第2編 全般的推進状況(平成24年度を中心とした障害者施策の取組)
第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり
第1節 障害のある子どもの教育・育成に係る施策
1.特別支援教育の推進を始めとする一貫した支援体制の整備
(1) 特別支援教育の推進
障害のある子どもについては、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を養うため、一人一人の障害の状態などに応じ、きめ細かな教育を行う必要がある。このため、障害の状態などに応じ、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級においては、特別の教育課程や少人数の学級編制のもと、特別な配慮をもって作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。また、通常の学級においては、通級による指導(注1)のほか、習熟度別指導や少人数指導などの障害に配慮した指導方法、支援員の活用など一人一人の教育的ニーズに応じた教育が行われている。
平成24年5月1日現在、特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに通級による指導を受けている幼児児童生徒の総数は約36万6千人、このうち義務教育段階の児童生徒は約30万2千人であり、これは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約2.9%に当たる。
近年、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒の障害の重度・重複化がみられること、LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥多動性障害)・高機能自閉症等の発達障害のある児童生徒への教育的対応が求められることなどの状況の変化を踏まえ、従来の盲・聾・養護学校の制度は、障害の重複化に対応するため、複数の障害種別を受け入れることができる特別支援学校の制度に転換された。特別支援学校については、これまで蓄積してきた専門的な知識・技能を生かし、地域における特別支援教育のセンターとしての機能・役割を果たすため、幼稚園、小・中学校、高等学校等の要請に基づき、これらの学校に在籍する障害のある児童生徒等の教育に関して助言・援助を行うよう努めることとされた。
また、「教育基本法」において、障害のある者への教育上の支援について新たに規定された。この改正教育基本法の理念の実現に向け、今後政府が総合的かつ計画的に取り組むべき施策について示した「教育振興基本計画」(平成20年7月閣議決定)においても、特別支援教育を推進する旨が明記されている。
これに加え、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(注2)の普及を図っている。
具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、平成24年度に使用される、小・中学校の新学習指導要領に基づく検定済教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では対応できない児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。この他、障害により検定済教科書において一般的に使用されている文字や図形などを認識することが困難な児童生徒が使用する教科用特定図書等の整備充実を図るため、必要な調査研究などを行っている。
さらに、障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術などの活用を進めることが重要である。そのため、平成23年度より「学びのイノベーション事業」において特別支援学校における情報通信技術の活用実証研究を進めている。
また、国立特別支援教育総合研究所において、情報通信技術の活用に向けての研究を実施しているとともに、各都道府県等の指導的立場に立つ教職員を対象とした「特別支援教育専門研修」において、情報手段を活用した教育的支援に関する内容の充実を図っている。このほか、各教育委員会などの研修の支援のための各種研修講義の配信や、発達障害教育情報センターWebサイトにおける発達障害のある子どもの教育的支援に関する各種教育情報の提供など総合的な情報の普及を行っている(参照:独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所)。
また、発達障害を含む障害のある児童生徒については、平成21年度より、「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」において、障害の特性等に応じた教材等の在り方及びそれらを利用した効果的な指導方法や教育効果等についての実証的研究を行っている。
特別支援教育に係る教育課程の基準の改善については、平成20年3月に幼稚園教育要領、小学校、中学校の学習指導要領を、21年3月には高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等を改訂した。改訂の主な内容は、幼稚園、小・中・高等学校については、<1> 障害の状態等に応じた指導内容・方法の工夫、<2> 交流及び共同学習の推進、特別支援学校については、<1> 障害の重度・重複化、多様化への対応、<2> 各教科等にわたる個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成による一人一人に応じた指導の充実、<3> 自立と社会参加に向けた職業教育の充実、<4> 交流及び共同学習の推進などである。
また、特別支援教育の実施状況を評価しつつ、特別支援教育の具体的な推進方策について検討を行うため、「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」を開催し、21年2月には早期からの教育支援の在り方等を主な内容とする審議の中間とりまとめを公表した。
さらに、高等学校における特別支援教育の充実について検討を行うため、同調査研究協力者会議の下で「高等学校ワーキング・グループ」を開催し、平成21年8月に高等学校における特別支援教育の充実を図るため、入試における配慮・支援、体制の充実強化と指導・支援の充実、キャリア教育・就労支援等を主な内容とする報告を公表した。
これらを踏まえ、平成22年3月には特別支援教育の更なる充実を図るための検討の方向性及び課題の整理を行い、調査研究協力者会議の審議経過報告として取りまとめ、公表した。
また、インクルーシブ教育システムの構築という障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について検討を行うため、中央教育審議会の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において審議が行われ、平成24年7月には、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(初等中等教育分科会報告)」が取りまとめられた。本報告においては、<1> 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築について、<2> 就学相談・就学先決定の在り方について、<3> 合理的配慮の充実とその基盤となる教育環境整備等について、<4> 多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進について、<5> 教職員の専門性向上等について提言された。
今後は、これらの報告等も踏まえ、特別支援教育の充実を図っていくこととしている。
(2) 地域・学校における支援体制の整備
ア 発達障害のある子どもの支援をめぐる状況
発達障害のある子どもに対し、一人一人の教育的ニーズに応じた支援を行うことは喫緊の課題である。
「発達障害者支援法」の施行や、「学校教育法施行規則」の一部改正等により、新たにLD及びADHDを対象とした通級による指導を可能とし、併せて従来から対象としていた自閉症についても情緒障害から独立して実施できることとした。
「学校教育法」の一部改正により、幼稚園、小・中学校、高等学校及び中等教育学校のいずれの学校においても、発達障害を含む幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定されたほか、後期5か年計画等においても、発達障害のある子どもへの支援について明確に盛り込まれている。
また、発達障害のある子どもへの支援については、教育、医療、福祉、保健、労働関係機関等の連携が重要であることにかんがみ、関係者相互のネットワークを構築し、情報交換や各種課題について意見交換を行うため、文部科学省において年に1回、「特別支援教育ネットワーク推進委員会」を開催している。
イ 幼稚園から高等学校段階までの校内支援体制整備
文部科学省では、厚生労働省の実施する障害児関連施策・事業や就労施策等と連携して、幼稚園、小・中学校、高等学校、特別支援学校等のすべての学校において、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒への支援体制を整備するため、その経費の一部を補助している。本事業では、関係機関との連携、学校への巡回相談や専門家チームによる支援、研修体制の整備・実施等により、特別支援教育の体制整備を推進している。
さらに、平成19年度より公立小・中学校に在籍する障害のある子どもをサポートする「特別支援教育支援員」の配置に係る経費が各市町村に対して地方財政措置されており、支援体制の構築が図られており、平成21年度からは公立幼稚園まで、さらに、平成23年度においては公立高等学校までそれぞれ対象が拡充されている。
また、後期5か年計画においては、特別支援教育の更なる推進を図るため、平成24年度までに小・中学校における個別の教育支援計画策定率を一人一人の教育的ニーズに応じた支援を推進する観点から50%にすることや、現状の体制整備状況を踏まえ、公立の幼稚園、高等学校における校内委員会の設置率や特別支援教育コーディネーターの指名率を70%にすることなどを数値目標として盛り込んでおり、着実な取組が進められているところである(図表2-9のとおり)。
ウ モデル事業の実施
発達障害のある子どもの学校における支援については、これまで小・中学校の義務教育段階を中心に施策が推進されてきた。幼稚園や高等学校における支援については、更に推進していく必要があることから、文部科学省では、「特別支援教育総合推進事業」において、地域を指定し、特別な支援が必要となる可能性のある子ども及びその保護者に対し、早期からの情報提供や相談会の実施等に取り組み、柔軟できめ細やかな対応が出来る一貫した支援体制を構築するとともに、特定の高等学校等を指定し、在籍する発達障害のある生徒へのキャリア教育の充実等に関する実践研究を実施している。モデル校の取組成果については、学校や都道府県教育委員会などが適切な支援を行う際の参考となるよう、文部科学省のホームページで広く全国に情報提供している。
特別支援教育の対象の概念図[義務教育段階]
障害のある幼児児童生徒への支援を行う「特別支援教育支援員」について
小・中学校の通常の学級にも障害のある児童生徒が在籍しています。知的発達の遅れがないものの発達障害の可能性のある学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒は、通常の学級において、全児童生徒の推定値6.5%の割合で在籍していることが指摘されています。また、特に平成14年度からの認定就学制度(注)の開始や、平成18年度より通級による指導の対象に新たにLD・ADHDが加えられたことなどにより、特別な支援を必要とする児童生徒の数は増加しています。
このような状況を踏まえ、平成18年に行われた学校教育法等の一部改正における大きなポイントとして、特別支援学校制度の創設等と並び、小・中学校等において教育上特別の支援を必要とする児童生徒に対して、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うことが新たに位置付けられました。
これまでも、通常の小・中学校に在籍する障害のある児童生徒に対しては、都道府県や市町村の独自予算により、介助員、学習支援員などの名称で外部人材を活用し、学校教育活動上の日常生活の介助(食事、排せつなどの補助、車椅子での教室移動補助など)や、学習活動上の様々なサポート(LDの児童生徒に対する学習支援、ADHDの児童生徒等に対する安全確保など)が行われてきました。
平成19年度からはこのようなサポートを行う外部人材を「特別支援教育支援員」として、その配置に必要となる経費について、地方財政措置されているところです。
また、公立小・中学校に加え、平成21年度からは公立幼稚園まで対象が拡充され、さらに、平成23年度においては公立高等学校まで拡充されています。
(3) 障害児保育の推進
厚生労働省においては、障害の程度が中程度である児童の受入れを促進するため、昭和49年度より障害児保育促進事業において保育所に保育士を加配する事業を実施してきた。
当該事業については、事業開始より相当の年数が経過し、保育所における障害のある児童の受入れが全国的に広く実施されるようになったため、平成15年度より一般財源化したところであるが、市町村においては引き続き積極的な受入れが実施されている。
このほか、厚生労働省においては、障害のある児童を受け入れるに当たりバリアフリーのための改修等を行う事業や、障害児保育を担当する保育士の資質向上を図るための研修を実施している。
(4) 放課後児童クラブにおける障害のある児童の受入推進
共働き家庭など留守家庭のおおむね10歳未満の児童に対して、放課後等に適切な遊びや生活の場を与える放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)における障害のある児童の受入れを促進するため、厚生労働省においては、平成13年度より、障害のある児童を受け入れるクラブに対して、受入れに必要な経費を運営費に上乗せ補助し、支援を行っているが、障害のある児童の受入れ数の増加等に伴い、平成20年度より、多様化する障害の種別や程度に適切に対応できる指導員の確保とその資質向上を図るため、市町村の責任の下に専門的知識等を有する指導員を各クラブに配置する補助方式へと改め、更なる受入推進を図っている。