを議論して頂きたい。差別は比較要素が入るが、ハラスメントは比較の問題ではなく、その行為自体が法的に否定されるものだ。両者が同じ類型ならば、正当化事由があるのかという議論が出てくるが、ハラスメントは法律上の要件を満たせば正当化事由は議論にならない。次に、ハラスメントの禁止や防止も差別禁止法に含めるのかについて、ハラスメントの定義や相手方をどう考えるのか等の観点から議論していただきたい。
- (発言)ハラスメントと差別は行為の類型として同じなのか違うのかについては両論あり、両者は密接に関連している。差別を障害に基づく区別、排除、制限とすれば、ハラスメントも障害に基づく不利益な取扱である。しかし、差別を機会の不均等とし、ハラスメントを侮蔑的な言動とすれば、両者は異なる概念だ。ただ後者の場合も、侮蔑的言動により障害者がサービス利用の意欲を失うと、実質的に機会を付与しないことと同じ効果をもたらす。
男女雇用機会均等法(以下、均等法)は性別を理由とする差別を禁止しているが、差別の定義はない。ただ、指針の事例から性を理由とする排除や異なる取り扱いを差別としていることが読み取れる。ハラスメントについては禁止ではなく、事業主が職場のセクシュアルハラスメントを防止する措置義務があると書いている。セクシュアルハラスメントが雇用上の不利益処遇に結実する場合(対価型ハラスメント)は差別に該当し、結実しない場合(環境型ハラスメント)はそうではない。結局、均等法ではセクシュアルハラスメントを差別概念から排除しないが、両者を同じ概念としているわけではない。
ハラスメントの禁止や防止を差別禁止法案の内容とするかどうかについては、ハラスメントは実質的に機会を付与しない事と同じ効果をもたらすため、差別禁止法において禁止すべきだ。こうした問題に関与しないと、差別禁止法の効果は著しく減退する。しかし、ハラスメントの概念が曖昧なので差別も曖昧になるのではないか、刑法上の暴行罪や侮辱罪とどう異なるのか等の懸念があり、これについては、差別禁止法は罰則付きの法律ではないため異なる効果もあるのではないか、救済の可否や行政が関与すべき言動は指針で示すことができる、社会への啓発的な効果が大きいといった点が重要だ。また、均等法によってセクシュアルハラスメントに関する社会の認識が大きく変わり、男女差別事案の中でもこれに関する事案が圧倒的に多い。
障害者差別禁止法の中でセクシュアルハラスメントを禁止する方法もあるが、より望ましいのは、一般的な障害者に対するハラスメントの禁止規定を置くことだ。
- (発言)まず、伝統的に差別は比較を前提とした区別解消だが、合理的配慮の登場によって区別解消が差別禁止とは言えなくなった。さらに、2000年のEU指令ではハラスメントは差別であると明示されている。次に、ハラスメントの正当化事由はイギリスでも実質的に認めており、表現の自由等相手の利益や権利を考慮に入れてハラスメントは認定される。不均等待遇は、障害または障害に関連する事由に基づく行為または基準が、障害者または他の者に実質的な不利をもたらすことを言う。そしてこの実質的不利は人間の尊厳又は人格を害する状況、機会の平等を享受できない状況、参加が妨げられる状況、自己決定が妨げられる状況である。ただし、相手方には正当化するチャンスもあり、障害者と相手方のバランスをとる。このような尊厳、機会の平等、社会参加、自己決定といった価値は権利条約や英国平等法の理念であり、背景には尊厳を害するから差別はよくないという考え方がある。尊厳を害する行為がハラスメントであり、差別とは密接不可分な概念だ。使用者が障害者に尊厳を害するような侮蔑的な言動をすれば、ハラスメントという差別に当たる。
- (東室長)具体的にハラスメントをどういう形で位置づけるのかについて議論して欲しい。同じ条文でも異なる評価もありうる。ハラスメントにおいても正当化自由があり得ると抽象的に言っても、虐待防止法では正当化事由は設けられていない。差別の定義についての議論をハラスメントまで広げることに実益はあるのかを議論して頂きたい。
- (棟居部会長)均等法のセクシャルハラスメントについて、対価型ハラスメントは差別に当たり、環境型ハラスメントは差別に入らないという説明があったが、この考え方は障害者に対するハラスメントでも成り立つのか。
- (発言)均等法では、セクシャルハラスメントが解雇・配転・募集・採用等雇用上の不利益に結実すれば対価型だと考えられている。同様の考えを障害者差別禁止法に持ち込むと、侮蔑的な言動が私法上の権利を侵害したことが立証されれば、対価型になるのではないか。環境型の場合は、人格権を侵害するような言動があり、この言動が向けられた人の環境を悪化させるので、権利の侵害に結実しないものもハラスメント行為の中にはあり得る。こう考えれば、差別とハラスメントは異なる類型ということになる。
- (棟居部会長)障害者に対して結果としてはサービスが提供されたが、提供過程において侮蔑的な言動があったという場合は、結果だけを見ると差別ではない。しかし、サービス利用意欲がそがれるという意味で、実質的に機会を付与しないことと変わらないといえる。これは、環境型ハラスメントに似ているが、結び付けない方がよいのか。
- (発言)環境型ハラスメントを差別に含むと考えるなら、差別行為に該当する。しかし、それは「機会の提供の否定」という差別の原形とは異なると考えると、環境型ハラスメント禁止規定のようなものを別個に置く方がよい。
- (発言)施設では、トイレに行く回数が多いと、お茶の飲み過ぎだからトイレに行くのが多いなどと侮蔑的な言い方をされる。最近はそうした嫌がらせはいけないという指導があるため、因果関係を曖昧にして柔らかく言うが、障害者には水を我慢するという抑制効果をもたらす。女性の障害者は、介助等で侮蔑的な言動を受け、傷ついてしまう事がある。介助する側が嫌味をカモフラージュして言うこともハラスメントではないか。社会参加に関しても、外出時はおしゃれをしたいが、介助者が必要な時に介助者の何気ない一言で傷つき止めてしまう。立場上強い人からの何気ない一言で、相手に従わざるを得ないという状況は差別ではないか。
- (発言)ハラスメントは差別と虐待の谷間で長く救済できなかったが、女性が主張し始めたことでセクシュアルハラスメントという概念ができ上がり、被害を訴えやすくなった。これまで不法行為に該当しなかったハラスメントも、権利侵害として救済されるようになった。今や、モラルハラスメント、アカデミックハラスメントといった類型もあり、救済がしやすくなっているので、障害者ハラスメントという類型をどこかに入れて頂きたい。虐待防止法では、心理的虐待を著しい心理的外傷と定義してしまったため、損害が甚大でなければ該当しない。そこに至らないグレーゾーンも禁止し救済するために、差別禁止法に入れて頂きたい。ただし、差別の類型とは別にし、虐待と差別の間を救済するものとして類型化するべきだ。また、ハラスメントは通りすがりや一過性の関係ではなく、何らかの関係が生じているところでの不快な言動ということになる。
- (発言)ハラスメントを差別禁止法に入れるべきだ。それは、差別もハラスメントも人の尊厳に対する中傷、人権侵害であり、共に禁止されるべき行為だからだ。また、差別禁止法は人権侵害をなくすことが目的だから、差別と同様の影響を及ぼすハラスメントは入れるべきだ。ただし、入れ方については議論が必要だろう。ハラスメントについては状況に応じて改正し、より強化することになる。障害者は多くのハラスメントを受けているという現状があるため、差別禁止法の中にこれを盛り込むことが当事者の声だ。
- (発言)まず差別とハラスメントの関係を整理する。これまで差別について問題にしたのは、他の人には一定のことをする、あるいはしないのに、障害者にはそれと違うことをするということだった。ハラスメントはそもそも権利を侵害する行為であり、誰に対してもしてはいけないことだ。従って、差別とハラスメントは概念として区別すべきだ。次に障害者差別禁止法にハラスメントを盛り込むべきかどうかについて整理する。他の人に当てはまるルールを障害者にも当てはまるようにすることを差別禁止法の目的にするなら、ハラスメントをこの法律に入れると本来の目的が実現できなくなる恐れがある。一方、障害者の人格を害するという点では差別もハラスメントも同じなので、差別禁止法の中に差別とは異なる類型としてこれを対象に含めるという考え方もあり得るのではないか。最後に、ハラスメントを差別禁止法に入れた場合のことについて整理する。ヨーロッパでは差別を平等取扱違反とした上で、ハラスメントをそれに含めるとする規定がある。ただし、平等取扱いについては正当な理由がある場合については例外とするというルールがあるが、ハラスメントは正当な理由による例外が当てはまらない仕組みになっている。仮に、ハラスメントを差別禁止法の中に入れるのであれば、平等取扱いとは構造が違うため、除外事由等に関しては別枠で適切に定める必要がある。
- (発言)ハラスメントを差別禁止に入れるのかは、苦情受付や調停の窓口との関係が出てくるので、きちんと議論した方がよいだろう。
- (東室長)ハラスメントと虐待との関係を、その定義において明確に整理できるか。現行法の虐待防止の規定との関係を整理すべきだ。障害者虐待防止法では、養護者による障害者虐待として家庭を念頭に置いた虐待の分野、障害者福祉施設従事者等による虐待ということで福祉施設の分野、使用者による虐待ということで働く場での虐待の分野のそれぞれについて、5つの虐待の類型がある。すなわち、身体的虐待、性的虐待、心理的な虐待、放置、経済的な虐待だ。例えば、嫌がらせは心理的な虐待と重なるため、心理的虐待とは違うものとしてハラスメントを規定できるのか等について議論をして頂きたい。
- (発言)虐待防止法の心理的虐待は、かなりひどい状況を想定した定義になっている。一方、立法事実としては、これに至らない不法行為、つまり不快な言動をされ続ける等のことがあり、これも救済されなければならない。虐待防止法の定義は狭いため、虐待には至らない不快感を与える言動等については、差別禁止法で禁止していただきたい。
- (棟居部会長)虐待防止法の定義で著しいという文言があるために、虐待ではないが差別には当たるものを差別禁止法で引き取ることになるのか。
- (発言)ハラスメントは差別でも虐待でもないかもしれないが、そのグレーゾーンを救済するべきだ。従来から、侮辱罪やわいせつ罪のように犯罪類型としてはあったが、それでは厳しい判断が要請されるため、犯罪に至らなくても救済しなければならない。障害者虐待防止法は行為者等を限定しているので、一般的な禁止事項として設けるには差別禁止法の方が、一貫性がある。ただし、ハラスメントは差別の類型の枠外になるのではないか。
- (発言)法律がどのような効果を定めるのかを考える必要がある。障害者虐待防止法は国や地方公共団体の責務を定めている法律だと認識しているが、障害者差別禁止法は市民相互間の私法的な法律関係についてルールを定めることが中心的な目的とされている。従って、両者は性格の異なった法律であり、そのような観点から考える必要があると思う。
- (発言)差別禁止法の目的は、障害者基本法の精神を受けより具体的に障害を持っている方々の人権を確保すること、あるいは権利が侵害された場合の対応を国の法律として定めることだ。ハラスメントは差別や虐待とは異なる類型として必要なので、差別禁止法の中にどのように置くのかという方向で考えるのが現実的だ。
- (発言)障害者虐待防止法の範囲は狭い。差別禁止法の方が義務を負う側も広く、また虐待とまではいかなくとも、侮辱的な扱いをされた場合、障害を理由とする不利益な扱いで差別は認定されるのではないか。
- (発言)差別禁止法によって、どのような行為が禁止され、違反した場合にどのような効果が生じるかという社会規範を社会に提示することが重要だ。そこに、ハラスメントという概念が不明確なものを入れると、差別概念が曖昧になり社会規範としての本来の目的が弱くなる。
- (棟居部会長)男女雇用機会均等法にハラスメント防止規定が最初から入らなかったのは、これを入れると性差別が曖昧になるという議論があったからか。
- (発言)均等法ができたのは1985年なので日本ではハラスメントをめぐる最初の裁判もなく、均等法が最初に改正された1997年にセクシュアルハラスメントの規定が設けられた。当時、セクシュアルハラスメントは不法行為だという議論があったが、働く女性にとって著しい不利益であることから性差別に該当するか否かにかかわらず、事業主への防止配慮義務として規定された。そして、2006年の改正で配慮義務から措置義務にランクアップした。
- (発言)1997年改正で配慮義務が入ったが、どういう対応をするのか等詳細については議論が煮詰まっていなかった。それが、2006年改正で事業主に対する措置義務になり、新たに9項目の指針を示し、体制を整備しなければ義務違反だとした。この間に労使の間でどう対応するのか等についての議論が蓄積されたことが重要で、そのための期間と国民的な議論が必要だ。ハラスメントは対象範囲が広く、定義しても漏れるものが出てくるという根幹的な問題があり、法技術的にどのように規定できるかについての回答がない。差別禁止法の制定を目指している今は、ハラスメントはその外に置くのが現実的だ。2006年改正では、女性だけではなく男性に対するハラスメントも法律に位置づけられた。これも議論の蓄積があり、実際にそういう現象があったため見直されることとなった。
- (発言)差別と虐待の中間に存在するハラスメントによって、多くの障害のある人が機会を失われ、尊厳性を失ってきた。言葉や態度によるハラスメントがどれだけ障害者の社会進出や当たり前の生活を阻害してきたかということを理解して頂きたい。虐待や差別と認定されればわかりやすいが、態度等によって傷ついている状況を法律にどのように組み込むのかは難しい問題がある。しかし、これは啓発によって改善できる問題ではないので、法律に位置付けることを重視していただきたい。
- (発言)ハラスメントの定義はイギリスの2010年平等法でもシンプルだ。障害に基づいて不利益扱いがあれば一応の差別が発生する。それが尊厳に関わる部分はハラスメントと考えてよい。
- (発言)セクシャルハラスメントが新しい概念であった時には、定着するのに時間がかかったが、今やハラスメントは定着している。障害者権利条約を背景に、ハラスメントの概念を障害者の権利と結びつけるのだから、混乱しないだろう。
- (発言)障害のある人には弱い意志の人もいる。周囲の顔色を伺いながら自分の行動を決めている実態があるので、個人の尊厳が傷つけられないような法制が必要だ。
【議事:欠格事由等の障害者差別禁止に関わる課題について】
- (東室長)障害者に係る欠格条項の見直しについては、平成11年8月の障害者施策推進本部決定に従って、63制度の見直しが行われた。その結果、絶対的な欠格事由の多くは削除されるか、相対的な欠格事由となったと言われているが、運用では実質的に障害者を表す規定が残っている、または絶対的な欠格事由として運用されているという懸念がある。第8回部会で行ったヒアリングで以下の5点の提案を頂いた。<1>欠格条項を修正し、または廃止することを明記すること。<2>政府・地方公共団体が既存の法律・規則・条例などの差別を調査し情報を公開し、差別を修正し、または廃止することを義務づける規定を設けること。<3>合理的配慮を提供しないことも差別であることを明記すること。<4>差別ではないとする説明責任を明確にすること。<5>苦情申立て、権利を回復できる条文と仕組みを設けること。今回は<1>から<3>について議論をしたい。議論の前提として、新しい法律が別の法律に矛盾・抵触する場合をどう考えるかという問題がある。<1>のように「修正」「廃止」という言葉を差別禁止法に盛り込むということは、これと矛盾する法律があることを意味するから、書けるのかどうかという問題がある。現実的に差別的な条項が400本以上あると言われているため、どうすべきなのか議論をして頂きたい。
- (発言)欠格条項を見直すべきだということは一致しているが、差別禁止法に修正や廃止と書くのかは問題だ。障害者権利条約の批准を前提に考えれば、直接差別のように障害を明示的な基準にしている欠格条項は修正する必要があると提言するべきだろう。ただし、差別禁止法に書くのではなく、推進会議や障害者政策委員会で議論する際に検討するのが良いのではないか。間接差別や関連差別のように、障害を明示的な基準としない欠格条項は、例外が許容される場合もあるだろう。障害者がより多く排除されるという結果が発生しているかどうかが重要になる。権利条約の批准の前後で、各所管省庁及び障害者政策委員会において検討するべきでないか。また、業務の遂行ができないなどの事由というのが欠格条項に挙げられている場合は、それは合理的配慮が尽くされても業務の遂行ができないという枠組みで判断すべきではないか。ただし以上のことは条約と欠格条項という枠組みの議論なので、差別禁止法という法律の次元では、他の法律の修正や廃止は定めずに、権利条約を踏まえた差別の定義と例外として許容される場合の要件を明確に定めるべきだ。将来、政策委員会等が検討をする時に、判断できる枠組みを定めることが我々の役割だ。
- (発言)障害を持つ当事者は欠格事由によって差別されてきたので、差別禁止法に修正や廃止条項を入れてほしいという思いはあるが、法には盛り込まず、今後、政策委員会が課題といて押し上げていくという意見を支持したい。
- (棟居部会長)欠格条項は事前規制でチャンスを奪ってしまうが、ライセンスを与えて事後に規制を加えるのが本来の姿との観点で、運用を見直すべきとの意見もあった。
- (発言)事前規制規定自体が条約違反かどうかを検討することもあり得るが、更に運用レベルでも考えるべきだ。
- (発言)差別の定義や障害の定義からみて、欠格条項の修正や廃止を盛り込まなければ、差別禁止法の目的を達成できない。資格制限に関すること以外に、成年後見制度を利用することで参政権が奪われるといった事も含むべきだ。具体的な書き方等については検討が必要だ。
- (発言)権利条約を批准するには、障害者の欠格条項を見直す必要がある。膨大な法令に関する協議を、障害者団体や当事者の声を聴いて行う作業になる。調査期間を設けて必要な改正を行うということを、差別禁止法に明記すべきだ。
- (発言)さきほど、法律に盛り込むのではなく、欠格条項の廃止や修正を提言するという意見があったが。
- (発言)法律の条文には欠格条項については直接、書かないという意見だ。法律では直接差別、間接差別、関連差別と例外を明確にし、権利条約の批准に当たり政策委員会等で現行法の見直しをしなければならないという布石を敷くのがよい。
- (東室長)法律の総論で、国と地方自治体の責務として差別の防止を書くことはできるが、欠格条項の分野だけを特出しするべきかについて、議論頂きたい。次に、教育や労働等資格取得にかかわる分野で、欠格条項について特出しで書くべきかどうかについて、議論して頂きたい。
- (発言)法律等が差別的かどうかについての調査については、法に盛り込まなくても、権利条約が批准された場合には、政府・地方公共団体が条約委員会に報告する義務を負うことになる。欠格条項に限らず、調査や監視等の障害者政策委員会の権限は、権利条約を履行する観点から検討する必要がある。
- (発言)権利条約では、その中身を締約国に守らせるための仕組みは、国際的及び国内的なモニタリングの2本立てで、特に国内モニタリングを内在させた点を重視している。監視を障害者政策委員会のみに期待するのは難しく、パリ原則に準拠する政府から独立した監視機関、例えば障害者の権利国内委員会のようなものが必要になるだろうが、これができるかどうかは今後の課題だ。国際、国内のモニタリングが機能し始めた場合、差別禁止法に欠格条項の廃止や修正についても、書けるのならば書いた方が良いだろう。しかし、義務として盛り込むにはかなりの労力が必要で、責務でなくて義務づける規定ができるのは望ましいことだ。
- (棟居部会長)義務ではなく、責務という規定でも実は取れるか。
- (発言)責務では、政府による報告の中で権利条約の趣旨で項目を立てるという認識には、必ずしもならないのではないか。困難だが、責務より強いニュアンスが表現できれば望ましい。
- (発言)条約を批准した場合、国と地方公共団体は条約上の義務を負うので、国内法に義務づけ規定を定める必要はないという意見があったが、国際的なモニタリング制度といっても、それほど期待できないだろう。実効性という観点から、国内法にも明記した方が条約上の義務を守ることができる。
- (棟居部会長)条約による義務づけには内容に一義性がなく曖昧だとした国内の判決もあるが、条約のつくり方として、義務を一義的に読み取ることができるのか。
- (発言)条約の規定は一義的でない場合が多いので、法律の中で明示した方が、条約の趣旨が国内で実現しやすい。
- (発言)「責務」「義務」と申し上げたのは、条約の解釈ではなく、差別禁止法の中での書き方の問題だ。
- (発言)国内の監視機関として、複数の機関がその役割を果たす場合に、その機関同志の関係はどういう事になるのか。国連への報告との関係は、特に意識する必要はないのか。
- (発言)複数と申し上げているのは、33条第2項と1項との関係だ。条約の33条2項が想定しているモニタリング機関の役割すべてを政策委員会が担うのは無理があるので、加えて、本来のパリ原則に則った障害者権利国内委員会といったものを想定すべきである。国家報告書を提出するのは、最終的には外務省だが、政府代表とは別に国内人権機関の代表が説明するのが最近の傾向になっている。外務省がとりまとめた国家報告書について障害者権利国内委員会が発言する可能性が出てくる。
- (発言)現在、立法が準備されている人権委員会が成立した場合に、これと政策委員会の両方が権利条約第33条のモニタリングの役割を果たすならば、その関係はどうなるのか。
- (発言)人権委員会が設立するならば、そちらが権利条約第33条第2項の国内モニタリングを担えることになる。全般を扱う人権委員会と障害者国内委員会が両立するという制度設計だ。財政的な問題もあり、現実的には難しいだろう。
- (棟居部会長)中心的機関は、一本化する必要はないのか。
- (発言)権利条約には「1または2以上」と書いてある。
- (棟居部会長)最後の論点に移りたい。資格付与の前提になる試験の実施に当たっては合理的配慮を提供すべきということを差別禁止法案の各則に独立条項を設けて規定することについて、どう考えるか。
- (発言)試験の合理的配慮については、情報保障やアクセシビリティの保障でほぼ賄えるのではないか。あえて資格付与の試験に限定した特別な条項を設ける必要性があるのか。
- (発言)資格試験についてあえて合理的配慮について書く必要はないのではないか。ただし、入学試験では障害特性に応じた合理的配慮を提供するべきである。
- (棟居部会長)試験時間を1.5倍にする措置も、情報保障やアクセシビリティの保障で説明できるのか。
- (発言)点字での回答には通常より時間がかかる、手話や他の情報提供器具を使うので時間が必要である等の場合は、合理的配慮に入るのではないか。
- (発言)論点が分かりにくい。各則で就労や教育等分野ごとに合理的配慮を規定するのがよいのか、総則で網羅すればよいのか。就職試験や学校の試験、あるいは資格試験であっても、障害を理由に直接、間接差別で排除してはいけないという規定は必要だ。
- (東室長)合理的配慮を提供しないことは差別であると明記することは議論したが、欠格事由に絡む資格取得という視点からはどうかという議論をして頂きたい。
- (発言)就労のための試験や教育での試験、資格を取得するための試験等どのような試験でも、障害に応じた配慮が必要であることを規定し、すべての面で保障されるようすればよい。)情報保障とアクセシビリティだけでは保障できない。すべての試験で合理的配慮が担保されるよう総則か各則に書き、それが反映される事が明確になれば目的は達成できる。もし、個別分野に入れなければ実効性が担保されないのであれば、それに応じた内容にするべきだ。
- (発言)1級建築士の試験を受けた際、私は特殊な道具がないと大きな図面を書けないため、用紙を半分に切り、半分ずつ書いてからセロテープで止めて提出することを認めてもらった。また汗が出ないので、試験会場に冷却材を持ち込むこともお願いした。これらはアクセシビリティだけではカバーできない。個別具体的なものをそれぞれのニーズに応じて調整する必要がある等の文言は必要である。
- (発言)障害者差別禁止法が制定されると、差別をしてはいけないということが一般的に命じられる。それは私人と私人の間に限らず、私人と国が契約をする時や国がサービスを提供する場合にも適用されるということでよいのか。雇用、教育、情報といった領域毎に個別の規定があって初めて差別が禁止されるのか、それも一般規定がある以上は差別が禁止され、各則は念のために定めるということか。
試験については、資格取得のために一定の要件が課され、試験を受けなければならないとすると、差別禁止法で一般的に合理的配慮をしないと差別だと定められるなら、個別の場合でも合理的配慮をせよと国に求めることができるはずだ。だから、差別禁止法で試験については規定しなくてもよいと考えるのか。それとも、差別禁止法の各則で定められていることに当たるから規定しなくてよいと考えるのか、整理する必要がある。
欠格条項との関係では、一定の資格をもたないと一定の行為をしてはならないと国が定めているので、差別禁止法が一般的には適用されるはずだ。ただ、行為を禁止する理由や資格を取得するための要件の理由等は問題ごとに異なるから、正当な理由等の要件は個々の資格を定める法律の判断に委ねるということだ。
つまり、欠格条項は個々の領域毎の問題かもしれないが、試験については差別の一般規定が適用されるのか、それとも特に規定を置く必要があるのか、規定を置く必要がある場合は何故必要でどのような要件を定めるのか等が問題になる。
- (東室長)総論はすべてをカバーするものだが、それだけでは対応が難しい分野は各論が必要になる。また総論だけでは抽象的なので各論で明示するという場合もある。この2つの理由から各論をつくっていることを整理した上で、資格試験について議論すべきだ。
- (棟居部会長)資格試験については、一般的にまず禁止して、これを解除するために資格試験というハードルを設けている。つまり、試験だけを切り取って論じる大学の試験等とは異なり、資格制度全体の一コマとしての試験だから、合理的配慮の意味は資格制度全体の目的に応じて変わるという指摘のようだ。
- (発言)欠格条項については、領域ごとに考慮すべき理由が違うため、領域ごとに適切に定めるべきである。試験制度についてはどのような試験でも似ているので一般的に合理的配慮を語ることができるとも考えられるが、逆に領域毎に合理的配慮の仕方が変わるかもしれない。以上の点も含め、差別禁止法にどういう形で規定するかを検討すべきである。
- (発言)医師国家試験は、欠格条項を無くしたことで全盲の人がで受けられるようになった。問題になったのは、レントゲンや解剖的所見を見ることができないものを通してよいのかだ。司法試験では、大量の判例と資料を読むことへの配慮について、時間で配慮するのか問題数を減らすのか等が議論された。共通しているのは、求められている適性を判断する上での本質を損なわずに、実施すべき配慮を基準化するということだ。
- (発言)合理的配慮について、試験の場合には障害のない受験者といかに対等を確保するかという問題があり、かえって過度な優遇にならないようにする必要がある。この点も合理的配慮でカバーされているのか。
- (発言)司法試験については、障害の種類、程度、内容によって延長時間を個別に判断する。司法試験委員会が有識者会議をつくり、その意見を聞きながら決めている。大学の試験の入試センター試験でのデータを基準にしている。
- (発言)アクセシビリティの保障をすることで、資格試験について改めて書く必要はないと考えていたが、国家が資格を与えるという意味では、特段の配慮が必要であるという確認規定を各則に入れる必要がある。
- (発言)障害者は欠格条項によって資格の制限を受けてきた。欠格条項が廃止されたといっても、相対的な欠格条項は存在する。このことを踏まえて、各則で合理的配慮義務についても規定するべきだ。
- (発言)欠格条項を修正したとしても、試験という関門を通らならないので、試験で合理的配慮が行われることは重要なステップだ。試験を実施するサイドに対して指標となるような方向性を各則に設けるべきだ。
[以上]
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