第5回資料 各委員からの意見
目次
(50音順)
新障害者基本計画
「分野別施策の基本的方向骨子(素案)」に対する意見
日本障害者協議会代表 河端 静子
日本障害者協議会では、7月3日に開催された第2回懇談会において、すでに意見書(新たな「障害者基本計画」と「障害者プラン」の策定にむけて)を提出しているところでありますが、先般開催された第4回懇談会にて、新障害者基本計画における「分野別施策の基本的方向骨子(素案)」(以下「素案」とする)が提示されましたので、あらためてここに意見書を提出させていただく次第です。
この素案に対する個別的な意見を示させていただく前に、本協議会として、この中に盛り込まれなかったいくつかの重要な課題を提起いたしたく考えます。
つきましては新障害者基本計画の策定にあたって、ご検討のうえ、反映していただきたく、何卒よろしくお願い申しあげます。
記
- 障害者の権利、障害を理由にした差別禁止の法制化を図る。それらは理念的にとどまらず、実効的かつ具体的なものとする。
- これまで、身体障害・知的障害・精神障害というように、障害の種類別に法・施策が展開されてきたが、障害の種類別ではなく、総合的な障害者福祉法の制定を具体的に検討し、公平でニーズが反映されたサービスが提供されるようにする。
- 昨年5月、WHOはICIDH(国際障害分類)を改定し、ICF(国際生活機能分類)としたが、現行の障害認定基準は、日常生活動作の状況などに偏りすぎ、社会的障害や職業的不利益を的確に反映するものとはなっていない。したがってICFの考え方に基づき、障害認定基準の見直しを早急にはかる。
- 民法の扶養義務の全面的な見直しを進め、成人した障害者の人格を独立した存在として認めていく。
- サービスの給付単位を世帯単位のものについては個人単位に改めていく。
(素案に対する個別的意見)
- 啓発・広報については基本的に賛成であり、具体的な施策の実行を期待したい。
- 生活支援について、基本的に賛成であるが、施策の基本的方向 1.利用者本位の生活支援体制の整備 (1)身近な相談支援体制の構築において、障害をもつ当事者による相談体制の役割をきちんと位置づけてほしい。
- (2)権利擁護の推進であるが、ここで述べられているふたつの制度の促進のほか、施設や居宅生活支援等における虐待や人権侵害等を監視することを目的とした権利擁護機関の設置が必要である。
- (3)障害者団体や本人活動の支援は重要な課題である。具体的な中味を明らかにしてほしい。
- 2.在宅サービス等の充実の中味と数値目標が問題である。社会資源の整備や人材育成に力をいれ、数値目標を策定すべきである。たとえば5年後には今の5倍の社会資源やヘルパーなどの人材が育成されている、等。また、「ダイレクトペイメント方式(介護手当直接本人支給方式)」の導入を検討し、多様な自立生活のあり方を模索して行くべきである。
- 所得保障の充実に取り組むとあるが、無年金者問題の解決と、障害基礎年金の大幅な改善(生活保護生活扶助基本生計費1類+2類プラス障害者加算相当)が必要である。
- 3.施設サービスの再構築であるが、既存の生活施設にもっと医療ケアなど濃密な支援の必要な重度の障害のある人を受け入れるような体制整備も課題である。一方、施設を地域に分散化するという視点のモデル事業も奨励していくべきである。
- 5.福祉用具の研究開発・普及促進と利用支援はきわめて重要。当事者の視点に立った研究開発などが期待され、地域の中に支援機器(福祉用具)センターを作っていくことを目標とし、障害者が必要な自分にあった支援機器(福祉用具)を使えるようにし、自立生活に役立てていくことが重要な課題である。
- 7.専門職種の養成・確保はとても急がれる課題である。「脱施設」や地域社会での自立生活の条件整備を考えていくときに、これら職種の人たちの大幅な増員、地域社会での配置が求められる。さらに、この中には一定の割合で障害を持つ当事者の人たちが専門職種につくことが求められる。また、これら職種の養成の課程においては障害を持つ当事者を講師とするプログラムが必要とされる。
- 生活環境の施策の基本的方向 1.住宅、建築物のバリアフリー化の推進を具体化してほしい。自立生活を営もうとする多くの重度障害者は単身者が多いことから、障害者向け公共賃貸住宅の供給にあたっては、単身者用を念頭に置き、かつ単なるバリアフリーではなく、障害者仕様で設計されたものを需要に見合うだけの数値目標を設定することが求められる。
- また、建築物においては、小規模店舗でのバリアフリー化の一層の推進が求められており、更なる制度の見直しを検討することが必要とされている。神社・仏閣などの宗教施設、および伝統的文化的な建築物で保存を必要とするものについても、障害者が利用できるように最大限の配慮が求められることをふまえて、外観との調和をはかりつつ個別的に検討をすすめる必要がある。
- 2.公共交通機関、歩行空間等のバリアフリー化の推進については、5年後を念頭に完全バリアフリーの目標を立てる必要がある。特に交通関係では、航空機や空港のバリアフリーに力を入れていく必要がある。歩行空間等においては、国立公園の遊歩道のバリアフリー化も重要な課題である。
- 3.防災・防犯対策の推進についても重要な課題であり、一層の施策の充実が求められる。
- 教育・育成では、障害を持ったこどもの教育のありかたの選択肢として、インクルーシヴ(環境面に配慮し、個別的な支援を兼ね備えた障害を持たないこどもとの統合的な)教育をきちんと位置づけていくべきである。
- 施策の基本的方向 4.社会的および職業的自立の促進では、後期中等教育における就学を支援することがうたわれているが、高等教育において手話や点字・介助など具体的な支援策が求められており、重度障害者の高等教育の門戸をさらに拡大させていく必要がある。
- 5.施設のバリアフリー化の推進は、義務として位置づけ、障害のあるこどもが普通学校での教育を受けられるようになるための環境整備をしていく必要があり、数値目標の設定が求められる。
- 雇用・就労についてはこれらの課題を具体化させる数値目標の設定が必要である。精神障害者を雇用義務制度の対象にすることについては早急に具体化をはかっていく必要がある。
- 授産施設などで長期にわたり「就労」している障害者の労働権のあり方や社会雇用のあり方を抜本的に検討していく必要がある。
- 保健・医療の基本方針も重要な課題であり、施策の基本的方向 1.障害の原因となる疾病等の予防・治療も重要である。しかし、これらはデリケートな問題も含み慎重を期する必要もある。障害問題は多面的なアプローチによって解決されるものであり、「障害(疾病)それ自体が不幸である」という一面的な価値観を人々に植え付けさせないような注意を払いながら行なわれる必要がある。
- 2.障害に対する適切な医療の充実のところで、重度化や二次障害問題が触れられているが、当事者からすればこれらは痛みが伴う深刻な問題である。この問題については解決がはかられるよう研究の具体化が望まれている。
- この分野においてもインフォームドコンセントが徹底されるよう関係者に対する意識の啓発を行なっていく必要がある。
- 情報・コミュニケーションにおいては重度障害者のIT利用を促進するような具体的な施策が求められている。
- 参政権については、実態を把握し、電子投票だけでなく、広報などの情報や投票場等の建築物のバリアフリー化を促進することが重要である。
- 4.コミュニケーション支援体制の充実では、「手話通訳者等の養成・派遣を推進」とあるが、要約筆記者についても同様の考えで施策の推進をはかっていく必要がある。
- 国際協力においては経済大国日本の果たすべき役割は実に大きい。障害者同士の国際交流が一層進展するよう、政府として協力していく必要がある。
- 障害者権利条約については、日本政府としてその制定が実現されるよう国連などに対し強く働きかけるなど努力をする必要がある。
以上
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新障害者基本計画・基本計画骨子並びに分野別施策の基本的方向骨子案「雇用・就労」への意見
全国社会就労センター協議会会長 斎藤 公生
1 基本的な方針について
「基本的考え方骨子」(素案)に盛り込まれなかった次の項目について、再度、検討いただきたい。
- (1)障害者差別禁止法の創設
- さまざまな障害にかかる差別を禁止する法律(日本版ADA)の創設の検討を強く要望する。
- (2)所得保障の充実
- 地域生活を可能とする所得保障の確立が不可欠である。年金、雇用保険、障害者年金の財源を活用した所得保障の充実・確立を講ずること。
2 分野別施策の基本的方向骨子について(雇用・就労分野)
「障害者の雇用の場の拡大」の次に、次の骨子を盛り込んでいただきたい。
- (1)授産施設における福祉的就労の場の確保
- ア 「社会就労センター(授産施設)」における福祉的就労機能の充実・促進
障害者にとって必要な雇用・就労の場は、一般雇用や特例子会社、重度障害者多数雇用事業所だけではない。
平成12年10月現在、約2000カ所設置されている授産施設を8万人の障害者等が利用しているが、その多くは、授産施設を「働く場」として捉えている。
昭和51年の雇用促進法創設当時1.04%であった障害者雇用率は、20年余を超え、さまざまな施策が実施されたにもかかわらず、実雇用率では1.49%であり、養護学校の卒業生をはじめとする稼働年齢層の増加をふまえると、その伸びはわずかである。この間の障害者の「働く場」として役割を果たしてきたのが、授産施設や無認可作業所である。この役割を評価し、雇用形態の変化や生産体制の変化により、障害者にとって、一般企業等での雇用が必ずしも自己実現の場とならない場合がある現状をふまえ、授産施設を「就労の場」として、明確に位置付ける施策を検討することを強く要望する。
- イ 社会就労センター(授産施設)利用者の労働者性の確保について検討する
社会就労センターを長期にわたって利用する障害者について、その労働者性の確保が求められている。検討の必要性について盛り込むこと。
参考:1「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」(平成9年12月9日、身体障害者福祉審議会・中央児童福祉審議会・公衆衛生審議会精神保健福祉部会・合同企画分会)、(2)「今後の障害保健福祉施策の在り方について」(平成11年1月19日、身体障害者福祉審議会・中央児童福祉審議会・公衆衛生審議会精神保健福祉部会・合同企画分会)では、授産施設や雇用・就労について次のように述べている。
これらの審議会報告をふまえて、計画を策定していただきたい。
(1)「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」
- 障害者の就労、活動については、授産施設、福祉工場の果たす役割が大きいが、一般企業での雇用が可能な者については、労働行政との連携の下に適切な移行を図るとともに、「生きがい活動」的な日帰り介護・活動事業(デイサービス)や小規模作業所等との関係のなかでの位置付けについても考えることが必要である。
-
- 訓練の場という性格と就労の場という性格を併せ持つ授産施設については、平成4年の「授産施設制度のあり方検討委員会」の提言、社会経済情勢の変化等を踏まえ、その在り方を検討すべきである。また、併せて、「授産」等の名称についても見直しを検討すべきである。
(2)「今後の障害保健福祉施策の在り方について」
身体障害者審議会
- 身体障害者の就労については、福祉的就労から企業での雇用まで多様な形態があり、身体障害者個々人の状況に応じた適切な支援が肝要であることから、当審議会においても、今後、雇用政策と連携した就労支援策について検討していく必要がある。
公衆衛生審議会
- 障害者の活動・福祉的就労については、授産施設等の果たす役割が大きいが、一般企業での雇用へ円滑に移行するために、雇用施策との連携を強化する必要がある。このため、授産施設等から一般企業への円滑な移行の支援や、就労している精神障害者に対する生活面での支援と職場定着のための支援との連携等の措置を講じること。
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新障害者基本計画骨子に対する意見
熊本県知事 潮谷 義子
- 障害者問題を社会全体の問題に
「障害」とは、障害者本人だけの問題ではなく、社会との関連において存在するものです。特にICFにおける「活動」「参加」の概念は、そういった認識のもとに成立していると理解しています。その文脈においては、「障害」は個人の属性(個性)にとどまらず、社会の属性として認識すべきものとなります。言い換えれば、障害者問題は、そもそも社会全体の問題であるということになるのではないでしょうか。
しかし、現実的には障害者問題が国民的理解を得ているとは言えず、ましてや自分の問題として捉えている国民は僅かでしょう。今まさに「障害者問題を社会全体の問題に」という意識を持って、「国民理解の促進」を最重要課題として取り組む必要があると思います。
- 障害者基本計画の理念
障害者基本計画とは、社会との関連において存在する「障害」に対して社会がどう向き合うかという意思表明であり、どういった社会を作ろうとするのかを明らかにする計画です。その根底には、社会のありようそのものについてどうありたいと思うのかという思想や価値観がなければならないと考えます。
現計画は、ノーマライゼーションとリハビリテーションの理念と障害者の完全参加と平等の目標がうたわれていますが、理念と目標を明らかにすることによって、「どういった社会を作ろうとするのか」が明確になっています。
新計画では「基本的考え方」としてそのポイントが示されているものの、「共生社会の実現」といった理念レベルの表現と「バリアの解消」「挑戦支援」といった具体的施策をイメージさせる表現とが今のところ混在しています。もっと明確に理念や目標を表明する必要があるのではないでしょうか。21世紀の障害福祉の方向性を示す新しいパラダイムを期待します。
- 「すべての人の社会参加の機会均等」について
障害が個人のものではなく、社会的に存在するものという理解に立って、その障害によって誰がどのような影響を受けているのかを冷静に考えてみる必要があります。誤解を恐れずに言えば、障害者本人も障害によって社会参加を阻害されていますが、障害者の最も身近な支援者である家族もまた、社会活動への参加が困難であるという現実に対して、障害者計画において言及すべきではないでしょうか。
障害のあるなしにかかわらず、「すべての人の社会参加の機会均等」を目標とし、そのために「障害のある人の社会参加を阻むあらゆるバリアの解消」を目指すとされていることは、非常によく理解できます。今回さらに一歩踏み込んで、「障害によって社会参加が阻害されてきたすべての人(障害者及びその家族等)の社会参加の促進」という考え方に立って、よりよい表現にしていただきたいと思います。
- 基本的な考え方、基本的な方針、分野別施策の基本的方向の関係整理
第3回懇談会で指摘しました「基本的な考え方」と「基本的な方針」のすみ分けの問題ですが、「考え方」と「方針」に体系的な関係(目的と手段といった関係)があるのか、さらに「分野別施策の基本的方向」に「考え方」と「方針」が具体的にどのように反映されているのか、明確ではありません。
また、分野別といった整理をする場合、問題となるのがそれぞれの分野の連携です。特に、「保健・医療」「教育・育成」「雇用・就労」などの分野については、ライフステージに沿った継続的・総合的な支援が必要ですが、そのためには、早期発見から療育へ、療育から教育へ、教育から就労へといったつなぎ目の施策が大変重要になってきます。前回提示された骨子では、各分野においてそれぞれ連携に配慮した表現がなされていますが、ライフステージに沿った継続的・総合的な支援については、基本的方針として取り上げるべきではないでしょうか。
- 療育について
障害の早期発見から早期療育につないでいく仕組みづくりについて、熊本県においては、療育拠点施設を整備するとともに地域において障害児の療育を専門的に実施する機関を整備し、地域の核として活用していきたいと考えています。療育体制を重層的、システム的に整備し、地域で障害児の発達・成長を支援することができるよう体制づくりをすすめていく必要があります。
「教育・育成」分野において「療育機関は、地域のセンターとしての役割を果たす」と述べてありますが、そのための具体的施策(既存の療育機関の機能強化を進めていくものと想像するが、どのような方法によるのか)が示されていません。
また、「保健・医療」分野においては「障害に対する適切な医療の充実」として「小児に対しては、障害に対応した成長・発達を支援する」とされていますが、医療の問題にとどまらず、成長・発達の支援であれば、療育として整理すべきではないかと思います。
この際、知的障害者の方のご意見にもあったとおり、「療育」の言葉の使い方を見直し、知的障害者全般に対しては使用せず、障害児の成長・発達段階に限定することで「療育」の定義を明確化したうえで、新たな項目を設け、その体制整備を進める方針を示していただくよう望みます。
- 雇用・就労について
「障害者が働きやすい多様な雇用・就業形態の促進」という基本的方向は、そのとおりであろうと思います。例示として短時間雇用や在宅就業が挙げてありますが、その他、障害者の起業化支援や障害者派遣会社など考えられる限りの多様な発想をもって、施策を用意していただきたいと思います。また、授産科目については、いまだに手作業的なものが多くなっているため、時代に適応した近代的なものへ転換ができるような支援が必要ではないかと思います。
- 推進体制について 〜 パートナーシップの視点
多様化するニーズに対応して、行政だけですべてのサービスを供給したり、地域生活の支援体制を構築したりすることは、大変困難な状況になっています。障害者福祉施策推進にあたっては、民間の機動性、柔軟性、専門性等を活かしていくことによって障害者にとって、より良いサービスを受けることが可能になると考えられます。
「推進体制等」の中で、民間(企業、NPO、ボランティア団体等)とどのような役割分担をしていくのか、どのような協働体制で取り組むのかといったパートナーシップの視点をぜひ明確にしていただきたいと思います。
- 施策推進にあたっての財政的懸念
障害者福祉施策を推進する際の、国、県、市町村の役割分担については、障害者により身近な市町村が主体的役割を果たすことが期待されています。例えば「身近な相談支援体制を構築する」という基本的方向が示されたとき、当然、地方自治体が責任を持って「体制を構築する」こととなります。しかし、現行の施策に対して代替的な施策であれば施策誘導は可能ですが、こういった新たな「体制を構築する」といった取組みに、もしも財政的裏づけがなされないならば、積極的展開は期待できません。
平成15年度から本格実施するとされてきた障害者ケアマネジメントなど新たな取組みについては、重点施策として位置づけ、実施主体である市町村に対する補助事業等によって、実働を保障するものとしていただきたいと強く要望します。
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「新しい障害者基本計画」策定に当たっての意見
日本労働組合総連合会副事務局長 村上 忠行
第3回「新しい障害者基本計画に関する懇談会」では「新障害者基本計画骨子(素案)」が、第4回では「分野別施策の基本的方向骨子(素案)」が、それぞれ示されました。今後の検討・策定にあたり、下記事項について盛り込まれるよう要請いたします。
記
1 「基本的考え方」に盛り込むべき内容
「新障害者基本計画」の「基本的考え方」では、以下の事項について、追加もしくは強調するべきです。
(1)障害者が地域でくらすことを基本にすることを強調するとともに、法律等の見直しを行うことを追加すること。
(2)「障害者の自立」が重要課題であることを追加すること。
(3)障害者を社会的に排除するのではなく、差異や多様性を認めあい、地域社会への参入を促すとともに、社会的に再統合し、支援する(ソーシャル・インクルージョン)ことを明確に示し、障害の有無などに関わらず、だれもが安心して地域の中でくらせる社会をめざすことを強調すること。
(4)「新障害者基本計画」の実効性を確保するために、国や都道府県・市町村が、責任と義務を果たすべきであることを追加すること。
(5)あらゆるバリアを解消して、完全な平等を達成することを、社会の理念とすることを強調すること。
(6)計画は、抽象的な文章の記述に終わることなく、具体的に数値目標を設定することを追加すること。
2 「基本的な方針」に盛り込むべき内容
「新障害者基本計画」の「基本的な方針」では、以下の事項を、追加もしくは強調するべきです。
- (1)「施策の実効性確保のための法律等の整備」の項目の追加
- 障害者の人権の確立や自立、各施策の実効性の確保のためには、現行法の修正や新しい法律の制定が必要である。そのため、新たに項目を追加し、民法の扶養義務の改正や「障害者差別禁止法」の制定など、現行法の改正や新しい法律の制定を行うことを追加すること。
また、国連の障害者の権利条約など、条約の制定作業に積極的な役割を果た し、採択・批准に積極的に対応することも明記すること。
- (2)「民法における扶養義務の見直し」の項目の追加
- 民法の扶養義務を見直し、子どもに対する親の扶養義務は、子が成人に達するまでとすること。
わが国では、障害者は家族が支えるという考え方が根強いのが現状にあるが、家族だけが支えるのではなく、社会全体で支えていくという考え方を明確に打ち出すべきである。また、家族からの自立という観点から、扶養のあり方を見直すべきである。
- (3)「経済自立基盤の強化」に盛り込むべき内容
- 障害者の雇用を一層促進するとともに、それでカバーできないケースについては、国の責任による施策として、障害者が自立可能な水準の所得保障を行うこと。
障害者の自立をはかりながら職業を通じた社会参加をすすめるため、障害者が可能な限り一般雇用に就けるよう、障害の特性に応じた職業訓練などを行うこと。さらに、一般雇用の困難な者が、できる限り就業できるように、障害の状態に応じて、多様な就業の場を拡充・創出すること。
- (4)「6 利用者本位のサービス供給」に盛り込むべき内容
- ア 地域でくらすための基盤整備
障害者が地域の中で自立してくらすことを基本に記述すべきである。
「新基本計画」では、障害者を社会的に排除し、隔離するという考え方や「心のバリア」を解消し、障害の有無、性別、貧困や失業などの差異や多様性を認めあいながら、だれもが地域の中で自立してくらすことを基本にすべきである。そのために、ホームヘルプサービスやグループホームなどの基盤整備を早急に行い、施設に依存せずに地域でくらせるようにすることを強調すべきである。
また、医療的観点などから施設が必要な障害者も多く存在するため、必要な施設は地域に開かれたものとして整備するべきであることもあわせて明確にすべきである。
- イ ニーズに対応したサービス提供
障害3法に基づいて障害ごとにサービスを区分したり、難病患者に対するサービスが障害3法でカバーしにくいために、たとえば精神障害者が他の障害に比べてホームヘルプサービスが受けにくいなど、利用者のニーズに応じたサービスが受けにくい現状にある。基本的な方針として、ニーズに応じたサービスが受けられるようにし、それぞれの障害の間で格差が生じないようにサービス体制を確立することを明記すること。
- ウ サービス契約・利用の支援制度の確立
利用者本位のサービス供給体制の整備は重要な課題であり、早急に十分なサービス基盤の整備を行う方針を明確にするとともに、実効性を確保する方策についても明記すること。また、基盤整備と同様に、サービスが利用者本位のものとなるためには、利用者が、地域のサービスを契約・利用するのを支援する制度が必要である。サービスの整備については、供給面のみならず、契約と利用における支援を制度化し、十分な対策を行うことを明記すること。
- (5)「7 精神障害者施策の総合的取り組み」で明確にすべき内容
- 「6 利用者本位のサービス供給」で言及したように、必要な施設は維持した上で、基本的な方針としては、これまでの精神障害者の「隔離収容」の考え方を脱し、精神障害者が地域の中でくらすことを基本にすることを強調すること。
3 「分野別施策の基本的方向」に盛り込むべき内容
「新障害者基本計画」の「分野別施策の基本的方向」では、以下の事項を、追加もしくは強調するべきです。
- (1)「法律改正・制定」の項目の新設
- 各施策を包括する位置づけで「法律制定・計画策定」の項目を新たに設け、現行法の修正や新しい法律の制定を行うこと。とくに、以下の4点については必ず明記すること。
ア 「障害者差別禁止法」の制定
障害のある人の社会参加を阻むバリアを解消し、完全な平等を達成するために、「障害のある人に対する差別を禁止する法律」(「障害者差別禁止法」)を制定すること。
イ 数値目標を明記した市町村障害者基本計画策定の義務化
障害者基本法を改正し、都道府県・市町村障害者計画の策定を義務化すること。計画の実効性を担保するためには、都道府県・市町村障害者基本計画策定のための予算を確保するとともに、都道府県・市町村地域福祉(支援)計画との連携・整合性をはかる必要がある。また、策定する計画には、必ず数値目標を明記することを、あわせて義務化すること。
ウ 民法における扶養義務の見直し
民法の扶養義務については直ちに見直し、子どもに対する親の扶養義務は、子が成人に達するまでとすること。
エ 障害3法の統合
法律が障害別に分かれており、障害別に違うサービスが行われているが、ニーズに応じてサービスが受けられるように、計画の中で既存法体系の見直しに言及し、法体系を統合化すること。
オ 条例における規制・制限の撤廃
地方自治体の条例や規則、要綱等に残っている、市議会の傍聴制限、公営住宅の入居制限、市民プールや図書館等への入場制限、保育所への入所制限等を早急に撤廃すること。
- (2)「1.啓発・広報」に盛り込むべき内容
- 雇用率を達成した企業名を公表し、広報すること。
- (3)「2.生活支援」に盛り込むべき内容
- ア 所得保障の確立
所得保障に関する施策については、「II 基本的な方針」で、「5 経済自立基盤の強化」を謳っているにもかかわらず、「分野別施策の基本的方向」における所得保障に関する施策は、わずかに「生活支援」の「在宅サービス等の充実」のなかで言及されているにすぎない。「生活支援」に所得保障の項目を設けて、必要な所得水準を確保することを明記し、特別障害者手当など各種手当のあり方や水準についての見直しを行うこと。
また、無年金障害者(在日外国人を含む)については、早急に救済措置を講ずること。
- イ 家族に対する支援策の実施
障害者の家族にかかる負担は依然として重い。また、障害を持つために家族に虐待されるケースや、児童虐待によって障害者になるケースもある。障害者に対するショートステイなどの福祉サービスの拡充とあわせて、家族に対する相談体制の整備などの支援策を行うこと。なお、支援策の対象としては、障害者の家族に限定せず、高齢者や要介護者をかかえる家族や、子育て期の親に対する支援も、総合的に行うこと。
- ウ 地域社会における生活基盤の整備
精神病院や各施設における「社会的入院」を改善し、障害者が地域のなかでくらせるように、ホームヘルプサービスや、グループホームなどの福祉サービスの拡充をはかること。また施設整備の際は、施設が地域に開かれ、入所者の人権が守られるようにするとともに、更生施設、療護施設、授産施設、作業所などの各施設は、内容などが複雑で分かりにくいので、生活、訓練、就労などの体系に再編すること。
- エ 「障害者ケアマネジメント」の制度化
厚生労働省の社会・援護局は2002年3月31日に「障害者ケアガイドライン」を提示していますが、これはあくまでガイドラインにすぎない。サービスを利用者本位のものとするために重要な「障害者のケアマネジメント」制度を、支援費制度の中できちんと位置づけるべきである。そのための予算を確保すること。
- オ 第三者評価機関、福祉オンブズマンの設置
福祉サービスは、施設や居宅など密室性が高い場所で提供されることが多く、サービスの質や事故など、問題が顕在化しにくいのが現状である。また、利用者の中には苦情を訴えることが困難な人もいる。サービスの質を向上させるために、第三者がサービスの質を評価する「第三者評価機関」を設置するとともに、利用者の権利擁護、苦情解決のための「福祉オンブズマン」を設置すること。なお、これらは障害者施策以外の福祉サービス全般をカバーすべきである。
- カ 施設のあり方の見直し
障害者のくらしの場が施設から地域に移行するような施策を行うとともに、施設サービスが必要な者に対しては、各施設の居住環境等を改善し、人権がきちんと守られ、地域に開かれた施設整備を行うこと。
- (4)「3.生活環境」に盛り込むべき内容
- ア 住宅対策の推進
公営住宅の知的・精神障害者の単身入居の欠格条項を撤廃することを追加すること。また、長期の施設入所、入院者の賃貸住宅契約の際の、公的保証人制度等の地域における住まいの確保支援を追加すること。
- イ バリアフリー化の推進
公共交通機関、歩行空間、建築物などのバリアフリー化を義務づけ、障害者等すべての人が安心してくらせるまちづくりを推進することを強調すること。
- (5)「5.雇用・就労」に盛り込むべき内容
- (ア) 障害者の法定雇用率の達成をはかりつつ、雇用率と障害者納付金を引き上げること。とくに雇用率については、フランス・ドイツと同等の6%まで引き上げること。また、精神障害者を雇用率制度への適用を実現し、精神障害者への雇用支援策を拡充すること。除外率制度の段階的な縮小については、次回見直し(2008年)をまたずに早期に撤廃すること。
- (イ) 国・自治体や事業主は、実効性を確保したジョブコーチ制度など、雇用に結びつけるための職業能力開発・就業支援事業を拡充するとともに、障害に応じて働ける職場環境や、活用しやすい「助成金制度」の整備・充実など、公的支援などの支援体制を確立すること。
- (ウ) また、障害者の雇用創出のための、障害者雇用創出事業(トライアル雇用・有期3か月助成金)を中期的に推進すること。
- (エ) さらに国は、障害者の就業を阻む要因を分析するとともに、企業のみならずNPOなど社会全体での多様な就労機会の創出など、新しい雇用のあり方を検討するために、当事者、企業、労働組合などをはじめ幅広い参加者で構成する「障害者の就業を創出する対策会議」(仮称)を各都道府県ごとに設置すること。
- (オ) 官公需の入札については、予算総額の一定割合を、雇用率を遵守している企業に限定すること。
- (キ) また、ワークシェアリングを推進するとともに、ITを活用するなど、働く場や社会参加の機会の拡大をはかり、多様な働き方や生き方を支援すること。
- (6)「6.保健・医療」に盛り込むべき内容
- ア 安心して医療が受けられるための経済的支援策
安心して医療が受けられるための経済的支援策と地域医療体制の整備を行うこと。
- イ 疾病や医療技術、福祉用具などの研究への支援
疾病や医療技術、稀少病用医薬品(オーファンドラッグ)、福祉用具などの研究・開発は、国が研究費の支援や研究体制づくりを行うこと。
- (7)「7.情報・コミュニケーション」に盛り込むべき内容
- ア 機器開発等への当事者の参加
IT機器等の開発にあたっては、障害当事者が参画し意見を反映できるようにするとともに、当事者による評価システムをつくること。
- イ 字幕放送等の義務づけ
全放送に字幕放送を義務づけるなど、視聴覚障害者に対応したサービスを推進し情報へのアクセスに不自由がないようにすること。
- (8)「8.国際協力」に明記すべき内容
- 日本の果たす国際的な役割
日本は国際的に、とりわけアジア・太平洋地域において主導的な役割を果たすべきであり、主導的役割を果たすに足る施策の充実を国内においてはかること。
また、国連の障害者権利条約をはじめ、国連等の条約などに積極的に対応するとともに、権利条約を受けた国内法の改正・整備も積極的に行うこと。
4 「推進体制」に盛り込むべき内容
- (1)都道府県と市町村の役割分担
- 計画を推進する際は、住民に密接に関わり、地域の実情に合ったサービスを提供する観点からは、市町村が施策の実施主体となるべきである。ただし、サービス提供や人材の面で、施策の展開が困難な小規模の市町村については広域化をはかるなど、適正規模での施策の展開を行う必要があることにも言及する必要がある。また国や都道府県は、サービスの拡充や市町村職員の政策形成能力の向上のための支援を行うこと。
- (2)財源の確保
- 日本の社会福祉全般の予算は先進諸国と比べて低いにもかかわらず、近年、社会保障トータルの財源は、自然増をのぞき縮小されつつある。計画を実効性あるものにするには、それぞれの施策について、財源の確保を明確にすること。
- (3)市町村障害者計画策定の推進
- 市町村障害者基本計画の策定を義務化するとともに、「推進体制」に関連して、市町村障害者計画の策定・達成状況が不十分である原因を分析し、解決のための手法も明記すること。
- (4)障害当事者の施策に対する評価の調査の実施
- 障害当事者の、障害者施策に対する評価についての調査を実施し、結果を施策に反映させるべきである。その際は、障害者手帳をもっていない障害者も、調査の対象に含めること。
以上
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