第7章 住みよい環境の基盤づくり
第1節 障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策
6.防災、防犯対策の推進
(1)防災対策
ア 防災対策の基本的な方針
<1> 災害対策基本法の一部改正
東日本大震災の教訓を踏まえ、防災対策における高齢者、障害者、乳幼児等の「要配慮者」に対する措置は一層重要になってきている。
上記の教訓を踏まえ、政府では平成24年度に、高齢者や障害者などの多様な主体の参画を促進し、地域防災計画に多様な意見を反映できるよう、地方防災会議の委員として、自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者を追加すること等を盛り込んだ「災害対策基本法の一部を改正する法律(平成24年法律第41号)」を制定し、災害対策基本法の改正を行った(第1弾改正)。
その後、第1弾改正で残された課題や、防災対策推進検討会議の最終報告書(平成24年7月31日)等を踏まえ、政府では、以下に掲げる事項を含む所要の法改正を実施した。(災害対策基本法等の一部を改正する法律(平成25年法律第54号))(第2弾改正)
- 被災者の援護に当たり、被災者の多様性やニーズの変化に応じた適切な援護がなされるべきこと等を含む、防災の基本理念を明確化したこと
- 市町村長に要配慮者のうち災害時の避難行動に特に配慮を要する者について名簿を作成することを義務付け、名簿の作成に必要な個人情報の利用が可能となるよう個人情報保護条例との関係を整理するとともに、名簿の活用に関して平常時と災害発生時のそれぞれについて避難支援者に情報提供を行うための制度の創設したこと
- 被災者が一定期間滞在する避難所について、その生活環境を確保するための一定の基準を満たす施設をあらかじめ指定するにあたり、主として要配慮者を滞在させることが想定される場合に、特に適合すべき基準を設けたこと
また、上記の災害対策基本法の改正を受け、平成26年1月に防災基本計画を修正し、市町村は、避難行動要支援者を適切に避難誘導し、安否確認等を行うための措置を市町村地域防災計画に定め、これに基づき、平常時より避難行動要支援者に関する情報を把握し、避難行動要支援者名簿を作成し、定期的に更新すること、避難支援等に携わる関係者として市町村地域防災計画に定めた消防機関、都道府県警察、民生委員・児童委員、社会福祉協議会、自主防災組織等に対し、避難行動要支援者本人の同意を得、情報漏えいの防止等の措置を講じた上で、あらかじめ名簿を提供し、避難行動要支援者に対する情報伝達体制や避難支援・安否確認体制の整備等を図ること、発災時には避難行動要支援者名簿を効果的に利用し、避難支援や迅速な安否確認等に努める旨の記載を追加した。
イ 要配慮者対策等の推進
平成25年6月の災害対策基本法の改正を受け、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成18年3月)を全面的に改定し、避難行動要支援者名簿の作成・活用に係る具体的手順等を盛り込んだ「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を平成25年8月に策定・公表した。また、全国9か所で開催したブロック会議等において、地方公共団体に対し、その周知徹底を努めた。
市町村が、要配慮者にも配慮した、避難所、避難路等の整備を計画的、積極的に行えるよう、防災基盤整備事業等により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
また、地域防災計画上社会福祉施設など要配慮者等の避難所となる公共施設のうち、耐震改修を進める必要がある施設についても公共施設等耐震化事業により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
防災基盤整備事業の一つとして「災害時要援護者緊急通報システム」の普及に努めるとともに、要配慮者が入所する施設における避難対策の強化等の防火管理の充実について消防機関に周知している。
地域や企業等における各種防災訓練の際に、要配慮者を重点とした避難誘導訓練を実施し、防災意識の高揚を図っている。
各都道府県警察においては、障害のある人が入所する施設等への巡回連絡、ミニ広報紙の配布、FAXネットワーク(交番等に設置されているFAXと障害者団体、障害のある人の自宅等のFAXを利用して情報交換を行うもの)の活用等による障害のある人の防災に関する知識の普及等障害のある人に対する支援体制の整備促進に努めている。
災害時においては、建物の崩壊、道路の損壊等による交通の混乱が予想されることから、光ビーコン、交通情報板等の整備を推進し、災害時に障害のある人等を救援するための緊急通行車両等の通行を確保するとともに、災害時の停電による信号機の機能停止に備え、自動起動型信号機電源付加装置の整備を推進し、障害のある人等の安全な避難を確保するよう努めている。
ウ 要配慮者関連施設等への対策
要配慮者対策を推進するには、まず、地域における要配慮者の状況を的確に把握した上で、社会福祉施設など要配慮者が入所している施設自らの対策を促進するための情報提供等を行う必要がある。
また、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(平成25年8月内閣府(防災))及び「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)」(平成26年4月内閣府(防災))を参考に、要配慮者や要配慮者関連施設への防災情報の伝達体制を整備し、入所者等の避難・救出・安否確認などの警戒避難体制の具体化を促進するとともに、被災した場合の防災関係機関への迅速な通報体制の整備及び避難先における入所者等の生活確保体制の整備を促進する必要がある。同時に、要配慮者施設の職員や消防職団員、自主防災組織等が中心となって、地域の実情に応じた支援体制をつくることが必要である。
なお、災害時要援護者関連施設における土砂災害対策については、砂防関係施設等による保全対策を重点的に進めるとともに、「災害弱者関連施設に係る総合的な土砂災害対策の実施について」(平成11年1月29日付関係5省庁連名通知)及び「平成21年7月中国・九州北部豪雨及び平成21年台風第9号に伴う大雨を受けての対策について」(平成21年8月13日付関係7府省庁連名通知)を踏まえ、全国の地方公共団体に対し、立地条件の把握、施設周辺のパトロール体制の確認等を要請しているほか、施設への平常時、緊急時における適切な情報提供、的確な避難誘導体制等の再点検を行い、警戒避難体制等の防災体制の整備に努めること及び消防団、自主防災組織、近隣居住者等との連携協力のもと、迅速かつ適切な避難誘導ができる体制の構築に努めることを要請している。
さらに、山地災害危険地区等のうち病院、社会福祉施設等の要配慮者関連施設が隣接している箇所において計画的な治山対策の推進を図っている。
また、要配慮者の安全かつ迅速な避難が可能となるように、防災情報システム等の整備強化を図ることに加え、洪水、津波、高潮、土砂災害等が発生した場合に備え、過去の災害や危険箇所、情報入手方法、避難場所、避難経路等を具体的に示したハザードマップ等によるきめ細かな情報の提供を推進し、防災意識の高揚に努めている。
土砂災害により建築物に損壊が生じ、住民に著しい危害が生じるおそれのある区域(土砂災害特別警戒区域)において、災害時要援護者関連施設等の開発行為を行う場合については、許可制とすることなどを内容とする「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下「土砂災害防止法」という。)が平成13年4月より施行され、都道府県による土砂災害防止対策に必要な調査の実施及び土砂災害警戒区域等の指定の促進を図っている。
また、平成17年7月には、「土砂災害防止法」の一部改正により、土砂災害警戒区域内に市町村地域防災計画に位置づけられた災害時要援護者関連施設等がある場合は、円滑な警戒避難が行われるよう、土砂災害に関する情報、予報及び警報の伝達方法を定めることを規定するなど、災害時要援護者関連施設等の防災力強化を図っている。
平成17年10月には、災害時要援護者への避難時の対応として、都道府県に対して、市町村が避難準備情報を発出するための客観的基準が地域防災計画に定められるよう技術的支援を行うことや、災害時要援護者の避難行動の支援に当たっては、福祉部門との十分な連携を図ることなどの助言を行っている。
さらに、土砂災害防止対策基本指針(「土砂災害防止法」に基づき土砂災害の防止のための対策の推進に関する基本的な方向を示すものとして、平成13年7月に国土交通大臣が定めた指針)を平成18年9月に変更し、災害時要援護者の避難支援体制の強化を図るとともに、平成19年4月には、「土砂災害警戒避難ガイドライン(国土交通省砂防部)」を、平成21年9月には、「土砂災害警戒避難事例集(国土交通省砂防部)」を都道府県に通知し、都道府県及び市町村の災害時要援護者の避難に係る取り組みを支援している。また、平成22年7月には土砂災害のおそれのある災害時要援護者関連施設等が立地する箇所について、都道府県の関係部局等の連携強化を図り、土砂災害のおそれのある箇所や施設に関する情報の共有、施設管理者への警戒避難に関する情報の提供、防災訓練の実施、施設の新規立地抑制等の対策を推進するように、厚生労働省と国土交通省が連名で都道府県へ助言を行っている。
なお、平成25年の「水防法」改正において、水災時における要配慮者利用施設(主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する施設)の利用者の円滑かつ迅速な避難を確保するために、市町村防災会議は市町村地域防災計画に位置づけられた浸水想定区域内の要配慮者利用施設の所有者又は管理者等への洪水予報等の伝達方法を定めることとしたほか、当該施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成等を努力義務化するなど、水災防止体制の強化を図っている。
エ 水害対策
洪水被害を防止又は軽減することを目的に河川改修等を行う治水対策、過去の高潮・津波等による災害発生の状況等を勘案した海岸保全施設整備等を積極的に推進することとしている。浸水被害は被災後従前の生活に戻るまでに多大な労力を要し、障害のある人にとって日常生活に著しい負担をもたらすものであるため、そうした被害に対しては、河川激甚災害対策特別緊急事業など早期に対策を講じるハード整備を着実に推進するとともに、ハザードマップなどの円滑かつ迅速な避難を支援するソフト対策を一体的に行っている。
また、雨量・水位等の河川情報を地方公共団体をはじめ地域住民に迅速かつ的確に伝達するため、インターネットや地上デジタル放送等によりリアルタイムで情報提供しており、特に雨量・水位が一定量を超えるなどの緊急時においては、迅速な水防活動を実施するために、警報等で危険を知らせている。また、地方公共団体の防災活動や国民の警戒避難行動等を支援し、土砂災害から人命を守るため、気象庁及び都道府県が共同して、土砂災害警戒情報の提供を行っている。渇水時においても情報提供を推進しており、全国のダムの貯水状況、取水制限、給水制限を受けている市町村に関する情報等の提供を行っている。
オ 防火安全対策
全国の消防機関等では、春、秋の全国火災予防運動を通じて「特定防火対象物における防火安全対策の徹底」等を重点目標として取り組んでおり、障害のある人等が入居する小規模社会福祉施設等においては、適切な避難誘導体制の確保を図るとともに、消防法令違反の重点的な是正の推進など必要な防火安全対策の徹底を図っている。
平成22年度より、障害者が安心して生活を営み、社会参加することができるよう、火災に対する安全性を効果的に確保するため、ユニバーサルデザイン等の観点を取り入れた消防用設備・機器等の導入・普及方策等の検討を進めている。平成24年度から平成25年度にかけて、モデル的に、百貨店、病院、学校、空港等の公共的な施設に聴覚障害者等に適した火災警報装置(光警報装置)を設置し、効果的な設置・維持管理方法等を調査・検討する事業を行った結果を踏まえて、光警報装置の導入・普及方策の検討を進めている。
カ 東日本大震災における障害のある人たちへの主な支援
平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴い、被災地、被災者に対して講じらた施策のうち、障害のある人への支援の一環として実施されているものとして、主に次のような施策がある(平成26年3月現在)。
<1> 利用負担減免等
厚生労働省は、障害のある人や障害福祉サービスの提供を行う事業者に対し、以下のような利用者負担の減免や障害福祉サービスに係る措置を弾力的に行うよう通知等を行った。
(ア)利用者への対応について
- 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律により、介護給付費等の支給決定等について、平成25年2月28日まで延長した。
- 被災した障害者等にかかる障害福祉サービス等の利用者負担を市町村が免除した場合、この利用者負担額について、国がその全額を財政支援することとした。
(イ)障害福祉サービスの提供について
- 被災者等を受け入れたときなどに、一時的に、定員を超える場合を含め人員配置基準や施設設備基準を満たさない場合も報酬の減額等を行わないこととした。
- また、やむを得ない理由により、利用者の避難先等において、安否確認や相談支援等のできる限りの支援の提供を行った場合は、これまでの障害福祉サービスとして報酬の対象とすることとした。
- 避難所においてホームヘルプサービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
- さらに、利用者とともに仮設の施設や他の施設等に避難し、そこにおいて障害福祉サービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
(ウ)介護職員等の派遣、避難者の受入等
- 各事業所等において、介護職員等が不足している場合には、国や県などの調整を受けて、別の事業所等より介護職員等の派遣を行った。
- また、被災等により利用者の避難が必要である場合には、国や県等において調整を行い、受入先を確保した。
(エ)被災地における障害福祉サービス等の再開支援について
- 震災を受け被災した障害者支援施設等の復旧事業や事業再開に要する経費に関する国庫補助事業を実施し、復旧支援を行った。
- 甚大な被害を受けた被災地の障害福祉サービス事業所等が復興期においても安定したサービス提供を行うことができるよう、被災県ごとに支援拠点を設置し、
- (a)障害者就労支援事業所の活動支援(業務発注の確保、流通経路の再建等)
- (b)福祉人材等のマンパワー確保のための支援
- (c)障害者自立支援法、児童福祉法による新体系サービスへの定着支援
- (d)障害者自立支援法による基幹相談支援センター立ち上げのための支援
- (e)発達障害児・者のニーズを踏まえた障害福祉サービス等の利用支援
<2> 心のケア
また、心のケアについては、災害救助法に基づき、精神科医、看護師、精神保健福祉士等4、5人程度で構成される「心のケアチーム」が、市町村の保健師と連携を取りながら避難所の巡回等を行った。
被災者の生活の場が仮設住宅や自宅に移った後も、PTSDの症状が長期化したり、うつ病や不安障害の方が増加したりすることが考えられることから、岩手、宮城、福島の各県に「心のケアセンター」を設置し、長期継続的に心のケアを行う看護師、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職が、保健所及び市町村と連携しながら、心のケアが必要な方への相談支援等を実施している。
<3> 発達障害
国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている発達障害情報・支援センターでは、震災直後から、発達障害のある人に対する円滑な支援を図るため、被災地で対応する方々に向けて、支援の際の留意点等の情報提供を行った。また、災害時に必要な対応をまとめた冊子を作成し、発達障害情報・支援センターホームページに掲載するとともにその周知を行った。
<4> 就労支援
一方、就労支援としては、平成23年3月末にハローワークに「震災特別相談窓口」を設置し、被災者全般に対する職業相談等を実施している。また、これに加え、同年4月から地域障害者職業センターに「特別相談窓口」を設置し、ジョブコーチ支援や出張カウンセリング等のきめ細かな支援を実施している。さらに、同年5月からは、ハローワークによる避難所等への出張相談において就労ニーズを把握した場合、地域障害者職業センターが訪問相談を実施している。
<5> 教育機会確保・就学支援等
文部科学省では、障害のある幼児児童生徒も含め、幼児児童生徒の教育機会確保のため、就学援助等を実施するとともに、各都道府県教育委員会等に対し、被災幼児児童生徒の学校への受入れを実施している。
さらに、震災により就学等困難となった特別支援学校及び特別支援学級等の幼児児童生徒に対し就学支援を行うための経費や、障害のある幼児児童生徒も含め、被災した幼児児童生徒等の心のケアの充実を図るため、スクールカウンセラー等を緊急派遣する経費及び特別支援学校における学習活動の充実を図る外部専門家の活用のための経費を措置し、障害のある幼児児童生徒の就学支援の確保を図っている。
<6> 教師のためのハンドブック
国立特別支援教育総合研究所は、平成23年度に「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」を作成し、関係機関に配布するとともに、国立特別支援教育総合研究所ホームページに掲載をしている。
<7> 幼児児童生徒の状況把握等
文部科学省及び厚生労働省では、被災した障害のある幼児児童生徒の状況把握及び支援、教育委員会、学校等が支援を必要とする幼児児童生徒を把握した場合に保護者の意向を確認した上で市町村障害児福祉主管課に連絡するなどの教育と福祉との連携、障害児支援に関する相談窓口等の周知について、各都道府県教育委員会、障害児福祉主管課に対し要請している。
(2)防犯対策
ア 警察へのアクセス
障害のある人は、防犯に関する通常のニーズを満たすのに特別の困難を有しており、また、犯罪や事故の被害に遭う危険性が高く、不安感も強いことから、障害のある人の気持ちに配慮した各種施策の推進に努めている。
障害のある人が警察へアクセスする際の困難を取り除くための対策としては、全都道府県警察において、FAX及びEメールでの緊急通報の受理を行っていること(FAX 110番及びメール110番)、FAXネットワーク等による情報提供に努めていること、交番等へのスロープ設置等を行っていることなどが挙げられる。
イ 犯罪・事故被害の防止
障害のある人が犯罪や事故の被害に遭うことの不安感を除くための対策としては、巡回連絡等を通じて、障害のある人の相談や警察に対する要望に応じるとともに、身近な犯罪や事故の発生状況、防犯上のノウハウ等の安全確保に必要な情報の提供に努めていることなどが挙げられる。
また、警察では、住宅等に対する侵入犯罪対策として大きな効果が期待できる建物部品を掲載している「防犯性能の高い建物部品目録」の公表及び普及を図っているほか、公益社団法人日本防犯設備協会に対して、障害のある人を対象とした安全で信頼性の高い防犯システムの普及に努めるよう指導しており、同協会ではホームセキュリティガイドの中で障害のある人に対応した機器を紹介する等の活動を行っている。