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第1章 施策の総合的取組と障害者の状況 > 第1節 障害者制度改革の動向 > 2.改正障害者基本法の概要

平成24年版障害者白書

平成23年度を中心とした障害者施策の取組

第1章 施策の総合的取組と障害者の状況

第1節 障害者制度改革の動向

2.改正障害者基本法の概要

「障害者基本法の一部を改正する法律」(平成23年法律第90号。以下「改正法」という)の概要は次のとおりである。(図表1-3「障害者基本法の一部を改正する法律(概要)」や内閣府障害者施策ホームページの「障害者基本法の改正について(平成23年8月)」(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/kaisei2.html)も参照)

(1)目的(法第1条関係)

障害者の権利に関する条約(仮称)(以下「障害者権利条約」という)の趣旨に沿った障害者施策の推進を図るため、障害者権利条約に定められる障害者のとらえ方や我が国が目指すべき社会の姿を新たに明記するとともに、施策の目的を明確化する観点から改正を行った。障害者を、必要な支援を受けながら、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する主体としてとらえ、障害者があらゆる分野において分け隔てられることなく、他者と共生することができる社会の実現を法の目的として新たに規定した。

(2)定義(法第2条関係)

障害者権利条約は、「障害者には・・・障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む」(条約1条)ものとし、また、合理的配慮を定義する(条約2条)など、生活を営む上で妨げとなる社会的障壁を取り除くことにより、障害者が障害のない者と等しく機会の均等が確保されることを理念としている。このような障害者権利条約の理念に沿った今次の制度改革の趣旨を踏まえ、所要の改正を行った。

<1> 障害者

改正前において、障害者が日常生活等において受ける制限は、本人が有する心身の機能の障害に起因するものとしてとらえ、障害者の定義を「障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」としていたところであるが、今回の改正では、障害者が受ける制限は機能障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるとするいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害者の定義を見直し「障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とした(2条1号)。

その際、「障害」の範囲について、改正前は「身体障害、知的障害又は精神障害」を「障害」と総称していたところである(※)が、発達障害や難病等に起因する障害が含まれることを明確化する観点から、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」を「障害」とした。

また、「継続的に」には、断続的に又は周期的に相当な制限を受ける状態にあるものも含むものと解している。

<2> 社会的障壁

<1>の「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限をもたらす原因となる社会的な障壁(事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)について規定した(2条2号)。

※障害の定義については、平成5年改正時に、それまで「肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、音声機能障害若しくは言語機能障害、心臓機能障害、呼吸器機能障害等の固定的臓器機能障害又は精神薄弱等の精神的欠陥」であったものを、「障害」をできるだけ幅広くとらえるとの観点から、「身体障害、精神薄弱又は精神障害」(「精神薄弱」は平成10年改正により「知的障害」に変更)と大きなくくりで規定する旨の改正をしている。

(3)基本原則(法第3条~第5条関係)

(1)に規定する社会、すなわち障害の有無によって分け隔てられることなく共生する社会を実現するために規準とすべきものとして基本原則を定めている(3~5条)。なお、改正前の3条には基本的理念の規定を設けていたところであるが、その内容は全て改正後の基本原則に引き継がれている。

<1> 地域社会における共生等(3条)

障害の有無にかかわらず共生する社会の実現を図るに当たって旨とするべき事項として、改正前から定められていたあらゆる分野の活動に参加する機会の確保(3条1号)を規定するとともに、新たに地域社会における共生(3条2号)、コミュニケーション手段の選択の機会の確保(3条3号)を規定した。

また、全ての障害者が、意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段の選択の機会の拡大が図られる旨を規定した(3条3号)。なお、本号では「意思疎通のための手段」の例示として「言語(手話を含む。)」と規定している。

<2> 差別の禁止(4条)

改正前から定められていた障害を理由とする差別の禁止(4条1項)を規定するとともに、社会的障壁を除去する措置が実施されるべきこと(4条2項)、国が、差別の禁止に係る啓発及び知識の普及のため、情報の収集、整理及び提供を行うこと(4条3項)を規定した。

差別の禁止に関して、障害者権利条約では「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」を「合理的配慮」として定義した上で、「障害を理由とする差別」には、「合理的配慮の否定を含む」「あらゆる形態の差別」が含まれるとしているところ(条約2条)。この障害者権利条約の理念を踏まえ、障害者への差別とならないよう(4条1項の規定に違反することとならないよう)、障害者が個々の場合において社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)の除去を必要とし、かつ、そのための負担が過重でない場合には、その障壁を除去するための措置が実施されなければならない旨を規定した(4条2項)。「合理的配慮」の具体的内容等については、障がい者制度改革推進会議の下で開催される差別禁止部会等において、障害者に対する差別の禁止に係る法制を検討する中で議論しているところであり、改正法案の作成時において内容が確定していないことから「合理的配慮」の定義は行わないこととしたが、障害者権利条約における合理的配慮の考え方については4条1項及び2項に盛り込んでいる。

(4)施策の基本方針(法第10条関係)

改正前において、障害者施策は障害者の「年齢及び障害の状態」に応じて策定、実施されなければならないとしていたところであるが、今回の改正では、「性別」、「生活の実態」にも応じたものとするべき旨を規定した(10条1項)。これは、障害者施策の策定、実施に当たっては、障害者の性別によっても、その必要とする支援は多様であり、それぞれのニーズに応ずる必要があること、また、障害者の属性(性別、年齢)やその症状のみならず、家族構成、職業、日常的にどのようなコミュニケーション手段を使用しているか等その置かれている生活の実態に適合する形で展開されることが必要であるという趣旨を明文化したものである。

また、今次の制度改革においては、障害者を自らの意思で選択・決定し、あらゆる分野の活動に参加する主体としてとらえることとしており、国及び地方公共団体が障害者施策を講ずるに当たっては、障害者や障害者団体などの関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めなければならない旨を新たに規定した(10条2項)。

(5)障害者の自立および社会参加の支援などのための基本的施策

今般の改正の趣旨を踏まえ、医療、介護など(14条)や教育(16条)などの既存の規定を改めるとともに、療育(17条)、防災および防犯(26条)、消費者としての障害者の保護(27条)、選挙などにおける配慮(28条)、司法手続における配慮(29条)などの規定を新設した。特に、防災及び防犯については、障害者であることによって、災害や犯罪に巻き込まれた場合等において、その被害が深刻化することのないよう、また、平時において安全・安心な生活を営むことができるようにする観点から、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、防災及び防犯に関し必要な施策を講ずる旨の条文が衆議院における修正により新設された。本条は東日本大震災を踏まえた規定である。

(6)障害者政策委員会の設置(法第32条関係)

障害者権利条約に「締約国は・・・条約の実施を・・・監視するための枠組みを自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する」と規定されている(条約33条2項)ことを踏まえ、障害者基本計画の実施状況を監視(monitor)し、必要に応じて関係各大臣等に対する勧告等を行う障害者政策委員会(中央障害者施策推進協議会を発展的に改組)を新たに内閣府に置くこととした(32条1・2項)。なお、一般的な辞書において、「監視」には悪事が起こらないよう見張るという意味もあるが、本規定の監視はそのような意義ではなく、障害者基本計画に基づく各施策の進捗状況を把握し、また計画の内容に沿って適切な内容となっているか、所期の成果が上がっているか等について評価を行うことをいう。

(7)都道府県等における合議制の機関(法第36条関係)

障害者権利条約では、地方における監視機関(モニタリング機関)の設置につき、締約国の法律上及び行政上の制度に従うとされているところであるが、障害者権利条約の理念に沿った施策を実効的に担保することがその目的であることに鑑みれば、我が国においては、障害者計画の策定を始め、障害者施策の実施主体として都道府県や市町村がその重要な役割を担っていることから、地方においても監視機関を設置することが望ましい。そこで、都道府県等に置かれている地方障害者施策推進協議会を改組し、その所掌事務に障害者施策の実施状況の監視を追加することとした(36条)。

(8)改正障害者基本法の施行期日等

改正法は、公布の日(平成23年8月5日)から施行することとした。ただし、「障害者政策委員会」と「都道府県における合議制の機関」に係る規定の部分は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとした。(平成24年5月21日に施行。)

(9)検討

<1> 国は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律による改正後の障害者基本法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとした。

<2> 国は、障害者が地域社会において必要な支援を受けながら自立した生活を営むことができるようにするため、障害に応じた施策の実施状況を踏まえ、地域における保健、医療及び福祉の相互の有機的連携の確保その他の障害者に対する支援体制の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとした。

(10)附帯決議

改正法の成立に際しては、衆議院と参議院において、いくつかの点について適切な処置を講ずるべきである、としてそれぞれ附帯決議が付されている。

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