平成17年度バリアフリー・ユニバーサルデザインの推進普及方策に関する調査研究 IV 調査結果のまとめと今後の課題・方向
政府の「バリアフリー化推進要綱」では、関係府省が一体となって、ハード・ソフト両面にわたるバリアフリー化のための施策を推進し、概ね10年後を目処に高齢者、障害者をはじめ誰もが社会の担い手として役割を持つ国づくりを目指している。
今回調査は、「バリアフリー化推進要綱」を推進するにあたり、国民のバリアフリーやユニバーサルデザインに関する認知度とあわせ、分野別にみたバリアフリー化の評価等をたずねることにより、国民や利用者の状況やニーズに対応したバリアフリー化推進の方向を探るために実施したものである。
以下、今回調査で実施した2つの調査結果を通して、バリアフリー化の現状と問題点、今後の方向性などを整理する。
1 国民意識調査にみるバリアフリー化に関する評価
まず、国民のバリアフリー化推進に関する意識、評価、今後の期待などについてみてみる。
(1)バリアフリー・ユニバーサルデザインの認知度
- 「バリアフリー」については、「ことばも意味も知らない」人は4.5%で、ほとんどの国民に認知されている。若い世代での認知度は特に高く、男女とも20代から40代まででは「ことばも意味も知っている」という人が9割にのぼっている。(問1)
- 「ユニバーサルデザイン」については、「ことばも意味も知っている」と答えた人は3割程度、ことばだけを知っている人を合わせても6割強であり、「ことばも意味も知らない」が約35%にのぼるなど、「バリアフリー」と比較すると認知度は低い。また、「ユニバーサルデザイン」は「バリアフリー」と異なり、同年代での認知度に違いがみられる。「ことばも意味も知っている」割合では、20代と40代では男女で10ポイント以上の開きが見られる。特に女性の20代は、バリアフリーという「ことばも意味も知っている」人が94%にのぼり、世代間比較では一番多いのに対し、ユニバーサルデザインという「ことばも意味も知らない」人が約44%にのぼる。「ことばも意味も知っている」人は24%と世代間では逆に最低となっており、2つのことばの認識に対する違いがもっとも大きい。(問2)
(2)バリアフリー化が進まないことの不便さの認識
- バリアフリー化が進まないことの不便さをたずねたところ、「バリアを感じることが多い」と「バリアを感じることがときどきある」と感じる人は6割を超え、国民の過半数が何らかのバリアを感じている。
- 特に障害があったり、家族内に介護を必要とする人がいたり、未就学児がいる人のほうが、バリアを感じる人が多く、特に女性で未就学児がいる人が78.9%にのぼり、強く不便さを感じていることがわかる。
- また、都市規模別では大都市と過疎地域で「バリアを感じることが多い」という回答が比較的多くなっている。(問3)
(3)バリアフリー化の推進に対する評価
a バリアフリー化全般に対する総合評価
- 5年前と比較したバリアフリー化の評価全般についてみると、「進んだ」と評価する人は半数に達していない。バリアフリー化が「進んだ」(「十分進んだ」と「まあまあ進んだ」の合計)と評価する人は46.7%、「進んでいない」(「あまり進んでいない」「ほとんど進んでいない」の合計)と評価する人は44.3%でほぼ4割ずつとなっている。性・年代別にみても同様の傾向であるが、男女20代、女性30代では「進んだ」と評価する人が多く、女性40代では「進んでいない」と評価する人が多い。
- また、障害がある人や、家族内に要介護者がいる人は「進んでいない」と評価する人が多く、バリアを感じる機会が多い人ほどバリアフリー化に対する評価も低い。
- 評価に関しては、都市規模別での大きな違いはみられない。(問4)
b 分野別での評価
- バリアフリー化に関する分野別の評価をみると、「建築物」や「公共交通機関」では4割以上の人が「進んだ」と評価している。「情報、各種製品」では3割程度、「まちづくり」では2割程度であり、個別の分野になると総合評価に較べて「進んでいない」と評価する人が多くなる。(問5~問9、図表4-1-1)
図表4-1-1 バリアフリー化推進に対する評価(全体)
建築物
a バリアフリー化の目標と状況
- 官公庁施設については、既存施設も含めたバリアフリー化が進められてきた。民間の建築物についても、ハートビル法に基づき定められた利用円滑化基準によるバリアフリー化が義務づけられ、病院、劇場、ホテル等不特定かつ多数の人が利用し、主として高齢者や身体障害者が利用する建築物については、平成19年度末に約4割のバリアフリー化が目標となっている。
b 分野全体の評価
- 建築物の分野では、男女とも若い世代では「進んだ」と評価する人が多い。障害の有無、介護者の有無などでの違いはあまりないが、未就学児の有無別にみると、女性では未就学児がいる人のほうが「進んだ」と評価する人が多くなっている。
c 個別の評価
- 病院、老人ホーム、官公庁施設のバリアフリー化は「進んだ」と評価する人が多くなっている。病院では、男女とも全年代で「まあまあ進んだ」と回答する人が多い。老人ホームも全年代で「進んだ」と回答する人が多いが、若い年代を中心に「わからない」という回答も多い。商業施設と飲食店等では男女とも全年代で「進んでいない」と評価する人が多くなっている。
公共交通機関
a バリアフリー化の目標と状況
- 旅客施設については、「交通バリアフリー法」に基づき、平成22年末までに主要な旅客施設のすべてのバリアフリー化をめざしており、平成15年度までに主要バスターミナルの72.1%、主要旅客船ターミナルの75.0%でのバリアフリー化が実施されている。車両等については、平成22年末までに鉄道車両は30%の移動円滑化をめざしており、平成15年度末には23.7%が整備されている。旅客船については平成22年末までに50%、航空機では40%をめざしているが、平成15年度末の実施状況ではそれぞれ4.4%、32.1%となっている。
b 分野全体の評価
- 公共交通機関の分野では、男性の20代でバリアフリー化が「進んだ」と評価する人が多いが、女性の60代以上の回答では「わからない」が多くなっている。また、都市規模別にみると、都市規模が大きいほうが「進んだ」と評価する人が多い。
c 個別の評価
- バスを除き、鉄道や航空機ではターミナルのバリアフリー化が進んだという回答が多くなっている。
まちづくり
a バリアフリー化の目標と状況
- より円滑で安全な移動の確保に向けて、歩行空間のバリアフリー化や都市公園、水辺・海辺空間のバリアフリー化が進められている。平成22年末までに主要な旅客施設の周辺等の主な道路や信号機のバリアフリー化を実施するとともに、平成19年度までに全国約1,000箇所のあんしん歩行エリア内における死傷事故、歩行者・自転車事故を抑止することを目標としている。
- 都市公園については、園路、トイレ等都市公園における施設のバリアフリー化を進める。河川、海岸等の水辺・海辺空間では、治水対策として堤防等を整備する際、特に近隣に病院や福祉施設等が立地する地区を中心に、水辺にアプローチしやすいスロープ、手すり等を整備し、海岸についても、海辺へアクセスしやすいバリアフリー化に配慮した海岸保全施設の整備を行っている。
b 分野全体の評価
- まちづくりは4つの分野のなかでもっとも評価が低い分野である。年代が上がるに伴い「わからない」の割合が高くなるほか、どの属性も同様の傾向を示している。
c 個別の評価
- 全ての年代でバリアフリー化が「進んだ」という評価が比較的高いのが「公衆トイレ」であり、「進んでいない」が多いのが「商店街」である。女性は「都市公園」で「わからない」と回答した人が多い。
情報・各種製品
a バリアフリー化の目標と状況
- IT化が急速に進展するなかにあって、情報通信機器・システムでは、高齢者や障害者に配慮した情報通信機器・サービスの開発・普及、字幕放送・解説放送等の普及、地域におけるIT利活用の支援、高齢者・障害者に配慮した情報アクセシビリティ指針の標準化などが進められている。字幕放送の普及については、2007年までに新たに放送される字幕付与可能な全ての放送番組に字幕を付与することが目標とされ、平成15年度ではNHKでは92.4%、民放では38.7%の番組に字幕が付与されている。
- 福祉用具、生活用品等については、ユニバーサルデザインの観点から、福祉用具の開発普及支援やユニバーサルデザイン化された各種生活用品等の周知・普及を図っている。
b 分野全体の評価
- 情報、各種製品では男女とも30代と40代でバリアフリー化が「進んだ」と評価する人が多い。しかし男性の70歳以上、女性の50代以上では「わからない」の割合が高くなる。また、障害、要介護者があり、未就学児のいる人は「進んだ」と評価する人が多い。
- 都市規模別では過疎地域で「進んだ」という評価が比較的多くなっている。
c 個別の評価
- 「TVの字幕放送」では半数以上がバリアフリー化が「進んだ」と回答しているが、「インターネット」、「新聞書籍雑誌」、「PC等情報機器」、「家電製品の操作性」では3割程度となり、「情報通信機器の取扱説明書」、「家電の取扱説明書」では1割程度と低くなる。
加重平均値
- 「十分進んだ」に2点、「まあまあ進んだ」に1点、「あまり進んでいない」に-1点、「進んでいない」に-2点、「わからない」に0点を与え、すべての回答を加算し、無回答を除いた回答者数で除したもの。
- この値がプラスだとバリアフリー化が進んだ、マイナスだと進んでいない、ということになる。
c 項目別での評価
- 個別の項目の回答に加重平均を与えた結果を一覧にしたものが下の表である。
- 「進んだ」という評価(0~1の欄)が多かったのは、「建築物」では「老人ホーム等」、「病院等」等の公共的建築物、「公共交通機関」では「航空旅客ターミナル」、「航空機」等の航空施設、「情報・各種製品」では「TVの字幕放送」、「インターネット」等である。
- 「進んでいない」という評価(0~-1、-2~-1の欄)が多かったのは、「建築物」では「飲食店等」、「ビル・事務所等」、「遊戯施設」、「映画館・劇場」などの民間施設である。「公共交通機関」では「バス」や「バスターミナル」、「鉄軌道車両」など比較的身近な交通機関が挙げられている。「まちづくり」ではすべて「進んでいない」の欄となっているが、その中でも「公衆トイレ」のポイントが比較的高く、「商店街」が最も低い。「情報・各種製品」では「情報通信機器の取扱説明書」、「家電の取扱説明書」といった“説明書"の評価が低くなっている。
- 全体を通して評価のポイントが高いのは「老人ホーム等」、「病院等」であり、評価のポイントが低いのは「飲食店等」、「商店街」である。
図表4-1-2-a バリアフリー化推進に対する評価(全体)
d 障害、要介護者の有無でみた評価
- 各分野別の評価について、さらに、未就学児、障害、要介護者の有無の分析軸で比較した結果をみる。下表はこのうち、全体との比較や分析軸での比較でみられた傾向を整理している。
- 建築物については、「老人ホーム等」、「病院等」、「官公庁施設」などでは障害がある人の方が評価が低いが、「遊戯施設」、「ビル事務所等」、「飲食店等」については障害がない人の方が評価が低い。
- 公共交通機関については、「航空旅客ターミナル」、「航空機」では未就学児がいる人の方が評価が高く、「鉄軌道駅」、「鉄軌道車両」では未就学児がいる人の方が評価が低い。
図表4-1-2-b バリアフリー化推進に対する評価(全体)
- まちづくりについては、「公衆トイレ」、「都市公園」は要介護者がいる人の方が、評価が低くなっている。
- 情報、各種製品については、「インターネット」、「PC等情報機器」では障害がない人の評価が高く、その他の項目では障害がある人の方が評価が高くなっている。
図表4-1-2-c バリアフリー化推進に対する評価(全体)
(4)重点的な取組みに対する希望
- 建築物では、バリアフリー化が「進んだ」と評価する人が多かった「病院、診療所等医療施設」のほか、「進んでいない」と評価する人が多かった「スーパーマーケット等商業施設」や「飲食店等」のバリアフリー化を求める人が多い。
- 公共交通機関全体では「進んだ」と「進んでいない」が半々程度であったが、半数近く「進んだ」と評価する人がいた「鉄軌道駅」では今後のとも重点的に取り組むべきという意見が70%以上にのぼっている。他方、「進んでいない」と評価する人が多かった「バス」、「鉄軌道車両」、「バスターミナル」等においても、重点的に取り組むべきという意見が50%程度かそれ以上となっている。
- まちづくりでは、圧倒的に「歩道等歩行空間」のバリアフリー化を求める人が多い。
- 情報・各種製品では、「新聞・書籍・雑誌」と「字幕放送・解説放送」のバリアフリー化がさらに求められている。
- いずれも一部を除き、現状で「進んでいない」と感じている分野へのバリアフリー化に対する強い要望があらわれている。 (問10~問13)
(5)心のバリアフリー
a 外出時の手助け
- 車いすの方や視覚障害の人に「手助けしている」(「つねに手助けをしている」と「できるだけ手助けをしている」の合計)という人は、「手助けをしていない」(「手助けをしたいと思っているが、行動には移していない」、「手助けをしたいとは思わない」の合計)をやや上回っている。行動に移せず手助けをしない人が約4割にのぼっている。
- 手助けをしない理由は、「かえって相手の迷惑になる」、「対応方法がわからない」が上位を占めている。
- 障害の有無別にみると、障害がない人のほうが手助けをしているが、障害がある人でも50%を超えている。
- 都市規模別にみると、大都市で「手助けをしている」割合がやや高くなっている。 (問14、問15)
b 心のバリアフリーの実践
- 自分の周囲での心のバリアフリーの実践については、「実践している」(「そう思う」と「まあまあそう思う」の合計)が、「実践していない」(「あまりそう思わない」と「そう思わない」の合計)をやや上回っている。 (問16)
- 心のバリアフリーの実現に向けて最も必要なことは、どの項目も3割を超えているが、なかでも「学校教育などでバリアフリーを学ぶ機会を増やすこと」、「さまざまな人が交流する機会がもっと増えること」が最も多い。 (問17)
(6)バリアフリー化推進に向けて国や地方公共団体に求めること
- 4割以上が「民間の自主的な取組への財政的な支援」、「関係者への指導」、「民間の自主的な取組みへのソフト的支援」、「法令、条例による義務づけ」と回答している。(問18)
図表4-1-3 国民意識調査にみるバリアフリー化の状況(全体)
(1)バリアフリー・ユニバーサルデザインの認知度
a バリアフリーの認知度(問1)
b ユニバーサルデザインの認知度(問2)
c バリアフリー化が進まないことの不便さ(問3)
(2)5年間でのバリアフリー化評価
a 5年前と比較してのバリアフリー化の進展(問4)
b 分野別にみたバリアフリー化の進展(問5)
c バリアフリー化の分野別の詳細評価(問6・問7・問8・問9)
建築物
公共交通機関
まちづくり
情報・各種製品
(3)重点的な取組み
a 重点的な取組み(建築物)(問10)
b 重点的な取組み(公共交通機関)(問11)
c 重点的な取組み(まちづくり)(問12)
d 重点的な取組み(情報・各種製品)(問13)
(4)心のバリアフリー
a 外出先での手助け(問14)
b 手助けしない理由(問15)
c 心のバリアフリーの実践(問16)
d 心のバリアフリーを実践するために必要なこと(問17)
(5)バリアフリー化を推進するために期待すること(問18)
2 高齢者、保育所・幼稚園利用者調査にみるバリアフリー化の評価
- 次に、国民意識調査の結果をふまえ、高齢者や乳幼児を抱える人々が建築物や公共交通機関等を利用する際、どのような点に困っているかの調査を行い、ソフト面でのバリアフリーの問題点などを探った。
(1)バリアフリー化の評価
- この調査では、国民意識調査でたずねたバリアフリー化を進める4分野の中から17の項目を選び、まちのユーザーである高齢者と保育所・幼稚園利用者が、17項目のどのような点に困っているかをたずねた。
a 分野別ので評価
- 「まちづくり」の分野は、国民意識調査においては4分野で最もバリアフリー推進の評価が低い分野であるが、高齢者、保育所・幼稚園利用者調査での評価も低くなっている。特に、高齢者、保育所・幼稚園利用者ともに、道を歩いているときの障害物や段差、工事中の道路で最も強く困りごとを感じる人が多い。
- 「情報利用や各種製品」の分野においては、国民意識調査では「TVの字幕放送」や「インターネット」などがバリアフリー化推進の評価としては比較的高く、障害のある人も「TVの字幕放送」の評価が高かった。しかしながら高齢者意識調査では、テレビ視聴、インターネット、電話・携帯電話、身の回りの品すべてで困りごとを感じる人が多く、全般的に利用する上での問題点が顕在化している。
- 「建築物」の分野においては、国民意識調査では「官公庁」や「病院」等公共建築物でのバリアフリー評価が高く、民間建築物での評価が低くなっている。高齢者や保育所・幼稚園利用者の調査では、建築物を利用する際の「問合せや連絡先や場所を調べたりするとき」、「相手とのコミュニケーション」などの人的な対応や情報不足による問題で困った人が多くなっている。
- なお、国民意識調査においては、「商業施設」でのバリアフリー化評価は低く、高齢者、保育所・幼稚園利用者調査でも、「スーパー」に対して「トイレ内にベビーベット等がなくオムツ替えに困った」、「ベビーカーと買い物袋を持っての階段の上り下りは大変」という意見が挙げられている。しかし、「デパート」については「オムツ替え台や授乳室が整備されている」「トイレの個室が広く、子どもを座らせる椅子が付いていてよい」「駅やスーパー、レストランはデパートを手本にして欲しい」と評価されている。
- 「公共交通機関」の分野においては、国民意識調査では、「鉄軌道車両」「バス」「バスターミナル」などでのバリアフリー評価が低かったが、高齢者、保育所・幼稚園利用者調査では、駅・鉄道利用の際での困りごとが比較的多く、特に「切符を買うとき(高齢者)」や「ホームへ行くとき」、「トイレに行くとき」に困ったという人が多い。
b 項目別の評価
- 困っていることの第1位が10%以上の項目について、高齢者、保育所・幼稚園利用者別にまとめたものが図表4-2-1である。
- 高齢者、保育所・幼稚園利用者ともに、歩いている時の「歩道の障害物」、「歩道の段差」、「歩道や道路が工事中のとき」に困ったという人が多い。また、スーパー、コンビニ、デパートで「商品を探すとき」に困ったと言う人も多い。
- 高齢者では、駅・鉄道を利用していて「切符を買うとき」に困った、電話、携帯電話(メール)を利用していて「端末の操作が難しい」ことに困った、身の回りの日用品を使用して「破棄するときに困った」という人が多い。
- 保育所・幼稚園利用者では、役所などでの「対応、コミュニケーション」で困った、スーパー、コンビニ、デパートで「トイレを利用するとき」や「商品を探すとき」に困った、インターネットを利用して「機器や通信にかかる費用が高い」ため困った、身の回りの日用品を利用して「破棄するときに困った」という人が多い。
図表4-2-1 困っていること(全体)
(2)ユーザーごとのバリアフリー化の評価
- 高齢者、保育所・幼稚園利用者調査の結果について、対象別、圏域別、都市規模別に見た結果を整理する。
- 高齢者と保育所・幼稚園利用者とでは、図表4-2-1に挙げたように困りごとが異なる項目も多い。高齢者のより多くが困ったこととして指摘しているのが「テレビを見ていて」、「新聞、雑誌を読んでいて」、「バス・バス乗り場を利用して」等であり、保育所・幼稚園利用者が困ったこととして指摘しているのが「インターネットを利用して」、「日用品を利用して」、「病院等を利用して」などである。
- 国民意識調査では、「公衆トイレ」のバリアフリー化は「まちづくり」分野で最も進んだという評価となっている。しかし、高齢者、保育所・幼稚園利用者調査で、さまざまな施設を利用する際の困ったことをたずねたところ、保育所・幼稚園利用者では「トイレの利用」を挙げた人が多く、スーパー・コンビニ・デパート、映画館・劇場、レストラン、食堂、駅・鉄道で困ったことがある人が15ポイント以上にのぼっている。ハード面での整備はある程度進んだが、「トイレの利用」は子ども連れの人にとって、まだバリアを感じることが多いことがわかる。
- 関東、関西などの圏域別にみると、高齢者では関西の方が困ったことを指摘する傾向が強いが、保育所・幼稚園利用者では必ずしもそのような傾向はみられない。また、道を歩いていての困りごととしては、高齢者、保育所・幼稚園利用者とも、関東では「歩道の段差」、「歩道の障害物」、「歩道の道路が工事中」の順であるのに対し、関西では「歩道の障害物」が1位となっている。これは、関西では歩道の障害物として想定されている放置自転車や放置自動車で困っている人が多いことが推察される。
- 都市規模別にみると、高齢者と保育所・幼稚園利用者では、困ったことの指摘の順位はほぼ同じ傾向にあるが、困った人の割合が異なっている。つまり、高齢者では大都市のほうが「困ったことはとくにない」人が多いのに対し、保育所・幼稚園利用者では、大都市のほうが「困ったことはとくにない」人が少ない。また、保育所・幼稚園利用者では「役所、救急・消防など」、「病院、診療所」、「スーパー・コンビニ・デパート」、「レストラン・食堂等を利用して」、「歩道を歩いていて」などで大都市のほうが「困ったことがとくにない」との回答が少なく(困った人が多く)、大都市の環境が、子育て世代に厳しい状況であることがうかがえる。
(3)日常性とバリアフリー化の評価
- ここで、個人が日頃最も多く利用している交通機関によって、困っていることがどのように異なるかをみてみる。
- まず、自家用車利用者では、高齢者、保育所・幼稚園とも、駅・鉄道、バス利用時の困ったことの割合が低く、徒歩・自転車利用者ではいずれも割合が高くなっている。ふだんから自家用車等の交通機関を利用せず、自転車や徒歩に頼っている人ほど、公共交通機関の使いづらさを感じている。
- また、保育所・幼稚園利用者では、電車利用者ほど「ホームへ行くとき」「トイレを利用するとき」「列車を乗り降りするとき」「ほかの乗客との関係」などで困ったと回答する人が多く、日常的な使いにくさを指摘する人が多い。また保育所・幼稚園利用者では、電車利用者ほど「バス停を探すとき・バス停に行くとき」を指摘する人が多くなっている。これは、電車からバスに乗り継ぐときのわかりにくさ、情報・案内不足などを指摘しているものと思われる。
図表4-2-2 駅・鉄道を利用して困っていること(全体、利用交通機関別)
図表4-2-3 バスを利用していて困っていること(全体、利用交通機関別)
(4)障害の有無とバリアフリー化の評価
- 高齢者について、障害の有無別に困ったことをみると、スーパーやコンビニ等での「トイレを利用するとき」、歩道を歩いていて「歩道の障害物」、「歩道の段差」などハード面で困ったという人が多い他、電話や携帯電話を利用していて「相手の声が聞きづらい」「使い方を教えてくれる人が身近にいない」、身の回りの日用品を利用していて「破棄するときに困った」、「取扱説明書が読めない・わかりにくい」などのソフトの面で困ったと言う人も多い。
- 先に述べたように高齢者は、比較的、「探すとき」「調べたり問い合わせるとき」「買うとき」といった、目的にアクセスをするときに困ったという人が多く、障害のある人はよりその傾向が強いと考えられる。今回の調査では障害の内容をたずねていないが、それぞれの障害を緩和するためのより一層の支援策が求められるといえる。
図表4-2-4 高齢者が困っていること(全体、障害の有無別)
3 バリアフリー化推進に向けた課題と方向
以上の2つの調査をふまえ、今後のバリアフリー化推進に向けた課題と方向について整理すると、次のようなことが考えられる。
(1)バリアフリーとユニバーサルデザインに関する国民意識
利用者の視点に立ったバリアフリー化が課題
- 国民の「バリアフリー」ということばへの認知度は高く、バリアフリー化が「まあまあ進んだ」と感じている人は4割程度、「進んだ」も含めてどちらかといえば進んだと感じている人は半数近くにのぼる。1994年のハートビル法の制定以降、国のバリアフリー化推進の取組みは国民の半数近くが「進んだ」と感じる評価につながっている。
- しかしながら、「バリアを感じる」人は6割を超え、さらに障害のある人や乳幼児を抱える人ほどバリアを感じる人が多くなっている。この点について、高齢者や保育所・幼稚園利用者にたずねた結果をみても、バリアフリー化が進んだ、という施設でも、利用するときにさまざまな点で困った人が多く、まだ使いやすい施設になってない状況がわかる。
ユニバーサルデザインの理念の一層の普及が必要
- 「ユニバーサルデザイン」については、言葉も意味も知らない人が回答者の3割にのぼっている。また認知度は年代によって大きく異なっている。これは、バリアフリーに比べ、ユニバーサルデザインという言葉が市民生活で使われるようになったのは、ごく最近であることによると思われる。今後わが国は世界に例を見ない水準の高齢社会が到来すると見込まれていることから、すべての人が暮らしやすい社会をつくる、ユニバーサルデザインの理念の一層の普及が期待される。
(2)今後のバリアフリー化推進に向けて
a 物理的なバリアフリー化に向けて
民間施設におけるバリアフリー化の推進
- 建築物のバリアフリー化は「進んだ」と評価する人が比較的多く、なかでも老人ホームや病院、官公庁施設ではポイントが高くなっている。しかし、飲食店等、宿泊施設、商業施設、事業所などの民間施設ではポイントが低くなっていることから、今後は民間企業の業務におけるバリアフリー化が課題である。
- 平成18年1月に起きたビジネスホテルチェーンによるハートビル法等への違反問題も、バリアフリー化に対する理解の欠如がもたらしたものである。今後はあらゆる企業行動でのバリアフリー化に対する理解を深め、取組みを進めるため、ハード面の整備のみならず、教育活動や広報活動を通じ、心のバリアフリー化の推進も必要である。
公共施設をより使いやすくするための配慮が必要
- また、公共施設においても、スロープやエレベータは整備され法令はクリアしてきたものの、必ずしも利用しやすい施設になっていないという問題がある。この点は、アンケートの自由回答からも指摘が多い点であった。利用時に困ったことも多く、案内・アナウンス・誘導や待ち時間表示、点字や音声等による利用者にわかりやすい配慮や、利用者に対するコミュニケーションや対応に十分に配慮し、利用しやすい施設としていく必要がある。
ネットワークの視点に立ったバリアフリー化が必要
- 公共交通機関では航空旅客ターミナルや航空機でのバリアフリー化は進んだと感じる人が多いが、バスやバスターミナルなど日常的な施設での評価が低い。乳幼児のいる人や、日常的に電車を利用する人がバスに乗るときに困る人が多く、ネットワークの視点が十分でないことがうかがえる。自由回答でも、乗り継ぎの際のアナウンス・誘導、エスカレータやエレベータの位置関係など、移動に関連した意見が多数寄せられている。
- 今後は、さまざまな公共交通機関が円滑に利用できるようなきめ細かな対策が課題である。特に、バリアフリー化に対して評価が低かったバスやバスターミナルについては、低床バスの導入や段差の解消などが必要である。さらに、現行施設のバリアフリー化と合わせ、移動の困難な人に対する移送支援等の代替方策を推進する必要がある。
まちづくりや生活利便施設でのバリアフリー化が急務
- まちづくりは、バリアフリー化が「進んでいない」と感じる人が最も多い分野である。その中でも多くの人が進んでいないと感じているのが「商店街」である。高齢者や障害のある人をはじめ、すべての人が身近な地域で買い物を楽しむことができるよう、小規模な生活利便施設を利用しやすいように整備する制度が必要である。また、それぞれの商店街で、陳列、表示等買い物しやすさへの工夫や、車椅子やベビーカー貸出、移動支援サービスの実施等の工夫をしていくことも重要である。それによって、にぎわいある商店街となり、活気のあるまちづくりにつながることが期待される。
- また、道路の障害物や段差などで困ったことがある人が最も多いことからは、これまで進めてきた「あんしん歩行エリア」等の歩行空間の整備とあわせ、交通量増大、放置自転車、放置自動車問題等に対応した交通安全対策を同時に講じる必要がある。
b 情報・製品のバリアフリーに向けて
情報化の急速な進展に配慮したバリアフリー化が必要
- 情報については、「TVの字幕放送」でバリアフリー化が「進んだ」ものの、「新聞書籍雑誌」では「進んでいない」と感じる人が多くなっている。また、「インターネット」や「PC等情報機器」では「わからない」という人が多い。
- 「新聞、雑誌」について、高齢者、保育所・幼稚園利用者調査で困ったことをみてみると、保育所・幼稚園利用者では「困ったことはとくにない」人が多いが、高齢者では「字が見にくい、デザインが見づらい」「内容が難しい、分かりにくい」と感じる人が多い。国民意識調査で「わからない」が多かった「インターネット」では、高齢者調査の回答者の68.5%が「利用しなかった」としている。保育所・幼稚園利用者では「機器や通信にかかる費用が高い」「使い方を教えてくれる人が身近にいない」ので困った人が多い。
各種製品には、よりきめ細かなバリアフリー化が必要
- 各種製品では、どの項目でも「進んでいない」と感じる人が多く、特に「取扱説明書」ではその割合が高くなっている。
- 「身の回りの日用品」については、高齢者も保育所・幼稚園利用者も「破棄するときに困った」人が最も多く、次いで、高齢者では「取扱説明書が読めなかった、わかりにくかった」、保育所・幼稚園利用者では「購入するとき、商品情報が十分に得られなかった」、「収納・保管するとき困った」という人が多い。
- 自由回答では、「使用頻度の高い、生活に密接に関連した製品からバリアフリーを行うべきだ。食事に使用するスプーンや開けやすくした瓶など毎日使うものが最優先である」「食品の包装が開けづらい。説明書の字も読めないほど小さい」などスプーンや説明書等日常使用する製品等の問題が挙げられている。
ユニバーサルデザインの視点にたった情報・製品づくりの必要性
- 近年の情報化の進展は急速であり、多様な情報機器が登場していること、機器のバージョンアップのスピードも速いため、情報提供やサポート体制が不十分だと感じる人が多い。家電製品や日用雑貨・家具についても、メンテナンスや破棄・処分に関する情報提供はまだ十分ではない。今後は多様な年代の人が、障害の有無に関係なく、安心して長く使うことができるように、ユニバーサルデザインの視点に立った情報や各種製品の提供、情報サポート体制の充実が急務となっている。
c.心のバリアフリーの充実の向けて
身近な地域における心のバリアフリー化の推進
- 困ったことを見かけたら「手助けをする人」は全体の半数、「手助けをしたいが行動に移していない」人は4割である。その理由としては「迷惑だと思う」「対応方法がわからない」が半数にものぼっている。
- この結果からは、現状では心のバリアフリーに関する情報が十分に提供されていないことや、ボランティア活動への参加がしにくいこと、健常者と障害者とがふれあう機会が少ないことがわかる。このことからも、今後身近な地域の中で、住民が主体となった心のバリアフリーに関する活動が一層展開されることが必要である。
- これまで内閣府ではバリアフリー化推進功労者の表彰を行ってきているが、今後はさらに、国民が心のバリアフリーに関する理解を深め、気軽に実践ができるように促したり、バリアフリーを推進する団体が安定して継続的に活動ができるような事例等に関する情報を提供することが必要と考えられる。
(3)バリアフリー化の仕組みづくりに向けて
地域ごとのバリアフリーのしくみづくりが必要
- 今回の調査では、バリアフリー化推進に対する国民の評価には、全国共通の傾向があり、都市の規模別等での大きな違いはみられなかった。しかし、利用者の視点に立ってみると、圏域別では歩道を歩いて困ったことに違いがみられた。また、都市規模別にみると、大都市の高齢者では困ったことが比較的少ないが、駅で切符を買うときには困ったことがある人が多いとか、小さな子どもを抱える人では大都市ほど困ったことの数が多い、などの違いがあった。このことからも、各地域の生活者の状況に沿ったバリアフリー化が必要であり、心のバリアフリー化などのソフト面も含めた地域での取り組みをより一層推進する必要がある。
- 現在すべての都道府県でバリアフリー化推進に関する条例・規則がつくられている。各都道府県は、さまざまな分野でのバリアフリー化への取り組みが進むよう、市町村に対する支援を強める必要がある。
住民、事業者等が参画できるバリアフリー化の推進
- バリアフリー化推進のために行政に期待することで最も多かったのは「民間の自主的な取組みへの財政的な支援」であり、次いで「関係者への指導」である。自由回答では、「団塊の世代の高齢化に備え自治体がバリアフリー化を進めることは必要」、「専門家の育成が必要」などの意見も挙げられている。
- バリアフリー化は、行政とともに、住民、事業者などさまざまな関係者の協力なしには進まないことから、今後は各地域でさまざまな仕組みをつくり、推進していくことが必要である。具体的な仕組みとしては、福祉のまちづくり推進の協議会、交通バリアフリー法推進に関する協議会、福祉有償運送等に関する協議会等がある。
- また、地域ごとに独自の制度・施策をつくり、それに基づき住民、事業者、行政が連携してバリアフリーを推進していくことが考えられる。具体例としては、バリアフリーの取り組みに対する認定証の創設、バリアフリーに関する専門家の育成等、地域の状況に沿ったバリアフリー推進方策の展開を進めていく必要がある。