第6章 日々の暮らしの基盤づくり
第2節 保健・医療施策
3.精神保健・医療施策の推進
(1)心の健康づくり
ア うつ対策の推進
うつ病は、だれもがかかりうる病気であり、早期発見・早期治療が可能であるにもかかわらず、本人や周囲の者からも気づかれにくく、その対策の必要性が指摘されている。
厚生労働省では、「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」において、自殺の実態の把握や、より実効性の高い自殺対策について検討を行い、平成22年5月に、悩みがある人を支援につなぐゲートキーパー機能の充実や、職場におけるメンタルヘルス対策など、厚生労働分野において今後重点的に講ずべき対策をとりまとめ、それらに基づく施策を推進している。
うつ病に対する効果が明らかとなっている認知行動療法については、「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」(こころの健康科学研究事業)において実施マニュアルを作成し、厚生労働省のウェブサイトにて公開している。
平成20年度からは、うつ病の患者を最初に診療することが多い一般内科等のかかりつけ医のうつ病診断技術等の向上を図るため、各都道府県・政令指定都市において、専門的な研修を実施しており、一般かかりつけ医の受講者数は、研修事業開始以降平成23年度までに2万人を超えている。さらに、平成23年度からは、研修対象を看護師、ケースワーカー、スクールカウンセラー等医師以外のコメディカルスタッフまで拡大した。
イ 精神疾患に関する情報提供
精神疾患についての情報提供として、こころの不調・病気に関する説明や、各種支援サービスの紹介など、治療や生活に役立つ情報を分かりやすくまとめた「みんなのメンタルヘルス総合サイト」、10代・20代とそれを取り巻く人々(家族・教育職)を対象に、本人や周囲が心の不調に気づいたときにどうするかなど分かりやすく紹介する「こころもメンテしよう~10代20代のメンタルサポートサイト~」の2つのウェブサイトを、厚生労働省ホームページ内に開設している。
ウ 児童思春期及びPTSDへの対応
幼年期の児童虐待、不登校、家庭内暴力など、心の問題が社会問題化し、思春期児童への対応が急がれている。また、災害等の心的外傷体験により生じるPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、長期間の療養期間を要するものとして、非常に注目されている。そこで、思春期精神保健の専門家の養成のために、医師、コメディカルスタッフを対象に思春期精神保健対策専門研修を行い、PTSDの専門家の養成のために、医師、コメディカルスタッフ等を対象にPTSD対策に係る専門家の養成研修会を行っている。さらに、精神保健福祉センター等で児童思春期やPTSDの専門相談等を取り入れている。
エ 自殺対策の推進
我が国における年間の自殺者数は平成10年から14年連続して3万人を超えて推移していたが、平成24年に15年ぶりに3万人を下回り、平成25年は平成24年よりも更に減少した。しかしながら、依然として多数の方が自殺で亡くなられていることに変わりはない。政府においては、自殺対策基本法(平成18年法律第85号)及び同法に基づく「自殺総合対策大綱」(平成19年6月閣議決定)の下、自殺対策を総合的に推進しており、平成24年8月に大綱の見直しを行った。
同大綱では、「心の健康づくりを進める」「適切な精神科医療を受けられるようにする」などを含む9項目について53の施策を当面の重点施策としている。
地域における自殺対策については、平成21年度第1次補正予算において100億円の予算が内閣府に計上され、各都道府県に平成23年度までの3年間の対策に係る「地域自殺対策緊急強化基金」が造成されたことにより、地域の実情に沿ったきめ細かな対策を実施することが可能となった。さらに、地域における自殺対策の強化を図るため、平成23年度第3次補正予算において37億円、平成24年度第1次補正予算において30.2億円、平成25年度第1次補正予算において16.3億円が同基金に積み増しされ、平成26年度まで期限が延長されている。
また厚生労働省では、生きにくさ、暮らしにくさを抱える人からの相談を24時間365日無料で受け、具体的な問題解決につなげるための電話相談事業(よりそいホットライン)を補助事業(厚生労働省から全国的な民間支援団体に補助)として実施し、地域の支援組織等と連携しつつ、自殺防止に関する相談を含む様々な相談に対応している。
(2)精神疾患の早期発見・治療
精神障害のある人の人権に配慮した適正な医療及び保護の実施、精神障害のある人の社会復帰の促進、国民の精神的健康の保持・増進を図るための精神保健施策の一層の推進を図っている。
平成25年6月末現在、我が国の精神科病院数は1,649か所、その病床数は約34万床となっており、全病院の病床数の約2割を占めている。また、平成24年6月末現在精神科病院の入院患者数は約30万人であり、このうち、約16万3千人が任意入院、約13万6千人が医療保護入院、約1,670人が措置入院となっており、措置入院による入院者については、公費による医療費負担制度を設けている。
このほか、夜間や土日曜でも安心して精神科の救急医療が受けられるよう精神科救急医療体制の整備をしている。
地域精神保健施策については、地域の保健所や都道府県の精神保健福祉センターを中心に取り組んでいるが、入院医療中心の施策から、社会復帰や福祉施策にその幅が広がるにつれ、身近な市町村の役割が大きくなってきている。
都道府県及び市町村は、精神保健福祉センター及び保健所等に、精神保健及び精神障害のある人の福祉に関する相談に応じ、また、精神障害のある人及びその家族等を訪問して必要な指導を行うための職員(「精神保健福祉相談員」)を置くことができる。
保健所においては、精神保健福祉センターや医療機関、障害福祉サービス事業者等との連携の下に、精神保健福祉相談や訪問指導等を実施している。
精神保健福祉センターにおいては、精神保健福祉に関する相談指導や技術援助、知識の普及等の業務を行っているほか、アルコール関連問題に関する相談指導、思春期精神保健対策、心の健康づくり、性に関する相談等の事業を実施している。また、市町村は、精神障害のある人及びその家族等からの精神障害福祉に関する相談に応じ、助言を行うほか、精神保健に関しても相談に応じ、助言を行うよう努めることとされている。さらに、市町村は、精神障害のある人からの相談に応じ、必要な助言を行い、その際、必要に応じて、そのサービスの利用についてあっせん又は調整を実施している。
(3)精神保健医療福祉施策の取組状況
精神保健医療福祉に関しては、平成16年9月に、厚生労働大臣を本部長とし、省内の関係部局長を本部員として発足した精神保健福祉対策本部において、精神保健福祉施策の改革ビジョン を決定し、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念を示した。その後、平成21年9月の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告書では、精神保健医療福祉体系の再構築や精神医療の質の向上などに関する様々な提言がなされたところである。
さらに、現状と課題を踏まえ、精神障害者の医療の提供を確保するための指針(厚生労働大臣告示)の策定、保護者に関する規定の削除、医療保護入院の見直し等を盛り込んだ精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律が平成25年6月13日に成立し、同月19日に公布された。
同法においては、医療保護入院者の退院を促進するため、精神科病院の管理者に対し、<1>医療保護入院者の退院後の生活環境に関する相談及び指導を行う者(精神保健福祉士等)の設置、<2>地域援助事業者(入院者本人や家族からの相談に応じ必要な情報提供等を行う相談支援事業者等)との連携、<3>退院促進のための体制整備(医療保護入院者退院支援委員会の設置)を義務付けることとした(<2>については努力義務)。
また、同法の平成26年4月の施行を見据え、平成25年7月より「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」を開催し、「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」を平成26年3月に公布した。
この指針において、長期入院精神障害者のさらなる地域移行が引き続きの検討課題とされ、平成26年3月から7月まで「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」で検討が行われ、今後の方向性が取りまとめられた。
検討会の取りまとめでは、長期入院患者の実態を踏まえ、退院意欲の喚起や本人の意向に沿った移行支援といった退院に向けた支援と、居住の場の確保などの地域生活の支援に分け、それぞれの段階に応じた具体的な支援を徹底して実施することが盛り込まれた。
また、長期入院患者の地域生活への移行が進むと、病院においても外来治療はもとより、精神科救急、急性期医療など、退院後の地域生活を維持・継続するための医療ニーズが高まっていくことから、マンパワー等の医療資源を地域医療や救急医療等にシフトするなど、病院の構造改革を行っていくことが必要とされた。これらの方向性を踏まえ、その具体化に向けた検討を進めており、直ちに着手できるものについては着実に実行・検討するとともに、中長期的にも長期入院精神障害者の地域移行及び病院の構造改革に係る取組を総合的に実施することとしている。
(4)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者への対応について
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対しては、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」に基づき、適切な医療の提供及び精神保健観察等により社会復帰の促進が図られている。同法の施行状況はおおむね良好で、適切な運用がなされている。