第4章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 1
第1節 生活安定のための施策
1.利用者本位の生活支援体制の整備
(1)障害者総合支援法の沿革
障害保健福祉施策については、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に、身体に障害のある人、知的障害のある人及び精神障害のある人それぞれについて、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。
2006年4月1日に施行された「障害者自立支援法」(平成17年法律第123号)は、2012年に「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」(平成24年法律第51号)が成立したことで「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下本章では「障害者総合支援法」という。)に改正されている。
「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法を一部改正する法律」(平成28年法律第65号)による改正法施行後3年を目途とする見直しに向け、社会保障審議会障害者部会において、2022年6月に報告書を取りまとめた。本報告書を踏まえた法案が提出され、2022年12月に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第104号。以下本章では「改正法」という。)が成立・公布された。
(2)障害者総合支援法の概要
ア 障害福祉サービス
① 障害種別によらない一体的なサービス提供
かつての「支援費制度」では、身体に障害のある人、知的障害のある人に対し、障害の種類ごとにサービスが提供されており、精神障害のある人は「支援費制度」の対象外となっていたが、「障害者自立支援法」の施行により、障害の種類によって異なる各種福祉サービスを一元化し、これによって、障害の種類を超えた共通の場で、それぞれの障害特性などを踏まえたサービスを提供することができるようになった。
また、2013年4月の「障害者総合支援法」の施行により、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等が含まれることとなった。制度の対象となる疾病(難病等)については、当面の措置として、難病患者等居宅生活支援事業の対象となっていた130疾病を対象としていたが、難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、順次見直しを行い、2021年11月1日より366疾病を対象としている。
2018年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下本章では「報酬改定」という。)においては、障害種別によって訓練の類型が分かれていた自立訓練(機能訓練、生活訓練)を障害の区別なく利用できる仕組みに改め、利用者の障害特性に応じた訓練を身近な事業所で受けられるようにした。
② 市町村による一元的な実施
「支援費制度」では、精神障害に係る一部のサービスなどの実施主体については、都道府県となっていたが、「障害者自立支援法」施行後は、市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする仕組みに改め、より利用者に身近な市町村が責任を持って、障害のある人たちにサービスを提供できるようになっている。
イ 利用者本位のサービス体系
① 地域生活中心のサービス体系
「支援費制度」では、障害種別ごとに複雑な施設・事業体系となっており、また、入所期間の長期化などにより、本来の施設目的と利用者の実態とが乖離している状況になっていた。
そこで、「障害者自立支援法」では、障害のある人が地域で暮らすために必要な支援を効果的に提供することができるよう、33種類に分かれた施設体系を6つの事業に再編するとともに、「地域生活支援」、「就労支援」のための事業や重度の障害がある人を対象としたサービスを創設するなど、地域生活中心のサービス体系へと再編した。
また、2010年12月の「障害者自立支援法」の一部改正により、2012年4月1日から、地域移行支援及び地域定着支援を個別給付化し、障害のある人の地域移行を一層推し進めている。
なお、「障害者総合支援法」により、2014年4月1日から、地域生活への移行のために支援を必要とする者を広く地域移行支援の対象とする観点から、障害者支援施設等に入所している障害のある人又は精神科病院に入院している精神障害のある人に加えて、保護施設、矯正施設等に入所している障害のある人を地域移行支援の対象とすることとした。また、障害のある人が身近な地域において生活するための様々なニーズに対応する観点から、重度の肢体不自由者に加え、行動障害を有する知的障害のある人又は精神障害のある人を重度訪問介護の対象とすることとした。
② 「日中活動の場」と「住まいの場」の分離
地域生活への移行を進めていくため、「障害者自立支援法」では、24時間同じ施設の中で過ごすのではなく、障害のある人が、日中活動と居住の支援を自分で組み合わせて利用できるよう、昼のサービス(日中活動支援)と夜のサービス(居住支援)に分け(昼夜分離)、障害のある人が自分の希望に応じて、複数のサービスを組み合わせて利用できるようにした。
また、この昼夜分離によって、入所施設に入所していない障害のある人も、入所施設が実施する日中活動支援のサービスを利用することができるようになった。
「障害者自立支援法」における日中活動支援については、以下のように再編され、現在の「障害者総合支援法」でも同じ体系をとっている。
・ |
療養介護 |
… |
医療と常時の介護を必要とする人に、医療機関において、機能訓練、療養上の管理、看護、介護及び日常生活の世話を行うサービス |
・ |
生活介護 |
… |
常に介護を必要とする人に、昼間、入浴等の介護を行うとともに、創作的活動又は生産活動の機会を提供するサービス |
・ |
自立訓練 |
… |
機能訓練と生活訓練とに大別され、自立した日常生活又は社会生活ができるよう、一定期間、身体機能又は生活能力の向上のために必要な訓練を行うサービス |
・ |
就労移行支援 |
… |
一般就労等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービス |
・ |
就労継続支援 |
… |
一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービス |
・ |
地域活動支援センター |
… |
障害のある人が通い、創作的活動又は生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を図る施設(地域生活支援事業として実施) |
③ 障害のある人の望む地域生活の支援
2016年の「障害者総合支援法」の一部改正では、障害のある人が自ら望む地域生活を営むことができるよう、支援の一層の充実を図るため、また、就労移行支援事業所又は就労継続支援事業所から一般就労に移行する障害者数の増加を踏まえ、新たなサービスを創設した(2018年4月施行)。
・ |
就労定着支援 |
… |
一般就労に伴う日常生活及び社会生活上の支援ニーズに対応できるよう、就職先企業・関係機関との連絡調整等の支援を行うサービス |
・ |
自立生活援助 |
… |
障害者支援施設や精神科病院、グループホーム等から地域での一人暮らしに移行した人等に対して、本人の意向を尊重した地域生活を支援するために、定期的な居宅訪問等により当人の状況を把握し、必要な情報提供等の支援を行うサービス |
④ 地域の限られた社会資源を活かす
障害のある人の身近なところにサービスの拠点を増やしていくためには、既存の限られた社会資源を活かし、地域の多様な状況に対応できるようにしていく必要がある。
このため、通所施設の民間の運営主体については、社会福祉法人に限られていたが、これを特定非営利活動法人、医療法人等、社会福祉法人以外の法人でも運営することができるように規制を緩和した。
ウ 福祉施設で働く障害のある人の一般就労への移行促進等
① 就労支援の強化
障害のある人が地域で自立した生活を送るための基盤として、就労支援は重要であり、一般就労を希望する人には、できる限り一般就労が可能となるように支援を行い、一般就労が困難である人には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように支援を行ってきている。
② 工賃・賃金向上のための取組
2012年度からは「工賃向上計画」を策定することにより、工賃向上に向けた取組を進めている。都道府県は、2021年度から2023年度の新たな「工賃向上計画」を策定し、都道府県内の事業所に対し工賃向上のための経営等の支援や関係行政機関、地域の商工団体等の関係者と連携しながら、工賃向上に取り組んでいる。この「工賃向上計画」に基づく支援では、コンサルタントによる企業経営手法の活用や共同受注の促進など、これまでの計画でも比較的効果のあった取組に重点を置いて取り組むとともに、厚生労働省においても、これらの取組に対して予算補助を行っている。
また、個々の事業所においても「工賃向上計画」を作成し、事業所責任者の意識向上、積極的な取組を促し、都道府県の計画では、官公需による発注促進についても、目標値を掲げて取り組んでおり、地域で障害のある人を支える仕組みを構築することが重要であることから、市町村においても工賃向上のための取組を積極的に支援するよう協力を依頼している。
さらに「工賃向上計画支援等事業」により、各都道府県への補助を通じて、就労継続支援事業所の利用者の工賃・賃金向上等を図るための取組を実施している。
エ 支給決定の透明化・明確化
① 障害程度区分の導入と障害支援区分への見直し
「支援費制度」では、支給決定に際して全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定する客観的基準)が定められていなかったことから、同じような障害状態にあっても市町村が決定するサービスの種類や量には、地域格差が生じているとの指摘がされていた。このため、「障害者自立支援法」では、支援の必要度を判定する障害程度区分を導入した。
また、知的障害のある人や精神障害のある人等の特性に応じて適切に支援の必要度を判定できるよう、「障害者総合支援法」では障害程度区分を障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改め、2014年4月から施行されている。
② 支給決定に係るプロセスの透明化等
「障害者総合支援法」における介護給付費等の支給決定を行うに当たっては、まず市町村が事前に障害のある人の面接調査を行い、その調査を基に障害支援区分の一次判定が行われ、さらに障害保健福祉の有識者などで構成される審査会での審査(二次判定)を経て、障害支援区分の認定が行われる仕組みなどとなっており、支給決定に係るプロセスの透明化が図られている。
また、この支給決定に係るプロセスは、障害支援区分に加え、障害のある人一人一人の心身の状況、サービス利用の意向、家族の状況などを踏まえて相談支援専門員等が作成したサービス等利用計画案を勘案して、適切な支給決定が行われるようにしている。
オ 費用をみんなで負担し合う仕組みの強化
① 国の費用負担の義務付け
「支援費制度」においては、居宅サービスに関する部分の費用については、国はその費用の一部を予算の範囲内で補助する仕組みとなっていたが、制度を安定的かつ継続的に運営するために、「障害者自立支援法」の施行以降は、国が義務的にその費用の一部を負担する仕組みとした(具体的には、国は費用の2分の1、都道府県は費用の4分の1を義務的に負担。市町村は費用の4分の1を負担。)。これにより、当初の予算の範囲を超えて居宅サービスの利用が急増したとしても、国及び都道府県は義務的に費用の一部負担を行うこととし、障害のある人が安心して制度を利用できるような形となった。
② 利用者負担
「障害者自立支援法」の施行以降は、サービスの利用者も含めて皆で制度を支え合うため、国の費用負担の義務付けと併せて、利用者については、所得階層ごとに設定された負担上限月額の範囲内で負担することとした。
また、これに加えて、所得の少ない人については、個別減免の仕組みを設けるなど利用者負担の軽減措置を講じた。
施設を利用した場合などにかかる食費・光熱水費などの実費負担については、在宅で生活をしていたとしてもこれらの実費負担は生じるものであることから、施設と在宅の費用負担の均衡を図るために、自己負担とした。ただし、所得の少ない人については、食費に係る実費負担額が食材料費のみの負担となるよう軽減措置を講じた。
その後、2007年4月に行われた特別対策や、2008年7月に行われた緊急措置において、低所得の障害のある人等を中心とした利用者負担の更なる軽減、障害のある子供のいる世帯における軽減対象範囲の拡大、負担上限月額を算定する際の所得段階区分の個人単位を基本とした見直し等の軽減措置を講じた。また、2009年7月より、軽減措置を適用するために設けていた「資産要件」の廃止や、「心身障害者扶養共済給付金」の収入認定からの除外といった更なる軽減措置を講じた。
さらに、2010年4月から低所得(市町村民税非課税)の障害のある人等につき、福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担を無料としている。
2010年の「障害者自立支援法」の一部改正では、障害のある人の地域移行を促進するため、障害のある人が安心して暮らせる「住まいの場」を積極的に確保していくことを目的に、グループホーム等の居住に要する費用を助成する制度を創設した(2011年10月施行)。また、利用者負担について、応能負担を原則とすることを法律上も明確にするとともに、障害福祉サービス等と補装具の利用者負担額を合算し、負担を軽減する仕組みを導入した(2012年4月施行)。
2016年の「障害者総合支援法」の一部改正では、障害福祉サービスを利用してきた人が、65歳に達することにより介護保険サービスに移行することによって利用者負担が増加してしまうという事態を解消するため、一定の要件を満たした高齢障害者については、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合の利用者負担(原則1割)をゼロにするという措置を講じた(2018年4月施行)。
カ 障害福祉計画に基づく計画的なサービス基盤整備の推進
「障害者総合支援法」及び「児童福祉法」(昭和22年法律第164号)では、障害のある人に必要なサービスが提供されるよう、将来に向けた計画的なサービス提供体制の整備を進める観点から、「障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(平成29年厚生労働省告示第116号。以下本章では「基本指針」という。)に即して、市町村及び都道府県は、数値目標と必要なサービス量の見込み等を記載した障害福祉計画及び障害児福祉計画を策定することになっている。
2022年度は「第7期障害福祉計画」及び「第3期障害児福祉計画」の策定に係る基本指針について、社会保障審議会障害者部会で議論を行い、2023年5月に基本指針の改正を行った。改正の主なポイントは次のとおり。
①入所等から地域生活への移行、地域生活の継続の支援
・重度障害者等への支援に係る記載の拡充
・障害者総合支援法の改正による地域生活支援拠点等の整備の努力義務化等を踏まえた見直し
②精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
・精神保健福祉法の改正等を踏まえた更なる体制整備
・医療計画との連動性を踏まえた目標値の設定
③福祉施設から一般就労への移行等
・一般就労への移行及び定着に係る目標値の設定
・一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時利用に係る記載の追記
④障害児のサービス提供体制の計画的な構築
・児童発達支援センターの機能強化と地域の体制整備
・障害児入所施設からの移行調整の取組の推進
・医療的ケア児等支援法の施行による医療的ケア児等に対する支援体制の充実
・聴覚障害児への早期支援の推進の拡充
⑤発達障害者等支援の一層の充実
・ペアレントトレーニング等プログラム実施者養成推進
・発達障害者地域支援マネージャーによる困難事例に対する助言等の推進
⑥地域における相談支援体制の充実強化
・基幹相談支援センターの設置等の推進
・協議会の活性化に向けた成果目標の新設
⑦障害者等に対する虐待の防止
・自治体による障害者虐待への組織的な対応の徹底
・精神障害者に対する虐待の防止に係る記載の新設
⑧「地域共生社会」の実現に向けた取組
・社会福祉法に基づく地域福祉計画等との連携や、市町村による包括的な支援体制の構築の推進に係る記載の新設
⑨障害福祉サービスの質の確保
・都道府県による相談支援専門員等への意思決定支援ガイドライン等を活用した研修等の実施を活動指標に追加
⑩障害福祉人材の確保・定着
・ICTの導入等による事務負担の軽減等に係る記載の新設
・相談支援専門員及びサービス管理責任者等の研修修了者数等を活動指標に追加
⑪よりきめ細かい地域ニーズを踏まえた障害(児)福祉計画の策定
・障害福祉DBの活用等による計画策定の推進
・市町村内のより細かな地域単位や重度障害者等のニーズ把握の推進
⑫障害者による情報の取得利用・意思疎通の推進
・障害特性に配慮した意思疎通支援や支援者の養成等の促進に係る記載の新設
⑬障害者総合支援法に基づく難病患者への支援の明確化
・障害福祉計画等の策定時における難病患者、難病相談支援センター等からの意見の尊重
・支援ニーズの把握及び特性に配慮した支援体制の整備
⑭その他:地方分権提案に対する対応
・計画期間の柔軟化
・サービスの見込量以外の活動指標の策定を任意化
障害保健福祉施策については、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。
2006年度に「障害者自立支援法」が施行され、これまで身体・知的の障害種別により提供されていたサービス体系を一元化するとともに、精神障害のある人を新たにサービス対象とし、障害種類を超えた共通の場で、障害特性を踏まえたサービス提供等を行うことが可能となった。
その後、障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえ、「障害者自立支援法」を「障害者総合支援法」とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」が成立した。これにより、障害福祉サービスに係る給付に加え、地域生活支援事業による総合的な支援が可能となるとともに、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等が含まれることとなった。なお、制度の対象疾病(難病等)については、難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、順次見直しを行い、2021年11月1日より366疾病を対象としている。
その後、2021年度の報酬改定においては、有識者の参画を得た障害福祉サービス等報酬改定検討チームにおいて改定に向けた議論を進めてきたところであり、障害のある人の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、相談支援の質の向上、効果的な就労支援、医療的ケア児への支援などの障害児支援の推進、感染症等への対応力の強化などの課題に対応するため、事業所の経営状況や制度の持続可能性の確保という観点も考慮しつつ、必要な改定を行った。
なお、直近の「障害者総合支援法」の改正として、2022年12月に改正法が成立した。これは、障害のある人の地域生活や就労の支援の強化等により、障害のある人等の希望する生活を実現するため、①障害者等の地域生活の支援体制の充実、②障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進、③精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備、④難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実及び療養生活支援の強化、⑤障害福祉サービス等、指定難病及び小児慢性特定疾病についてのデータベースに関する規定の整備等の措置を講ずる内容となっている。
(3)身近な相談支援体制整備の推進
ア 障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援
障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援については、「障害者自立支援法」により、2006年10月から、障害種別にかかわらず、事業の実施主体を利用者に身近な市町村に一元化して実施している。また、市町村における相談支援事業の機能を充実・強化するため、2006年10月から住宅入居等支援事業を、2012年4月から基幹相談支援センター等機能強化事業を、それぞれ地域生活支援事業に位置付けている。
また、指定特定相談支援事業所及び指定障害児相談支援事業所に配置されている相談支援専門員がサービス等利用計画又は障害児支援利用計画を作成することにより、障害のある人や障害のある児童の親が障害福祉サービス等を適切に利用することができるよう支援を行っており、2015年4月からは、支給決定前の全ての障害児者が、障害児支援利用計画案又はサービス等利用計画案を作成することとしている。
さらに、2018年度の報酬改定では、利用状況の適切な把握と適正なサービス量の調整が可能となるよう、実施モニタリング期間の一部を見直してモニタリング頻度を高めたほか、質の高い相談支援の実施や専門性の高い支援を行うための体制を適切に評価する加算(「サービス提供時モニタリング加算」等)を創設している。また、2021年度の報酬改定においては、適切なモニタリング頻度の決定を推進する観点から、利用者の個別性も踏まえて、モニタリング頻度の決定を行う旨やモニタリング期間の変更をする際の手続を再度周知している。
広域・専門的な支援や人材育成については、都道府県の地域生活支援事業の中で、都道府県相談支援体制整備事業、高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業、発達障害者支援センター運営事業、障害者就業・生活支援センター事業、障害児等療育支援事業、相談支援従事者研修事業等を実施し、市町村をバックアップしている。
イ 都道府県による取組及び市町村区域への対応
都道府県においては、市町村に対する専門的な技術支援、情報提供の役割を担っている更生相談所等が設けられており、それぞれの施設が担う相談支援内容に合わせて、身体障害者相談員、知的障害者相談員、児童に関する相談員及び精神保健福祉相談員を配置している。設置状況は、身体障害者更生相談所(2023年4月現在78か所)、知的障害者更生相談所(2023年4月現在88か所)、児童相談所(2023年4月現在232か所)、精神保健福祉センター(2023年4月現在69か所)となっている。
国においては、市町村の区域で生活に関する相談、助言その他の援助を行う民生委員・児童委員を委嘱している。
ウ 法務局その他
全国の法務局において、法務局職員及び人権擁護委員が、障害のある人に対する差別、虐待等の人権問題について、面談・電話による相談に応じている。また、社会福祉施設や市役所などの公共施設・デパート等において特設の人権相談所を開設しているほか、法務省のホームページ上でもインターネットによる人権相談の受付を行っている。加えて、人権相談等を通じて人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じている。
保健所、医療機関、教育委員会、特別支援学校、ハローワーク、ボランティア団体等においても、相談支援が行われている。
エ 矯正施設入所者等
障害等により自立が困難な矯正施設入所者について、出所後直ちに福祉サービスを受けられるようにするため、刑務所等の社会福祉士等を活用した相談支援体制を整備するとともに、「地域生活定着支援センター」を全国の各都道府県に整備している。同センターは、矯正施設、保護観察所、地域の福祉関係機関等と連携して、社会復帰の支援を行っており、2021年度からは起訴猶予者等への支援も行っている。
また、帰住先が確定しないなどの理由により出所後直ちに福祉による支援が困難な者について、更生保護施設への受入れを促進し、福祉への移行準備、自立した日常生活のための訓練等を実施している。
(4)権利擁護の推進
ア 成年後見制度等
認知症、知的障害又は精神障害などのため判断能力の十分でない人を保護し支援するための成年後見制度について、パンフレットの配布や法務省ホームページ上のQ&A掲載など、制度周知のための活動を行っている。また、障害福祉サービスを利用し又は利用しようとする知的障害のある人又は精神障害のある人であり、助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められる場合に、申立てに要する経費及び後見人等の報酬の全部又は一部について補助を行うため、成年後見制度利用支援事業を実施しており、2012年度から市町村地域生活支援事業の必須事業に位置付けている。
報酬等の助成事業については、2021年4月1日現在で1,682市町村が実施しており、このうち、国の地域生活支援事業費等補助金を活用しているのは1,231市町村となっており、今後とも本事業の周知を図ることとしている。
また、2013年度から、後見、保佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るための研修を行う事業である成年後見制度法人後見支援事業を地域生活支援事業として市町村の必須事業に位置付けたほか、指定障害福祉サービス事業者等の責務として、障害のある人等の意思決定の支援に配慮し、常に障害のある人の立場に立ってサービス等の提供を行うことを義務付けている。
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害のある人、精神障害のある人等のうち必ずしも判断能力が十分でない人が、地域において自立した生活を送ることを支援するため、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理に関する援助等を行う事業であり、都道府県・指定都市社会福祉協議会を実施主体とし、事業の一部は委託された市区町村社会福祉協議会等が実施している。本人からの申請は少なく、周囲の専門職等が必要と判断して利用に至る場合が多いことが特徴である。利用者の判断能力の低下等により、成年後見制度へ移行する者が増加しており、単身世帯の増加により、成年後見制度への移行のための支援も必要とされている。2022年3月末現在の本事業の実利用者数は56,549人となっており、今後とも本事業の一層の定着を図ることとしている。
成年後見制度の利用促進については、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)に基づき、2022年3月には、「第二期成年後見制度利用促進基本計画~尊厳のある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進~」を閣議決定し、これまでの取組の結果や課題を踏まえ、地域連携ネットワークづくりの推進や市民後見人等の担い手の育成、総合的な権利擁護支援策の充実、意思決定支援の浸透など更なる制度の運用改善等に向けた取組を行っている。(なお、財産管理については、後述の「3.経済的自立の支援(2)個人財産の適切な管理の支援」を参照。)
イ 消費者としての障害のある方
悪質な手口により消費者被害にあったなどとして、全国の消費生活センターや国民生活センター等に、認知症高齢者、障害のある人等から消費生活相談が寄せられている。相談件数は、2013年度に2万件を超えると、2016年度にかけて一旦減少したが、その後増加に転じ、現在まで高水準で推移している。
消費者庁では、認知症高齢者や障害のある人等の配慮を要する消費者を見守るためのネットワークとして、「消費者安全法」(平成21年法律第50号)の改正(2016年4月施行)により規定された、「消費者安全確保地域協議会」の設置促進に取り組んでいる。消費者安全確保地域協議会は、既存の福祉のネットワーク等に地域の消費生活センターや消費者団体等の関係者を追加することで、消費者被害の未然防止、拡大防止、早期発見、早期解決に資する見守りサービスの提供を可能にする取組である。
2022年度地方消費者行政に関する先進的モデル事業として「高齢者、障害者等を見守るネットワークの構築及び地域活性化の実証」を実施し、消費者被害の未然防止や被害救済に資する見守りネットワークの構築・活性化を図るとともに、関係団体間の連携や必要な資材の開発等を行い、取組の検証を行った。
消費者安全確保地域協議会の取組では、地域の関係団体との連携も重要である。消費者庁では、2007年から、障害者団体のほか高齢者団体・福祉関係者等専門職団体・消費者団体、行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障がい消費者見守りネットワーク連絡協議会」を開催し、消費者トラブルに関して情報を共有するとともに、悪質商法の新たな手口や対処の方法などの情報提供等を行う仕組みの構築を図ってきた。2022年度には、地域の多様な主体が参加・協働する支援体制の在り方や成年後見制度の地域連携ネットワーク、地域において積極的な見守り活動を行っている関係団体の取組の情報を共有した。
国民生活センターでは、障害のある人や高齢者、その周りの人々に悪質商法の手口やワンポイントアドバイス等をメールマガジンや同センターホームページで伝える「見守り新鮮情報」を発行するとともに、最新の消費生活情報をコンパクトにまとめた「2023年版くらしの豆知識」の発行に当たってはカラーユニバーサルデザイン認証を取得したほか、デイジー版(デジタル録音図書)を作成し、全国の消費生活センター、消費者団体及び全国の点字図書館等に配布するとともに、国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービスにも登録した。
地域において配慮を要する消費者への取組を進めるためには、消費生活センター等における消費生活相談体制の充実・強化も促進する必要がある。消費者庁では、地方消費者行政強化交付金等を通じ、消費者安全確保地域協議会の設置促進のほか、地方公共団体における障害のある人の特性に配慮した消費生活相談体制の整備を図る取組等も支援している。
商品・役務 | 件数 | |
---|---|---|
1 | 商品一般 | 1,611 |
2 | フリーローン・サラ金 | 1,342 |
3 | 他の健康食品 | 1,178 |
4 | 携帯電話サービス | 844 |
5 | 新聞 | 714 |
6 | 役務その他サービス | 499 |
7 | 出会い系サイト・アプリ | 468 |
8 | 賃貸アパート | 460 |
9 | 健康食品(全般) | 383 |
10 | 屋根工事 | 358 |
(5)障害者虐待防止対策の推進
障害のある人の尊厳の保持のため障害のある人に対する虐待を防止することは極めて重要であることから、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成23年法律第79号)が2012年10月から施行されている。
この法律においては、何人も障害者を虐待してはならないことや虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合には速やかに通報すること等を規定しており、地方公共団体は障害者虐待対応の窓口として「市町村障害者虐待防止センター」や「都道府県障害者権利擁護センター」の機能を果たすこととされている。各センターでは、障害者虐待の通報・届出の受理に加え、相談や指導・助言を行うほか、国民の理解の促進を図るため、障害者虐待防止の広報・啓発等を行っている。
厚生労働省においては、地方公共団体が関係機関との連携の下、障害者虐待の未然防止や早期発見、迅速な対応等を行えるよう、障害者虐待防止対策支援等の施策を通じて、支援体制の強化や地域における関係機関等との協力体制の整備等を図るとともに、障害のある人の虐待防止や権利擁護等に係る各都道府県における指導的役割を担う者の養成研修等を実施している。
(6)障害者団体や本人活動の支援
意思決定過程に障害のある人の参画を得て、その視点を施策に反映させる観点から、障害者政策委員会等において障害のある人や障害者団体が、情報保障その他の合理的配慮の提供を受けながら構成員として審議に参画している。
また、「障害者総合支援法」に基づく地域生活支援事業において、障害のある人やその家族、地域住民等が自発的に行う活動に対する支援を行う「自発的活動支援事業」を実施している。