令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況調査報告書(要約版)

1.国内調査

目的

 我が国では、障害者権利条約の批准に向けて国内法制度の整備をはじめとする準備が進められ、平成28年4月には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」という。)が施行された。障害者差別解消法附則第7条では、政府は、同法の施行後3年を経過した場合において、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮のあり方その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとされた。

 これを受けて、障害者政策委員会において議論が行われ、2020年6月に「障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する意見」(以下「意見書」という。)が取りまとめられた。意見書では、国及び地方公共団体において、さらに具体的な相談事例の蓄積等を進めるべきとされた。

 本調査では、この内容を踏まえ、さらには今後の障害者権利条約に基づく国連の審査への対応検討にも資することを目的として、障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体における取組の状況や運用の実態等の動向について調査分析を行った。

調査概要

<地方公共団体悉皆調査>

 すべての地方公共団体に対し共通の設問による悉皆調査(アンケート調査) を行った。

表 調査対象
都道府県 指定都市 中核市等 一般市 町村
47 20 87 708 926 1,788

※「中核市等」とは、中核市、特別区及び県庁所在地(指定都市を除く)をいう。

※「一般市」とは、指定都市及び中核市等のいずれにも該当しない市をいう。

<地方公共団体詳細調査>

 また、悉皆調査の後、その回答内容から、障害者差別に関する事例収集の方法を中心に注目すべき取組を進めていることがうかがわれる地方公共団体を選定し、6 自治体(山形県、東京都、香川県、宮崎県、東京都大田区、愛知県名古屋市)に詳細調査としてヒアリングを実施した。

調査結果の概要

<地方公共団体悉皆調査>

○障害者差別解消法第10 条に基づく対応要領に関する調査

 対応要領の策定状況については、都道府県および指定都市は前回調査時に既にすべての地方公共団体が「策定済み」であった。中核市等は99%、一般市は90%、町村は62%が「策定済み」であった。

○障害者差別解消法第17 条に基づく地域協議会に関する調査

 地域協議会の設置状況については、都道府県および指定都市は前回調査時に既にすべての地方公共団体が「設置済み」であった。中核市等は80%、一般市は68%、町村は46%が「設置済み」であった。

 設置済み地方公共団体における令和元年度の地域協議会の開催実績は、「0 回」が19%、「1 回」が30%、「2~3 回」が24%、「4~5 回」が9%、「6 回以上」が19%である。開催が「0 回」だった理由としては、議題にするような事案がなかった等のほか、新型コロナウイルス感染症の拡大をあげた地方公共団体があった。

○障害者差別の解消に係る条例に関する調査

 条例の制定状況については、「制定済み」は都道府県が74%、指定都市が40%、中核市等が11%、一般市が7%、町村が3%であった。

○障害者差別の解消に係る相談・紛争解決に関する調査

 相談対応を行う体制(複数回答可)については、「ワンストップ相談窓口を設置又は指定」が47%、「障害者差別に関する相談員を配置」が15%、「統一的な解釈・判断を行う部局等を指定」が23%、「いずれにも該当しない」が30%であった。

 また、「相談件数をカウントしている」は64%、「相談件数をカウントしていない」は36%であった。

○障害者差別解消法に係る周知啓発等に関する調査

 障害者差別の解消に向けた周知啓発について、「実施している」は都道府県および指定都市が100%、中核市等が98%、一般市が81%、町村が51%であった。

 周知啓発で用いている媒体(複数回答可)としては、「紙媒体(パンフレット、リーフレット等)」が79%、「SNSTwitterLINEInstagram 等)」が2%、「動画(YouTube 等)」が3%、「専用ウェブサイト(SNS 及び動画の掲載を含む)」が20%であった。

○障害者差別の解消に係る施策の効果測定等に関する調査

 障害者差別の解消に係る施策の効果について、「定量的な効果測定を実施している」は、都道府県が53%、指定都市が35%、中核市等が26%、一般市が12%、町村が4%であった。

 定量的な効果測定を実施している地方公共団体の差別解消の認識としては、「障害者への差別は改善されてきたと捉えている」が50%であった。

○障害者基本法に基づく障害者計画の事項に関する調査

 障害者基本法に基づく障害者計画については、「策定済み」が92%、「策定予定」が5%、「未定(策定するかしないか決まっていない)」が2%であった。

○障害者基本法に基づく審議会その他の合議制の機関に関する調査

 障害者基本法に基づく審議会その他の合議制の機関については、「設置済み」が都道府県及び指定都市は100%、中核市等は59%、一般市は47%、町村は33%である。

<地方公共団体詳細調査>

○障害者差別に関する事例収集の体制

 相談対応及び事例収集の体制として、障害者差別に関する事例については、各地方公共団体に共通して相談窓口を担う部署等で集約している。相談業務を委託している場合には、委託先で一括して事例を集約しており、地方公共団体の所管部署と事例の共有がなされている。

 事例の整理として、聴取する内容については、基本的事項に関するフォーマットを決めて、記録している。相談員が聴取する内容については、相談日時、相談方法、障害種別、差別の内容、対応の経過等を基本的事項としている。

 事例の共有に関しては、個人情報等の取り扱いについて、各地方公共団体ともに細心の注意を払っており、地域協議会等で事例を紹介・共有する場合や、他部局や関係各所へ照会をする場合には、個人が特定できないように情報を抽象化している。

 事例の活用方法としては、多くの地方公共団体において、地域協議会への報告事項(実績)として事例を取り上げているほか、事例集を作成している地方公共団体がある。

○障害者差別解消の周知啓発等

 障害者差別に関する事例、合理的配慮の提供に関する事例等については、多くの地方公共団体がパンフレット・リーフレットといった紙媒体を作成し、活用している。作成にあたっては、複数の地方公共団体が「わかりやすさ」を重視している。

 紙媒体以外を活用した周知啓発については、地方公共団体のホームページの活用のほか、「動画を作成し公開する」といった新しい取組がみられる。

 また、イベント等を活用した周知啓発については、障害者差別解消法や障害に関する理解を深めるため、講演会や各種イベントを実施している地方公共団体の他、出前講座として直接出向く啓発活動も行われている。

 また、多くの地方公共団体が、障害者差別解消への理解を深めるために、職員等の研修を実施している。

○障害者差別解消に関する今後の取組について

 障害者差別解消の周知啓発のさらなる充実や幅広い関係者からの事例収集に取り組んでいくことが重要と認識されている。なお、コロナ禍のもと、新たな日常における障害者差別解消の取組の推進が課題となっている。

2.国外調査

目的

 障害者差別解消法の附則第7条に基づく3年後見直しの検討が進められているところ、民間事業者における合理的配慮の提供の義務化といった法的義務による対応の強化と補完的な形で、自発的な取組を促進することは、重要である。

 諸外国における「環境・社会・ガバナンス」(以下、ESGと呼ぶ。)に関する施策・取組には、社会(ダイバーシティ・人権等)やガバナンス(内部統治及び内規整備を含むマネジメント、情報開示の充実等)領域に障害者施策が含まれ得ると考えられ、自発的な取組の推進のために活用できる可能性がある。そのため、主要国におけるESGに関する施策・取組の状況及び動向を把握することは、我が国が今後民間事業者における自発的な取組を促進するための施策を検討していく上で有益と考えられる。主要国におけるESGに関する施策・取組の状況及び動向を把握することは、我が国が今後民間事業者における自律的な取組を促進するための施策を検討していく上で有益と考えられる。

 こうしたことを踏まえ、諸外国における民間事業者の障害者差別の解消に資する自律的な取組の促進に関する施策、特にESGに関する施策・取組の状況及び動向について調査を実施した。

調査概要

<文献調査>

 主要国及びESGに係る取組の先進国の中から、米国、英国、フランス、ドイツ、スウェーデン、オーストラリア、EUの7か国・地域を対象として調査を行った。

<ヒアリング>

 ESGに関する主要な主体を、5件、選定し、ヒアリングを実施した。

機関名
欧州委員会(EC)
欧州財務報告諮問グループ(EFRAG
ESGに係る投資アドバイザリー事業者
ESGに関する学識経験者
インデックス・プロバイダー(国際的な指標策定事業者)

調査結果の概要

<文献調査>

 文献調査では、「ESGについての非財務情報の開示の枠組み」においては、オーストラリアの枠組みで障害者施策に関する内容が明示的に書き込まれている他、間接的に含まれていると考えられる枠組みも複数確認することができた。また、「ESGについての投資に係る枠組み(スチュワードシップ・コード等)」においては、明示的に障害者施策に言及されたものはなかったが、間接的に含まれていると考えられる枠組みを複数確認することができた。なお、「ESGについての機関投資家の投資方針」においては、直接的にも間接的にも、障害者施策に関する記載を見つけることはできなかった。

 全体として、障害者施策に特化した記述は限定的であったもの、ダイバーシティやインクルージョン、人権といった整理の中で、障害者施策についても取組が進むことが期待される。

<ヒアリング調査>

 障害者施策の指標化に関する動きとしては、障害公平指標(DEI)といった指標策定の取組があり、現時点では雇用領域が中心的なテーマとなっているが、今後、障害者差別解消法が対象とするような雇用以外の領域においても、取組が広がっていくことが望まれる。こうした取組においては、障害者施策への取組は、その欠如をリスクとして位置付けていくよりも、その取組の実施を機会として捉えることが重要との意見があった。また、障害者のインクルージョンが、組織の多様性を高める、収益にもプラスの影響を与えるといったエビデンス・事例の蓄積・整理・共有を図ることが重要であるとの指摘もあった。

 加えて、Valuable 500 のように、世界的なリーディング事業者500 社の協力を募り、経営トップ層による障害者のインクルージョンについてのコミットメントを取り付けることにより、事業者の取組を力強く推し進めようとする取組も確認された。

 また、欧州における社会(S)領域の議論では、現時点において障害者施策がその主流となってはいなかったが、これに関連し得るものとして、EUタキソノミーにおけるソーシャル・タキソノミーの整備に向けた検討といった動向も確認することができた。

 こうした取組は、今後、事業者による障害者施策についての自律的な取組を促していくための施策として、一定のポテンシャルを有すると考えられる。

 事業者の自発的・自律的な取組を促すための施策が進むことは、社会全体で共生社会の実現を図る観点からも重要である。今後も、ESGをはじめとする国内外における関連動向について、注視していくことが望ましい。