1 調査の目的
障害者基本計画の「IV 推進体制等」において、「障害者関係団体との意見交換やニーズ調査の実施等を通じて施策・事業の有効性についての検証を行い、」とされていることを踏まえ、障害のある人が社会活動を行う上で障壁(バリア)になっている課題等を明らかにするため、障害者基本計画に掲げられる個別施策分野について調査を行うもの。
平成17年度は、「生活環境」と「情報・コミュニケーション」について調査を実施。
2 調査の概要
(1)調査期間 |
平成17年11月1日〜12月16日 |
(2)調査対象 |
全国の障害のある者 4,651人
日本障害フォーラム(JDF)を構成する次の団体を通じてアンケート調査を依頼。
社会福祉法人 日本身体障害者団体連合会
社会福祉法人 日本盲人会連合
財団法人 全日本ろうあ連盟
日本障害者協議会(JD)
特定非営利活動法人 DPI日本会議
社会福祉法人 全日本手をつなぐ育成会
財団法人 全国精神障害者家族会連合会
社団法人 全国脊髄損傷者連合会
全国「精神病」者集団
社会福祉法人 全国盲ろう者協会
社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
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(3)有効回収数 |
2,191人(回収率:47.1%) |
(a)性別 |
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(b)年齢 |
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(c)障害種別 |
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(*回答者のうち、単一の障害をもつ人及び重複障害のうち「主な障害」を特定できる人について分類) |
(d)居住地域 |
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(4)調査方法 |
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委員長 |
佐藤 久夫 |
日本社会事業大学教授 |
委員 |
臼井 久実子 |
障害者欠格条項をなくす会 事務局長 |
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江上 義盛 |
全国精神障害者家族会連合会 専務理事 |
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大杉 豊 |
全日本ろうあ連盟 本部事務所長 |
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太田 修平 |
日本障害者協議会 理事 |
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岡部 耕典 |
全日本手をつなぐ育成会 政策委員 |
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金 政玉 |
DPI日本会議 事務局次長 |
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指田 忠司 |
日本盲人会連合 国際委員会事務局長
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター 研究員 |
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寺島 彰 |
浦和大学教授 |
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星川 安之 |
共用品推進機構 専務理事・事務局長 |
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森 祐司 |
日本身体障害者団体連合会 常務理事 |
(委員は五十音順・敬称略) |
(5)調査事項 |
生活環境分野(交通、公共施設、住宅等)及び情報・コミュニケーション分野(マスメディア、インターネット、電話、コミュニケーション支援体制等)について以下を調査。
(a)施設、サービスの利用の有無と困ったことの有無等
(b)この10年間におけるバリアフリー化の変化 |
3 調査の結果
(1)バリアを感じる人の割合
交通機関、公共施設、情報サービス等の項目について、それぞれ過去1年間(一部は過去3年間又は日常的に)の該当する施設・サービスの利用の有無、利用して困ったことの有無、利用しなかった理由等について質問し、その結果を取りまとめたものが
図表1である。
- 利用して困ったことがあると回答した人の割合は「歩道」(55.3%)、「スーパー・コンビニ・デパート」(44.7%)、「駅・鉄道」(41.4%)の順に高かった。(図表2)
- 「設備・環境・条件等の理由で利用しなかった人」及び「利用して困ったことがある人」を合計し、この2者を「バリアを感じる人」とした時、「歩道」(56.4%)、「駅・鉄道」(45.9%)、「スーパー・コンビニ・デパート」(45.3%)、「レストラン・食堂」(40.8%)、「病院・診療所」(40.8%)の順に高く、日常、誰もが利用する場所で、「バリアを感じる人」が多かった。(図表1、2)
- 調査への回答者全体で見ると「バリアを感じる人」の割合が低い項目であっても、「住宅探し・引越し」、「空港・飛行機」のように「必要がないので利用しなかった人」の割合が高い項目では、実際に利用しようとした人及び利用した人に占める「バリアを感じる人」の割合が高い項目もあった。(図表3)
(2)利用した際に困ったことの意見について
交通機関、公共施設、情報サービス等の項目について、それぞれ利用して困ったこと、困った場面について質問した(複数回答可)。回答が多かったものを各項目ごとに上位3つ抜粋した結果は
図表4のとおりであった。
- 困ったことがあると回答した人の割合が最も高かった「歩道」については、歩道の障害物(放置自転車、電柱、車等)で困ったとの意見が多く(68.0%)、歩道の段差や幅など構造的な問題に合わせて、一般の人のマナー等により困っている人が多かった。障害種別で見ると、視覚障害(87.9%)、肢体不自由(76.8%)、難病(61.4%)が歩道を利用して困ったと回答した。(図表5)
- 職員、医師、店員等と接する必要がある「役所・警察・交番等」(51.2%)、「タクシー」(48.0%)、「病院・診療所」(医師とのコミュニケーション(43.0%))、(受付や看護師など職員とのコミュニケーション(37.6%))では、応対、コミュニケーションの際に困ったという割合が高かった。(図表4)
- 普段、車を運転する人の割合は、市町村の規模が小さいほど高いことの影響か(大都市:77.6%、中都市:82.1%、小都市A:83.5%、小都市B:89.4%)、公共交通機関(駅・鉄道、バス、タクシー、空港・飛行機、歩道)の利用、困ったことがある人の割合は、大都市になるほど高くなる傾向があった。(図表6)
- 住宅探し、引越しをしたことがある人の割合は、大都市になるほど高く(大都市:14.6%、中都市:8.5%、小都市A:6.4%、小都市B:5.8%)、その際には市区町村の規模に関わらず6割以上の人が困ったと回答した(大都市:76.8%、中都市:64.1%、小都市A:67.9%、小都市B:76.2%)。住宅改造をしたことがある人の割合は、大都市:14.3%、中都市:16.6%、小都市A:16.7%、小都市B:15.7%であり、その際に困ったことがあると回答した人の割合は、大都市になるほど高かった(大都市:40.0%、中都市:39.7%、小都市A:32.9%、小都市B:29.8%)。(図表7)
- 生活用品で、困ったことのある人の割合が高かった「電気・ガス機器」については、障害種別で見ると、視覚障害(71.9%)、発達障害(71.4%)、聴覚障害(66.7%)、精神障害(61.0%)の順に高く、取扱説明書については、視覚障害(82.2%)、言語障害(66.7%)、知的障害(42.9%)、発達障害(42.9%)が読めない、分かりづらいとの回答があった。(図表8)
(3)この10年間におけるバリアフリー化の変化
生活環境分野(交通、公共施設、住宅、生活用品)及び情報・コミュニケーション分野(マスメディア、インターネット、電話・携帯電話、コミュニケーション支援体制)について、それぞれこの10年間で利用しやすくなったかについて質問した。(
図表9)
- いずれの分野でも「利用しやすくなった」及び「やや利用しやすくなった」との回答が多数であり、全体としてバリアフリー化が進んだと受けとめられていることがうかがわれた。(図表9)
- 「交通」(61.7%)、「公共施設(公的機関や商店・銀行など)」(58.4%)、「電話・携帯電話」(58.5%)等では6割前後が利用しやすくなったと答え、比較的高い評価であった。(図表9)
- 「住宅」(23.7%)、「コミュニケーション支援体制」(26.8%)、「インターネット」(41.1%)、「マスメディア」(45.2%)、「生活用品」(45.3%)などでは肯定的な評価は5割未満で、「住宅」(23.7%)、「コミュニケーション支援体制」(26.8%)は相対的に低い評価であった。(図表9)
- 障害種別で見ると、生活環境分野については肢体不自由、視覚障害のある方が利用しやすくなったとの回答の割合が高く、情報・コミュニケーション分野については視覚障害、聴覚障害のある方が利用しやすくなったとの回答の割合が高かった。(図表10)
- 市区町村の規模で見ると、「交通(鉄道、バス、タクシー、飛行機、歩道、自家用車などの利用)」については、大都市になるほど利用しやすくなったとの回答の割合が高かった(大都市:68.6%、中都市:62.8%、小都市A:58.9%、小都市B:52.1%)。(図表11)
- また、「公共施設(小売店、食堂、旅館、娯楽施設、公園、役所などの公的施設、金融、病院などの利用)」については、大都市になるほど利用しやすくなったとの回答の割合が高かった(大都市:61.1%、中都市:59.1%、小都市A:58.7%、小都市B:53.4%)。(図表11)
- さらに、「住宅(住宅探し、引越し、住宅改造)」については、大都市になるほど利用しやすくなったとの回答の割合が高かった(大都市:25.2%、中都市:24.5%、小都市A:22.6%、小都市B:21.3%))。(図表11)
(4)自由記述について
自由記述欄において改善に向けた提案等が寄せられた中から、具体的な記述があったものを挙げると以下のとおり。
(交通機関)
- 車イスで利用できる施設かどうか具体的な情報提供をして欲しい。
- 切符(特急券、乗車券)の識別ができるようマークをつけて欲しい。
- 音声ガイダンス、電車内の文字表示の普及。
- 路面電車、路線バスの車イスのアクセスを進めて欲しい。
- バス停時刻表に低床・リフト・ノンステップ等の区別を明記して欲しい。
- タクシー乗り場のバリアフリー化。
- 空港・飛行機の手続きに代筆システムを作って欲しい。
- 歩行者用信号の時間延長、音響信号機を全国統一にして欲しい(方角に基づく案内)。
- 車の出入りのために傾斜している歩道は危険である。
- ナビゲーションで現在位置と周辺情報を把握し自ら移動を選択できるシステムが欲しい。
- 車イス用の駐車場が不足しているので充実・配慮をして欲しい。
- 駐車禁止除外認定等の申請は出頭が必要であるが、郵送による申請・交付を認めて欲しい。
- 交通事故・事件の際に警察に通報できるシステム(携帯メール)を充実して欲しい。
- 緊急自動車が通過する際の文字表示をして欲しい。
- オストメイトの駐車許可を全国統一にして欲しい。
- 「ハード不足」から「一般のモラル低下によってせっかくのハードが生かされない」問題について、一般の人に障害者への理解が広まる運動が必要。
(公共施設)
- 手話のできる職員、店員、医師、看護師を置いて欲しい。
- 電話帳には電話番号、FAX番号を記載して欲しい。
- オストメイト対応トイレの設置をして欲しい。
- 銀行、郵便局で視覚障害者用のATM設置を充実して欲しい(暗証番号を他人に伝えることに抵抗がある、代筆の制度がない)。
- 公共用トイレにもブロック、表示等の配慮が必要(手で便器の位置を確認している)。
(住宅・生活用品)
- 障害者の住宅の賃貸契約に理解を示して欲しい。
- 製品の取扱説明書を音声訳、パソコンでの読み取り可能なものとして欲しい。
- 操作ボタン、表示を大きくして欲しい。機能、操作が複雑すぎる。
(情報・コミュニケーション)
- 災害、緊急時の通報システム、救援体制の整備を求める。
- 行政の手続きは資料の送付など郵送で対応して欲しい。
- 行政情報、選挙情報はテレビ、ラジオ、インターネット等を活用を、パソコンを持たない障害者のために公共の無料のパソコンが必要。
- 犯罪と精神障害者を結びつける報道には偏見があり、精神障害者について正しくマスコミで取り上げて欲しい。
- 必要情報は、複数回、障害種別に配慮した異なる手段で、分かりやすく、具体的に提供して欲しい。