【議事 「差別」の類型論を巡る論点(その3)】
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(東室長)第5回以降、障害の定義、差別の類型論、正当化事由、立証責任の分配等について議論してきた。今年度末には一定の中間まとめを出したいが、立法作業につながるものをまとめるのはまだ困難だ。今回はまとめる方向でフリートークをしたい。差別禁止法は、総論・各論・行政的な救済手続きの3つの柱があるとイメージしている。今日は総論部分について考えていただきたい。
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(発言)差別に出会った時に、救済機関や裁判所に訴えることができ、権利の回復や救済、場合によっては補償を勝ち取るための実効性を担保することが重要だ。今は、法的に訴えるすべが無いに等しい。障害者が差別を受けて悔しい、おかしい、納得できないと感じた時に、訴えるための法律と差別の類型が必要だ。
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(発言)障害者差別禁止法をつくる場合、行政救済や司法救済は可能になるが、気軽に相談、救済に持ち込める権利委員会のようなものが必要になる。差別禁止法に障害者権利委員会を盛り込むのか、あるいは救済機関の設置は別の法律になるのか。
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(東室長)皆さんで、決めて欲しい。法務省で人権救済法案の議論が進行しており、包括的にあらゆる事例を含み得るものが提案されているので、それができるのであれば規定はこちらで作り、手続はそちらに任せるという役割分担になる可能性がある。人権救済法案ができなければ、差別禁止法に行政救済のシステムを盛り込む必要がある。労働分野等のように個別の救済システムがあれば、そこにお願いすることもある。
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(発言)8月2日に法務大臣政務三役が基本方針を出したが、法案が出るのは早くとも来年の通常国会ではなか。部会としてどの段階で救済機関を人権救済法案に委ねると判断するのか、時期の見極めが難しい。通常国会に法案が出ない場合には、こちらで障害者権利委員会のことも考えた方が良い。
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(棟居部会長)障害者のために簡易迅速な権利救済を念頭に置かなければいけない。人権救済法が成立しても、障害者にとって使いやすいかはどうかをチェックしなければならない。
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(発言)前回の差別の類型化の議論について、類型化をした方が良いという考え方と早過ぎるという考え方があった。類型化に消極的な意見の理由は、概念が固まっていない段階で法文化すると類型と類型の間に隙間が生じて類型に当たらないから差別にならないということが起きないか、また想定外の差別事象をすべてカバーできるのかという危惧だ。他方、類型化が必要だという考え方には、将来に裁判所で条文が解釈されたり行政庁や民間企業が使う場合に、解釈の余地を残し過ぎると差別を無くす効果が損なわれるという危惧がある。
類型を示すことで逆に類型から外れる差別に対処できないという意見については、技術的に工夫できないか。すなわち差別の定義を示した後に、直接差別、間接差別、関連差別、合理的配慮義務違反を示し、最後にその他一切の形態の差別という補充規定を置けば、救済されない差別が発生することを防ぎ、類型化についての議論を克服できるのではないか。直接差別、間接差別の定義につては、議論をもう少ししなければならない。また、例外をどの程度認めるのかという問題がある。直接差別は例外を認めないとする意見、限定的だが例外を認めるという意見、類型によって冷害に違いはないという意見等がある。例外を認める要件を類型ごとに分類するとすっきりするのではないか。直接差別は例外なしか厳しくする、間接差別と関連差別は緩やかな基準にする、合理的配慮は過度の負担を課す場合は例外になるということは、概ね一致している。さらに、原告の立証責任の軽減については、何を請求原因として設定するのか、抗弁が出た時に反論できるのか等について、類型ごとに考える必要がある。
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(発言)総論においては、差別禁止法が何故必要なのかという議論は重要だ。障害のある人というマイノリティーのためというアプローチと障害は誰もが持ち得るという観点から普遍的な法であるというアプローチがある。差別禁止法に過度の期待をするのではなくその限界を認識し社会サービス等を含む障害者法体系における差別禁止法の位置づけを認識する必要がある。障害の定義については、法律学的定義と障害学的定義を分けて考える必要がある。差別とは何かについては各国の実定法を批判的に認識して議論する必要がある。なお差別類型論について挙証責任のレベルから手続的に分けるのは理解できるが、それによる弊害も検討しなければならない。総論においては対象領域についても議論しなければならない。各論では、教育や雇用等の各分野に固有の論理がありそれを踏まえた議論に委ねることになる。
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(発言)今の発言は差別の類型化に懐疑的だった。類型化のデメリットは何と考えるか。
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(発言)差別禁止を万全にするという観点で差別概念を明確にするためには類型は必要だ。しかしそれが挙証責任と結びつくと、間接差別は許されやすく直接差別は許されない等の技術論につながる。この技術論については諸国の判例等から検討しなければならない。
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(発言)差別類型は必要だが、差別類型に当たるかどうかを抽象的に議論することは意味がない。差別の類型は挙証責任との関係で意味が出てくる。直接差別について言うと、例えば障害を理由に特別支援学校が強制される場合、教育機関が合理的な理由を立証できない限りは、差別が推定される。間接差別と合理的配慮の不提供に関しては、例えばすべてのカリキュラムを履修できることが入学条件である場合は障害を直接の理由にはしていないが障害のある人には体育、音楽等の履修が困難な場合があるので間接差別に当たる。また医療的ケアが必要な子は普通学校に入れない場合は障害に起因する医療的ケアが理由になっているから関連差別と言える。ただ、新たに合理的配慮の不提供が差別だということになると、入学するために合理的配慮として要求したがそれが提供されないと差別だと主張できる。このように合理的配慮の不提供と関連差別や間接差別は重なることがある。差別を主張する側がどの類型を使うかによって相手方の抗弁も変わるので、差別類型が幅広くあって差別を主張する側が選べるようにするのがよい。
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(発言)差別禁止法は障害のある人たちに基本的人権があることを確認し、侵害された場合の救済のための法的な規範となる。差別とは何かを国民の共通認識とするため類型化を慎重かつ明確にする必要がある。差別禁止法の最大の目標は、差別禁止を必要としない社会をつくることにある。差別禁止法の理念を社会に浸透させることができる調整機関を作ることを前提に、その運用についても構想を持ちながら、法律を作ることが重要だ。
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(発言)類型論について挙証責任との関係で議論するのは本末転倒だ。類型論を含む総論の議論は各論を規定する時にも必要なので各論と並行して議論するか、または各論の議論の後でもう一回総論に戻る必要がある。差別禁止の目的は人権侵害を無くすことなので、差別事象を理解するための手助けとしての類型化でなければならない。
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(発言)何が違法な差別に当たるかの議論が類型化の議論の根底になければならない。性差別の分野ではかつて不法行為や公序違反という議論しかなかったが、男女雇用機会均等法ができて直接差別を禁止した。そして法改正によって間接差別の議論が出てきた。男女雇用機会均等法の発展過程と条文の仕組みも参考にして頂きたい。均等法は性別を理由とする差別の禁止を5条、6条で掲げている。間接差別については7条で「性別以外の事由を要件とする措置」という言い方をしている。障害者に関する差別については、合理的配慮を加えるという国際的な動向を採用すると同時に、間接差別の禁止も加えていただきたい。それによって差別の類型化通じ、何が差別になるのかという認識を広める契機にもなる。
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(東室長)何が差別か、その判断基準について、今日の議論で整理ができた。次回は類型論に基づくたたき台を出し、それを基に議論したい。
以下、「欠格事由に関するヒアリング」「条例に基づく救済に関するヒアリング」であるため、議事要録は作成いたしません。内容については議事録をご覧ください。