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障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(第19回)
議事録
○棟居部会長 定刻になりましたので、これより第19回「障がい者制度改革推進会議差別禁止部会」を開催させていただきます。
差別禁止部会は、傍聴希望の方に所定の手続を経て公開しております。また、会議の模様はインターネットを通じても幅広く情報を提供いたします。なお、御発言に際してのお願いとして、発言を求めるときはまず挙手いただき、指名を受けた後、御自身のお名前を述べられてから可能な限りゆっくりと御発言いただくようお願いします。本日の会議は、18時までを予定しております。
それでは、東室長から、委員・オブザーバー及び専門協力員の出席状況と資料説明をお願いします。
○東室長 こんにちは。担当室の東です。
本日の出欠状況でありますけれども、伊藤委員、竹下委員、西村委員、山本委員、遠藤オブザーバーが御欠席、その他の委員・オブザーバー、専門協力員の皆さんは出席予定ですが、お二人ほどまだ来られてない方もいらっしゃいます。来られると思いますので、よろしくお願いします。
本日の議事につきましては、事前にお知らせしていたとおりでありまして、救済のための仕組みについてのヒアリング及び検討でございます。15分の休憩を2回とることとして、3つのコーナーで議論していきます。
第1のコーナーは60分ほどを予定しておりまして、法務省へのヒアリングであります。法務省人権擁護局調査救済課の横田希代子課長より、平成23年12月15日に公表されました、人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要及びその後の検討状況について御報告いただき、その後、質疑及び議論を行います。
第2コーナーも60分ほどを予定しておりまして、2つの報告がございます。前半は、山崎委員より、障害者権利条約の国内的実施・監視に関する制度設計上の論点整理について御報告をいただく予定です。後半は、北九州市立大学准教授の植木氏より、ADAに関する救済手続について御報告をいただきます。
続きまして、第3コーナーも60分ほどを予定しております。最初に私の方から既存の救済の仕組みについて概要を説明させていただいた後、第1コーナー、第2コーナーでの報告を受けて議論等をいたします。
以上が今日の予定でございます。
次に、資料がございますので確認をしたいと思います。
まず、資料1は「法務省提出資料」でございます。
資料2は「植木淳氏提出資料」でございます。
続きまして、委員提出資料が2つございます。
川島委員提出の「法案骨格私案(2012年5月11日版)」と銘打ったものでございます。
それと、山崎委員提出の「障害者権利条約の国内的実施・監視」というのがございます。
また、資料番号が付いておりませんけれども、太田委員の方から「障害者差別禁止法(仮)における救済のしくみについて(意見書)」が提出されております。
最後に、参考資料が5つほどあります。
参考資料1は「行政型ADR(裁判外紛争解決制度)(主なもの)」であります。
参考資料2は「行政型ADR(裁判外紛争解決制度)の主な関連条文」であります。
参考資料3は「国民生活センターにおける裁判外紛争解決手続(ADR)の流れ」と題したものであります。
参考資料4は「条例による救済の仕組み」であります。
参考資料5は「主な国の障害者に係る差別禁止法制における保護救済機関の状況」。これは23年度版の白書の抜粋であります。
以上が資料でありますが、加えて委員の皆様方には、法務省より「人権の擁護」という冊子が配付されております。
以上です。お手元にあるかどうか、御確認のほどよろしくお願いします。
ありがとうございました。
○棟居部会長 ありがとうございます。
それでは、議事に入らせていただきます。
太田委員。
○太田委員 東室長に質問でございます。
差別禁止部会の親委員会になるであろう障害者政策委員会についてでございますが、政策委員会の構成メンバーは決まったんでしょうか。あるいは、その構成メンバーはどういう考え方で決めていったのでしょうか。また、差別禁止部会は、いつから政策委員会の専門部会として位置づけられていくのでしょうか。
この3点です。
○棟居部会長 今の点につきましては、東室長の方で最後にまとめて御発言を用意されています。今日、初めにゲストスピーカーもお見えになっていますので、今の点は少し我慢をしていただいて、本日の最後の辺りでまとめて御報告いただくことにしておりますので、よろしくお願いします。
○太田委員 はい。
○棟居部会長 それでは、議事に入らせていただきます。第1コーナーは60分で、法務省へのヒアリングです。
最初に、法務省人権擁護局調査救済課の横田希代子課長より、平成23年12月15日に公表された、人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要及びその後の検討状況について、25分程度で御報告をいただきます。
横田課長、よろしくお願いします。
○横田課長 ただいま御紹介にあずかりました、法務省人権擁護局調査救済課長の横田でございます。よろしくお願いいたします。
○棟居部会長 よろしくお願いします。どうぞ。
○横田課長 ありがとうございます。では、着席させていただきまして、御説明させていただきます。
本日は、現在検討を進めております人権委員会の設置に関する法案について説明させていただきます。ただ、この法案は、まだ提出の具体的な時期については決まっておりませんので、検討段階ということでお聞きいただければと思います。本日は説明の機会を設けていただきまして、ありがとうございます。
さて、法案の内容に入る前に、現在検討中の法案の中身にも深く関わってまいりますので、現在の私たち法務省の人権擁護機関というものの取組みについて、若干かいつまんで説明をさせていただきます。
私たち法務省の人権擁護機関と申しますのは、法務省人権擁護局及びその出先機関であります法務局、地方法務局の人権擁護部門、そして法務大臣が委嘱した民間のボランティアであります人権擁護委員、この全体を指して法務省の人権擁護機関と呼んでおります。
人権擁護委員という方々は無償のボランティアでありまして、全国に約1万4,000人おられます。
法務局、地方法務局といいますと、まず登記をやっている役所というイメージが強いかと思いますが、人権、そのほか戸籍や供託なども扱っている役所でございます。
活動の内容はと申しますと、全国各地でさまざまな人権啓発活動を行ったりもしておりますが、そのほか全国315か所にある法務局、地方法務局の窓口におきまして、広く人権に関する相談を受け付けております。そして、人権相談を通じて人権侵害の疑いがある事案を認めましたときには、これを人権侵犯事件として手続を開始して、調査を行っております。
この調査というのは、法務局の職員や人権擁護委員が携わりますが、すべて強制的な権限があるものではございませんで、関係者の方の御協力を得ながら事情を伺うなどの調査を行っております。
そして、人権侵害の事実が認められるかどうかというのを最終目標として調査をいたしますが、その過程で、これはどうやら人権侵害というよりは、お互いの誤解や説明不足などによるものだということがわかった場合でありますとか、そのほかによりよい手段等があるということがわかりました場合には、事件の当事者の間の関係を調整して、円満な解決を図るということもやっております。
調査の結果、人権侵害の事実が認められるという場合には、加害者に対し、その行為が人権侵害に当たるということを告げて反省を求める、説示や勧告という措置なども実際の事案に応じて行っております。
障害を有する方に関する事案も多く取り扱っておりまして、昨年の事例で申しますと、障害を理由として従業員が解雇された事案について、その会社の代表者に対し、理由のない解雇であるということで勧告を行った事案がございます。この場合、労働関係につきましては都道府県に労働局、労働委員会などがあるわけでございますが、この事案は既に雇用関係が継続していなかったということでございまして、解雇したことについて非常に納得がいかないということで法務局に御相談がありまして、法務局なりの立場から勧告を行ったものでございます。
このようにいろいろな相談窓口がございますので、私どもとしましては労働問題、労働関係の継続が求められるような場合には、労働局の相談窓口が適切だということで、そういう相談窓口もありますよということで、その他の行政、ADRなどを御紹介することがございます。また、ほかの行政窓口や法テラスなどから法務局を紹介されたと言って、御相談に来られる場合もございます。
このように、現在法務省において人権救済活動を行っておりまして、戦後60年にわたって続けてきたものでございますが、あくまで法務省の内部部局によるものであるということ、そして、その権限を具体的に定めた法律がないことから、その信頼性や実効性、実際に効果があるかという点について問題があるとの指摘を受けております。
この指摘は、大分古くなりまして10年以上前の答申でございますが、平成13年5月に出ました人権擁護推進審議会の答申が、政府から独立した合議制の機関、委員会による人権救済制度がより望ましいのではないかという提言を行っているところでございます。
そのような提言などを受けまして、私どもとして、政府からの独立性を有する中立公正な人権委員会を新たに設置し、その権限を明確に定めて人権救済を行うという法案を、現在検討しているわけでございます。
このような独立性のある人権委員会を設置するということは、人権について定めたパリ原則、国内人権機構の在り方に関する基準にも適合するものであると考えておりまして、国際的な要請にもお応えできるのではないかと考えております。
それでは、お配りしました資料に基づきまして、御説明をさせていただきたいと存じます。お手元に「人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要」というものをお配りしておりますので、併せてごらんいただければと思います。
この概要は、昨年の12月に公表したものでございます。12月に公表した以降、実際に条文化する作業も進めてまいっておりますけれども、現在のところ、まだこの概要までが公表させていただけるものでございますので、ごらんいただければと思います。法務省のホームページにおいても公開しております。
まず、法案の名称でございますけれども、検討中となっておりますが、現在の時点では人権委員会を設置することがこの法案の中核でございますので、人権委員会設置法とすることを考えております。
次に総則でございます。総則関係といたしましては、目的、人権侵害等の禁止、国の責務という各項目について規定を設けることといたします。本日は時間の関係もございますので、すべての点について詳細に御説明することはできませんが、人権侵害等の禁止の部分について若干御説明させていただきます。
これは、人権委員会が行います調査・救済手続の対象となる行為でございまして、不当な差別、虐待その他の人権侵害及び差別助長行為をしてはならない旨を規定しております。
この差別助長行為という言葉でございますが、中身はちょっと長くなりますけれども、定義を申し上げますと、人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対する、当該属性を理由とした不当な差別的取扱いを助長・誘発する目的で、その不特定多数の者がその属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を公然と摘示する行為ということになります。
そこに書いてあるとおりでございますが、少し分かりにくいので御説明いたします。人種が挙がっておりますので、人種で御説明しますと、人種という共通の属性を有する集団に対して、その属性、その人種であることを理由として不当な差別的取扱いをする、そういうことを助長や誘発する目的で、その不特定多数の方々がその属性、つまりその人種なのだということを容易に識別することを可能とする情報、つまり、その情報がなければなかなか容易に識別できないという場合にこれが当てはまるわけでございます。具体的には、同和問題などに関する部落地名総鑑を頒布する行為などが端的にこれに当たるのではないかと考えております。
ただ、この差別助長行為という名称につきましては、このような識別情報だけではなく、差別を助長する行為全部が当たるのだという誤解を招くのではないかという御指摘もございましたので、現在では差別助長行為という略称ではなく、識別情報の摘示という略称に変更いたしております。
お配りいたしましたもう一枚のペーパーの方に、「識別情報の摘示について」という簡単な説明ペーパーを併せてお配りしておりますので、そちらの方をごらんいただきますと、今、私が御説明させていただいたような内容を簡略に説明させていただいております。
この法案の対象といたしますのが人権侵害と識別情報の摘示でございますが、人権侵害というのも、どういうものを人権侵害と言うのかということに関して、さまざまな御指摘がございましたので、ここで参考としてきちんと定義づけをしております。
特定の者に対して、その有する人権を侵害する行為であり、司法手続においても違法と評価される行為を言うというふうに定義づけをしております。司法手続においても違法と評価される行為ということの意味は、実際に裁判して勝つ必要があるとか、そういうことではございませんで、法的な観点から違法の判断ができる行為という意味でございます。
それでは、続きまして人権委員会の組織について御説明をしたいと思います。2ページになります。
人権委員会の組織については、政府からの独立性を有する組織とするため、国家行政組織法3条2項に基づく、いわゆる三条委員会として設置することを考えておりまして、法務省の外局という位置づけになります。
人権委員会をどの府省に置くかということにつきましては、いろいろ御議論がございましたが、これまで法務省が法務局、地方法務局を窓口として人権擁護行政に携わってきたという知識、経験の蓄積もございまして、そういう意味で法務省の外局とされることとなっておりますが、外局という位置づけは、省の大臣の指揮監督を受けるものではございませんので、独立性は十分保たれる。
また、内閣府に設置するといたしましても、内閣府にも警察庁などさまざまな公権力機関もございますので、法務省に置かれるのと御懸念は同じではないかということで、むしろ独立性をきちんと担保した形で設置することが大切なことかなと思っております。
また、人権委員会の所掌事務といたしましては、人権救済、人権啓発のほかに、政府への意見提出、これは政策提言も含みますけれども、そのような権能を持つと考えております。
委員の人数でございますが、今のところは従前の人権擁護法案、これは平成14年に提出された政府の法案でございまして、平成15年に廃案になっておりますが、そのときと同じ5名程度が相当ではないかと考えております。この5名は委員長を含めて5名でございますが、その任命については両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する、いわゆる国会同意人事を考えております。法務省の外局ではございますが、委員の選任は内閣総理大臣が行うという仕組みを考えております。
次に、この人権委員会には事務局が置かれますけれども、この事務局は現在の法務省の人権擁護局の事務を引き継ぐことになりますので、恐らく法務省の人権擁護局はなくなることになるであろうと考えております。この事務局の事務の一部を法務局長及び地方法務局長に委任いたしまして、法務局や地方法務局を窓口として活用することとしております。
また、地方組織の中に、現地担当官という職名が挙がっております。「全国所要の地に、事務局職員(現地担当官)を配置し」と書いてございます。これは、法務局、地方法務局だけが地方組織ということになりますと、法務局、地方法務局は法務省の内部部局でございますので、そこに全部を任せてしまうわけにはいかない。やはり公務員による人権侵害事案の調査・救済については、それを実際に指導監督する人権委員会の職員が配属されるべきではないかということから、事務局職員を直接的に各地に配置することといたしております。
続きまして2ページの下の部分、調査・措置の手続について御説明をいたします。
人権侵害に関して御相談があり、それが人権侵害として調査するべき事案だということになると、必要な調査をいたしまして、その結果に基づいて適当な措置を講ずるという点は、今の法務省の人権擁護機関における調査・救済制度を下敷きにしております。かつての人権擁護法案では、これに一定の類型の事件について過料の制裁を伴う調査ができるというふうにしておりまして、特別調査と呼んでおりましたが、この過料の制裁を設けますと、ある程度調査が強制にわたるということでさまざまな御意見がございましたので、今回の検討では、調査は任意の調査に一本化することとしております。
ただし、人権委員会が調査をできるということになりますと、少なくとも公の役所は、その調査に対して正当な理由がない限り調査に応ずる義務が生じますので、一定の効力があるということになるかと思います。
そして、調査の結果に基づきまして、人権委員会は資料の「措置」のところにあります措置をとることになります。その措置の中身について十分御説明できればよろしいんですが、簡単に御説明いたします。
調査開始後いつでも行うことができる措置というのが、援助、調整でございます。実は私ども、今やっております調査・救済手続では、この援助や調整というのが一番多い措置でございます。何が人権侵害だということで相手方に説示などを行うよりも、お互いによりよき解決を導き出すという調整の手続、その他いろいろな仕組みを御紹介したり、いろいろな行政制度などを御紹介することによって、よりよき解決を目指すというような援助、そういうものが件数としては実際には多くなっておりますので、人権委員会がこのような調査・救済手続を行う場合にも、この援助や調整という措置は非常に重要な役割を構成することになるのではないかと考えています。
次に、人権侵害が認められた場合に行うことができる措置として、説示、勧告、これは相手方に反省を求めたり、再発防止策を要請したりするものでございます。通告は、他の行政機関に対して行政権の発動を求めるもの。告発は、捜査機関に対して刑事告発を行うもの。要請というのは、加害者に影響力を持つ方に対して、指導監督を徹底するようにということで要請を行うもの。例えば施設の職員が暴力行為を行ったときなどに、施設の職員に対しても説示を行いますけれども、その所長に対して要請をするという組み合わせでやっております。
更に、この法案で考えておりますのは、公務員による人権侵害が認められた場合には単に勧告ができるだけではなく、その公務員の所属する機関に対しても勧告ができるようにしようと考えております。そして、勧告を受けた機関が正当な理由がなく勧告に従わなかった場合には、それを公表することができると考えております。
勧告を行った場合に、被害者が権利行使のために訴訟を起こされる場合などには、調査資料を提供することもできる仕組みを考えております。
その他、当事者の意向を踏まえて、裁判所で行われているような調停ほどの効力はございませんが、実際に人権調整委員という方々が入って、きちんと文書をつくって和解をしようというお気持ちになったときには、調停、仲裁ということもできる仕組みを考えておりまして、現在私どもがやっている人権救済手続に加えて、<3>、<4>の手続を更に充実させようというものでございます。
あと、人権擁護委員についてでございますが、人権擁護委員につきましては、既存の委員、今現在ボランティアで活動してくださっております約1万4,000人の方々がおられますので、この方たちに引き続きやっていただく。ただ、人権擁護委員には任期がございますので、勿論新しい方にどんどん人権擁護委員になっていただくことも期待しているところでございます。
現在、委嘱権者が法務大臣でございますが、これが人権委員会に変更されることになります。また、現在、人権擁護委員は国家公務員法の適用が排除されておりますけれども、実際に行っていることは公務でございます。非常勤で無報酬の国家公務員の先例といたしましては保護司さんがございますので、保護司と同格の位置づけということで、人権擁護委員についても非常勤の国家公務員と位置づけることを考えております。
一番大きいのは、今、人権擁護委員さんが、職務の中で関係者から暴力を受けることもないわけではございませんが、その場合に国家公務員災害補償法の適用がございません。公務をお願いしている立場でございますので、国家公務員災害補償法の適用があるようにすることも、国家公務員と位置づけることの重要な意味合いの1つでございます。
現在は、市町村長の推薦によって法務大臣が委嘱をしておりますが、専門的な知識・経験を有する方、例えば医療でありますとか、教育でありますとか、心理でありますとか、そういう専門的な知識・経験を有する方について、人権委員会の方から委嘱をお願いすることも考えておりまして、特例委嘱制度というものの創設も考えているところでございます。
冒頭にも申し上げましたが、現在この概要で示された方向性に沿って、法案提出に向けた作業を進めているところでございますけれども、提出予定時期については、現在は何とも申し上げることができない状況でございます。私どもとしては、今国会の提出に向けまして作業を進めているところでございますが、できるだけ早く提出できるように努めてまいりたいと考えているところでございます。
最後に、先ほど少し御説明させていただきましたが、現在行っている調査・救済手続において、障害をお持ちの方に関する事件として、どのようなものがあったかということについて、若干御説明をさせていただきたいと思います。
お配りした「人権の擁護」にも載っておりますので、後ほどごらんいただければと思いますが、自治体の温泉施設で車いすを利用したまま入浴をしたいという御要望をお持ちの方が入浴を拒否されたという事案について、私どもの方で調査を行っております。
施設の方では、バリアフリー化されていないので入浴はなかなか難しいというお話だったのですけれども、お互いのお話を十分聞きまして、どのような御意向で、どのような入浴形態で、どういうふうにすれば入浴できるのかということをお互いに調整いたしまして、結局、施設の方で浴室を一部改修して、車いすを御利用の方であっても介助者なしで入浴が可能な場合は入浴できるように改善したという連絡を受けまして、こちらの方から申告者の方に御説明をして、入浴いただけるようになったという事案もございました。こういうのが、調整事案の典型例の1つでございます。
以上でございます。ありがとうございました。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、質疑及び議論に入らせていただきますが、3時ごろまではいていただけますでしょうか。
○横田課長 勿論です。
○棟居部会長 ありがとうございます。では、よろしくお願いします。
時間は30分少々を予定しております。どなたからでもどうぞ。
松井委員、どうぞ。
○松井委員 ありがとうございます。
今の御説明いただいた内容というよりも、冒頭おっしゃったように、平成13年にこういうものをつくるということが出たにもかかわらず、もう10年以上になっているわけですけれども、法務省としては、なかなか進まない要因をどういうふうに考えていらっしゃるんでしょうか。
○棟居部会長 可能な範囲でお答えをお願いします。
○横田課長 平成14年に人権擁護法案を国会に提出いたしまして、そこで審議が調わず、平成15年に廃案になっておりまして、法務省といたしましては、その後も検討を続けておりましたが、与党内審査手続を経られなかったということが客観的な事実でございます。
また、現在も国会提出についていろいろな情勢がありまして、国会提出時期については未定ということでございまして、法務省としては、でき得る限りのことをやっている状況だと考えております。
○棟居部会長 ありがとうございました。
先ほど同時に山崎委員、太田委員のお手が挙がったように思います。では、山崎委員、お願いします。
○山崎委員 山崎です。
御説明、ありがとうございました。総括的に2点だけお伺いしたいと思います。
今日のお話は、昨年の12月15日時点の概要をもとにお話されているので、なかなか伺いづらいところもあるんですが、私が聞き及んでいるところですと、少なくとも国会上程への閣議決定ができる段階まですべて御用意されていると認識しております。したがいまして、新しい法案と人権擁護委員法の一部改正法案は完璧に準備されていることと理解しております。
その上で、先ほど新しい法案の名称は人権委員会設置法になろうというお見通しをお述べになっていらっしゃいましたが、人権委員会が人権擁護施策を進めることについての法律という形を想定されているとの情報もあります。可能な範囲で結構ですが、そういう方向であるかどうかというのが1点目です。
もう一点は、その新しい法案が設置予定の人権委員会は、いわゆる国連のパリ原則に準拠するものになるだろうというお見通しでしたが、一般的に申しますとパリ原則は、いわゆるさまざまな面での独立性の問題と、委員あるいは職員の多元性、この2つがかなり大きなポイントになるはずです。今日のお話ですと、後半の職員あるいは委員の多元性については全くお触れになっていらっしゃらない。これにお触れにならないと、パリ原則に準拠したものになるという御説明にならないのではないかと少し心配しておりますので、その辺りをお触れいただければ幸いです。
以上です。
○棟居部会長 横田課長、お願いします。
○横田課長 まず、第1点目でございます。名称でございますが、現在のところ、先生は人権擁護委員会とおっしゃいましたけれども、人権委員会でございます。
法案の名称につきましても、いろいろとテクニカルな面がございまして、内閣法制局という役所と調整をするわけでございまして、いろいろ紆余曲折がございましたが、現在のところは人権委員会設置法という形で検討を行っております。ただ、与党審査は未了でございますので、閣議提出までもうすぐできるという状況ではございません。ただ、私どもの検討では、この法案の概要で挙げた名称に戻ってきたと御理解いただいて結構かと思います。
独立性・多元性という部分については、御指摘のとおりでございまして、多元性についても挙げておりますけれども、多元性もできる限り実現するという形で行わざるを得ない。
人権委員会の委員につきましても、委員の職務の重要性からすると、特別職の公務員ということになりますので、人数を際限なく増やすわけにもいかないということもございまして、私ども、5名以下では多元性の要請に応えているとは言えないのではないかということで、少なくとも5名をいただければと、査定庁との折衝とかもやっております。
また、多元性の要請につきましては、必ずメンバーの選任だけではなくて、多元的な御意見を取り入れていく仕組みというのを、公聴会などの仕組みでも取り入れております。
職員についても御指摘でございましたが、職員については国家公務員の中でも、さまざまな省庁の公務員の方に入っていただくというのがまず1つ。労働でありますとか、外交でありますとか、医療でありますとか、そういうことも考えられるかもしれませんし、民間の方に入っていただくルートも確保していければと思っておりますが、何分まだ法案自体が提出できていない状況でございまして、その後の詳細については、今後詰めていかなくてはいけない段階でございます。
ですので、本日のところでは、独立性・多元性をパリ原則が要請している、その中身についてはいろいろな理解の仕方があるかと思いますけれども、回答させていただける範囲でお答えするとすれば、今のようなところでございます。
○棟居部会長 いっぱいいっぱいお答えいただいたということで、山崎委員、よろしいでしょうか。
○山崎委員 1点だけ。細かいことで恐縮ですが、後半の多元性に関わることです。
今日の2ページ目の地方組織の現地担当官は、非常に工夫されたと思って感心しているところですが、例えば弁護士の資格を持つ者を事務局に採用して、そういった方を派遣するというお考えがあるかどうかということと、もしかしたら太田委員さんもお尋ねになるかもしれませんが、民間から登用する可能性のある職員の間に、さまざまなマイノリティー出身の方、例えば障害をお持ちの方を採用するという方向性を現時点でお考えになっているかどうか。
その2点を教えていただければと思います。
○棟居部会長 横田課長、お願いします。
○横田課長 私にお答えする権限がございましたらお答えできるんですけれども、なかなか難しいところがございまして、組織の内容面になりますと、どうしてもかくあるべしという理想の面と、財政状況、そもそも人数をどのぐらいにできるかとか、規模をどのぐらいにできるかという問題も非常に困難を極めている部分がございますので、そこについては的確な回答は御容赦いただきたいと思います。
ただ、現地担当官について充実した人材、職員についてもいろいろな分野の方から入っていただければありがたいと思いますし、また、人権擁護委員という立場の方々にも、さまざまな分野で活動されている方々にお入りいただければありがたいなと考えているところでございます。
○棟居部会長 ありがとうございました。
では、太田委員、先ほど手が挙がっていましたね。お願いします。
○太田委員 ありがとうございます。日本障害フォーラム(JDF)の太田でございます。
何点か、基本的な質問をさせていただきたいと思います。
既存の人権擁護委員会と、ただいま説明されました人権委員会、法務省がやっている人権委員会と何がどう具体的に変わっているのかというのが、いま少し私には理解できなくて、具体的に、今の人権擁護委員会でこういう問題は解決できなかったけれども新しい人権委員会は解決できるという問題があれば、教えていただきたいということが1点目です。
○棟居部会長 1つずつお答えいただく格好でよろしいですか。
○太田委員 はい。
○棟居部会長 では、今の質問をお願いします。
○横田課長 旧人権擁護法案、平成14年の法案では人権委員会に、今、私どもがやっているのとは異なる、過料の制裁を行う調査権限を与えるとか、その他若干強い権限を与えておりましたが、今、私どもが検討中の法案では、今、私どもがやっていることとそれほど変わりがないという部分がございます。
ただ、私ども法務省の人権擁護機関がやってきたことは内部部局でやっていることだから、独立性のない機関でやっていることなので、それではいけないではないかという御指摘の部分を取り出しまして、政府からの独立性を有する人権委員会が行うということでございます。
更に、付け加わった権限という部分につきましては、先ほど御説明した中では調停と仲裁、公務員が人権侵害を行った場合に、その公務員が所属する機関に対して勧告を行うことができ、正当な理由がなく勧告に沿った行動をとらないときには公表をすることができる。また、公務員による人権侵害によって被害を受けた方が訴訟を起こそうとするときなどには、人権委員会が調査をしたときの資料を提供することができる。
今、申し上げたようなところは、新しく人権委員会設置法案ができることによって、今の法務省の人権擁護機関よりも充実した活動ができるようになる部分でございます。
○棟居部会長 太田さん、今の1点目はよろしいですか。
○太田委員 はい。
○棟居部会長 2点目に行かれますか。お願いします。
○太田委員 2点目については、既存の人権擁護委員会が、年間で大体どれぐらいの案件を取り上げて、問題を解決してきたのかということ、あるいは解決できなかったということを挙げていただきたいと思います。
○棟居部会長 今の2点目の御質問について、横田課長、お願いします。
○横田課長 私どもが人権相談としてお受けしている件数は、今、(手元では)正確には把握しておりませんが、1年間に20万件以上はお受けしております。その中で、人権侵犯事件として、人権侵害の疑いがあるということで処理している件数は、昨年は2万2,000件強でございます。
そこで解決できたもの、そうでないものというのは非常に判断が難しゅうございまして、私どもとしては援助をしたけれども、それで本当に紛争が解決したかまではわからない部分がございます。例えば児童虐待の事案について、児童相談所と連携をして一時保護に至った場合も、最終的に本当に問題が解決したかまでは追えない場合がございます。調整は解決したと言ってもよろしいのかもしれませんが、件数のうち何件が解決したのかという御質問は、非常に難しくてお答えができません。申し訳ございません。
ただ、私どもは、受けた件数のうち少なくとも6か月ぐらいの範囲内で一定の結果は出すようにしておりますし、その件数の中には、調査した結果、人権侵害の事実がなかった、人権侵犯事実が不明確であったというものも含まれております。
そんなところでよろしいでしょうか。
○棟居部会長 ありがとうございました。
では、3点目に行かれますか。お願いします。
○太田委員 3点目は、新しい法案では、不当な差別という表現や差別助長行為ということをお考えのようでありますが、法務省さんがお考えの差別とは一体何かということが、今の説明では十分理解できなかった。というのは、この法務省さんの説明で、障害者差別が救済されるのかどうかということを懸念しての質問です。
○棟居部会長 最後の質問をお願いします。
○横田課長 あらゆる人権侵害を取り扱っておりますので、人権侵害についてすべてを法案に書き込むことはなかなか難しいと考えておりまして、その意味で、特定の方に対してその人権を侵害する行為、それが法的に違法と評価される行為というふうに定義づけをしておりまして、その判断に当たっては、法律、判例のようなものに照らし合わせて判断をしてまいることになるわけでございます。それまでの例えば行政法規についてある一定のガイドラインがあったり、裁判例があったりした場合には、それに基づいて、何が憲法14条の不当な差別に当たるのかということを判断していくことになります。
端的な回答ではないかもしれませんけれども、個別具体的な事件について調査・救済をしていく以上、余り細かく定義づけができないというところも御理解いただければと存じます。
○棟居部会長 ありがとうございました。
高山オブザーバー、お願いします。
○高山オブザーバー 今の御質問にもかぶるんですけれども、人権相談件数は20万件というお話でしたが、そのうち障害者に関するものはどれぐらいの割合なのかということ。それから、先ほど人権侵犯事件になったものが2万2,000件とおっしゃって、そのうち障害者が幾らぐらいかということ。
それから、先ほど法務局、地方法務局を合わせて全国に315か所あるということで、人権擁護委員は1万4,000人ですが、担当者の方はどれぐらいいらっしゃるのか。要は、いろいろな相談が持ち込まれる窓口が法務局になると思うんですけれども、どれぐらいのスタッフでやられているのか。その辺を教えていただけたらと思います。
○棟居部会長 横田課長、お願いします。
○横田課長 申し訳ございません。相談件数につきましては、今、そのうち障害者の方のという統計を持ち合わせておりませんで、ちょっとお答えができないんです。
人権侵犯事件の件数についても、暴行・虐待、人身の自由、社会福祉施設関係、差別待遇関係という割合で統計をとっておりまして、今、障害者の方に対するものというのを取り上げて御説明させていただけるのが、差別的な取扱いに対するものという範疇のみでございます。これは女性に対するもの、高齢者に対するもの、障害者に対するものなど、いろいろな範疇で統計をとって公表しておりますが、昨年1年間で、障害者に関する差別待遇に関する人権侵犯事件の件数は227件でございます。
暴行・虐待に関するものが、先ほどの23年と異なりますが、障害者を被害者とする暴行・虐待に関するものが、平成22年では44件、差別待遇が201件。強制強要、したくないことをさせるということでくくりますと26件。社会福祉施設の中での事案、これは必ずしも暴行・虐待だけではなくさまざまなことを含みますが、56件。そういう内訳で、22年は総数が271件という形になっております。合計がちょっと合いませんけれども、これはダブっている、つまり、社会福祉施設内で暴行・虐待があったりすると、両方にカウントしているということでございます。
職員数でございますが、今、手元に資料がございませんけれども、各管区には人権擁護部というのがございます。皆さんのなじみの機関ですと高等裁判所があるところ、全国8か所にございますが、同じところに地方法務局の地方がついていない法務局という管区局がございます。そこでは職員が大体十数名おりますが、地方法務局になりますと数名程度のところが多いかなと思います。ちょっとばらつきがございますので一概に御説明はできませんけれども、そのような規模感でございます。
○棟居部会長 ありがとうございました。
大谷委員、先ほどお手をお挙げになりましたか。では、まず大谷委員、お願いします。その後、川島委員、お願いします。
○大谷委員 弁護士の大谷です。
ここで怒りをぶつけてもしようがないのかもしれませんけれども、これ以上のものはもうできないということでの説明と伺ってよろしいんですね。要するに、まだ法案にもなってないということでしょうからあれなんですけれども、まず目的は、個別人権救済もするということが法の目的に入るのか入らないのか。
それから、違法と評価される行為なんですけれども、先ほど来から説明されていますので繰り返しになりますが、我々にすると何が違法なのかが問題なんです。何が違法なのかが問題なのに、違法と評価されることが人権侵害だと言われても、同じことしか言ってくれてないということなので、今後ガイドラインを作成していただくしかない。規範性のあるもの、我々は差別禁止法をつくって、違法と評価される差別類型を何らか提示したいと思うんですけれども、このままでは、定義のところで違法と評価される行為そのもので窓口が非常に狭くなるのではないかと私は恐れていますので、今後、せめてガイドラインを作成するおつもりがあるのかどうかということ。
一番お聞きしたかったのは、調査措置の内容。御存じのとおり、弁護士会の中には人権擁護委員会がありますけれども、本当に多くの人権救済案件を抱えて、弁護士会としてもそれなりに関与してきたつもりなんですが、今まで弁護士会がやってきたことと、ここでやっていることと一体どこが違うのかというふうに思うと、非常に寂しい感じがするんですけれども、この中で、本人の意思に反して、本人がそれは違うと争っても、ある種強制的に救済するというか、介入できるというのはどれが想定されているんでしょうか。ずっと聞いている限りは、やはりそれはない。当事者の意向を踏まえた解決のための措置というのも、調停、仲裁も相手方がそれに応じてくれなければだめ。人権侵害をしている方が何と言おうと、人権委員会の方がこれは侵害であるということで仲裁意見を出して、それに対して強制とまでは言いませんけれども、何らか意に反したことをできるのかどうかということに関しては、今、説明を聞いた限りではなかなか難しいのかなと伺ったんですが、どの程度のことが想定されているのかを伺わせていただきたい。
もう一点だけ。事務局は何人ぐらいですか。本局にある事務局と地方組織の事務局は、大体何人ぐらいを事務局として想定されているんでしょうか。法務局の中にあるところと、地方事務局は大体どのぐらいの事務局のメンバーを想定されているのか、今、わかる限り教えていただけたらと思います。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
横田課長、お願いします。
○横田課長 まず、個別救済を行うかを目的に入れるかということなんですが、調査・救済を行うということは目的規定に入る予定でございますけれども、法案に個別救済を行うということが章立てで出ますので、当然、人権委員会は個別救済も行う機関としてつくり込まれているということになるかと思います。
それから、人権侵害とは何か、何が違法かということを書き込まないことによって窓口が狭まるのではないかという御懸念ですが、むしろ、これが人権侵害です、これが人権侵害ですということになりますと、それ以外は扱わないことになってしまうことを私どもは恐れておりまして、どんな御相談でも、あらゆる人権侵害について広く相談窓口を開いて、それについて検討を行うということで、あらゆる人権侵害について、すべてガイドラインをつくることはなかなか難しいことであろうと思っておりまして、少なくともこの法案の段階では、今のような定義づけで進めることを考えております。
本人の意思に反してということは、加害者の意思に反してということであろうかと思いますけれども、人権侵害の事実が認定できれば、加害者の意思に反しても当然それは説示、勧告、そして刑事告発である告発ですとか、通告でありますとか、要請とかという措置をとることになります。ただ、人権侵害の事実が認定できるかということに関して、加害者の協力が得られないときには、事実上調査が難しいということはございます。しかし、少なくとも人権侵害の事実も認定できないのに、人権侵害だと言うことはなかなか難しいだろうと思います。勿論、加害者の方の協力が得られなくても、客観的な事実関係から人権侵害が認定できる場合もあると思っております。
事務局の規模については、申し訳ございませんが、現段階では私の立場でこの程度ということをお話できる部分はございませんけれども、国家的に財政状況が余りよくない折から、今の法務省の人権擁護局の規模を大きく上回ることは、なかなか難しいであろうとは考えております。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、川島委員、お願いします。
○川島委員 川島です。御説明をありがとうございます。
資料1の1ページのところで「(参考)」とあって、「※人権侵害とは」というところで、「私人間においては、民法、刑法その他の人権に関わる法令の規定」というのがあるんですけれども、法務省の方では内閣府の差別禁止部会との関係をどう考えているかということで、ここの「その他の人権に関わる法令」というのは、当然、障害差別禁止法は想定されていると思うんですけれども、一応確認をしたいというのが1点。
もう一点は、こちらの差別禁止部会の方でも、障害差別禁止法のための救済機関なり実施機関をつくるという議論をまだしてないというか、これからすると思うんですけれども、それは法務省さんの方の人権委員会があれば要らないのではないのとか、もしくは人権委員会ではちょっと足りないから、差別禁止部会の方で自前のものをつくった方がいいのではないのとか、もし何かお考えがありましたら教えていただければと思います。
○棟居部会長 横田課長、お願いします。
○横田課長 差別禁止法が成立の暁になりましたら、「法令の規定に照らして」の法令には当然含まれることになります。
こちらで御検討されている機関について私から何か申し上げることはございませんけれども、先ほどちょっと御説明いたしましたように、労働関係に特化したADR機関として都道府県労働局というものがあって、労働関係の紛争について調整を行っておられます。そこには、もちはもち屋といいますか、労働関係の継続とか、賃金でありますとか、そういう労働関係に特化した分野については調整が非常に専門的である。私どもは、そのような機関もありますよということはきちんと御説明して、どちらで御相談されますかということも相談される方に伺っております。また、労働局の方などからも、法務局に相談したらどうですかと法務局を紹介されるということがあります。警察からもあります。犯罪にはならないけれども、人権侵害に当たるかもしれないから法務局に行ったらどうかと。そのような連携の形態があるということが、1つのヒントになるのではないかと思いますけれども、このぐらいで御容赦いただければと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
時間の関係で、あとお一人と思います。野沢委員、お願いします。
○野沢委員 野沢です。
2つ教えてほしいことがありまして、1つは、これが10年前に出てきたときに批判する意見として、独立性に関する問題とメディア規制のことがあったと思うんです。先ほどもちょっと触れておられましたけれども、刑務所とか入管とかでもひどい人権侵害がある。それなのに法務省の外局でいいのかという批判がずっとあったと思うんですけれども、それに関して、今の案がどういうところに配慮をされているのか、もう一度確認でお聞きしたいのと、メディア規制はどうなったのかということがお聞きしたいことの1つ。
もう一つだけ。この中にありますけれども、37ページのところで実父による娘に対する虐待事案とあって、これは子どもの人権SOSミニレターが端緒になってわかった。差別だとか虐待だと言ってきてくれる人はいいんですけれども、言ってきてくれない人の声をどうやって掘り起こすかというのがすごく大事だと思っているんです。法務省さんは余りPRされないのでこの機会に聞きたいんですけれども、二万何千件かSOSレターが来て、その全部に返事を出していると聞いたんですが、どんなふうに広げていって掘り起こすのに御努力されているのか、その辺をちょっとお聞きしたいんです。
○棟居部会長 ありがとうございました。
横田課長、お願いします。
○横田課長 まず、第1点目でございますが、メディア規制については特別人権侵害という範疇をなくしてしまいましたので、いわゆるメディア規制条項というのは、もう入らないということでございます。ただ、メディアが全く免責されるかというとそういうことではございませんで、一般の方と同じように、対象として扱うということでございます。
独立性の点は、御理解を求めていくしかないんですけれども、三条委員会という仕組み自体が、法務大臣からの指揮監督権限がないということでございますので、独立性が担保されていると考えている。当時、法務省の別の案として内閣府が挙がっておりましたが、内閣府に置けば独立性が担保されるかというと、内閣府にも同じように警察庁があるではないかという御批判もあり、内閣総理大臣という政府の中で一番強い権限をお持ちの方の直下に置くことも、国際的に見てどうなのかという御意見もいろいろございまして、どこの府省に置いても基本的に独立性は保てるので同じでございますが、制度のスムーズな開始という点も考慮されまして、法務局、地方法務局を持っている法務省の外局として設置することになっているということでございます。
SOSミニレターについてでございます。ありがとうございます。平成18年から、法務省で「子どもの人権SOSミニレター」という事業を展開しております。子どもの人権SOSミニレターにつきましては、この冊子ですと9ページに載っておりますので、後でごらんいただければと思います。
人KENまもる君とあゆみちゃんのキャラクターが載ったミニレターで、裏面に便せんと封筒が付いております。切り抜いて封筒をつくっていただきますと、料金別納郵便で最寄りの法務局に簡単に届くようになっております。小学生、中学生、特別支援学校の生徒さん方にも全校配布をいたしております。
中には非常にたわいのない、明日の体育の試験はうまくいくかなという御相談もございますが、中には大変深刻なものもございます。そのたくさんの手紙が参りますのを、緊急性のあるものは直ちに児童相談所に通報することも考え、緊急性のないものでいじめが継続的なものは学校との連携を考える。そういうことを法務局の職員と人権擁護委員の先生方が1通1通についてやっております。秋ごろに配布いたしますが、たしか東京法務局では人権擁護委員が毎日シフトを組んで出てこられて、1通ずつを読んでお返事を書くという形にしておりまして、1日10通ぐらいを書くと手が痛くなってしまうので書けないということもおっしゃっていますけれども、声なき声を拾うという意味では、私どもとしては今後も続けていかなくてはいけない事業かなと思っております。
簡単な説明で申し訳ございません。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、時間が参っておりますが、最後に東室長から1点、御発言があります。
○東室長 東です。
先ほどの川島委員の御質問に関係すると思うんですが、人権委員会設置v法ができた場合に、人権事案については、この法案で窓口を一本化して、ほかにはできないというたてつけではなくて、既存のADRの中にも人権関係のものがありますけれども、そこはそこでやっていく、併存状態でいくといったことが前提で考えておられるのかどうか、そこだけを確認させていただきたいと思います。
○棟居部会長 横田課長、お願いします。
○横田課長 併存状態でそういう役所をつくるかどうかというのは、私どもの領分ではございませんで、その機関ができるときの政府内での御検討になろうかと思いますけれども、私どもは、あらゆる人権侵害を広く扱う機関ということでたてつけておりますので、制度自体に、ほかの機関を排除するという意味合いを内包しているものではございません。
○東室長 ありがとうございました。
○棟居部会長 ありがとうございました。
以上で、第1コーナーを終わります。ヒアリングに御協力いただいた横田課長、お忙しい中、誠にありがとうございました。(拍手)
ここで15分の休憩をとります。再開は15時25分とさせていただきます。
(休憩)
○棟居部会長 それでは、再開いたします。
第2コーナーは、60分です。前半は、山崎委員より障害者権利条約の国内的実施・監視に関する制度設計上の論点整理について、30分程度で御報告をいただきます。また、後半は、北九州市立大学准教授の植木淳氏よりADAに関する救済手続について、30分程度で御報告をいただきます。ということで、質疑等は第3コーナーにゆだねまして、第2コーナーは30分、30分の2本の御報告をいただく予定にしております。
山崎委員、御準備はよろしいでしょうか。
○山崎委員 結構でございます。
○棟居部会長 では、お願いします。
○山崎委員 ありがとうございます。
神奈川大学の山崎でございます。委員ではございますが、報告の機会を頂戴して光栄に存じます。
お手元の資料の24ページから、私の今日の「障害者権利条約の国内的実施・監視 制度設計上の論点整理」というペーパーがございます。ページ数が多ございますが、しばらくまいりまして、32ページから国内人権機関設置検討会編の「望ましい国内人権機関『人権委員会設置法』法案要綱・解説」というのがございます。言わば、先ほど横田課長が御案内なされた法務省案に対するオルタナティブといいますか、選択肢の1つとして昨年の12月に公表させていただいたものでございます。これがしばらくございまして、73ページから、先ほども話題に上っていましたパリ原則。これは私の訳でございますが、3ページほどあります。この3種類の文章を使って報告させていただきたいと思います。
では、24ページに戻ります。
今後、障害者権利条約が日本で批准された場合、これを国内で実施していくことになります。その場合、後ほど御案内する同条約33条に基づいて、国内的な実施・監視という仕組みをつくることが要請されます。これは締約国の義務となります。その場合どうしましょうかという話の具体的な背景の話と、いささかの組織のあり方について、私なりの考えを提示させていただくのが今日の骨子でございます。
その際、問題設定として4点を考えました。(1)~(4)です。
まず第1、権利条約の国内実施機関は、障害者政策委員会のみで果たして足りるのか。条約の国内実施・監視のために、場合によっては政策委員会だけでなく、これに加えて、仮称ですが、「障害者権利(国内)委員会」というものが別に必要になるのかどうかという問題設定です。
仮にこれが必要とされる場合、先ほどの横田課長のお話にもありましたとおり、政府から独立した人権全般を扱うことになる国内人権機関として、もし人権委員会が設定されるとした場合、両方が必要なのかどうかというすみ分けについて考えてみたいというのが2点目。
3点目は先ほどの話とも連動いたしますが、全般的な人権課題を扱う人権委員会が近いうちに設置される、発足するということであれば比較的話はわかりやすいんですが、その見通しが必ずしも立たない、具体的にはここの部会で想定しております差別禁止法についての骨格提言時、例えば本年の8月時点で人権委員会の設置の見通しがさほど見えない場合は一体どうなるのだろうか、という問題です。
4点目ですが、その場合、どのような制度設計が必要になるのか。場合によっては、先ほど申し上げた障害者権利(国内)委員会の制度設計を、例えばこの差別禁止部会で真剣に、前向きに詰める必要が出てくるのかどうかという問題設定でございます。
1に進みますが、この諸点を考えるにあたって、やはり障害者権利条約が締約国に求める法的義務は何かというのをまず最初に確認する必要があると思います。川島さんたちが訳された条約の33条をここに掲げましたが、1項、2項、3項に書いてございます。
条約の第33条は、「国内的な実施及び監視」というタイトルでございます。1項が求めておりますのは、締約国は条約の実施に関連する事項を扱う1あるいは2以上の中心的機関(フォーカルポイント)を政府内に指定しなさいというのが、法的義務とされています。
第2項ですが、締約国はこの条約の実施を促進し、保護し、監視するための枠組み。ここでの枠組みは、フレームワークという用語を用いております。これは1または2以上の独立した仕組みを含むとされております。この枠組みを自国内で維持、強化、指定し、または設置する。これはしなければいけないという条約上の締約国の義務でございます。
締約国はその仕組みを指定し、または設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機関の地位及び機能に関する原則、いわゆるパリ原則です。正式な名称とはいささか違うのですが、条約上はこういう文言を用いております。要するに、パリ原則、先ほどの3つ目の文章として私の訳を付けさせていただいておりますが、そこに掲げられているガイドラインのことを言っております。第2項は締約国にこの「枠組み」の設置を義務づけています。この枠組みは、パリ原則に準拠した機関である方がいいと言っているんです。
3項目目、33条の3項も重大でございまして、市民社会、特に障害のある人と障害のある人を代表する団体は、今、述べた1項とか2項で中心的機関とか枠組みをつくりなさい、と言っておりますが、障害のある人と障害者の団体は、そういったものの監視の過程に完全に関与し、かつ、参加すると言い切っておりますから、私たちのことを私たち抜きに決めないでという標語が、条約の国内実施・監視体制の中に完全に生かされるような状態にしておかなければいけないことを、締約国は義務づけられています。
これが33条の全体の構成でございます。
したがいまして、私どもとしましたら、近い将来この条約に日本が入ることを大前提にして差別禁止法を考えているわけでありますから、やはり33条に掲げられている締約国に対する義務を正面から受けとめる必要があるというのが、今日の私の報告の大前提でございます。
24ページの下の方に、(1)国内的実施措置に関する締約国の義務を再度繰り返しておりまして、私はA、B、C、Dと書きました。
Aとしては、中心的機関を政府内に指定する。これは置かなければいけない。
先ほど言い忘れましたが、1項の後段に、政府内における調整の仕組みも設けた方がよいと書いてございます。これは設けた方がいいですから、必ずしも置かなくてよいと受け取れます。
必ず置かなければいけないのがCの独立機関でございまして、条約の文言ですと、枠組み、フレームワークと言っておりますが、国連のこれに関する解説文書などを参照しますと、やはり枠組みだとぴんときませんので、これは独立機関という文言で、イコール枠組みのことなんだという説明がなされております。したがいまして、条約上の文言は枠組みですが、私は、これ以降の説明は基本的に独立機関あるいは独立機関イコール枠組みというふうにお話を差し上げたいと思っております。
もう一つ、D監視過程へのNGOの参加、参画は重要です。
このA、B、C、Dになります。
24~25ページにかけまして、特にA、B、Cについて条約の文言をどのように解釈すべきかと、国連の解説書を参照した私の説明がございます。これは時間の関係で、お読みいただくということで省かせていただきたいと存じます。
続きまして、先ほどの横田課長のお話にも極めて連動するわけで、私も一部質問をさせていただいたところですが、国内人権機関は、法務省の委員会設置法では国内人権機関のパターンに当てはまるものをつくるというお話でございました。
そこで御参照までに、今、国際社会では120以上のさまざまな国でできて活動しています国内人権機関というのは何なのか、全体の御説明をさせていただきたいというのが25ページの2でございます。
これは19世紀、20世紀型の国家では必ずしもなかった。立法、司法、行政いずれにも属さないわけですが、人権課題について、人権教育とか人権政策提言あるいは人権救済について、3つの役割を別個でなく、1つの機関がまとめてやるという新しいタイプの国家機関でございます。これは非常に矛盾に満ちたことなんですが、国家機関でありながら、できるだけ政府から、政治からの独立性を保つ。そのための仕組みとして、独立性の担保が必要だとされている機関です。一見矛盾するような話かもしれませんが、そういうものとして、主に1970年代後半から今日に至るまで、さまざまな国でさまざまなタイプのものができてきたのが国内人権機関でございます。
これは私の定義でございますが、25ページに書いたとおり、国内人権機関というのは、<1>人権保障のため機能する既存の国家機関とは別個であるが、かつ、私的な団体でなく公的機関であり、<2>憲法または法律を設置根拠とし、<3>人権保障に関する法で定められた独自の権限を持っており、<4>いかなる外部勢力からも干渉されない意味での独立性を持つ機関の総称です。これが、私が定義する国内人権機関でございます。
できてきた背景等は、25ページの下の方に書いてございますが、お読みいただければ幸いでございます。
次にパリ原則でございますが、26ページに移っていただければと思います。
いろいろなことが書いてございますが、一言で言えば人権政策提言、人権教育のコーディネートをする役割、場合によっては人権救済について準司法的な役割も演じることができる。こういったことが書かれているものでございます。権能とか独立性、機関の活動、司法機関ではないが準司法的な役割も演じられる。この4つについて、私なりのまとめをしているのが26ページの上の方でございます。
機能だけ紹介しますとさまざまございまして、人権に関する法制度あるいは国内の人権状況について、政府とか、その国の議会に提言する役割。人権条約を批准したり、国内実施する場合、障害者権利条約についてはこれからそういうことが起きるわけですが、それを進めていく役割。
人権条約上の国家の報告書に対して意見を言う役割。
国連の人権関係機関などと協力する役割。
人権教育・研究プログラムをつくる役割。日本で言いますと、例えば警察官とか、自衛官とか、入管職員とかの公権力を持っている法執行官に対する人権教育プログラムを、省庁縦割りでなくて独立機関が作成する。これは諸外国でもよくやっていることでございますが、恐らく重要な課題になってくるかと思います。
最後に、人権の宣伝・広報、差別撤廃の宣伝・広報。
役割としてはこういったものが期待されています。
独立性だけに言及させていただきますと、日本で言うと中央省庁が縦割りで、文科省なり、厚労省なり、国土交通省なり、法務省なり、あるいは内閣府なりがそれぞれの設置法あるいは法律に基づいて同時的に、ばらばらにやってきた仕事を一貫して同じところでやる。
そのためには、相当パワーを持っていなければいけない。1つは組織的な国家機関の中での独自性を持つこと、もう一つは市民から信頼を勝ち得ること、この2つがそのパワーの源泉になると私は思っております。そういう意味で先ほど私も質問させていただきました、市民から信頼されるためには、あそこに行けば私たちの気持ちがわかってもらえる委員、職員もいるんだということが見えることです。つまり、社会の多元性がよりよく反映される組織として存在しているかどうか、これが非常に大きなポイントになると私は思っております。
任期を明らかにする、滅多なことで首にならないという機関の独立性。勿論、財源もきちんと確保して、政権が変わったからといってみだりに削減されたり廃止されたりしない。時々諸外国でそのような憂き目に遭っている例がございますので、これは一般論でなくて、具体的な話としても極めて大事なところと思っております。
活動とかその他については、お読みいただきたいと思っております。
時間の関係で、淡々と進めさせていただいていて大変恐縮でございますが、次にやや本論に入るところでございます。26ページ目の「4.『中心的機関』、『調整機関』、『独立機関(枠組み)』に関する諸外国の実例」はどうなっているのかということでございます。この点につきましては、私も研究としたら本当に緒についたばかりでございまして、国際機関がまとめられたものを横から拝借したにすぎません。
次のページにかけて、5つの国を紹介させていただいております。ニュージーランドについてはやや独自に調査したところですが、その他の4か国につきましては、私のレジメの巻末に書いてございます、国連人権高等弁務官事務所のヨーロッパ支局がまとめられた資料に依拠しております。オーストリア人権委員会は、発足当初に数回ほど訪問しておりますが、チェコ、スペイン、スウェーデンについては、まだ訪れたことはございません。したがって、文献上の御説明に終始しますことをお詫びします。
その上で、まずオーストリアは連邦の委員会です。中心的機関は、連邦労働社会問題消費者保護省という官庁が担っていらっしゃる。調整の仕組みは必置でございませんが、同じく同省が扱ってらっしゃる。独立機関がポイントですが、これにつきましては2008年の連邦障害法13条に基づいて独立監視機関を設置した。ここに書いてあるとおりでございます。ただし、連邦国家でございますから連邦事項だけを扱って、州についてはそれぞれの州の機関が扱うことになっているようでございます。大事な「D.NGOの参加」につきましては、オーストリア国家障害者協議会が独立監視員会の委員4名を推薦している。これは非常に重要なやり方で、日本でもこうした制度設計が可能であれば望ましいと思っております。
お隣になってしまいますが、チェコにつきましても中心的機関が労働・社会問題省、調整の仕組みも同省。この国は、現時点では独立機関ができていないようでございます。仮に、できていないということで、国際的な実施機関でございます障害者権利委員会に国家報告を出した場合には、必ずや指摘を受けることになると思われます。NGOの参加につきましては、チェコ全国障害者協議会は114の障害者団体の連合体でございまして、これが権利擁護、立法等の提言をしておりますし、勧告も行っていて、政府の障害者委員会に委員を送っているという位置づけになっております。
スペインとスウェーデンはごらんいただくとしまして、ニュージーランドだけを申し上げますと、ニュージーランドの中心的機関は障害問題局という国家部局でございます。調整の仕組みとしましては、障害問題閣僚委員会というものが担っているようでございます。興味深い独立機関でございますが、議会設置の複数のオンブズマンと人権委員会。後者の人権委員会は、先ほど横田課長から御案内のあった、あらゆる人権課題を担う国内人権機関としてのパリ原則にのっとった機関でございます。私はニュージーランド人権委員会を訪れて、かなり突っ込んだ意見交換をした経験がございます。ですから、この国は人権委員会とオンブズマンが併存している例でございます。
あと5分ほどですので簡単に御案内したいと思いますが、障害者政策委員会につきましては、まさに私どもの親委員会でございますのでお読みいただくとして、特に言及する必要はないかと思います。
28ページにお移りいただきまして、問題は障害者政策委員会が、独立機関、枠組みとして、先ほど来説明しているA、B、C、Dで言いますと、Cとして位置づけ可能かというところでございます。この点につきましてはいろいろ御議論もあるところと思いますが、あるべき姿論といいますか、あるいは理想論という視点からのみ、率直に申し上げると、中心的機関という位置づけは可能でございますけれども、独立の枠組みというふうに位置づけるのは無理だろうというのが、私の現時点での考えでございます。
理由は下にも書きましたとおり、結局は日本の国家行政組織の三条委員会であればよろしいわけですが、障害者政策委員会自体は八条委員会、いわゆる審議会の位置づけというふうに私は理解しております。
三条委員会、八条委員会につきましては言わずもがなのことですが、28ページ、29ページに一覧表がありますので御参照いただきたいと思います。
特に29ページに列挙されている、内閣府設置法37条2項に基づく八条委員会としましたら、さまざまございますが、原子力安全委員会というもの、あるいは食品安全委員会というものと横並びになりますし、次のページをごらんいただければ、消費者委員会。消費者委員会と食品安全委員会は比較的最近できたものでございますので、これらの独立性とか機能が、当初国民が期待していたところから見てどうなのかということについては、私は考えがございますが、この場で披露する立場にはありませんが、さまざまな評価があることは皆さん方も御案内のところと思います。つまり、障害者政策委員会はこのようなものと同列のものでございますので、そうだとしますれば、少なくとも条約の33条2項が求めているパリ原則に従うような独立性の高い枠組み、機関という位置づけはいささか無理ではないかと思います。
そうだとすれば、どうするのかという話になろうかと思います。30ページに移っていただければと思います。
勿論、先ほどの横田課長のお話のとおり、今後日本の政治情勢が画期的にすばらしく展開して、あっという間に今年じゅうに人権委員会が設置されるという状況が出てくれば、それはそこで扱っていただいて、例えば5人の委員の中に1人は障害をお持ちの方にお入りいただくという形は、考え方としては大いにあり得ると思います。しかし、それが現時点で必ずしもそうなるんだという見通しが持てないとすれば、やはり独立機関、枠組みを別建てで議論することが、どうしても必要になってくるのではないかと思っております。その仕事は、この差別禁止部会が担うことになるのではないかと個人的には思っております。
ということで、最後の数分は30ページの中ごろ以下ですが、その場合、「9.障害者権利(国内)委員会」に関してです。国内人権機関の様相は持つが、一般的な人権機関でなく、障害問題に特化した独立機関が必要になるという制度設計でございます。
一般的なことでございますが、「(1)組織体制」に書いてあるところは、やはりできれば三条委員会の形が望ましいわけですが、行財政改革の現状からして果たしてそこまでいくかどうかというのはわかりません。理想論とすれば、やはり三条委員会で内閣府に置くことができれば、なかなか困難は伴うと思いますが、望ましいところと思っております。
形態は委員会形式でもよろしいわけですし、財源等のことを考えた場合、独任性(1人)、あるいは3人のオンブズパーソンという形。例えばニュージーランドのようなものです。そういった、在来日本の制度にはない制度設計も考える選択肢の1つとしてはあり得るかと思っております。
やはり独立性の確保と多元性の確保が生命線でございます。委員とかオンブズパーソンの場合には、必ず障害当事者自身に入っていただくわけですし、その他弁護士さんとか専門家の方もお入りになるとしても、当事者から信頼されるような組織にしない限りは、多額の国家予算を使う意味がなくなってくると私は思っております。その意味で、財源の確保、独自性というものが極めて大事になると思います。
30ページの最後に書かせていただいておりますが、同様に職員体制につきましても当事者の方を含む、きちんとこの問題の所在、現状について十二分な認識と経験のある方にお入りいただくということでないと意味がないと思います。
31ページに参りますが、いずれの形を念頭に置くにせよ、やはり差別禁止法、障害者差別禁止法をきちんとつくって、それをガイドラインとして、教育、政策提言、救済活動を担うことにする。これが必須のポイントであると思っております。
最後の地方委員会、支局の話です。先ほどの法務省案にもございましたが、地方にどういう出先組織を置くかは非常に難しいわけですし、内閣府に置く場合には当面どうやって制度設計するか、見通しはなかなか難しいかと思います。その場合には、かなりウルトラCでしょうが、自治体との何らかの有機的連携。これは私も言っているだけで、具体的な制度設計はまだ十分に考えついておりませんが、そういった知恵も絞る余地が出てくると思っております。
31ページの最後、(6)では、オンブズパーソンにせよ、委員会にせよ、どういう役割を念頭に置くべきかという点で、「A.人権政策提言機能」「B.人権相談・救済機能」「C.人権教育・広報機能」と3つ書いてございます。実はここが一番大事でございますが、今日のお話の段階ですと、いきなりここまで詰めた議論をするというよりは、冒頭に申し上げたとおり33条が締約国に求めているものは何か、それが障害者政策委員会で足りるのかどうかということに焦点を置きましたので、(6)についてはまた機会があれば、御披露させていただきたいと思っております。
2分ほどオーバーしましたが、以上で終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。
○棟居部会長 山崎委員、ありがとうございました。
質疑は、第3コーナーにゆだねさせていただいております。
続きまして、第2コーナーの後半としまして、北九州市立大学准教授の植木淳氏より「ADAに関する救済手続」について、30分程度で御報告をお願いします。
植木様、よろしくお願いします。
○植木准教授 北九州市立大学の植木です。報告の機会をいただきまして、ありがとうございます。
本日は、アメリカの障害差別禁止法であるADAに関する救済手続について、ADAの1編、2編、3編に分けて、その上でEEOC及び司法省の行う行政救済と、裁判所の行う司法救済に分けて報告をさせていただきます。
アメリカでのADAに関する議論の焦点は、連邦裁判所における判例理論の分析になるわけですが、その一方で、判例だけではなくて行政救済も含めて、法の実効性を検証すべきであるという議論も散見されます。ただ、そのような議論の中でも、ADAに関する行政救済は極めて複雑で実態が把握されてないという指摘がなされることもありますので、本日の報告では、まず余り細部に至り過ぎないように全体像を概略することを中心にしてお話をさせていただきます。
では、資料の1ページのIから見ていただきたいのですが、ADAの救済システムは、従来から存在する市民権法の経験の上に成り立っております。1964年にできたCivil Rights Act、本報告では市民権法と訳させていただきますが、これは主として人種差別の撤廃のためにつくられた法律でしたが、この法律では第2編で民間企業の営む例えばレストランやホテルなどの公共施設における差別の禁止を規定し、その担当機関を司法省にゆだね、第6編では連邦政府が資金拠出をしている事業、特に州や地方自治体の行う事業における差別を禁止し、更に第7編では雇用差別を禁止し、この救済機関をEEOCにゆだねるという法律になりました。
その後、1973年のリハビリテーション法の中で初めて障害差別の禁止規定が盛り込まれたのですが、このリハビリテーション法の504条は、連邦政府が資金拠出をしている事業における障害差別を禁止するものであったために、直接的には市民権法の6編の救済手続が準用されたという形になります。
その流れを受けて、1990年にできた障害のあるアメリカ人に関する法律(ADA)においては、第1編で雇用差別が禁止され、第2編で州や地方自治体などの公的機関による差別が禁止され、第3編で民間企業の運営する公共施設における差別が禁止されたわけです。ここは若干複雑ですが、第1編の雇用差別禁止法に関しては市民権法第7編の手続が準用され、EEOCが所轄機関になり、第2編の公的機関における差別禁止に関しては市民権法の第6編の救済手続が準用され、司法省が所轄機関になり、第3編の公共施設における差別禁止法に関しては市民権法第2編の規定が準用され、司法省が担当機関になるという枠組みになったわけです。
この意味で、ADAにおける救済手続の骨格は、従来の人種差別あるいは性差別禁止法の手続の延長線上にある。逆に言えば、ADAの救済手続は、ある意味でアメリカ特有の歴史的な事情に由来するものであったということが言えるわけです。
その上で具体的にIIの1に参りまして、ADA第1編、雇用における障害差別の禁止規定について見ていきますが、これについては先ほど申し上げたように、従来の市民権法第7編における人種、性に関する雇用差別禁止規定を準用しているわけです。
したがって、2にあるようにEEOC、つまり雇用機会均等委員会が担当機関になり、(1)にあるように、EEOCが規則制定権を有するという形になります。
そして(2)にあるように、ADA第1編違反の被害者は、EEOCに対して申立てを行うことになっておりますが、その下の※にあるように、多くの州や地方自治体に独自の救済機関と救済手続が設けられておりますので、そのように州や地方自治体に独自の救済手続がある場合には、その手続を経ることが必要だということになっております。
ちょっと飛ばしまして、2ページに行きます。
この不服申し立てに関する処理手順についての法令上の規定を見ていきますと、EEOCが申立てを受けた場合、(3)にあるようにEEOCは正式な調査を開始し、調査対象者の保有する証拠にアクセスし、コピーする権限を有するというふうにされています。
更に(4)にあるように、EEOCは申立てから120日以内のなるべく早い時期に申立ての合理性について判断することになっております。ただ、これは法令上可能な限り120日以内でなければならないとなっていますが、現実には、期間は守られてないことが蔓延化しているみたいでして、例えばEEOCのホームページには、標準的な調査期間が200日ぐらいかかりますと書いていますので、この辺では、法は必ずしも厳密に運用されてないということだそうです。
その上で、EEOCが申立てに合理性がない、違法行為があったと信じる合理的理由がないとした場合、申立てを却下し、不服申立人に通知することになりますが、その一方で、申立てに合理性があると判断した場合、つまり違法行為があったと信じる合理的な理由があると判断した場合は、EEOCは協議・調整・説得などの手段によって違法行為の除去に努めなければならないと、法令では規定されています。
ただ、それと別に、現実にEEOCが行っている処理手順をEEOC自身が説明している文書によれば、その下の※のような手順を踏んでいるのだそうです。厳密には、この3段階の整理はちょっとおかしい気がするので口頭で説明いたしますと、まずEEOCは、正式な調査前に双方当事者が同意した場合には調停の手続を経て、この場合は調停人が双方当事者の対話による解決を促すことになるのだそうです。この調停による解決がなされなかった場合に初めてEEOCは正式な調査手続に入り、可能であれば調査終結までの間に和解を目指すというふうになっております。
その上で、調査終了までに和解が成立しない場合に初めて、上の(4)でお示ししたEEOCが申立ての合理性に関する判断を行い、その判断の中で申立てに合理性がある、つまり、違法行為が存在したと信じる合理的な理由があると判断した場合には、調整の手続に付すという流れになるのだそうです。この調整の手続が失敗した場合には、最終的な手段として連邦裁判所による救済を求めて訴訟を提起することになるわけです。
(1)(2)にあるように、雇用差別に関してはEEOC自身が訴訟提起をする場合と、被害者が訴訟提起をする場合の2つがありますが、被害者による訴訟提起の場合には、EEOCなどに関する行政救済の手続を経た上でないと、訴訟を提起できないことになっております。
ただ、(2)の一番下の※を見ていただきたいんですが、被害者が訴訟提起する場合には裁判所の裁量によって訴訟援助が得られ、例えば裁判所が弁護士を選任する、あるいは裁判所が訴訟費用の支払いを猶予するなどの援助を与えることが行われるそうです。
(3)ですが、この訴訟において裁判所が命じることができる救済は、差止命令や義務付け命令などのいわゆるインジャンクションと、違法行為がなかったら支払われるべきであった賃金の支払いを求めるバックペイと、その他の金銭賠償になります。この金銭賠償には、補償的賠償と懲罰的賠償の両方が含まれ、それとは別にIVにあるように、勝訴当事者には弁護士費用が与えられるという救済があるわけです。
以上が、ADA第1編の救済手続でした。
これに対して、資料3ページに参りましてADA第2編に関する救済手続を見ていきますと、ADA第2編は州や地方自治体などの公的機関の提供するサービス活動プログラムにおける障害差別を禁止する規定です。これもややこしいんですが、この救済手続はリハビリテーション法505条の規定を準用し、更にその505条を読めば市民権法第6編の手続が準用されている形になっており、そのためADA第2編に関しては2の(1)にあるように、主として司法省が規則制定権を有するということになります。
その上で、連邦規則の定める救済手続を見ていきますと、(2)にあるように、ADA第2編違反の被害者は、規則に定められる連邦機関に対して不服申し立てを行うことになっており、例えば教育の問題であれば教育省、公共交通の問題であれば運輸省というような、所轄の連邦機関に対して不服申し立てを行うことになります。
その場合、(3)にあるように、担当機関は調査を開始し、相手方と交渉して非公式な解決を試みることになるのですが、この場合の相手方は州や地方自治体ですので、ここではある意味で政府相互の交渉が行われることになります。その上で違法行為を認定したが、非公式な解決ができなかった場合には、事実認定書を送付して担当機関による事実認定と法的結論、行われるべき救済の内容あるいは利用可能な救済手続を通知することになり、その上で更に法令遵守合意の締結を試み、それでも合意が得られなかった場合には、(4)にあるように、司法長官に対して事案を移送する形になります。
ただ、ここで一番重要なのが最後の※でありまして、その一方で、規則では担当機関による手続とは別に、司法省による事案処理というものが予定されていて、司法長官を名あて人とする不服申立に関しては、他の担当機関がある場合でも、司法省は裁量的に救済権限を行使し得るというふうになっています。実際に司法省のホームページを見ると、第2編違反を理由にする不服申し立ては司法省に行ってくださいと書いてあり、更に親切なことに不服申し立て書がダウンロードできるようになっていて、司法省の住所があて先として書いてある。ここに送ってくださいというふうに書いているわけです。ですので、実際には後から説明するADA第3編とともに、司法省が重大だと思われる事案については、ピックアップして救済の措置をとっているということが実態のようであります。
4ページに行きまして、そのための取組みの1つがProject Civic Access と言われる取組みなのですが、時間の関係で割愛させていただきたいと思います。
その上で、ADA第2編に関する連邦裁判所による救済の方を見ていきますと、(1)にあるように、ここでも司法長官自身が訴訟提起をする場合と、被害者が訴訟提起をする場合の2つのパターンがあり、この被害者が訴訟提起をする場合、ADA第2編の場合には行政救済の申立てを経る必要がないということになります。
この意味でADA第1編、つまり雇用差別禁止規定の方は比較的画一的で厳格な手続を踏み、まずEEOCに事案を持っていってだめだったら訴訟というふうになっているわけですが、ADA第2編及び後から説明するADA第3編の方が、より柔軟に、司法省が事案を取り上げて措置をする場合もあれば、被害者が勝手に訴訟する場合もあるというふうな、柔軟な規定になっていることになります。
そして、この場合に裁判所によって与えられる救済は、先ほどと同じように差止命令や義務付け命令などのインジャンクションと金銭賠償になるわけですが、この場合の金銭賠償には懲罰的な賠償は認められないことになっております。
ちょっと淡々とした説明で申し訳ありませんが、今度は「IV.ADA第3編に関する救済手続」を見ていきますと、ADA第3編とは民間企業の運営する公共施設、例えばショッピングモールやホテル、あるいは病院などのさまざまな施設における障害差別を禁止するものですが、これについても公共施設における差別を禁止する市民権法第2編の手続を準用しており、担当となる救済機関は2の(1)にある司法省になります。
この場合についてなんですが、(2)にあるように、ADA第3編違反の被害者は司法省に対して調査を依頼(request)することができるという表現になっており、5ページの頭の(3)にあるように、司法長官は調査を開始し、和解交渉や調整や調停などによって問題を解決することを試みるとされているものの、下の矢印にあるように、ADA第3編に関しては調査依頼に対する正式な応答義務は存在せず、やはり司法省が裁量的に事案をピックアップして、重要だと思われる事案を処理していくというスタイルがとられているそうです。これは先ほどからの話でも出てきましたが、まさに司法省の人的な資源の問題による制約だそうで、数千、数万という不服申し立てに対して、すべてを処理できないという仕組みが最初からとられているということだそうです。
ただ、以下にADA第2編及び第3編に関して、具体的に司法省が行っている処理手続を見ていきますと、まず司法省は、非公式な手段によって解決を目指す調停、あるいは交渉による合意を試みます。それが成功しなかった場合に、今度は公式な和解合意の成立を目指すということになり、更にそれが成功しなかった場合には、司法省自身が訴訟提起をする、あるいは私人の提起をした訴訟に訴訟参加をする、あるいは意見書の提出をすることなど、そのような手段で司法的な救済を求めることになります。
その上で、ADA第3編に関する連邦裁判所による救済を見ていきますと、ここでも(1)にあるように司法長官が訴訟提起をする場合と、(2)にあるように被害者による訴訟提起の場合に分かれるわけですが、この場合の救済内容は(1)と(2)では大きく異なり、上の司法長官による訴訟提起の場合には、差止命令・義務付け命令などのインジャンクションだけではなく、金銭賠償あるいは制裁金を課すということまで認められていますが、下の被害者自身が訴訟提起をした場合には、認められる救済はインジャンクションだけで、弁護士費用を得られるほか、金銭賠償は認められないということになっております。これが、ADA第3編の裁判的実現の大きな妨げになっていると指摘されるわけです。
ここまでの話を簡単に概略しますと、EEOCはADA1編に関して、基本的にすべての申立てに関して手続にのっとった処理を行うという比較的画一的な処理をしていますが、司法省が行うADA第2編及び第3編に関する手続は、司法省が重要だと考える事案を裁量的にピックアップして対応するというスタイルになっております。ただ、両者とも最初はADR的な手法と言われる調停あるいはその他の方法での和解を目指し、それが成立しなかった場合には訴訟を提起するという流れで事案解決を目指す点では、共通のものであります。
その上で実際の行政救済の実績について見ていきますと、正確には2007~2011年度という意味ですが、2007年4月~2012年の3月までの5年間の期間で、ADA第1編に関してEEOCが申立てを処理した件数が、総数で10万3,463件。その中で和解によって解決したのが11.2%の1万1,621件。また、使用者が利益供与を行うことによって申立てが撤回された、つまり相手方である使用者が何らかの譲歩を行うことによって申立てが撤回されたケースが6.2%の6,452件。最終段階の調整が成功して同意が見られたケースが2.0%の2,022件。その意味で、20%近くは行政救済の段階で何らかの成果があったということです。
この20%弱が同意に至ったということに関する評価は分かれるものの、実際の裁判所の判例において、ADA第1編訴訟において原告が極めて低い勝訴率にとどまっているということからすれば、行政救済の段階では比較的成功していると評価されることがあります。
ただ、ADA第1編に関して問題点としてよく指摘されるのが、実際に雇われている人の解雇や合理的配慮の問題において、行政救済による調整がなされることについては比較的成功率が高いが、まだ雇われていない人の採用拒否に関する申立てについては、成功率が低いということがよく指摘されます。
それは、既に雇っている人の解雇や合理的配慮の問題については、差別的意図の立証が容易であるのに対して、採用拒否に関して、それが障害による差別であったということを立証するのが困難であるという要因によるものだと指摘され、その結果、例えば行政救済の段階でも、テスティングあるいはテスターと呼ばれる手段を使うべきだということが論者によって指摘されます。これはある種のおとり捜査のようなもので、例えば住居差別のような局面で実際に用いられているらしいのですが、マイノリティーの人とそうでない人が全く同じ条件で住宅の申し込みをして、マイノリティーの人の方だけ入居を拒否された場合に差別が立証されるという手法を、ADA第1編でも使うべきだという議論がされています。
次に、ADA第2編及び第3編に関する司法省の行政救済の実績については統計がありませんでしたので、司法省のレポートから判明している数字だけを挙げると、調停によって解決された件数が211件、交渉による合意で解決されたケースが363件、あるいはそれを越えた公式な手続での和解同意が得られたのが119件ということになっています。
これに関しては、勿論先ほどのEEOCとの比較で数が少な過ぎるという指摘があり、司法省の人員不足等の要因によるのですが、それでもこのようなADA第2編及び第3編の処理手続の中で、それが司法省のレポートなどに掲載されることによって、下の※にあるように事案処理案が一定程度定型化され、それが社会規範の形成につながっているという指摘もあります。
司法省のレポートを見ると、例えば個人商店であろうが、個人の運営するレストランであろうが、一定程度アクセス可能かが要求され、それに対する合意がなされているとか、あるいは病院であるとか弁護士事務所などにおいて、視覚障害のある人に対する対応が求められ、実際にそれが同意されているというレポートが載せられることによって、それが一定程度社会規範の形成につながっているということが指摘されます。その意味で、ここまで見たように、EEOCと司法省の基本的には強制力のない和解手続が一定程度成功しているということも指摘されているわけです。
なぜそれが成功しているのかというと、やはり最終的には訴訟による手段が準備され、相手方が訴訟によるコストを回避したいというインセンティブが働いているからこそ、このような手段が成功しているのだということが指摘されます。
そのため、最後に「2.司法救済に関する問題」について見ていきますが、アメリカの学説において、司法救済に関する問題の中で常に指摘されるのが、金銭救済が制限されるのが問題であるということになります。その点は下に書いてありますので詳しく述べませんが、アメリカの議論には、そこまで金の話をするかというぐらい金銭救済の問題が強く指摘されます。
ADAのそもそもの基本的な考えとしては、私人が訴訟提起をして法の規定を執行するのが原則であるという考えがあって、そのためには私人が訴訟提起をすることにインセンティブを持てるような制度にしなければならない。そして、それ以上に弁護士が訴訟提起に対してインセンティブを持てるようにしなければならない。そのためには一定程度金銭的な補償がなければならないという発想があるようです。その意味で、この辺りは日本の法文化とは状況が違うと考えるか、あるいは将来の日本の法文化を先取りしていると考えるかは、議論が分かれるところではないかと思われます。
最後にまとめで、このようなアメリカの制度が、日本の差別禁止法における救済手続にどのような影響を与えるかということですが、冒頭に御説明したように、アメリカの制度自体はその歴史的な事情によって発展してきたものであって、しかも比較法的にも古い制度ですから、そのままを参考にする必要はない。特に国家からの独立性などはそんなに強く保障されているわけではありませんから、その意味で準拠すべきかどうかはかなり疑問があるところではあります。
ただ、2点だけ言えるのは、1点目として調停などの手段は、特に障害差別禁止法の領域では有効であろうという点は言えると思います。特に合理的配慮の提供などの問題は、ある意味で状況に応じて千差万別の対応が必要になる領域でしょうから、相互が話し合った上で有効な解決策を探るというADR的な手法は、有効性が高いのではないかと思います。
ただ、2点目に、実際にアメリカでもそうであるように、このような調停などが機能するためには、恐らく最終的に実効性のある司法的な救済があるということが前提でしょうから、アメリカのように行政機関が原告となって訴訟提起をするというのが日本で実現するかどうかはちょっと微妙なところがあるとは思いますが、原告が訴訟提起するに当たって援助をし、原告が訴訟提起をすることによって法の規定を執行することを支えるための手段が必要であるということが言えるのではないかと思います。
以上、雑駁になりましたが、私の報告を終えさせていただきます。ありがとうございました。
○棟居部会長 ちょうど時間どおり収めていただきました。お二人、ありがとうございました。(拍手)
以上で第2コーナーを終わります。御報告いただいた山崎委員、植木様、誠にありがとうございました。御報告についての議論は第3コーナーで行いますので、引き続きよろしくお願いします。
ここで15分間の休憩をとらせていただきます。再開は16時40分でございます。
(休憩)
○棟居部会長 再開の時間になっております。御着席ください。
それでは、再開します。第3コーナーは60分で、救済のための仕組みについて議論いたしますが、まず初めに東室長から既存の救済の仕組みについて、10分程度で御説明をいただきます。
東室長、よろしくお願いします。
○東室長 成富さん、まだ来られてない方がいるから呼んできてもらえますか。ちょっとお待ち願いますか。
○棟居部会長 では、この間を利用しまして第3コーナーの段取りを簡単に申し上げますと、先ほど申し上げましたように、初めに東室長から既存の救済の仕組みについて説明をいただく。引き続きまして、太田委員が意見書を提出されていますので、そんなに時間は用意できないですけれども、太田委員に意見書についてコメントをいただく。その後で、先ほどの御報告を中心とした議論を始めさせていただくという順番で、進めていきたいと思っております。
それでは、東室長、お願いします。
○東室長 今日、参考資料ということで1、2、3、4、5を用意しております。既存の行政型のADRの説明といった点が主な資料なんですが、その前に、私の立場で言えるのかどうかわかりませんけれども、今後どうなるかという話を少し話してみたいと思います。
先ほど法務省から説明いただきました、人権委員会設置法案について、ここで議論している法案が来年の3月に上程するということを前提に考えると、人権委員会設置法案が、3月上程までに成立しない場合はどうなるかというと、やはりここでの議論を差別禁止法の中に盛り込んで救済機関を設置しないと、定義規定、実体規定はできたけれども、救済規定がないままになってしまうということが想定されるわけです。
だからこそ、どういう救済機関が差別禁止に特化したものとして必要なのかの議論をお願いしているわけですけれども、ある意味、人権委員会設置法案が抱えるような問題と同じ問題を孕むようなものとして出すと、人権委員会設置法案が通らない原因で、差別禁止法の救済機関を含む法案もストップしてしまう可能性もあるということです。それは極端な場合を想定するとということですけれども、救済機関だけではなくて実体規定もろとも永遠と議論にはなるが、具体化が進まない。そうした場合に、権利条約の批准ということが果たしてできるのかといった問題を抱え込むといったことになるわけです。ですから、具体的な実現しやすい観点から言えば、独立性といった問題は一応置いておいて、とりあえず行政ADR的なものを入れ込むといった議論が、出てくるんだろうと思っているわけです。それが1点。
逆に、来年3月までに人権委員会設置法案が通ったとした場合は、先ほどの課長さんの説明にもありましたけれども、法案自体はほかの救済機関の設置について排除するものではないといったことでしたが、実際上の話としてはあちらの方ができているのに、何でまた同じようなものをつくる必要があるのかといった議論が出てくるわけです。ですので、一般的な救済では非常に不十分なんだといった議論、彼女はもちはもち屋という形で表現していましたけれども、そういったものが障害者に対する差別禁止の問題に絡んでどうなのかといった、新たな議論が必要になるかなと思っているわけです。
このような状況の中で、一昨年の6月に出ました閣議決定の文章には、差別を禁止し救済する仕組みを検討するといったことがうたわれておりますので、どういう状況であれそれを踏まえていくといったことで、まとめられなければと思います。
具体的な行政型ADRの話に移ります。参考資料1を見ていただくとおわかりになると思いますが、現行法では主なものだけを拾っても結構あります。労働問題、公害問題、著作権などの問題、人権一般、消費者問題、建設工事請負、こういったものが行政型のADRとしてありますし、行政型でない民間型のADRというのも考えられております。例えばスポーツに関するいろいろな紛争に関しては、スポーツの協会辺りで判定する、救済するみたいな仕組みであったり、各地の弁護士会が引き受けているようなパターンもあります。
皆さんは大体御存じかもしれませんけれども、一番上の方から順番に説明します。例えば労働問題に関して言いますと、労働審判委員会による調停、審判というのが裁判所に置かれていますが、このほか、御存じのとおり中央もしくは都道府県に置かれている労働委員会で、不当労働行為とか労働争議のあっせん、調停、仲裁を行う仕組みがあります。
個別紛争に関しては、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律により、一部都道府県に置かれている労働委員会でも、個別紛争のあっせんがなされておりますけれども、より一般的には都道府県労働局に置かれている紛争調整委員会の方で、個別労働紛争に関するあっせんといったものがなされております。
男女雇用機会均等法に係る事案につきましては、その特則みたいな形でありまして、あっせんではなくて調停という形のものが、都道府県労働局の紛争調整委員会の中でなされていくような仕組みになっております。
次に、公害問題に関しては、国の機関としては総務省の外局に置かれている公害等調整委員会で、公害紛争のうち重大事件、広域事件、境界で発生した事件だと思いますが、県際事件を対象とするあっせん、調停、仲裁及び裁定という形でかなり強い権限まで与えられております。
都道府県に置かれる公害審査会というのは、設置は任意でありまして、必ずしも置く必要はないわけですけれども、上記の事件以外のものを対象としてあっせん、調停、仲裁するといった形で、地方と中央が分けられております。
著作権は飛ばしまして、人権に関しては、先ほど法務省の方から説明があったところです。
2ページ目をあけていただくと、消費者問題とあります。基本的には消費者生活センターが条例に基づいてできておりますけれども、ここで消費者安全の確保に関する苦情に係る相談、あっせんというものをやっております。その中でも重要なものは県に置かれると思うんですが、消費者苦情処理委員会というもの。名称はいろいろあると伺っていますけれども、ここであっせんまたは調停がなされるという形になっています。
そのほか、重要消費者紛争というふうに位置づけられる案件につきましては、国ではないんですが、独立行政法人の国民生活センターというところで和解の仲裁といったものがなされております。
その下にあるのは建設工事の請負なんですが、これは県レベルも必置でありまして、県と国の国土交通省に置かれる中央建設工事紛争審査会というところで、一定の事件の振り分けのもとに救済がなされているということが言えると思います。
参考資料1は以上の説明ですが、参考資料2はその条文の抜粋であります。
参考資料3は、先ほど言いました消費者問題に関するADRの流れを図示したものです。
参考資料4が、現在、都道府県レベルでは4県、市町村レベルでは2市によって、いわゆる差別禁止条例ができております。これらの差別禁止条例の中では、いずれも救済の仕組みが考えられておりまして、条例によって少しずつ違うところはありますが、大方の傾向は相談から始まって、調整など、一番基礎的なところを行って、その中で解決困難な事案は一定の機関であっせんとか、調停とか助言とかいった仕組みで救済を図ることになっております。
更に重大事案に関しましては、勧告とか公表といったシステムを導入することによって、救済を図ろうという形で動いているところです。
説明としては以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、先ほど予告いたしましたように、引き続きまして意見書を提出されました太田委員に、御報告をお願いしたいと思います。
○太田委員 JDFでは、今、さまざまな意見がある中で、これだけは必要という要望をまとめました。やはり人権委員会というのも必要かもしれませんが、何とかしたいという思いで議論をしてきました。
基本的な考え方として、障害者差別を対象とした救済の仕組みをつくろう。それ以外の問題は扱わない。だれもが使える機関をつくりたいということであります。
中央の救済機関と地方の救済機関とに分けて考えたいと思っています。
先ほどから、政府から独立した機関という議論はJDFでもある議論ではありますが、今、実際に差別がある中で、救済を早くしていく必要があるという認識のもと、中央については制度改革推進会議というものがつくられた経過を考えて、その発展系を政策委員会としていくならば、内閣府のもとに置いても少しも不合理なことではないと考えています。
障害者の人権確立のために活動してきた障害団体の連携をしながら、人権救済機関が運営をされた方がいいだろうと思っています。
都道府県をまたぐ案件は中央の役割で、また、国家レベルの案件についても中央の役割。場合によっては、都道府県の障害者政策委員会の所掌事務以外の案件を、そこで扱うこともあり得るだろうと思っています。また、都道府県の委員会で解決しなかったものも、中央の救済の機関で扱うというふうに考えております。
地方については、都道府県によっては既に救済の仕組みもあるので、そういう仕組みを生かす。
そういう仕組みがない都道府県ついては、新しくできる政策委員会的なものが、新しい救済機関をつくっていくことが大事だろう。
先ほど申し上げたように、だれもが申立てが可能なような身近な組織にできればと思っています。
案件や相手方によっては、中央に直接提訴ということも想定されるのではないかと思います。
救済機関のメンバーについては、やはり政策委員会ができた経緯や推進会議が発足した経緯を考えても、障害者の差別問題や人権問題に取り組んできた当事者や法律家、学識経験者が中心的にメンバーとして入り、実効性のある救済機関をつくっていくことが望ましいと考えています。
ただ、案件によっては、例えば特定の障害や難病というケースもあるので、その場合については特別委員を、地方においても都道府県を越えて選任できる仕組みが必要だと思います。
あと、法律上は都道府県の権能の公平性の確保。つまり格差をつくらないことが重要で、また、相手方、差別をした側の企業名なども公表できる仕組みが求められるのではないかと思います。
個別救済に求められる機能として、相談、調査、斡旋、調停、仲裁、勧告、勧告不履行の場合に公表、裁定などなど、それぞれのレベルで外国が持っているような機能を持ち合わせることによって、有効性が担保できるのではないかと思っています。
あと、救済機関がある程度実行力を持たなければだめなわけでありまして、そのためには制度、法律に協力義務というものを書き込む必要があるのではないかと考えています。
それ以外の仕事として、これは中央のことでありますが、合理的配慮の判断。合理的配慮はいろいろなところで検討されていますが、やはり差別禁止法に基づく救済機関での合理的配慮の判断が、まず優先をされる。そういう判断が中心であるということを明確にすべきだと思います。
あと、障害に基づく差別の実態調査や研究、合理的配慮のガイドラインをつくるための権限を持たせる。差別に対する周知啓発、場合によっては訴訟を支援できることも救済機関の権能として持たせる必要があると思います。
課題としては、団体として本人に成り代わって訴えることができる団体訴訟をどうするか、あるいはオンブズマンの制度をどのように入れ込んでいくか、あるいは入れ込まないのかという課題もあると思います。
以上です。
○棟居部会長 太田委員、ありがとうございました。
それでは、救済のための仕組みについて、これまでの御報告を受けて議論を開始したいと思います。時間は40分程度を予定しております。どなたからでもどうぞ。
川島委員。
○川島委員 ありがとうございます。川島です。
今日の、今までのヒアリング等を受けて、仮に法務省の方で人権委員会が設置されたとしても、障害差別禁止法の救済機関の役割を担わせるのは、ちょっと荷が重いかなという印象を受けました。やはり障害は余りにも多様で、特に合理的配慮等専門知識をかなり要するので、障害差別禁止法に特化した委員会をつくる必要があるのかなというのが1つ。
あと2つありまして、簡単に言いますと、山崎委員が内閣設置法49条に基づく機関がいいのではないかということで、私は公正取引委員会の規定を参考にしたらこんなふうになるのではないかというのを19ページに書いて、20~21ページは男女雇用機会均等法の書きぶりを参考にして、障害者権利委員会と調停委員会による紛争解決というのを、こんなふうになるのかなと書いてみました。書いていて思ったのが、このような救済機関というのは、1つ置いたとしても既存の機関との調整が必要なのではないか。
これは東室長にもお聞きしたい点なんですけれども、障害者虐待防止法の第6章に定める市町村障害者虐待防止センター及び都道府県障害者権利擁護センターというものが、今年度に設置予定なんですけれども、つまり虐待防止のための市町村、都道府県のセンターというのはできる。そうなると、差別禁止法で都道府県と市町村に別個の新しいものをつくるのは、資源の使い方としてどうなのか。虐待防止センターみたいなものと、差別禁止の実施機関というのを統合するようなシナリオというのは、特に地方での実施を考えたときに1つあり得るのかどうかというところにつきまして、東室長の考えをお聞かせ願えればと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
東室長、今の点をお願いします。
○東室長 まず、国の仕組みだけで救済機関を考えるか。勿論、国の仕組みといっても物理的な、場所的な意味で言えば地域も含むわけですけれども、そういうふうに国の仕組みだけで考えるか。それとも国と都道府県、市町村、自治体との連携みたいな形で考えるのかと、大きく分けると2つぐらいあると思うんです。
都道府県、市町村レベルでの連携みたいなことを考えた場合に、やはり差別の問題はどちらかというと日常生活の中で、ある程度関係のある人たちとの関係でよく発生する事案も結構あるわけです。そういった意味で、相談から始まってソフトランディングできるような救済の仕組みが要るんだろうなと思っているわけです。
今日は野澤委員が途中で退席されましたけれども、野澤委員が関われた千葉県の救済の仕組みというのはそういうことも念頭に置いて、まずは地域相談員による相談というところから始まるという形で、かなり多くのメンバーが相談員になられていて身近なところで気軽に相談ができる仕組みになっております。実際の事案から見ると、最初はそういった話し合いみたいな調整でやっていくということが必要だろうと思うんです。そういう仕組みが、今、言われたように今度できる虐待防止法における相談機関とか、今、審議されている総合支援法の中でも、あるわけです。その前のつなぎ法で議論された点でもありますが、同じような機関が幾つもあるという問題は確かにあるんでしょうけれども、本来的に言うと、どういう社会資源を使ってやった方がいいかという観点も、考慮に入れるべきではなかろうかと思っているところです。
具体的な仕組みとしてどうするかというところまで、詰めて考えているわけではないんですが、1つ言えるのは、差別の問題は地域の問題だという位置づけが必要なんだろう。そういうことを前提に考えたいと思っているところです。
以上です。
○棟居部会長 太田委員、お願いします。
○太田委員 川島委員にお尋ねをしたいんですが、虐待関係の組織との統合ということもおっしゃったような気がしますが、差別と虐待というのは基本的に違うものだと思い、もしそれが統合されてしまうと虐待ばかりが発動して、差別がそこに隠れてしまうような気がしないでもないんですが、どうなんでしょうか。
○棟居部会長 川島委員、お願いします。
○川島委員 川島です。
今の太田委員の懸念に対しては、今、私の中では、そうならないような制度設計をしていくべきである、ということしかお答えできません。
○棟居部会長 先ほど松井委員からお手が挙がってなかったですか。お願いします。
○松井委員 ありがとうございます。松井です。
山崎先生と植木先生にそれぞれお尋ねしたいんですけれども、山崎先生の先ほどのお話は、主に権利条約の国内的な実施機関ということで話をされたと思いますが、初めの部分の(3)の人権委員会のめどが立たない場合については、障害者権利(国内)委員会の設置を先行すべきではないかというのは、差別禁止法との関連ではないんですね。先生は差別禁止法の救済機関として、何か具体的にイメージされているものがあるんでしょうか。
今回のお話は、権利条約の国内実施ということで話をされたので、必ずしも差別禁止法の救済機関とイコールではないかもわかりませんけれども、そこはどういうふうに考えてらっしゃるのかをお聞きしたいということが山崎先生に対する私の質問です。
○棟居部会長 一度、それで切っていただいてよろしいですか。
○松井委員 はい。
○棟居部会長 山崎先生、お願いします。
○山崎委員 山崎です。ありがとうございます。
イコールでございます。私が考えているのは、33条の2項を国内実施するための機関であり、それは日本のどういう法で設置するかというと差別禁止法の中にそれを盛り込む。差別禁止法の実体規定の実施機関として、位置づけるという大前提で考えていました。ちょっと言葉足らずであったかもしれません。
以上です。
○棟居部会長 では、続けて松井委員、お願いします。
○松井委員 ありがとうございます。
ADAは、先ほどいただいた資料の6ページのところに、EEOCの行政救済の実績が出ておりますけれども、ADAとの関係で言えば、2008年に障害の定義が変わったということで、これはEEOCよりもむしろ裁判所との関係で注目されているのかもわかりませんが、先生のものは2007~2011年という締めになっていますので、定義が変わった以降に変化があったのかどうかということについて、これからはわかりませんけれども、もし何かわかることがあれば。
それから、先ほどもおっしゃったように、既に雇用されている方が解雇されることについては、差別かどうかということが割合はっきりするけれども、新規に就職したい人が平等な採用の機会を与えられているかどうかについては、なかなか難しい問題があるということで、そういう意味でADAは、新規雇用の場合についてはそれほど有効でないのではないかと、一般的に言われていますが、例えばアメリカで障害を持った人たちの失業率が、それ以外の人に比べて高い。ですから、ADAがあっても障害者の就業率を上げるという意味では有効ではない。
そういう意味で、日本の場合は雇用率制度があって、雇用率制度と差別禁止法をリンクすることによって、ADAではなかなかうまくいかないところが、より効果的に対応できるのではないかという意見もありますけれども、そこも含めてADAの有効性というか、特に裁判ではなくて、いわゆる行政救済で9割近くは対応していると言われていますが、日本の場合も差別禁止法の有効性を高めるためには、EEOCに相当するようなものを整備する必要があると思われますが、これは山崎先生がおっしゃったことにつながるのかもわかりませんけれども、そことの関連についてお話をいただければと思います。
○棟居部会長 植木先生への御質問ということで、植木さん、お願いします。
○植木准教授 植木です。御質問をありがとうございます。
まず1点目の御質問ですが、2008年の法改正の影響ということに関しては、実はよくわからないのですけれども、2009年以降申し立て件数が増えているというのは確かですので、2008年法改正による適用ということを期待した申し立て件数が、増えていることだけはわかります。ただ、それが結果にどの程度反映しているかは、ちょっとよくわからないところです。
それと、2008年法改正はそれ以前の行為には適用されないので、2008年法改正の影響が実態的にどういうふうに現れたかということに関して、今年の春ぐらいに1回調べてみましたが、判例上その適用の是非が問題になった判例を発見することができませんでした。というのが、まず1点目の質問に対するお答えです。
2点目に関してなんですが、確かに先生御指摘のように就業率が低いということが、まさに新規雇用も含めて妨げられている要因だということで、アメリカにおける議論では、実際にADAは新規雇用を伸ばす方向に働いていない。その一方で、合理的配慮が提供されたり、解雇が制限されたりすることによって、今、雇われている人の雇用関係はよくなっているはずだという議論があります。それは本当かどうかわからないのですが、そういうことを指摘している人がいるという状態です。
日本においてどうかということですが、当然EEOCに相当するような雇用差別禁止のための機関が必要だという点は、私もそうだと思います。ただ、アメリカのような司法省とEEOCという二本立ての制度設計は、まさにアメリカの歴史的な事情だとかに由来するものですので、統一的な国内人権機関があった方がいいのではないかと言われれば、今の段階では私もそうだと思っております。
ちょっとお答えになったかどうかわかりませんが、以上です。
○棟居部会長 植木さん、ありがとうございました。
ほか、御質問いかがでしょうか。浅倉委員、お願いします。
○浅倉委員 浅倉です。幾つかの点でコメントさせていただこうと思います。
1つは、先ほど東室長が、人権委員会ができた場合とできない場合と分けて考えなければいけないとおっしゃった点ですが、おっしゃるとおりだとは思います。ただ、できなかったときにどういうことが起きるかというと、今日の資料にもありますように、雇用に関しては既存の行政ADRがたくさんあって、比較的そちらの方で解決できるかもしれないけれども、ほかの分野は解決ができないということになって、分野によりアンバランスな制度になってしまうということになるでしょう。その辺りを考慮すると、当然、何らかの救済機関が必要だという議論になるのではないかというのが1点です。
2点目ですが、雇用に関しては厚生労働省の方で、御存じのように労働政策審議会の障害者雇用分科会が2010年4月27日に中間的とりまとめを出されて、その後も議論が進んでおります。そのときの議論では参考資料2の1つ目にあります、個別労働関係紛争の解決促進法にのっとってやればよいではないかという議論があり、それに対して、ほかの委員から、既に存在する紛争調整委員会だけでなくて、勧告権限や企業名公表等の権限の付与が必要だという意見がありました。後者の意見が採用されるべきだと私自身は思っております。
といいますのも、今日の参考資料2にありますように、個別労働関係紛争解決促進法と均等法を比較してみると、均等法の方が紛争解決に関して優れている点が幾つかありますので、むしろそちらの方を参考にすべきであると考えるからです。さらに、障害差別の紛争解決に関しては、障害を持つ人も参加するような仕組みにすべきだという意見も出されています。
均等法のどこが優れているかといいますと、1つには、都道府県労働局長が、助言、指導だけではなく、勧告もするという点が入っていることです。2つには、調停にかけるとき、必要がある場合には関係当事者の出頭を求めることができる、ということがあります。3つ目には、調停案を策定して関係当事者にその受諾を勧告することができる。これらは、いずれも、個別労働関係紛争促進法にはない規定です。
均等法の優れている点の4つ目ですが、どういうわけか3ページに同法29条、30条が入っておりません。均等法の29条、30条というのは、職権的な助言、指導、勧告でありまして、それができる。30条では、それに違反した場合には企業名を公表できる。そういう意味で均等法は優れた規定をもっているので、もし雇用に関しての救済機関は既存のものを利用すべきだということになった場合には、それらは、せめて均等法レベルでいってほしいというのが、私の今日の発言の2点目です。
発言の3点目ですが、今日議論になるかなと思っていたのですが議論になっていないので、ちょっと申し上げます。司法上の効力の問題です。差別禁止法ができれば、当然、司法的効力を持つ法律になるだろうということはこの部会では以前から言われております。しかし厚生労働省の第4回「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」の方の議事録を読みましたら、障害者雇用促進法の中に差別禁止条項を入れると、それに司法的効力を持たせるのは可能なのかということについて議論がされておりまして、どうも一律には可能でないかもしれないというあいまいな議論がされております。
私はこれに異論があります。どういう異論かといいますと、現在、均等法では「何々しなければならない」とか、「何々してはならない」という規定になっておりまして、これらはいずれも私法的強行規定であるということに争いは全くありません。ですから、障害者に関する差別禁止法ができたとき、その条文に反する行為がある場合には、法律行為としては無効になる、また、対象となる労働者に損害を与えれば、不法行為として賠償責任が発生する、さらに、それらに違反する就業規則については、労働基準監督署が変更命令を出すことができる、ということになると思われます。そういうことについては、学説上も全く異論がありません。したがって、差別禁止法に司法的効力を持たせられないという結論は、あり得ないというふうに思っております。
ただ、問題は先ほど植木先生もふれられ、また議論にもなりましたが、採用拒否行為です。採用をめぐってはたしかに問題がありそうだとは思います。すなわち、以前、山本委員も出されておりましたけれども、契約の締結を強制することはできるのかという議論です。司法裁判所を通じて締約強制をすることは難しいだろうという議論は、当然あると思います。ただ、その場合も、締約強制はできないけれども、不法行為にはなるだろう、すなわち、当然、違法な採用拒否があれば損害賠償を請求できるとは思います。
それからさらにいえば、こういう法律ができた後に、締約強制はできないけれども、既に契約内容になっていることを使用者が履行しない場合には、契約内容の履行請求をすることは可能だ、ということも言えると思います。例えば教育訓練というものが、当然、就業規則上に書かれていて、明示的に制度化されていれば、その訓練を差別されて受けられない労働者が、訓練を受ける契約上の地位にあるということを確認請求することはできる。ですから、使用者は、作為を命ぜられないということではなくて、やはり具体的な作為をすべきであって、労働者が教育訓練を受講する契約上の地位にあることを確認すること、それによって使用者は教育訓練を履行しなければいけない、契約上の義務があるということを言うことができるのではないかと思います。そういう意味で、私法上の効力が差別禁止法には当然付与されるべきであると考えます。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
今の点に関連してでも、それ以外の一般的な御質問でも。大谷委員、どうぞ。
○大谷委員 浅倉委員が労働の分野で丁寧に言ってくださいましたので、私も教育の分野に関して述べさせていただきたいんですけれども、浅倉委員が御指摘のように、ADRに関しては雇用・労働問題がこれだけあるのに、教育は一切ないんです。
では、一体どこでやっているのかというと、事実上、各市町村もしくは都道府県教育委員会の中にある就学指導委員会等々で、いろいろ調整、強制を含めてやられているのが実態なんです。
私は、そこは人権問題であると思うんですけれども、今日、法務省から配られた「人権の擁護」というものに、今の擁護局がとりまとめている相談の内容等、13ページに障害者について、どのような問題が起きていると思いますかというアンケートがあるんですけれども、実はここに教育が一切挙がっていないんです。ほかのアンケートでは、学校で差別されたとか、就学で差別された等々が挙がっているにもかかわらず、ここで取り上げられていない。人権擁護に関する世論調査でどうしてこのような結果が出てしまうのかと、私は不思議でしょうがないんですけれども、逆に言うと、教育におけるそのような学校もしくは教育委員会とのトラブルは、人権問題とすら意識されずに放置されているのではなかろうかと思ってしまっています。
今まで、障害者がどこでどういうふうに差別を受けましたかという当事者アンケートによれば、教育の段階でかなり大きなパーセンテージで出てくるのに、ここに挙がってないのは、私の勝手な憶測ですけれども、それしか考えられないなと思います。
私は、先ほども人権救済機関が用意されているということで、大いに期待はしたいんですけれども、このような事態の中で教育上の就学をめぐる、もしくは教育上の合理的配慮に関する救済が、本当にそこで救済し得るのかどうかに関しては非常に疑問に思いました。
我々がいつの時点でここに託そうと考えるのか、時間的な問題もありますけれども、そこに必ず障害者部局を入れろということが保障されない限りは、そこに託すのはなかなか難しいなと思いましたので、我々がこの禁止法をつくるときには、ある種担保的に教育も含めた救済機関を是非ともここに設置すべきだということを、用意しておかなければならないだろうと思っております。
特に教育に関しては、御存じのように特特委の方が、就学をめぐるトラブルに関しては、保護者の意向と教育委員会の意向が異なった場合に、どこでどのようにあっせんすべきかということはそれなりに審議しているようなんですけれども、何かしら教育支援委員会なるものを内部に設ける、教育委員会の中に設けるというような、より第三者性が担保されないようなものが審議されているようですので、そのようなものではなかなか救済し得ないということも意識すれば、我々の差別禁止法の中にも設けるべきだ、特に教育に関してはほかにそれがないということであるならば、私はなおさら意識したものを設けていただきたいと思いました。
○棟居部会長 ありがとうございます。
伊東副部会長、お願いします。
○伊東副部会長 伊東です。
救済機関が必要だということは部会全体の認識として共通に持っていると思います。先ほど来のお話で太田さんの方からの御提案にもありましたが、国レベルで1つの救済機関が設けられ、救済の手続に関することを統合的に行うのか、都道府県あるいは地域レベルでの対応も必要なのかという議論がありましたが、別のあり方も考えられる。私が知る限りでは、アメリカでは分野ごとにさまざまな機関が救済や調整機関の役割を分担をして対応している。例えば交通・運輸についてはどこ、教育についてはたしか教育省だと思いましたが、あるいは建築についてはどこというふうに、分野により救済や調整をする機関が分かれている。それは主として歴史的な経過から来ているようです。
特にEEOCのご紹介が本日詳細にありましたが、雇用・労働については、かなり長い歴史の中でつくられた既存の機関(EEOC)を有効に活用しているようです。我が国においても何もかもひとつの機関ということにこだわらず、既存の組織も活用することもあり、ということで、分野別、テーマ別に調整や救済に対応することも考えるのはいかがか。
大事なことは、差別や問題が現に発生、存在しているときに、よりスピードをもって解決する必要があるということです。時期を逸すると修復できない、追いつかない場合があります。スピードが要求される事態もあるので、既存の組織もうまく活用できる、そういう位置づけをする。
例えば雇用については、障害者雇用促進の組織、機関が現在もあるわけですから、そういったところも含めて役割分担、機能発揮をすることも必要ではないか。
だから、人権という視点だけで調整や救済を行うのは、実務的に無理があるのではないか。アメリカの場合では、最終的には司法省が強力な権限を持って乗り出してくるのが通例のようでありますが、それ以前に雇用、教育といった各専門領域の機関が機能することもあったほうがよい。EEOCの場合も訴訟に関しての付与権があり、EEOCは動かないけれども差別されたと主張する人に訴訟の妥当性を認める「権利」証書のような文書を添付して、裁判所に提訴すると聞いてます。
また救済機関の判断や対応には、地域が異なっても、共通の判断基準が担保されないと、格差がついてくるリスクもあります。
○棟居部会長 ありがとうございました。
では、池原委員。続いて山崎委員にお願いします。
○池原委員 池原です。
今日のいろいろな参考の御説明を伺って感じたりしたことについて、少しお話させていただきたいと思います。
1つは、山崎委員に御紹介いただいた、パリ原則に基づいて十分に独立性がある人権機関というのは勿論理想的であって、私もそういうものができることはとても望ましいことだし、最終的にはそこを目指していくものだと思っていますが、反面で東室長からも少しお話があったように、今の現実の状況の中で、三条委員会とか、独立性が十分に確保された委員会を改めて設置していくということの困難性もあるだろう。あるいは、そこに強く拘泥してしまうと、場合によると、差別禁止法全体が日の目を見ない結果さえも起こり得るかもしれない。ということを考えると、太田委員が提案されたような障害者政策委員会をある種の足がかりとして、当然地方にも政策委員会ができるはずですので、中央、地方を含めてその基本法が設定している委員会を1つの土台として利用していけないかという考え方は、かなり現実的な部分があるのではないかと思いました。
ただ、障害者基本法自体は、今のところ個別的な事案の解決をこの政策委員会にゆだねるという規定までは定めていないので、差別禁止法の方で特別な権限として創設する形になるのか、あるいは改めて障害者基本法の政策委員会の部分について一部法改正が必要であるのか、技術的にはまだ検討の余地があると思いますけれども、余り新しいものを独自につくるのではないという点では、現実性があるということが1つあるだろうと思います。
もう一つ重要なことは、障害者政策委員会は推進会議からの意向もあって、言わば障害のある人が多くを占めなければいけないという委員会構成になっていて、障害者権利条約の要請としては、監視過程にNGOの参加ということを求めるのが重要なポイントの中の1つとして指摘されていて、そういう意味では、この政策委員会の構成というのはその点にある程度応えられるものではないかと感じました。
更にもう一つ、太田委員が指摘されている1ページ目の地方と書いてあるところに、都道府県条例によって救済の仕組みが規定されているところでは、それを使ったらどうかということが指摘されていて、これは条例レベルでの権利救済機関を活用することとか、更にもうちょっと視野を広げて考えていくと、例えば幾つかの障害団体の方とか、市民グループで福祉オンブズマンというのを立ち上げていたりとか、あるいは権利救済のための権利擁護センターというのをつくっているところもあれば、あるいはやや手前みそですけれども、弁護士会は人権委員会というのを置いていて、こうしたNGOベースの人権救済機関というか、あるいは特に障害に非常に関連性を持ったNGOを基盤とした人権組織というものを使っていく、活用していくのも1つの方法で、例えばこれは個人的な思いつきの部分ですけれども、国法秩序としてのベーシックな権限は、障害者政策委員会が個別事案の解決についての調整とか調停の権限を持っているんだけれども、具体的に条例が設定している救済機関に権限を委任するという形、あるいは民間の福祉オンブズマンとか、権利擁護センターにそれをゆだねるという委任の仕方でNGOの力を活用することも、恐らく予算の上でも合理性があるだろうし、権利条約が求めている監視過程にNGOを参加させたいという要請も満たされることになるので、よい方向性ではないかと思います。
また、NGOが関わることによって、パリ原則が求める独立性というのとはちょっと違うと思いますけれども、ある種の権力性とか政治性というものからの距離がとれることになることも期待できるので、そういう方向を検討するのはいいのではないかと思いました。
引き続き、太田委員につくっていただいたレジメで言うと、2ページ目の個別救済に求められる機能のところで、これは植木先生がADAの経験などでも御紹介いただいたみたいな相談とか、調査とか、調停とか、あっせん、この辺りが比較的ソフトなケースでかなり有効な機能を発揮するという意味で、入り口の段階でなるべく早めに円満な解決が図れるという意味では、こういう権限を救済機関に十分に与えておくことは大変重要だろうと思うし、この権限の中の調査というところで、太田委員は協力義務ということについても指摘されていて、調査できるというだけだと、協力してくれなければそれっきりということになってしまいますが、一定程度の協力義務なり、協力に努めなければならないとか、何らか前向きの規定があれば、紛争が起こったときの早い段階でいろいろな資料を集めておくことが期待できて、最終的には紛争解決機関で解決に至らなくても、例えば将来、訴訟になったときのある種の証拠のベースを確保しておくこともできるという意味では、調査権限を充実させておくことも非常に重要なことだなと思いました。
それから、私としても太田委員の意見には賛成で、本来この紛争調整機関は裁定までできる、言わば単に話し合いベースで相手が嫌だと言ってしまったらおしまいという話ではなくて、最終的には調整機関、調停機関のようなものがこうあるべきだという決定を出せることが望ましいとは思いますけれども、この辺までいくと、現実に、そこまで強い権限を与えられるかという議論があるかもしれません。ただ、提案をしておくことは非常に重要なことだと思います。
最後にもう一つ、ADR的なものというのは、しばしば個別的な救済という機能に非常に関心が向くわけですけれども、それ以外にも非常に重要な仕事があって、特に国内人権機関の持っている重要な機能というのは伝統的な司法機関とは違っていて、要するに、伝統的な司法機関というのは、個別的な事件を解決するというのが基本的には伝統的な司法の権限ですけれども、国内人権機関は、例えば障害者権利条約に基づいて考えるとすると、こういう立法が望ましいとか、あるいは現にある立法の中のこういうものは改善されるべきであるとか、場合によれば議会で審議されている法案について、こういう方向性は本来の差別禁止法の観点からすると望ましいものではないとか、一定の意見表明なり見解を出せるという機能も非常に重要だと思うんですね。
そういう意味では、例えば太田委員が指摘されているような合理的配慮についての判断基準みたいなものをつくっていくとか、あるいは立法的な動向や現行法についての一定の見解を表明できる役割も併せて、この障害者政策委員会あるいはその中に置かれる救済機関というものの権限として、考えるといいのではないかと思いました。
以上です。
○棟居部会長 池原委員、ありがとうございました。
最後の点は、私もずっと頭の隅にあった点で、つまり障害者権利条約に限らず、国際人権条約を国内実施するときに、救済機関が一定のガイドライン化をしていく。そして、個別の紛争が起きる以前に示していくという意味での国内規範化。別の言い方をすると、単なる裁判の救済規範だけではなくて、国際人権条約あるいは権利条約を国内実施機関の行為規範として取り込んでいく。という必要があるかなと思っておりましたが、非常に話が大きくなります。
ということで、先ほどお手をお挙げになりました山崎委員、御発言をお願いします。
○山崎委員 何も問われてはいないのですが、報告の機会を頂戴しましたので。
この手の制度設計の話をする際は、やはりあるべき姿、理想論が一方の極にあり、もう一つの対局に、そうはいってもつくろうとしている国の現実論を踏まえなければいけない。私は両方の視点がとても大事だと思っています。
私が先ほど30分を頂戴してお話申し上げたのは、どちらかというと前者のあるべき姿論、こうした方が理想的だということを申し上げたつもりです。他方で、そうはいっても現実に定着していく場合には、無理なこともあろうということも十分には承知しているところです。そういう立場で、皆さんの御発言について一言ずつ意見を述べさせていただきたいと思います。
太田委員が出された意見書につきましては非常に包括的で、基本的に私が考えていることと軌を一にしておりますので、基本的には同感させていただいております。
川島委員がおっしゃっていた、仮に全般的な人権委員会が設置された場合でも、障害者問題に特化したものを全般的な人権委員会に担わせるのは荷が重過ぎる。そうかもしれません。これはしつらえの仕方、人員とか予算とか、どういう専門性のある委員ないしは職員を想定するかにもよりますが、現実論のことを考えますと、全般的な人権委員会と個別の障害者権利委員会を両立させるのは理想的ではありますが、なかなか難しかろうという気はしております。
その点との関連で、障害者政策委員会が国家行政組織法で言うところの八条委員会、これは内閣府設置法ですから条文は違うわけですが、多分37条になろうかと思いますけれども、ここに救済等の権限を期待することですが、現実論としてはあり得ると私は思います。
ただし、日本社会でございますので、今までの37条に基づいて設置されている、例えば原子力安全委員会とか、比較的最近できた食品安全委員会、こういったもののパフォーマンスについて、今、日本社会でどのような評価を得られているかというと、残念ながら高評価を得られているとは言い難いところがあると思います。だから、今後、障害者政策委員会もそういう憂き目を見るかもしれないとは言いたくないわけですが、組織的な位置づけとしたら、制度設計の段階ではそういうところにあるということを、私どもは強く念頭に置くべきであるということだけ、申し述べさせていただきたいと思っております。
それから、いろいろな方がおっしゃっているんですが、伊東委員さんがおっしゃいました、分野別の救済機関なりを積み重ねていくのがよいのではないかという御意見です。済みませんが、私は基本的に反対でございます。と申しますのは、やはり日本国憲法を頂点とした法令、加えて人権諸条約、日本国が義務化されているもの、さまざまな人権規範が日本法の中に定着しているわけですので、さまざまな人権課題を横に切った場合、焼き鳥のようにくしを刺したような視点を持つ国家機関といいますか、この際、国家の独立した機関が必要であると思っております。
説明の仕方はたくさんございますが、1つだけ申せば、やはり複合差別のようなものに直面されている方がいろいろなところに行って、なかなか十全な解決といいますか、十全な安心を得られないケースが多ございますので、この際あらゆる人権課題を統括するような独立人権委員会が必要になると思います。
加えて申せば、私もかつての政権党であった自民党の人権問題等調査会に呼ばれまして、人権機関一般についてお話申し上げたときに、そういうものは要らないというさまざまな議員さんの御意見の中には、まさに各法によってさまざまな機関ができているのだから、少し遅れるかもしれないが、新しい課題ができたときには積み重ねていけばよろしかろうと、国家機関、人権機関が要らないという反対論の有力な論拠としてよく言及されることもございますので、統括する必要はないという御意見とはちょっと違うということを申し述べさせていただきます。
最後でございますが、池原委員さんがおっしゃったこと、部会長もフォローされていたことは、誠に私もそのとおりだと思います。率直に申し上げますと、独立した国内人権機関は、今日の皆さん方の御議論は救済の機能の方にどうしても目が行くんです。これはとても大事なんですが、パリ原則の中ではどちらかというと補足的な原則でございます。パリ原則が求めている独立人権機関というのは、やはり人権政策提言ができて、それに基づいて人権教育プログラムが組めて、個別の事案解決もできるという三位一体の機能を持つ公的な機関が理想だと言っているわけです。
特に人権提言、政策提言については、先ほどの部会長さんの、必ずしも個別事案を踏まえないで事前にということもございましょうが、むしろ諸外国の国内人権機関の例を見ておりますと、個別に解決したAさん対Bさんというケースを匿名的に集めて、なぜこういうケースが起きるのかをその国の事情を考えて、法が悪い、あるいは法がない、きちんとした法があっても、それを実施していく行政のやり方がおかしい等々について、積極果敢に提言していく。つまり個別事案の積み重ねの知恵を、提言あるいは教育プログラムに反映していく。教育と、提言と救済相談、これらに有機的な連関を持たせている。やはりこれが独立した国家機関としての国内人権機関の妙味と私は思っておりますので、ちょっと大きな話になって恐縮ですが、そういう点では救済機能だけに特化しない形で、今後も三位一体で、例えば権利条約33条2項を踏まえた障害者差別禁止法の実施機関を、ここで議論していく場合でも、そういう形で念頭に置いていただければ幸いだと感じた次第です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
では、伊東副部会長、一言お願いします。
○伊東副部会長 今、山崎委員からお話がありました。私の表現の仕方がまずくて誤解をされたんだと思いますが、私は統括機関が必要ではないとは申しておりません。必要だと考えております。統括して基本的な判断や基準、レベルを保たないといけないので、それは絶対的に必要です。しかし、1つの機関だけで、すべての分野のことに対応することは、人材、資金、など非常に大変なことになると思うので、いろいろな機関を活用しながらも、国全体での統括機関が必要と考えています。全体のレベルを保つことを担保する、達成することと、対応のスピードも必要です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
もう物理的に時間が尽きております。ちょうどまとまりのようなお話もいただいたところだと思いますので、以上で第3コーナーを終了させていただくということでよろしいでしょうか。
それでは、ヒアリングに御協力をいただいた植木様、お忙しい中をありがとうございました。また、山崎委員もありがとうございました。
それでは、先ほど申し上げましたように、ここで東室長から今後についてのお話をいただきます。
○東室長 御苦労様でございました。担当室の東です。
障害者基本法の改正のうち、特に政策委員会に関する部分については、まだ施行期日が決まっておりませんでしたが、この部分に関しまして、施行期日を5月21日にするという政令が5月15日に決定されております。
併せて、従前の中央障害者政策推進協議会を政策委員会に改正する政令の改正が、同じ日に閣議決定されております。ですので、21日には障害者政策委員会が正式に発足したという形になっております。
ただ、実際に第1回をいつ迎えられるかということについては、まだ日程がきちんと決まっていない状況であります。したがいまして、障がい者制度改革推進会議のもとで開催してきた現行の差別禁止部会は、終了するといった形になります。
では、この続きはどうなるのということでありますが、たてつけとしては推進会議という親会と子どもの部会との関係と同じように、政策委員会の方で、この分野に関する専門部会を立ち上げるという決定があれば、そこでやるという形式をとることになるわけですので、近日中に政策委員会の第1回目が開かれるとなると、次回は政策委員会のもとでの差別禁止部会の第1回という形になると思っております。
次回としては、6月29日金曜日を考えておりますが、政策委員会の第1回の会議がその周りに開かれると思われますので、これが事実上の第1回になるのではなかろうかと思っているところです。
それ以降の日程としましては、以前アナウンスしたかもしれませんが、第2回が7月13日です。第3回が同じ7月の27日、第4回が8月17日、第5回が9月14日、第6回が9月28日という予定でおります。
以上が報告です。太田委員の方から最初に質問がありましたけれども、これでよろしゅうございますでしょうか。まだ何か足りない点があれば、言ってもらえれば。
○太田委員 政策委員会のメンバーは、どういうメンバーでしょうか。
○東室長 政策委員会自体のメンバーは、既に公表されております。30名ということになっております。今、ペーパーがありませんので全部を読み上げることはできませんけれども、見ていただければと思います。
差別部会に関しましては、政策委員会でそれを置くという決定をした後の話になりますので、今日の段階では決まってないということです。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、この部会は以上で終了とさせていただきます。本日の差別禁止部会の概要につきまして、この後、記者会見において私と伊東副部会長、東室長から説明させていただきます。本日は、お忙しい中をお集まりいただき、誠にありがとうございました。