【議事 救済のための仕組みについてのヒアリング及び検討】
(平成23年12月15日に公表された「人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要」及びその後の検討状況について)
*上記のテーマでヒアリングを行いました。ヒアリングについては議事要録を作成しないこととしておりますので、内容の確認は議事録をご覧下さい。
(報告 障害者権利条約の国内的実施・監視に関する制度設計上の論点整理について)
- (委員の報告)障害者権利条約が日本で批准された場合、条約33条に基づく国内的な実施・監視の仕組みについての制度設計上の論点として4点ある。1点目は、条約の国内実施・監視のために、政策委員会に加えて、仮称「障害者権利(国内)委員会」が必要になるのかどうか。2点目は、政府から独立した人権全般を扱う国内人権機関として人権委員会が設置された場合に上記委員会と両方必要なのか。3点目は、人権委員会の設置の見通しが立たない場合はどうなるか。4点目は、人権委員会の見通しが立たない場合はどのような制度設計が必要で障害者権利(国内)委員会について差別禁止部会で議論する必要が出てくるのか。
権利条約第33条「国内的な実施及び監視」は、1項で締約国が条約の実施に関連する事項を扱う1あるいは2以上の中心的機関(フォーカルポイント)を政府内に指定することを義務づけている。第2項は条約の実施を促進し、保護し、監視するための枠組み(1または2以上の独立した仕組みを含む)を自国内で維持、強化、指定し、または設置することを義務づけており、その枠組みはパリ原則に準拠した独立機関である方がよいと言っている。3項は、市民社会、特に障害のある人と障害のある人を代表する団体が監視の過程に完全に関与し参加することを締約国に義務づけている。
国内人権機関は、<1>人権保障のため機能する既存の国家機関とは別個であるが、かつ、私的な団体でなく公的機関であり、<2>憲法または法律を設置根拠とし、<3>人権保障に関する法で定められた独自の権限を持っており、<4>いかなる外部勢力からも干渉されない意味での独立性を持つ機関と定義することができ、現在、120以上の国にある。
パリ原則に示された国内人権機関の機能としては、国内の法制度や人権状況についての議会への提言、条約の国内実施、条約上の政府報告書への意見、国連の人権機関等との協力、人権教育プログラムの作成、人権及び差別撤廃の宣伝及び広報等がある。そして、こうした機能を実施するために、機関の構成員は社会の多元性を反映するよう選出すること、任期を明確に定めること、独立した財源をもつこと等機関の独立性を確保する必要がある。
次に、A 中心的機関、B 調整機関、C 独立機関、D NGOの参加、に関する諸外国の実例を紹介する。オーストリアは、AとBが連邦労働社会問題消費者保護省という官庁である。Cは2008年に独立監視委員会を設置し連邦に関する事項はここで扱い、州に関する事項は州の機関が扱う。Dについて、オーストリア国家障害者協議会が独立監視員会の委員4名を推薦しており、日本でもこうした制度設計が望ましい。チェコは、AとBが労働・社会問題省で、Cはないようだ。Cについては国連障害者権利委員会の指摘を受けるだろう。Dについては、114の障害者団体の連合体であるチェコ全国障害者協議会が権利擁護、立法等の提言や勧告をしており、政府の障害者委員会に委員を送っている。ニュージーランドは、Aが障害問題局、Bが障害問題閣僚委員会となっている。Cは議会設置の複数のオンブズマンと人権委員会で、後者はあらゆる人権課題を担うパリ原則にのっとった国内人権機関である。
障害者政策委員会はいわゆる八条委員会で、中心的機関の位置づけは可能だが、独立機関の枠組みと位置づけることはできないのではないか。人権委員会が設置される見通しが持てなければ、独立機関についての議論が必要である。その場合、障害者権利(国内)委員会として、国内人権機関の様相は持ちつつ、障害問題に特化した独立機関という制度設計が考えられる。これを三条委員会として内閣府に置くことが望ましいが、難しいだろう。委員会形式でもオンブズパーソンの形でもよい。独立性の確保と多元性の確保が生命線で、財源の確保と独自性が大事である。職員体制には当事者や障害分野についての認識と経験のある人が入るべきである。障害者差別禁止法をつくり、それに基づいて人権についての教育、政策提言、救済活動を担うことが必須である。地方の出先組織については、中央の組織を内閣府に置く場合には難しいが、自治体との有機的連携等の知恵を絞る必要がある。
(ADAに関する救済手続きについて)
*上記のテーマでヒアリングを行いました。ヒアリングについては議事要録を作成しないこととしておりますので、内容の確認は議事録をご覧下さい。
(救済のための仕組みについて)
- (東室長)障害を理由とした差別事案が発生した場合、こういった紛争を具体的にどう解決していくの、現行の裁判外紛争解決の仕組み(ADR)が参考となる。
行政型ADRとして現行法では、労働、公害、著作権、人権、消費者、建設工事請負等に関するものがある。民間型のADRもある。労働に関しては、労働審判委員会による調停、審判が裁判所にあり、他に、中央または都道府県の労働委員会で不当労働行為や労働争議のあっせん、調停、仲裁を行う仕組みがある。個別紛争に関しては、都道府県労働局にある紛争調整委員会であっせんが行われている。男女雇用機会均等法に係る事案については、紛争調整委員会で調停がなされる。公害に関しては、国の機関は総務省の外局である公害等調整委員会で、重大事件、広域事件、県際事件のあっせん、調停、仲裁及び裁定という強い権限が与えられている。都道府県の公害審査会は、設置は任意で、上記の事件以外のあっせん、調停、仲裁をする。消費者に関しては、条例に基づく消費者生活センターで消費者安全の確保に関する苦情に係る相談、あっせんを行っている。その中でも重要な案件については、県の消費者苦情処理委員会であっせんまたは調停が行われる。重要消費者紛争とされる案件は、独立行政法人国民生活センターで和解の仲裁が行われる。建設工事の請負に関しては、県(必置)と国土交通省に置かれる中央建設工事紛争審査会で分担して救済を行っている。
現在、4県2市にいわゆる差別禁止条例がある。いずれも救済の仕組みがあり、相談から始まり、調整、あっせん、調停、助言等を行うとしている。更に重大事案に関しては、勧告や公表のシステムを導入して救済を図っている。
これらを踏まえて議論して欲しい。
- (発言)障害者差別を対象とした救済の仕組みが必要で、中央と地方の救済機関を分けて考える。現実の差別を早く救済する必要があるので、中央については内閣府の政策委員会がその役割を担っても不合理ではない。障害者の人権確立のために活動してきた障害団体と連携しながら、人権救済機関が運営された方がよい。都道府県をまたぐ案件や国家レベルの案件、都道府県の障害者政策委員会の所掌事務以外の案件、都道府県の委員会で解決しなかった案件等が中央の救済機関の役割である。地方については、都道府県に既に救済の仕組みがあればこれを生かし、ない場合は新たに設置される政策委員会同様の機関が担う必要がある。申立てやすい身近な組織にし、案件や相手方によっては中央に直接提訴できるようにする。
救済機関のメンバーは、障害者の差別問題や人権問題に取り組んできた当事者、法律家、学識経験者等が入り、実効性をもたせることが望ましい。案件によっては、特別委員を地方でも都道府県を越えて選任できる仕組みが必要である。法律上は都道府県の権能に格差をつくらないことや、差別をした企業名等を公表できる仕組み等が求められる。
個別救済に求められる機能として、相談、調査、あっせん、調停、仲裁、勧告、勧告不履行の場合の公表、裁定等が必要である。救済機関による調査への協力義務を法律に明記する必要がある。合理的配慮についてはいろいろな部署で検討されているが、差別禁止法に基づく救済機関での判断が優先されると明確にするべきである。差別の実態調査や研究、合理的配慮のガイドライン作成、差別についての周知啓発、訴訟の支援も救済機関の権能とする必要がある。団体訴訟やオンブズマン制度をどう位置づけるのかという課題もある。
- (発言)法務省に人権委員会が設置されても、障害は多様で合理的配慮等の専門知識を要するので、障害差別禁止法に特化した委員会をつくる必要がある。こうした救済機関を置くと、既存の機関との調整が必要になる。障害者虐待防止法に基づき今年度設置される市町村、都道府県のセンターと、差別禁止の実施機関の統合についてどう考えるか。
- (東室長)紛争解決の機関を国の仕組みのみとするのか、自治体と連携を取る形にするのかで検討が分かれる。後者の場合は、日常生活で関係のある人たちとの間で発生する差別も多いことから相談に始まりソフトランディングできる仕組みが必要である。千葉県の条例に基づく救済の仕組みは、身近で地域相談員に気楽に相談できるようになっている。話合いのような調整の仕組みも含めどういう社会資源を使うのがよいのかという観点も考慮に入れるべきである。差別は地域の問題であることを前提に考えたい。
- (発言)虐待防止のためのセンターと統合するという意見があったが、差別と虐待は違うものであり、統合することで虐待ばかりが発動して、差別が隠れてしまうことにならないか。
- (発言)そうならないような制度設計が必要である。
- (発言)人権委員会の目途が立たない場合に、権利条約の国内実施のための障害者権利(国内)委員会の設置を先行すべきとの意見があったが、それでは救済機関についてはどのように考えればよいのか。
- (発言)障害者権利(国内)委員会は救済機関と同じである。条約33条2項を国内実施するための機関であり、日本では差別禁止法の実施機関として位置づけるということである。
- (発言)人権委員会ができない場合、雇用に関しては既存の行政ADRがあるが他の分野にはないという点を考慮すれば、救済機関が必要だという議論になるのではないか。
雇用に関しては、労働政策審議会障害者雇用分科会等で個別労働関係紛争の解決促進法に則ればよいという議論もあるが、男女雇用機会均等法の方が、都道府県労働局長が助言や指導に加え勧告もできる点、調停時に関係当事者の出頭を求めることができる点、調停案を策定し受諾を勧告でき点、職権的な助言・指導・勧告及びこれに違反した場合の企業名公表ができる点等、優れているので、救済機関について既存の仕組みを利用するべきであるとされた場合には、均等法のレベルで考えるべきである。
厚生労働省の労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会で、障害者雇用促進法に差別禁止条項を入れてもこれに私法的効力を持たせることは可能ではないかもしれないという議論がされているが、均等法にも私法的強行規定があることを踏まえれば差別禁止法に私法的効力をもたせられないということはあり得ない。
採用については、契約の締結を強制できるのかという問題がある。しかし違法な採用拒否があれば、締約強制はできなくても不法行為になり損害賠償を請求できる。締約強制はできないが、既に契約内容になっていることを使用者が履行しない場合には、契約の履行請求をすることは可能だとも言える。
- (発言)教育分野には労働分野のようなにADRはなく、市町村や都道府県教育委員会の就学指導委員会等がその役割を担っている。差別についての当事者アンケートを取れば教育についてかなり出てくるにもかかわらず、法務省人権擁護局のパンフレットには教育分野のことは書かれていない。学校や教育委員会とのトラブルは人権問題と意識されていないのではないか。人権委員会には期待したいが、そこに障害者部局を置かない限り、就学や合理的配慮に関する救済を託すのは難しい。就学をめぐり保護者と教育委員会の意向が異なる場合のあっせんについて、文科省で審議している機関は第三者性が担保されていないこと等を踏まえれば、差別禁止法の中にも救済機関を設けるべきだ。
- (発言)救済機関が必要であることは共通認識になった。これを国レベルでのみ設けるのか、地域レベルにも設けるのかという議論があったが、アメリカでは交通、運輸、教育等分野ごとに救済や調整をする機関が分かれており、雇用・労働では既存の機関(EEOC)を有効活用している。我が国でも分野別の救済について考えてはどうか。差別はスピードをもって解決しなければいけないので、既存の組織も活用できるようにする。アメリカでは、最終的には司法省が強力な権限で乗り出すが、それ以前に各分野の専門機関が機能している。救済機関の判断や対応に当たって共通の基準が担保されなければ、地域格差が生じるというリスクがある。
- (発言)パリ原則に基づく独立性のある人権機関は理想的だが、現時点では中央と地方で障害者基本法に基づく障害者政策委員会等を利用するのが現実的である。政策委員会には個別事案の解決はゆだねられていないので、障害者基本法の一部法改正が必要かもしれない。また、政策委員会は障害のある人が多くを占める構成なので、監視過程にNGOの参加を求めるという権利条約の要請にも応えることができる。都道府県条例が規定する権利救済機関や、障害団体や市民グループによる福祉オンブズマンや権利擁護センター等NGOの人権救済機関、障害に関連するNGOによる人権組織等も活用してはどうか。予算上も合理性があり、監視過程にNGOを参加させるという権利条約の要請も満たす。さらに、NGOが関わることで権力や政治から距離をとることも期待できる。
個別救済の機能として、相談、調査、調停、あっせんの権限を救済機関に与えることは、早期に解決を図るという点で重要である。更に調査への協力義務の規定があれば早い段階で資料を集めることが期待でき、調査権限の充実につながる。紛争調整機関は裁定までできることが望ましいが、そこまで強い権限を与えることについては議論があるだろう。
行政型ADRは個別的な救済が主要な役割だが、国内人権機関の場合は法律や法案について意見表明をするという機能も重要である。合理的配慮の判断基準の策定や、現行法についての見解の表明等も、障害者政策委員会やその中に置かれる救済機関の権限としてはどうか。
- (棟居部会長)障害者権利条約等の国際人権条約を国内実施するときに、救済機関がガイドラインをつくり国内規範として個別の紛争が起きる前に示す、つまり裁判の救済規範としてだけではなく、条約を国内実施機関の行為規範として取り込む必要があるだろう。
- (発言)制度設計の話をする際は、理想論と現実論の両方の視点が大事である。障害に特化した問題を全般的な人権委員会に担わせるのは荷が重過ぎるという意見があるが、全般的な委員会と障害者権利委員会を両立させるのは難しいだろう。障害者政策委員会に救済等の権限を期待することはあり得るが、内閣府設置法の同じ条項に基づき設置されている他の委員会は残念ながら高評価を得られているとは言い難い。
分野別の救済機関を設けてはどうかとの意見には反対で、様々な人権課題を横に切って串を刺すような視点を持つ独立機関が必要である。複合差別が解決されないこと等を踏まえれば、あらゆる人権課題を統括する独立した人権委員会が必要である。人権機関は不要だとする議員等は様々な機関があるから新しい課題にも対応できると主張するが、これとは意見が異なる。
国内人権機関の救済機能は大事だが、パリ原則ではこの点は補足的で、人権政策提言をする、人権教育プログラムを組む、個別の事案解決をするという三位一体の機能を持つことが理想であるとしている。権利条約33条2項を踏まえた障害者差別禁止法の実施機関を議論する際も、救済だけではなく三位一体の機能を念頭に置いていただければ幸いだ。
- (発言)人権全般を統括する機関は必要だが、そこですべての分野に取り組むことは人材や費用の面で大変なので、専門分野の機関を活用することも必要である。
【議事 その他】
(報告等)
- (東室長)障害者基本法の改正のうち、政策委員会に関する部分について施行期日を5月21日にするという政令が5月15日に決定された。併せて、従前の中央障害者政策推進協議会を政策委員会に改組する政令の改正が同じ日に閣議決定され、21日には障害者政策委員会が正式に発足した。障がい者制度改革推進会議のもとで開催してきた現行の差別禁止部会は終了し、政策委員会でこの分野に関する専門部会を立ち上げる決定があれば、そこでやることになる。政策委員会の第1回目が開かれると、次回は政策委員会のもとでの差別禁止部会の第1回である。
- (発言)政策委員会は、どういうメンバーか。
- (東室長)既に30名公表されている。差別部会のメンバーに関しては、政策委員会でそれを置くという決定をした後の話になる。