6.防災、防犯対策の推進
(1)防災対策
ア 防災対策の基本的な方針
平成16年に発生した一連の風水害等の教訓を踏まえ、高齢者や障害のある人等の災害時要援護者に配慮した避難場所における施設・設備の整備等の規定について、平成17年7月に防災基本計画に追加した。さらに、東日本大震災の教訓を踏まえ、災害時要援護者を適切に避難誘導・安否確認するため、平常時からの災害時要援護者に関する情報の把握・共有の規定について、平成23年12月に防災基本計画に追加した。また、東海地震、東南海・南海地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震については、予防から応急、復旧・復興までの対策のマスタープランである「地震対策大綱」、定量的な減災目標と具体的な実現方法を定める「地震防災戦略」、地震発生時の各省庁の具体の役割や応援規模等を定める「応急対策活動要領」を、中部圏・近畿圏直下地震については「地震対策大綱」をそれぞれ同会議において決定しており、これらの中でも、高齢者や障害のある人、外国人等の災害時要援護者への対策として、情報提供や避難の支援、避難生活の運営等災害応急対策のあらゆる面で必要となる対策等について規定している。
また、平成24年度当初予算において、「避難における総合的対策の推進経費」として約4,500万円を計上し、災害時要援護者などを対象に実態調査を行い、災害時要援護者の避難支援ガイドラインの見直しなど、課題の解決のための検討を行うこととしている。
イ 災害時要援護者対策等の推進
地方公共団体が、障害のある人等の災害時要援護者にも配慮した、避難地、避難路等の整備を計画的、積極的に行えるよう、防災基盤整備事業等により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。また、地域防災計画上社会福祉施設など災害時要援護者等の避難所となる公共・公用施設のうち、耐震改修を進める必要がある施設についても公共施設等耐震化事業により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
防災基盤整備事業の一つとして「災害時要援護者緊急通報システム」の普及に努めるとともに、災害時要援護者が入所する施設における避難対策の強化等の防火管理の充実について消防機関に周知している。
地域や企業等における各種防災訓練の際に、災害時要援護者を重点とした避難誘導訓練を実施し、防災意識の高揚を図っている。
各都道府県警察においては、障害のある人が入所する施設等への巡回連絡、ミニ広報紙の配布、FAX ネットワーク(交番等に設置されているFAX と障害者団体、障害のある人の自宅等のFAX を利用して情報交換を行うもの)の活用等による障害のある人の防災に関する知識の普及等障害のある人に対する支援体制の整備促進に努めている。
災害時においては、建物の崩壊、道路の損壊等による交通の混乱が予想されることから、光ビーコン、交通情報板等の整備を推進し、災害時に障害のある人等を救援するための緊急通行車両等の通行を確保するとともに、災害時の停電による信号機の機能停止に備え、自動起動型信号機電源付加装置の整備を推進し、障害のある人等の安全な避難を確保するよう努めている。
ウ 災害時要援護者関連施設等への対策
災害時要援護者対策を推進するには、まず、地域における災害時要援護者の状況を的確に把握した上で、社会福祉施設など災害時要援護者が入所している施設自らの対策を促進するための情報提供等を行う必要がある。
また、「災害時要援護者避難支援プラン作成の促進について」(平成18年4月12日付総務省消防庁通知)等を踏まえ、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(18年3月改訂災害時要援護者の避難対策に関する検討会)及び「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(17年3月集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会)を参考に、災害時要援護者や災害時要援護者関連施設への防災情報の伝達体制を整備し、入所者等の避難・救出・安否確認などの警戒避難体制の具体化を促進するとともに、被災した場合の防災関係機関への迅速な通報体制の整備及び避難先における入所者等の生活確保体制の整備を促進する必要がある。同時に、消防職団員や災害時要援護者施設の職員、自主防災組織等が中心となって、地域の実情に応じた支援体制をつくることが必要である。
なお、災害時要援護者関連施設における土砂災害対策については、砂防関係施設等による保全対策を重点的に進めるとともに、「災害弱者関連施設に係る総合的な土砂災害対策の実施について」(平成11年1月29日付関係5省庁共同通知)を踏まえ、全国の地方公共団体に対し、立地条件の把握、施設周辺のパトロール体制の確認等を要請しているほか、施設への平常時、緊急時における適切な情報提供、的確な避難誘導体制等の再点検を行い、警戒避難体制等の防災体制の整備に努めること及び消防団、自主防災組織、近隣居住者等との連携協力のもと、迅速かつ適切な避難誘導ができる体制の構築に努めることを要請している。さらに、山地災害危険地区等のうち病院、社会福祉施設等の災害時要援護者関連施設が隣接している箇所において計画的な治山対策の推進を図っている。
また、災害時要援護者の安全かつ迅速な避難が可能となるように、防災情報システム等の整備強化を図ることに加え、洪水、津波、高潮、土砂災害等が発生した場合に備え、過去の災害や危険箇所、情報入手方法、避難場所、避難経路等を具体的に示したハザードマップ等によるきめ細かな情報の提供を推進し、防災意識の高揚に努めている。
土砂災害により建築物に損壊が生じ、住民に著しい危害が生じるおそれのある区域(土砂災害特別警戒区域)において、災害時要援護者関連施設等の開発行為を行う場合については、許可制とすることなどを内容とする「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下「土砂災害防止法」という。)が平成13年4月より施行され、現在、基礎調査を重点的に実施することにより、土砂災害警戒区域等の指定を推進している。また、17年7月には、「土砂災害防止法」の一部改正により、土砂災害警戒区域内に市町村地域防災計画に位置づけられた災害時要援護者関連施設がある場合は、円滑な警戒避難が行われるよう、土砂災害に関する情報、予報及び警報の伝達方法を定めることを規定するなど、災害時要援護者関連施設の防災力強化を図っている。
平成17年10月には、災害時要援護者への避難時の対応として、都道府県に対して、市町村が避難準備情報を発出するための客観的基準が地域防災計画に定められるよう技術的支援を行うことや、災害時要援護者の避難行動の支援に当たっては、福祉部門との十分な連携を図ることなどの助言を行っている。
さらに、土砂災害防止対策基本指針(「土砂災害防止法」に基づき土砂災害の防止のための対策の推進に関する基本的な方向を示すものとして、平成13年7月に国土交通大臣が定めた指針)を18年9月に変更し、災害時要援護者の避難支援体制の強化を図るとともに、19年4月には、「土砂災害警戒避難ガイドライン(国土交通省砂防部)」を、21年9月には、「土砂災害警戒避難事例集(国土交通省砂防部)」を都道府県に通知し、災害時要援護者の避難支援について、市町村の警戒避難体制の整備を支援している。また、土砂災害のおそれのある災害時要援護者関連施設が立地する箇所について、都道府県の関係部局等の連携強化を図り、土砂災害のおそれのある箇所や施設に関する情報の共有や施設管理者への警戒避難に関する情報の提供、防災訓練の実施、施設の新規立地抑制等の対策を推進している。
なお、平成17年には「水防法」が改正され、水災時における災害時要援護者の円滑かつ迅速な避難を確保するために、市町村地域防災計画に位置づけられた浸水想定区域内の災害時要援護者関連施設にあっては、洪水予報等の伝達方法を定めることを規定するなど、水災防止体制の強化を図っている。
エ 水害対策
洪水被害を防止又は軽減することを目的に河川改修等を行う治水対策、過去の高潮・津波等による災害発生の状況等を勘案した海岸保全施設整備を積極的に推進することとしている。浸水被害は被災後従前の生活に戻るまでに多大な労力を要し、障害のある人にとって日常生活に著しい負担をもたらすものであるため、そうした被害に対しては、床上浸水対策特別緊急事業など早期に対策を講じるハード整備を着実に推進するとともに、ハザードマップなどの円滑かつ迅速な避難を支援するソフト対策を一体的に行っている。
また、雨量・水位等の河川情報を地方公共団体をはじめ地域住民に迅速かつ的確に伝達するため、インターネット等によりリアルタイムで情報提供しており、特に雨量・水位が一定量を超えるなどの緊急時においては、迅速な水防活動を実施するために、警報等で危険を知らせている。また、地方公共団体の防災活動や国民の警戒避難行動等を支援し、土砂災害から人命を守るため、気象庁及び都道府県が共同して、土砂災害警戒情報の提供を行っている。渇水時においても情報提供を推進しており、全国のダムの貯水状況、取水制限、給水制限を受けている市町村に関する情報等の提供を行っている。これらの情報をNHK 等報道機関に情報提供する体制の整備も併せて進めている。
オ 防火安全対策
全国の消防機関等では、春、秋の全国火災予防運動を通じて「小規模雑居ビルにおける防火安全対策の徹底」等を重点目標として取り組んでおり、小規模雑居ビルの扉、階段、通路等に物件を置かないことの徹底、警報設備、避難設備の維持管理の徹底、放火防止対策の推進、並びに違反是正の取組みの強化等、必要な防火安全対策の徹底を図っている。
また、平成22年度より、障害者が安心して生活を営み、社会参加することができるよう、火災に対する安全性を効果的に確保するため、ユニバーサルデザイン等の観点を取り入れた消防用設備・機器等の導入・普及方策等の検討を進めている。
平成23年度から24年度にかけては、聴覚障害者のいる生活保護受給世帯に対して光などで火災を知らせる住宅用火災警報器を無料で設置する事業を行っており、聴覚障害者対応型住宅用火災警報器の普及支援を行っている。
カ 東日本大震災への障害のある人たちへの主な緊急支援
平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴い、被災地、被災者に対して講じられている施策のうち、障害のある人への支援の一環として実施されているものとして、主に次のような施策がある(平成24年3月現在)。
厚生労働省は、障害のある人や障害福祉サービスの提供を行う事業者に対し、以下のような利用者負担の減免や障害福祉サービスに係る措置を弾力的に行うよう通知等を行った。
<1> 利用者への対応について
- 震災後に利用者の受けている支給決定の有効期間が切れていたとしても、障害福祉サービスを提供できることとした。また、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律により、支給決定の有効期間が平成23年3月11日から同年8月30日までに切れる場合は、これを延長することとした。
- さらに、利用者が受給者証を持っていなくても、障害福祉サービスを提供できることとした。
- 震災等により利用者負担の支払が困難な方については、利用者負担の徴収の猶予や減免を行うことができることとした。また、補装具費の取扱いについても同様の取扱いとした。
<2> 障害福祉サービスの提供について
- 被災者等を受け入れたときなどに、一時的に、定員を超える場合を含め人員配置基準や施設設備基準を満たさない場合も報酬の減額等を行わないこととした。
- また、やむを得ない理由により、利用者の避難先等において、安否確認や相談支援等のできる限りの支援の提供を行った場合は、これまでの障害福祉サービスとして報酬の対象とすることとした。
- 避難所においてホームヘルプサービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
- さらに、利用者とともに仮設の施設や他の施設等に避難し、そこにおいて障害福祉サービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
<3> 介護職員等の派遣、避難者の受入等
- 各事業所等において、介護職員等が不足している場合には、国や県などの調整を受けて、別の事業所等より介護職員等の派遣を行った。
- また、被災等により利用者の避難が必要である場合には、国や県等において調整を行い、受入先を確保した。
<4> 被災地における障害福祉サービス等の再開支援について
- 震災を受け被災した障害者支援施設等の復旧事業や事業再開に要する経費に関する国庫補助事業を実施し、復旧支援を行った。
- 甚大な被害を受けた被災地の障害福祉サービス事業所が復興期においても安定したサービス提供を行うことができるよう、被災県ごとに支援拠点を設置し、
ア 障害者就労支援事業所による流通経路の再建や販路確保・拡大等の支援
イ 障害者自立支援法、児童福祉法による新体系サービスへの移行支援
ウ 発達障害児・者のニーズに応じたサービス提供等のための助言・指導
エ 居宅介護事業所等の事業再開に向けた整備の補助
などに取り組むための予算措置を行った。
また、心のケアについては、災害救助法に基づき、精神科医、看護師、精神保健福祉士等4、5人程度で構成される「心のケアチーム」が、市町村の保健師と連携を取りながら避難所の巡回等を行った。
被災者の生活の場が仮設住宅や自宅に移る中で、PTSD の症状が長期化したり、うつ病や不安障害の方が増加したりすることが考えられることから、平成23年度第3次補正予算により、岩手、宮城、福島の各県に「心のケアセンター」を設置し、長期継続的に心のケアを行う看護師、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職が、心のケアの必要な方の仮設住宅や自宅への訪問支援等を実施している。
一方、就労支援としては、平成23年3月末にハローワークに「震災特別相談窓口」を設置し、被災者全般に対する職業相談等を実施している。また、これに加え、同年4月から地域障害者職業センターに「特別相談窓口」を設置し、ジョブコーチ支援や出張カウンセリング等のきめ細かな支援を実施している。さらに、同年5月からは、ハローワークによる避難所等への出張相談において就労ニーズを把握した場合、地域障害者職業センターが訪問相談を実施している。
文部科学省では、障害のある幼児児童生徒も含め、幼児児童生徒の教育機会確保のため、各都道府県教育委員会等に対し、被災幼児児童生徒の学校への受入れ、就学援助等を弾力的に取り扱うよう要請をするとともに、義務教育諸学校における教科書の無償給与の弾力的な取扱いについて周知した。
さらに、平成23年度第1次補正予算において、震災により就学等困難となった特別支援学校及び特別支援学級等の幼児児童生徒に対し就学支援を行うための経費や、障害のある幼児児童生徒も含め、被災した幼児児童生徒等の心のケアの充実を図るため、スクールカウンセラー等を緊急派遣する経費に加え、平成23年度第3次補正予算において、特別支援学校における学習活動の充実を図る外部専門家の活用のための経費を措置したところであり、障害のある幼児児童生徒の就学支援の確保を図っている。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」を作成し、ホームページに掲載するとともに、関係機関に配布した。(http://www.nise.go.jp/cms/6,3758,53.html)
文部科学省及び厚生労働省では、被災した障害のある幼児児童生徒の状況把握及び支援、教育委員会、学校等が支援を必要とする幼児児童生徒を把握した場合に保護者の意向を確認した上で市町村障害児福祉主管課に連絡するなどの教育と福祉との連携、障害児支援に関する相談窓口等の周知について、各都道府県教育委員会、障害児福祉主管課に対し要請している。
なお、内閣府では、障害者施策ホームページにおいて、障害のある人への情報提供ページへのリンクが容易になるように東日本大震災関連情報のコーナーを設けている。
(2)防犯対策
ア 警察へのアクセス
障害のある人は、防犯に関する通常のニーズを満たすのに特別の困難を有しており、また、犯罪や事故の被害に遭う危険性が高く、不安感も強いことから、障害のある人の気持ちに配慮した各種施策の推進に努めている。
障害のある人が警察へアクセスする際の困難を取り除くための対策としては、FAX による緊急通報の受理(FAX110番)及びE メールによる緊急通報の受理(メール110番)を全都道府県警察において導入していること、FAX ネットワークの構築等による障害のある人への情報提供に努めていること、交番等の玄関前にスロープを設けるなど交番等における障害のある人の利用に配慮した施策を推進していることなどが挙げられる。
イ 犯罪・事故被害の防止
障害のある人が犯罪や事故の被害に遭うことの不安感を除くための対策としては、パトロールや巡回連絡を通じて、障害のある人の相談や警察に対する要望に応じるとともに、身近な犯罪や事故の発生状況、防犯上のノウハウ等の安全確保に必要な情報の提供に努めていることなどが挙げられる。
また、警察では、住宅等に対する侵入犯罪対策として大きな効果が期待できる建物部品を掲載している「防犯性能の高い建物部品目録」の公表及び普及を図るほか、(公社)日本防犯設備協会に対して、障害のある人を対象とした安全で信頼性の高い防犯システムの普及に努めるよう指導しており、同協会ではホームセキュリティガイドの中で障害のある人に対応した機器を紹介する等の活動を行っている。