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障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(第17回)
議事録
○棟居部会長 それでは、定刻になりましたので、これより第17回「障がい者制度改革推進会議差別禁止部会」を開催させていただきます。
差別禁止部会は傍聴希望の方に所定の手続を経て公開しております。
また、会議の模様はインターネットを通じても幅広く情報提供いたします。なお、御発言に際してのお願いとして、発言を求めるときはまず挙手いただき、指名を受けた後、御自身のお名前を述べられてから、可能な限りゆっくりと御発言いただくようお願いします。
本日の会議は18時までを予定しております。
それでは、東室長から、委員、オブザーバー及び専門協力員の出席状況と資料説明をお願いします。
○東室長 こんにちは。担当室の東です。
本日の出欠状況でありますが、本日は野沢委員が御欠席、その他の委員、オブザーバー、専門協力員の皆さんは御出席です。なお、商工会議所を代表されまして、オブザーバーとしてこれまで松本様が御出席でありましたけれども、今日、高山様に交代されておりますので、一言ごあいさつのほどをお願いします。
○高山オブザーバー 日本商工会議所の高山でございます。よろしくお願いいたします。
○東室長 ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
本日の議事は「ハラスメント、欠格事由等の障害者差別禁止に関わる課題について」と題しまして、15分の休憩を2回とることとして、3つのコーナーに分けて行っていきたいと思っております。
まず、第1のコーナーですが、ここでは70分ほど時間をとっております。ハラスメントの障害者差別禁止に関わる課題のその1ということで、資料1にハラスメントに関する論点が書かれておりますけれども、その中の最初の論点1「『ハラスメント』と差別は行為の類型として同じか、それとも、異なるのか。」といった論点と、論点2「障害者差別禁止法案の検討に当たって、『ハラスメント』の禁止・防止も差別禁止法案の内容とするかどうか。」といった点について議論を行いたいと思っております。
最初に10分程度私の方から御説明をさせていただきます。続きまして、特にハラスメントとセクシュアルハラスメントの関係などにつきまして、ハラスメントをどのような範囲で考えるかにつきまして、浅倉委員の方から10分程度で御発言いただきたいと思っております。その後、50分程度で質疑と議論を行いたいと思っております。これが第1コーナーです。
続きまして、第2コーナーは60分ほど予定しております。前半30分は資料1の論点の中で論点3というのがあります。「仮に『ハラスメント』の禁止・防止を差別禁止法案の内容とする場合、障害者差別禁止法案と障害者虐待防止法との関係をどのように考えるか。」といった点について議論をお願いしたいと思っています。最初に5分程度私の方から御説明申し上げます。その後、25分程度で質疑と議論を行っていきたいと思っています。
第2コーナーの後半の30分は、欠格条項の障害者差別禁止に関わる課題についてと題しまして、まず、資料2で「障害者欠格条項に関する論点」を挙げておりますけれども、その中の論点1「障害者欠格条項を『修正し、又は廃止する』ことを明記することについて、どう考えるか。」といった点について議論を行います。ここでも最初に5分ほど私の方から御説明させていただきます。その後25分ほど質疑と議論を行っていきます。
続きまして、最後の第3コーナーですが、ここでも60分を予定しております。資料2の論点の中で、論点2とありますが「政府、地方公共団体が、既存の法律・規則・条例などの差別を調査し、情報を公開し、差別を修正し又は廃止することを義務付ける規定を設けることについて、どう考えるか。」といった点について、議論していただきます。そして、論点3「資格付与の前提となる試験の実施に当たっては、合理的配慮を提供すべきことを差別禁止法案の各則の中に独立条項を設けて規定することについて、どう考えるか。」といった点についても議論していただきます。最初に10分ほど私の方から説明させていただきまして、その後50分程度で質疑と議論を行います。
これらが議論の実質的な、本体的な部分ですが、最後に今後の予定等についてお知らせをいたしたいと思っています。
以上が今日の予定でございます。
次に、資料の確認です。
資料1は「ハラスメントに関する論点」ということです。
資料2は「障害者欠格条項に関する論点」といったものです。これは第8回の差別禁止部会のヒアリングで提出された課題について書いてあるものです。
委員提出資料ですけれども、まず、浅倉委員、太田委員、川島委員3名の連名で御提出された資料がございます。つぎに、川島委員単独で出された資料がございます。
今日、当日配付資料として、浅倉委員の方からハラスメントの禁止に関わる課題についてという文書が、先ほど配付されております。また、障害者欠格条項に関連する論点に関する意見ということで、池原委員の方からも提出されております。
参考資料1は「関係条例・法令(抜粋)」といったことで、ハラスメント関係、欠格事由関係の現行法ないしは外国法制の規定を抜粋して書かれております。
参考資料2は「障害者に係る欠格条項の見直しについて」これは平成11年8月9日障害者施策推進本部決定ということで出ているものです。
参考資料3は「資格取得試験における障害の態様に応じた共通的な配慮について」といった文章です。平成17年11月9日障害者施策推進課長会議決定ということで出されているものです。
以上が資料でございますので、確認していただけますでしょうか。どうもありがとうございます。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、議事に入らせていただきます。
太田委員、御発言、手短にお願いします。
○太田委員 ありがとうございます。
差別禁止部会、差別禁止法制定は、障害者制度改革の一環として出されているわけですが、制度改革推進会議が終了した今、この部会が障害者政策委員会の下に置かれようとしていると認識をしています。その中にあって、心配事があります。制度改革の推進会議担当室は今後どうなるのか、継続されるのでしょうかということが1点。
もう一点の差別禁止部会の親部会である政策委員会の構成については、もう決まっているのでしょうか、その所轄はどこになるのでしょうかということをお伺いしたいと思います。
○棟居部会長 ありがとうございます。
室長、コメントをお願いします。
○東室長 御質問ありがとうございます。
「推進会議が終了した今」というお言葉がありましたけれども、推進会議自体はまだ策委員会に関する政令が出ておりませんので、形としてはまだ残っている状況であります。実際の会議は予定しておりませんが、形としてはまだ残っている状況ですので、今日の部会も推進会議で決定された部会として議論するといったことになります。
政策委員会ができた後、担当室はどうなるのかということですけれども、この前も制度改革推進会議で花束をいただいたので、私たちはやめてしまうのかなと誤解された人もいるかもしれませんが、担当室は担当室としてこれからも残っていくということです。
次に、部会の構成は決まっているのかということなのですが、今、内部的な手続をしている最中でございます。手続が終われば早急に立ち上がるといった状況になると思います。
最後の点は、所轄官庁といいますか、所管はどこになるのかということですけれども、それは当然内閣府の下でということになります。政策委員会は障害者基本法に基づいてつくられる委員会であります。
○太田委員 担当室ではないのでしょうか。
○東室長 どこの省庁かということではなくて、もう少し具体的にということですか。
実務的にはこれまでの担当室が政策委員会の事務的な担当をするということについては変わらないだろうと思っています。
以上でよろしゅうございますか。どうもありがとうございます。
○太田委員 ありがとうございます。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
それでは、議事に入らせていただきます。第1のコーナーは70分で、ハラスメントの障害者差別禁止に関わる課題について、その1です。資料1「ハラスメントに関する論点」の中から論点1「『ハラスメント』と差別は行為の類型として同じか、それとも、異なるのか。」論点2「障害者差別禁止法案の検討に当たって、『ハラスメント』の禁止・防止も差別禁止法案の内容とするかどうか」について議論等を行います。
最初に東室長から論点等について、資料1に基づき10分程度で説明をいただきます。
どうぞ、お願いします。
○東室長 担当室の東です。
資料1を開けていただけますでしょうか。「ハラスメントに関する論点」ということで書かれたものがあります。
まず、これまで特に総論、各論ですけれども、差別とは何なのかといったことで、差別の類型をずっと議論してきたわけです。その上で、ハラスメントという問題についての差別禁止法という中に割り込むことができるのか、できないのか、そこら辺の議論の最初の入り口として、ハラスメントと言われるものと差別の類型というものが、本質的に同じ構造なのか、ちょっと違う構造なのか、そこら辺を議論していただければと思っているところです。
なぜそういう問題提起を出すかといいますと、差別というのはある意味比較という要素が入ってくるのではなかろうかと思っているのです。例えば精神障害者の人は表玄関から入らずに裏口を使ってくれと言われたような事例があるとします。これはなぜ精神障害者だから表から入るといけないのかという議論になるわけですけれども、その前提としては、当然精神障害以外の人は正面玄関から入れるにもかかわらず、なぜ障害者だけはというところで差別の問題が発生してくるわけです。
しかしながら、ハラスメントと言われるものは、そういう比較の問題ではなくて、そのこと自体が法的な意味で否定される行為であるといったことで、だれかと比べていい、悪いという議論はないわけです。また、先ほどの話に戻ると、例えば差別の場合は正面玄関が壊れているから裏口からどうぞと言われたら、そういう理由であれば、別に差別でも何でもないのです。みんなが裏口から入るということであります。ところが、ハラスメントの場合は、その行為自体が理由が何であれ、女性に対するハラスメントであれ、障害者に対するハラスメントであれ、理由のいかんを問わずハラスメントという行為に該当すれば、それは等しく法的に否定される行為であるわけです。そういった意味で違うのではないかということも検討すべきではないかと思っています。
差別の類型に当たるんだということであれば、差別の構造の中に引き込まれてしまいます。ですから、原則形態としてハラスメントに当たっても、2段目の問題として正当化事由があるのかどうかといった議論が出てくる可能性もあります。しかし、ハラスメントの場合は、法律上の要件を満たせばそれに正当化事由があるかどうかというのは、普通は議論されないところなのです。
例えば比喩として、適当かどうかわかりませんけれども、保護者が子どもに食事を与えなかったという場合に、本当にその保護者が食べる御飯もなかったような状況の中で子どもに食事を与えなかった場合、この場合はある意味やむを得ないのかもしれない。親にとっては正当化事由があるのかもしれないけれども、子どもにとっては遺棄された状況、放棄された状況があって救済の必要性はあるわけです。ですから、そういった場合に、親を処罰するという話ではなくて、子どもを救済するという話ですから、正当化事由があるかどうかというのは議論はされないわけですけれども、差別の場合は一般的に正当化事由があるかどうかというところまで吟味した上で決めるという構造があって、そこでも若干違うのではないか。
あと一つは、イギリスの法制などを見ても、禁止される項目の中で差別禁止というのが最初に来て、ハラスメントというのはその他の禁止行為という位置づけで書いてあるわけです。ですから、類型としては違うものとして考えられているのではないか。それは権利条約を見ても、差別禁止の問題と虐待の問題などは違う、虐待の問題などはどちらかというと人身の自由的なところで議論されておるといったように違うのではないかという感じもするのです。そういった辺りを最初のところでは議論していただければと思います。
ただ、何も違うから書くなとか書けないとかいう議論ではないというところは誤解しないでほしいと思っております。
次に、2番目ですけれども、障害者差別禁止法の法案の検討に当たって「ハラスメント」の禁止・防止も差別禁止法案の内容とするかどうかということで、これだけ見ても何を議論するのかとわかりづらい表現で申し訳なかったとは思っているのですが、特にハラスメントの概念をどう考えるかと関連してくるわけですけれども、ハラスメントをまず、どう定義するか、相手方をどういうものとして想定するのか。虐待もハラスメントももともとは上下関係といいますか、力の差のある関係の中で発生するといったようなところを念頭に置いてつくられてきて、それがだんだん広がっているという状況はあると思うのですが、全く出会い頭の1回こっきりのようなところまでハラスメントを広げるのかどうなのか。そういった意味でそこをどう考えるのかというのが大きな論点だろうと思っております。
以上が御説明でした。ありがとうございました。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
ハラスメントという、差別禁止法あるいは差別そのものの中に入れて理解をするかという、非常に低次元のものの言い方をすると、宿題を増やすかどうかということでもあるのですけれども、ハラスメントという障害者差別と、障害者の側からは同列に受けやすい、あるいは感じやすいテーマについてとらえていこう、取り上げていこうという本日の課題でございます。
この点、まず、ハラスメントの範囲をどのように考えるかにつきまして、浅倉委員から10分程度で御発言をいただけるものと考えております。お願いします。
○浅倉委員 ありがとうございます、浅倉です。
今の御質問とかみ合っていないかもしれません。昨日発言するように言われたものですから、自分なりに東室長の論点の第1と第2について考えてみたというのが、今日の発言の趣旨でございます。委員の皆さんにはお手元に私の発言の要旨が配られていますが、傍聴の方にまでにはいっていなくて申し訳ございません。
最初の論点1に関してなのですけれども、ハラスメントと差別は行為の類型として同じなのか、それとも異なるのかということでございます。私は、これは両論あるのではないかと考えています。つまり、差別とハラスメントの異同については異なるという考え方と、同じであるという考え方がいずれも成り立つかもしれないと考えています。
しかし、いずれにせよ、両者は非常に密接に関連していまして、例えば差別は機会の均等であると考える考え方をとりますと、後で御説明するように、両者は異なるのだという考え方に帰着するかもしれません。しかしながら、ハラスメントというのは実質的に機会を付与しないということと同じ効果をもたらすと考えますので、両者は異なると考えても、第2の論点に関わりますけれども、いずれにせよ禁止すべき行為であるという結論に達するのではないか、と考えております。それについて、少し、るる説明させていただきます。
まず、差別というのを権利条約のように障害に基づく区別、排除、制限であると考えますと、ハラスメントも実は障害に基づく不利益な取扱いではないかと考えられます。先ほど室長が比較云々とおっしゃいましたけれども、この場合には、ハラスメントを障害に基づく不利益だと考えれば、障害者だけに不利益な取り扱いをするというハラスメントも差別の一類型と考えられないかと思います。しかし、もし差別という概念を、具体的に、サービスの提供等に関する機会の不均衡であると考える場合には、ハラスメントというのは侮蔑的な言動ですので両者は異なると考えることになると思います。
障害者に対して、次のような例を考えると、両者の違いがわかってくるかと思います。すなわち、障害者に対して結果としてはあるサービスを提供するが、その提供過程において侮蔑的な言動があったという場合です。この場合には、サービスを利用する機会は提供されているから、機会の均等は侵害されていないと一応考えられます。しかしながら、結果はどうなるかといいますと、侮蔑的な言動によって障害者自身がサービスを利用しようという意欲を失ってしまう、結局は、サービスが利用されなくなるという結果を招いてしまうと思います。したがって、差別を機会の均等のみに限ると考えますと、差別禁止法はこのような問題には関与しないのだとなるかもしれません。しかしながら、侮蔑的な言動によって本人のサービスの利用意欲を喪失させるということは、実質的に機会を付与しないということと変わりがないのではないかと思います。
日本の法はどちらの考え方をとっているのだろうか。とりあえず、私が検討できるほかの法律としまして、男女雇用機会均等法はどう考えているのかということを検討してみました。均等法の考え方は、なかなかはっきりしないのですが、第2章第1節という見出しのところで、「性別を理由とする差別の禁止等」と書いてあります。その中において、5条で募集・採用の差別を禁止しております。6条では、配置・昇進・降格・教育訓練、福利厚生、職種の変更、解雇等の差別を禁止しております。ですので、これらは性別を理由とする差別だと書いてあります。
しかし、ハラスメントはどこにあるかといいますと、先ほどの差別の禁止は第2章第1節だったのですが、ハラスメントの方は第2章第2節に書かれております。そちらの方は、セクシュアルハラスメントを禁止するという条文の形式ではなく、事業主が講ずべき措置と書かれています。そちらの方では11条として、事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントを防止する、それは措置義務であると書いてあります。では、均等法が差別の定義をおいているのだろうか。5条、6条は性差別について書いているのですが、性差別とは何かということは条文上は一言も説明がありません。しかし一方、均等法の指針という文書がありまして、この指針が幾つか性差別に該当する事例を出しております。それによりますと、おそらく性を理由とする排除や異なる取扱いというのを差別だといっているように読み取れます。
問題は、セクシュアルハラスメントは、性を理由とする排除や異なる取扱いという事例とどういう関係にあるのかということです。もし、セクシュアルハラスメントというものが雇用上の不利益処遇として結実した場合、結実というのはどういうことかといいますと、性的な言動あるいは性的な要請に対して応えろということを求められて、それを拒否したことを理由として解雇されたとか、不利益な配転を受けたとか、そういう雇用上の不利益処遇に結実した場合には、ということですが、その場合には、それらを「対価型ハラスメント」といいまして、それは均等法上の差別的取扱いに該当すると指針の方は考えております。一方、雇用上の具体的な不利益処遇に結実しないような「環境型のハラスメント」というのもあるのですけれども、それは恐らく均等法の5条違反とか6条違反とは言えないと考えているのだと思います。
結局均等法はどうなのかと聞かれますと、非常にあいまいなのですけれども、セクシュアルハラスメントを差別概念から完全に排除しているということではないけれども、セクシュアルハラスメントと差別行為を同じ概念としているわけでもないという、極めてあいまいな取扱いをしていると思います。
ただし以上の検討を通じてまとめてみれば、総じて、今の日本の法は、恐らく両者を別物としてとらえる方が一般的であるのではないか、これは私なりの推測でございます。それが論点1についてでございます。
論点2は、先ほど室長もおっしゃいましたけれども、両者が違うとしても、障害者差別禁止法案を検討するに当たって、ハラスメントも禁止・防止する対象にするのかどうかについて、考え方を述べさせていただきます。
まず、先ほど申し上げましたが、差別とハラスメントの異同をめぐっては2つの考え方が成立するとしても、やはりハラスメントは実質的に障害者に機会を付与しないということと同じ効果をもたらすので、私の意見では、ハラスメントも法において禁止すべきだと考えております。もし、さきに私が事例として出したような問題、すなわちサービスは提供するけれども、侮蔑的な言動を伴ったというような事例の場合に、差別禁止法はそういう問題に関与しないということになりますと、その差別禁止法の効果自体が著しく減退するのではないかと考えます。すなわちサービスを利用できる人は、侮蔑を克服してもなお、強い意思を持ってサービスを利用し得る人であって、そういう人のみが機会の均等を享受できるということになる。利用しないのは本人の意欲の問題だ、選択の問題だということになってしまう、そういうことは避けるべきであると考えます。
とはいえ、心配なことも幾つかあると思います。ハラスメント概念はあいまいだ、だから差別概念もあいまい化してしまうのではないか、また、刑法上の暴行罪や侮辱罪とどう異なるのか、ハラスメントの定義自体が困難なのではないか、などのいくつかの懸念も考えられるところではありますけれども、それについては次のような点が重要かと思います。すなわち差別禁止法というのは刑法と違って、あるいはその他の法律と違って罰則付きの法律ではない。したがって、刑事法とは異なる効果もあるのではないか、すなわち、刑法のように厳格解釈する側面のみならず、法に基づいて救済されるかどうかという救済の可否やどのような言動について行政が関与して防止していくべきかということは、均等法と同じように指針などで示すことができるということであります。それから、差別禁止法というものが社会に対する啓発的な効果をもたらす、それも非常に大きいことではないかと思います。
そのことについては、男女雇用機会均等法のことをお話ししたいのですが、均等法は、11条を後から創設いたしました。先ほどの事業主のセクシュアルハラスメント防止措置義務なのですが、それは後から創設したものです。そして解釈については、指針を後からつくりました。そうしましたところ、セクシュアルハラスメントに関する社会の認識というのは非常に大きく変わったと思います。均等法の施行状況を見ますと、現在、全体の男女の差別事案のうちセクシュアルハラスメントの事案は圧倒的に多くなっております。例えば都道府県労働局の2010年度の相談件数ですが、2万3,000件中セクシュアルハラスメントの相談が1万1,749件になっておりまして、約半分でございます。紛争解決援助の申立てについてですが、それも受理件数は579件のうち、セクシュアルハラスメントについては302件、すなわち52.2%に当たります。また、調停の申請の受理件数は全部で75件ですけれども、そのうちセクシュアルハラスメントが51件で、68%を占めております。また、職権的に都道府県労働局が是正指導することができるのですけれども、その是正指導が1万1,300件ありましたが、セクシュアルハラスメントについては7,207件、すなわち63.8%である。つまり男女差別事案のうち、セクシュアルハラスメントの事案が圧倒的に多いという実情にありますので、これは差別の中で極めて重要な位置を占めているということの証拠でもあると思います。
今は均等法についてですので、セクシュアルハラスメントのことをお話ししましたけれども、先ほど私は障害に対するハラスメントについて、より一般的に「ハラスメント」と述べておりました。すなわち、障害者差別禁止法の中でセクシュアルハラスメントを禁止するというやり方もありますが、より望ましいのは、より一般的な障害者に対するハラスメント、一般の禁止規定を置くことではないかと思います。ただ問題は、一般的なハラスメントを条文化した日本の法律は今のところありません。後ほど議論になった虐待防止法はありますが。ただ、ハラスメント一般についても、法案上参考になる諸外国の法律の条文は幾つかあると思います。例えばイギリスの2010年法はハラスメントを尊厳の侵害、または脅迫的、敵対的、侮蔑的、屈辱的、不快な環境をもたらす目的または効果をもたらす行為と言っておりますので、日本でも条文化する場合には、それらが参考になると思います。
以上です。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
直前にお願いをしましたにもかかわらず、論点をきれいに整理していただきまして、大変有益な御示唆をいただけたと思います。
ということで、御質問、御意見、川島委員、どうぞ。
○川島委員 ありがとうございます、川島です。
今、浅倉委員の方からの御説明に、私はほぼ同意しております。その上で、私なりの東室長の御質問に対するお答えをしたいと思っております。
まず、最初に差別というのは比較が前提だというのはそうだとは思うのですけれども、そして伝統的に差別禁止というのが区別解消のことだというのが古典的な差別禁止概念だったのですけれども、それはこの部会では少なくとも合理的配慮が入っている時点で、区別解消が差別禁止とは言えなくなっている。権利条約もそういうふうに、区別解消すればいいんだとは言っていない。そこで合理的配慮という概念を差別概念の中に入れた。
そうなってきますと、もう一つ重要なポイントが、EUで2000年に指令、ディレクティブというのが出されたのですけれども、そこでは明確にEUの2000年指令は、ハラスメントは差別の1つであると明示しております。法理論上、ハラスメントを差別の1つとして入れるというのは、EU法の中では確立しているというところが挙げられると思います。
2点目で、正当化事由はどうなのかという御質問があったと思いますけれども、相手の利益とか相手の権利との関係の中でハラスメントは認定されるわけなので、正当化事由というのは当然、イギリスでも実質的に認めている。特に相手側の表現の自由とかそういったものは当然認められるわけで、相手との関係でさまざまな諸要素を考慮に入れてハラスメントは認定されるということです。
もう一つ、私が本日提出させていただきました、委員提出資料の14ページの一番下のところに、不均等待遇の定義があるのですけれども、ここでは障害または障害に関連する事由に基づく行為または基準が、障害者または他の者に実質的な不利をもたらすことをいう、そしてただし書とあります。ポイントは実質的不利とは何かというところなのですけれども、16ページの一番下の方にあります第8項に不利というものの定義が書いてありまして、障害に基づいて人間の尊厳、人格を害するといった状況とか、機会の平等を実質的に享受し得ない状況、参加が妨げられる状況、自己決定が妨げられる状況、こういったものが障害に基づく行為とか基準によって発生してしまった場合は、一応の差別発生と考えることができる。ただし、相手方には正当化するチャンスも当然あって、障害者と相手方のバランスをとっていくという形になると思います。
そして、ここで不利の内容としてこのような尊厳とか機会の平等とか、社会参加とか自己決定と挙げているのは、まさしく障害者権利条約の根本的な理念でありまして、このような価値を実現するために障害者権利条約というものができた。そして、2010年英国平等法も実は、よくよく中身を見てみますと、このような価値というものを実現するために差別を禁止するんだと。しかも御存じのとおり、北米とか国際法の中では、差別とは何が悪いのかというと、そもそも尊厳を害するから差別はまずいんだということはずっと言われているわけです。その尊厳をダイレクトに侵害する行為が、まさしく障害に基づく侮蔑的な言動であって、これはそもそも差別概念と密接不可分にくっついていると考えております。
最後に1つだけ申し上げたいのが、ハラスメントの中で2つ類型が、先ほど浅倉委員がおっしゃられましたけれども、私なりに2つの類型というのは例を挙げて言いますと、まず、例えば使用者が障害者に対して尊厳を害するような侮蔑的な行為をした場合、言動をした場合、これは当然ハラスメント、差別の一形態となりうる。この法律の射程に十分入ってくると思います。もう一つの場合ですが、使用者がある障害者に侮蔑的な言動をして、それを見ていた同僚の人が、そういった状況というのがオフェンシブなエンバイアメントという敵対的な環境をつくっているから、障害者ではなくて同僚の人がそういう環境を放置している使用者に対して訴えを提起できるか。そういうところまで、ハラスメントというのは入ってくると思うのですけれども、ここはまだ私の中でわからないのですが、少なくとも前者の場合、すなわち当事者が実質的な不利を被る行為、尊厳を害されるような行為をされた場合には、少なくとも一応の差別だということは十分可能だと思っております。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
今の川島委員は特に東室長へのかなり具体的な批判と聞こえましたが、後で東室長、反論されますね。
○東室長 ただ、どちらが正しいかどうかという問題では決してなくて、どちらの類型に属するかという議論自体は、実益というのは余りないわけです。問題は具体的にどういう形で位置づけるのか。その位置づけの仕方について、まず前提問題を議論しましょうということだと思うのです。
ですから、同じ条文を読んでも違ったような評価もあり得るし、必ずしも川島意見に個人的に賛成しているわけではないのですが、議論はいろいろあると思いますので、何がここで具体的につくればいい問題なのか、抽象的に正当化理由もあり得るんだという話をすると、例えば虐待防止法はハラスメントの中の最もコアな部分だと思いますが、現行法体系には正当化事由なんかないのです。あえて正当化事由をつくるのかといったら、つくる必要はないと個人的には思うのです。非常にあいまいなものになりますね。
ですから、差別の定義で本当に大変な思いをしているのに、そこまでまた広げて、利益考慮しないとわからないようなハラスメントをつくった方が実益はあるのかないのかというところで議論していただければと思います。理念的にはいろいろあろうかとは思うのですけれども、最終的にどういうものをどういう形で書くべきなのかそうでないのかという、そこら辺に議論を持っていっていただければありがたいと思っています。
○棟居部会長 ありがとうございました。
着地点を意識しながら議論をすべきであると。少し研究会風になりかねないテーマ設定でもありますので、その点は私自身も気をつけたいと思います。
浅倉委員が先ほどセクシュアルハラスメントのところで、これはよくなされる定着した対比のようですけれども、対価型ハラスメントと環境型ハラスメントという区別をおっしゃいました。これはそのまま障害者に対するハラスメントの場合にも成り立つ区別でしょうか。つまり、障害者に対して対価型の場合にはまさに差別であると。しかし、環境型という場合に、均等法では5条、6条の差別的取扱いには入らないという整理が指針ではされているわけですね。同じように環境型というものについては、差別禁止のコアの部分ではない、それに関連してカバーすべきかもしれないけれどもという区別はどうなのでしょうか。先ほどせっかくセクシュアルハラスメントでこの2つの区別をおっしゃいましたので、障害者の方ではどうお考えかというのを1点お聞かせください。
○浅倉委員 ありがとうございます。浅倉です。
今の御質問については、こう考えます。均等法というのは事業主の行為、あるいは職場における性的な言動をセクシュアルハラスメントと言っていますので、それに該当するかどうかの解釈を均等法上はしているわけですね。したがって、対価型の場合にはまさにそれが雇用上の行為に該当するかどうか、すなわち解雇とか配転とか募集、採用とか、そういう雇用上の行為そのものに直接関わる場合には、それが事業主に対して禁止されるべき行為の中に直接入ってきます。したがって、ハラスメントについては、その現れ方が、雇用上の不利益というところに結実すれば、それらは「対価型」であるとしてくくれると考えているわけです。
もしそういう考え方を障害者差別禁止法をつくった場合に持ち込むとすれば、どうなるでしょうか。司法上の権利を侵害されたというべきかどうかという場合に、当該言動が司法上の権利に直接的に関わっているかどうかということを議論して、これを侮蔑的な言動を通じて侵害したんだということが立証されれば、いわば対価型になるという解釈が成り立つかもしれないと思います。
ただ、環境型の場合には、以上の場合とは少し異なって、直接的な人格権侵害的な言動というものが存在する、言動が向けられた人の環境を悪化させるというものですから、そういうような何か上記の権利が直接に侵害されたという結果に結実しないものもハラスメントの行為の中にはあり得ると考えられます。そうなると、両者の類型は異なるのかと考えます。
○棟居部会長 済みません、私が短絡的に誤解をしたのでしょうが、先ほどの整理をされました比較的初めの方というか、お手元で私は見させていただいているのですけれども、論点1の(3)障害者に対して結果としてはあるサービスが提供されたが、提供過程において侮蔑的な言動があったという場合。つまり、結果においてはサービス利用の機会は与えられたと。そこだけを見ると差別的ではないだろうと。しかし、実質的にはサービス利用意欲がそがれるという意味で、浅倉先生は実質的に機会を付与しないことと変わらないと結論づけられたのですけれども、プロセスにおいて嫌がらせというか、サービスを提供するけれども、ああだこうだとこういうことを言うことは、環境型ハラスメントというのによく似ているのではないかと短絡的に思ったものですから、そこは結び付けない方がいいのでしょうか。
○浅倉委員 なにかのサービス提供プロセスで環境型のハラスメントがあった場合、それも差別だと考えれば、それは差別行為に該当するであろう。しかし、それは「機会の提供の否定」という差別の原形とは違うのだと考えれば、ハラスメントをそれらと別物として取扱い、まさに環境型ハラスメント禁止規定というものを別立てにして規定する方がいいのではないか、というのが私の考え方です。
○棟居部会長 わかりました。
どうも対価型と環境型というのが障害者でも使えるかという過剰な期待をしていまして、しかし、この2つの区別は、あくまで雇用関係がある中での話だということで、一応別立てで考えた方がいいということと受け取りました。
太田委員、お待たせしました。
○太田委員 ありがとうございます。太田です。
私は実態の方から話をしていきたいと、理論は置いておいて、実態例から話をしていきたいと思います。
一番私の頭に思いつくのは、障害者と介助者との関係であります。障害者と介助者の関係と申し上げても、施設か地域かによって多少違うと思いますが、私は施設で長年暮らしてきましたので、まず、施設のお話をしたいと思います。
例えばトイレに行く回数が多い障害者と少ない障害者といるわけで、よく水を飲む障害者と余り飲まない障害者といるわけで、結果として、水分を多く飲んだ障害者はトイレに行く回数は多くなるわけです。そうすると、最も侮蔑的な言い方をされるのは、お茶の飲み過ぎだからトイレに行くのが多いとか、そのような嫌がらせを言われます。
最近そういう嫌がらせを言ってはいけないという指導があるので、違う言い方でやんわりと笑顔をにじませながら、今日は何を飲んでいるのと言いながらトイレに連れていくのです。因果関係をあいまいにして、さも嫌味を言っていないがごとく関係をつくり、でも、障害者にとってはそれが抑制効果をもたらして、もうちょっと水分を抑えようかなと思わせるということがあります。
それと、女性の障害者については、成人の介助については非常にいろいろな言動で、強い言動、いわゆる侮蔑的な言動がやんわりした、客観的には侮蔑的とは認定し得ないけれども、2人の関係においては言われた方は傷ついてしまう言動において悲しい思いをしてしまうということがあります。
男性の障害者はトイレ介助はしやすいけれども、女性の障害者はトイレ介助が大変。男性は尿器があればいいわけですが、女性については抱え上げてやらないといけないという問題があって、そういうところは何か言われると、よくそれをしなければならないという実態があります。最近はあからさまな侮蔑的な言動は少なくなっているのですが、それはあからさまな言動であって、介助する側は何か嫌味を言いたいわけで、でも嫌味ととられては困るので、カモフラージュして言うわけです。私はそういうのはハラスメントというのではないのかと思っています。
社会参加の点でいえば、人として身だしなみを整え、おしゃれをして外に出かけたいわけですが、重度の障害者は介助者の手を煩わせないとならない、そのときの介助者の何気ない一言が、次の日からやめようかというような気持ちに一変させてしまうということがあります。
刑法上の虐待とは違うと思うのですが、立場関係の上で強い立場の人の何気ない一言によって、その人の言うことを聞かざるを得ないなどは、その人に帰属せざるを得ないような状況がつくりあげられるのですから、それは差別だと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
客観的、第三者的に見るのではなくて、当事者、それも介助者に依存している障害者の目線で見る必要がある。それはハラスメントという概念は必要で、刑法の侮辱罪とかそうした別の客観的な被害を問題にする処罰規定等の規範でカバーできるかというと違うという御指摘ですね。ありがとうございました。
大谷委員、お願いします。
○大谷委員 まさに太田さんの意見を少し弁護士の現場から補足させていただきたいと思います。
ハラスメントというのは、差別と虐待の谷間、ある種グレーゾーンにそもそもあったところを、なかなか救済し切れなかったという現実があり、そういう立法事実が広く昔からあったのだろうと思います。それをずっと救済し切れなかったのですけれども、やはりおかしいと。当事者が、特に女性がセクシュアルハラスメントという概念を使って性的自己決定権の背景を踏まえて主張し始めて、概念ができ上がった。その言葉を得てから非常にハラスメントという言葉を使って被害を訴えやすくなりました。
先ほど浅倉委員が紹介してくださったように、不法行為として認知されるような、ハラスメントは不快感を与える、不快を与えるというだけではなかなか不法行為に該当しなかったことも、権利侵害、利益侵害なんだということで救済されるようになりました。その過程も1990年以降、我々法律の救済現場でも非常に事件としても救済されるようになった。今やセクシュアルハラスメントという概念を超えて、モラルハラスメント、アカデミックハラスメントということで、アカハラ、モラハラという言葉で、ハラスメントの上に付けて、こういう類型もハラスメントとして許されないんだということが訴訟類型としてもどんどん出てきて、モラルハラスメントなんかも判例が出てきつつあります。アカハラなどは典型的にでき上がった。
とするならば、私は現場、弁護士の現場にいると、1つの類型としてあると非常に救済しやすい。言葉を得るということはこういうことかと私は思っていますので、障害者ハラスメント、障ハラというか、何かそういう定義を、定義というか類型があるのだということをはっきりどこかに入れてもらいたい。それは虐待防止法でも私は正直よかったと思います。ただし、虐待防止法が著しい心理的外傷という言葉で心理的虐待を定義してしまいましたので、一定程度損害が強くなければ虐待に該当しないということになりましたので、そうではなくて、そこには至らない、ある種のグレーゾーンも禁止して救済するよ、不法行為になるよということを規定するためには差別禁止法しかないだろうと思っておりますので、是非私は差別禁止法にハラスメントに関する要項を入れてもらいたい。
ただし、差別の類型としていれるのではなく、ある種虐待と差別の間、グレーゾーンを意識したものとして、そこも救済するということを意識した形で類型化していくべきだろうと思っています。
もう一つ、通りすがりの人とか一過性の関係でもハラスメントは成立するかどうかということなのですけれども、私たちの現場ですと、ある種の関係性のあるところにおける救済事例、雇用、教育等々で一定程度の関係性が強制されているというか、逃げ場所のない中で言われる言動に対して救済の必要性がある、違法性の程度の問題なのかもしれませんけれども、そこにおいてはただ単なる不快な言動もハラスメントとして見逃せないということで救済してきたわけですから、何らかの関係性のあるところでの救済になるのかなと、私は漠然と思っているのです。
ただし、これは非常に広くて、例えばバスの運転手がバスの乗降に際して障害者のある人が乗るたびに舌打ちをするということ自身もハラスメントだろうと。障害がある人がバスに乗るという行為を結局選択し、避け得ない関係になっている以上、運転手が舌打ちをするということは、すること自身で不快な言動を与えるということでハラスメントに該当するから、一定程度の継続的な契約関係というかまではわからないのですけれども、何らかの関係が生じているところでの不快な言動ということになるのかなと。私は漠然とですけれども、判例などを見てみると大体そのようなことを救済しているので、一定程度その形になるのではなかろうかと思っております。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
西村委員、山本委員の順番でお願いしたいと思います。
西村委員、どうぞ。
○西村委員 西村です。
私も、ハラスメントについては差別禁止法の中に入れるべきであると思っています。その理由の1つは、差別とハラスメントというのが、多くの場合違うところがあると言われてますが、逆に共通する部分も相当あるだろう。1つは、その人の尊厳に対する中傷であり、人権侵害であろう、そしてそれらの行為というのは差別であれハラスメントであれ、禁止されるべき行為であることから入れるべきと思います。
もう一つは、差別禁止法がどういうことを目的にするのか。差別をなくすということ、権利を保障していくこと、人権侵害をなくすということであれば、差別ということと必ずしも共通でないかもしれませんが、その人に及ぼす影響においては同様の影響があるわけですので、ハラスメントは入れるべきであると思います。
ただ、入れ方をどのような形に入れるのかということにつきましては、一定の議論が必要であると思っています。というのは、多分差別禁止法に、ハラスメント以外にもさまざまな分野に関する規定を盛り込んだときに、即時的に対応できるものと、そうでないものが出てくると思います。ハラスメントの概念だとか社会的な扱い自体が一定の歴史の中で変わってきたことを踏まえれば、若干入れ方は考えることが必要なのかもしれませんけれども、法律は条例と異なり改正というのがあります。そうすると、ハラスメントについては一定程度入れておきながら、更に今後のさまざまな状況に応じてその条項についての改正を重ね、より現実的なもの、あるいは強化をしていく。
最後に、私も含めて障害者は、多くのハラスメントを受けてきている。福祉課に行って障害福祉サービスを利用しようとすると、それだけ介助が必要であれば地域で生活ではなくて施設に行ったらいいのではないか実際に言われてますから、そうした障害者の現状があるのであれば、差別禁止法の中に盛り込むことが当事者としての声であると思っています。
以上です。
○棟居部会長 1点確認させてください。
先ほど、法律は条例でなく改正が可能とおっしゃったのは。
○西村委員 条約です。法律は条約ではなく改正が可能。
○棟居部会長 わかりました。どうもありがとうございます。
では、順番で山本委員お願いします。
○山本委員 問題点の整理をさせていただきたいと思います。3点申し上げたいと思います。
第一は、差別とハラスメントの関係についてです。素朴に考えますと、他の人には嫌がらせはしないのに、障害者に対しては嫌がらせをする。これは差別ではないかという気が確かにします。ただ、差別でこれまで問題にしてきたのは、他の人には一定のことをする、あるいはしないのに、障害者に対してはそれとは違うことをする。これが勿論平等取扱いをしていないという意味での差別なのですが、これには前提があって、他の人には一定のことをする、あるいはしないというのは、それだけを取り上げると適法な行為をする、あるいはしないということなのだろうと思います。そこでは、他の人に対して、他の人の権利を害するようなことをしてはいけないのは当然であって、他の人の権利を害してはいけないのに、障害者に対しては権利を害するのは、差別だという問題ではなく、そもそもそれは権利を侵害する行為であって、だれに対してもしてはいけない。これは、差別を問題にするまでもなく、してはいけないことなのだという意味で、差別と権利侵害行為は異なるのだろうと思います。
そして、ハラスメントはだれに対しても本来してはいけないことであって、権利を害する行為に当たるのではないかと思います。その意味で、差別とハラスメントは、概念としては区別をしておくべきだろうと思います。
問題は第二点で、新しく障害者差別禁止法をつくるときに、ハラスメントをそこに盛り込むべきかどうかです。おそらくどなたも障害者に対してハラスメントをしてはいけないということについて、意見は一致しているのだろうと思います。問題は、それを差別禁止法という法律の中に入れるかどうかです。これは、差別禁止法という法律をどのような目的を持った法律として定めるかという前提と関わるところです。
障害者に対しては、他の人に当てはまるルールが同じように当てはまるようにする。そのような意味で等しく取り扱うということを実現する。これが差別禁止法の目的であると考えるならば、それと異なるものを入れると、目的があいまいになってきて、本来の目的が実現できなくなる恐れも出てくる。その意味で、あくまでも差別禁止法の目的は等しい取扱いを実現することであるとするならば、ハラスメントに当たるようなことはしてはいけないのは勿論だけれども、差別禁止法の中に入れるのは問題だということが出てくるかもしれません。
しかし、このようなものも差別禁止法の中に入れるべきだという考え方も勿論あり得ます。それは、浅倉委員がおっしゃったような考え方が一つだろうと思いますが、もう一つ考えられるのは、これまで何人かの委員の方々の意見の中にも見えたところですけれども、等しく扱わないという意味での差別をなぜしてはいけないかというと、それは障害者の人格を否定するからである。他の人には一定の扱いをするけれども、障害者には障害者というだけの理由でそれを適用しないというのは、障害者の人格を無視していることを意味する。だからしてはいけないのである。とするならば、確かに等しく取り扱うという命令に反しているかというと、そうではないけれども、ハラスメントに当たることをすれば、障害者の人格を侵害することになる。その意味で、障害者の人格を害するという点では同じ性格を持つ行為である。だから、差別禁止法の中に、差別とは異なる類型として、ハラスメントに当たるものも対象として含めるというのは、考え方としてはあり得ると思います。しかし、本当にそう考えるべきかどうかということこそ、ここで議論すべきではないかと思います。
3点目は、仮にハラスメントに当たるものをこの中に入れるとしたとして、平等取扱いに関するルールと異なる扱いをする必要があるかという点に関わります。最初の方に川島委員が紹介されましたように、EUでは、差別の禁止に関わるルールと並んでハラスメントも差別に含むものとするというルールを定めているところがあります。私が知っている範囲では、民法含めた私法について、ヨーロッパで法のハーモナイゼーション、これは「統一」ではなく、「調和」といっているものですが、それを目指す動きがあって、その中でヨーロッパ共通参照枠草案、DCFRと呼ばれるものが3年ぐらい前に発表されました。その中の第2編の第2章に差別に関するルールが提案されていまして、その中の102条に差別の定義が定められているのですが、そこでは、同じように差別の意味は平等取扱違反とした上で、ハラスメントをそれに含めるものとすると定められています。ただ、その上で、第2章の103条に、平等取扱いについては正当な理由がある場合は禁止されないというルールが定められていますが、そこでは、明確に等しく取り扱われない場合は、平等取扱違反とすると書かれています。ハラスメントがそれに当たるかというと、これは平等取扱いの問題ではありませんので、正当な理由による例外はハラスメントについては当てはまらないという仕組みになっているのではないかと思います。
仮にハラスメントを差別禁止法の中に入れるのであれば、平等取扱いとは構造が違うものですので、除外事由等に関しても別枠でそれとして適切に定める必要がある。そのような方向で検討する必要があると思います。
長くなりましたが、単なる論点整理で申し訳ありませんけれども、以上のとおりです。
○棟居部会長 ありがとうございました。
先ほど来の議論が差別禁止法の目的をどうとらえるかという大きな、ある意味我々が少しごまかしてきた点と係っているという御指摘を含む、いろいろな論点を整理していただいたと思います。
予定のお時間を少し過ぎております。松井委員、先ほどお手をお挙げになりましたでしょうか。
○松井委員 むしろ、第3点の論点と関係するのですけれども、苦情の受付の窓口というか、あるいは調停の窓口に問題が出てくるわけですけれども、その場合に差別禁止に入れるのか入れないのかというのは、受け皿の問題には当然関係しているわけで、そういう意味では、きちんと入れるのか入れないのかという議論はした方がいいと私は思いまして、意見を記載しました。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
それでは、進行がいろいろ例によって不手際ございましたが、予定の時間が来ておりますので、もしほかに特に御発言がなければ、以上で第1コーナーを終わりたいと思います。
今、15時17分ぐらいですが、プログラム上15時35分再開ということで、少し長めの休憩になりますけれども、後半も非常に白熱した議論になると思いますので、休憩をお願いします。では、35分再開です。
(休憩)
○棟居部会長 再開します。
第2のコーナーは60分です。前半の30分はハラスメントの障害者差別禁止に係る課題についてその2で、資料1「ハラスメントに関する論点」の中から、論点3「仮に、『ハラスメント』の禁止・防止を差別禁止法案の内容とする場合、障害者差別禁止法案と障害者虐待防止法との関係をどのように考えるか。」について議論等を行います。
最初に、東室長から論点等について、資料1に基づき5分程度で御説明をいただきます。
○東室長 担当室の東です。
論点の3番目につきましては、ハラスメントの定義ができるかどうかということが最初の問題ですが、仮にできたとして、その定義において虐待との関係が明確に整理できるようなものであればいいのですけれども、そこはなかなか難しいとした場合に、現行法における虐待防止の規定との関係をどう考えるかといった辺りが、少し整理すべき課題としてあるのではなかろうかと思っているわけです。
今日、お手元にあります参考資料1の3ページからなのですが、障害者に関しましては、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律というものが去年できまして、そこで定義規定が置かれているわけです。
分野としては、養護者による障害者虐待ということで、家庭を念頭に置いた虐待の分野、障害者福祉施設従事者等による虐待ということで、福祉施設の分野、使用者、働く場での虐待の分野ごとにそれぞれの虐待の類型があるのですが、大ざっぱにいえば、5つの類型があります。1つは身体的虐待、2番目が性的虐待、3番目が心理的な虐待、4番目が放置とかいう部分、5番目が経済的な虐待、これがそれぞれのところで少しずつ違った形で書いてあるところなのです。特に言動という面で見ると、心理的な虐待とハラスメントが重なるわけですので、ここでいう虐待における心理的虐待とは違うものとしてハラスメントを規定することができるかどうか。これを含める場合においては二重に規定する分野が出てきて、それでいいのかどうかとか、そういった辺りの議論をしていただければと思っているところです。
以上です。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
それでは、質疑及び議論に入らせていただきます。時間は25分ほどを予定しております。どなたからでもどうぞ。
大谷委員。
○大谷委員 先ほど先走ったことを言って、まだ論点に入っていなかったのでしたね。
虐待防止法の中の虐待の一類型としての心理的虐待、これが著しい心理的外傷を与える言動となっているのです。要するに、ほかとの比較で、例えば身体的外傷が生じるという第一類型、わいせつ行為ということで、それと並ぶ形で、一般的に虐待と我々が認識し得るものをある種身体、性的、心理と類型化したということからすると、かなりの程度ひどい状況を想定した定義になっているのです。
一方、私が先ほど言ったように、我々の現場ではある種立法事実として、これに至らない不法行為、いわゆる不快感というか、不快を与える言動が、外傷と言ってもいいですけれども、心理的外傷と表現しても構いませんけれども、外傷とまでは言わなくても、非常に不快感を与え続けられているという状況があって、これもやはり救済されなければいけないと思っています。そうだとするならば、この虐待防止法の定義は狭いと思いますので、ここに至らない形での不快感を与える言動等々という形で差別禁止法に設けて、禁止規定にしていただきたい。
1つの法律の中で、そういう言動をしてはならないということが規定されていれば、ある種規範として生きてきますので、私は先ほどちょっと言ったのは、本当は虐待防止法の中に、虐待に至らないハラスメントをしてはいけないと書くことだって可能だったと思いますけれども、残念ながら虐待防止法は場所を限り、行為者を限り等々、非常に狭い形で規定されてしまいましたので、差別禁止法の中で一般的な禁止行為という形で設けていただきたいと思っております。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございます。
その場合、虐待防止法の改正が本来は望ましいけれども、虐待に至らないものは差別禁止法でというプラグマチックな、非常に実用的、現実的な案ではあると思うのですけれども、筋論としてはどうなのですか。つまり、虐待防止法というのがこういう定義でもって著しいというのを付けているということは、いわゆる反対解釈というのをすると、そこまでだったら虐待ではない。だけれども差別には当たるという、黒ではないけれどもグレーだというところを差別禁止法の方で引き取るということになるのですか。
○大谷委員 大谷です。
ハラスメントというのは、セクシュアルハラスメントの場合もそうですけれども、差別ではないかもしれない。しかし、虐待でもないかもしれない。そのグレーゾーンも救済するという、いわゆる嫌がらせ、いじめを1つの違法類型として設けていたのだと私は認識しているのです。
ですから、従来から侮辱罪、わいせつ罪、それこそ暴行罪、犯罪類型としてあったのですけれども、犯罪としてしまうと行為類型としてかなり厳しい判断が要請されますので、そこに至らなくても救済しなければいけない事態がこれだけあるのだと救済してきたわけですから、私とすると、虐待には当たらないけれどもハラスメントの場合にも救済するというものが必要だろうと。それは虐待防止法の方で設けることも可能だったと思いますが、障害者虐待防止法は、学校教育または病院等と外されたり、いろいろ行為者に対する規制もありますので、一般的な禁止事項として改めて設けるためには、私は差別禁止法の方が法的な体系として一貫性が出てくるのではないかと思います。
ただ、そのときに差別の類型のその他みたいな形ではなくて、先ほど言ったように、正当事由が発生したり、除外規定をどのように設けるべきかという形の議論の枠外に入る類型だろうと思いますので、それを意識した形で差別禁止法に設けてもらいたいと思っています。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
先ほどの第1コーナーの議論を蒸し返す気は毛頭ないです。特に司会としては、かなり混乱というか、時間を食いますので、そのつもりは全くないのですけれども、権利侵害という言葉が出ました。山本委員はそれをキーワードにされたと思うし、ほかの委員も、例えば川島委員も大なり小なりそういうニュアンスのことをおっしゃったと思うのです。権利侵害というものの最たるものが虐待だとすると、虐待防止法の方に本来は権利侵害的なものを一本化して入れていくというのが筋はいいのかと思うのですが、それが実際はなかなか無理だと。あるいは極めて例外的な状況を虐待防止法が取り上げているとすると、差別に類似あるいは関連して起きるハラスメントは、差別禁止法で引き取るというのも勿論ありだと考えております。
ほか、御意見いかがでしょうか。
山本委員、どうぞ。
○山本委員 山本です。
先ほども申し上げるべきだったのかもしれませんが、もう一つ考えておくべきポイントがあると思います。法律の性格、もう少し厳密に言いますと、その法律がどのような効果を定めているのかということも考える必要があると思います。
障害者虐待防止法は、私は専門外で内容については疎いのですけれども、何を定めているかというと、効果としては、国や地方公共団体の責務を定めている法律なのではないかと思います。そのような責務をどのような場合に負うのかということを定めるために、虐待という概念が定義されているのではないかと思います。
これまで、この部会で議論してきた障害者差別禁止法は、国や地方公共団体の責務を第一義的に定めるものでは必ずしもなくて、市民相互間の私法的な法律関係についてルールを定めることが少なくとも中心的な目的とされているのではないかと理解しています。
そうしますと、先ほどの障害者虐待防止法とは法律の目的、もう少し正確に言うと、どのような効果を定めているかという点で異なった法律になるのではないかと思います。そのような観点から、重なりがある場合にどうするか、重ならないのはどうしてなのかということを考える必要があると思います。
○棟居部会長 どうもありがとうございます。
ここでの議論をスムーズに進める上では、目的、効果ともに異なるのだということだけを引き取らせていただいて、虐待防止法との関連性については余り意識しなくても目的、効果が異なると司会が引き取らせていただくと、少し曲解になるのでしょうか。曲解だということですけれども、山本委員の言葉じりだけだとそう感じたものですからね。
山崎委員、お願いします。
○山崎委員 山崎でございます。
私も曲解の上塗りになるかもしれないのですが、先ほど来の議論で差別禁止法の目的は一体何だろうというところは私もずっと考えていました。要するに、障害者基本法の理念といいますか、精神を受けて、もう少し具体的に障害を持っている方々の人権を確保すること、あるいはそれが侵害された場合の対応を国の法律としてきちんと定めておくこと。これが一番の大きな目的だろうと思うのです。
さてその場合、一番望ましいのは、包括的な障害者人権侵害禁止法なり、障害者人権法なりがあればいいのでしょうが、障害者虐待防止法が先立ってできておりますので、そうした場合、虐待防止法を改正してハラスメントに関する規定をここに入れるという立法技術もあろうかとは思うのですが、それはそれとして、障害者差別禁止法の中にハラスメントの規定を盛り込むという方が、私も現実的だろうと思うのです。
川島委員が出されている委員提出資料の10ページ以下、特に10ページの法案骨格私案の冒頭の説明を拝見していても、先ほど山本委員がおっしゃっている方向と同じでして、どちらかというと差別禁止法なのですが、包括的な障害者人権法のようなニュアンスの書きぶりをされているので、私はこのように広くくくっておいて、なおかつ、ここから先はまだ私の意見としては全然詰まっていないのですが、ハラスメントを差別あるいは虐待とまた別の類型として必要だと、今日の議論を伺っていて私も思います。そのように考えた場合、障害者に対するハラスメント行為を差別禁止法の中にどうやってうまく固定していくのか。そういう方向で考えるのが一番現実的だろうと現在は思っているところです。
以上です。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
今、川島委員の案に言及がありましたが、この際、川島委員おっしゃいますでしょうか。もし何かあればどうぞ。包括的なというところですが。
○川島委員 ありがとうございます。川島です。
障害者虐待防止法の範囲は狭いと思うのです。差別禁止法の方は広い。義務を負う側も広いし、虐待とまでは言わなくても、侮辱的な扱いをされた場合に、障害を理由として侮辱的な扱いをされたら、それは障害を理由とする不利益な扱いであって、一応の差別は認定されるのではないかというぐらいの認識は共有されているのかとは思っております。
○棟居部会長 竹下副部会長、お願いします。
○竹下副部会長 今、川島委員の発言を受けて、私はもっと自分の疑問が鮮明になってしまったのだけれども、私は逆に違うと思うんです。先ほどから山本先生、山崎先生がおっしゃっているところとの関係で言えば、差別禁止法というのは確かに目的との関係でとらえることも必要だけれども、どなたかちらっとおっしゃったように、法律制度による効果が極めて重要な意味を持つと思っていて、差別禁止法の場合には、どのような行為が禁止され、違反した場合、どのような効果が生ずるかということが当然の基本であり、差別禁止法が制定されることによって社会規範、行動規範として社会に提示できることが物すごく重要だと思っているのです。それだけに、その概念があいまいになることはよくないと思うわけです。とりわけ、差別禁止法体系の未発達の日本では特にそう思うのです。
そこへハラスメントという、言わば概念そのものがまだあいまいと言うと怒られるかもしれませんが、不明確ないしは不特定な段階のものを差別概念に入れてしまうと、先ほど第1コーナーで議論になったように、差別概念そのものがあいまいになってしまうので、私は行動規範あるいは社会規範としての本来の目的が極めて弱くなると思うのです。そういう意味からは、今の川島さんの意見はいかがなものかと思うのです。
○棟居部会長 川島委員の反論の前に、浅倉委員に1つ教えていただきたいのは、ちょっと話が横にそれて申し訳ないのだけれども、均等法でハラスメント防止規定は最初からは入らなかったと。これはなぜなのですか。つまり、当時の認識が遅れていたのか、それともまさに今、竹下副部会長がおっしゃったような、ハラスメントというあいまいなものを同時に入れることで、全体の性差別の問題があいまい化するということを恐れるという議論があったのでしょうか。
○浅倉委員 浅倉です。
均等法ができましたのが1985年ですから、まだ日本ではセクシュアルハラスメントをめぐる最初の裁判もなかった時代ですね。福岡裁判は何年でしたか。92年ですね。ですので、85年の段階では、女性に対する暴力という考え方も国連でもまだ取り上げていなかった時代です。国連でも、93年になってようやく女性に対する暴力撤廃宣言を採択したわけですから。したがって、85年当時は、差別というのはだれかと比較して不利益ということに特化して日本では議論していたのだと思います。
それがようやく最初の均等法改正がなされた97年に、セクシュアルハラスメントの規定が設けられたわけです。そのころにはセクシュアルハラスメントは不法行為であるという議論があり、多くの裁判もでてきましたので、当然、それらは働く女性にとっての著しい不利益であるということで、はたして性差別に該当するかどうかということとは別に、均等法は、事業主の防止配慮義務としてセクシュアルハラスメントに関わる規定を設けたのだと思います。それが新たに、2006年になってさらに、もはや事業主の配慮義務ではなく措置義務である、ということで、ランクアップして規定されるようになった、そういう段階に至っているということですね。ですので、時代の中で法的な内容変化がもたらされていると思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
今、お伺いした限りで、私が理解した限りでは、均等法の場合にはあいまいになるのを恐れて殊更にハラスメント規定を最初入れなかったという事情はないということで、翻って障害者の場合にはハラスメントという現象自体は散々この場でも報告をされているわけですから。
どうぞ、遠藤オブザーバーお願いします。
○遠藤オブザーバー 均等法については私も携わっているので、今の解釈は、私は違っていると思います。
○棟居部会長 では、少し敷衍をお願いします。
○遠藤オブザーバー 部会長の解釈が違っていると思います。浅倉委員がおっしゃったとおりであり、97年改正の中で事業主の配慮義務を入れました。配慮をしてくださいというメッセージは出したのですけれども、どういう対応をしていいかというところがなくて、防止する対象は何に置くのかということや、それをどうやったら実効ある社内体制が整備できるのかというところまで、まだ議論が煮詰まっていなかったのです。それが2006年改正では、事業主に対してきちんと意識を持って行動してくださいという形で措置義務に変わり、新たに9項目をしっかり指針の中で書いて、現場の中で体制を整備しなければ義務違反ですという形のものを持ってきました。そのためには、長いか短いかは別として、一定の期間が必要だったわけです。それをやることによって、職場の労使の中で、どういう対応をしていけばいいかという議論の蓄積があったということがすごく重要であり、この期間をどれだけとれるか、ここの間にどれだけ国民的な議論も含めて蓄積していくのかということが、ハラスメントの場合は重要だと思うのです。
というのは、対象となり得る範囲が広いということに加え、それはどこまでも広がっていく、定義をしようとしても、どこまで定義をしても漏れるものが出てきてしまっているのが、ハラスメントの内在している根幹的な問題なのです。あってはいけないことはだれしもみんな思っているのだけれども、それはどういう形で法技術的に規定できるのかということについては回答がないのです。だから、私は、皆さんの発言を聞いていて結論はまだ何も申し上げてはいません。ハラスメントというものをどういう形で今後対応していくのかということは置いておいて、こういう意見を言うのは無責任に聞こえるかもしれませんが、差別禁止法の制定を今、ターゲットにしている議論の中では差別禁止法の外に置くような形で対応していくというのが、現実的な対応だと思っています。
○棟居部会長 非常に重要な御指摘ありがとうございました。
まず、1点、私の事実誤認をお詫びします。
もう一点は、今のお話から教訓を得ましたのは、まず、差別を解消すべきだと。その上でこの場での議論でいえば障害者、均等法でいえば女性ですけれども、例えば女性が男性と一緒に働いていく中でハラスメント事象が出てくるし、また、何がハラスメントかということについて一定の知見の蓄積も得られる。そうしてタイムラグがあってこそ、初めて一定の指針にまで至れたという御指摘ですね。
遠藤オブザーバー、どうぞ。
○遠藤オブザーバー ハラスメントの規定について、それまではハラスメントとは女性に対するものだけで考えていたのですけれども、2006年改正のときは、男女労働者に対するものとして、男性に対するハラスメントもしっかり法律で位置づけられたということがあります。これも議論の蓄積があり、実際にそういう現象があって見直されたということを追加的に説明させていただきます。
○棟居部会長 つまり、ハラスメントについては後に置くというか、時間差というのがむしろ必要ではないか、少なくとも必然ではないかという御指摘かと思いました。今の点には勿論たくさん御反論もございましょう。
その点も含めてですが、まず、伊東副部会長お願いします。
○伊東副部会長 ただいま、ハラスメントに関しては差別禁止法からむしろ除外した方がという御提案がございましたが、実は、差別と虐待の中間に存在すると思われるハラスメントの領域について、多くの障害のある人たちがむしろ明確な差別とか、明確な虐待ということではなくて、中間にあるハラスメント的ないろいろな社会の対応、人の対応によって、機会を失われ、尊厳性を失ってきたということが大変多いと私は思います。私の経験からしてもそうでありました。言葉による対応、障害者に対する態度、こういうことがどれだけ現在の社会の中で障害者の進出、当たり前の生活を阻害してきたかということを、私は皆さんに理解していただきたいのです。
例えば、新幹線を利用しようと思っても、2日前までに予約をしてくれないと駅での介助はできないと公然と言う駅員、あるいはこんな重たい車いすで来るのは介助するのが大変なんだ、ということを言われることもあります。あるいは職場では陰で「あのばかが」とか、「こんなこともまだできないんだ」とか、こういうことが本人に聞こえないところで語られている場面があるという現実を考えていただきたいと思います。そういう社会における障害者に対する姿勢や態度、対応で、実際に障害のある人たちの自尊心、尊厳性を失わせ、やる気も失わせるということになっているわけです。
虐待と認定されればわかりやすいです。あるいは差別と認定されればこれもわかりやすい。態度、対応で人々が傷ついているような状況を、確かに法律の中にどう組み込むかというのは大変難しい問題があると思います。しかし、社会における啓発という方法でこれを変化させ、改善していくということは大変難しいことだと思います。障害のある人の尊厳性の侵害という視点から、法律的に根拠があるかどうかわかりませんけれども、これだけすばらしい法律の専門家の方々がいらっしゃるので、私は是非ともハラスメントについて重要視していただきたい。これを除外して差別と虐待の中間に存在する社会の中で取り残されていく障害者の権利を放置しておくことがあってはなりません。
以上です。
○棟居部会長 伊東副部会長、ありがとうございました。
ハラスメントの定義が明確であれば、恐らく先ほどの遠藤オブザーバーが示された御懸念もかなり払拭はできるのだろうと思います。ただ、今、ここで議論している中でも相当にずれがあるというのも事実かと思っております。
先ほどお手が挙がりました、私が確認したというか、覚えている限りですが、川島委員、大谷委員、太田委員がお手をお挙げになりました。大変恐れ入りますけれども、第2コーナーで16時5分、そろそろ来ますけれども、これをめどにいたしまして、別の論点に移行するという時間配分を予定しておりますので、大変恐れ入りますが、今のお三方、川島委員、大谷委員、太田委員の順番に、お1人1分以内という見当でお願いできれば幸いです。
川島委員、どうぞ。
○川島委員 川島です。
竹下副部会長の御疑問、ハラスメントの定義がよくわからない、あいまいだ、だから入れるべきではないのではないかというところがあったと思いますけれども、私の中ではハラスメントの定義はそんなに難しいものではないんです。イギリスの2010年の平等法などを見ても、非常にシンプルです。
たとえば、私が障害に基づいて、障害のある人の望ましくない行為を行う。その行為がその人の尊厳を害する目的または効果を持てば、一応の差別ということになります。ただ、それですぐ差別が認定されるというわけではなくて、その際にいろいろな考慮事項を入れて判断していくわけです。これが1つ。
もう一つが、時間もないのであれですけれども、我々は差別禁止といったときに、伝統的な、古典的な差別概念にとらわれ過ぎている。つまり、だれか比較対象がいて、それと比べて損をしているといったときに、だれを比較対象にするかというところは非常に難しい問題で、イギリスでは裁判所の判断に対する反省を踏まえて、2010年平等法の立法化の際に比較対象の要件を削除したわけです。つまり、障害に基づいて不利益な結果をもたらす扱いがあれば、一応の差別が発生するんだと。それが尊厳に関わる部分はハラスメントとして考えていいんだと。そのようなシンプルな発想に基づいて、ハラスメントを私は理解しています。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
続きまして、大谷委員お願いします。
○大谷委員 大谷です。
遠藤オブザーバーの発言はそのとおりだと思うのですけれども、ただし、あれはセクシャルハラスメントという新しい概念の定着に多少時間がかかったということだろうと思います。今やハラスメントという概念は非常にわかりやすい言葉として、類型としても定着しているということは認めていいのではないかと思っています。
セクシャルハラスメントのときに浅倉委員が言ったように、国際的に女性に対する暴力の禁止と性的自己決定権の認知という背景があって、セクシュアル、性的な嫌がらせ、性的なというところに関して新しい概念だということも含めて言われたかもしれませんが、今回は障害者権利条約を背景にハラスメントの概念を障害者の権利と結びつけるということであれば、そんなに混乱もないし、国際的な潮流とすると、私は女子差別撤廃条約の批准を踏まえ、等々があって、セクシュアルハラスメントが認知されるよりももっと早くに我々は認知し得るのではないかと思っていますので、その懸念は当たらないのではないかと思っています。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
では、最後に太田委員お願いします。
○太田委員 障がいのある人は強い意思を持った人だけではなくて、弱い意思を持った人がいっぱいいるわけです。その多くの人たちは周りの人たちの言動や身振り、顔色をうかがいながら自分の行動を決めているという実態があるわけで、ハラスメントという言い方がいいかどうかは別として、やはり個人の尊厳が傷つけられないような法制、傷つけられたら何らかの訴えができる法制の仕組みが必要だろうと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
狭い意味の差別ということに当たるかどうかに必ずしもこだわらずに、個人の尊厳を守る法律だという原点を再確認したいという御発言だったと思います。
ちょうど時間がまいりましたので、続きまして、第2コーナーの後半の30分につきまして、欠格条項の障害者差別禁止に関わる課題について(その1)で、資料2「障害者欠格条項に関する論点」の中から、論点1、障害者欠格条項を「修正し、または廃止することを明記すること」について、どう考えるかについて議論等を行います。
最初に東室長から、論点等について資料1に基づき5分程度で説明をいただきます。
○東室長 担当室長の東です。
欠格条項の問題につきましては、去年の9月12日になりますけれども、第8回の当部会におきまして、欠格条項をなくす会の臼井様からヒアリングをしているところであります。
そもそもこの欠格条項の問題につきましては、参考資料2を開けていただきますと、障害者に係る欠格条項の見直しについてということで、平成11年8月段階で障害者施策推進本部の決定が出ておるところです。この決定の中身を少し御紹介します。
例えば2に「真に必要な欠格条項に係る具体的対処方針」があります。ここには4つの方針が書かれておりまして、欠格制限との厳密な規定への改正とか、絶対的欠格から相対的欠格への改正とか、障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正、最後に資格・免許等の回復規定の明確化といったような方針に従って、当時63制度の法令上の欠格条項が見直されて、その結果として障害を特定したり、これに該当する場合には一律に資格等を与えないとしていた絶対的な欠格事由の多くは削除されるか、もしくは一定の事由に該当しても資格を与えないことができるといったような規定、相対的な欠格事由という形になったと言われております。
しかしながら、そのときの議論でもあったと思いますけれども、一方で、法律の本則とか政省令規則、基準、運用マニュアルなどの規定ぶりとか、その運用においては、実質的にはまだ障害者を表す規定が残っていたり、絶対的な欠格事由的な運用がなされているのではなかろうかといった懸念も挙がっているところであります。
現状の規定については、参考資料1の20ページ以下にいろいろ書いてありますので、見ていただければありがたいと思っています。
したがいまして、基本的には資格制限の要件として、できるだけ障害名を特定するという形ではなくて、業務を適切に行うことができないものという形で平等な規定にするということが望ましい方向であるわけです。
先ほども言いました具体的な対処方針の中にも、補助者、福祉士用具等の補助的な手段の活用、一定の条件の付与等により業務遂行を可能にしていくという観点から見ていくべきだという点もあります。そういうことを前提に、先ほど言いましたように、第8回の当部会におきまして、臼井様から御提案があったわけです。
その際に提出していただいた分厚い資料があるのですが、その中で障害者欠格条項というのは、主に国の法律に明記された障害を理由とする権利制限であると位置づけられております。この権利制限に当たっては、古くからの障害者観によって法律条文に記載された欠格条項が社会の障害者観とか慣習・慣行にも影響を与えている。このことによって差別・偏見が固定化している。そういう構造であるという基本的な認識を示された上で、日本の現行規定にある障害者欠格条項は、いわゆる4つの障壁と言われているのですが、その中の法制度の障壁に該当するんだと。しかも、権利条約の第4条に規定されておりますけれども、障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正しまたは廃止するためのすべての適当な措置を取ることといったことの対象にもなるはずであると。
そういった観点から、5点にわたり御提案をいただいているところです。
1点目は、欠格条項を修正し、または廃止することを明記すること。
2点目は、政府・地方公共団体が既存の法律・規則・条例などの差別を調査し情報を公開し、差別を修正し、または廃止することを義務づける規定を設けること。
3点目は、合理的配慮を提供しないことも差別であることを明記すること。
4点目は、差別ではないとするときの説明責任の転換を明確にすること。
5点目は、苦情申立て、権利を回復できる条文と仕組みを設けること。
こういった御提案がなされているわけです。
特に欠格条項を廃止すべきだという根拠としては、先ほど述べましたことのほかに、具体的に言うと、障害というものと「できない」もしくは「危険である」ということがイコールのように結び付けられているのだと。だから、言わば投網をかけるように一律に制限しており、その制限には客観的なデータとか説明がないといった点が、こうした提言をなされた根拠だと思われます。
そういうことを受けまして、それについて本格的な議論をしていませんでしたので、今日は上記の5つの点のうち、4番目、5番目は一般的な議論としてここでもやっておりますので、それ以外の3点にわたって議論をしていただきたいということで考えております。
まず、1点目の欠格条項を修正し、または廃止することということを条文上明記するといった御提案について、皆さんどう考えられるかということです。
若干、この問題を検討するに当たっては、前提的な議論が必要かと思っています。
1つは、ある法律と別の法律が矛盾・抵触する場合をどう考えるかということです。講学的には後でつくられた法律の方が新しい国民の意思を体現しているものということで、後法優位の原則というものが働くだろうと言われてはいます。しかしながら、立法を実際にやる場合、新しい法律だと別の法律に矛盾・抵触するということがわかるような場合。そこを不問にしたまま立法するということは通常あり得ない話なわけです。ですから、新しい立法どおりにするのであれば、抵触する古い法律の方はなくしていくという手当は当然しなければならないこととして要請されると思います。
そういった意味で、ある意味「修正」「廃止」という言葉を盛り込むことは、これと矛盾する法律がほかにあるんだということを前提にするわけですから、そういったものを書けるのか、書けないのかということは大きな問題だろうと思っております。ただ、現実的にはそういう差別的な条項があるということが言われているわけで、しかもそれは400本以上あるといったようなことも言われている中で、その問題をどうしていくのか。その辺りをここで議論していただければと思っているところです。
以上です。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
この時間配分上、16時35分をめどにいたしまして、残りのそんなにない時間の枠で第1の障害者欠格条項を修正しまたは廃止することを明記すると。立法技術としてはいささか問題があるかもしれないと今おっしゃいましたそういう在り方をあえてとるのかどうか。これについて議論をお願いしたいということです。
池原委員から、周到なペーパーをちょうだいしておりまして、池原委員はこのテーマ全体として3つの論点がございます。すべてにわたるペーパーとなっておるんですけれども、いかがされますか。今の第1の点について、とりあえずレクチャーをお願いできますでしょうか。よろしくお願いします。
○池原委員 ありがとうございます。
別に周到でもないし、レクチャーにもならないんですけれども、悩ましい点は、恐らくここに参加されている方のほぼ共通の意見として、実質的な結論としてはやはり欠格条項というのは、一度見直しがされているが、なくしていく、もっと平等化を図っていく方向にしなければいけないという認識は恐らくおおむね一致しているのではないかと思います。ただ、それが差別禁止法という法律というレベルでうまくいくのかどうかということがあって、これは立法技術の問題もあるし、あえて言えば障害者基本法だとか、あるいは総合福祉法などの改正作業のいろいろな困難さという経験も踏まえると、相当いろいろなことを考えなければいけないのかと思ったりもして、やや中途半端な見解と人によっては聞こえてしまうかもしれませんが、ちょっと考えてみたところです。
事前に事務局の方にペーパーを出す時間的余裕がありませんでしたので、点字化とか情報保障がされていないと思うので、時間が若干無駄かもしれませんが、簡単に読ませていただきたいと思います。第1のところだけです。
つまり、差別禁止法に修正、廃止文言を入れるかどうかということです。これについて、まず基本的な考え方として、障害者権利条約の批准の前提として国内法制を整備するという観点。もともとの制度改革推進会議を立ち上げてきたという基本的な観点からすると、少なくとも障害を明示した基準を用いて不利益な取扱いを行う直接差別類型については、これは差別類型論を検討したときにも、各国の法制において直接差別類型というのはほぼ例外を認めない類型として共通認識ができ上がってきているので、これは欠格条項において障害を明示的な基準としているような場合は修正すべきだということを提言すべきではないだろうか。
ただ、ここで若干の注意を申し上げますと、差別禁止法として書けと言っているのではなくて、制度改革推進会議あるいは政策委員会ということになるのでしょうか。今後のいろいろな条約の批准の前後に向けていろいろな動きや検討作業が更にあると思うのですが、そういう中で言わば条約との関係でどうなんだという議論で考えた方がいいのではないか。つまり、直接的な関係よりは差別禁止法との関係でということです。
2番目は、同じ条約の観点からですが、障害を明示的な基準としない欠格条項です。言わば類型論で言うと間接差別とか関連差別というものになるものですけれども、そういう欠格条項であって、実質的には主として障害のある者に不利益に作用する場合については、間接差別類型ないし関連差別類型に該当する場合があると考えられますが、これらの類型については各国の法制度上も例外が許容される場合があるということが認められていて、ここでの議論でも間接差別とか関連差別については例外があり得るだろうという議論だったかと思います。
また、それらの類型に該当するか否かというのは、法規定の実際の適用の在り方による側面もある。つまり、これは障害ということを明示していない規定なので、実際に使ってみたときに障害のある人がより多く排除されているという結果が発生しているかどうかという辺りがかなり重要なファクターになると思われるので、法律の規定のでき方から一義的に差別だとか、差別でないということは言えないという側面があるという意味です。
そういうことなので、障害者権利条約の批准の前後にわたって、各所管省庁及び障害者政策委員会において引き続き間接差別等が生じることになるのか。また、例外的に許容されるための要件として、欠格事由を定める目的の正当性とか、その目的を達成するためにより緩やかな規制手段として許容されることが存在しないのかどうかということなどを十分に検討していくべきではないかということです。
ここであえて最高裁判所の薬局距離制限判決を参照としましたのは、障害者欠格条項というか、障害者に限りませんけれども、欠格条項というのは事前的な規制で類型的な規制だという点で非常に厳しい規制になるわけです。つまり、一旦やらせてみて、できなかったからやめてくださいという話に比べて、最初からできないはずだからやるのをやめなさいという事前的な規制なので、非常に規制が厳しい。そういうものについては、目的の正当性とか、あるいはそういう事前規制をかけなければ目的が達成できないような特別な事情が必要だということを判例も言っているので、そういうことも踏まえて将来的にいろいろ検討すべきではないだろうかということです。
3番目は、上記の検討作業は障害者権利条約が定める合理的配慮義務の観点からも、例えば業務の遂行ができないなどの事由というのが欠格条項に挙げられている場合がありますが、それは合理的配慮が尽くされても業務の遂行ができない、あるいは業務の本質的な内容を達成できないという枠組みで判断すべきではないか。そういうことを検討していくべき。
ただ、以上の3点は、言わば権利条約の批准ということを前提に考えたときに、条約との対応で条約と欠格条項という枠組みの議論なのかと思っています。
したがって、最終的に上位規範である障害者権利条約の批准という観点とは別に、差別禁止法という法律の次元においては、他の法律の修正とか廃止について個別に定めるということはしないで、障害者権利条約を踏まえた差別の定義とそれが例外として許容される場合の要件を差別禁止法に明確に定めていく。そのことによって、将来政策委員会等がいろいろな検討作業をするときに、条約の差別の定義とか合理的配慮の定義とかは必ずしもまだ日本語として明確というか、一義的とかではない部分もあるので、そういうことについてしっかり判断できる枠組みをむしろ差別禁止法は定めて、上記3つのような直接差別とか、間接差別とか、関連差別とか、合理的配慮という観点から現行法のいろいろな欠格条項についての妥当性とか正当性を検討していくようにするということが我々の役割なのかなという整理をしてみたわけです。
ありがとうございます。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
非常に周到というのは違うと先ほどおっしゃいましたが、論理的に緻密な、しかも、かなり緻密な作戦というか、つまり、条約を批准するに際して各法はそれぞれ整備が必要になるはずだという条約の国内実施という言わば、水戸黄門の印籠みたいな、威光を借りるという文脈で個別の欠格条項の必要な見直しを各所管の省庁に促していく。差別禁止法自体の課題として引き受けることは得策ではないという整理をされたと思います。
御意見、御質問はいかがでしょうか。
太田委員、どうぞ。
○太田委員 障害を持つ当事者としての思いとしては、欠格事由によってさまざまな制限を受けて、差別を受けてきたという歴史的文脈が差別禁止法の中に修正条項や廃止条項を入れてほしいという思いはありますが、基本的には今おっしゃった池原委員の御提案について賛成です。
JDFの中でもいろんな意見がありまして、きちんと時間をかけて欠格条項については議論をそれはそれでやっていくべきだという意見もあります。そして、差別禁止法をきちんとしていくという意見もあります。いろんな立場があり、現段階では池原委員の、差別禁止法の中には盛り込まないが、権利条約との兼ね合いの中で今後、政策委員会が課題として押し上げていくということをきちんと確認していくということを支持したいと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
1点、先ほど確認漏れがあったんですけれども、池原委員のもう一度確認したいと思います。
この真ん中辺りで、法規定の実際の適用の在り方による側面もある。これは運用レベルでの見直しを促すのも1つの考え方で、その場合、大いなる武器になるのは、全然違うケースの判例ですが、薬局の事件で最高裁が示したような、より緩やかな規制手段はないのかと。つまり、欠格条項というと、初めからだめだというわけで、およそ事前規制でチャンスを全部奪ってしまう。そうではなくて、ライセンスを与えて、しかし、事後的にこういうものはだめですよと規制を加えていくという方が本来の姿だと。なぜそれが事前規制でなければだめなのか、なぜ欠格条項でなければだめなのかというハードルを突き付けて運用を見直していただくということをおっしゃったと確認させていただいてよろしいでしょうか。
○池原委員 おおむねそうだと思います。勿論、事前規制規定ですから、その規定自体の条約違反性ということも起こり得るでしょうけれども、更に運用レベルでも考えるべきだということは、そのとおりだと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
御質問、御意見等ございますでしょうか。あと5分弱、このコーナーをとっております。
西村委員、お願いします。
○西村委員 この部分につきましては、私も明記すべきと思います。特に差別の定義だとか、障害の定義から見ても、盛り込まなければこの差別禁止法の目的は達成することができないと思います。
ただ、欠格条項ということで、おおむね資格制限に関することが取り上げられてますが、もう一方で、成年後見制度を利用することによって参政権が奪われるといった権利制限等々もあることから、そういったことも含めた入れ込み方が必要であると思います。
ただ、具体的な法律の中の入れ込み方、あるいは運用の仕方については、池原委員がおっしゃっておりましたが、さまざまな技術的検討が必要で、どう実効性を担保していくことができるのかということは、引き続き検討していくことが必要であると思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
もう一方いかがでしょうか。
では、伊東副部会長、お願いします。
○伊東副部会長 今やっているのは欠格条項だけですね。
○棟居部会長 とりあえずそうですけれども、どうぞ。
○伊東副部会長 次のこととも絡めて言ってしまうことにはなりますが、やはり今般の差別禁止と条約を批准するということは、それ自体が目的というわけではないですが、そこにつなげていくということを考えれば、現状の法律、制度で定めている障害者の欠格条項や現状の法令制度については、当然に見直していかないといけないと思っています。
何割ぐらいの達成度がないとこの批准ができないとかという話があるやに前は聞いたことがあります。そういう意味でも放っておくわけには絶対いかないと思っています。技術的にどうするかといえば、400以上の法律、政令や省令、その他まで含めれば、膨大な法令に関する協議を行っていく必要もあります。障害者団体の当事者の声をそれぞれに当然に聞いていく必要がある。これは大変な作業だと思いますが、そのための調査期間を一定期間置いて、それで必要な改正を行っていくんだというところを、やはりこの差別禁止法に明記をすることが必要だと思います。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
最後におっしゃった調査期間というのは、時間の長さの意味でおっしゃいましたね。
○伊東副部会長 そうです、時間の長さです。
○棟居部会長 太田委員、一言お願いします。
○太田委員 確認したいんですが、池原委員の御意見は法律に盛り込むのではなくて、廃止する、修正するということを提言していくという提案ですね。
○棟居部会長 池原委員、お願いします。
○池原委員 私が今日述べた見解は、法律の条文に直接書くという認識ではないです。法律の条文は、直接差別とか間接差別とか関連差別とかということが明確化されて、例外がどういう場合でなければ許されないということになるかということをはっきりしておくことによって、あとは言わずもがなでしょうというような認識です。あえてそこについて、あなたのところの所管の欠格条項は、実は差別ですよということを余り差別禁止法を制定するまでの段階で顕在化させないという理解です。
ですので、条約の観点からというのは、例えば政策委員会であるとか、あるいは法律の条文ではないですが、骨格提言とか、何らかの提言の中で、これはもともとは障害者権利条約の批准という作業の中で行われていることなので、当然批准していく前後にわたって、現行法についてさまざまな見直しをしなければいけないでしょうという布石を置いておくという辺りがいいのかなというのが今、私が思っていることです。ですから、微妙に皆さんとそれぞれ意見が違うかもしれません。
○棟居部会長 太田委員、どうぞ。
○太田委員 私は池原委員の意見を支持するという表明をしました。再度確認してください。
○棟居部会長 ありがとうございました。
今のような戦略的なアプローチも含めて、池原委員のお考えを基本的に支持されるということですね。
以上で第2コーナーを終わらせていただきます。
ここで15分間の休憩をとります。再開は16時52分になります。
(休憩)
○棟居部会長 それでは、時間になりましたので、再開させていただきます。
第3コーナーは60分弱を予定しております。欠格条項の障害者差別禁止に関わる課題について(その2)で資料2「障害者欠格条項に関する論点」の中から、論点2、政府、地方公共団体が既存の法律・規則・条例などの差別を調査し、情報を公開し、差別を修正し、又は廃止することを義務づける規定を設けることについて、どう考えるか。
論点3、資格付与の前提になる試験の実施に当たっては、合理的配慮を提供すべきことを差別禁止法案の各則の中に独立条項を設けて規定することについて、どう考えるか。
以上の2点について議論等を行います。
最初に東室長から、論点等について、資料1に基づいて10分程度で御説明をいただきます。
○東室長 担当室長の東です。
論点の2番目は、論点の1番目と違いまして、政府、地方自治体の義務として修正、廃止すべきことを御議論いただくといった御提案です。一般的に言いますと、恐らく議論はしていませんけれども、総論の中で国、地方公共団体の責務という規定が一般的にできるのではないかとは思っています。この法律において、具体的に言うと差別を禁止するのは法律で禁止しますので、防止するといった辺りが国ないし地方公共団体の責務の一番大きな点になろうかと思います。
ですので、こういう欠格条項についてもそういう一般条項で読み込ませるということはできるのだろうと思います。それはそんなに難しい話ではなかろうと思うわけですけれども、この欠格条項の分野だけを特出し的にこういう形で規定するということがどうなのかという辺りを議論していただきたいと思っているところです。
次に論点の3番目です。合理的配慮のことについて御提案があるわけですが、この点に関しましては、資格取得の面での合理的配慮というものを特出しで書くかといった問題ではなかろうかと思っています。ただし、例えば教育にしても、労働にしても、資格取得が絡む分野というのは結構あるわけです。ですので、その分野において各合理的配慮のほかに、こういったところを特出し的に書くことはどうかといった辺りを中心に御議論をしていただければと思っているところです。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
これも池原委員頼みで大変恐縮ですけれども、もしよろしければ、先ほどのようにお出しいただいているペーパーに基づきましてレクチャーをいただければありがたく存じます。なお、こちらの議論は分けて行いますが、第2、第3を一遍にされても構いません。それはお任せします。
お願いします。
○池原委員 ありがとうございます。
むしろこの辺は、国際法関係の山崎委員とかに御意見をいただいた方がいいのかと思っておりますけれども、一応私の個人的な見解として思ったことをまとめます。
政府とか地方公共団体の法律等についての内容に差別的なものがあるかどうかということを調査したり、情報公開するという第2の論点については、基本的に障害者権利条約が批准された場合には、政府あるいは地方公共団体が条約上の義務を負って、これは条約委員会に対して一定の報告をする義務があったり、いろいろな条約上の義務づけがあるので、あえて差別禁止法に個別具体的な義務を書く必要はないのではないかと思っています。
もう一点は、ただ障害者政策委員会の権限というものについて、私はまだ詳しくは承知していないのですけれども、当然その政策委員会では、法制度やさまざまな運用について、障害者権利条約の観点から、その履行がなされるように調査、監視をすることが求められると思われるので、この委員会に調査権限とか、あるいは情報開示請求について権限を定めて、政府の関係各部署やあるいは地方公共団体に対して政策委員会が調査や情報収集ができるようにするというのが適当なのではないかと。
したがって、これは欠格条項に限定したものではありませんけれども、少しこの辺は、権利条約の観点から考えた方がいいのかと思いました。
とりあえず、第2の点はそれでよろしいでしょうか。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
国際法ということで、これはもう国際法であり、憲法であり、国際人権法を全部カバーされているんですけれども、山崎委員、御自身の御発言をされますか。その前に、できれば今の池原委員の、つまり条約を批准した場合に条約上の義務を政府、地方公共団体は負うことになるので、あえて差別禁止法が義務づけ規定を設けると、言わば屋上屋を架すことになり、これは必要ないのではないかと池原委員はおっしゃったと理解しておるのですが、その点に関してコメントはございますでしょうか。
○山崎委員 池原委員がおっしゃった趣旨について、若干コメントさせていただきたいと思います。
池原委員がおっしゃっているとおり、障害者権利条約に入った締約国にどうやって条約の中身を守らせるかという仕組みは、国際的なモニタリングの仕組みと国内的なモニタリングの仕組みと2本立てになっているという珍しい条約ではあります。国際的モニタリングにつきましては、既にできている障害者の権利に関する委員会に恐らく日本が批准した場合には、定期的な国家報告の提出が義務づけられるので、国際的なモニタリング機関でしかるべき監視の下に置かれるというのはおっしゃるとおりです。これは従来の人権諸条約でずっとやってきていることで、それぞれの締約国に対してかなりのインパクトを及ぼしているというのが事実でございます。
むしろ私が重視しておりますのは、それ以上にこの権利条約の特色は、国内モニタリングの規定を内在させたというところであると思います。
そこで恐らく問題になるのは、これはこの部会での議論も今後活発化すべき内容だと思うのですが、果たして障害者政策委員会というものが唯一のモニタリング機関として位置づけられるのか。幾つかのモニタリング機関の1つ、例えば中心的機関という位置づけは可能でしょうが、法的な意味での監視という役割を政策委員会のみに期待するというのは、かなり無理があるだろうと思っております。そうだとすれば、条約の33条2項に基づいて、パリ原則に準拠するような政府から独立した監視機関が必要になってくる。仮称として、例えば障害者の権利国内委員会のようなものが必要となると思いますが、ただ、これができるかどうかというのは、今後の課題になると思います。
いずれにしても、国際、国内のモニタリングの機関の仕組みがある程度働く状況になった場合に、ここがやっと御質問のところに戻るわけですが、差別禁止法の本体に今の第2のようなことを書く必要があるかないかというお尋ねだったと思います。
私個人的には、どちらかというと書けるのであれば、書いた方がいいだろうと思っております。さてその場合に、先ほどの室長さんのお言葉ですと「義務づける規定」という極めて厳しい文言が用いられています。これは責務ではなくて義務という御趣旨であるとすると、物すごい御提案だと思っております。責務規定と位置づけるのは、それでも相当の議論の対象になるとは思うのですが、義務づけるという形、法律ですから不可能ではないと思いますが、それを国会を通すまでに持っていくというのはかなりのパワーを要することだろうと思います。
いずれにしましても、責務でなくて義務づける規定ができるのであれば、私は望ましいと思っております。今、申し上げていることは、別に国際法とか国際人権法の視点から申し上げていることではございません。
池原委員の御提案についての若干のコメントと、後半については、この義務というものが責務にとどまるのか、それを超えるのかというお尋ねも含めた若干のコメントをさせていただきました。
以上です。
○棟居部会長 1点質問をさせていただきたいのですが、山崎委員としては、あえて「義務」と書かなくて「責務規定」でも、どのみち国際的モニタリングを日本政府は相当に気にせざるを得ませんね。すると、各所管官庁は、言わば自発的にどんどん事をお進めになるだろうという楽観論というのは成り立つのでしょうか。つまり、あえて「義務」と書かなくても、責務でも結局は実をとれるというお考えでしょうか。
○山崎委員 非常に厳しい御質問ですが、私はその点についてはやや否定的です。「責務」と書いてあるだけですと、国家報告の中に列挙すべき事柄の中に入るか入らないかというと、責務であるから、あるべき政治的な方向性、到達目標を示していると政府が理解した場合は、条約に書かれている文言に沿って、すべてそれを項目立てしなければならないと必ずしも認識しない可能性があると思います。
そういう意味では、これはかなり実現は困難だと思いますが、もし可能であれば、責務を超えるような、つまり政治的な方向性よりも強い法的なニュアンスのものが表現できれば、一層そちらの方が望ましいと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
ほかに御質問ございますか。
川島委員、どうぞ。
○川島委員 ありがとうございます。
池原委員と山崎委員に関連する論点ですけれども、池原委員が第2で、条約を批准した場合、政府と国と公共団体は義務を負うので、義務づけ規定を定める必要はないというところですが、確かにおっしゃられるように、条約上の義務を負いますけれども、私は、実効性という観点から見たら、やはり差別禁止法の中に義務づけ規定を設けた方がいいだろうという理解をしております。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございます。
今おっしゃった川島委員の御指摘は、山崎委員の先ほどの前提、つまり責務では弱いだろうという認識とは共通すると考えてよろしいですか。
○川島委員 重なり合うと思うのですけれども、結局、国際的なモニタリング制度といっても、それほど期待できないだろうと。つまり、国内でしっかりと立法化した方が条約上の義務はしっかりと守れると思いますので、なるべく具体的に法律を書いた方がいいと思っております。
○棟居部会長 ありがとうございます。
人種差別撤廃条約が引き合いに出された、一応の論点になった小樽温泉事件というものがございます。小樽市を相手取った国家賠償請求の方ですけれども、そこで結局、札幌高裁で慰謝料請求が退けられた理由としては、義務づけといっても内容に一義性がないと。つまり、条約そのもののあいまいさといったことを裁判所は1つの理由にしておったように、今、急に思い出したものですから、不正確かもしれませんが、そういうことであったかと思います。
つまり、義務づけと責務とどちらがよろしいかという議論を今していただいているわけですけれども、本当に義務づけで、では一義的な義務が読み取れるのかという条約のつくりとしてはどうなんでしょうか。
川島委員、どうぞ。
○川島委員 そこは、棟居先生が意見書も書かれた小樽の事件などを見ていましても、やはり条約というのは規定が一義的なものでない場合が多いので、やはり一義的に法律の中で明示した方が、条約の趣旨というものが国内で実現しやすいと思っております。
○棟居部会長 山崎委員、お願いします。
○山崎委員 私が先ほど「責務」「義務」と申し上げたのは、条約の解釈というよりは、差別禁止法の中にどう書くかという視点で申し上げていると御理解いただければと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
ほかに御意見、御指摘等ございませんでしょうか。
竹下副部会長、お願いします。
○竹下副部会長 山崎先生に教えてほしいんですけれども、国内モニタリングなり、国内の監視機関といった場合に、複数の機関がその役割を果たすこともあり得るという話でしたから、その場合に、複数の機関の関係というのはどういうことになるのか、イメージできないので教えていただきたいと思います。その場合に、国連への報告との関係というのは、特に意識する必要はないわけですか。
○山崎委員 複数と申し上げているのは、33条の第2項と1項との関係でございまして、中心的機関、私は中心的機関を日本政府が批准の際にどのように認識されるかは推測にすぎませんが、恐らく障害者政策委員会がこれに当たるとおっしゃるのか、あるいは国内モニタリング機関と条約の33条2項で想定されているものとして位置づけられるのか。この可能性は2つあると思います。
ここから先は私見でございまして、私は障害者政策委員会がとても大事な機関になるので、さまざまな役割については大いに期待させていただいているところは当然なのですが、それを踏まえた上でも、条約の33条の2項が想定しているモニタリング機関の役割すべてを政策委員会に担っていただくのは、正直言うと無理があると思っているところです。
そこで、政策委員会プラス本来のパリ原則にのっとった独立性の高い人権教育もやり、政策提言もでき、そして相談・救済の機能にも当たれるものとして、障害者権利国内委員会を想定すべきであると個人的には思っています。そういう点で「複数」というお話をさせていただきました。
ついでに申しますと、国家報告書を提出する役割はどこが担うべきかということですが、最終的には外務省が提出するということもございましょうが、これまでの国内人権機関の在り方からすれば、政府代表が国家報告書を出し、ジュネーブ等の条約体において説明するというのは従来のとおりですが、それに加えて、特定の国から政府代表とは別に国内人権機関の代表が出て行って、政府とはまた別の口ぶりで説明するというのが最近の傾向になってございますので、そのように考えますと、外務省がとりまとめた国家報告書について、国内人権機関としての障害者権利国内委員会がもし成立するのであれば、ここが国家報告を説明する政府代表とはまた別の口ぶりで発言する可能性が出てくるということは指摘させていただきたいと思います。
以上です。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
副部会長、お願いします。
○竹下副部会長 質問の意図が伝わらず申し訳ありません。
そうではなくて、別にカウンターレポートのことを聞きたいわけではなくて、先生がおっしゃるように、例えば今後成立する政策委員会がその役割をする。もう一つは、これも今、立法が準備されている国家人権委員会というものが成立した場合に、その両方が条約の33条のモニタリングの役割を果たすことになるとすれば、その2つの関係はどうなるんですかという質問です。
○棟居部会長 山崎委員、お願いします。
○山崎委員 ちょっと誤解しておりました。そこまで想定しておりませんで、私の場合には、今、竹下委員が国家人権委員会というお言葉を用いられたのでそのまま使いますと、国家人権委員会が恐らく当面はなかなか実現が難しいだろうという大前提の下にいささか考えているところがございまして、もしこれが設立されるという状況が整うのであれば、そちらの方が条約の33条第2項の国内モニタリングの役割を担えることになる。担うことが適切かどうかは別ですが、担えることになる。その場合には、全般を扱う中央の人権委員会と障害者国内委員会が両立するという制度設計です。これは不可能ではないですが、財政的な問題もございましょうから、現実的には難しかろうと思っております。
以上です。
○棟居部会長 1点確認したいのですけれども、中心的機関というのは一本化の必要はないのでしょうか。
○山崎委員 1または2以上と書いてございます。
○棟居部会長 ありがとうございました。
どうもいろいろクリアーになりました。ありがとうございました。
それでは、残りの時間でもう一つ大きなものが残っておりますので、最後の論点に移らせていただいてよろしいでしょうか。
先ほど既に私の方から申し上げましたが、もう一回申し上げますと、資格付与の前提になる試験の実施に当たっては合理的配慮を提供すべきことを差別禁止法案の各則の中に独立条項を設けて規定することについてどう考えるかという点で、この点についても池原委員、簡単にコメントをいただければお願いします。
○池原委員 簡単に申し上げますと、試験の実施に当たっての合理的配慮というのは、情報保障とかアクセシビリティの保障によってほぼ賄えるのではないかと私は個人的に想像したので、あえて資格付与の試験に限定した特別な条項を設ける必要性があるのか。もしあれば、教えていただければ別に全然問題ないですけれども、情報保障またはアクセシビリティの保障でおおむね賄えていて、それで足りない部分はないのではないかと思ったものですから、そのように書きました。
以上です。
○棟居部会長 今の点につきまして、結論は消極とおっしゃっているけれども、これは仮定的なというか、とりあえずの消極論だとおっしゃいました。御意見、御質問等ございませんでしょうか。
試験に当たっての合理的配慮をそもそも提供すべきことを独立条項として設けるとなりますと、私や山本委員のように大学勤めの者、教育機関の者、つまり入学試験をやる立場からすると、何が公平さなのか、公平という言葉ほど多義的なものはないなと考えておるわけで、勿論障害のある方をない方と全く同じ条件でというと、それは公平ではないのだろうなとわかるのですが、例えば試験時間を1.5倍にするのか、あるいは1.3倍なのか。これは瑣末なことのようですが、例えば20分、30分延びるか延びないかというのは、実際の合否には相当の影響があるわけです。そこら辺も含めて、合理的配慮提供義務というのは、教育機関にはかなり悩ましいというのは言うまでもございません。
最初につまらないことを申しましたが、この合理的配慮について、独立の規定を設けるということについて、その是非あるいはありようについて、大谷委員お願いします。
○大谷委員 あえて私も言う必要があるのかどうか。ただ、今、教育機関が例示されましたので、たしか私は教育のときには、入学試験に当たって合理的配慮として、それぞれの障害に応じた合理的配慮をするべきであるということは、1つとして例示したと思っております。
ですから、こういうことも含めて不必要であるということであると、私はこの意見とはちょっと違ってきてしまいます。
○棟居部会長 ごめんなさい。今、私は単に話題を振るといういつもの癖で試験のことを言いましたが、試験といっても、資格付与の試験ですのでね。
○大谷委員 資格付与となると非常に全般になってきてしまいますけれども、私は教育においては、入学試験、進級試験等々における合理的配慮においては、やはりこの情報提供、もしくはそれぞれ固有の障害に応じた合理的配慮をするべきであるということは、まず前提になっているかと思っておりましたので、あえてこれに対する反対意見は出さなかったんですが、広く資格試験となると、就労とか雇用というのはちょっと違うかもしれませんが、かなり広範なものになってしまうので、それに対してあえてここだけを設ける条項があるのは不自然かなということで、設ける必要はないかというぐらいの消極意見です。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
池原委員に戻らせていただきますけれども、情報保障あるいはアクセシビリティの保障によって解決可能というのは、具体的には例えば試験時間を1.5倍にするという措置もこの情報保障なりアクセシビリティの保障ということで説明可能ということになりますでしょうか。
○池原委員 余り十分に検討はしていないんですけれども、例えば点字での試験問題を回答するのに、通常より標準的に時間がかかるとか、あるいは手話などを使ったり、ほかの情報提供器具を使うことによって、標準的な時間よりもよけいに時間が必要であるということであれば、それも合理的配慮の中には入り得るのではないかと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
これは竹下副部会長に御発言をいただきたいのですけれども、なければ、西村委員、どうぞ。
○西村委員 改めて確認したいのですけれども、先ほど東室長からあった話は、資格付与について欠格条項に絡むところで特筆してこの項目を設けるのがいいのかどうか。つまり、就労とか、教育とか、その分野では、採用試験の問題とか、それは時間の延長も含めて出てきた話があるので、それぞれこれは試験ということが共通に行われるのですが、それぞれの中で設けるのがいいのか。それとも、総則の中で、いわゆる合理的配慮の1つとして、個別分野を全部網羅するということいいのか。それとも、就労、教育については、こうした試験に係る点字版とか、手話通訳を置くことを明示するということなのか。そこが見えなかったので、試験を実施するに当たっては、これが就職試験であろうと、学校の試験であろうと、資格取得の試験であろうと、その受験資格とか試験方法について、障害を理由として間接なり、直接なり、排除する仕組みを設けてはならないという規定は必要だと思います。そこら辺のところはどういう問いかけだったのか、改めて確認したいと思います。
○棟居部会長 1、2、3と3つ並べてしまっておるのですけれども、先ほど来いろいろ御議論いただいた欠格条項については、1と2がオルタナティブというか、いろいろな考えがあると。これはよくわかる。しかし、いずれにせよ、欠格条項をどうする、差別禁止法の中でどう扱うか、あるいは横に置いておくかという共通のテーマでした。急に第3のものが、何か余り関連性がないような形で、勿論欠格条項とはよく似た試験ということはではあるけれども、先ほどの論点との関連性について十分こちらの整理がうまく伝わっていないということがあったかもわかりません。
私の個人的な理解というか、感触だけで申し上げますと、東室長にすぐ直していただいて結構ですが、欠格条項を廃止しますと。だけれども、試験を受けるときにはやはりちゃんと受けられないとか、落ちるに決まっているという間接差別に言わば直接差別が化けただけだというのは、大いにあり得ることですね。放っておくと、人間社会においては、そういうことが今までは繰り返されてきた。
それに対して、むしろ逆に、合理的差別が必要だというのを突き付けるというのは、まさに欠格条項を廃止して、試験を受けられるようにして、かつその試験を受験する機会が実質的に平等になるという意味で、先ほどの論点と多分つながってくる話だろうと思います。それでよろしいですか。
○東室長 私の方から若干説明させていただきますと、前回、第8回の部会でヒアリングを受けたときに、5点ほど提案があったということです。
3点目は合理的配慮を提供しないことも差別であることを明記することということは、一般的な議論としてこれまでしてきたわけですから、特段これを同じ形でする必要はないと思われますが、欠格事由に絡む試験取得の問題の争点を念頭に置かれて書かれた文章だろうからどうですかという形で議論をしていただいているということです。
ですから、西村委員が話されたこと自体を議論していただければいいということです。
○棟居部会長 私がよけいな追加をしたようです。
西村委員、今のことに更に追加あるいは先ほどの議論をより付言されますか。
○西村委員 追加というよりも、本来、合理的配慮というものが、その人の障害を理由として必要な条件を整えることですから、就労の試験であれ、教育の試験であれ、資格を取得するための試験であれ、その他の何らかの試験であったとしても、それは障害に応じた配慮が、時間延長や照明なども含めて、あると思いますが、そういうこともきちんと規定し、そしてその規定は、そういったすべての面で保障されるという形に技術的にできれば、いいと思っています。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございます。
すると結局、これも確認ですけれども、池原委員が最初におっしゃった、特に試験について合理的配慮云々ということを個別に書くまでもなく、これは一般的な問題の1つの現れ方にすぎないと。情報保障なりアクセシビリティということでカバーされるということでしょうか。
○西村委員 情報保障とアクセシビリティだけでは保障できないと思います。というのは、実際に公務員採用試験では照明が必要だったり、時間延長が必要だったり、機器の持ち込みとかもありますので、そういった個別具体の、つまり合理的配慮自体はそれぞれの障害に応じた個別性が極めて高いので、限定的にする必要はないと思います。
私が申し上げたいのは、あくまでもすべての試験において障害を理由に排除されない必要な合理的配慮が担保される項目がきちんと総則なり個別規定にあるということ。そして、それがそれぞれの個別分野に反映されることが明確であれば、目的は達成できると思います。
ただ、先ほど来の議論にもありますけれども、個別分野に入れなければ、実効性が担保できないのであれば、場合によっては、教育の分野とか、就労の分野とかで、欠格条項をどうするかは今後の検討課題だと思いますけれども、法律的にあるいは裁判も含めて必要であれば、それに応じた内容にすることが必要であると思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
指名で恐縮ですけれども、川内委員も試験を実施される側でもあり、また国家試験等にもいろいろ形として関与されていると思うのですが、規定ぶりについてはどうお考えでしょうか。
○川内委員 今、私が1級建築士を受けたときのことを思い浮かべていたのですが、1級建築士は図面を書く試験があるんです。大きな紙に図面を書かなくてはいけないので、私の場合は自分の手元でないと、自宅で使っているような特殊な道具がない限り大きな図面には書けないので、試験会場では試験用紙を半分に切ってくださいという要求をしたんです。半分に切って、半分ずつ書いて、後でセロテープで止めて提出するということで認めてもらいました。
それから、発汗がないので、夏に汗が出ないので、暑いさなかに試験がありますので、試験会場に冷却材を持ち込ませてくれということをお願いしたのですが、今のような話は、今、西村さんがおっしゃったように、アクセシビリティとかという問題だけではカバーできないかなと思います。だから、個別具体的なものをそれぞれのニーズに応じて調整するようなことが必要だよという何らかの表現があった方が実用的なのかなという感じがします。
○棟居部会長 山本委員、お願いします。
○山本委員 わからないのでお教えいただきたいということなのですが、障害者差別禁止法が制定されたときに、差別をしてはいけないということが一般的に命じられる。それは私人と私人の間でもそうだけれども、私人と国が例えば契約をするときや、国が何らかのサービスをするときなど、そのような具体的な場面で国が一方の当事者になるときでも、当然差別禁止法は適用されるのではないかと私は思っていたのですが、本当にそれでよいのか。それを前提にして、差別禁止法の中で一般的な差別の定義をし、差別をしてはいけないと一般的に定めるのかどうかということとも関係するのですが、それだけではなくて、今まで議論してきたように、条約に対応するような形で、個別の領域について、雇用だとか、教育だとか、情報だとか、そういった領域について規定をしたときに、そのような個別の規定があって初めて差別が禁止されるのか、その場合は、それでカバーされない問題についてはどうなるのか。あるいは、一般規定がある以上は、一般的には禁止され、差別禁止法が予定する効果が認められるのか。各則は、それを念のために具体的に定めていると理解するのかどうか。そういったことが問題となります。
今、問題になっている試験については、国と個人の間で、一定の資格を取得するために、一定の要件が課されて、試験を受けなければならないとすると、差別禁止法が先ほどのような一般的な形で定められるとするならば、この個別の場合にも適用されるはずです。そうすると、もし合理的な配慮をしないことが差別だとしますと、合理的な配慮をせよと求めることが国に対してもできるはずだと考えられます。そうすると、差別禁止法で何も規定をしなくても、この一般規定が適用されるので、それでよいと考えるのか。それとも、差別禁止法の各則で定められているどれかに当てはまるから規定しなくてよいと考えるのか。あるいは、それ以外の考慮から規定しなくてよいと考えるのか。少し整理をする必要があるのではないかと思いました。
もう一つだけ付け加えておきたいのは、先ほどの欠格条項の話がこれとどう関係するかということです。これは、やはり一定の資格を持たないと一定の行為をしてはならないと国が定めているわけであって、一般的に禁止をした上で、禁止された行為をするためにはこの資格を取りなさいと国が定めているのだと思います。
これについては、一定の行為をしようと思うと、国が資格を要求しているので、先ほどと同じで、やはりこの場面でも差別禁止法が一般的に適用されるはずだと思うのですが、ただ、どのような理由から行為を禁止して、どのような理由から一定の要件を立てて資格を取得できると定めるかということは、やはり個々の問題ごとに違ってくる。理由も勿論違ってくる。ですから、差別禁止法で言うと、正当な理由が領域ごとに違ってくるため、一般的に定めることはできないので、個々の領域ごとに資格を定める法律の判断に委ねよう。そこで、差別禁止法の趣旨に合うような形で今後は要件を定めてくださいというのが先ほどの議論であって、差別禁止法で何かを命じるという問題ではなく、個々の領域ごとに、条約の指針に従っているかどうかは別として、適切に要件設定をしていくことになる。その意味で、これは、個々の領域ごとの問題なのかもしれませんが、試験の問題に関しては、何もなくても差別の一般規定がそのまま適用されるのか、それとも、試験については広く問題になるので、念のために特に規定を置くことが必要か、必要だとして、なぜ必要か、どのような要件を定めるのかということが問題になっているのではないかと理解しました。
かえって混乱したかもしれないのですが、教えていただければと思うことが幾つもありましたので、質問をさせていただいた次第です。
○棟居部会長 ありがとうございます。
室長、お願いします。
○東室長 逆にこれまでの議論をきちっと整理していただいたかと思っています。
総論は、余り重要な問題ではないということではなくて、総則規定はすべてにカバーするものですから、非常に大事な規定なんです。ただ、その総則規定では、この分野では対応が難しいという事情があるときには、各論で少し特別の規定が必要かと。そういう分野については、各論を起こすべきではないかという議論と、あと一つは、総論だけでは非常に抽象的だから、念押しでここを明示しておきましょうと。そのように2つの理由から各論をつくるということになってきたと思っています。
ですから、そういうことをきちんと整理していただいた上で、この試験の問題はどうなのかという議論になってくるのかと思っています。
○棟居部会長 私からも逆に確認ですが、山本委員が最後におっしゃった資格試験の問題については、個別の資格の根拠法の中であり、合理的配慮のありようについて書くべきだと多分おっしゃったと思うのですが、資格制度全体の中でとらえる必要があるという御指摘ですね。ただ、試験というと、いろいろ問題が出てきて、かつ共通しているので、試験について合理的配慮ということを書くのは差別禁止法でありかもしれないが、しかし、書くというのは、要するに何か目的があって一般的にまず禁止をして、例えばだれでも薬を売っていいわけではありません。それは薬剤師さん。あるいはだれでも医療行為をしていいわけではない。それは医師だと。つまり、禁止とその解除がセットになっているわけです。解除するときに資格試験というハードルを設けているというわけですから、試験といっても、試験だけを切り取って論じる大学の学内の期末試験のように、試験それ自体としてそこにあるというよりも、資格制度全体の一こまとして試験をとらえる。だから、合理的配慮の合理的の意味が、資格試験の場合には、その資格試験あるいは資格制度全体の目的に応じて変わってくるだろうという御指摘が多分含まれておったと思うんですが、違うんですか。
山本委員、どうぞ。
○山本委員 最後までお聞きしてようやくわかりました。
先ほど申し上げたことは、論点でいう第1の欠格条項です。欠格条項の問題は、やはりどのような考慮で一定の資格を設けるか。そして、どのような考慮から、障害者一般ではなく、どのような要件が備わる場合には、この資格を与えることはできないかということを決める。これらはやはり、それぞれの資格が問題になる領域ごとに考慮されるべき理由が違ってくるので、なかなか一般的には語れない。ですので、個別の領域ごとに適切に定めるべきであると先ほど申し上げましたが、試験については、先ほどの話では、部会長が言われましたように、一般的な形で試験制度を考えますと、どのような試験であれ、おおむね似たような行為が行われるわけですので、それぞれに即して定めるというよりは、一般的に試験について合理的配慮を語ることができるという前提で話をしましたが、確かにおっしゃるように、問題となる領域ごとに試験についての合理的な配慮の仕方についても一定の要請が出てくる場合があるので、そう一般的な問題ではないかもしれない。そうすると、欠格条項と同じような性格を持つ可能性があるということをお前は言ったのではないかと指摘されますと、確かに試験一般でどこまで語れるかということには難しい問題があるかもしれない。ですので、そういった点も含めて、差別禁止法にどのような形で規定を置くかということを検討すべきであるとしておきたいと思います。
○棟居部会長 どうもややこしくして済みません。
竹下副部会長、お願いします。
○竹下副部会長 私は若干異論があります。そうではないのではないでしょうか。
例えば視覚障害者の医師国家試験と司法試験を想定したらわかるんですけれども、医師国家法の欠格条項をなくしたことによって、今から10年近く前に医師国家試験を全盲でも受けられるようになりました。そのときに、写真等々をどうするかということが大きな問題になりました。そういう意味では、レントゲンとか解剖的所見とかを見られなくても医師国家試験を通してもいいのかという視覚障害に特有の考慮が問題になりますし、逆に司法試験の場合に問題になったのは、最近の司法試験の傾向で大量の判例と資料を読まされる。そのときに視覚障害者にとってみれば、極めてそれを解読することは一定の時間内には困難なことです。その場合に、それをどう配慮するかということで、それを時間で配慮するのか、問題数を減らすことで配慮するのかで、この間、司法試験委員会で議論されたことがあるわけです。そのように考えてみると、確かにどういう具体的な配慮をするか、あるいはどの項目をいじくるかというのはあるけれども、共通しているのはその試験に求められている適正を判断する上で、その本質を逃さないというか、損なうことなく実施すべき配慮を基準化して定めることは可能ではないかと思うんです。
現に、医師国家試験では、写真、レントゲン関係は外して試験を実施したんです。それによって医師としての本質を損なうということにならないという判断が当然そこにあったと思うわけですし、逆に司法試験の場面でそれを克服といいますか、配慮するために、パソコンの持ち込みや時間延長などの配慮を幾つかやったわけです。しかも、情報提供も点字と音声と両方でやることによって配慮するとか、いろいろやったわけですが、そのように具体的に対応すべき内容は違っていても、本質を損なわない限りは1つの特性に応じた配慮をすべきということで、それを共通化できないということにはならないと思うんです。そうではないでしょうか。
○棟居部会長 今のことは、要するに差別禁止法で一般原則として本質を損なわない限りにおいてという一般的な規定を設けて、資格試験制度の確保に委ねていくという振り分けがあり得るのではないかという御指摘だったと思います。
ほかに御意見、御質問ございますか。
川内委員、どうぞ。
○川内委員 基本的なことで教えていただきたいと思います。
合理的配慮ということは、それを提供しなくてはいけない。合理的配慮が免除されるのは、過度な負担ということがよく言われていますね。この試験の場合は、もう一つ、ただ合理的配慮を提供すればいいのではなくて、ほかの障害のない受験者といかに対等が確保されるかというものがあって、先ほどおっしゃっていた時間延長は30分でいいのか、10分でいいのかというのはだれが判断するのかということがあって、それはこの合理的配慮ということを書けばカバーされるというか、解決される問題なんですか。もうちょっと別の要素が入ってくるのではないかと思うんです。つまり、合理的配慮をするために過度な優遇にならないようにという概念がもう一つあるのではないかという気がするんですが、それは合理的配慮でカバーされているものなのでしょうか。
○棟居部会長 竹下副部会長、どうぞ。
○竹下副部会長 その答えになっているかどうかわかりませんが、私は狭い範囲でしか実例を知りませんが、例えば司法試験の場面だけでいいますと、障害の種類、程度、内容によって延長時間は非常に個別で判断しています。最高2倍、一番短いものは1.何倍か忘れましたが、それは障害の種類と程度等を診断者は医師の意見書等々を提出させながら個別に判断しているわけです。
勿論、判断しているのは、司法試験委員会が有識者会議みたいなものをつくって、そこの意見を聞きながら決めていると。そのモデルとなった関係は、もともとが大学の試験の入試センターでそのことで研究された先生がおられて、そこのデータをある意味では基準、参考にしながらそういうことをやっておられるわけで、そういう意味では、時間延長をも含めて合理的配慮を行うことを試験においても明確にしておいたうえで、あとは個別性に委ねられるということではないのでしょうか。
○棟居部会長 ありがとうございます。
川内委員が御指摘になったことは、かえって過度の優遇にならないかと。これは合理的配慮一般、試験では特に強く出てきますけれども、それ以外の文脈でも、逆差別であるといった形で常に出てき得る問題かと思います。
ほかに御意見ございますか。
大谷委員、お願いします。
○大谷委員 一番初めに言った意見を訂正したいと思っています。
意見を聞いて、特に山本委員のまとめというか、整理を聞いたら、一般総則にアクセシビリティの保障があるから、資格試験のときに別に改めて書く必要もないのかと非常に漠然と考えていたのですけれども、やはりもう少し国家が資格を与えるという意味においては、特段の配慮というか注意が必要だという注意規定的な、確認規定的な要素も含めて各則に資格を与える場合の試験に関しては合理的配慮をするということをきちんと明記した条項を入れるべきだと意見を訂正させていただきたいと思います。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございます。
太田委員、どうぞ。
○太田委員 大谷委員と同じような意見ですが、やはり私たち障害者の欠格条項によって、いろんな資格の制限を受けてきた歴史があって、欠格条項が廃止されるという政策がとられても、相対的欠格がさまざまな形で欠格条項は存在し、国はなるべく資格を与えないような、与えたくないような印象を持って事に当たっているわけです。そういう矛盾を抱えているという認識を我々は持っており、できれば各則の中ではそれを踏まえて、合理的配慮も合理的配慮義務ということも当事者の意見が反映された規定であるべきだと思うので、不信感からきているので、なるべく差別禁止法においては不信感を払しょくできるような規定ぶりにしてほしいと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
不信感というのが根底にあるので、差別禁止法はそれを払しょくするという法技術的には必ずしも必要がない規定でも、ある意味大げさな規定でも、あるいはほかの重複する規定でも、あえて設けるということが差別禁止法としては好ましいという御指摘だったように思います。
ほかに御意見いかがでしょうか。もうほぼ時間が尽きております。
伊東副部会長、お願いします。
○伊東副部会長 欠格条項を幾ら修正しましても、試験という関門を通らなければそれは実現しないわけです。ですから、この試験の実施に当たって、具体的な合理的配慮が行われるということは極めて重要なステップだといます。
したがって、私はその具体的に実施する試験のサイドからも、先ほど来、竹下先生からもいろいろ事例が話されましたが、一体どうやっていいのかわからない、どういう方向を向きながらやっていくのかわからないという今の状態の中で言えば、むしろ実施する側に対して具体的に指標になるような方向性をこの中で示した方が、ある意味では親切ではないかという気がいたします。私は具体的に合理的配慮のことについて、各則の中に設けるべきではないかと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
ほぼ時間が尽きております。御発言いかがでしょうか。
本日は非常に多岐にわたり活発に御議論をいただきました。まさに白熱した議論がいただけたように思います。よろしいでしょうか。
では、以上で第3コーナーを終わります。
本日の議事はこれで終了いたしました。
最後に東室長から時間の予定等について御報告をお願いします。
○東室長 どうも御苦労様でございました。
次回、第18回になりますけれども、5月11日の金曜日の予定でおります。テーマにつきましては、障害女性の複合的な差別の問題についてであります。
その次は5月25日の金曜日を予定しておりまして、テーマは救済手続きについてなどであります。
以上でございます。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
本日の「差別禁止部会」の概要につきましては、この後、記者会見において私と伊東副部会長、竹下副部会長、東室長から説明させていただきます。
本日はお忙しい中をお集まりいただき、誠にありがとうございました。
以上です。