第5章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 5

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第1節 生活安定のための施策

5.スポーツ・文化芸術活動の推進

(1)スポーツの振興

ア 障害者スポーツの普及促進

2020年度「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」によると、障害のある人(成人)の週1回以上のスポーツ・レクリエーション実施率は24.9%(成人全般の実施率は59.9%(令和2年度「スポーツの実施状況に関する世論調査」))にとどまっており、上昇傾向にはあるものの、地域における障害者スポーツの一層の普及促進に取り組む必要がある。

2018年度から引き続き、地域における障害者スポーツの振興体制の強化、障害の有無を問わず身近な場所でスポーツを実施できる環境の整備を図る取組や、障害者スポーツ団体と民間企業とのマッチング等により障害者スポーツ団体の体制の強化を図り、他団体や民間企業等と連携した活動の充実につなげる取組を実施している。さらに、2019年度からは、様々なパラスポーツを試したい者に対して、スポーツ車椅子、スポーツ義足等の障害者スポーツ用具のレンタル等を実施するとともに、スポーツ用具の保守・調整や使い方の指導を行える人材等を備えた拠点(障害者スポーツの普及拠点)を整備することを目指し、関連の取組を順次実施している。

また、2018年度から2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)を契機に、全国の特別支援学校で地域を巻き込んだスポーツ・文化・教育の祭典を実施するとともに、特別支援学校を地域の障害者スポーツの拠点としていくことを目指す「Specialプロジェクト2020」を実施している。

イ 障害者スポーツの競技力向上

スポーツ庁では、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(2016年10月)や「第2期スポーツ基本計画」(2017年3月)に基づき、パラリンピックの競技特性や環境等に十分配慮しつつ、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。

具体的には、障害者スポーツの競技団体を含む各競技団体が行う強化活動に必要な経費等を支援する「競技力向上事業」を実施している。

また、「ハイパフォーマンス・サポート事業」により、パラリンピック競技大会でメダル獲得が期待される競技を対象に、スポーツ医・科学、情報による専門的かつ高度な支援を戦略的・包括的に実施するとともに、東京2020大会、2022年北京オリンピック競技大会・北京パラリンピック競技大会においてアスリート等が競技へ向けた最終準備を行うための医・科学・情報サポート拠点を設置する準備を行っている。

さらに、「ハイパフォーマンススポーツセンターの基盤整備」において、東京2020大会等に向けた我が国アスリートのメダル獲得の優位性を確実に向上させるため、競技用具の機能を向上させる技術等の開発を実施している。

加えて、トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方についての調査研究に関する有識者会議「最終報告」(2015年1月)を踏まえ、オリンピック競技とパラリンピック競技を一体的に捉え、トップアスリートが集中的・継続的に強化活動を行う拠点としてナショナルトレーニングセンター(NTC)の拡充整備に取り組み、2019年6月末にNTC屋内トレーニングセンター・イーストが完成した。

障害者スポーツ体験会(長野県)の様子

(2)文化活動の振興

我が国の障害者による文化芸術活動については、近年、障害福祉分野と文化芸術分野双方から機運が高まっており、広く文化芸術活動の振興につながる取組が行われている。

2018年6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が成立・施行されたことを受け、国は、2019年3月、同法に基づく基本計画を作成した。この計画に基づき、以下の取組をはじめ障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進しているところである。

厚生労働省では、2013年に開催された有識者による「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」の中間とりまとめを受け、2014年度からは芸術活動を行う障害のある人やその家族、福祉事業所等で障害のある人の芸術活動の支援を行う者を支援するモデル事業を実施し、事業で培った支援ノウハウを全国展開すべく、2017年度からは障害者芸術文化活動普及支援事業を実施し、障害のある人の芸術文化活動(美術、演劇、音楽等)の更なる振興を図っている。

また、障害のある人の生活を豊かにするとともに、国民の障害への理解と認識を深め、障害のある人の自立と社会参加の促進に寄与することを目的として、「第20回全国障害者芸術・文化祭みやざき大会」の開催を2020年10月に予定していたが、新型コロナウイルスによる感染リスクに加え、開催準備及び実施体制が十分に整わないことなどを踏まえて、2021年7月に延期することとなった。(2021年7月3日~10月17日に、国民文化祭と一体的に開催予定)

さらに、文化庁では、障害のある人の優れた文化芸術活動の国内外での公演・展示の実施、助成採択した映画作品や劇場・音楽堂等において公演される実演芸術のバリアフリー字幕・音声ガイド制作への支援、特別支援学校の生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供等、障害者の文化芸術活動の充実に向けた支援に取り組んでいる。

主な国内・国際障害者スポーツ大会

◯全国障害者スポーツ大会

2001年度から、それまで別々に開催されていた身体に障害のある人と知的障害のある人の全国スポーツ大会が統合され、「全国障害者スポーツ大会」として開催されている。2008年度から、精神障害者のバレーボール競技が正式種目に加わり、全国の身体、知的、精神に障害のある方々が一堂に会して開催される大会となっている。本大会は、障害のある選手が、競技等を通じ、スポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害のある人の社会参加の推進に寄与することを目的として、国民体育大会の直後に、当該開催都道府県で行われている。2020年度の第20回大会は、鹿児島県において開催される予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大の防止の観点から2023年度に延期となった。なお、2021年度の第21回大会については、三重県で開催される予定である。

◯全国ろうあ者体育大会

本大会は、聴覚に障害のある人が、スポーツを通じて技を競い、健康な心と体を養い、自立と社会参加を促進することを目的として、1967年度から開催されている。2019年度は、第53回となる夏季大会が鳥取県・島根県で開催され、10競技に選手・役員合わせて約1,400人が参加した。なお、2020年度の第54回夏季大会については、九州ブロックで開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行を受け中止となった。

◯デフリンピック

4年に一度行われる、聴覚に障害のある人の国際スポーツ大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は1924年にフランスのパリで第1回大会が開催され、2017年には、トルコのサムスンにおいて第23回大会が開催された。冬季大会については1949年にオーストリアのゼーフェクトで第1回大会が開催され、2019年12月にイタリアのヴァルテッリーナ、ヴァルキアヴェンナ地方で開催された第19回大会では、日本選手団として選手15名が参加し、6名が入賞した。

◯スペシャルオリンピックス世界大会

4年に一度行われる、知的障害のある人のスポーツの世界大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。順位は決定されるものの最後まで競技をやり遂げた選手全員が表彰される、といった特徴がある大会である。

夏季大会は1968年に米国・シカゴで第1回大会が開催され、2019年3月にアラブ首長国連邦のアブダビにおいて第15回大会が開催された。冬季大会は1977年を第1回(米国・コロラド州)としており、2017年にはオーストリアのシュラートミンクにおいて第11回大会が開催された。

また、スペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人とない人が共にチームを組みスポーツを楽しむ取組も進めており、世界大会の種目にも採用されている。

◯パラリンピック競技大会

オリンピックの直後に当該開催地で行われる、障害者スポーツの最高峰の大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は、1960年にイタリアのローマで第1回大会が開催され、オリンピック同様4年に一度開催されている。2016年には、ブラジルのリオデジャネイロにおいて第15回大会が開催された。次回は、2021年、東京において開催が予定されている。冬季大会は、1976年にスウェーデンのエンシェルツヴィークで第1回大会が開催されて以降、オリンピック冬季大会の開催年に開催されている。2018年3月には、韓国の平昌(ピョンチャン)において第12回大会が開催された。次回は、2022年に中国の北京で開催が予定されている。

/文部科学省
第5章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS
スポーツを通じた共生社会実現に向けた取組

スポーツ庁では、東京2020大会を契機として共生社会を実現するため、障害の有無にかかわらずスポーツに親しめる環境づくりを進めている。

夏季のパラリンピック競技大会が同一都市で2回開催されるのは東京2020大会が史上初であり、開催国として東京2020大会を成功に導くために、2016年度からパラリンピック教育を推進する「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」を実施している。事業は主に2つあり、①学校現場でのパラリンピック教育の取組を促進するために、パラリンピアンやパラアスリートなどを学校に派遣し、自身の体験やエピソードに関する講演やパラ競技体験などを児童生徒と共に実践したり、②多くの児童生徒にパラ競技への興味関心を高めてもらうため、競技会場にてパラ競技を実際に観戦し事前事後に選手や競技に関する学習をしたりと、様々な活動を通じてパラリンピック教育を推進している。また、コロナ禍においても、ICT機器を活用してパラアスリートと児童生徒の交流を実施するなど、新しい生活様式に対応したパラリンピック教育も展開されている。これらの活動によりパラ競技への興味関心を高め、共生社会への理解促進をより一層進めていく。

また、各地においても、県民パラスポーツ大会や、学校区、大学、企業対抗など様々なレベルでのパラスポーツの体験会・交流会が実施されるなど、これらの取組はさらに広がりを見せている。

このような動きが広がる中で、近年は、特に障害のある人と障害のない人が同じスポーツに参加する取組に注目が集まっている。知的障害のある人にスポーツの機会を提供するスペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人とない人が同じチームで練習を積み試合を行う「Unified Sports?」の取組が進められているほか、一般社団法人日本障がい者サッカー連盟による、障害のある人と障害のない人が一緒にサッカーを楽しむ「JIFFインクルーシブフットボールフェスタ」など、互いの理解や心のバリアフリーを目指した多くの取組が行われている。また、従来のスポーツ大会に障害のある人の部門が併せて設けられる試みや、障害のある人のスポーツ大会に同一のルールで障害のない人が参加できる大会も広がってきている。

引き続き、これらの様々な取組の普及を通じて、多くの方に障害者スポーツの魅力を伝えていくとともに、スポーツを通じた共生社会の実現に向け取り組んでいく。

長野県民障害者スポーツプロジェクト

  • ボッチャ競技の様子

  • 車いすポートボールの様子

/文部科学省
第5章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS
スポーツを通じた社会参加の推進

この1年間は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの活動が休止せざるを得ない状況が続き、現在は変異した新型コロナウイルスが再流行している状況にある。

国立障害者リハビリテーションセンターは、障害者のスポーツ活動においてその前提となる、感染予防対策の普及活動を積極的に推進し、頸髄損傷後遺症など十分な手洗いが困難な人々への具体的指導からマスク着用、密を避ける、換気の重要性など一般の知識に至るまで繰り返し情報発信を行った。

東京パラリンピック競技大会に向けては、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会と連携し、選手のメディカルチェックの実施とともに必要に応じた診断書を発行し、練習環境の支援を継続して行っている。また、研究所では、選手の競技や練習を支援するハイテク機器の開発とともに一般の障害者の外出支援につながる研究開発を行っている。

選手のプレーを支える道具と体のフィッティングもパラスポーツの重要な要素であり、病院・研究所の各部門で用具の調節、開発を実践している。

【競技用具のフィッティング】

また、国立美術館、国立博物館は、障害者手帳を持つ人について展覧会の入場料を無料としているほか、全国各地の劇場、コンサートホール、美術館、博物館などにおいて、車椅子使用者も利用ができるトイレやエレベーターの設置等障害のある人に対する環境改善も進められている。

オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典のみならず文化の祭典でもあり、「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(平成27年11月27日閣議決定)において、日本文化の魅力を発信していくこととしている。2016年3月に、関係府省庁、東京都、大会組織委員会を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」を開催した。その中で2021年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、障害のある人にとってのバリアを取り除く取組等成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシー創出に資する文化プログラムを「beyond2020プログラム」として認証するとともに、日本全国へ展開することを決定した。2021年3月末時点で約18,000件の事業を認証した。

/文部科学省
第5章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS
障害者による文化芸術活動の推進に関する法律及び基本的な計画について

2018年6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が公布、施行された。

本法は、文化芸術が、これを創造し、又は享受する者の障害の有無にかかわらず、人々に心の豊かさや相互理解をもたらすものであることに鑑み、「文化芸術基本法」(平成13年法律第148号)及び「障害者基本法」(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、障害者による文化芸術活動の推進に関し、基本理念、基本計画の策定その他の基本となる事項を定めることにより、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮及び社会参加の促進を図ることを目的とするものである。

本法に基づき、2019年3月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」を公表した。計画は、法律に定める3つの基本理念を基本的な視点とし、2019年度~2022年度までを対象期間として、11項目の具体的な施策の方向性を記載したものである。計画に基づき、鑑賞や創造、発表の機会の拡大や、作品等の評価を向上する取組など、障害のある人による文化芸術活動の充実に向けた各種取組を実施しており、文化庁では2019年度から「障害者による文化芸術活動事業」を実施し、鑑賞・創造・発表について先導的・試行的な取組を支援している。また、法律では地方公共団体による計画の策定が努力義務とされ、順次策定が進められているところであり、地方における計画策定及び取組の推進を、併せて支援していくこととしている。

「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」の概要
/厚生労働省
第5章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS
障害者の芸術文化活動支援拠点の全国への広がり

厚生労働省では、障害のある人の自立と社会参加を促進する観点から、芸術文化活動の振興を図っている。2017年度からは、地域の障害のある人の芸術文化活動の支援拠点となる「障害者芸術文化活動支援センター(支援センター)」を全国に整備する「障害者芸術文化活動普及支援事業」を実施しており、 2020年度は35の都道府県で事業に取り組んでいる。

支援センターは、それぞれの地域の現状を把握し、芸術活動に関する相談支援、必要とされる人材育成、多分野の関係者とのネットワークづくりなどを行っている。この取組を通じて、障害のある人を中心に、家族、支援者、住民、福祉団体、文化団体、教育機関などがつながり、地域に新たな活力が生まれ、誰もがお互いを尊重し合う豊かな地域社会の基盤が生まれている。また、支援センターのない地域においても、こうした支援が行われるよう広域的・全国的な支援機関も設けており、全国各地で、様々な障害のある人が、美術、音楽、演劇、舞踊などの多様な芸術文化に参加できる環境づくりを進めている。今後、全都道府県にこの仕組みが広がるよう取り組んでいく。

※本事業及び各センターの詳細については、専用サイト(https://renkei-sgsm.net/)を参照のこと。

支援センター・広域センター 一覧
/文部科学省
第5章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS
「ここから展」から「CONNECT右矢印左矢印」へ

文化庁では、2016年秋に「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」にあわせて、障害者のアートや障害者の支援を目指したデザインに関する展覧会「ここから展」を開催し、それ以降、4回にわたって国立新美術館(東京)で、共生や文化の多様性について関心を深めることを目的に同展覧会を開催した。「ここから4-障害・表現・共生を考える5日間」展(2019年12月開催)は、障害のある人たちが制作した「表現の持つ根源的なよろこび」が感じられる作品に加え、障害・障壁への気づきをうながすマンガ・アニメーションや、身体感覚を際立たせる映像・メディアアートなども紹介した。障害の有無を超越し、多様な作品が「ごちゃまぜ」に共存する空間を通じて、創造的に生きることの原点を実感できる機会となるような企画とした。この取組を引継ぎ、2020年12月3日から20日まで、障害者週間に会期をあわせて「CONNECT右矢印左矢印 」を開催した。

CONNECT右矢印左矢印 」では、京都・岡崎公園に立地する美術館、劇場、図書館、動物園などの文化施設で、障害のある人が制作した作品の展示や、身体感覚をつかった作品鑑賞プログラムなどを実施した。京都国立近代美術館では、作品の内部に入り鑑賞することができる体験型の作品を展示したほか、京都市京セラ美術館では、アトリエ活動を行う障害のある作家の作品世界を、美術館のファサード「ガラス・リボン」に展示した。あわせて、「共生」の時代における文化施設のあり方をテーマに、哲学者の鷲田清一氏、京都市京セラ美術館館長で建築家の青木淳氏、京都国立近代美術館館長・柳原正樹氏による鼎談を動画配信するとともに、文化施設へのアクセシビリティを考えるシンポジウムをオンライン開催するなど、物理的な接触や密を避けながら参加できるプログラムも実施した。

  • 会場の様子

  • 鼎談の動画配信
    ~「共生」の時代における文化施設のあり方について~

  • 身体感覚で楽しむプログラム《ねじれの巡礼》
    京都国立近代美術館での展示

  • 《三人のガラス・リボン》京都市京セラ美術館ファサードでの展示

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