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山口参考人からの意見


新しい障害者計画への意見書

特定非営利活動法人全国精神障害者団体連合会理事長 山口 弘美

 新しい障害者計画をつくる前に、現障害者プランが特に精神障害者分野の目標を達成できなかった理由について反省を行う必要がある。そうしなければ、今後、新たな障害者計画をつくっても、結局未達成になることは明らかである。このことを抜きにして議論をしても、会議自体が効果あるものとならないと考える。

(1)精神障害者分野における数値目標を単に努力義務にし、義務化しなかったこと、もっといえば努力義務であっても努力さえしなかったこと。(私の地元長崎市、長崎県が行わなかったことを長崎市施策推進会議委員および長崎県障害者施策推進協議会委員の一人として現実に感じたからである)

(2)長崎市の現況の保健所の第一線の考え方が問題である。グループホームをつくるとき、私自身当事者でありながら、グループホームを2か所つくってきた実績があり、私のところには女性を入れてくれという要望が多い。それで、長崎市の担当者に女性のグループホームをつくりましょうといっても、その精神保健福祉相談員で地域推進保健班の2人ともが、「女性はやぐらしいからつくるまあで」という発言をし、積極的に援助さえしない現実である。生活支援センターにしても、人口40万都市に、まだ1か所もつくれていない。我々長崎市の当事者団体がつくってくれと要望してもまじめに考えない。これが長崎市の現状である。民間の社会福祉法人が手を挙げるのを黙って待っているだけで積極的な働きかけさえない。会議だけ開いて建前だけで終わってしまっている。
長崎県はどうであろうか。県はトップセミナーとして各市町村の町長・助役クラスを集め、厚生労働省からも呼んで説明会を開いても、精神障害の当事者団体、家族会もその題上に上げず、知的、身体障害のみを上げて精神障害をぬきにして議論をしている。司会が今年は精神障害の年ではないかといっても、町長、助役クラスは精神は恐い、一町ではできないと偏見に満ちた発言が出ても、当時の県の課長は何ら反論もしない。
これが長崎市、長崎県の現状である。これでは数値目標自体が達成できないのは当たり前というしかない。他の都道府県、市町村はやっているところもあるだろうし、現にグループホームは国の数値目標を達成している。国のほうが、達成できなかった市町村、県に対し、職員の意識、達成できなかったことへの厳しい反省を求めるべきである。また、今後の新しい障害者基本計画を達成するためには、この現実をふまえ絶対に努力義務にしないで義務化へ持っていく必要があると考える。特に精神障害者分野においては市町村に多くの事業が移っている。当事者団体や家族の要望を真剣に考えるような方策を考え、つくらない態度やただ黙っている状態に対してはそれを国自体に訴える機関を設置し、厳しい指導をしてほしい。

1.社会復帰に関すること

  1.  社会復帰施設を医療機関につくらせることは、その医療機関の人にしか利用できないような欠点があり、この是正のため、社会福祉法人だけではなく、民間企業の参入を許すべきである。小規模模授産や入所通所授産施設には民間企業に積極的に参入させ、その訓練機関が終わったらその企業に雇わせる方向へもって行くべきと考える。それが本来の授産の目的であり、精神障害者の就労へつながる道と考える。現在の授産施設では訓練が終わってもまた家に帰りゴロゴロしている方が多く、授産の科目も農業やパンづくりなどが多く、賃金も極めて低く、作業所よりも低賃金のところもあるくらいである。この現状では数値目標がたとえ達成されても、精神障害者のための本来の授産施設とならないと考える。民間企業に参入させて、その企業に雇わせるためにどういう授産の仕事を考えるかを検討する必要がある。また、職員には精神保健福祉士だけではなく、民間企業の社員も職員として採用し、その職員に精神障害者への理解と企業で働く意識に向けての教育を、民間企業に移ったら、彼らにジョブコーチとしての役割を担わせる方向へ持っていくことが精神障害者への民間企業における偏見除去にも役立ち、就労の場の広がりが期待できるからである。(企業へ移行した場合の個別の対応は、後述)

  2. 精神障害者地域生活支援センターのあり方
    現在のような施設併設型は、本来の地域で暮らす精神障害者の支援に役立っていない。これは独立した形にし、運営費や職員人数の配置ももっと増やすべきである。またここにケアマネジメントの役割を担わせるべきである。また就業支援センターとの兼ね合いを考え、企業内で働いている社員の相談窓口(企業内のうつ病患者が急増している事実が日経連からも報告されている)をこの生活支援センターに担わせ、この生活支援センターの相談業務の中に、回復した精神障害者本人を雇用させることを義務づけることが生活支援センターの機能の有効活用にもつながり、精神障害者の就労の場にもなると考える。(現に沖縄や佐世保市、その他先進的地域ではすでに行われている)
    ショートステイを現在の生活訓練施設や入所授産施設に併設するのが適当か問題がある。山の中や病院内にあるところが非常に多く、このショートステイがもっと気軽に使用されるためには生活支援センターに併設するのがよいのではないかと考えている。これらのことを考えると、生活支援センターの数を増やす方向とともに内容の充実、人員の確保、財源の確保など、生活支援センターの役割は極めて地域精神医療を進める上で重要な意味を持っている。ショートステイに家族のレスパイトケアや一時避難場所の利用も考えるなら、やはり気軽に行ける身近な生活支援センターが一番よいと考える。

  3. 現在の補助金の問題点
    社会復帰施設の補助金が7月ごろ、グループホームの補助金が8月ごろ出ることは大きな問題である。それまでの期間、社会福祉法人は多くの職員を抱え、グループホームも8月まで無給、その人件費の支払いを考えるとき、実質的運営がやれるか、それをそのままにして、社会復帰施設の増設やグループホームを広げることが現実的にできるか。国はこの点を真剣に考えるべきである。

2.医療に関すること

  1.  精神病院内の治療のあり方をかつての隔離収容政策から、先進各国で行われているチーム医療へ転換していく。現在、それをやると経営が赤字になり、やれない現状を考え、医療点数の加点を行う。そして、ケースワーカー(精神保健福祉士)、看護師、臨床心理士、作業療法士の地位の向上と教育の強化を行う。
    それを行うことで、精神科特例もなくなるのは必然である。また、精神病院内部の機能の分化、思春期、分裂病、そううつ病、アルコールまたは薬物依存症に対する専門的な医師の配置とそれに応じたチーム医療。
    現在、精神医学の進歩、また新薬の開発により、長期入院が不要となるのも必然である。

  2.  地域での精神科治療のあり方は、単に診療所を広げるのではなく、もっと家族や当事者が早い時期に治療に結びつけるために、家族や当事者が偏見なくかかれる地域の医療の一環として、バンクーバー(カナダ)の「ベンチャー」という施設の日本への導入を真剣に考えるべきである。
    当事者や家族が精神病院への悪いイメージを持ち続けている現状を考えるとき、精神科専門看護師 や精神保健福祉士を中心としたケアつき休息施設をも広げることも考えるべきである。これは精神障害者の犯罪が服薬中断による原因が多いことに対するひとつの対策にもなりうると考える。

3.住居について

  1. 公的保証人制度の新設
    中期・長期入院者の中には保証人さえいれば退院できる人が多くいることは事実としてあり、このことは長く精神保健関係団体より要望のあったことである。先駆的に、九州の当事者団体が自ら保証人となり地域へ出している現実があり、彼らがその人たちを支えている現実を見るとき、これはやはり国自体がやる事業であると考える。一番ネックとなっているのは、万が一事故があったとき、誰が責任を持つかである。このときの責任体制を国自体が制度としてつくれば、家族会、当事者団体、ボランティア団体でも保証人となるであろうし、病院は、地域で暮らせるリハビリテーションを責任もって行い、地域生活支援センター、ホームヘルパー、作業所、患者会等で支える体制へもっていくべきである。この責任を負うのは国である。なぜならば彼らが保証人のいない状態にまで病院内に留めたのは、隔離収容制度をかつてとってきた国の誤りにあるからである。

  2. 公営住宅の精神障害者への単身入居を促進すること
     現在民間アパートに入居している人の家賃と公営住宅の家賃とでは、はるかに公営住宅の家賃が低く、広さも設備も整っている。この公営住宅への入居を他の人と差別なく入居させることは、現実的に見れば何ら問題ないことである。公営住宅の入居に反対があるとすれば、それは、一般人の偏見であり、これに対しては家族会、当事者団体の運動の一環として行わせ、国、地方公共団体はそのための広報活動、教育活動を行うことである。これに対する入居制限を加えること自体、精神障害者への人権に対する不当な差別であると考える。一般と何ら差別のない条件で行うことが、先進国日本の制度の方向である。現在この公営住宅のグループホーム化も考えられているが、これに対するすべての制約を撤廃すべきである。グループホームの拡大こそ、先進諸国の例を見るとき、一番に国が取り組むべき課題である。

  3. 福祉ホームB型とグループホームとの関係について
     現在社会保障審議会障害者部会精神障害者分会において、72,000人が条件さえ整えば退院可能という数字が示されている。
     福祉ホームB型は、親元に返すか、グループホームに入れるための当初の通過施設として位置づけられるというのが、全家連リハビリテーション会議での私の質問に対する厚生労働省の回答であった。ところが、病院のベット数を減らす代わりに、この福祉ホームB型を永久施設化し、これは福祉の一環であるという主張が行われている。これは、病院から施設へ、施設から地域への国が打ち出してきた政策の方向性に逆行するものであり、これをまた民間病院の敷地内で民間病院に行わせるのは再び国策の誤りを行うというほかはない。精神科医療とは何か、精神病院のあるべき姿を考えるとき、先進諸外国の方向を見れば、現在の日本の国策の誤りは国際的批難の対象となっている事実を重く考えるべきである。
     福祉ホームB型はあくまでも最初の原則どおり、地域へ出す訓練の一環としてとらえ、グループホームの増設へと向かうべきである。精神障害者の人間としての処遇を考えるとき、かつて精神衛生法の時代、病院の墓へ引き取り手のない人たちが人知れず葬られていった現実。これを国は重く反省すべきであり、二度と精神障害者が非人間的扱いを受けることのないように地域で暮らす方策を考えるべきである。また、こころのケアホームに対しても、これをつくることは国策の誤りである。

4.精神障害者の老人対策について

 現在、日本の精神障害者が老人になったときのためにどんな政策をとろうとしているか、その政策は明らかにされていない。地域に住む精神障害者が老人になったとき、病院のベッド数が減れば、あるいは福祉ホームB型を永久施設にすれば、そこに入れる需要があるという意見が一部で出されている。精神障害者が人間らしく生涯をまっとうするかを考えるとき、国はこの対策に真剣に取り組むべきである。

国のすべきこと

  1. 精神障害者の入れる老人ホームに一般の老人ホームと差別なく入居させること
     先進国、オランダでは、精神障害者が老人ホームに一般の老人と差別なく入居し、1人2部屋も与えられ、人間らしい老後を送っている。はるかに国民所得の低いオランダでなされ、はるかに国民所得の高い日本で行えないことはないはずである。

  2. 精神障害者の老人のグループホームをつくること
     一般の老人のグループホームにかける金額を考えるとき、精神障害者の老人のグループホームへの予算を同じレベルで考えることはできることである。身寄りのない人の最期を国はどう考えているのであろうか。精神の病を患っただけで、身内から引き取られず、彼らの偏見による考えのため祖先の墓に入れない人たちが、精神衛生法の時代から今日まで、どのように扱われてきたか、人間として、真に国策の誤りを認め、引き取り手のない人たちは、国営墓地、もしくは地方公共団体が責任を持って、公営墓地をつくり、そこへ、埋葬する方向を国策として打つ出すべきである。現に、アメリカの州においては行われている。

5.教育について

 現在、精神障害者が社会からどのようなイメージで見られているか、また現在、継続審議になっている心神喪失者の犯罪の法案がそのまま成立すれば、さらに精神障害者が国民からどのような目で見られるか、偏見が助長されるのはきわめて深刻な問題である。施設をつくる場合も反対運動は起こるであろうし、企業の中にいる人々の精神障害者に対する偏見が助長され、その中で働く精神障害者は表に名を出すことはいっそう困難となる。また、企業内で働いている人が精神病(特に、中高年のうつ病が多くなっていることが報告されている)を患い、治療を受けて企業に戻るときも、もとの職場復帰が困難と予想される。このことを考えるとき、教育の問題は、単に個別に考えるべきではなく、精神障害者が社会で生きていく上で、就労の問題を含め、どう捉え、どのような思索をとるか、考える必要がある。

具体策

  1. 小学校、中学校の教科書の中に、正しい精神病への知識を入れ、精神障害者への正しい理解をすすめる。

  2. 当事者の行う教育のあり方。当時者団体が自ら小学校、中学校へ出向き、自分が精神障害者と名のり、その体験を語る「語りべ」の活動。それへの国の当事者育成費として予算を組む。
    (現実にすでに長崎県、埼玉県で実質的に個人の活動として、また人権教育の一環として行われている)

  3. 家族会、当事者の企業の中での体験を語る「語りべ」としての活動。これに対する予算を組み、家族会、当事者団体の活動を活性化させる。

  4. 精神保健福祉協会の講師として、家族、当事者に民生委員、学校関係者、行政関係者、一般市民を集め、講演会を行い、マスコミを呼び、国民への正しい報道を行わせる。

  5. 国、地方公共団体の行う具体策。マスコミに、地域で暮らす精神障害者への正しい理解のための公報活動とともに、家族会、当事者団体、障害者団体の国民に向けての全国規模での啓蒙活動を行わせ、それを予算化する。

  6. 精神神経学会はじめ、その他の学会に対し、現在の精神医学の進歩と新薬の開発により、どれだけ治る病であるかの正しい医学的知識の報告活動を行わせる。

6.就労支援に関すること

 現在、厚生労働省において精神障害者雇用に関する研究会が開かれ、私もその委員として参加しているが、そこで一番感じることは、現在の日本における精神障害者の働いている実態は正確に把握されていないことである。
 精神障害者の働いている人の数は約5万人ほどという報告がなされているが、この数字は雇用主の報告による数字であるという回答が出された。
 しかし、現実に隠して働いている人がいないか、このことを考えるとこの数字が正確ではないことが明らかである。一般の企業の中で、偏見のため隠れてトイレで薬を飲みながら働いている人は数多くいる。私自身もかつてそうであったからである。

(1)就労支援の最低条件

  1. 会社の就業規則の精神障害者への差別的取扱いの撤廃
  2. 企業における精神障害への偏見是正のための社内教育の実施

(2)精神障害者を法定雇用率の対象にすることについて

  1. まず国、地方公共団体から行うこと
  2. 民間の大手の企業は国際的な競走を行っている現実の中で、厳しい経営状況にある。この中で精神障害者が同じ労働条件で一般の人と同じように働けるか、はっきり言って現実的に無理である。特例子会社を多くの企業に広め、そこで働く人も雇用率に入れる。
  3. 精神障害者が多く働いている企業は中小企業の中に多い。この現実を見るとき、大手の親会社が厳しい経営を行えば、下請けの中小企業は生き残り策として人員削減を行ってくる。このときまっさきに首を切られるのが障害者である。

 これは現実に知的障害者の例を見れば明らかである。この状況の中で精神障害者がその企業の中で働きつづけるためには、その企業の中で必要な人材として生き残る技術を持たなければならない。現在の日本の企業の中で働くためには、コンピューターの技術なくしては不可能である。これはたとえ特例子会社をつくっても必要なことであり、公務員でも必要なことである。
 そのために、雇用率を考えるとき、1つにはコンピューターを中心にした職業訓練校の必要性が出てくる。現在のワークトレーニング社で行われているような訓練では現実には役に立たない。
 2つには、精神障害者が働ける分野の現実的広がりを考えること。そのためには授産施設への企業の参入が必要であり、授産科目の内容をその分野で働ける内容に変える必要がある。そうすることによって精神障害者の就労の場を広げ、その上で雇用率の対象として雇用率を決めるべきである。
 グループ就労、施設外授産も現在行われようとしているが、これも現在の授産施設の内容を変えることにより行うことが前提で、施設外授産はその発展的な形として行うことが就労への方向であると考える。

(3)ジョブコーチの導入の問題
 ジョブコーチの導入を一斉に何組と決めるのは非現実的である。私はアメリカの労働者のジョブコーチの規則が一定のものでよいか尋ねたことがあるが、アメリカにおいても現実的には、ジョブコーチの必要性やその期間は個別に違うことがわかっている。ジョブコーチの導入には精神保健福祉士をという声もあるが、彼らにその実際的能力と実務能力があるか疑問である。これらは、企業にいる社員に精神障害者への理解と知識を与え、その中から選ぶべきである。

(4)障害者就業・生活支援センターのあり方について
 この制度を活用し、どのような形で日本の企業の中で働く人材へと持っていくか現実的な方法が必要である。

  1. 働く精神障害者のさまざまな問題への対応の機能
  2. 中途精神障害者への対応の相談窓口、および企業の産業医との連携による職場復帰への機能
  3. 精神障害者の働く意欲の教育と就労の場での体験学習の機能
  4. 短時間労働へのステップとその後の継続的フォロー
  5. それぞれの人のレベルに応じた職場の拡大とその相談的機能⇔職業安定所との連携

(5)クラブハウスの日本における導入とこの制度の活用の検討

(6)福祉的就労と一般雇用との関係について
 作業所のあり方を再検討する必要がある。ただ単に作業所を増やすだけでなく、その作業所をどのように機能分化するかを考える必要がある。

  1. 完全な憩いの場としての作業所(実質的には作業所ではないが)の必要性を認め、ピアサポートの導入等、精神障害者の支え手による当事者運営によるもの、例えば、台東区におけるピアサポートセンター「こらーるたいとう」、川崎市のピアサポートセンターのような形は補助金対象とする。そして、これを全国に広げていき、当事者団体の育成と併行して行うべきである。ここを社会的入院者の社会参加の一つの場とするときわめて有効な活動の場となると考える。
  2. 軽度な作業をしながら、仲間づくりや、スポーツ等を取り入れた様々な独自性を持った作業所を認めていく。→家族会、ボランティアの運営
  3. 自主的で自由な作業内容を認めた作業所をつくる。→精神保健福祉士、作業療法士の導入
  4. 小規模授産における作業所のあり方、コンピューターを導入し、現実に仕事として役立ちかなりの高賃金を与える。→一般企業の参入、企業人の職員への導入
  5. 福祉工場への方向へ向けた作業所 → 一般企業の参入
  6. 福祉工場の問題点としてここだけの賃金では生活できない現実がある。福祉工場からさらなる就労への道を考えるとき、ここにも一般企業の参入を考えるべきである。

(7)精神障害者の新しい職場の開拓

  1. 自由業の道、行政書士、弁護士など高度な能力を要求される職業にも精神障害者が携わっている現実を私は知っている。精神障害者は知的レベルは落ちないといわれているし、大学卒の人も相当数いる。彼らに資格をとらせ、その業務を行うノウハウを教えるネットワークをつくれば、いくらでもこの分野に参入できる。この自由業の利点は、自分のペースに合わせて仕事ができるということで、きわめてストレスに弱い精神障害者にもできる就労の一分野である。
  2. ホームヘルパー制度の中のピア・ヘルパーとしてホームヘルパーの資格を精神障害者にとらせ、援助者とともに活動するピア・ヘルパーをつくり、その相談業務に高い賃金をつければ、精神障害者に対するピア・ヘルパーとしての就労の場ができる。これはすでに大阪府が先駆的にやっている。精神障害者のホームヘルパーの需要の増大にともなって、厚生労働省の内部に委員会をつくり、全国的に広げれば確実に1つの就労の場ができる。
  3. グループホームの世話人に精神障害回復者を採用することにより、一般の人あるいは精神保健福祉士よりはるかによい世話人になりうる。この仕事の中で入居者の相談業務や服薬の管理、金銭管理を行い、食事づくりはボランティアでかまわないから、精神障害者の就労の場としてはきわめて有効である。精神障害回復者は相談業務にだれよりも一番能力の発揮できる人たちであり、指導においても自分が実際に精神障害の経験があるから説得力ある指導ができる。
  4. 作業所の指導員、これは所長の育成の仕方1つで、有能な指導員になれる。現に北海道のすみれ作業所は、精神障害者本人の所長・指導員全部が精神障害者本人たちで運営され、彼らの中に精神保健福祉士の資格を取っている者が数名いる。結婚している者も数名いる。

(8)社会適応訓練事業(通院患者リハビリテーション事業)の今後の方向性
 現在、社会適応訓練事業(通院患者リハビリテーション事業)は、極めて良心的な個人経営や病院の事業で行われているが、長崎の現場の保健所のケースワーカーはどういう指導をしているか。時間は何時間でもよい。例えば、1時間でもよいし、仕事がなければ遊ばせてもよい、というような非常に無責任な指導しかしていない。
 私の職場では現に3人受け入れているが、この人たちに欠けていることは、就労への強い意識や働く厳しさがないということだ。この事業は、単に仕事をさせるのではなく、自営業者への就労へ導くための訓練の場として最も適切であると考えている。現実的にこの3人が8時間労働に耐えられるかというと、はっきり言って無理である。しかし、自営業者への自立の道、商売のやり方、商売をやる考えの出し方、客との対応などの就労訓練は確実にできると確信している。
 3年間のうちに、自営業者として自立し収入を得、結婚することだって可能である。精神障害者が、働く場として、企業に勤めるより自営業の経営者として自立していく方向は確信をもって言える。そのために厚生労働省の中に自営業者への道へのプロジェクト委員会をつくり、そこに起業の実務家、精神障害者で自営業をやっている人を加えて、全国的に指導をするネットワークをつくれば、バックアップ体制ができる。これがあれば、確実に精神障害者の働く場が拡がると思う。
 ビジネスチャンスはないか、今現在の不況の中である。なぜなら、郵便局、銀行は1,000万円以上の預金の保証はしない。そのため、それ以上の金のある人は銀行利子より高い利益をもらえれば、いくらでも資金提供をするという話がいくらでも持ってこられている。
 また、日本だけでなく、世界の労働市場を考えるとき、やすい労働力がいくらでもある。身近なところは中国である。日本の多くの企業が中国に現地工場を持っている。日本で100円ショップや安い衣料品が売れるのは中国でつくられるから可能となっている。そこに、ビジネスチャンスが生まれる。中国と日本とをつなぐ商社マンを介入させれば、日本で自営業が成り立つ。社会適応訓練事業(通院患者リハビリテーション事業)で商売のやり方、経営のやり方を教えれば、充分精神障害者の就労の場は拡がる。

7.最後に財源の問題

 いかに新障害者計画をすばらしい計画としてつくっても、それをやる財源の確保なくして、やれるものではない。今国会で健康保険法の3割負担が政府与党の強行採決で通ったとおり、国民医療費は逼迫状態である。日本の抱えている赤字国債の額の大きさを考えても、いかに福祉や医療に予算が取れるかどうか問題が多い。日本経済が不況から抜け切れていない現状を考えると、税収の伸びは期待できない。そのことは精神障害者だけでなく、雇用を考える企業側としても雇えない現実にあるのではないか。現実に障害者が不況により、首を切られるのが現在の状況である。
 まず、この財源をどうするかを考えなければ、新計画の実施は困難と考える。精神障害者分野における予算の配分を考えるとき、医療機関にかける予算と地域福祉にかける予算の比率を基本的に見直す必要がある。
 本当に日本の精神病院の数はこんなに多く必要なのか、ベッド数もこんなに多く必要なのか、これは国際的にも非難を受けている現実を日本政府は真摯に受け止めるべきである。この主たる原因は日本が先進各国が病院をつぶし、ベッド数を減らしていった時期に、国がつくるべきであった精神病院を民間に精神科医だけでなく、その他の医者にも、しかも低利でつくらせたのが根本的国策の誤りであったのではないか。そのために、現在、民間精神病院はベッド数を満床にしなければ、経営が成り立たない現状で、良心的医者がチーム医療をやると赤字になるという現実でやれないのが実態である。救急医療も、ベッドを空けるためには、そのための金を病院側に与えなければならないために、進まないのが実態とすれば、いかに小手先で計画の実施を行っても、日本の精神医療、地域福祉の充実を叫んでも現実的に根本的解決にはならないと考える。
 いま、必要なのは、医療と経営の分離であり、海外の企業を含め民間企業の精神病院経営への参入を許すべきである。これは海外の企業の日本進出、規制緩和、国際的市場の開放の世界的傾向に対し、日本政府が民間精神病院への市場開放を行うことこそ、解決の一番の良策と考える。国際的競争力をつけるため、日本の大手企業が合併や厳しい経営努力をしている現実の中で民間精神病院の生き残り策として、厚生労働省が金をかけるのは国策として国際社会の中の日本のあり方を考えるとき基本的・根本的な発想の転換が必要である。
 厚生労働省のとるべき対策は、国際的競争力をつけるため厳しい経営をやっている企業や海外の民間病院経営をやっている企業を参入させ、良心的医療をやる病院のみ生き残り、隔離収容をそのまま温存しようとして経営する病院を自然淘汰し、病院数を減らす。医療の内部およびベッド数を減らす方向に国策を変え指導すべきであり、これにより余った財源を地域へ回すことが最大の財源確保の対策であると考える。これなくして、日本の精神医療の改革、地域精神医療の充実は図れないと考える。
 現在、地方分権が叫ばれている中、小規模作業所の増大がいわれている。その現実の財源はどうなっているか? 国2分の1、県市2分の1と建前はいわれているが、実施的には県市の負担額は国からの地方交付税で賄われている。これでは結果的に全部国がやっているのと何ら変わりがない。これを根本的に改め国はあくまでも2分の1のみ負担すれば2倍の作業所が現実的にできるのである。あとの2分の1は県税、市税の中で行わせれば県、市も福祉に回す財源を真剣に考えるであろう。これが実質的に地方分権の方向であり、国が取るべき態度であると考える。

以上

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