平成26年度障害者の権利に関する条約の包括的な最初の報告の検討プロセスに関する国際調査報告書(要約版)

調査の概要

 本調査では、国際連合(以下、「国連」と記述する。)「障害者の権利に関する条約」(以下、「障害者権利条約」と記述する。)が定めている各締約国の包括的な最初の報告の検討プロセスについて、先行して障害者権利条約を批准した諸外国に関する関連資料収集や関係者インタビューを実施し、各国の検討プロセスの経緯や特徴を分析した。調査対象国は、韓国、スウェーデン、スペイン、オーストラリア、ニュージーランドの5か国である。

韓国の包括的な最初の報告の検討プロセス

 韓国は、条約批准以前から5年ごとに基本計画を策定し、障害政策の拡充・整備を図っていたことが大きな特徴である。条約実施に当たっては保健福祉部障害者政策局が中央連絡先となり、12部庁が関連部局に位置付けられている。また、調整のための仕組みとして、国務総理直轄の障害者政策調整委員会が設けられている。政府外の関係組織として、国家人権委員会が独立した仕組みに指定されている他、国内の主要な障害者団体が集まった「国連障害者権利条約NGO報告書連帯」がパラレルレポートの作成・提出を行っている。

 韓国政府からの包括的な最初の報告は、2011年6月27日に国連障害者の権利に関する委員会(以下、「国連障害者権利委員会」と記述する。)に提出された。国連障害者権利委員会ウェブサイトには、障害者権利委員会の最終見解が採択されるまでの間に韓国政府および関係機関・団体から提出された13件の報告が掲載されている。韓国からは、他の国に比べても多くのレポートが国連障害者権利委員会に提出されており、また、検討のプロセスごとに複数の関係機関・団体からレポートが提出されていることが大きな特徴である。

 これらの内容を見ると、韓国の包括的な最初の報告から国連障害者権利委員会の最終見解に至る検討プロセスでのやりとりには、次のような特徴が見られる。

  • 中央連絡先だけでなく、独立した仕組みや中核障害者団体、その他のNGOからも多数のレポートが提出されており、検討のための情報が豊富に提供された。
  • 各レポートでの記述・指摘内容も詳細かつ具体的なものが多かった。
  • 国連障害者権利委員会からの最終見解は、韓国の実施体制や施策の有無ではなく、施策実施の効率や効果の改善に主眼を置いたものになっている。

 関係者へのインタビューによれば、検討プロセスの中では、中核障害者団体が国連障害者権利委員会に対し積極的な働きかけを行っただけでなく、独立した仕組みも国連障害者権利委員会と活発に意見交換を行った。一連のプロセスから、韓国の包括的な最初の報告の検討に当たり、国連障害者権利委員会が独立した仕組みの役割や情報を重視していたことがうかがえる。

スウェーデンの包括的な最初の報告の検討プロセス

 スウェーデンでは社会省の家族・社会サービス局を中央連絡先に指定している。また、政府の中に、障害者権利条約の内容に関係する各省庁の集まりである「省庁間高レベル作業部会」が設置され、この作業部会が調整のための仕組みに指定されている。しかし、スウェーデンでは、独立した仕組みは指定されていない。一方、市民社会においては、中核障害者団体としてスウェーデン障害連盟とEqually Uniqueが活動している。この両者は協力関係にある。

 スウェーデン政府からの包括的な最初の報告は、2011年2月3日に国連障害者権利委員会に提出された。国連障害者権利委員会ウェブサイトには、障害者権利委員会の最終見解が採択されるまでの間にスウェーデン政府および関係機関・団体から提出された11件のレポートが掲載されている。特徴として、スウェーデン政府と国連障害者権利委員会との間でのやりとりのプロセスごとに、市民社会から多くのパラレルレポートが提出されている。しかし、独立した仕組みが指定されていないため、独立した仕組みからのレポート提出はない。

これらのレポートでの記述内容と最終見解の内容からは、次のことが指摘できる。

  • 国連障害者権利委員会の最終見解では、市民社会、特に中核障害者団体から提出されたパラレルレポートの指摘や主張がかなり多く採り入れられている。
  • スウェーデンの取組に対しては、最終見解で賞賛されている点はあるものの、主要な条項で最近施行された施策の見直しを求めたり制度の見直しを勧告する等、全体に厳しい指摘が目立つ内容となっている。

 関係者へのインタビューによると、2つの中核障害者団体は協力して、国連障害者権利委員会と非公式会合を持ち、情報提供を行ったとのことである。スウェーデンでは独立した仕組みからの情報がなかったため、国連障害者権利委員会の検討は市民社会の主張を起点とし、政府にその確認を行う形で進められたことがうかがえる。結果として、パラレルレポートの内容との関連性が強く感じられる最終見解となっている。

スペインの包括的な最初の報告の検討プロセス

 スペインでは、外務・国際協力省の人権問題担当室と、健康・社会政策・平等省の障害者政策局長の2組織を共同中央連絡先に指定している。また、政府内に、関係省庁の代表、障害者団体の代表、専門家等で構成する国家障害評議会を設置し、調整のための仕組みに指定している。一方、市民社会では、中核障害者団体としてスペイン障害者代表委員会(CERMI)が組織され、国連障害者権利委員会に対しパラレルレポートを提出している。また、このスペイン障害者代表委員会が障害者権利条約における独立した仕組みにも指定されている。

 スペイン政府からの包括的な最初の報告は、2010年7月1日に国連障害者権利委員会に提出された。国連障害者権利委員会ウェブサイトには、スペインの市民社会からのレポート類は掲載されていない。インターネット上ではCERMIが提出した3つのレポートを見ることができ、この他にも市民社会からのレポートがある可能性がある。国連障害者権利委員会による最終見解は2011年9月23日に採択されたが、これは、全締約国の中で2番目に発表された最終見解であった。

 本調査で収集した各レポートの記述内容の比較から、次のことが指摘できる。

  • 事前質問項目では、CERMIレポートが扱っていない事項についての質問やデータ提供の要請が散見される。
  • 最終見解では、他国に比べ、政府の取組への賞賛や肯定的な評価が多く見られる。

 スペイン政府は近年、各分野での関連法や基本計画の整備を進めており、これらについて最終見解で肯定的な評価が示されたケースが多い。しかし、それらの法制度の実施については懸念が示されたものも多い。また、最終見解の肯定的評価には、スペインの包括的な最初の報告の検討が全締約国の中で2番目に実施され、国連側の審査体制が始動したばかりだったことが影響している可能性もある。

オーストラリアの包括的な最初の報告の検討プロセス

 オーストラリア政府の社会サービス省と法務省が共同の中央連絡先となっている。また、オーストラリア人権委員会が独立した仕組みに指定されている。一方、オーストラリアでは調整のための仕組みが指定されていない。代わって、連邦政府と各州政府の協議組織であるオーストラリア政府間評議会が障害者権利条約の実施に当たって大きな役割を果たしている。

 オーストラリア政府からの包括的な最初の報告は、2010年12月3日に国連障害者権利委員会に提出された。国連障害者権利委員会ウェブサイトには、障害者権利委員会の最終見解が採択されるまでの間にオーストラリア政府および関係機関・団体から提出された6件のレポートが掲載されている。特徴として、プロセスの前半には多くのレポートが提出されているが、事前質問事項への回答、応答レポートが少ないことが指摘できる。

 オーストラリアの包括的な最初の報告から国連障害者権利委員会の最終見解に至る検討プロセスでの各レポートの内容を追うと、次のような特徴がみられる。

  • 最大の特徴は、事前質問事項、最終見解の内容が、中核障害者団体のレポート類の内容・主張を大幅に採り入れた、政府にとって厳しいものになっていることである。
  • オーストラリア政府と国連障害者権利委員会とのやりとりの内容からは、両者の考え方や施策の方針に大きな相違があることがうかがえ、それが厳しい最終見解につながった一因だと考えられる。
  • 独立した仕組みの主張や意見が、他国に比べあまり重視されなかった印象を受ける。独立した仕組みのレポートの論点や主張が、国連障害者権利委員会からの信頼性評価に影響した可能性がある。

 これらの特徴から、オーストラリアの検討プロセスは、締約国政府及び独立した仕組みと国連障害者権利委員会との対話があまりうまく機能しなかった例として見ることができよう。

ニュージーランドの包括的な最初の報告の検討プロセス

 ニュージーランド政府は、社会開発省の中に設置された障害問題担当室を中央連絡先に指定している。障害問題担当大臣は、障害政策に関係する各省庁の大臣で構成する障害問題閣僚委員会の議長を務め、この閣僚委員会が調整のための仕組みに指定されている。また、ニュージーランド政府は、障害者団体等との協議の場として、常設の障害者諮問会議を設置している。

 独立した仕組みには、人権委員会とオンブズマン事務所の2組織が指定されており、政府はこれらの組織に資金援助を行っている。市民社会では、障害者諮問会議とは別に中核障害者団体として「条約連合」が組織され、国連障害者権利委員会にパラレルレポートを提出した。政府は、条約連合に対しても資金援助を行っている。

 ニュージーランド政府からの包括的な最初の報告は、2012年5月8日に国連障害者権利委員会に提出された。国連障害者権利委員会ウェブサイトには、障害者権利委員会の最終見解が発表されるまでの間にニュージーランド政府および関係機関・団体から提出された8件のレポートが掲載されている。特徴的なのは、事前質問事項が発表された後に独立した仕組み及び市民社会から多くのレポート類が提出されたことである。

 これらのレポートの記述内容の比較から、次のことが指摘できる。

  • ニュージーランド政府と国連障害者権利委員会とのやりとりを追うと、意見の相違や対立がないわけではないが、お互いに論点について共通の理解を持ち、意味のある意見交換や対話が成立しているという印象を得る。
  • ニュージーランド政府は、自分たちの取組が万全でないことを認め、今後さらに施策の充実やレベルアップを図る前提で、取組の現状について報告している。
  • 国連障害者権利委員会はニュージーランド政府に対し、施策の見直しや転換を求めるのではなく、実施している取組の強化を求めるコメントが多く見られる。

 このように、ニュージーランド政府と国連障害者権利委員会とのやりとりは、全体として建設的対話と呼ぶにふさわしいものになっていたといえる。

調査結果のまとめと考察

 調査対象5か国の検討プロセスを比較検討すると、以下のことが指摘できる。

  • 締約国政府からの報告と市民社会からのパラレルレポートの内容の差異から論点を抽出し、論点に関する独立した仕組みからの情報を得て検討を進めるのが、国連障害者権利委員会が期待する検討プロセスの基本モデルだと考えられる。
  • 実際には各国の関連主体からのレポート提出状況には国によってかなりの違いがあり、国連障害者権利委員会の期待どおりに提供されないケースがかなりある。
  • 国連障害者権利委員会は独立した仕組みからの情報を重視するが、独立した仕組みが指定されていなかったり、政府からの独立性が疑われる場合には、市民社会からのレポートが検討の拠りどころとなるため、最終見解が市民社会寄りになる傾向がみられる。

 これらを踏まえると、我が国が今後、包括的な最初の報告の作成とその検討プロセスに臨む際に留意すべき点として、以下が挙げられる。

  • 国連障害者権利委員会が重視する論点について、障害者施策あるいはその中長期的方針や目標への反映を進める。
  • 包括的な最初の報告の作成と検討プロセスへの対応について、ニュージーランド政府の対応を参考にする。
  • 障害者政策の立案・実施に当たり、市民社会とのコミュニケーションを強化する。
  • 独立した仕組みである障害者政策委員会が国連障害者権利委員会から信頼を得られるよう、独立性を重視した運営を行う。