【議事 障害女性にかかわる差別について】
*上記のテーマでヒアリングを行いました。ヒアリングについては議事要録を作成しないこととしておりますので、内容の確認は議事録をご覧下さい。
(障害と性(家族も含む)に関わる論点について)
- (東室長)女性障害者についてはこれまでの議論から、<1>性的なハラスメントと差別をどう整理するか、<2>性差別でも障害差別でもない障害女性差別という類型を設けるべきか、<3>差別禁止事由として性と生殖に関する権利という類型を設けるか、<4>性と生殖に関する個別分野を設けるかという4つの論点がある。<2><3>については韓国やイギリスの法制をダイレクトに反映できるか、議論してほしい。<2>の複合的な差別の新たな類型を設ける場合、立証事実をどう考えるかという論点がある。また、性と生殖の権利については権利条約でも、明確にされていない中で、仮にこれを規定するとなれば、誰に対して何を求めることができるのかについての議論が必要である。性と生殖に関する個別分野を規定することに関しては、障害女性の性と生殖という場合の範囲について議論が必要である。
- (発言)「『障害と性(家族も含む)に関する論点』への共同意見書」では、複合差別の実態があるので、これについての立法及び規定の必要性を述べた。障害差別でも女性差別でもありどちらか特定しがたい理由による差別の類型化が必要であること、被害が大きいこと、とりわけ女性と障害の複合差別は救済する必要があることについて述べている。障害女性に関して権利条約のような文言を総則に入れることが最低限必要である。性と生殖に関する権利に関しては、障害者は男女問わずこの権利をもっているので、他者と比較して保障されていないということで障害者差別禁止法に盛り込むことは可能だ。性と生殖に関する不利益取扱いが施設内や家庭内で行われていることを踏まえ、これを各論で規定できないか。少なくとも総論にはこの点を意識した規定が必要である。
- (発言)普遍的な差別禁止法であれば障害差別でも女性差別でもない固有の複合差別として把握するのが事柄の実態には合っているが、障害差別禁止法では障害に関連した差別だと言える必要がある。障害差別禁止法で女性障害差別の特別類型を設ける意義は、障害に関連した差別であることの立証が困難である、あるいは別の理由を立てられることで障害に関連性がないとして、被告が法適用を回避する抗弁をできないようにすることである。女性障害者が不利益取扱いを受けた時に、障害ではなく性別に着目した取扱いだから障害差別禁止法で解決するべきではない等の言い分が成り立たないようにする必要がある。
- (発言)イギリスの結合差別では、白人女性も黒人男性も差別されていないのに黒人女性が不利益取扱いを受けている時に、被告が性差別も人種差別もないと主張すると、原告の黒人女性は結合差別を主張できるとされている。また、トイレ等の介助では障害女性特有の合理的配慮があり、障害差別では実効性がない。
次に「共同意見(改訂版):障害のある女性に関する独立した条項を設ける必要性について」を紹介する。障害女性は障害と女性の特徴が重なることで障害男性よりも不利な立場に置かれることが多いにもかかわらず、障害女性に対する差別は女性分野と障害分野の両方で軽視されがちなので、障害差別禁止法に独立した条文を設ける必要がある。障害女性特有のニーズに対する合理的配慮と障害女性に対する不均等待遇についての規定は、すべての分野にわたるので総論に置く。性と生殖に関する差別の禁止については障害者全般を対象として各則に置いて、規制事項として避妊・妊娠・出産を例示し、義務を負う者として使用者、学校、役務提供者、公務機関を例示した。
続いて共同意見と趣旨を同じくする「法案骨格私案」を紹介する。結合差別について不均等待遇と合理的配慮義務違反を禁止し、障害女性に対する差別については別の条項で不均等待遇と合理的配慮義務違反を定義し、これを禁止した。後者は障害のない女性と同じ機会を等しく享受し、障害女性に固有の差別に対応することが主眼である。複合差別全般と障害女性固有の条文を分けた理由は、<1>女性分野と障害分野の両方で見落とされがちな障害女性の不利な立場に対応すること、<2>施策や法の運用において障害女性の差別解消が明示的に具体的に取り上げられる可能性が高まり、障害女性自身が条文にアクセスしやすく使いやすくなること、<3>障害女性差別は具体的かつ明確に認識され指摘されてきたこと、<4>複合差別全般があるので他の複合差別の問題を軽視しているわけではないことである。
- (発言)仮に複合差別を別個の類型として設けるならば、女性以外のマイノリティの人も対象となるから、女性に限定することは問題がある。対象は広く取るべきだ。
- (発言)在日朝鮮人の視覚障害者は年金問題の裁判をしても克服しがたい状況に置かれることを考えると、複合差別は女性障害者だけではなく、すべてを網羅する必要があるのではないか。複合差別に固有の差別をどう位置付けるかが重要である。女性差別と障害者差別が複合する場合、女性差別の救済でも障害者差別の救済でも救えないということか。
- (発言)複合差別は総論で禁止し、特に障害女性については条文を立ち上げるべきである。国籍と障害の複合差別が社会問題として明確かつ具体的に明らかであれば別に立てればよい。イギリスの経験では障害差別としては救済されない恐れがあり、また障害女性に特有のニーズへの合理的配慮が無視されていることから、障害女性に対する差別は明示的に規定すべきである。
- (棟居部会長)介護はするが、女性ということに対する配慮を欠いている。あるいは便乗してセクシャルハラスメント的な行為までが行われる。相手の個性あるいは女性としての尊厳に配慮することも合理的配慮であるという議論で解決できないか。
- (発言)障害については配慮するが、それ以外の属性は配慮しないという議論が成り立つので、難しいのではないか。
- (東室長)実質的な機会均等の確保のために合理的配慮という概念が形成されてきたことからいうと、障害女性の場合は障害のない女性と同じ扱いを実質的にするために合理的配慮が必要だという点が原点ではないか。だから、障害女性について別個に規定する理由が分かりにくい。
- (発言)立法段階で障害女性に対する合理的配慮を明確にした方が、解釈段階、適用段階で誤解なく適用される。
- (発言)障害女性は、障害男性や他の女性より大きな不利益を受けているという文化が厳然としてある。障害という括りで十分に思えるが、歴史的な根深い女性観や男性観、社会で役立つ人と立たない人という価値観で培われてきた文化的常識があるので、障害差別でも女性差別でも救済されない部分だ。だから、障害女性を法律に盛り込むことは不合理ではない。
- (発言)男女を問わずすべての障害者に、性と生殖、家族形成や子育てについて等しい取扱いを求める条項ができれば、女性障害者の状況は前進する。障害女性がセクシャルハラスメントに遭いやすいにもかかわらず、虐待と差別の間で救済されにくいことを踏まえた条項が盛り込まれれば、救済が可能になる。合理的配慮は個別の事情に応じて配慮するということであり、男性でも異性介護は嫌と言えば合理的配慮の不提供となる。だから、異性介護を女性障害者固有の例示とするのはどうか。合理的配慮に性差は含まれるという整理でよいのか。そうではなく、差別の一類型として女性障害者固有の類型を提示する必要があるならば、各論に盛り込むことになる。
- (発言)障害女性に対する判例として、全盲の女性が交通事故に遭った事案がある。通常は女性の家庭労働は主婦損として定型的に見積もられるが、裁判所は全盲だから家事ができないとして通常の主婦損を認めなかった。異性介助は障害者特有の差別ではなく、高齢者でも同性介助は今の流れである。複合差別について総論に規定する点では対立はない。
- (東室長)イギリスの2010年平等法の結合差別では、当該不利益取扱いが、問題とされる特性のいずれか又は両方の理由による直接差別に当たらないことを加害者が証明すれば、被害者は結合差別を主張できないとされているようだ。仮にそうした解釈が正しいとすると、重要な会議に障害女性だけが出席を断られた場合に、障害のある男性は入っているので障害差別でもない、障害のない女性も入っているので女性差別でもないということが証明された場合、結合差別は主張できないのではないか。
- (発言)イギリスの結合差別は直接差別でしか適用されない。イギリスの差別禁止法では障害者が非障害者と比較して不利益を被ったというように比較対象を特定する必要があるが、障害の多様性を考えるとこのアプローチは限界がある。そこでイギリスでは、関連差別という新しい概念で、誰かと比べるのではなく障害を理由として不利を被ったことを証明すれば原告の証明責任を果たしたことになり、相手方は正統な理由があることを証明する形になった。イギリスの結合差別が関連差別や合理的配慮等障害分野特有のものを含んでいないことを踏まえ、日本では実効的で予測可能な当事者がアクセスしやすいものをつくる必要がある。
- (東室長)結合差別は、障害差別でも女性差別でもない特有の類型なのか、それとも両方に関わるが立証が難しいのであらたな類型を設けたものなのか、整理が必要ではないのか。
- (棟居部会長)障害女性は障害者であり、その中に歴史的な女性の役割論があると考えると、障害という括りで考えられるのではないか。
- (発言)知的障害者は性的な被害が潜在的に多く、虐待類型でも性的なものが一番多いと言う人もいるが、何をされているのかが認識できない、嫌だと伝えられない、認識はあるが恥ずかしい又は家族から止められる等の理由で表に出てこない。また、彼らを守るべき立場の人が加害者であるケースが圧倒的に多い。更に、男性優位な司法の手続等もあり救済されない。異性介助や表に出てからの救済の問題は合理的配慮で解消されうるが、自分が何をされているか分からない人については、全面的に自分の生活を委ねている人が加害者の場合は合理的配慮や救済の議論の土台をつくることができない。複合差別かどうかも分からない。この問題に光を当てて何らかの形で前進させる必要がある。
- (発言)政策的な対応と立法論としての対応は分けて考えるべきである。他に当てはまらない固有のものであることが明確にならない限り、複合差別を新たな類型とすることには反対である。固有のものであるならば、更に具体例を示してほしい。
- (発言)障害者の差別を対象として、その中で女性特有の差別があることについて議論している。女性障害者を誰と比べるのかが問題であり、比べる相手と等しい扱いをしなければならないという効果まで差別禁止法で定めることが適当かどうかについて検討が必要である。また、女性に対して、本来は障害ではないことを障害として差別をするケースがあるので、これについての特別な規定が必要との意見があったが、他にも障害と相まって障害と呼んでいるケースがある可能性があり、これとどう区別するのかが問題となる。
- (棟居部会長)堀木訴訟の最高裁判決では、障害と母子家庭であるという2つの支障が重なること場合に、支給されるべき金額が倍になる必要はなく、1+1は1という判例が出されている。今日の議論にこれが及ぶのはよくない。1+1が2以上だという議論を多くの方はされたが、1で終わる可能性すらある。
- (発言)障害であり女性であることにより、著しい差別を受けるという立法事実があるということなので、これについての規定の必要性は理解できる。一方で、理想的な女性モデルの規範を男性に置き換えた場合、力強さ、たくましさ、稼ぐ、大黒柱等が考えられることから、障害女性という類型を置くことで障害男性が生きにくくならないようにする必要がある。性と生殖については男女関係なく規定が必要である。差別の禁止対象者として使用者・学校・役務提供者及び公務機関等に加えて、医療機関を入れるべきだが、家庭を入れるかどうかは悩ましい。