第3編 障害者施策の実施状況 第3章 第1節 2
第3章 日々の暮らしの基盤づくり
第1節 生活安定のための施策
2.在宅サービス等の充実
(1)在宅サービスの充実
障害のある人が地域で普通に暮らしていくためには、在宅で必要な支援を受けられることが前提となる。このため、「障害者総合支援法」においては、利用者の実態に応じた支援を行う観点から、利用者像やサービスの提供形態に応じ、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護及び重度障害者等包括支援を実施している。
居宅介護…入浴等の介護や調理等の家事の援助等を短時間集中的に行うサービス
重度訪問介護…常時介護を要する身体に重度の障害のある人、知的障害若しくは精神障害により、行動上著しい困難を有する障害のある人に対し、入浴等の介護や調理等の家事の援助等のほか、日常生活に生じる様々な介護
の事態に対応するための見守り等の支援や外出時における移動中の介護を、長時間行うサービス
同行援護…重度の視覚障害のある人に対し、外出時において同行し、移動に必要な情報を提供するほか、移動に必要な支援等を行うサービス
行動援護…知的障害又は精神障害により行動上著しい困難を有する障害のある人に対し、居宅内や外出時における危険を伴う行動を予防又は回避するために必要な支援等を行うサービス
重度障害者等包括支援…著しく重度の障害のある人の様々なニーズに応えて、円滑にサービス利用が可能となるよう、利用者のその時々の心身の状態等に応じて必要となる複数の障害福祉サービスを組み合わせて、包括的に提供するサービス
これらのサービスに加え、自宅で介護する人が病気の場合などに、短時間、夜間も含めて施設において入浴等の介護を行うサービスである短期入所も行っている。
(2)住居の確保
ア 福祉施策における住居の確保支援
障害のある人が地域で安心して暮らすことができるよう、単身での生活が困難な障害のある人が共同して自立した生活を営む場として、共同生活援助(グループホーム)を位置づけているところである。グループホームでは、金銭管理や相談等の支援、また、必要な人に対しては食事や入浴等の介護を行うこととしている。その利用者については、それまで知的障害のある人や精神障害のある人としてきたところであるが、平成21年10月からは身体障害のある人も利用することができることとした。
地域生活支援事業における相談支援事業に住宅入居等支援事業(居住サポート事業)を位置づけ、公的賃貸住宅及び民間賃貸住宅への入居を希望する障害のある人に対して、不動産業者に対する物件のあっせん依頼及び家主等との入居契約手続等といった入居支援や、居住後のサポート体制の調整をしている。また、障害のある人が地域の中で生活することができるように、低額な料金で居室などを利用する福祉ホーム事業を実施している。
なお、従来は、介護が必要な人が利用するケアホームと介護は必要ない人が利用するグループホームに分かれていたが、今後、障害者の高齢化・重度化が進展し、介護が必要な障害者のグループホームの新規入居や、グループホーム入居後に介護が必要となるケースが増加することが見込まれることから、平成26年度の「障害者総合支援法」の施行により、ケアホームをグループホームに一元化し、グループホームとして介護を提供する「介護サービス包括型」と外部の受託居宅介護サービス事業者を活用した「外部サービス利用型」の2類型とした。また、一定条件下で一般のアパート等の一室を活用する「サテライト型住居」の創設等によってより柔軟なサービス提供を可能とした。
イ 住宅施策における住宅の確保支援
障害のある人等の住宅の確保に特に配慮を要する人の居住の安定を確保することは、「住生活基本法」(平成18年法律第61号)の基本理念の一つであり、その理念にのっとり賃貸住宅の供給促進に関する基本事項等を定めた「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(平成19年法律第112号)に基づき、以下の通り公営住宅やそれを補完する公的賃貸住宅の的確な供給及び民間賃貸住宅への円滑な入居の支援等の各種施策を一体的に推進している。
また、地方公共団体による供給促進計画の作成、住宅確保要配慮者の円滑な入居を促進するための賃貸住宅の登録制度等の措置を講じる「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部と改正する法律案」を平成29年2月に閣議決定し、国会に提出した。
<1> 障害のある人に配慮した公的賃貸住宅の供給
公的賃貸住宅は、障害のある人の心身の状況、その他の配慮を必要とする事情を勘案し、以下のように供給されている。
公営住宅においては、入居者の募集・選考に際し、障害のある人を含む世帯は特に住宅困窮度が高いものとして、地方公共団体の裁量により一定の上限の下、入居者の収入基準を緩和するとともに、当選率の優遇、別枠選考等の措置を講じている。
地域優良賃貸住宅制度においては、民間事業者等に対し、整備費及び家賃減額のための助成を行い、障害のある人を含む世帯等を対象とした良質な賃貸住宅の供給を促進している。本制度においては、障害のある人を含む世帯について地方公共団体の裁量により別枠選考等の措置ができるものとしている。
また、独立行政法人都市再生機構賃貸住宅(以下「都市再生機構賃貸住宅」という。)においては、障害のある人を含む世帯に対して、入居者の収入基準の緩和、1階又はエレベーター停止階への住宅変更、新規賃貸住宅募集時の当選倍率の優遇等の措置を講じている。
<2> 民間賃貸住宅への円滑な入居の促進
障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体、不動産関係団体、居住支援団体等が組織する居住支援協議会が相談・情報提供等、地域の実情に応じた活動を行っているところであり、これらの取組みに対する支援を実施している。
また、一般財団法人高齢者住宅財団が実施する家賃債務保証制度の活用を推進し、障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を支援している。なお、家賃債務に加え、原状回復や訴訟に要する費用も保証の対象にしている。
ウ 住宅施策と福祉施策との連携
公的賃貸住宅の整備に際して、障害のある人の生活に関連したサービスを備えた住宅を整備するため、障害者福祉施設との一体的な整備を推進するとともに、障害のある人を対象とした住まいづくり・まちづくりに関する先導的な取組についても支援している。
公営住宅については、障害のある人の共同生活を支援することを目的とするグループホーム事業へ活用することができることとしており、公営住宅等を障害のある人向けのグループホームとして利用するための改良工事費について支援している。
また、生活支援サービス付き公営住宅(シルバーハウジング)については、住宅施策と福祉施策の密接な連携の下に供給されているところであり、地方公共団体の長が特に必要と認める場合に、障害のある人を含む世帯の入居を可能とし、その居住の安定を図っている。
民間賃貸住宅については、居住支援協議会を活用し、障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を支援している。
また、住宅市街地総合整備事業、優良建築物等整備事業、市街地再開発事業等において、デイサービスセンター、保育所等の社会福祉施設等を整備する場合、一定の条件を満たすものに対し建築主体工事費の一部を補助対象とし、障害のある人等の生活しやすい市街地環境の形成を図っている。
(住宅については、第4章第1節も参照)
(3)自立及び社会参加の促進
障害のある人が社会の構成員として地域で共に生活することができるようにするとともに、その生活の質的向上が図られるよう、生活訓練、コミュニケーション手段の確保等の施策を行っている。
平成18年10月から、市町村及び都道府県が創意工夫によって地域の特性や利用者の状況に応じて柔軟に事業を行う地域生活支援事業を実施し、障害のある人の社会参加と自立支援を推進している。
なお、「身体障害者補助犬法」(平成14年法律第49号)により、身体に障害のある人が公共的施設や不特定かつ多数の者が利用する施設等を利用する場合において、身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬)の同伴が可能となった。さらに、平成19年度に「身体障害者補助犬法の一部を改正する法律」(平成19年法律第126号)が成立し、平成20年4月から、都道府県等が苦情の申し出等に関する対応をすることが明確化され、同年10月から、一定規模以上の事業所や事務所において、勤務する身体障害者が補助犬を使用することを拒んではならないこととされている。
また、都道府県地域生活支援事業において、身体障害者補助犬育成事業が実施されている。
国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局においては、身体に障害のある人に対して、より充実した社会生活を円滑に送ることを目的とした自立訓練(機能訓練)を実施している。視覚に障害のある人に対しては、歩行、点字、パソコン、調理、ロービジョン(保有視覚機能を最大限に活用するための訓練)等、日常生活や社会活動に必要な訓練を実施している。また、重度の肢体不自由のある人に対しては、医学的管理の下に日常生活に必要な機能回復訓練、日常生活動作訓練、職能訓練等を実施している。
また、同自立支援局においては、高次脳機能障害のある人に対して、自己の障害の理解を深めながら生活能力を高めることを目的とした自立訓練(生活訓練)も実施している。そこでは、個々の生活状況に応じて日常生活訓練やメモリーノート、手順書等を活用した代償手段獲得のための訓練等を行っている。
さらに、同自立支援局秩父学園においては、知的障害があり、行動障害や愛着障害が重複する児童に対して、基本的生活習慣の確立等を目的とした施設支援を実施している。また、在宅の発達障害を有する児童に対する「通園療育指導事業」を実施するとともに、発達障害の可能性のある3歳までの子供と家族に対する「地域子育て支援拠点型事業」を実施している。
(4)発達障害児・者施策の充実
ア 発達障害の定義
「発達障害者支援法」において、「発達障害」は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの等と定義されている。
イ 発達障害者支援の推進
<1> 発達障害者支援の体制整備
厚生労働省においては、乳幼児期から高齢期までの一貫した発達障害に係る支援体制の整備、困難ケースへの対応や適切な医療の提供を図るため、地域生活支援事業の「発達障害者支援体制整備事業」の中で、都道府県等が地域の中核である発達障害者支援センター等に発達障害者地域支援マネジャーを配置し、市町村、事業所等への支援や医療機関との連携を強化することを推進している。また、都道府県等においては、ペアレント・プログラム等を通じた家族支援体制の整備や発達障害特有のアセスメントツールの導入を促進する研修等を市町村、関係機関等を対象に実施している。
さらに、厚生労働省においては、平成29年度から、都道府県等が「発達障害者支援地域協議会」を設置、市町村又は障害保健福祉圏域ごとの支援体制の整備の状況や発達障害者支援センターの活動状況について検証することを支援している。
<2> 発達障害者支援センター運営事業
厚生労働省においては、発達障害者及びその家族等に対して相談支援、発達支援、就労支援及び情報提供などを行う「発達障害者支援センター」の整備を図ってきたところであり、現在すべての都道府県・指定都市に設置されている。
<3> 支援手法の開発と情報発信
厚生労働省においては、発達障害児者を支援するための支援手法の開発、関係する分野との協働による支援や切れ目のない支援等を整備するための「発達障害児者地域生活支援モデル事業」を実施している。平成29年度は、
ア)地域で暮らす発達障害児者に課題や困り事が生じた際に、発達障害児者の特性を理解した上で、地域や関係機関において適切な対応を行うための支援手法の開発
イ)発達障害児者の社会生活等の安定を目的として、当事者同士の活動や当事者、その家族、地域住民が共同で行う活動に対する効果的な支援手法の開発
ウ)ライフステージを通じて、切れ目なく発達障害児者の支援を効果的に行うため、医療、保健、福祉、教育、労働等の分野間で連携した支援手法の開発
をテーマに行うこととしている。
また、発達障害のある人は、「どのような能力に障害があるのか」「どの程度の障害なのか」「どのような支援があれば能力が発揮できるのか」等が周りから見て理解されにくく、誤った情報によって不適切な対応を受けることがあること等から、社会参加について様々な困難さを抱えており、このような状況を踏まえて、厚生労働省では、全国の発達障害者支援センターの中核として、国立障害者リハビリテーションセンターに「発達障害情報・支援センター」を設置し、WEBサイトを通して、発達障害に関して一般の方への啓発を行うとともに、発達障害児者支援に必要な国内外の情報や最新の研究成果等を集約し、発達障害のある人やその家族、及び支援関係者等に役立つ情報について、ホームページなどを通じて発信している。
<4> 発達障害の早期支援
厚生労働省においては、平成23年度から、発達障害等に関して知識を有する専門員が保育所や放課後児童クラブ等を巡回し、施設の職員や親に対し、障害の早期発見・早期対応のための助言などの支援を行う「巡回支援専門員」の派遣に対し財政支援を行い、地域における発達障害児者に対する支援体制の充実を図っている。
<5> 人材の育成
都道府県等においては、平成28年度から、発達障害における早期発見・早期支援の重要性に鑑み、最初に相談を受け、又は診療することの多い小児科医などのかかりつけ医等の医療従事者に対して、発達障害に関する国の研修内容を踏まえ、発達障害に対する対応力を向上させるための研修を実施し、どの地域においても一定水準の発達障害の診療及び対応が可能となるよう医療従事者の育成に取り組んでいる。
(5)盲ろう者等への対応
ア 盲ろう者への対応
盲ろう者とは、「視覚と聴覚に障害がある者」であり、全盲ろう、盲難聴、弱視ろう、弱視難聴の4つのタイプがある。社会福祉法人全国盲ろう者協会の「盲ろう者に関する実態調査(平成25年3月)」によると、盲ろう者は、約1万4,000人と推計されている。
盲ろう者は、その障害の程度や生育歴等により、コミュニケーション方法も触手話、指文字、指点字、手書き文字など多様な方法があり、コミュニケーションの保障や情報入手、移動の支援が重要である。
平成25年度から、障害者総合支援法の地域生活支援事業においては、盲ろう者の自立と社会参加を図るため、コミュニケーションや移動の支援を行う「盲ろう者向け通訳・介助員養成研修事業」及び「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」について、都道府県の必須事業として実施している。
平成27年度からは「盲ろう者向けパソコン指導者養成研修事業」等を実施するなど、盲ろう者に対するコミュニケーション支援等の充実を図っている。
また、盲ろう者にとって、コミュニケーション手段の確保、外出のための移動支援など、社会参加を促進するためのサービス支援の人材確保や派遣事業等を引き続き充実していくことが必要であり、国立障害者リハビリテーションセンター学院では、「盲ろう者向け通訳・介助員養成研修事業」の指導者を養成する研修を実施し、サービス支援の人材育成を行っている。
さらに、「盲ろう者のための支援マニュアル」(盲ろう者宿泊型生活訓練等モデル事業(平成22~23年度)成果物)を基に地域の施設において訓練等を実施している。
イ 強度行動障害への対応
強度行動障害とは、周囲の不適切な対応や環境の影響等により、自分の体を叩く、食べられないものを口に入れる、危険につながる道路上での飛び出しなど本人の身体又は生命を損ねる行動や、他人を叩く、物を壊す、何時間も大泣きを続けるなどの行動が、高い頻度で起こるため、著しく支援が困難な状態のことをいい、行動障害の軽減を目的として障害児入所施設等の指定施設において適切な支援と環境の提供を行うために「強度行動障害児特別支援加算」等による支援が行われている。
さらに、平成25年度から強度行動障害のある人に対する支援を適切に行う者を養成する「強度行動障害支援者養成研修」を創設するとともに、平成27年度障害福祉サービス等報酬改定において「重度障害者支援加算」の見直しを行い、強度行動障害支援者養成研修修了者を報酬上評価すること、及び行動援護従業者に対して、行動援護従業者養成研修の受講を必須化すること等により、強度行動障害のある人に対する支援の充実を図っている。
ウ 難病患者等への対応
平成24年度までは、難病患者等の居宅における療養生活を支援するため、要介護の状況にありながら「障害者自立支援法」等の施策の対象とならない等の要件を満たす難病患者等を対象として、市町村等を事業主体として、難病患者等居宅生活支援事業を実施していた。
また、平成25年4月から施行された「障害者総合支援法」においては、障害者の定義に難病患者等を追加して障害福祉サービス等の対象とし、新たに対象となる難病患者等は、身体障害者手帳の所持の有無にかかわらず、必要に応じて障害程度区分(平成26年4月からは障害支援区分)の認定などの手続きを経た上で、市区町村において必要と認められた障害福祉サービス等(障害児にあっては、児童福祉法に基づく障害児支援)が利用できることとなった。また、「障害者総合支援法」における対象疾病(難病等)の範囲については、当面の措置として、難病患者等居宅生活支援事業の対象となっていた130疾病を対象としていたが、難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、対象疾病の検討を行い、平成27年1月1日より151疾病に、平成27年7月1日より332疾病に拡大し、その後の指定難病の検討状況等を踏まえ平成29年4月1日より358疾病に拡大している。