令和元年度障害者統計の充実に係る調査研究 報告書(概要)

1.調査研究の背景と概要

(1)調査研究の背景・目的

 障害者政策の観点からは、我が国が批准した障害者の権利に関する条約により障害者統計の充実が求められているほか、平成30年5月にまとめられた障害者の安定雇用・安心就労の促進を目指す議員連盟(インクルーシブ雇用議連)の提言では「障害者と障害のない者との比較」を可能とする統計データの整備が不十分であること等の課題が示されている。

 また、統計整備の観点からも、国連統計委員会は障害に関するデータ収集及び手段の精査を要請しており、国内でも「公的統計の整備に関する基本的な計画」(第III期)において施策上のニーズ等を踏まえた障害者統計の充実が求められている。

 こうした状況の下、我が国の統計調査に導入可能な障害者を捉える設問について検討することを目的として、本調査研究を実施した。

(2)調査研究の概要

 本調査研究では、障害者を捉える設問に関する調査と、国際的な動向に関する調査を実施した。

 障害者を捉える設問に関する調査では、国際的に用いられている以下の3つの設問セットについて評価分析を行った。

  1. 国連障害者権利委員会がその利用について勧告を行っており、国連統計委員会においても用いられることについて留意する、とされたワシントングループの短い設問セット(以下「ワシントングループの設問」)
  2. 欧州統計局が提示する個別の統計調査のガイドラインにおいて用いられている最小欧州健康モジュール(Minimum European Health Module, MEHM)(以下「欧州統計局の設問」)
  3. 世界保健機関(WHO)が開発した設問セットである、WHO障害評価面接基準(WHO Disability Assessment Schedule, WHODAS2.0)(以下「WHODAS2.0」)

 また、国連や欧州委員会、G7等先進国を対象として、障害者を捉える設問の導入に係る国際的な動向について調査を実施した。

2.障害者を捉える設問に関する調査

(1)調査の視点と方法

(調査の視点)

 障害者を捉える設問について、集計結果の妥当性の評価、適切に回答できるかの評価を実施するため、1(2)①から③の障害者を捉える設問に実際に回答してもらうインターネット調査等を実施した。その結果については、集計結果の妥当性として、以下の代替性(捕捉性)、補完性、有意性の3つの観点から評価分析を行った。さらに、「適切に回答できるか」について、回答のしやすさの観点から評価分析を行った。

  1. 代替性
    公的障害者制度を利用している者をどの程度捕捉できるか
  2. 補完性
    公的障害者制度を利用していない者であるが、支援等が必要な者をどの程度新たに捕捉することができるか
  3. 有意性
    「障害のある者」と「障害のない者」で日常生活の支障や就労状況等の結果に差異が生じるか、また、分析に基づく有益な情報の提供可能性があるか
  4. 回答のしやすさ
    回答における負担、質問文のわかりやすさ、選択肢の選びやすさ等を考慮した上で回答が容易にできるか

(調査の方法)

ア)インターネット調査

 インターネットモニターにWeb画面上で調査を実施する手法であり、モニターとして登録した者のみを対象としている。分析の対象としたサンプルは23,210名である。

イ)紙面調査

 インターネット調査では捉えづらい可能性のある多様な障害当事者のサンプルの確保を目的に、障害当事者団体の協力を得て紙面による調査を実施した。分析の対象としたサンプルは209名である。

ウ)グループインタビュー

 インターネット調査の回答者のうち、4グループ・合計27名を対象に、3つの設問セットに対する評価等を聴取した。

(2)調査結果に基づく評価分析

 WHODAS2.0は障害者の定義が定められていないため、現状では設問として導入することが難しく、ワシントングループの設問と欧州統計局の設問が具体的な検討対象となった。

 (1)の調査結果からは、ワシントングループの設問に関しては、代替性があるとまでは言えなかった一方で、補完性は認められたほか、回答のしやすさには大きな問題がないことが示唆された。有意性については、障害種別や程度について分解可能な形で把握・分析を実施する場合には適している一方、精神障害等を明示的に尋ねておらず、これらの者を捉えたい場合には情報の補完方法を検討する必要がある。

 欧州統計局の設問に関しては、代替性、補完性、回答のしやすさは、ワシントングループの設問と同様の結論となった。有意性については、障害種別にかかわらず具体的な健康問題により活動制限が継続して発生している者を捉える場合には適しているほか、就労に係る状況・希望について把握する場合にも有用である。ただし、障害種別の分解ができない等の限界に留意が必要である。

図表 主な調査結果
観点 項目 調査方法 調査結果
ワシントングループの設問 欧州統計局の設問 WHODAS2.0 (参考)**
代替性
(捕捉性)
全サンプルのうち、障害のある者として捕捉される割合 インターネット 11.6% 17.3% -
紙面 59.2% 43.3% -
公的障害者制度の利用者のうち、障害のある者として捕捉される割合* インターネット 35.3% 65.9% -
補完性 公的障害者制度の非利用者のうち、障害のある者として捕捉される割合* インターネット 9.5% 13.1% -
公的障害者制度の非利用者でかつ障害のある者として捕捉される者のうち、日常生活における手助けや見守りが必要な者の割合* インターネット 5.0% 5.0% -
有意性 障害のある者又は障害のない者として捕捉された者のうち、日常生活における手助けや見守りの必要な者の割合 インターネット 障害のある者: 16.0%
障害のない者: 1.7%
障害のある者: 15.4%
障害のない者: 0.8%
-
紙面 障害のある者: 75.4%
障害のない者: 23.5%
障害のある者: 77.3%
障害のない者: 32.7%
-
障害のある者又は障害のない者として捕捉された者のうち、前月中の仕事の状況において「主に仕事をしている」とした者の割合 インターネット 障害のある者: 46.7%
障害のない者: 48.7%
障害のある者: 38.4%
障害のない者: 50.6%
-
紙面 障害のある者: 67.2%
障害のない者: 87.8%
障害のある者: 61.6%
障害のない者: 87.6%
-
回答の
しやすさ
3つの設問の比較において「総合して最も回答しやすい」とした者の割合 インターネット 38.9% 45.8% 15.3%
紙面 40.5% 34.1% 25.4%
回答のしやすさに関するコメント グループ
インタビュー
「苦労します」という選択肢への回答が主観的になりがち 等 障害が詳細に捉えられるのかどうか 等 量的に多い、個々の設問は具体的で答えやすい 等

 * 代替性における公的障害者制度の利用者の捕捉率ならびに補完性の各項目については、紙面調査の対象はほとんどが公的障害者制度利用者であるため、これらの評価分析は行わなかった。
 **WHODAS2.0は障害者の定義が定められていないため、代替性、補完性、有意性についての評価分析は行わなかった。

3.国際的な動向に関する調査

(1)国際機関の動向

 国連統計委員会は、各国の全国的なデータ収集においてワシントングループの設問を用いることを留意点として示している。また、国連障害者権利委員会も、一部の締約国に対してワシントングループの設問の導入を勧告している。

 欧州委員会は、加盟国における欧州共通の統計調査への欧州統計局の設問の導入を促す一方で、欧州連合・所得と生活状況に関する調査(European Union Statistics on Income and Living Conditions, EU-SILC)の設問に2022年からワシントングループの設問を導入する動きがある。

(2)主要先進国の動向

 G7を構成する主要先進国では、障害者を捉える設問が大規模な統計調査に導入されている。

 ワシントングループの設問は、アメリカ・カナダの大規模な統計調査において、修正を加えて導入されている事例がみられた。また、カナダでは、ワシントングループの設問と欧州統計局の設問とを合わせたような独自の設問セットが導入されている。

 欧州統計局の設問やそれに含まれる国際活動制限指標(Global Activity Limitation Instrument, GALI)は、欧州連合の主要先進国による大規模統計調査で用いられている事例が多い。もっとも、イギリス・ドイツ・イタリアは、国連障害者権利委員会から障害を含む分解されたデータの収集・集計を行うよう勧告を受けている。

4.今後の障害者統計の在り方(まとめ)

 障害者を捉える設問に関する調査の結果、ワシントングループの設問と欧州統計局の設問を総合的にみると、代替性、補完性、回答のしやすさには大差がないため、どちらの設問を用いるかの判断の上では、有意性につながる両設問の役割や特性等を踏まえた上で導入を検討することが求められる。

 また、国連統計委員会や障害者権利委員会においては障害種別等による分解可能なデータ等が求められていることや、欧州委員会においてMEHMを導入した設問票が用いられている一方で、EU-SILCでワシントングループの設問を活用しようとする動向等があること、主要先進国で障害者を捉える設問を大規模な統計調査に導入する取組がなされていることが確認された。

 以上を踏まえ、2022年度までの実施を目途に、例えば国民生活基礎調査や社会生活基本調査といった既存の基幹統計調査等について、障害者を捉える設問を導入すること及びその場合の具体的な設問のあり方を検討することが望まれる。

 その際には、国際的な動向との整合性や障害種別・程度に応じた把握・分析が一定程度可能であること等に鑑みると、ワシントングループの設問の活用可能性をまずは検討することが望ましい。一方で、今回の実査の結果から、就労状況の側面等を重視する場合に欧州統計局の設問を用いることや、カナダのようにそれぞれの設問を組み合わせること等、導入する基幹統計調査等の特性や制約にあわせた調査の設計を検討することが適切と考えられる。

 本調査結果を踏まえ、関係省庁において具体的な検討が行われることを期待したい。

別添1 検討チーム概要及び開催経緯

 本調査研究の推進に向け、学識経験者、関係行政機関の職員、事務局長からなる検討チームを組成し、以下のとおり検討チーム会合を実施した。

検討チームの構成員
所属 構成員
学識経験者(50音順) 国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部 主任研究官 大夛賀 政昭
名城大学 経済学部 教授 勝浦 正樹
一般社団法人ヒューネットアカデミー 代表理事 勝又 幸子
横浜市立大学 学術院 国際総合科学群 教授 土屋 隆裕
国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部長 林 玲子
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者
職業総合センター
副統括研究員 春名 由一郎
内閣府 政策統括官(共生社会政策)付障害者施策担当 参事官 衣笠 秀一
総務省  統計局労働力人口統計室 室長 中村 英昭
政策統括官(統計基準担当)付統計企画管理官室 企画官 内山 昌也
厚生労働省   職業安定局障害者雇用対策課 課長 小野寺 徳子
社会・援護局障害保健福祉部企画課 課長 野村 知司
政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)付
世帯統計室
室長 中村 年宏
事務局 (株)野村総合研究所
社会システムコンサルティング部
上級コンサルタント
(事務局長)
山本 史門

 注)所属・職位等は検討チーム組成時(令和元年10月11日)のもの

開催経緯
検討チーム会合の開催日 議題
第1回 令和元年10月11日 ・検討チームの概要(設置目的、メンバー構成、次回以降の議事内容等)
・障害者統計の充実の目的
・目的を実現するための対応策(障害者を捉える設問)
第2回 令和元年10月29日 ・障害者を捉える設問、及びその評価方法
・プレ調査の実施について
- 調査票項目(案)
- 比較する設問の検証方法(案)
- 実施方法の概要
第3回 令和元年12月2日 ・プレ調査の実施について
- 調査票(案)
- 調査の実施方法(案)
第4回 令和2年2月17日 ・調査結果の概要
・報告書骨子
第5回 令和2年3月5日 ・調査結果の報告
・報告書(案)
第6回 令和2年3月24日 ・報告書(案)

別添2 分析評価の対象とした設問

 分析評価の対象とした設問は、本調査研究で用いた調査票に基づいて示すと、以下のとおりである。

1.ワシントングループの設問

 日常生活において苦労していることについて、お答えください。
(〇はそれぞれの質問文について一つずつ)

質問文 選択肢
1.苦労はありません 2.多少苦労します 3.とても苦労します 4.全く出来ません
眼鏡を使用しても、見えにくいといった苦労はありますか。
補聴器を使用しても、聴き取りにくいといった苦労はありますか。
歩行や階段の上り下りがしにくいといった苦労はありますか。
通常の言語をつかってのコミュニケーション(たとえば、人の話を理解したり、人に話を理解させることなど)が難しいといった苦労はありますか。
思い出したり集中したりするのが難しいといった苦労はありますか。
入浴や衣服の着脱のような身の回りのことをするのが難しいといった苦労はありますか。

2.欧州統計局の設問

 問1 あなたの現在の健康状態について、お答えください。(〇は一つだけ)

 1.よい  2.まあよい  3.ふつう  4.あまりよくない  5.よくない

 問2 慢性疾患や慢性的な健康問題の有無について、お答えください。(〇は一つだけ)
 ※慢性疾患や慢性的な健康問題とは、6ヶ月以上疾患や健康問題が継続しているものをさします。

 1.ある  2.ない

 問3 健康問題により、日常の一般的な活動に支障があるかについて、お答えください。(〇は一つだけ)

 1.非常に支障がある  2.ある程度支障がある  3.全く支障がない

 →「1」、「2」と回答した方は問3-1をお答えください。

 問3-1 (問3にて「1」、「2」と回答した方にお聞きします。)問3にてご回答いただいた支障は、6ヶ月以上継続していますか。(〇は一つだけ)

 1.はい  2.いいえ

3.WHODAS2.0

 過去30日間を振り返り、健康上の理由により、以下の項目について、難しさがあったかについてお答えください。(〇はそれぞれの質問文について一つずつ)

質問文 選択肢
1.問題なし 2.少し問題あり 3.ある程度問題あり 4.ひどく問題あり 5.できない
長時間(30分くらい)立っている
家庭で要求される作業を行う
新しい課題、例えば初めての場所へ行く方法を学ぶ
誰もができるやり方で地域社会の活動に加わるのに、どれほど問題がありましたか(例、お祭や宗教的、または他の活動)
健康状態のために、どれくらい感情的に影響を受けましたか
何かをするとき、10分間集中する
1kmほどの長距離を歩く
全身を洗う
自分で服を着る
見知らぬ人に応対する
友人関係を保つ
毎日の仕事をする/学校へ行く

(参考)障害者として捉える定義

 上記の3つの設問における障害者として捉える定義は、国際的に用いられており、標準的な手続きを定めているそれぞれのガイドライン等を踏まえ、以下のように設定した。

1.ワシントングループの設問

 6つの質問文において、1つでも「3.とても苦労します」または「4.全く出来ません」と回答した者。

2.欧州統計局の設問

 問3において、「1.非常に支障がある」もしくは「2.ある程度支障がある」と回答した者であり、かつ、問3-1において「1.はい」と回答した者。

3.WHODAS2.0

 設問の合計スコアが14.5以上の者。ただし、国際的に用いられている障害者の定義は存在しないため、この定義は、あくまで本調査研究での便宜的な定義にとどまる。