第1章 施策の総合的取組と障害者の状況
第1節 障害者制度改革の動向
1.制度改革の推進
(1)本部及び推進会議
我が国の障害者施策について近年の大きな動きとしては、平成21年12月、内閣に「障がい者制度改革推進本部(以下「本部」という。)」が設置され、その下で障害当事者(障害のある人本人及びその家族)を中心とする「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という。)が22年1月から開催されたことがあげられる。
制度改革に向けた精力的な検討は、23年度においても引き続き行われた。
ア 本部と推進会議の構成
本部は、平成21年12月閣議決定により設置され、内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官及び内閣府特命担当大臣(障害者施策)を副本部長、他のすべての国務大臣を本部員として、それまでの「障害者施策推進本部」(以下「旧本部」という。)を廃止して設けられたものである。
本部は、障害者の権利に関する条約(仮称)(以下「障害者権利条約」という。)の締結のために必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革を行い、関係行政機関の相互間の緊密な連携を確保しつつ、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図るものであり、当面5年間を障害者の制度に係る改革の集中期間と位置付け、改革の推進に関する総合調整、改革推進の基本的な方針の案の作成及び推進並びに「障害」の表記の在り方に関する検討等を行うこととしている。(図表1-1参照)
なお、推進会議は、実際に障害のある人が積極的に意見を持ち寄って議論を行うことができるよう、構成員(オブザーバーを含む)の半数以上(26名のうち15名)は、障害当事者(障害のある人及びその家族)から構成された。
イ 「第一次意見」と閣議決定
推進会議は、平成22年1月から6月までの14回の会議を経て第一次意見「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」(平成22年6月7日)をとりまとめた。
その基本的な考え方は、
<1> 「権利の主体」である社会の一員
<2> 「差別」のない社会づくり
<3> 「社会モデル」的観点からの新たな位置づけ
<4> 「地域生活」を可能とするための支援
<5> 「共生社会」の実現
であり、基礎的な課題、横断的課題、個別分野の基本的方向と今後の進め方などが盛り込まれた。
第一次意見は本部長(内閣総理大臣)に提出され、本部の検討を経て「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が閣議決定された。(概要は図表1-2のとおり。)
(2)閣議決定(「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」)の内容
この閣議決定は、基本的考え方として、障がい者制度改革推進会議の第一次意見を最大限に尊重し、我が国の障害者に係る制度の集中的な改革の推進を図り、障害の有無にかかわらず、相互に個性の差異と多様性を尊重し、人格を認め合う共生社会を実現することを掲げている。
次に、「障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方」とし、まず、「基礎的な課題における改革の方向性」として次のような2点を定めている。
<1> 地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築(障害者が自ら選択する地域への移行支援や移行後の生活支援の充実、及び平等な社会参加、参画を柱に据えた施策の展開。虐待のない社会づくり)
<2> 障害のとらえ方と諸定義の明確化(障害の定義の見直し、合理的配慮が提供されない場合を含む障害を理由とする差別や、手話その他の非音声言語の定義の明確化)
次いで「横断的課題における改革の基本的方向と今後の進め方」として、次のような3点を定めている。
<1> 障害者基本法の改正と改革の推進体制
- 障害や差別の定義を始め、基本的施策に関する規定の見直し・追加
- 改革の集中期間内における改革の推進等を担う審議会組織の設置
- 改革の集中期間終了後に障害者権利条約の実施状況の監視等を担ういわゆるモニタリング機関の法的位置付け 等
→第一次意見に沿って検討、平成23年に法案提出を目指す
(注:この法案については、平成23年4月に国会に提出され、7月に可決成立した。詳細は後述。)
<2> 障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等
- 障害者に対する差別を禁止し、被害を受けた場合の救済等を目的とした制度の構築
→第一次意見に沿って検討、平成25年に法案提出を目指す
(注:これらについては、平成22年11月に推進会議の下に「差別禁止部会」が設けられ、検討が行われている。)
これに関連し、人権救済制度に関する法案も早急に提出できるよう検討
<3> 「障害者総合福祉法」(仮称)の制定
- 制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする制度の構築
→第一次意見に沿って検討、平成24年に法案提出、25年8月までの施行を目指す
(注:平成22年4月に推進会議の下に「総合福祉部会」が設けられ、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とする内容を含む同部会での議論を踏まえ、平成24年3月に、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」が国会に提出された。詳細は後述。)
また、施策分野ごとに改革の「工程表」を定めており、個別分野における基本的方向と今後の進め方を簡潔に表している。その概要は図表1-2の下の表のとおり。
(3)第二次意見
推進会議は、第一次意見の取りまとめ以降、15回にわたって議論し、平成22年12月には障害者基本法の改正内容に関する「障害者制度改革の推進のための第二次意見」を取りまとめた。
この意見では、まず、障害者基本法改正の趣旨・目的として、「個性と人格を認め合うインクルーシブ社会の構築」「障害概念を社会モデルへ転換、基本的人権を確認」「施策の実施状況を監視する機関の創設」の3点をあげ、次に「総則関係」、「基本的施策関係」、「推進体制」等について述べている。
「総則関係」では、
<1> 目的:障害の有無にかかわらず個性と人格を尊重する社会の実現等
<2> 定義:「社会モデル」の考え方を踏まえた障害の定義の見直し等
<3> 基本理念
- 基本的人権の享有主体として、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利
- 障害者権利条約における「地域社会で生活する平等の権利」の確認
- 必要な支援を受けた自己決定に基づく社会参加の権利の確認
- 手話等の言語の使用及びコミュニケーション手段の利用(障害者権利条約における「表現及び意見の自由についての権利」の確認)等
<4> 差別の禁止
- 障害者権利条約を踏まえた障害に基づく差別に係る規定の見直し
- 差別及びその防止に関する事例の収集、整理及び提供 等
など12項目について盛り込んでいる。
「基本的施策関係」については、
<1>地域生活、<2>労働及び雇用、<3>教育、<4>健康、医療、<5>障害原因の予防、<6>精神障害者に係る地域移行の促進と医療における適正手続の確保、<7>相談等、<8>住宅、<9>ユニバーサルデザインと技術開発、<10>公共的施設のバリアフリー化と交通・移動の確保、<11>情報アクセスと言語・コミュニケーション保障、<12>文化・スポーツ、<13>所得保障、<14>政治参加、<15>司法手続、<16>国際協力について盛り込んだ。
「推進体制」では、国においては、中央障害者施策推進協議会及び推進会議を発展的に改組して施策の実施状況の監視を担う新たな審議会組織を設置するとともに、地方においても監視機能を持つ審議会組織の設置を提案している。
また、「障害」の表記として、法令等では、当面「障害」を使用することなどを提案している。
(4)本部による基本法改正案決定と国会可決、施行
平成23年3月11日の午前、本部が開催され、上記の推進会議二次意見を踏まえた障害者基本法の一部を改正する法律案が決定され、同法案は、同年4月22日閣議決定、国会に提出された。
この改正法案は、国会審議の過程で、防災・防犯、消費者としての障害者の保護を加えるなど一部修正され、衆議院は同年6月16日、参議院は7月29日、ともに全会一致で可決・成立し、附帯決議も付され同年8月5日に施行された。ただし、「障害者政策委員会」に関する部分は、この公布から1年以内に施行することとなった。(平成24年5月21日に施行。)