(齊藤企画官)第14条 医療、介護等 5項を新設し、「人権に十分に配慮」だったのを「人権を十分に尊重」と変更した。また、精神障害者の強制措置入院の適正手続の保障や社会的入院の解消などについては、基本法の構造上、個別の障害種別に特化した事項を定めることは難しいので、5項で主として精神障害者の問題を念頭に置き、人権尊重規定を盛り込んだ。
第16条 教育 現行法の「年齢、能力、障害の状態に応じ」という医学モデル的な視点を社会モデル的視点へ転換させるのに伴い「障害の特性」という用語を用いた。これは障害の状態だけでなく、学習する上での障害ゆえの困難や必要な支援まで含めた概念として創設した。第1項は、可能な限り障害者である児童及び生徒が、障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、必要な施策を講じなければならないという内容である。第2項は、本人または保護者が特別支援教育を望む場合でも、交流や共同学習を通じて相互理解を促進するとしている。1項と2項を合わせてインクルーシブ教育システムを規定している。第3項では、第1項と第2項を実施する上で必要となるインフラとして、調査研究や、人材の確保、資質向上、施設整備その他の環境の整備(教材などのソフト面など)と書いている。
第17条 療育 障害のある子どもに関して「医療、介護等」「教育」と内容が重複しない新しい概念として「療育」を新設した。この規定は障害のある子どもが施策対象なので保護者についての記述は削除したが、「これに関連する支援」として保護者への支援まで含むこととした。
第18条 職業相談等 第1項の「障害者の多様な就業の機会を確保する」は前回提案では「職業選択の自由」の例示として書いていたが、国及び地方公共団体が施策を講じて対応すべき内容であるという考え方から位置を移動した。第2項について現行法では「障害者に適した職種及び職域に関する調査及び研究を促進」とあるが、そうではなく障害者の多様な就業の機会の確保を図るための施策に関する調査研究という形で整理しなおした。本条第1項の「個々の障害者の特性」は、社会モデルへ転換したことに伴い、障害の状態のみならず障害ゆえに職業生活上どのような困難を有し、どのような支援が必要となるのかまで配慮をするようにという趣旨である。
第19条 雇用の促進等 第1項で「国及び地方公共団体並びに事業者における」を加え障害者の雇用促進の対象が官民全体ということを明確にした。前回はあった「特性を踏まえつつ」という表記を削除したが、総則から社会モデルは反映されている。「特性を踏まえ」と明記している箇所はその具体的内容が想定されるが、ここは明記するだけの具体的内容に乏しいため削除した。「優先雇用その他の施策」には国及び地方公共団体が障害者雇用の促進のために講ずるものはすべて含む。障害者施策と福祉施策の一体的展開という議論があったが、法律の構造上、重複することを複数の条に規定できない。労働施策と福祉施策が規定され、10条で「有機的連携の下で総合的に、策定され、及び実施されなければならない」とあるので、一体的展開の趣旨は担保されている。具体的なことは、障害者政策委員会等の場で必要な施策を議論、推進される。
第21条 公共的施設のバリアフリー化 現行2項の「社会連帯の理念に基づき」は共生社会の実現という、これを包含するより高次の法目的に変えたことから、削除した。地域間格差是正の観点から合理的配慮の必要性を盛り込むべきとの議論については、総則で合理的配慮が基本原則になり、国は当該基本原則に則り共生社会の実現を図るという仕組みになっている。どのような合理的配慮が必要かについては、差別禁止部会で議論していただく。
第22条 情報の利用におけるバリアフリー化等 情報アクセスの重要性の議論を表現するため情報の取得を明記し、条見出しも「・・バリアフリー化等」と「等」を加えた。
第23条 相談等 「障害者及びその家族による相談」を盛り込むべきとの議論は、現段階で国及び地方公共団体にピアカウンセリングを義務化することが困難との判断から、反映できなかった。ピアカウンセリングの有効性、重要性は認識しており、各地の取組みや今後政策的に方向性を拡充していくことを否定する趣旨ではない。
第26条 選挙等における配慮 被選挙権についても記述するべきとの議論に関して、三権分立という観点から被選挙権を政府提案で具体的に提案させていただくのは難しい。
第27条 司法手続における配慮等 刑事手続のみならず民事事件等の当事者になった場合にも対象とすべきとの議論を受け、条文を広げた。刑事施設等における処遇の問題は、本条ではなく4条の合理的配慮、差別の禁止に関わってご議論いただきたい。
(齊藤企画官)16条「教育」について、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるように配慮するというのが1項である。なお、合理的配慮は基本原則として国が施策を講ずる上で前提となっている。2項では、当事者の選択等によって共に学ばない場合でも、交流や共同学習により相互理解を促進しなければならないとしている。全体としてインクルーシブ教育システムという位置づけだ。「特性」は、障害の種別や状態等医学モデル的なものだけではなく、個々の障害を有する児童、生徒の困難や必要とする支援、能力を伸ばすための手立て等全部含めるように整理した。他分野の用例等を参考に、幅広い視点を含む概念の創設を検討した結果、「特性」が最もいろいろな内容を読み込める表現だと考えた。
17条「療育」は「教育」「医療」に含みきれない障害を有する子どもの発達支援のための施策という意味で規定している。他の条文で規定されている内容を同じ法律で重複して書けないので、障害児支援全体がこの条文に書かれているわけではない。
14条「医療、介護等」5項の「人権を十分に尊重」は精神障害者に関する推進会議の議論を踏まえて規定した。法律の構造上、精神障害者に関する個別の規定は難しい。
23条「相談等」で条文上、ピアカウンセリングが入っていないのは、施策の方向性として国、地方公共団体がピアカウンセリングをしなければならないというところまで現段階で見極めがつかなかったためで、その有効性を否定するものではない。今後、どういった施策が必要なのか提案していただきたい。
27条「司法手続きにおける配慮等」は刑事手続きに限定して処遇まで含むか、手続き対象を広げ全体に共通する部分を規定するのか検討し、後者とした。処遇については合理的配慮の具体的内容として、個々に必要な配慮の内容を議論すれば担保できる。
14条「医療、介護等」、16条「教育」、17条「療育」は国及び地方公共団体に対して権利として主張することを想定しているのではなく、施策の方向性を示したものだ。「可能な限り」は、この方向性に配慮しつつ施策を講じなければならないとの規定について書いた。
26条「選挙等における配慮」について、新設されたこの条文の内容をどのように実現するのかは所管する省庁が検討するが、障害者政策委員会は個々の条文がどのように具体化されるかを監視することになる。
20条「住宅の確保」の「障害者のための住宅を確保」は、地域社会で安定した生活を営むために、国及び地方公共団体に住宅の確保を義務付ける意味で、一般的な概念として書いている。具体的にどのような住宅を確保するかという施策は、担当する省庁が検討することになる。
22条「情報の利用におけるバリアフリー化等」の「電子計算機」はコンピュータのことであり、法体系上、統一された用語である。
18条「職業相談等」、19条「雇用の促進等」で福祉施策と労働施策を一体的に展開すると読めるのかについて、特定の分野について連携して施策を講ずると条文を立てるのは、法律の構造上バランスが悪いので、施策の基本方針で有機的に連携して総合的に展開することを国に課している。一体的運用のあるべき姿は、法律の運用や政策委員会の議論の中で今後深めることになる。
28条「国際協力」について、ODAの障害者関連の施策や共生社会実現のための施策や、それに関連するような施策は、すべて含みうる条文にしている。