第5章 住みよい環境の基盤づくり 第1節 6
第1節 障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策
6.防災、防犯対策の推進
(1)防災対策
ア 防災対策の基本的な方針
「災害対策基本法」等の一部改正
「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)においては、防災対策における障害のある人や高齢者、乳幼児等の「要配慮者」に対する措置として、市町村長に要配慮者のうち災害時の避難行動に特に支援を要する避難行動要支援者について名簿を作成することを義務付けること、主として要配慮者を滞在させることが想定される避難所に適合すべき基準を設けること等としている。
避難行動要支援者名簿は2025年4月1日現在、全市町村で作成済みであるが、避難行動要支援者の円滑かつ迅速な避難の確保を図る観点から、避難行動要支援者ごとに避難支援等を行う者や避難先等の情報を記載した個別避難計画の作成を市町村長の努力義務としている。
「災害対策基本法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第51号。以下本章では「改正災害対策基本法」という。)においては、在宅や車中泊で避難生活を送る障害のある人や高齢者、乳幼児等の多様な支援ニーズに対応するため、「災害救助法」(昭和22年法律第118号)の救助の種類に「福祉サービスの提供」を追加すること等とされた。
「改正災害対策基本法」では被災者援護協力団体登録制度が創設された。この登録制度の趣旨は、被災者への支援に関する様々な実績ある団体の情報をデータベース化して全国の自治体等と共有することであり、障害のある当事者によるピアサポート等、要配慮者への支援を専門とする団体も含まれる。
イ 要配慮者対策等の推進
内閣府では、避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成・活用に係る具体的手順等については、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を定めている。このほか、「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」、「避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン」、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」及び「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を策定し、公表している。
市町村が行う指定避難所における避難者の生活環境の改善(バリアフリー化等)や、地域防災計画上、耐震改修を進める必要があるとされた災害時に要配慮者対策が必要となる社会福祉事業の用に供する公共施設等の耐震化について、緊急防災・減災事業債(地方債)の対象とし、その後年度の元利償還金の一部について地方交付税措置を行っている。
また、「災害時要援護者緊急通報システム」の普及に努めるとともに、要配慮者が入所する施設における避難対策の強化等の防火管理の充実について消防機関に周知している。
各都道府県警察においては、巡回連絡等を通じて障害のある人の防災に関する知識の普及等、障害のある人に対する支援体制の整備促進に努めている。
内閣府では、防災推進国民会議及び防災推進協議会と共同主催により、「防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)2025」を新潟県新潟市で開催した。10回目の開催となる今大会では、「語り合い 支え合い~新潟からオールジャパンで進める防災・減災~」をテーマとし、国民一人一人が日頃から防災に取り組むことの大切さを発信し、災害の経験・教訓を多くの人へ、そして次世代へ伝える機会とすることを目指した。会場では、行政、公益団体、学術界、民間企業、NPO等の約470団体の出展者によるセッション、ワークショップ、ブース展示、ステージ発表、屋外展示等が行われ、その中には、インクルーシブ防災に関する内容や福祉避難所等の要配慮者支援に関する内容の出展も行われた。
ウ 要配慮者利用施設等への対策
要配慮者対策を推進するには、まず、地域における要配慮者の状況を的確に把握した上で、社会福祉施設など要配慮者が入所している施設自らの対策を促進するための情報提供等を行う必要がある。
要配慮者や要配慮者利用施設への防災情報の伝達体制を整備し、入所者等の避難・救出・安否確認などの警戒避難体制の具体化を促進するとともに、被災した場合の防災関係機関への迅速な通報体制の整備及び避難先における入所者等の生活確保体制の整備を促進する必要がある。また、地域の実情に応じた支援体制をつくることが必要である。
水災害時における要配慮者利用施設の利用者の避難については、「水防法」(昭和24年法律第193号)及び「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下本章では「土砂災害防止法」という。)で、市町村地域防災計画に位置付けられた浸水想定区域内又は土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成及び訓練の実施、訓練結果の市町村長への報告を義務付ける制度としている。「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き」により、施設利用者の円滑かつ迅速な避難の実効性の確保を図るとともに、全国防災訓練では、要配慮者利用施設等が市町村と連携し、地域の実情にあわせた防災訓練等を重点的に実施している。
また、防災情報システム等の整備を強化するとともに、過去の災害や危険箇所、情報入手方法、避難場所、避難経路等を具体的に示したハザードマップ等のユニバーサルデザイン化など、きめ細かな情報の提供を推進している。
さらに、山地災害危険地区等のうち病院、社会福祉施設等の要配慮者利用施設が隣接している箇所において計画的な治山対策の推進を図っている。
エ 水害対策
洪水被害や、高潮・津波等による災害発生の浸水被害は被災後従前の生活に戻るまでに多大な労力を要し、障害のある人にも日常生活に著しい負担をもたらすものである。円滑かつ迅速な避難を支援するため、ソフト対策の一環としてハザードマップを策定することとしており、視覚障害のある方も含めて誰もが水害の危険性や取るべき行動を理解できるよう、2023年5月に「水害ハザードマップ作成の手引き」を改定し、全国の市町村に対して、ユニバーサルデザイン化を促している。
また、聴覚障害のある方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方などにも、大津波警報、津波警報、津波注意報の発表をお知らせする旗として「津波フラッグ」がある。2020年6月から、海水浴場等で「津波フラッグ」による視覚的伝達が行われており、2025年7月のカムチャツカ半島東方沖の地震の際にも、各地の海水浴場で津波フラッグを活用した伝達が実施された。
オ 土砂災害対策
社会福祉施設等を保全するため、土砂災害防止施設の整備を推進し、激甚な土砂災害を受けた場合は早急に再度災害防止対策を実施している。また、「土砂災害防止法」に基づき、社会福祉施設等が立地する区域を含め、土砂災害警戒区域等の指定等による土砂災害リスクに関する周知を行うなど、ハード・ソフト一体となった土砂災害対策を推進している。
カ 防火安全対策
全国の消防機関等では、春・秋の全国火災予防運動を通じて「防火対象物等における防火安全対策の徹底」等を推進項目として取り組んでおり、障害のある人等が入居する小規模社会福祉施設等においては、適切な避難誘導体制の確保を図るとともに、消防法令違反の重点的な是正の推進など必要な防火安全対策の徹底を図っている。
キ 音声によらない119番通報
多くの消防本部では、聴覚・言語機能に障害のある人を始めとする音声通話による119番通報が困難な人のために、FAXや電子メールなどの通報手段を提供している。
また、消防庁では、スマートフォン等を活用して、音声によらない円滑な通報を行えるシステム(NET119緊急通報システム)について、2017年3月に標準仕様等を取りまとめ、各消防本部での導入を促進するとともに、厚生労働省と連携して障害のある人への周知・利用促進にも取り組んでいる。2025年4月1日時点のNET119緊急通報システム導入消防本部数は全国720本部中659本部(約91.5%)である。
さらに、2021年7月から開始された公共インフラとしての電話リレーサービス及び2025年1月から開始された「文字表示電話サービス(サービス名:ヨメテル)」による緊急通報については、サービス開始時点から全ての消防本部で対応可能となっている。
ク 震災における障害のある人たちへの主な支援
東日本大震災、熊本地震及び令和6年能登半島地震に伴い、被災地、被災者に対して講じられた施策のうち、障害のある人への支援の一環として実施してきたものとして、主に次のような施策がある。
① 利用者負担減免等
厚生労働省・こども家庭庁は、障害のある人や障害福祉サービス等の提供を行う事業者に対し、以下のような利用者負担の減免や障害福祉サービスに係る措置を弾力的に行うよう通知等を行った。
(ア)利用者への対応について
・被災した障害のある人等にかかる障害福祉サービス等の利用者負担を市町村が免除した場合、この利用者負担額について、国がその全額を財政支援することとした。
(イ)障害福祉サービス等の提供について
・被災者等を受け入れたときなどに、一時的に、定員を超える場合を含め「人員配置基準」や「施設設備基準」を満たさない場合も報酬の減額等を行わないこととした。
・また、やむを得ない理由により、利用者の避難先等において、安否確認や相談支援等のできる限りの支援の提供を行った場合は、これまでの障害福祉サービス等として報酬の対象とすることとした。
・避難所においてホームヘルプサービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
・さらに、利用者とともに仮設の施設や他の施設等に避難し、そこにおいて障害福祉サービス等を提供した場合も報酬の対象とすることとした。
・介護給付費等の請求について、被災によりサービス提供記録等を滅失又は棄損した障害福祉サービス等の事業所においては、概算請求を行うことができることとした。
・二次避難先での円滑な障害児支援の提供が受けられるよう、避難先市町村において、障害児の把握に努めるとともに、相談対応や円滑な支給決定を行うことができることとした。
(ウ)介護職員等の派遣、避難者の受入等
・各事業所等において、介護職員等が不足している場合には、国や県等の調整を受けて、別の事業所等より介護職員等の派遣を行った。
・また、被災等により利用者の避難が必要である場合には、国や県等において調整を行い、受入先を確保した。
(エ)被災地における障害福祉サービス等の再開支援について
・震災により被害を受けた障害者支援施設等の復旧事業や事業再開に要する経費に関する国庫補助事業を実施し、復旧支援を行った。
・甚大な被害を受けた被災地の障害福祉サービス事業所等が復興期においても安定したサービス提供を行うことができるよう、被災県ごとに支援拠点を設置し、
(a)障害者就労支援事業所の活動支援(業務発注の確保、流通経路の再建等)
(b)福祉・介護職員等の人材確保のための支援
を行うための予算措置を行った。
② 心のケア
東日本大震災における心のケアについては、被災者の生活の場が災害公営住宅や自宅に移った後も、心のケアが必要な人に必要なケアが継続して行き届くよう、被災県が「心のケアセンター」を活動拠点として設置するなど、「専門的な心のケア」を提供している。
熊本地震においては、発災直後から精神保健医療ニーズの情報集約、派遣調整を行い、熊本県からの派遣要請に基づき、震災発生当日に災害派遣精神医療チーム(DPAT)を派遣した。現地では、被災した精神科医療機関から県内及び県外の医療機関への患者搬送や避難所の巡回活動等を実施した。
令和6年能登半島地震においても、発災直後から情報集約を行い、石川県からの派遣要請に基づき、県内外からDPATを派遣した。現地では、避難所の巡回活動を通じた精神疾患患者の診察や薬剤調整等を実施した。また、中長期における被災者の心のケアとして、石川県が「こころのケアセンター」を設置した。また、2025年2月に能登半島北部にも拠点(石川こころのケアセンター奥能登)を設置し、心のケアを必要とする方に対して、専門ダイヤルによる電話相談や訪問支援等の対応を行っている。
③ 発達障害のある人への支援に関する情報提供
国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている発達障害情報・支援センターでは、2013年に災害時の支援において大切な要素をまとめた冊子「災害時の発達障害児・者支援エッセンス―発達障害のある人に対応するみなさんへ―」を作成した。その後は、大規模災害が発生するたびに、被災地等における発達障害のある方への対応の留意点等を抽出してまとめたリーフレット「災害時の発達障害児・者支援について」を、被災地等で支援にあたる方々に向けて提供している。
2025年度においては、平時の備えの重要性という観点から、発達障害当事者にも読んでもらうことを想定した新たなリーフレットを作成したところであり、今後その普及を図っていくこととしている。
④ 就学機会確保・就学支援等
特に障害のある児童生徒等への対応に当たっては、令和6年能登半島地震の被災地域に対し、「令和6年能登半島地震における被災地域の児童生徒等の学習の継続について(事務連絡)」等を発出し、障害のある児童生徒等も含め、就学機会の確保とともに、発達障害のある児童生徒等の障害の状態等に応じた配慮事項や、自立活動の継続、個別の教育支援計画・個別の指導計画の活用について周知している。
⑤ 教師のためのハンドブック
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、東日本大震災に際し、2011年度に「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」を作成し、関係機関に配布するとともに、ホームページに掲載をした。なお、令和6年能登半島地震においても、同研究所ホームページトップに「震災対応関連情報」として、ハンドブックのURLを再掲し、改めて周知を図った。
⑥ 幼児児童生徒の状況把握等
文部科学省及び厚生労働省では、東日本大震災に際し、被災した障害のある幼児児童生徒の状況把握及び支援、教育委員会・学校等が支援を必要とする幼児児童生徒を把握した場合に保護者の意向を確認した上で市町村障害児福祉主管課に連絡するなどの教育と福祉との連携、障害児支援に関する相談窓口等の周知について、各都道府県教育委員会、障害児福祉主管課に対し要請している。
また、令和6年能登半島地震の被災地域に対し、「令和6年能登半島地震における被災地域の児童生徒等の学習の継続について(事務連絡)」を発出し、学級担当等による家庭訪問や避難所等の巡回により、障害のある児童生徒等の状況を把握することや、学校再開までに時間がかかる場合には、障害の状態や特性等にも配慮しながら、訪問教育やオンラインによる指導などを活用いただきたい旨を周知している。
⑦ 東日本大震災からの復興における事例集の作成
復興庁では、自治体や各地で活躍する方々の参考となるよう、障害のある人やジェンダーの視点を踏まえた東日本大震災からの復興における好事例の収集・発信を行っている(2026年3月末時点で124事例(2025年度に追加した障害者施策に関する事例1件))。
(2)防犯対策
ア 警察へのアクセス
障害のある人は、防犯に関する通常のニーズを満たすのに特別の困難を有しており、また、犯罪や事故の被害に遭う危険性が高く、不安感も強いことから、障害のある人の気持ちに配慮した各種施策の推進に努めている。
障害のある人が警察へアクセスする際の困難を取り除くため、警察では、巡回連絡等による情報提供、交番等へのスロープ設置等を行っているほか、スマートフォン等を使用して、文字等で緊急通報が行える「110番アプリシステム」を全都道府県警察で運用している(2026年3月末時点でシステムの事前登録者数:約4万人)。
イ 犯罪・事故被害の防止
障害のある人が犯罪や事故の被害に遭うことの不安感を除くため、巡回連絡等を通じて、障害のある人からの相談や警察に対する要望に応じるとともに、身近な犯罪や事故の発生状況、防犯上のノウハウ等の安全確保に必要な情報の提供に努めるなどしている。
また、警察では、関係省庁及び関係団体と連携して、住宅等に対する侵入犯罪対策として大きな効果が期待できる防犯性能の高い建物部品の開発・普及を図っているほか、公益社団法人日本防犯設備協会と連携し、同協会が策定した「ホームセキュリティガイド」の中で障害のある人に対応した安全で信頼性の高い機器を紹介している。
内閣府では、「女性に対する暴力をなくす運動」を行い、障害のある人を含む女性に対する暴力の予防と根絶に向けた全国的な運動を推進している。また、障害のある人を含む性犯罪・性暴力や配偶者等からの暴力の被害者に対する支援体制の充実のため、都道府県等に対する性犯罪・性暴力被害者支援のための交付金等により、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの運営の安定化及び支援の質の向上や、配偶者暴力相談支援センター等における相談・支援機能の充実を図っている。