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第9回障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(2011年10月14日)
議事要録
【議事 「差別」の類型論を巡る論点について(その4)】
- (発言)これまでの議論を踏まえ「総則における規定の在り方・議論の整理のための参考に」をまとめた。障害者の定義は改正障害者基本法の定義を用いた。障害の定義は上記の障害者の定義の中身をピックアップした。過去や将来の障害、または障害がないにもかかわらず周囲から障害があるとみなされる場合も障害とみなすとした。差別の定義では、障害に基づくあらゆる形態の差別を包括する形でこれを禁止し、そのうえで4類型と2類型のパターンを用意した。その趣旨は、漏れが生じないようにすることと、1つの言い回しで類型全体を表現できるようにすることだ。4類型では直接差別、関連差別、間接差別、合理的配慮を行わないことを別個の類型として規定する。2類型は直接差別、関連差別、間接差別を一まとめにしたものと合理的配慮を行わないことだ。障害は女性や人種という属性以上に幅が広く、関係する事項が多いため、この一まとめには、差別の歴史的な基本概念である直接差別のみならず、関連差別、間接差別が含まれている。合理的配慮は障害者権利条約でも別個の定義が与えられているので、いずれのパターンでも独自の類型とした。
- (棟居部会長)大枠の方向性を御議論いただき、差別類型については4類型と2類型のいずれが望ましいか、その他であればどういうものが考えられるかについて、意見を集約したい。
- (発言)差別禁止法の立法化は日本ではパラダイムの転換を意味するが、差別や権利を好意的に受け止めない市民意識もあり、差別禁止法の成立までは困難な道のりだろう。だから、一般の市民、行政、政治家にわかりやすく、かつ今までの法律の流れから逸脱し過ぎない範囲で立法化されることが私たちの夢を現実にしていくことだ。差別の定義の4類型、2類型のメリット、デメリットについて御説明いただきたい。
- (発言)4類型に関しては、諸外国で既に法制度が整えられており、それぞれの差別がどういうものかがある程度明確になっているというメリットがある。また4類型が示されていると、差別の被害者が何を裁判で主張するのかわかりやすい。他方で、1つの事柄が直接差別と解釈されることもあれば、間接差別や関連差別と見られることもある。そこで、もう一つの案では、細かな分類をせず不均等待遇という言葉で表現することとした。以上のような意図から2つの案を提案した。
- (発言)別添資料「差別禁止法の総則における差別の類型化に関する規定のあり方」((1))を、先に紹介された「総則における規定の在り方・議論の整理のための参考に」((2))と対比して紹介したい。(1)は合理的配慮の形態という類型とそれ以外のあらゆる差別を含めた類型の2本柱が大きな枠組みで、後者を「障害に基づき、あるいは、障害に関連して、何人も、区別、排除、制限若しくは不利益な取扱い、(以下「不利益な取扱い等」)をしてはならない。」と規定した。(2)の2類型案は「障害又は障害に起因する事由に関連する」となっている。(1)の「基づき」や「関連して」、(2)の「起因する事由に関連する」という表現が、提案者の意図通りに直接差別、間接差別、関連差別を包摂する解釈されるかが問題だ。(1)の「区別、排除、制限若しくは不利益な取扱い」に対し、(2)は「取扱い又は規定、基準若しくは慣行の適用が・・平等な機会の享受を妨げ又は不利益を与える・・」となっているが、(2)の4類型の間接差別では「外形的に中立的な規定、基準又は慣行を適用する」なので、「規定、基準若しくは慣行の適用」と書いた方が間接差別も含むと読めるかもしれない。また(1)の「区別、排除、制限」より(2)の「平等な機会の享受」の方が広い意味を持つのか、広過ぎてわかりにくいかもしれない。
ただし書きは、(2)は「目的が正当であり、その目的を達成するうえで、必要かつ適切な手段である場合」は差別にならないことがあるとしているが、(1)は「目的を達するために、必要やむを得ない場合」とした。(2)の4類型案では直接差別に例外を認めていないが、直接差別と間接差別と関連差別をまとめると、直接差別にも例外を許す場合があるという問題がある。
合理的配慮について(2)では「障害者が他の者と平等な機会を享受することができるように、その者に必要に応じて現状を変更すること(以下、「合理的配慮」)という。」と合理的配慮を定義しながら規定するのに対し、(1)では「平等に権利を行使し、または利益を享受する機会を保障する」として「機会」の中身を説明した。(2)の「することができるように」という表現は、持続的継続的に合理的配慮が必要だという趣旨を読み込めるようにしたものだ。(1)は「現状の変更又は調整(社会的障壁の除去もしくは人的及び物的支援を含む)」で、(2)は「現状を変更すること」となっており、シンプルな表現でよいか、たくさん書くのがよいかという問題だ。合理的配慮の例外規定について、(2)では加重な負担が生じる場合とし、(1)は業務の本質を損なうとか、業務の遂行が著しく困難になる場合としている。中身は恐らく同じことだが、実際の裁判等で「加重な負担」だけで明確か、かみ砕いて書く方がよいのかという議論だ。
- (棟居部会長)(2)は他国の立法例を参考にして作成されており、(1)は独自に作成されている。(1)の「区別、排除、制限」はどういう意味か。
- (発言)現実の訴訟の場面では障害のある原告は区別されたことを証明すれば、例外的な許容事由がない限りは違法な差別になるという趣旨で、(1)を規定した。
- (棟居部会長)必ずしも不利益を伴わなくても、区別それ自体が差別という解釈の含みを残す意味で、「区別、排除、制限」をセットとして「不利益」と分けて書いたという説明だ。
- (発言)権利条約では、区別、排除、制限があって、障害のある人が他の者と平等に人権と自由を享受することを妨げるものを差別と言っている。4類型論はイギリスの2010年平等法を下敷きにしており、直接差別に該当すれば抗弁できず、関連差別と間接差別は同じ抗弁事由を認める。英国では関連差別は比較対象者を認めないが、間接差別は比較対象者と比べて不利益を被ったことを証明しなければいけないため、関連差別を使う人が多いと言われている。一つの事例でも見方によってはいろんな差別類型に該当する。直接差別、関連差別、間接差別は、機能としては似ているので不均衡待遇という形でまとめ、合理的配慮は次元を異にするので別立てにするというのが2類型案だ。
- (発言)わかりやすくシンプルな法制度という立場なので2類型案がよいと思うが、直接差別の抗弁事由が生じることについてどう考えるか。(2)に「・・目的が正当であり・・必要かつ適切な手段である場合はこの限りでない」とあるが、障害者差別をしている積りでなくても「正当な理由」らしきものを提示して排除するのが差別だ。何が正当な理由で、何が正当な手段で、何がやむを得ない事由なのかを、議論する必要がある。
- (発言)(2)に関して意見を言う。差別禁止法をつくるに当たっては、裁判での規範性や実効性の確保、各関連法律や制度との整理、わかりやすさが重要だ。そうした観点から、差別禁止法で規定する障害者の定義は改正された障害者基本法に準じた定義でよい。また(2)の障害の定義には、現在、過去、未来の障害が明記されていることと、障害者手帳や障害者としての認定がなくてもよいというみなし規定があるのでよい。障害に基づく差別は法律としての実効性、規範性が担保できれば2類型がよい。法律に盛り込む部分と政省令などで盛り込む部分は今後の議論の中で整理する必要がある。
- (棟居部会長)他国の例でも、はじめに直接差別があってこれを逃れる格好で出てきたものを後追いでカバーしていくと類型が増える。抜け道を許さないような規定ぶりにすれば、たくさん並べる必要はないということで、2類型案で一致できるのではないか。
- (発言)2類型でいいが、合理的配慮が提供されないこと自体を差別ととらえるのか、合理的配慮が提供されないことによって実際に差が生じていることを差別と考えるのか。後者ならば直接差別なので合理的配慮をつくる必要はないという意見もある。
- (棟居部会長)今まで排除していたのでこれはしてはいけないという意味の差別の禁止までは理解されやすいが、合理的配慮として新たに何かしなければいけないということになると、抵抗感や経済的な負担が出てくる。合理的配慮という従来なじみのない考え方を、日本の法体系で整合的にどう位置づけていくかという問題がある。これまでの議論により2類型案で一致を見ているが、この場合例外が直接差別にもかぶる点をどうとらえるか。
- (発言)2類型案に1つ項目を設け、直接差別的なものには正当化事由を認めないと付加すればよい。
- (発言)2類型で異議はないが、できるだけ規範性が高く差別とは何かがわかる条項が必要だ。その意味で権利条約が用いている「区別、排除、制限」は例示するべきだ。例えばプールで生命、安全を維持するために、障害のある子どもだけが赤い帽子を被せられるという区別は差別事例にあたる。排除、制限も不利益取扱いを想定している。ただし書きについては「適切な手段」とすると意味が広がりすぎるので、「必要やむを得ない場合」には例外的に許される場合があると狭く解釈するべきだ。
- (棟居部会長)(2)には差別禁止がはっきり出ていない。不均等待遇ではあいまいではないか。(1)には障害のみを理由とする差別はしてはならない等の原則規定的なものを入れてはどうか。障害者権利条約を反映した「区別、排除、制限」が日本の判例になじむかは考えなければいけないが、このような直接差別的な響きのある言葉は取り入れるべきだ。(1)(2)それぞれの2類型案のメリット、デメリットの検討に入ってはどうか。
- (発言)今は差別禁止法体系の総論部分を議論している。(2)の2類型案でいう、正当な目的を達成するための必要かつ適切な手段の内容などは、労働や教育やサービスによってそれぞれ事情が違う。また、合理的配慮の「現状を変更すること」も裁判規範性が持てるようにそれぞれで具体的に議論する話だ。
- (発言)差別禁止法は国民に広く理解されやすい表現であるべきで、一部の法律専門家しかわからない日本の法律は誤解され、障害のある人への差別の解消を妨げている。差別をなくすために2類型でも差別とは何かを明確にする必要がある。障害の定義で「障害があると他者から見なされている場合」とあるが、みなされていることが明確でない場合等もあるので、この点を配慮していただきたい。合理的配慮の中身を国民に理解されやすい表現にし、実態として差別が禁止されるよう議論していただきたい。
- (発言)2類型の方がわかりやすい。ただ間接差別を禁止するために、差別的効果をもたらすものはだめと読めるような条文化をした方がよい。障害者権利条約第2条では「効果を有するもの」という表現で間接差別を表現している。関連差別は相手が障害を持っていることを知っている場合に生ずるので、間接差別の禁止規定によって障害者であることを知らなかった場合も差別として禁止されるような条文にするのがよい。
- (棟居部会長)わかりやすいという利点を有する2類型に集約していくことを一応の結論とさせていただきたい。
- (発言)2類型で集約するということだが、これも仮置きだろう。この仮置きの基は(2)の2類型だと思うが、これの取扱いをどうするのか。
- (東室長)ほかの方の意見と同じ扱いという形で、何らこれに拘束された議論をするわけではない。2類型を中心に更に問題点を詰めていく形で議論が進んでいくのではないか。
議事 雇用、就労における差別について
- (東室長)平成20年、厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部では、障害者権利条約の早期締結に向けた検討を進めるに当たり、職場における合理的配慮の提供というこれまでにない概念について、障害者雇用促進法制でどのような措置を講ずべきかの考え方を整理するために「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」が設置された。この研究会は平成20年4月から検討を開始し、平成21年7月8日付の「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応について(中間整理)」がまとめられた。労働政策審議会の下にある障害者雇用分科会では、研究会の中間整理を踏まえ、平成22年4月27日「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する中間的な取りまとめ」をしている。その概要は次のとおりだ。
「第1 基本的枠組み」で、労働・雇用分野における障害を理由とする差別の禁止及び合理的配慮の提供について、実効性を担保する仕組みを含めて国内法制に位置づけることに異論はなかった。また、差別禁止等の対象とする障害者の範囲は、現行の障害者雇用率制度の対象より広範囲なものとし、障害者雇用促進法第2条に規定する障害者とすることに異論はなかった。事業主の範囲に関しては、労働者代表委員からは差別禁止を義務づける事業者はすべての事業主とすべきとの意見が出され、使用者代表委員からは、とりわけ中小企業主については職場の就業環境や公的な支援機関の整備なども勘案し、段階的な実施を含め配慮が必要との意見が出された。「第2 障害を理由とする差別の禁止」では、障害を理由とする差別を禁止することに異論はなかった。差別禁止対象としては、募集・採用の機会、賃金その他の労働条件、昇進・配置その他の処遇、教育訓練、雇用の継続・終了(解雇・雇い止め等)が考えられるとの意見が出され異論はなかった。「第3 職場における合理的配慮」では、障害者への職場における合理的配慮の提供を事業主に義務づけること、相談体制も含め合理的配慮が適切に提供される仕組みを検討する必要があること、事業主の負担に関して事業主にとって配慮の提供が過度の負担となる場合には合理的配慮の提供義務を負わないことに異論はなかった。「第4 権利保護(紛争解決手続)の在り方」では、紛争解決手続について企業内での労使の話し合い等によりできる限り自主的に問題が解決されるべきであること、自主的に解決しない場合は外部の第三者機関による解決を図るべきだが刑罰法規や準司法手続のような形ではなく調整的な解決を重視すべきだとの意見に異論はなかった。また、外部機関等については紛争の早期解決、実効性を考えると既に存在する紛争調整委員会を活用することが妥当だとの意見が出され、異論はなかった。以上のように、公益委員、労働者委員、使用者委員の3者間で合意いただいている状況で、障害者の権利条約の締結に向けた大きな動きだ。中間まとめの冒頭には「障害者雇用促進法の改正を含めた対応を図ることとするため」と記載されている。
差別禁止法は障害者の主要な生活分野を網羅するので、雇用促進法に労働分野の差別禁止が盛り込まれても、差別禁止法の各論で労働分野に触れないことはできないだろう。反面、差別禁止を労働分野に持ち込む場合、合理的配慮の実現へのプロセス、仕組みや紛争解決の在り方等は雇用促進法で考えていただくことも1つの方向だ。この部会では、差別禁止法で労働分野に触れる場合の、雇用促進法との住み分けについて議論していただきたい。総論の差別や差別禁止規定が労働分野にも及ぶ点等基本的な事柄や雇用促進法の枠組みで対象にできない分野は差別禁止法で書く等の議論があるだろう。
- (発言)労働・雇用に関して雇用促進法との住み分けを議論することに異論はない。差別禁止法は生活のあらゆる分野に渡るとのことだが、だとすると教育、交通アクセス、建物等他の分野でも同様の考え方をするのか、それとも住み分けの議論は労働・雇用分野だけなのか。
- (東室長)分野ごとに法体系や課題とされている事項に違いがあるので、一律に進めるのは無理だ。日本では分野ごとの差別禁止法制は発達していないので、差別禁止法で分野毎に必要な規定を置く必要があるだろう。ただ、雇用分野では女性に関して差別禁止の法制度があるのですり合わせが必要だろう。
- (発言)現政権が障害者制度改革を進めようと、障害者基本法改正、総合福祉法制定、差別禁止法制定に取組んでいると理解している。そういう中なので、厚生労働省や文部科学省は私たちと連携をとって調整をしながら政策を進めていただきたい。
- (発言)「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」について紹介する。11回開催されてまとめをつくったが、両論併記の形で結論はでていない。研究会のまとめを踏まえて大枠は分科会で決め、合理的配慮の内容に関するガイドライン等は研究会で検討することになっている。「障害者の範囲」について、事業主団体から障害者であると分からず合理的配慮をしないことで訴訟になると困るので、障害を確認できるものがほしいという意見があった。「雇用の範囲」について権利条約27条ではあらゆる形態の雇用として自営、協同組合、福祉的就労等も含まれるとされているが、厚労省の議論は雇用関係がある場合に限定されており、あんま、針、きゅう等の自営については検討が必要だということになった。「労働条件の差異」について、合理的配慮が提供された上で労働能力が適切に評価されたのであれば差異があっても差別には該当しないとの意見や、差異がなくとも合理的配慮をしないことは差別なのかとの疑問が出された。「差別が禁止される事項」では採用差別について議論があり、日本では裁判所が採用の自由を重視しており、企業も採用の際に制限が加えられることに抵抗があるとのことだった。「職場における合理的配慮」については法律では概念を規定し、具体的な内容は指針等で規定するべきとの意見があった。「合理的配慮義務」を労働基準法で規定すると刑罰法規なので狭くとらえられ、本来の趣旨が生きないとの意見があった。「通勤時の移動支援や身体介助」は福祉サービスとして提供するのが妥当との意見がある一方、労災は通勤時の災害にも対応し通勤は勤務と連動するから労働政策として行うべきとの意見もあった。「過度の負担」については、労働関係の助成金等は期限付きだが合理的配慮にはパーマネントに必要なものもあるので、枠組みの見直しが必要だが費用が問題になるとの意見があった。「権利保護、紛争解決の手続の在り方」は外部機関等に解決を委ねる前に企業内で解決できる仕組みとすべきとの意見があったが、どの時点で外部に委ねるのかは意見が分かれた。「紛争解決手段」については新たに国、行政から独立した第三者機関としてつくる必要があるとの意見と、労働審判や紛争調整委員会のような既存の仕組みを活用し障害当事者が参画できる委員会構成を含めて検討すべきという意見があった。「障害者雇用率制度」について、重度障害者のダブルカウントは差別を感じる障害当事者が多いことや運用上一般社員への門戸が狭められる、又は一般社員との職場の分離が定着する等の実態を見直す必要があるとの意見があった。その他、あんま、鍼、灸、マッサージ等の自営業でも合理的配慮は必要だがフォローされていないという意見や、福祉的就労や職業訓練センター等でも合理的配慮が必要だが障害者雇用分科会ではテーマになっていない等の意見があった。また、差別禁止法が関わる各分野の法律の見直しをどう進めるかについてもヒアリングで関係団体から問題提起されていた。
- (発言)研究会や分科会で傾聴すべき提言も出されていると認識している。一方で、推進会議の役割と差別禁止部会の任務と目的を考えれば、差別禁止部会できちんと議論をしたい。目的は障害者制度改革であり権利条約が国内政策にどう担保さるかが問われているので、差別禁止法は救済を目的とする法制度であることと他省庁で議論されている問題を共有しながら、全体的な整合性をつけた政策の実行が必要だ。
- (発言)障害者雇用促進法と差別禁止法は法的な論理が異なるので、労働分野についても労政審の議論を踏まえつつ差別禁止法で規定するべきだ。労政審の分科会では障害者の範囲を雇用促進法第2条に規定する障害者とすることに異論はなかったとあるが、差別禁止法では過去、みなし、障害者の関係のある人に対する差別も禁止することを議論している。このように対象の範囲自体が異なるので、論理の違いを意識した議論をするべきだ。
- (発言)障害者基本法の障害者と差別禁止法における障害者、雇用促進法の第2条の障害者は一致しているのか。また、雇用促進法で合理的配慮義務の規定は可能か。雇用促進法の対象は事業主であり、職場介助者の設置の規定についても事業主が従業員のために設置する時に補助金を付けるというもので、従業員に職場介助者についての請求権はない。労働者に差別の是正を求める地位や権利を、雇用促進法の体系に取り込むことは可能なのか。
- (発言)障害者の範囲について、雇用率制度の対象と雇用促進法第2条の障害者は違う。雇用率制度の方は細かく規定しているが、第2条の方は幅広くとらえている。雇用促進法で合理的配慮義務を規定することについては、行政サイドのイニシアティブで進める従来のアプローチではできないだろう。合理的配慮は、個々の障害のある従業員が自分にどういう配慮が必要なのかを発言する、あるいは代弁してもらった上で対応するというアプローチなので、かなり法律を変える必要がある。労政審の分科会でもまだ結論は出ていない。
- (発言)障害者雇用促進法の改正によって障害者権利条約に対応するという議論は、厚労省が障害者雇用促進法を改正して雇用における障害差別禁止法を新たにつくるということか。障害者雇用促進法は差別禁止法とは異なるが、権利条約を批准するのだからこの法律を抜本的に変えて雇用に関する障害差別禁止法をつくるということなら、盛り込むべき内容について議論するメリットがある。雇用分野の差別禁止法を新たに作らないなら、こちらは独自に議論を進めた方がよい。
- (発言)ポジティブ・アクションである現行の雇用率制度と差別禁止のアプローチの両方が必要だという点は共通認識だ。
- (発言)障害者雇用促進法は差別を禁止するより、障害者が雇用されるために必要な環境を整備するべきで、障害者が合理的配慮を求め事業主が提供する関係の中で生じる問題の解決についても含むだろう。差別禁止法では採用方法や採用後の処遇、障害者が働く上で不利益な扱いを受けてはならないということを定義し、雇用促進法ではガイドライン等の形で合理的配慮の事例を挙げ、環境を整えるべきだ。
- (発言)雇用促進法では在宅就労をしたいと障害のある人が求めても、それをするかどうかは使用者の自由裁量だ。条約が求める合理的配慮はそれをしないと差別になり、裁判にも訴えることができる。差別禁止法をつくるのはそういうことで、雇用促進法とは論理が違う。雇用促進法に差別禁止法の要素を入れることのデメリットは障害の定義によって対象が制約されることだ。諸外国では国等から財政的支援を受けた場合は合理的配慮の抗弁が制約されるところもあるので、納付金制度の助成金を活用して合理的配慮をする企業を支援することも考えられる。その際、納付金制度の赤字を立て直すために法定雇用率を上げる等、雇用促進法と差別禁止法の連携を考えることが法の実効性を担保する上で重要だ。
- (発言)雇用促進法の改正ではなく、差別禁止法をベースにした新しい障害者の雇用制度をつくるべきだ。現状の障害者雇用は雇用率をメルクマールとし、所得等の就労実態の質が低いことを直視していないので、この点の差別を解消すべきだ。労政審障害者雇用分科会中間まとめでは、禁止すべき差別の対象として、募集・採用の機会、賃金その他の労働条件、昇進・配置その他の処遇、教育訓練、雇用の継続・終了などを挙げているが、この項目すべてで差別が存在しており、現在の制度そのものに不利益や差別の原因、要因が存在している。障害者の最賃除外規定や特例子会社によって企業に二重賃金制度を生む実態や、授産施設(無認可施設を含む)などでは「賃金」として月平均1万2,000円しかもらえない人たちを福祉的就労の名の下に約20万人も残していることは差別を生んでいる。障害のある人の雇用や労働の在り方についての理念を確立し、差別のない雇用や労働条件を実現することを労政審に期待したいが、差別禁止法でも理念を明確にし、障害者の雇用の差別をなくす方向に進むべきだ。「過度の負担」と「加重の負担」という言い方があるが、どう違うのか。
- (東室長)この部会は障害者への差別を禁止する実効性のある法律を新しくつくろうとしている。一方、厚労省では雇用促進法の改正の中に入れ込む動きがある。お互いの状況を共有しながら、差別禁止法の労働の各論に何を書くかを議論してほしい。議論の中で、現行の雇用促進法について、定義の問題や差別的運用があるとの指摘等様々な意見があるだろうが、この部会は雇用、就労一般の議論ではなく差別禁止をどう確保するのかという議論に集中してほしい。その際、雇用促進法の枠組みから漏れる部分があれば、それはこちらで書くということもある。
- (発言)労政審障害者雇用分科会中間まとめで「第2 障害を理由とする差別の禁止」として「2 禁止すべき差別」が例示されているが、あらゆる段階で差別が禁止されなければならないことは差別禁止法に明示されるべきだ。合理的配慮について、同中間まとめでは「基本的な考え方」として具体的な指針が示されているが、これも差別禁止法の雇用における各論に条項化されるべきだ。その上で、個別の合理的配慮の策定に関しては、雇用促進法等の労働法で決められるということだ。差別に関する紛争が発生した場合、労働法で積み上げがあるのでそこで取り扱うとすると、差別禁止法に盛り込まれるべき内容は雇用率を達成するための是正措置等アファーマティブ・アクションは差別ではないという条項を設けることではないか。各論の細かい点は労政審の議論にもっと委ねるのがよいのではないか。
- (発言)個別法に委ねられる部分は大きく委ね、個別法から漏れるものは分野横断的な差別禁止法で拾う。トータルで差別禁止の絵を描くことが、今、動いている枠組みを十分に活用するということではないか。研究会では採用に関しては意見の一致は見なかったとの報告があったが、労政審障害者雇用分科会中間まとめでは募集・採用を合理的配慮の対象にすると位置づけられている。また、これは平成22年4月27日にまとめられたおり、この後、基本法の改正や福祉法の動きがあるので、今の中身で評価するのは割り引いていただきたい。
- (発言)教育における差別とは何か、雇用における差別とは何かが明確にわかる条文が差別禁止法に入ることは必要だ。
- (発言)法定雇用率を中心に置いている雇用促進法は福祉的なアプローチなので、差別禁止法に対して障害者雇用促進法が個別法としての位置づけを持てるかどうか疑問だ。男女雇用機会均等法に障害のある女性についての特別な差別禁止規定が入るのは違和感がないが、雇用促進法は法の性質が個別法としては違うのではないか。
- (発言)障害者雇用促進法は雇用率を定めた雇用促進のための法律で、司法的効力はない。差別禁止法の個別法は司法的効力を持った雇用に関する差別禁止立法でなければいけないが、雇用率との関係をどうするかが問題だ。雇用率の規定を維持すれば、雇用差別禁止法と雇用促進法が並び立つ可能性があり、また障害者雇用差別禁止法に雇用率をポジティブ・アクションとして規定する体系もあり得る。いずれにしても障害者雇用促進法の抜本改正が必要だが、障害者の範囲も差別禁止法とは違い、両者の仕組みについての議論が必要だ。
- (発言)障害者雇用促進法は差別禁止ではないが、障害者が働くための合理的配慮を確保するための法だと言えるのではないか。そして過度な負担については、助成金で国等が支援することにしてはどうか。差別禁止法は規範性を持つ法律として位置づけ、各分野の法律にはその理念を反映して紛争解決等その分野の問題を解決するための仕組みを盛り込んではどうか。
- (発言)これまでの議論は、労働分野の差別禁止法制をどこで規定するのかということで、雇用促進法で規定することが直ちに矛盾するという主張は聞こえなかった。ならば、雇用促進法で差別禁止体系としての規定を設け、盛り込めない部分は新法で規定するのか、差別禁止法で規定するのかという整理をしないと、住み分けの議論は前に進まない。
- (発言)障害者雇用促進法はポジティブ・アクションとして障害者権利条約の下で許容、奨励されている措置だが、差別禁止法に抵触する点は修正されるべきだ。ここでは、全般的な差別禁止法を議論しており、障害者雇用促進法の趣旨、目的とは違う議論をやっている。しかし、議論を労働分野に限定すれば差別禁止法と雇用促進法が相互に関連し合う。こうした関係を明確にして議論すべきだ。
- (発言)障害者基本法の改正を受けて関係法律が改正された。権利条約に照らして各法も改正され、差別禁止の概念が入ることは不自然ではない。また、雇用促進法でいえば経済団体や労働界の関係者の方々、教育関係の法律でいえば教職員の方々など関係者に差別禁止の概念を徹底しなければならない。各法で障害者の権利や差別禁止を規定し、差別禁止法は問題が生じた場合に救済を申出たり裁判所へ訴えられるような被害者救済が制定の趣旨だろう。
- (棟居部会長)多くの意見は、差別禁止法で権利救済規定を置きそれを軸にすべきとのことだった。権利規定は救済の問題と結び付いているが、労働法制は救済について独特の成熟した仕組みがある。しかし権利なき救済という側面があるので、差別禁止法からすると違和感があるということだ。
- (発言)他の差別と雇用差別が一番異なるのは紛争解決手続ではないか。既存の紛争調整委員会を活用した方がよいが、課題はある。現在、労働関係の紛争では2つシステムがあり、1つは個別労働関係紛争解決手続法の紛争調整委員会だ。ここであっせんをするが、未解決なままで行政機関による解決に至らないことが多い。その場合、均等法やパート法、育児・介護休業法は調停のシステムを持っているので、障害差別でも調停を申請し紛争調整員会が調停案を提示してまとめる手続は整備するべきだろう。もう一つのシステムは司法救済で、労働審判法が2004年にでき、裁判所で労働者委員、使用者委員、裁判官の3者構成で紛争の審判をする。ただ3日間で実施できるものに限定されているので、差別の問題が3回の期日で解決できるのかが問題だ。また、障害者が関与できるシステムをつくることも考えなければいけない。
- (発言)差別があった場合の救済方法は人権擁護法に委ねるのか、障害者差別禁止法に横断的な解決方法を規定するのか、全部個別法に任せるのかについて議論していただきたい。
- (棟居部会長)具体的救済については、来年の予定だ。
[以上]
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