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第2期科学技術基本計画 本文

はじめに

20世紀の最後の10年間に世界は大きく変貌した。冷戦の終結によって、局地的な紛争はなお一部に生じてはいるが、全世界的に見ると多くの人々が平和を享受することができるようになってきた。その結果、人の流れ、物の流れのみならず、情報、資本などの国境を越えた移動が活発となり、グローバリゼーションが一層進行した。それとともに、先進諸国の間での経済競争は激化し、メガコンペティションとよばれる状態が到来した。こうした経済競争の基礎としての情報通信技術、バイオテクノロジーの進歩は目覚ましく、各国は競って科学技術の振興を重要課題として取り上げ、政府による積極的な政策展開を図ってきている。

こうした国際環境の下にあって、我が国は第2次世界大戦後初めての長期的な経済不況を経験した。このため、1990年代の前半には、我が国の研究開発投資の約8割を占める企業の研究開発投資が減少した。また、大学、国立試験研究機関などの研究環境は劣悪な状況におかれ、研究開発における産学官の連携が不十分であるなど、我が国の科学技術は憂慮すべき状態となり、我が国の産業競争力の低下も懸念された。平成7年、このような状況を打破し、真の科学技術創造立国の実現を目指して、科学技術基本法が制定された。この科学技術基本法に基づき、翌平成8年、我が国の科学技術活動を巡る環境を抜本的に改善し、研究開発能力の引き上げと成果の円滑な社会還元を図るための諸施策を内容とする第1期科学技術基本計画(以下、「第1期基本計画」という。)が策定された。その後5年を経た現在、この基本計画の効果もあって、我が国の研究開発水準は、ようやく改善しつつある状態に至っている。しかし、産業競争力の回復はまだ不十分であり、特に少子高齢化が進む中、我が国の経済成長の前途に不安も持たれている。したがって、新産業の創出につながる産業技術を強化し、強い国際競争力を回復することが重要である。

新しい世紀の幕開けを迎えた今日、我が国の科学技術には新たな展開が求められている。特に急速に発展している多くの分野において、依然として欧米の研究開発は我が国に比べ高い水準にあり、我が国もそれに匹敵しさらにそれを上回る研究成果を挙げる必要がある。新しい知識を創出する基礎研究については、一層その質を高め、国際的に高い評価を受ける成果を生み出し得る環境を整備していくとともに、経済的・社会的ニーズに対応する研究開発については、産学官がそれぞれの間にある見えない壁を取り除き、真に連携できる環境を整備していく必要がある。また、創造性の高い若手研究者が自らの能力を最大限に発揮できるような環境整備に努めていくことが必要である。さらに、科学技術に対する社会の期待に応えていくためにも、常に社会とのコミュニケーションを保つ必要がある。

今般、総合科学技術会議の新設や文部科学省の設置をはじめとする府省の再編と大半の国立試験研究機関の独立行政法人化が実施されることとなった。さらに、科学技術の中で中心的な役割を果たす大学についても改革が進められている。この一環として国立大学については独立行政法人化の検討が行われており、一層の改革が期待されている。今後は、総合科学技術会議が科学技術政策推進の司令塔として、重点分野に関する推進戦略、資源配分や評価の方針等を作成する等、その機能と役割を十全に発揮し、国際社会の発展にも貢献し得る質の高い科学技術活動の展開を図っていく。

このような状況を踏まえ、以下、第1章においては、「知の世紀」といわれる21世紀に、科学技術が、新たな知を生み出し、国民の生活や経済活動を持続的に発展させ、また、国際的な貢献を果たすべきものであるという視点に立って、我が国が目指すべき国の姿と理念を示し、その実現に向けて科学技術政策の基本方針を示した。第2章においては、基本方針に沿って、研究開発の重点的・戦略的な推進、科学技術システムの改革を中心に、重要政策について述べた。第3章においては、科学技術基本計画を実行するに当たっての総合科学技術会議の使命について見解を示した。

第1章 基本理念

1.科学技術を巡る諸情勢

(1)20世紀を振り返って

 20世紀は科学技術の世紀といわれるように、科学技術の目覚しい進歩によって、世界は未曾有の変化をとげた。量子力学や分子生物学に代表される物理、化学、生命科学等の学問の急速な発展と技術の飛躍的進歩を基礎として、先進諸国の人々は、豊かで便利な生活と長寿を獲得した。他方で、科学技術の負の側面が明らかとなり、人間社会と地球環境を脅かす存在となりうることも明らかになった。
我が国に目を向けると、20世紀に近代化に成功し、経済社会が目覚ましい発展を遂げた。特に、第2次世界大戦後、著しい産業の発展によって奇跡とまでいわれた高度経済成長を遂げ、国内総生産は米国に次いで世界第2位という経済大国となった。それとともに国民生活は豊かとなり、平均寿命は大幅に伸びて、世界一の長寿を達成した。しかし、1990年代に入ると、我が国はこれまでにない長期的な経済不況の中で、いわゆる空白の10年といわれる厳しい時期を経験した。

(2)21世紀の展望

 21世紀に入って、科学技術はさらに急速に発展し、人類の生活と福祉、経済社会の発展に一層貢献し、世界の持続的な発展の牽引車になることが期待される。
 今世紀は、知を基盤とした人類社会になることが予想されるが、我が国において、このような知識社会を実現し、経済社会を更に発展させるためには、解決しなければならない多くの課題が存在する。
我が国の経済は、経済のグローバル化と激しさを増す国際的な競争の中で、産業競争力の低下、雇用創出力の停滞等の課題を抱えている。さらに、我が国が直面する少子高齢化は、労働力人口の減少と社会保障への支出の増大といった課題をもたらす。こうした中、国民生活を安定的に発展させるためには、絶えざる技術革新により高い生産性と国際競争力を持つ産業を育て、経済の活力を回復していくことが必要である。
高齢社会においては、高齢者が、単に生活を楽しむだけでなく、経験や技術等を活かした社会 への貢献を通して、生きがいを持ち、健康で活力に満ちた質の高い生活を送れるようにすることが重要である。とりわけ疾病の治療に加え、予防に力を入れ病気を未然に防ぐことで、健康を維持でき、生活の質を向上できるようにすることが必要である。
 最近の情報通信革命は、経済、産業、教育、娯楽などの社会の隅々に浸透し、社会に大きな変 化を急速にもたらしつつある。こうした大きな動きに対して、我が国としても機動的に対応し、新しい産業の創出や、更なる社会の利便性の向上を通じ、国民がその恩恵を享受できるようにしていくことが課題である。このため、情報通信革命の中核を担っている情報通信技術の研究開発を進めるとともに、情報格差(デジタル・ディバイド)の解消にも努める必要がある。
また、21世紀の世界が地球規模で直面する諸問題、すなわち、人口の爆発的な増大、水や食料、資源エネルギーの不足、地球の温暖化、新しい感染症等に対処すると同時に、発展途上国を含めた世界全体の持続的な発展を実現するという困難な課題に挑戦し、人類の明るい未来を切り拓くためには、科学技術の力が不可欠である。これらは、資源、エネルギー及び食料を海外に依存する我が国にとっては、特に重要な問題である。その解決に向けて、供給力の向上等、適切な対応を図るため、国内外の英知を結集することが求められる。

 このような21世紀の世界と我が国が直面する課題を克服していくためには、人間の知的活動の成果としての幅広い知識の創出と蓄積、それを有効に活用するための英知が求められる。その際、科学技術への過信が、地球環境、人類の福祉や幸福をかえって損なう惧れがある。大量生産・消費・廃棄等によって20世紀に地球規模の問題が発生したことは、大きな教訓といえる。
 21世紀を中長期的に見れば、生命科学の発展に伴って生ずる人間の尊厳に関わる生命倫理の問題、遺伝子組換食品の安全性や、情報格差、さらに環境問題等、科学技術が人間と社会に与える影響はますます広く深くなることが予想される。こうした状況に先見性をもって対応するために、科学技術が社会に与える影響を解析、評価し、対応していく新しい科学技術の領域を拓いていく必要がある。このためには、自然科学のみならず人文・社会科学を総合した人類の英知が求められることを認識すべきである。

2.我が国が目指すべき国の姿と科学技術政策の理念

 我が国が直面している諸課題を克服し今後の展望を拓いていくために、科学技術は重要な鍵を握っている。我が国は、科学技術創造立国の実現を基本とし、総合戦略及びこれに基づき策定される科学技術基本計画、これらに基づく具体的な施策を積極的に展開することにより、科学技術を振興し、直面する課題を適切に克服していく必要がある。先に述べた20世紀の総括と21世紀の展望を踏まえ、我が国の科学技術政策の基本的な方向として目指すべき国の姿を、次に述べるように、「知の創造と活用により世界に貢献できる国」、「国際競争力があり持続的発展ができる国」、「安心・安全で質の高い生活のできる国」の3つとする。

(1) 知の創造と活用により世界に貢献できる国の実現に向けて
-新しい知の創造-

 「知の創造と活用により世界に貢献できる国」とは、科学を通じて、未知の現象の解明、新しい法則や原理の発見等、新しい知識を生み出し、その知識を活用して諸課題に対応する国である。さらに、そうした知識や知恵を世界に向けて発信し、人類共通の問題解決に資することによって、世界から信頼される国である。
 こうした国を実現していくためには、我が国に科学を根付かせ、育て上げる取組みが必要である。そのため、科学的なものの見方・考え方、科学する心を大切にする社会的な風土を育むとともに、知の源泉である人材を育成し、知を国の基盤とする社会を構築していくことが必要である。
具体的には、例えば、投資に見合う多数の質の高い論文が発表され、国際的に評価の高い論文の比率が増えること、ノーベル賞に代表される国際的科学賞の受賞者を欧州主要国並に輩出すること(50年間にノーベル賞受賞者30人程度)、優れた外国人研究者が数多く集まる研究拠点が相当数できることなど、世界水準の質の高い研究成果を創出し、世界に広く発信することを目指す。

(2) 国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて
-知による活力の創出-

 「国際競争力があり持続的発展ができる国」とは、現下の経済社会が有する諸課題を克服し、付加価値の高い財・サービスを創出し、雇用機会を十分に確保することで、国際的な競争環境の中で我が国の経済が活力を維持し、持続的に発展を遂げ、国民の生活水準を向上させられる国である。
産業技術力は、我が国産業の国際競争力の源泉であり、国民生活を支えるあらゆる産業活動を活性化していく原動力でもある。また、産業技術は科学技術の成果を社会において活用する観点からも重要である。我が国経済の活力を維持し持続的な発展を可能とするため、技術の創造から市場展開までの各プロセスで絶え間なく技術革新が起きる環境を創成し、産業技術力の強化を図ることで、国際的な競争優位性を有する産業が育成されることが必要である。特に、研究開発に基盤を置いた新産業の創出が必要であり、このため、科学技術と産業とのインターフェースの改革が急務である。
具体的には、例えば、TLO等の技術移転機関が質的量的に充実し、公的研究機関からの特許の移転が進み、公的研究機関発の数多くのベンチャー企業が起こるなど、公的研究機関の研究成果が数多く産業へ移転される、国際標準が数多く提案される、国際的な特許の登録件数が増加する、産業の生産性が向上するなど強い国際競争力を持つことを目指す。

(3)安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて
-知による豊かな社会の創生-

 「安心・安全で質の高い生活のできる国」とは、本格的に到来する高齢社会において国民が健康に生活できるよう疾病の治療・予防能力を飛躍的に向上させること、自然及び人為的な災害やそれによる被害を最小限にとどめること、人間活動の基盤をなす食料やエネルギーの安定供給を図ること、地球環境と調和した産業活動や経済的発展を実現すること、さらに、世界の中で安定した国際関係を維持するとともに、人々が安心して心豊かに、質の高い生活を営むことのできる国である。
 こうした課題を根本的に解決するためには、科学技術の発展とその社会への適切な活用が重要である。すなわち、疾病や災害の発生や影響拡大の仕組みなどを解明し対策を立てていくことが必要であり、科学技術はこのための手段を提供する。同時に、科学技術には負の側面もあり、それへの対応も適切に行うことを忘れてはならない。また、科学技術の先進国として我が国が、発展途上国など国際社会が直面する多くの難問を解決するとともに、国際的地位と国の安全を維持するため、科学技術を活用する努力を行うことも当然である。
 具体的には、例えば、様々な疾患遺伝子の解明とそれに基づくオーダーメイド医療を可能とする科学的・技術的基盤が形成されること、地震、台風等の自然災害の被害が最小限に抑えられること、バイオテクノロジー等の活用により良質な食料の安定的な供給が確保されること、科学技術の持つリスクが軽減されることなどを可能とすることを目指す。これらによって、発展途上国における感染症、災害対策にも貢献することが期待される。

 以上の3つの国の姿の実現に当たっては、次の点に留意することが必要と考える。

 我が国が20世紀に営々として築き上げた世界第一級の科学技術の蓄積を基盤に、これを21世紀に持続し、力強く発展させていくことが必須である。これによって、我が国の直面する課題を解決するとともに、人類社会全体の発展に我が国が科学技術を基礎とした解決策を示し積極的に貢献していくことを、同時に達成する展望をもつことができる。

 我が国は、西洋諸国以外では最も早くから近代化の道を歩み始めた国であり、科学技術文明と固有の文化との共存のあり方について苦悩してきた長い経験を有する。この経験を踏まえて、世界の人々が、それぞれの文化、価値観を維持しつつ、科学技術の恩恵を広く享受することのできる環境づくりに貢献することが重要である。

3.科学技術政策の総合性と戦略性

 以上のような考え方に基づいて、目指すべき国の姿の実現を図るに当たり、我が国の科学技術政策には、広い視野と戦略的な取組みが必須であり、次のような視点から政策運営を行うこととする。

人間生活を支え、産業競争力の基盤となる新しい科学技術を一層発展させる必要がある。同時に、科学技術を総合的、俯瞰的に展望し、21世紀の人間社会のあり方を見据えつつ、人間社会や自然環境との調和を図っていくことが必要である。21世紀の初頭に当たり、新たに発足した総合科学技術会議において、自然科学と人文・社会科学を総合した科学技術を対象として、議論が行われることは大きな意義をもつ。

科学技術は尽きることのない知的資源であり、その振興は、未来への先行投資といえる。まず、基礎研究への継続的な投資は、知を基盤とする国の実現の基本であり、適切な評価を通して、一層推進していく必要がある。同時に、質の高い基礎研究や重点分野の研究の成果が社会や産業活動に速やかに還元され、それが次の投資につながりさらに大きな成果を育んでいくというダイナミックな循環システムを戦略的に構築する必要がある。

高度な科学技術に支えられ複雑化した現代社会では、科学技術の不適切な利用や管理により、人間の生命・身体の安全を脅かすなどの科学技術の負の側面が現れる状況が増している。こうした科学技術の両面性を踏まえて、「社会のための、社会の中の科学技術」という観点に立つことが必要である。そうした認識の下に、科学技術と社会とのコミュニケーションを確立するとともに、科学技術に携わる者は、社会と人類に対する責任を自覚し、高い倫理観をもたなければならない。

21世紀に期待される社会、産業活動、人類と自然との共生にとって必要となる知の革新のために、総合科学技術会議は、総合的、戦略的な政策を作成し、政策推進の司令塔とならねばならない。そのための戦略として、重要分野への計画的投資、研究開発のための基盤整備、厳正な評価とそれに基づく資源の効果的・効率的配分の考え方を示すとともに、その実行に当たり使命を果たす。また、科学技術の負の側面への配慮と対応を重視する。

4.科学技術と社会の新しい関係の構築

我が国が目指すべき国の姿の実現に向けて科学技術の振興を図っていくに当たり、特に、社会との関係を考えて政策を展開していく必要がある。科学技術は社会に受容されてこそ意義を持つものであり、社会が科学技術をどのように捉え、判断し、受容していくかが重要な鍵となる。自然科学や技術の関係者はもとより、人文・社会科学の関係者にも、この点に関する十分な認識と努力が求められる。

(1)科学技術と社会のコミュニケーション

「社会のための、社会の中の科学技術」という観点の下、科学技術と社会との間の双方向のコミュニケーションのための条件を整えることが不可欠である。
 まず、科学技術の現状と将来に対する正しい情報が提供されなければならない。その前提として、科学技術に関する学校教育・社会教育の充実により、社会の側における情報の受容と理解の下地が十分作られることが必要である。その上で、科学技術の側から、高度化・複雑化する科学技術に関する情報が、日常的に、しかも分かりやすい形で提供されなければならない。
 情報の提供については、科学技術の専門家が責任を負うことはいうまでもないが、専門的情報は、一般人の理解を越える場合も多いので、その解説者の存在が重要になる。研究者や技術者自らが、あるいは専門の解説者やジャーナリストが、最先端の科学技術の意義や内容を分かりやすい形で社会に伝え、知識や考え方の普及を行うことを責務とすべきである。また、社会から科学技術の側に意見や要望が適確に伝えられる機会や媒介機能を拡大するとともに、科学技術関係者 がそれらをくみ取り真摯に対応することが必要である。
 人文・社会科学の専門家は、科学技術に関心をもち、科学技術と社会の関係について研究を行い発言するとともに、社会の側にある意見や要望を科学技術の側に的確に伝えるという双方向のコミュニケーションにおいて重要な役割を担わねばならない。我が国の人文・社会科学は、これまで科学技術と社会の関係の課題に取り組む点で十分とはいえなかった。今後は、「社会のための科学技術、社会の中の科学技術」という観点に立った人文・社会科学的研究を推進し、その成果を踏まえた媒介的活動が活発に行われるべきである。
 こうして、社会においても、科学技術のみならず社会を巡る様々な課題について、科学的・合理的・主体的な判断を行い得る基盤の形成を促す。

(2)産業を通じた科学技術の成果の社会への還元

科学技術と社会との関係を考える際、もう一つ重要な点は、科学技術の成果を利用可能な形で社会へ還元することである。研究開発の成果の多くは、産業技術として活用されることにより現実に利用可能な財・サービスを生み出し、国民生活・経済社会に還元される。論文発表等による知の創造と蓄積・発信に加え、知を産業技術にまで結びつけ、その活用により社会に直接の利便をもたらすことができ、社会は科学技術の恩恵を享受することができる。こうした視点を重視して、優れた成果を生み出す研究開発の仕組みの追求、一層の産学官連携の強化等を通じ、産業技術力の強化を図ることが必要である。

5.第1期科学技術基本計画の成果と課題

 第1期基本計画は平成8年度から平成12年度の5年間の計画として、平成8年7月に閣議決定された。同基本計画では、社会的・経済的ニーズに対応した研究開発の強力な推進と人類が共有し得る知的資産を生み出す基礎研究の積極的な振興を基本的方向とし、これらを実現するために、新たな研究開発システムの構築、望ましい研究開発基盤の実現、科学技術に関する学習の振興と幅広い国民的合意の形成について講ずべき施策を取りまとめた。また、政府研究開発投資については、5年間の科学技術関係経費の総額の規模が約17兆円必要とされる一方、厳しい財政 事情を勘案することが必要とされ、これらの状況を踏まえ、毎年度の予算編成にあたって、第1期基本計画の推進に必要な経費の拡充を図っていくものとされた。
第1期基本計画の期間中の施策の進捗状況及び課題は以下のとおりである。
 競争的かつ流動性のある研究開発環境の整備については、競争的資金はほぼ倍増し、若手研究 者を対象とした研究資金も大幅に増加した。ポストドクター等1万人支援計画は、数値目標が4年目において達成され、我が国の若手研究者の層を厚くし、研究現場の活性化に貢献したが、ポストドクター期間中の研究指導者との関係、期間終了後の進路等に課題が残った。また、任期付任用制度、産学官連携の促進のための国家公務員の兼業緩和等の制度改善を行ったが、現在までの人材の流動性の向上は必ずしも十分ではない。
 研究開発評価は、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月7日 内閣総理大臣決定)(以下、「研究開発評価に関する大綱的指針」という。)を策定し、研究機関や研究課題についての評価を本格的に導入した。大学については、自己点検・評価を義務化し、評価の一層の促進が図られた。しかしながら、評価結果の資源配分・処遇への反映や、評価プロセスの透明性は未だ不十分であるとされており、評価の実効性の向上が課題となっている。このため、評価の在り方や方法、結果の公表について、早急に改善が必要である。
 また、産学官連携の推進のため、例えば、国の委託研究開発に係る特許権等の保有、民間企業から国への委託研究の弾力的受入れ等を可能とするなどの制度改革や公的研究機関における体制等の整備を行うことにより、研究成果の活用・企業化に向けた環境整備を行った。公的研究機関からの特許申請数や民間企業との共同研究の数は着実に増加しており、それらを産業に結びつけるための法律に基づく技術移転機関も全国各地で活動を始めた。また、国以外の者が国立大学等と共同して研究を行うために必要となる共同研究施設を国立大学等の敷地内に整備することを促進するための法改正を行った。
 一方、施設、研究支援者数については十分な改善を行うことができなかった。特に、国立大学の施設については、大学院学生数が大幅に増加したこともあり、5年間で1兆円を超える資源を投入したものの、施設の老朽化・狭隘化問題の解消は全体として進んでいない。研究支援者の確保は、国立試験研究機関については若干の改善が見られたのみである。国立大学については、研究支援者数はむしろ減少傾向を示しているが、研究プロジェクトへの大学院学生の参画等により、研究支援体制の改善を図った。
 また、第1期基本計画においては、策定時の時間的制約もあり、国として重点的に取り組むべき科学技術の目標について必ずしも明確に示し得なかったが、第2期基本計画においては、国家的・社会的課題に対応した研究開発の目標を分かりやすく定め、それに向かって戦略的・重点的に取り組むことが必要である。
 平成8年度から12年度までの間の科学技術関係経費は、厳しい財政事情下にあっても、補正予算を含めて、必要とされた17兆円を超える額を実現した。
 実質的に4年間しか経過していない現時点で投資の効果を十分に評価することは困難であるが、第1期基本計画に基づく上記の制度改善等の進展により、研究開発の現場は活性化されつつあると認められる。この期間中に、白川英樹博士が導電性高分子に関する独創的な研究を認められてノーベル化学賞を受賞したことをはじめとして、世界最高水準の科学雑誌へ発表される我が国の論文の占有率は増加傾向にあり、また、スーパーカミオカンデでの物質の起源に迫る研究成果やガン細胞の自殺機構の解明など基礎科学や人類未踏の分野で世界最高水準の成果が上がっている。
 一方、投資の拡大に伴い、これまで以上に関係機関が適切な責任分担と連携の下で、質の高い研究開発をより効果的・効率的に進めていくことが求められてきている。
 以上を踏まえ、今後は、第1期基本計画に盛り込まれた改革を更に継続するとともに、第1期基本計画の期間中に明らかとなってきた課題に適切に対処する必要がある。

6.科学技術振興のための基本的考え方

(1)基本方針

前に述べた第1期科学技術基本計画の成果と課題を踏まえ、我が国が目指すべき国の姿を実現していくため、以下の方針の下、科学技術の振興を図る

① 研究開発投資の効果を向上させるための重点的な資源配分を行う。

具体的には、

  • 国家的・社会的課題に対応する研究開発については、明確な目標を設定し、資源を重点化して取り組む。
  • 急速に発展し得る科学技術の領域には、先見性と機動性をもって的確に対応する。
  • 新たな知に挑戦し、未来を切り拓くような質の高い基礎研究を一層重視する。

② 世界水準の優れた成果の出る仕組みの追求と、そのための基盤への投資の拡充を行う。

具体的には、

  • 研究者が自由な発想により最大限能力を発揮できる競争的な研究開発環境を整備する。特に、若手研究者が競争的な研究開発環境の中で力を発揮する機会を拡大する。
  • 人材は、科学技術活動の基礎となるものであるので、科学技術に関する教育の改革を進めることにより、優れた人材を養成・確保する。研究者の養成には、多様な研究開発環境を経験することが重要であるので、研究者の流動性を確保する。
  • よりよい競争の前提となる公正で透明性の高い評価を徹底し、その実効性の向上を図る。
  • 国立大学等の施設は特に不十分な状況にあるので重点を定めて改善する。また、計量標準、生物遺伝資源等の知的基盤をはじめとする科学技術を支える基盤の強化・充実を行う。

③ 科学技術の成果の社会への一層の還元を徹底する。

具体的には、

  • 食料、経済、産業、環境、健康、福祉、安全などに関して社会が求める課題の解決に貢献すべく、これまで以上に緊密な産学官の連携関係を構築することにより産業技術力の強化を図り、具体的に産業化・事業化に結びつけていく。
  • 科学技術の振興には国民の支持が欠かせないので、研究者や技術者が自らの責務として、科学技術の意義や内容を分かりやすい言葉で発信するとともに、科学技術に関する学習の振興を図るなどにより、科学技術に対する国民の理解を深め、国民が科学技術や社会を巡る課題に関して、科学的・合理的・主体的な判断を下していく上での基盤の形成を図る。

④ 我が国の科学技術活動の国際化を推進する。

具体的には、

  • 我が国から世界水準の優れた成果を創出し、人類が直面する様々な課題の克服に貢献すべく、主体的な国際協力活動の展開を図るとともに、国際的な情報発信力を強化する。
  • 国際的にも開かれた国内外の優秀な研究者が集まる世界水準の研究環境を構築する。

 以上の方針の下、世界の動きの速さ、グローバル化の流れ等を踏まえ、可能な限り迅速かつ機動的に改革を進める。その際、不必要な重複や府省の縦割りによる弊害を排することとする。
 なお、科学技術振興についての官民役割分担を明確化し、民間に期待し得るものについては、民間の研究開発を促進する環境を整備することで対応を図る。

(2)政府の投資の拡充と効果的・効率的な資源配分

 政府研究開発投資については、第1期基本計画期間中の対GDP比率の推移を見ると、欧米主要国は低下傾向が継続する一方、我が国は着実に増加し、現時点では、ほぼ同水準に達しつつある。しかしながら、今後とも欧米主要国の動向を意識し、かつ第1期基本計画の下での科学技術振興の努力を継続していくとの観点から、第2期基本計画期間中も対GDP比率で少なくとも欧米主要国の水準を確保することが求められている。この場合、平成13年度より17年度までの政府研究開発投資の総額の規模を約24兆円とすることが必要である。
(注) 上記は、第2期基本計画期間中に政府研究開発投資の対GDP比率が1%、上記期間中のGDPの名目成長率が3.5%を前提としているものである。

 他方、財政事情については、第1期基本計画期間中の財政赤字の対GDP比率の推移を見ると、主要先進国は黒字化するなど大幅に改善する一方、我が国はむしろ大幅に悪化し、主要先進国中最悪の水準となっている。このような巨額の財政赤字が我が国経済に好ましくない影響を与え、その発展を阻害することが懸念されており、活力ある21世紀の社会経済を築いていくためには、財政を健全化させることが不可欠の課題となっている。
 以上のような観点を踏まえ、毎年度の予算編成に当たって、今後の社会・経済動向、科学技術の振興の必要性、第1期基本計画期間中に比べて一層厳しさを増している財政事情等を勘案し、基本計画の研究システム改革による合理化効果や財源確保の動向等を踏まえつつ、資金の重点的・効率的配分を前提として基本計画に掲げる施策の推進に必要な経費の拡充を図っていくものとする。
 その際、特に、第2章において主要な課題として掲げられた国家的・社会的課題に対応した研 究開発分野、競争的環境の強化、科学技術基盤の整備に必要な資金を重点的に拡充する。また、資金の効果的・効率的な活用を図るため、各種の施策・制度、組織・機関について、不必要な重複や縦割りの排除を図るとともに、研究の効果を明確にした目標の作成、研究実態の情報公開、研究成果の国民への説明を責務として求め、研究評価・政策評価の徹底を図り、研究開発の質の向上を図る。更に、民間資金の導入、資産の売却など、一層の財源の確保に努める。

第2章 重要政策

 科学技術振興の基本方針に基づき、重要政策として、科学技術の戦略的重点化、優れた成果を生み出すための科学技術システムの改革及び我が国の科学技術活動の国際化を図る。

I. 科学技術の戦略的重点化

国際競争力の維持・強化、少子高齢化や地球環境問題への対応等、我が国が直面する国家的・社会的課題を解決し、豊かで安心・安全な社会を構築・維持できるよう、取り組むべき研究開発を重点化して推進する。また、将来急速に発展し得る科学技術の領域に対して先見性と機動性をもって的確に対応する。
同時に、研究開発は常に新たな発見から大きな飛躍が生まれるものであること、及び基礎研究と産業化との結びつきが急速に強まっていることから、基礎研究について、一定の資源を確保して進める。

1. 基礎研究の推進

 研究者の自由な発想に基づき、新しい法則・原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究は、人類の知的資産の拡充に貢献し、同時に、世界最高水準の研究成果や経済を支える革新的技術などのブレークスルーをもたらすものである。このような基礎研究を一層重視し、幅広く、着実に、かつ持続的に推進していく。
 特に、大学等においては、広範な分野で、優れた研究者・技術者等の人材養成と一体になって基礎研究を推進する必要がある。
 研究水準を高めていくために、公正で透明性の高い評価により、競争的な研究開発環境の中で研究が行われるようにする。また、これらの研究については、第一に科学的な観点から成果を評価する。
 研究者の自由な発想に基づく研究の中でも、特に大きな資源の投入を必要とするプロジェクトについては、国際的に卓越した研究の推進、革新的な知見の開拓、国際的な役割分担等の観点からも評価を行い、競争的資金も含めた基礎研究全体のバランス及び幅広い研究者の意見を踏まえつつ、資源を集中し、効果的・効率的に推進する。その際、国民に対しプロジェクトの意義や成果を積極的に説明し、理解を求めるよう努める。
 なお、研究成果の取扱いについては、論文の発表だけに留まらず、知的財産権の獲得・活用を念頭に置くよう研究者に求めることが重要である。

2. 国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化

経済や産業の活性化により持続的に経済発展を遂げていくため、また、国民が安心して安全な生活を送るためには、重点分野に積極的、戦略的に投資を行い、研究開発の推進を図らねばならない。重点化の方針としては、我が国が目指すべき国の姿の実現に向けて必要となる科学技術分野の中から、

  • 新たな発展の源泉となる知識の創出(知的資産の増大)
  • 世界市場での持続的成長、産業技術力の向上、新産業・雇用の創出(経済的効果)
  • 国民の健康や生活の質の向上、国の安全保障及び災害防止等(社会的効果)
について、特に寄与の大きいものを評価し、
  • ① 少子高齢社会における疾病の予防・治療や食料問題の解決に寄与するライフサイエンス分野
  • ② 急速に進展し、高度情報通信社会の構築と情報通信産業やハイテク産業の拡大に直結する情報通信分野
  • ③ 人の健康の維持や生活環境の保全に加え、人類の生存基盤の維持に不可欠な環境分野
  • ④ 広範な分野に大きな波及効果を及ぼす基盤であり、我が国が優勢であるナノテクノロジー・材料分野
の4分野に対して、特に重点を置き、優先的に研究開発資源を配分することとする。
 また、科学技術の発展が急速であり、かつ知識が細分化されてきている中で、新しい科学技術は異なる分野の手法や考え方の間の触発や融合の中から生まれることが多いので、研究開発の推進に当たって、境界領域や異分野の融合領域に特に留意する必要がある。
国家的・社会的課題に対応した研究開発は、官民が協力して推進すべきものであるが、以下では特に官の果たすべき役割を中心に示す。

(1) ライフサイエンス分野

21世紀は「生命の世紀」と言われるように、生命への理解が深まることによって、医学の飛躍的な発展や食料・環境問題の解決に寄与することが期待できる。この分野は、我が国で今後本格化する少子高齢社会において、健康で活力に満ちた安心できる生活を実現するために重要な分野である。
ライフサイエンス分野の研究開発水準については、我が国は、イネゲノム、特定の微生物ゲノムの解読・研究、家畜のクローン技術では欧米と競っているなど一部は高い水準にあるが、全般的に欧米に比して遅れを取っている。米国は、NIH(国立衛生院)に代表される国家的取組とベンチャービジネスの活動の両面において、世界をリードしている。欧州は、遺伝性のアルツハイマー病研究、ゲノム情報などのデータベース構築技術などで、米国に劣らない実力を持つ。
本年2月にヒトゲノムのDNA概要解析結果が公表されるなど、近時、多様な生物種の遺伝情報が急速に解明されつつあり、これをもとに今後、広範な研究が発展するものと期待される。こうしたポストゲノム科学をはじめとする先端生命科学研究が急速に進展する中、我が国の国情を踏まえ、重点的・戦略的に取り組むこととする。具体的には、

  • プロテオミクス、たんぱく質の立体構造や疾患・薬物反応性遺伝子の解明、それらを基礎とした新薬の開発とオーダーメイド医療や機能性食品の開発等の実現に向けたゲノム科学
  • 移植・再生医療の高度化のための細胞生物学
  • 研究開発成果を実用化する臨床医学・医療技術
  • 食料安全保障や豊かな食生活の確保に貢献するバイオテクノロジーや持続的な生産技術等の食料科学・技術
  • 脳機能の解明、脳の発達障害や老化の制御、神経関連疾患の克服、脳の原理を利用した情報処理・通信システム開発等の脳科学
  • 上記の技術革新を支えるとともに、膨大な遺伝子情報等を解析するための情報通信技術との融合によるバイオインフォマティクス
等の推進に重点を置く。

 ライフサイエンス分野の推進に当たって、国は、基礎的・基盤的な研究開発の実施に加え、融合領域等で必要となる研究者・技術者の養成・確保、生物遺伝資源等の知的基盤の整備と幅広い利用の促進、特許を巡る国際的な課題への対応、科学的知見に基づく安全性の確保とそのための基盤の整備、国民の理解の増進、倫理面のルール整備等を推進する。

(2) 情報通信分野

情報通信分野における研究開発の進展は、情報通信産業やハイテク産業など知識集約的な産業の創出・拡大や、ものづくり技術の新たな展開など既存産業の革新のために重要である。また、電子商取引、電子政府、在宅勤務、遠隔医療及び遠隔教育の実現・普及など、産業のみならず日常生活までの幅広い社会経済活動に大きな変革をもたらすもので、国民が安心して安全な生活を送るための重要な基盤となりつつある。
情報通信分野の研究開発水準については、我が国は、携帯電話、光通信技術、情報通信端末などで欧米より優位であると言われているが、米国は、パーソナルコンピュータ関連技術等での標準化戦略で先行し、またソフトウェア技術で我が国より優位である。
特に、この分野はニーズが多様で、技術革新が急速に進行しているため、機動的な研究開発を推進する。また、誰もが、自由な情報の発信・共有を通じて、個々の能力を創造的かつ最大限に発揮することが可能となる高度な情報通信社会の実現に必要な基盤技術に関する研究開発を推進することが重要である。具体的には、

  • ネットワーク上であらゆる活動をストレスなく時間と場所を問わず安全に行うことのできるネットワーク高度化技術
  • 社会で流通する膨大な情報を高速に分析・処理し、蓄積し、検索できる高度コンピューティング技術
  • 利用者が複雑な操作やストレスを感じることなく、誰もが情報通信社会の恩恵を受けることができるヒューマンインターフェース技術
  • 上記を支える共通基盤となるデバイス技術、ソフトウェア技術

等の推進に重点を置く。

情報通信分野の推進に当たって、国は、この分野は多様性と技術革新の速さといった特性を持つことを踏まえつつ、市場原理のみでは戦略的・効果的に達成し得ない基礎的・先導的な領域の研究開発に重点を置く。さらに、革新的なアイディアを有する研究者個人に着目した研究開発にも重点を置くとともに、民間の優れた人材の教育現場での活用などにより、優れた研究者・技術者の養成・確保を図る。また、ネットワーク上での安全・安心な活動を担保するための制度等の整備、技術開発のためのテストベッドの提供、標準化等の国際的な取組、国民が情報通信技術を活用することができるようにするための教育及び学習の振興等に取り組む。さらに、コンピュータの誤作動・機能不全による災害、ネットワークを介した不正行為による社会システムの機能停止への対策や、プライバシー等の情報管理の在り方の検討、情報格差の是正について留意する。

(3) 環境分野

環境分野は、多様な生物種を有する生態系を含む自然環境を保全し、人の健康の維持や生活環境の保全を図るとともに、人類の将来的な生存基盤を維持していくために不可欠な分野である。
環境分野の研究開発水準については、我が国は、地球温暖化対策技術では、全般的に欧米と同等の水準である。地球科学の領域では、観測の量などは欧米(特に米国)より劣るが、測定技術そのものは同等である。我が国は、化学物質総合評価管理技術などでは、欧米とほぼ同等の水準である。
国土が狭隘で資源にも乏しい我が国にとって、環境分野の重要性は高く、他国に先駆けて取り組むことは極めて重要である。具体的には、

  • 資源の投入、廃棄物等の排出を極小化する生産システムの導入、自然循環機能や生物資源の活用等により、資源の有効利用と廃棄物等の発生抑制を行いつつ資源循環を図る循環型社会を実現する技術
  • 人の健康や生態系に有害な化学物質のリスクを極小化する技術及び評価・管理する技術
  • 人類の生存基盤や自然生態系にかかわる地球変動予測及びその成果を活用した社会経済等への影響評価、温室効果ガスの排出最小化・回収などの地球温暖化対策技術
等の推進に重点を置く。その際、環境負荷の低減に配慮して総合的に技術評価を行う必要があり、ライフサイクルアセスメント手法の開発、データベースの整備、消費者等への情報提供を推進することが重要である。

環境分野の推進に当たって、環境対策自体は経済的な付加価値を評価しにくいものであるため、国は、環境対策が経済社会に適切に組み込まれるよう、地球規模の観測や共通基盤技術開発、知的基盤整備、標準化の取組、モデル的な実証評価等を推進するとともに、環境対策の制度設計、初期需要創出のための各種導入促進策、消費者等への環境教育等を行う。

(4) ナノテクノロジー・材料分野

ナノテクノロジー・材料分野は、上記3分野を含め、広範な科学技術分野の飛躍的な発展の基盤を支える重要分野であるとともに、特にナノテクノロジーは、21世紀においてあらゆる科学技術の基幹をなすものとして期待される。

○物質・材料

物質・材料の研究開発水準については、我が国は、既存材料技術では欧米より優勢である。
物質・材料は、広範な分野での飛躍的発展の鍵を握るという意味において重要であり、かつ、これまで我が国は高い研究開発水準を維持してきており、今後とも重点的に投資を行うことにより積極的に研究開発を進め、世界に先駆け技術革新を先導していくこととする。具体的には、

  • 情報通信や医療等の基盤となる原子・分子サイズでの物質の構造及び形状の解明・制御や、表面、界面等の制御等の物質・材料技術
  • 省エネルギー・リサイクル・省資源に応える付加価値の高いエネルギー・環境用物質・材料技術
  • 安全な生活空間を保障するための安全空間創成材料技術
等の推進に重点を置く。

なお、材料は、使われてこそその真価を発揮するものであり、研究者の生み出すシーズが利用者側のニーズに的確に応えるものとなるように十分に配慮しつつ研究開発を推進する。また、シミュレーション技術等の情報通信技術との融合による革新的材料開発、国際標準化の促進、知的基盤の充実、環境・安全等の総合的評価技術等の確立に取り組む。
材料技術の推進に当たって、国は、基礎的・先導的な研究開発や産業化をも視野に入れた基盤的技術の研究開発といった、市場原理のみでは戦略的・効果的に達成し得ない領域の研究開発を重点的に推進する。

○ナノテクノロジー

 ナノテクノロジーは、情報通信、環境、ライフサイエンス、材料等広範な分野にわたる融合的かつ総合的な科学技術であり、ナノ(10億分の1)メートルのオーダーで原子・分子を操作・制御すること等により、ナノサイズ特有の物質特性等を利用して全く新しい機能を発現させ、科学技術の新たな領域を切り拓くとともに、幅広い産業の技術革新を先導するものである。ナノテクノロジーの活用により、情報通信、エネルギー、バイオテクノロジー、医療などに新しい材料、デバイス、革新的システム等を提供することが可能となる
 ナノテクノロジーの研究開発水準については、我が国は、欧米と対等ないしリードしているが、米国等諸外国の国策的取組が急速に進みつつある。このため、我が国における産学官の英知を結集した戦略的な取組が急務である。ナノテクノロジーの具体的な課題としては、例えば、ナノレベルで物質構造等を制御することで、超高強度化、超軽量化、超高効率発光等の革新的機能を有するナノ物質・材料、超微細化技術や量子効果の活用等により、次世代の超高速通信、超高速情報処理を実現するナノ情報デバイス、体内の患部に極小のシステムを直接送達し、診断・治療する医療技術、様々な生物現象をナノメートルレベルで観察し、そのメカニズムを活用し制御するナノバイオロジーなどの研究開発が挙げられる。
 ナノテクノロジーの推進に当たっては、基礎的・先導的な研究開発と産業化を視野に入れた研究開発をバランス良くかつ重点的に推進することが重要である。また、異分野間や研究者間の融合及び情報交換を促進する研究ネットワークの構築や新たな融合領域における人材養成などが重要である。

上記4分野以外にエネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアの4分野があるが、これらの分野においても、国の存立にとって基盤的であり、国として取り組むことが不可欠な領域を重視して研究開発を推進する。

(5)エネルギー分野

 エネルギー分野では、将来的に懸念されるエネルギー供給不安に備え、エネルギー・セキュリティを確保する観点から現在の主力である化石燃料への依存の低下を目指すとともに、地球温暖化防止等の地球環境保全や効率化の要請に対応しつつ、安全で安定したエネルギー需給構造の実現を目指す。
具体的には、燃料電池、太陽光発電、バイオマス等の新エネルギー技術、省エネルギー・エネルギー利用高度化技術、核融合技術、次世代の革新的原子力技術、原子力安全技術等が挙げられる。

(6)製造技術分野

 製造技術は、我が国の生命線ともいうべき経済力の源泉であり、我が国でしかできない高精度加工技術が存在するなど、世界的にも最高水準にある。今後、これらの高度な技術を基に、革新的な技術の開発を行うことが重要である。
具体的には、高精度技術、精密部品加工技術、マイクロマシン等の高付加価値極限技術、環境負荷最小化技術、品質管理・製造現場安全確保技術、先進的ものづくり技術(特に情報通信技術・生物原理に立脚したものづくり革新に資する次世代技術)、医療・福祉機器技術等が挙げられる。

(7)社会基盤分野

 社会基盤分野は、防災科学技術、危機管理に関する技術、自動車・船舶・航空機・鉄道等の輸送機器、地理情報システム、淡水製造・管理技術等、国民生活を支える基盤的分野であり、豊かで安心・安全で快適な社会を実現するために、社会の抱えているリスクを軽減する研究開発や国民の利便性を向上させ、質の高い生活を実現するための研究開発を推進する。
具体的には、地震防災科学技術、非常時・防災通信技術等の防災・危機管理関連技術、ITS(高度道路交通システム)等の情報通信技術を利用した社会基盤技術等が挙げられる。

(8)フロンティア分野

 新たな活用領域として更なる展開が期待される宇宙、海洋等のフロンティア開拓型の研究開発に取り組む。人工衛星による通信・地球観測等の宇宙利用、多様な資源・空間を有する海洋利用等により、国民生活の質の向上など経済社会への貢献を目指す。
具体的には、高度情報通信社会に貢献する宇宙開発、新たな有用資源の利用を目指した海洋開発が挙げられる。

3. 急速に発展し得る領域への対応

 機動性、スピードの要求される時代にあって、重点化の対象・内容については、総合科学技術会議が継続的に精査し、適時の見直しを行っていく。近年、急速な知識の蓄積や新しい考え方、技術の発展によって、異分野間の融合や、新たな科学技術の領域が現れることが多くなっている。最近の例では、ナノメートルオーダーでの観察や制御技術が可能となったことから、材料、情報通信、ライフサイエンス、環境等にまたがる分野として登場したナノテクノロジー、ゲノムを始め、様々な情報の蓄積と情報通信技術の発展によって両分野が融合して生まれたバイオインフォマティクス、芽を出し始めたシステム生物学、ナノバイオロジーなどの領域が誕生してきた。今後とも新たな領域が現れてくるものと予想される。その時点における取組は小規模ながらも将来著しい成長が予想される領域が先見的に抽出された場合は、機動性を持って的確に対応する。

II. 優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革

 科学技術システムとは、社会の理解と合意を前提に資源を投入し、人材養成及び基盤整備がなされ、研究開発活動が行われ、その成果が還元される仕組みである。すなわち、科学技術システムは、研究開発システム、科学技術関係人材の養成及び科学技術振興に関する基盤の整備からなり、産業や社会とのインターフェースを含むものである。我が国の科学技術活動を高度化し、その成果の社会への還元を一層促進するため、投資の拡充とともに、以下のとおり我が国の科学技術システムを改革する。すなわち、人材や基盤の充実がなされ、質の高い研究開発が行われ、世界最高水準の研究成果が創出されるようにするとともに、研究成果の産業や社会への円滑な技術移転や社会への積極的な説明が行われるようにする。

1. 研究開発システムの改革

(1) 優れた成果を生み出す研究開発システムの構築

① 競争的な研究開発環境の整備

 創造的な研究開発活動を展開していくため、競争的な研究開発環境を整備する必要がある。このため、研究者が研究機関の外部から競争的資金を獲得することに加え、研究機関の内部でも競争的な環境を醸成するなど、あらゆる局面で競争原理が働き、個人の能力が最大限に発揮されるシステムを構築する。

(a)競争的資金の拡充

研究者の研究費の選択の幅と自由度を拡大し、競争的な研究開発環境の形成に貢献する競争的資金を引き続き拡充する。その際、競争的資金を活用し世界の先頭に立っている米国を参考とし、第2期基本計画の期間中に競争的資金の倍増を目指す。競争的資金の効果を最大限に発揮させるためには、評価を中心に、以下の改革が不可欠であり、これを競争的資金の倍増とともに徹底する。

  • 研究課題の評価に当たっては、研究者個人の発想や能力が評価され得るよう研究費の制度・運用を改善する。具体的には、単独の研究者がポストドクター・研究支援者等とともに行う研究を大幅に拡大する。複数の研究者が行うグループ研究においては、明確な責任体制の下で分担して行うようにする。
  • 一定の研究成果が得られるよう、1研究課題当たりに研究遂行に必要かつ十分な研究費を確保し、また、3~5年間程度の研究期間を重視する。 
  • 中間評価及び事後評価を適切に実施し、その結果を運用に反映させる。中間評価については、必要に応じて、その結果を当該課題の規模の拡大や縮小、中止等に反映させる。その際に、特に優れた成果が期待される課題については、より大きな成果に結びつけられるように研究期間の延長を可能とする。また、中間評価及び事後評価の結果を、次に競争的資金に応募する際の事前評価に活用できるようにする。これらにより長期的に優れた研究の発展を図る。ただし、過去に競争的資金の応募実績がない者についても、公平に機会が与えられるようにする。
  • 評価過程、評価結果、評価手続及び評価項目が提案した研究者に適切に開示されるようにする。
  • 専任で評価に従事する人材として研究経験のある者を確保し、研究課題の評価に必要な資源を充てるなど、評価に必要な体制を整える。
  • 課題採択時に研究者の実績等を踏まえた公正かつ透明性の高い評価を行うため、研究の進捗状況や成果については定期的に研究者から報告を受け、データベースとして整備する。
  • 競争的資金を所管する各府省は、その目的にかなう限り、できるだけ多くの研究者が応募できるよう運用を徹底する。
  • 競争的資金のうち、研究者個人に直接配分されるものは、原則として、経理を研究機関に委ねることとして、研究機関が研究費の適切な執行を確保するものとする。
  • 競争的研究資金の倍増を図っていく中で、各府省の持つ競争的資金の目的を明確化し、プログラム・制度の統合・整理を行う。

(b) 間接経費

競争的資金の拡大によって、直接に研究に使われる経費は増加してきた。競争的資金をより効果的・効率的に活用するために、研究の実施に伴う研究機関の管理等に必要な経費を手当する必要がある。このため、競争的資金を獲得した研究者の属する研究機関に対して、研究費に対する一定比率の間接経費を配分する。
 間接経費の比率については、米国における例等を参考とし、目安としては当面30%程度とする。この比率については、実施状況を見ながら必要に応じ見直しを図る。
間接経費は、競争的資金を獲得した研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能の向上に活用する。複数の競争的資金を獲得した研究機関は、それに係る間接経費をまとめて、効率的かつ柔軟に使用する。こうした間接経費の運用を行うことで、研究機関間の競争を促し、研究の質を高める。ただし、当該機関における間接経費の使途については、透明性が保たれるよう使用結果を競争的資金を配分する機関に報告する。
国立大学等については、国立学校特別会計の中に競争的資金を獲得した大学に間接経費が還元される仕組みを整える。

(c) 基盤的経費の取扱い

競争的資金の倍増を図っていく中で、教育研究基盤校費及び研究員当積算庁費のいわゆる基盤的経費については、競争的な研究開発環境の創出に寄与すべきとの観点から、その在り方を検討する。その際、

  • 教育研究基盤校費については、教育を推進する経費であるとともに大学の運営を支えるために必要な経費としての性格を有すること
  • 研究員当積算庁費については、研究機関の行政上の業務遂行に必要な研究費としての性格を有することに留意する。

② 任期制の広範な普及等による人材の流動性の向上

若手研究者は任期を付して雇用し、その間の業績を評価して任期を付さない職を与える米国等におけるテニュア制は、米国等での研究開発環境の活性化の源と言われる。我が国も、将来に向けて、このような活力ある研究開発環境を指向し、30代半ば程度までは広く任期を付して雇用し、競争的な研究開発環境の中で研究者として活動できるよう、任期制の広範な定着に努める。また、研究者がその資質・能力に応じた職を得られるよう、公募の普及や産学官間の人材交流の促進等を図る。その際、研究者と産学官の研究機関等とのニーズを合致させることができる「市場メカニズム」が働く環境の形成が重要である。このため、

  • 国立試験研究機関、独立行政法人研究機関、国立大学等の国の研究機関等は、30代半ば程度までの若手研究者については広く任期を付して雇用するように努めるとともに、研究を行う職については原則公募とし、広く資質・能力のある研究者に公平な雇用機会を提供する。国の研究機関等は、任期制及び公募の適用方針(業務や研究分野等により任期制又は公募を適用できない場合はその理由)を明示した計画を作成するよう努める。研究機関の評価に当たっては、任期制及び公募の適用状況を評価の一つの重要な観点とする。
  • 現行の若手育成型任期付任用の任期は原則3年までとされているが、3年では実質的に研究に専念できる期間が短いことが指摘されている。これを踏まえ、十分かつ多様な研究機会を確保する観点から、若手研究者が原則5年間は任期付研究員として活躍できるようにするとともに一定の条件の下に再任もできるようにするなど、必要な措置を講ずる。その際、業績や能力に応じた処遇を図れるよう改善を行う。あわせて、大学における任期付教員をはじめとする教員の業績、能力等を十分に反映した処遇の改善方策について検討する。
  • 研究者が多様な経験を積むとともに、研究者の流動性を高めるため、産学官間の交流や国際交流を重視する。その際、適性に応じて、研究開発のみならず、行政、産業界等幅広い職で活躍できるような多様なキャリア・パスを確保するため、ポストドクターや若手研究者の行政、企業等への派遣を可能とし、促進する。

③ 若手研究者の自立性の向上

 優れた若手研究者がその能力を最大限発揮できるように、若手研究者の自立性を確保する。このため、

  • 研究に関し、優れた助教授・助手が教授から独立して活躍することができるよう、制度改正も視野に入れつつ、助教授・助手の位置付けの見直しを図る。あわせて、助教授・助手が研究開発システムの中で存分に能力を発揮できるよう、研究支援体制の充実、大学等における幅広い視野を持つ創造的人材の育成の推進など総合的な取組を進める。
  • 優れた若手研究者が自立して研究できるよう、各研究機関において、研究スペースの確保など必要な配慮を行う。
  • 競争的資金の倍増の中で、若手研究者を対象とした研究費を重点的に拡充するとともに、競争的資金一般においても、若手研究者の積極的な申請を奨励する。
  • 特に優れた成果を上げた若手研究者に対する表彰等を充実する。

 また、研究指導者の下で研究を行うポストドクター等についても、独立して研究できる能力の向上を図るため、ポストドクター等1万人支援計画が策定され、これによりポストドクターが研究に専念できる環境が構築されてきた。今後は、研究指導者が明確な責任を負うことができるよう研究費でポストドクターを確保する機会の拡充や、能力に応じた処遇を行うとともに、ポストドクターの行政・企業等への派遣や優秀な博士課程学生への支援充実等を図り、ポストドクトラル制度等の質的充実を図るとともに、その効果を評価する。

④ 評価システムの改革

 研究開発評価は、研究開発評価に関する大綱的指針に従い実施されているが、競争的な研究開発環境の実現と効果的・効率的な資源配分に向けて、

  • 評価における公正さと透明性の確保、評価結果の資源配分への反映
  • 評価に必要な資源の確保と評価体制の整備
に重点を置いて改革を進める。また、その実施に当たっては、研究開発課題の評価、研究機関の評価、研究者の業績評価が、体系的かつ効率的に行われるようにする。

このため、以下のような事項を盛り込み、研究開発評価に関する大綱的指針を改定する。

(a) 評価における公正さと透明性の確保、評価結果の資源配分への反映

 研究開発課題の評価は、その課題の性格に応じて行う。評価は一律の基準で行うのではなく、研究課題、分野によって柔軟に対応する。とりわけ、政策目的に応じたプロジェクトや研究開発制度による課題については、第三者を評価者とした外部評価により、事前評価においては社会的・経済的な意義・効果や目標の明確性等の評価を、中間及び事後評価においては実施に当たって設定した具体的目標に対する達成度の評価を徹底する。また、競争的資金による課題については、原則として、独創性・先導性等の科学的・技術的視点については長期的視点を持つなど高い資質を有した専門家によるピア・レビューを行い、国際的水準に照らした質の評価を徹底する。その際、その時点までに競争的資金の申請者が関与した研究開発課題の事後評価が制度を越えて次の申請の際の事前評価に反映されるよう運用の改善を行う。
各府省は、研究開発課題の事前評価、中間・事後評価に加えて、研究開発の終了後における研究開発成果の波及効果に関する追跡評価を実施し、そのインパクトを評価するとともに、過去の評価の妥当性について検証する。また、研究開発制度及びその運用についても、その目的に照らして効果的・効率的なものになっているか等の評価を行う。
研究機関の評価は、機関の設置目的や研究目的・目標に即して、機関運営と研究開発の実施の面から行う。機関運営評価は、機関長に与えられた裁量と資源の下で、目標の達成のためや研究環境の改善等のためにどのような運営を行ったかについて、効率性の観点も踏まえつつ評価を行う。研究開発の実施の評価は、機関が実施した研究開発課題の評価と所属する研究者の業績等の評価の総体で評価を行う。研究機関の運営は機関長の裁量の下で行われるものであるので、研究機関評価の結果は、運営責任者たる機関長の評価につなげる。
研究者の業績評価は、研究機関が行うべきものとして、機関長が評価のためのルールを整備し、責任を持って実施する。その際、研究開発、社会への貢献等関連する活動を評価できる多様な基準によって行い、基準の一つにおいて特段優れている場合にはこれを高く評価する。 以上の評価を進めるに当たって、評価の公正さ、透明性を確保するため、客観性の高い評価指標や外部評価を積極的に活用するとともに、評価を行う者は、被評価者に対し、評価手法・基準等の周知、評価内容の開示等を徹底する。
また、評価結果については、課題の継続、拡大・縮小、中止等の資源配分、研究者の処遇に適切に反映する。
なお、大学については自主性の尊重、教育と研究の一体的な推進などその研究の特性に留意する必要がある。また、大学評価・学位授与機構等による教育、研究、社会貢献、組織運営などの第三者評価の推進を図る。

(b) 評価に必要な資源の確保と評価体制の整備

 評価は研究開発活動の効果的・効率的な推進に不可欠であり、評価に必要な資源は確保して、評価体制を整備する。

  • 競争的資金の配分機関などにおいて専任で評価に従事する者が質・量ともに不足していることを踏まえ、研究費の一部を評価の業務に充てる、評価部門を設置して研究経験のある人材を国の内外を問わず確保するなど必要な資源を充て、評価体制を充実する。また、研修等を通じて人材の養成に努める。
  • 評価実施主体が国内外の適切な評価者を選任できるようにするため、及び個々の研究開発課題の評価において普遍性・信頼性の高い評価を実現するため、国全体として、個々の課題についての研究者、資金、成果、評価者、評価結果をまとめたデータベースを整備する。その結果、どのような成果が上がっているか、わかりやすい説明にも資する。
  • 評価体制の整備に伴い発生する審査業務等を効率化し、評価をより高度なものとするため、電子システムの導入を図る。

⑤ 制度の弾力的・効果的・効率的運用
(a) 研究開発の特性を踏まえた予算執行の柔軟性・効率性の確保

 研究開発は一般的に複数年にわたり継続して実施されるが、その進捗は当初の予定どおりにならないことも少なくない。国の研究開発予算については、その特性を踏まえ、研究の進捗に合った柔軟かつ効率的な使用ができるようにするとともに、翌年度に繰り越して使用することができる繰越明許費の活用を図る。
また、競争的資金等について、会計事務の効率化を図ること等により、研究者が年度当初から資金を使用できるようにする。

(b)勤務形態等の弾力化

研究の成果を評価して研究者を処遇し、その能力を十分に発揮させる環境を整備するため、民間企業等の研究業務に対して裁量労働制が適用されていることを踏まえ、独立行政法人研究機関における裁量労働制の活用を期待する。
また、国の研究者等の自発性及び自立性を積極的に促すため、自己啓発等の一定の活動を行う場合に一定期間公務を離れることを認める休業制度については、対象活動の範囲や既存制度との整合性などの課題を検討する。

⑥ 人材の活用と多様なキャリア・パスの開拓
(a) 優れた外国人の活躍の機会の拡大

優れた外国人研究者が我が国において活発に研究開発活動ができるようにする。そのため、例えば、公的研究機関においては、フェローシップ等により日本で研究開発に従事し、成果を上げた若手の外国人研究者を評価して、能力に見合う処遇をする。さらに、競争的資金については、日本で研究する外国人研究者も応募できるよう英語による申請を認めるなど、外国人研究者が日本の研究社会の中で同等に競争できる環境を整備する。

(b) 女性研究者の環境改善

男女共同参画の観点から、女性の研究者への採用機会等の確保及び勤務環境の充実を促進する。特に、女性研究者が継続的に研究開発活動に従事できるよう、出産後職場に復帰するまでの期間の研究能力の維持を図るため、研究にかかわる在宅での活動を支援するとともに、期限を限ってポストや研究費を手当するなど、出産後の研究開発活動への復帰を促進する方法を整備する。

(c) 多様なキャリア・パスの開拓

研究者が、適性に応じて、研究開発の企画・管理等のマネジメント、研究開発評価、知的財産権等研究開発にかかわる幅広い業務に携わることができるよう、多様なキャリア・パスの開拓が必要である。
若手研究者が将来の可能性を幅広く選択できるよう、行政機関等での採用の機会を拡大する。特に、競争的資金の配分機関などでは、研究経験のある人材の雇用を進める。さらに、民間においても、博士課程修了者やポストドクター経験者等の能力のある若手研究者の採用に積極的に取り組むことが期待される。

⑦ 創造的な研究開発システムの実現

 以上に述べた改革を徹底し、優れた成果を生み出す研究開発システムを実現するためには、研究所等の一定の規模の組織で、機関の長のリーダーシップの下、柔軟かつ機動的なマネジメントを行い、国際的に一流の研究開発拠点を構築していくことが有効である。
このため、既存の研究開発機関を世界的な研究開発拠点とすることを目指し、当該機関の研究開発能力や成果を活用するための斬新な手法を組織運営に取り入れて行くなど、これら機関におけるマネジメントの改革に取り組むことを促進する。
さらに、重点化して取組を行う必要のある分野や急速な進展を見せる領域について、以下の諸点において従来の組織運営にとらわれない新たな発想に立ち、欧米の第一級の研究開発機関に比肩し得る、世界最高水準の研究開発を行う理想的な研究開発組織を構築する

  • ① 存続期間を定めた時限的な組織とする。
  • ② 研究開発の責任者とマネジメントの責任者を分離し、前者には国際的水準の研究開発実績を有する者を、後者には研究開発と経営の経験をともに持つ者を充てる。
  • ③ 必要充分な管理、技術支援、成果管理等の支援部門を整備する。
  • ④ ポストドクターの大幅な採用も含め若手の人材を中心に据える。
  • ⑤ 外国人を積極的に登用する。
  • ⑥ 産学官の各セクターからの参画を募る。
  • ⑦  研究開発実績、能力を反映した研究開発資金の配分、給与などの処遇を行う。
  • ⑧ 資金は弾力的に運用する。
  • ⑨ 研究開発活動の共通語と言える英語を使用言語とする。
  • ⑩ 国際水準からみて研究開発に必要な施設を整える。

(2)主要な研究機関における研究開発の推進と改革

① 大学等

 大学は、優れた人材の養成・確保、未来を拓く新しい知の創造と人類の知的資産の継承、知的資源を活用した国際協力等様々な面から科学技術システムの中において中心的な役割を果たすことが求められている。
 しかしながら一方で、我が国の大学の現状に関しては、教育機能の弱さ、専門分野の教育の幅の狭さ、組織運営の閉鎖性や硬直性等の課題が指摘されてきている。
 これまで、大学の教育研究の高度化・個性化・活性化という観点から、大学設置基準の大綱化、大学院の量的整備などの大学改革が進められており、組織運営の面についても、すべての国立大学に学外者で構成される運営諮問会議が設置されたり、第三者評価機関として大学評価・学位授与機構が創設されるなどの進展が見られる。今後とも、大学の自主性・自律性を拡大し、主体的・機動的な運営ができるよう更に制度面の改善を進めるとともに、各大学において、こうした制度面での改善を実際の大学運営や教員の意識改革につなげ、大学改革をより実効あるものとしていくことが期待される。
各大学においては、学部段階から一貫して課題探求能力の育成を重視した教育を進めるとともに、先端的・独創的教育研究の拠点としての大学院の整備・高度化の一層の推進を図ることにより、教育と研究の両面にわたって質的充実を図り、国際的にも魅力と競争力を高めていくことが望まれる。このため、組織編制の弾力化等により、各大学が、経済や社会の情勢の変化をも見通しそれに自律的・機動的に対応しつつ教育研究機能を一層高めることが必要であり、このような制度の弾力性は、特に現状において国家行政組織として制度的な制約のある国立大学にあっては、重要な課題となる。また、各大学において、厳格な自己点検・評価を実施し、その結果を積極的に公開するとともに、大学の教育研究活動や組織運営の改革に具体的に反映していくことが求められる。大学は、全国各地域に存在することから、その利点を活かし、地方公共団体や企業などとの協調・協力関係を強め、地域における科学技術の発展の中核として積極的に貢献することが重要である。 さらに、大学が、産業界や他の研究機関等との連携・交流を推進しつつ、多様で高度な教育研究活動を積極的に展開していくことは、大学の教育研究水準を高めていく上で重要である。

(a) 国立大学等

 国立大学及び大学共同利用機関については、独立行政法人化に関する検討が進められており、組織運営体制の強化等により、学長等がリーダーシップを発揮し、自律的な運営ができるよう一層の改革を進める。また、卓越した大学院の重点整備を含む大学院の教育研究の高度化・多様化の推進を行う。
公立大学については、地域における高等教育機会の提供と地域発展のための研究への貢献が求められており、教育研究機能の一層の強化を図り、各大学が特色ある発展を目指す。

(b)私立大学

 私立大学は、我が国の大学の学生数の約8割を占めるとともに、それぞれ独自の建学の精神に基づき、特色ある教育研究活動を積極的に展開するなど、高等教育の発展に大きな役割を果たしており、私立大学としての主体性を生かしつつ、教育研究水準の一層の向上を図る必要がある。
 このため、私立大学については、大学院の充実など教育研究機能を強化する観点から、重点的配分を基調として助成の充実を図るとともに、多様な民間資金の導入を促進するための所要の条件整備を行う。

② 国立試験研究機関、公設試験研究機関、独立行政法人研究機関等

国立試験研究機関、独立行政法人研究機関、特殊法人研究機関等では、政策目的の達成を使命とし、我が国の科学技術の向上につながる基礎的・先導的研究及び政策的ニーズに沿った具体的な目標を掲げた体系的・総合的研究を中心に重点的に研究開発を行う。また、地方公共団体に設置されている公設試験研究機関は、地域産業・現場のニーズに即した技術開発・技術指導に重要な役割を担っている。科学技術に対する経済社会の期待が高まる中、これら公的研究機関に対し、優れた成果の創出と社会への還元がより一層強く求められる。このような状況にかんがみ、以下の取組を強化する。

  • 国立試験研究機関、独立行政法人研究機関、特殊法人研究機関等は、国家的・社会的ニーズを踏まえた研究やその将来の発展に向けた基盤的な研究等、各機関の任務遂行のための研究を実施し、創出された成果を効果的に普及・実用化できるよう、大学や産業界との連携を一層強化する。
  • 地域に設置されている公的研究機関は、その地域の特性に根ざした産業の発展への貢献が望まれており、そのため、基礎的・先導的研究の成果の技術移転を促進し、成果の企業化等に向けた取組を強化する。
 独立行政法人に移行する研究機関においては、弾力的に組織を運営し、研究機関の特性と機能を最大限に活かしつつ、柔軟かつ機動的な研究開発を行い、優れた研究成果の創出とその活用を行えるようにする。具体的には、
  • 法人の長の裁量の拡大、研究資金の柔軟かつ弾力的な運用、成果の積極的な活用を行う。
  • 機関の使命達成のための各府省からの研究開発費に加え、外部資金の獲得等による研究開発を積極的に行い、機関の機能を高めていく。
  • 人事管理においては、法人の長の裁量の下、優れた研究者の採用や能力に応じた処遇を行う。このため、研究系の職員等の選考採用や研究休職に係る手続の簡素化、任期付研究員制度における採用手続の簡素化を進めるよう、人事院に早期の検討を求める。

③ 民間企業
(a)民間の研究開発の促進

 国の活動とあいまって重要な役割を担う民間の研究開発を活性化させるべく、国は、民間の自助努力を基本としつつ広く民間の研究開発の意欲を高めるため、増加試験研究費税額控除制度等の研究開発活動促進に資する税制措置や、研究開発のリスクを軽減する技術開発制度の積極的な活用を図る。その際、我が国経済の発展の基盤となる技術の研究開発を促進する制度については、より効果的・効率的なものになるよう見直しを行う。
国は、国費を財源とする委託研究により生じた特許権等の成果については、産業活力再生特別措置法の一層の適用による受託者への帰属の促進等により、その活用を図る。
また、政府調達、社会的規制等は、技術力のある事業者の競争への参加機会の拡大等を通じて技術革新を促す側面を有しているため、その適切かつ効果的な活用を図る。

(b)研究人材の流動化への対応

 我が国全体の研究人材の流動化を促進するとの観点から、民間においても、博士課程修了者やポストドクター経験者等の能力のある若手研究者の採用に積極的に取り組むことを期待する。

2. 産業技術力の強化と産学官連携の仕組みの改革

 研究開発の成果は、市場原理に基づく競争的な環境の中で、現実に利用可能な財・サービスの形で広く社会に普及していくこととなるが、産業技術の役割は、このような知的創造活動の成果の国民生活・経済社会への橋渡しに貢献することである。産業技術力の強化に対しては、科学技術システムの改革が大きな効果を持つが、そのうち特に産学官連携の仕組みの改革は不可欠である。 このため、産学官のセクター間にある「見えない壁」を取り除き、産学官の各セクターの役割分担や各研究機関の特性を踏まえつつ、成果が産業界に活用されるとともに、産業界のニーズ等が公的研究機関へ伝達されることにより、産学官の有機的な連携を促進し、革新的な財・サービスが次々と生まれる技術革新システムを構築する。

(1) 産学官連携の強化のための情報流通・人材交流の仕組みの改革

 産業界が基礎的な研究開発をアウトソーシングする動きが活発化し、その相手となる研究機関を国の枠を越えて選択する傾向のある中、これまで以上に産学官連携を強化し、産業界と公的研究機関の共通認識の醸成を図ることが不可欠である。このため、産業界は積極的にニーズを提案し、公的研究機関はそれを踏まえた研究開発を推進する。具体的には、

  • 公的研究機関における研究組織・体制及び研究成果等の研究情報や人材情報を提供するデータベースを充実させ発信機能を強化する。
  • 公的研究機関においても、産業界等からの人材を積極的に登用するなど、経済社会におけるニーズが適切に研究開発課題に反映されるよう人的交流を通じた連携を促進する。また、最新の研究動向や研究開発に対するニーズについて、産業界と公的研究機関の者が定期的に議論できる場を設けたり、産学官連携を促進する人材の養成・確保を進める。また、共同研究センターや技術移転機関においても自由闊達な交流の場を創出していくこと等を通して、経済社会ニーズと公的研究機関における研究シーズのマッチングを促進する。
  • 公的研究機関への委託研究や公的研究機関との共同研究における実施体制、費用の算定、成果報告等を、産業界から見てより分かりやすくかつ利用しやすい形とすることで産業界の意欲を高める。また、産業界から公的研究機関に提供される研究資金についても、産学官連携のインセンティブを強化するため、間接経費を全て研究の実施に当たる研究機関に還元すべきであり、これを目指す。
  • 競争的資金についても、研究課題選定や中間・事後評価への産業界の人材の参画の拡大、産学官連携による共同研究における産業界の人材の研究責任者への登用等により、経済社会のニーズを研究開発に適切に反映する。
  • 国際標準についての経済社会ニーズが極めて高いことから、実用化を目指したもののみならず基礎的な産学官連携プロジェクトについても、標準化戦略を意識してその推進を図る。

(2)公的研究機関から産業への技術移転の環境整備

(a) 技術移転に向けた公的研究機関における取組の促進

 公的研究機関からの産業への技術移転を進めるため、産学官連携のための組織的取組を強化することが重要である。特に、大学の共同研究センターについて、学部・学科等の枠を越えた最適な専門要員・人材の配置等により、一層の機能向上を図る。また、公的研究機関の研究活動の成果の事業化のために技術移転機関の活用促進を図るなど、技術移転に向けた各機関の主体的取組を促進するための支援等を行う。
また、産学官連携の活動実績を、機関、研究者等の評価の基準の一つと位置付ける。

(b)公的研究機関が保有する特許等の機関管理の促進

 公的研究機関において、有用な研究成果を実用化に結びつける仕組みを整備する。このため、以下のような施策を推進する。

  • 第1期基本計画においては、自らの研究成果を伴って研究者が流動できるとの観点、及び研究者個人へのインセンティブを向上させる観点から、職務上得られる特許等について個人への帰属を導入し、活用促進を図ってきた。しかし、当該特許等の個人帰属は増加したものの、その実施という観点では必ずしも増加に結びついていない。研究開発成果の活用をより効果的・効率的に促進するため、個人帰属による活用促進から研究機関管理を原則とする活用促進への転換を進める。
  • 研究機関は、研究機関管理に必要となる特許等の取得、管理、展開の機能を整備する。技術移転機関は、研究機関のこれらの機能を支援する活動を促進する。
  • 研究機関管理への転換に当たって、発明者である研究者に対するインセンティブの一層の向上を図る観点から、実施料収入からの個人への十分な還元が行えるよう制度を整備する。なお、研究者が異動する場合における発明者インセンティブの継続についても十分に留意することが必要である。
 これらの改革は、まず、自主的な運営の中で特許等の活用が可能となる独立行政法人研究機関等において取り組み、大学等、他の研究機関については、今後検討する。なお、研究成果の特許化を進めるに当たっては、特許を取り巻く環境がグローバル化しつつある状況にかんがみ、公的研究機関においても、国内での取得のみならず海外における特許化を促進する。

(3)公的研究機関の研究成果を活用した事業化の促進

 公的研究機関と企業等との共同研究や、企業等から公的研究機関への委託研究によって得られた研究成果の企業等への移転を促進し、企業等が共同研究等を推進する意欲の高揚等を図り、公的研究機関の研究成果の事業化を促進する。したがって、共同研究や受託研究により得られた研究成果の関与した企業等への移転、とりわけ、

  • 企業等に対する国有特許等の譲渡及び専用実施権の設定による活用
  • 技術移転機関への国有特許等の譲渡及び専用実施権の設定による活用の拡大
等を進める。特に、このため、関与した企業や大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(平成10年法律第52号)により認定されたTLOへの随意契約による譲渡、TLOへの延べ払いでの譲渡契約の実施などにより、事業化を促進する。
また、人材面においても、公的研究機関の研究者は、研究成果を活用する民間企業等の役員等への兼業制度及び休職制度等を積極的に活用する。国は、民間企業等における研究、指導等への従事に係る兼業許可の円滑な運用を図る。これらにより、公的研究機関の研究人材が社会全体で活躍できるようにし、公的研究機関から民間への技術移転、事業化を促進する。

(4) ハイテク・ベンチャー企業活性化のための環境整備

 我が国におけるベンチャー企業活性化のための環境整備については、これまでにも資金・人材面等において行われてきたところであるが、起業家精神の称揚が十分でないことに加えて、設立初期のリスクマネーの確保が引き続き困難であること、失敗時の個人リスクが大きいこと等にかんがみ、なお一層の充実を図る。具体的には、

  • 大学においても、起業家、ベンチャーキャピタリストを招いた授業科目を開設するなどにより、起業家精神に富んだ人材の養成・輩出に努める。また、大学院においては、専門大学院の充実を図るとともに、例えば、資金調達、法制度についての実践的な能力を向上させる。さらに、共同研究センター等を活用し、ベンチャー企業との共同研究を推進する。
  • 地域に存在する公的研究機関については、産学官連携窓口としての機能強化、研究人材の流動性の確保、連携プロジェクトの更なる推進等を通じて、地域のベンチャー企業に対してより開かれたものとしていく。
  • 中小企業に対する技術開発費を重点的に配分して技術開発・起業を促進するため、国は中小企業技術革新制度(SBIR)の積極的な活用を図り、制度を充実させる。
  • ストックオプション制度や株式制度等の企業法制の見直し、倒産法制の見直し等制度面からの対応を進める。

3. 地域における科学技術振興のための環境整備

 経済社会のグローバル化の進展や情報通信技術の急速な進展・普及の影響は、地域にも直接及んでいる。今や、地域の産業は、単に国内にとどまらず、世界の中での競争にさらされている。一方、優れた科学技術の成果を活用することにより、地域の産業が迅速かつ容易に世界市場に参入することも可能である。
このような状況の下、地域の研究開発に関する資源やポテンシャルを活用することにより、我が国の科学技術の高度化・多様化、ひいては当該地域における革新技術・新産業の創出を通じた我が国経済の活性化が図られるものであり、その積極的な推進が必要である。
このため、以下の取組を行う。

(1) 地域における「知的クラスター」の形成

 「知的クラスター」とは、地域のイニシアティブの下で、地域において独自の研究開発テーマとポテンシャルを有する公的研究機関等を核とし、地域内外から企業等も参画して構成される技術革新システムをいう。
具体的には、人的ネットワークや共同研究体制が形成されることにより、核をなす公的研究機関等の有する独創的な技術シーズと企業の実用化ニーズが相互に刺激しつつ連鎖的に技術革新とこれに伴う新産業創出が起こるシステムである。このようなシステムを有する拠点を発展させることにより、世界水準での技術革新の展開が可能であり、国としてもその構築を促進することが必要である。
地域のイニシアティブの下での知的クラスター形成を、効果的・効率的に実現するため、国は、共同研究を含む研究開発活動の推進、人材の養成・確保、技術移転機能等の充実を図る。
また、国や独立行政法人等の研究開発機能については、地方公共団体と連携を図りつつ、地域展開を図ることが必要である。

(2)地域における科学技術施策の円滑な展開

 科学技術の多様な展開を図るためには、地域の大学等の公的研究機関が独自の研究ポテンシャルを発揮するとともに、研究成果の企業化・実用化を図っていくことが重要である。
このため、地域の研究開発活動に対して、技術の活用について評価を行う、いわゆる「目利き」などの人材の養成・確保やコーディネート機能の強化、地域間の連携も視野に入れた技術移転の推進等科学技術施策の地域における円滑な展開を図る。
地方公共団体のイニシアティブの下で進める科学技術振興に際して、地元の国立大学等の公的研究機関と地方公共団体とが一層の連携・協力を進められるように努め、地域主導の産学官連携の更なる推進を図る。

4.優れた科学技術関係人材の養成とそのための科学技術に関する教育の改革

(1) 研究者・技術者の養成と大学等の改革

 優れた研究者・技術者等の養成は、科学技術システムの改革において極めて重要な課題であり、大学はその中核を担うものであることから、その改革の一層の推進を図る必要がある。
このため、国際的に通用する大学等の実現を目指し、創造性・独創性豊かで広い視野を有し実 践的能力を備えた研究者や技術者等を養成する機能を強化すべく、その教育研究の質の向上を図る。また、教育研究の質の向上を不断に図る観点から、各大学における自己点検・評価の実施及びその結果の公表が義務化され、学外者による検証が努力義務化されたことにかんがみ、各大学がその取組を更に推進するよう求める。

(a)大学院

 大学院においては、科学的な思考法や研究の方法論を身に付けさせるための体系的な教育を通じて、論理的思考能力・実践的研究能力を養うとともに、コースワークの重視による教育研究指導を行い、自立して研究開発活動を行い得る能力の強化を目指した教育研究の高度化・多様化を推進する。また、産業界を含む我が国の科学技術の振興に必要な人材を養成するとの観点から、連携大学院制度を活用して民間の優れた人材を起用すること、新興分野に係る人材養成を目指した寄附講座の設置を促進することなどにより、基礎的資質と実践的能力とのバランスのとれた柔軟で広い視野を育成するよう教育研究を充実する。
 また、科学技術の急速な進展を踏まえつつ、世界に伍する教育研究を積極的に展開するため、卓越した実績を上げることが期待できる大学院や、教育研究上の新たな取組を行っている大学院に対し、客観的で公正な評価を行い、資源の重点的な配分を行うことにより、国際的に卓越した教育研究実績を期待できるような拠点の整備を行う。さらに、これまでの大学院の研究科に加え、特定の分野で、国際的に通用する高度な専門性を備えた職業人を養成するための実践的教育を行う大学院の研究科・専攻の整備を促進する。
この際、優秀な人材が経済的負担の心配なく大学院に進学できるよう博士課程学生への研究者養成の観点からの支援や奨学金などを充実する。特に、研究者養成の観点からの支援については、支援を受けた研究者の研究能力の向上の観点から、その効果を評価する。

(b)大学学部・短期大学

 大学学部、短期大学の教育においては、教養教育の理念・目標の実現のためのカリキュラム改革と全学的な実施・運営体制の整備を行い、科学技術の急速な進展にも対応した教養教育の充実を図る。また、専門教育については基礎・基本を重視しつつ、学生が主体的に課題を探求し、解決するための基礎となる能力を育成するよう、教育方法の改善等を推進する。

(c)高等専門学校・専修学校

 高等専門学校においては、科学技術の高度化や産業構造の変化等社会のニーズに対応するため、教育内容の充実、専攻科の整備、学科の改編・整備等を推進する。
専修学校においては、教育内容の高度化等を進め、より実践的かつ専門的な教育を推進する。

(d)高等学校

 高等学校においては、観察、実験、体験学習を重視した理科等の教育内容を充実するとともに、社会の変化等に適切に対応した産業教育の振興のための実験・実習の施設・設備の充実を図る。

(2)技術者の養成・確保

 我が国の技術革新を担う高い専門能力を有する技術者は、国際競争力強化を図る上で、重要な役割を果たしている。技術の急速な進歩と経済活動のグローバリゼーションが進む中で、我が国の技術基盤を支え、国境を越えて活躍できる質の高い技術者を十分な数とするよう養成・確保していく必要がある。
 このため、技術者の質を社会的に認証するシステムを整備し、その能力が国際水準に適合していることを保証する。具体的には大学の理学部・工学部等における技術者教育への外部認定制度(アクレディテーション・システム)の導入、技術マネジメント教育の確立、実践的な教育のための環境整備を行う。さらに、技術者資格制度の普及拡大と活用促進を図るとともに、APEC(アジア太平洋経済協力)域内をはじめとする国際的な相互承認の具体化を進める。また、常に最先端の技術・知見の習得が可能となるよう、学協会、大学等における継続的な教育の充実を図る。これらにより、技術者教育、技術士等の資格付与、継続的な教育を通じ一貫した技術者の資質と能力の向上を図るシステムの構築を図る。

5.科学技術活動についての社会とのチャンネルの構築

 科学技術は、その意義や日常生活とのかかわりが国民により十分に理解されてこそ、長期的に発展し活用されていくものであり、科学技術の振興には国民の支持が欠かせない。科学技術は社会と共に歩むことが基本であり、科学技術に携わる者はこのことを心すべきである。
 他方、国民が科学技術について深く理解し、社会を巡る様々な課題について、科学的・合理的・主体的な判断を行えるような環境の整備が必要である。

(1) 科学技術に関する学習の振興

 科学技術に関する学習の振興により、国民の科学技術に対する興味・関心を育てるとともに、国民が深く科学技術を理解できるようにするため、更には優れた科学技術関係人材を養成するため、それらの基礎となる幅広い素養を培う。
初等中等教育においては、子ども自らが知的好奇心や探求心を持って、科学技術に親しみ、目的意識を持ちながら観察、実験、体験学習を行うことにより、科学的に調べる能力、科学的なものの見方や考え方、科学技術の基本原理を体得できるようにする。このため、一層きめ細かな指導を充実するとともに、教員研修の充実、産業現場等におけるインターンシップや社会人講師の活用の促進、学校教育の情報化の推進、施設・設備の充実を図る。
大学においては、自然科学系の分野を専門としない学生にも、科学技術に関する基礎知識とともにそれに基づく広い視野からの判断力を養えるよう、教育内容の充実を図る。
幼児期から高齢者までの社会教育においても、高等教育機関や博物館・科学館等を活用して、科学技術の基本原理や新たな動向などについて興味深く学習できる機会の拡充とその内容・指導の充実を促す。

(2)社会とのチャンネルの構築

 科学技術の振興に当たっては、国民の理解増進に努める必要がある。このため、研究機関の公開や博物館・科学館等の機能の発揮を図るとともに、メディア等を通じて科学技術をわかりやすく伝える機会を拡充する。さらに、地域において、科学技術に関する事柄をわかりやすく解説するとともに、地域住民の科学技術に関する意見を科学技術に携わる者に伝達する役割を担う人材の養成・確保を促進する。
さらに、研究者が、社会とのかかわりについて常に高い関心を持ちながら研究開発活動に取り組むとともに、社会的な課題への対応策について、科学技術に関する知識を基盤として積極的に提言できるよう、研修等を通じて、研究者自身の意識改革を図る必要がある。

6.科学技術に関する倫理と社会的責任

 科学技術の進歩が、人間や社会に大きな影響を及ぼす場合が多くなっている。このため、生命倫理に代表されるように、科学技術の発展がもたらす倫理的問題が重要となっている。また、研究者や技術者など科学技術に関わる人々や組織の倫理や社会的責任が問われるに至っている。こうした視点から、21世紀には、以下のように、科学技術と社会との新しい関係の構築が不可欠である。

(1)生命倫理等

 最近の生命科学の発展は、病気の診断、予防、治療を著しく向上させ、人々及び社会に大きく貢献している。他方、体外受精、脳死による臓器移植、遺伝子診断及び治療、さらには、最近のヒトに関するクローン技術、ヒト胚性幹細胞等、人間の尊厳に深く関わる科学技術が登場し、生命倫理上の大きな問題となっている。このうち、ヒトに関するクローン技術による個体産生については、国際的にも容認できないとする意見が多く、我が国では、昨年11月に「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が成立し、罰則を伴う禁止措置がなされた。
現代医療を例にとれば、医師、研究者に人間の尊厳を守るための強い倫理観が求められることは当然であるが、医療の受益者である患者の人権が尊重されねばならず自己決定のためインフォームド・コンセントの重要性が認められている。また、個人のプライバシーの保護も大きな課題である。さらに、臨床試験や臓器移植・再生医療のように一般の人々にとっても重大な関心をもつものが拡大しており、生命倫理は国民全体の問題として議論されなければならない。
今後、生命科学、情報技術など科学技術が一層発展し、社会と個人に大きな影響を及ぼすことが予想されるので、社会的コンセンサスの形成に努めることや倫理面でのルール作りを行うことが不可欠である。加えて、社会がグローバル化していることを踏まえ、国際的な協調も重要である。こうした科学技術の取組みに当たっては、情報公開の推進により透明性を確保しつつ、倫理等に関し有識者が検討する場や国民の意見を聴取する場を設けることにより、慎重にその方向付けを行う。

(2)研究者・技術者の倫理

 科学技術は、その使い道を誤ると人間や社会に重大な影響を及ぼす可能性を秘めている。
最近、研究開発の現場やものづくりの現場等で事故・トラブルの発生が見られるが、研究者・技術者においては自らの携わる科学技術活動の社会全体での位置付けと自らの社会や公益に対する責任を強く認識し、科学技術の利用、研究開発活動の管理を適切に行う意識の醸成が重要である。
研究活動については、従来主として研究コミュニティの内部で一定のルールが求められてきた。しかし、研究活動の範囲が拡がり多様化するとともに、社会との関連が様々な形で問題となってきているので、研究者は、利益相反の問題、研究結果の取扱い、研究費の取扱いなどの研究に当たっての倫理観の高揚に努めることが重要である。また、研究に関する情報を積極的に社会に発信し、研究成果等の効果の社会への影響についても発言していく必要がある。
これらを踏まえ、研究者・技術者自身が高い職業倫理を持てるよう、学協会等に研究者・技術者が守るべき倫理に関するガイドラインの策定を求めるとともに、技術者の資格認定に当たり倫理の視点を盛り込むことを求める。また、高等教育における教育内容の充実とともに、学協会等の関係団体、関係機関が主催する研修等の活動を充実する。

(3)説明責任とリスク管理

研究機関・研究者は研究内容や成果を社会に対して説明することを基本的責務と位置付け、研究機関の一般公開、公開講座、インターネットや学協会等を通じての情報の受発信等の機会を増やし、国民と研究者等との双方向のコミュニケーションの充実を図る。このため、研究者等に対し、研修の機会を設け、一般の人々への説明能力を向上するようにする。これにより、国民と研究者等の相互理解を促進し、国民は科学技術に関する理解を深めるとともに、研究機関・研究者が国民の声を反映しながら自らの研究開発活動の方向性を検討するようにする。
 また、科学技術に関わる組織は、事故やトラブルなど科学技術活動に伴うリスクについて、その影響を評価し、リスクを最小化するよう適切な管理を行うとともに、組織における研究者・技術者の倫理の涵養に努める。

7.科学技術振興のための基盤の整備

(1) 施設・設備の計画的・重点的整備

(a) 大学、国立試験研究機関等の施設の整備

 教育・研究機関の施設は、21世紀にふさわしい社会資本であり、その整備促進が不可欠である。
大学等が活発な教育研究活動を展開し、優れた人材と研究成果を生み出すため、安全で効果的に教育研究に専念でき、かつ国内外の優秀な学生や研究者を引き付ける魅力に富んだ世界水準の教育研究環境を確保することが必要である。このため、国は、施設の老朽化・狭隘化の改善を最重要の課題として位置付け、老朽化・狭隘化問題の解消に向けて特段の予算措置を講ずる。
国立大学等では、必要な整備面積は約1,100万平方メートルに達している。第2期基本計画期間中においては、このうち、大学院の狭隘化の解消、卓越した教育研究の実績がある研究拠点の整備、既存施設の活性化などの観点から、5年間に緊急に整備すべき施設を盛り込んだ施設整備計画を策定し、計画的に実施する。
その際、施設の効果的・効率的な利用を図る観点から、各部局が共有する総合的・複合的な研究棟の整備を進める。また、学外者による評価も含めた点検・評価を踏まえ、学長のリーダーシップの下に施設利用の弾力化を推進する。また、老朽化施設の改善に向けて、適切な改修や機能向上を図り、既存施設の活性化を推進する。
また、外部の機関が国立大学、国立試験研究機関等と共同して研究を行うために必要となる研究施設について、研究交流促進法(昭和61年法律第57号)を活用して、外部機関による整備を促進する。
国立試験研究機関や独立行政法人研究機関等において、効果的に研究を推進し、優れた研究開発の成果を生み出すため、時代の要求に対応した施設の整備・充実を図る。特に、老朽化・狭隘化の進んだ施設について優先して、改善・改修等を早急に行う。

(b) 大学、国立試験研究機関等の設備の整備

大学、国立試験研究機関等の設備については、我が国が重点的に推進すべき分野や今後の大きな発展が期待される分野を中心に、研究発展の牽引力となる大型研究装置等の先導的な設備は共同利用を前提として、重点的整備を進める。さらに、研究遂行上必要な設備については、陳腐化によって研究効率が低下しないよう計画的な更新を進めるとともに、特に高度・大型の特殊な装置・設備について、その安定的運転や維持管理のための経費及び人員を確保する。

(c) 私立大学等の施設・設備の整備

私立大学等では、社会的要請の強い研究プロジェクトを推進するため、研究施設・設備の整備に対する補助を充実するとともに、長期・低利の貸付事業や、老朽施設の改築に対する利子助成事業を推進する。
また、公立大学についても、教育研究条件の向上のための支援の推進を図る。

(2) 研究支援の充実

 研究支援業務は、研究開発に重要な役割を果たすものであり、その体制の充実を図る。その際、研究分野などにより必要とされる具体的な研究支援業務が多様であること、また研究環境の整備もより競争的に行われることから、全ての研究分野において一律に目標を掲げるのではなく、研究支援業務については研究費の中で適切な手当をすること等の対応を行う。この際、労働者派遣事業の活用、専門的業務の外部化等アウトソーシングが可能なものは積極的に活用することとし、個々の研究及び必要とされる支援業務の実情に応じた対応を図る。また、研究機関で共通的な支援業務や特に高度な技能を要する支援業務については、競争的資金の獲得により得た間接経費の活用等により研究機関内に集約して配置された者が共通的に行う方式や、特殊法人が所要の人員を提供する方式等により、確保する。

(3) 知的基盤の整備

 解決すべき課題が増大し、研究対象が複雑化・高度化する中、我が国における先端的・独創的・基礎的な研究開発を積極的に推進するとともに、研究開発成果の経済社会での活用を円滑にすることが必要である。このため、研究者の研究開発活動、さらには広く経済社会活動を安定的かつ効果的に支える知的基盤、すなわち、研究用材料(生物遺伝資源等)、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、並びにこれらに関連するデータベース等の戦略的・体系的な整備を促進する。

  • 現在整備が進められつつあるこれら4つの領域の知的基盤については、2010年を目途に世界最高の水準を目指すべく、産業界や公的研究機関等において早急に整備を促進する。その際には、中立性・公共性の高いもの、戦略的観点から支援が必要なものは国主体で整備し、民間活力を利用し市場形成し得るものは民間主体で行うこととするなど、官民役割分担について十分留意することが必要である。
  • 利用者にとっての利便性を向上させ、各種の知的基盤が統合的に運用できるよう、所在情報等の提供や利用者のニーズが整備に反映される仕組みを構築する。また、計量標準等の整備に係る国際的取組に主導的に参画する。
  • 今後の重要科学技術分野の研究開発の進展に伴って、新たに整備が必要となる知的基盤については、時機を失せず効果的に整備されるよう、研究開発プロジェクトの中で得られた研究成果(データや知見)も有効に蓄積・整備していく。
  • 国は、機動的対応を可能とするため、データや知見の提供と利用に関し、知的財産権その他の法的問題に関する基本的ルールを整備する。
  • 知的基盤整備への取組を今後の研究者・技術者の評価の観点の一つとして位置付ける。

(4)知的財産権制度の充実と標準化への積極的対応

 知的創造活動を促進する観点から、知的財産権の適切な保護は極めて重要である。従前より知的財産権保護のための国際的議論、制度整備が行われてきたが、引き続き以下のような取組を行う。

  • 国際的に通用する専門サービスの提供の促進、紛争処理機能の強化を図る。
  • 日米欧における共同先行技術調査・審査等に関する協力を進めるとともに、アジア諸国への知的財産権制度一般に関する支援を行う。特に、バイオテクノロジー、情報通信技術等先端的技術の適切な特許保護のための運用の明確化と国際的調和に向けた取組を強化する。
また、研究開発成果の普及等には、新たに開発された技術の市場化のための手段としての標準化への積極的な対応が必要となる。特に、ネットワーク社会の進展、異業種融合分野の拡大等から、国際標準を制するものが市場を制する時代ともなっており、また研究開発の成果を具体化した製品等に係る基準認証制度が国際的に同等なものであることが国際競争の中で極めて重要な要素となっている。このような状況にかんがみ、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)等における国際標準化活動に積極的に寄与するとともに、経済活動のグロ-バル化に対応した国際ルールの整備への積極的貢献を図る。さらに、アジア・太平洋諸国との戦略的な標準化協力関係を構築する。これらと併せて、標準化を意識した研究開発を実施するとともに、公的研究機関の標準化活動への参画を促進する。

(5) 研究情報基盤の整備

 高度情報化の急速な進展の中で、研究開発の現場は先陣を切って研究情報基盤の整備を進めてきた。特に、各研究機関におけるコンピュータの配備やLANの整備、研究機関間のネットワーク整備と高度化、ネットワークを活用した研究情報の共有、大学図書館等における電子図書館的機能の整備が進められている。
今後も、情報通信技術の急速な進展に対応して引き続き研究情報基盤の整備を進めるとともに、これらの基盤の一層の活用を図り、研究開発情報の収集、発信を通じて、我が国の研究開発の高度化・効率化を図る。具体的には、各種研究ネットワーク及び研究機関内のLANについて、世界的動向も踏まえた上で、新技術の導入による高度化・高速化を含めた計画的な整備を推進する。また、研究機関に蓄積された研究情報の利用環境の高度化を図るため、研究成果、研究資源等の研究開発情報のデータベース化、学協会が発行する雑誌等の電子化及び大学図書館等における電子図書館的機能の整備を引き続き推進する。

(6)ものづくりの基盤の整備

 最近、我が国の製造等を巡り、技術継承の不足による高品質基盤喪失の危惧、製造業軽視の風潮及び相次ぐ事故の発生により、従来我が国が得意としてきた品質管理を含むものづくり能力に関し、深刻な疑念が存在する。このため、ものづくり能力の維持・向上のため、以下の体系的取組を行う。
ものづくりを担うのは「人」であり、かかる人材を養成・確保するため、幼い頃からものづくりの面白さに馴染み、創造的な教育を行うこと、高等教育機関や公共職業能力開発施設等において、創意工夫を活かしたより実践的な教育・訓練を実施することや、インターンシップを促進することが必要である。加えて、広く国民がものづくりの重要性を理解し、尊重する社会の実現が必要である。このため、卓越したものづくりに関する能力を有する個人及び企業を対象とする「内閣総理大臣賞」をはじめとする表彰制度の創設の検討などの取組を推進する。さらに、プロジェクトの複雑化、製造現場の自動化等が進展する中で「技術のブラックボックス化」を回避するため、プロジェクト全体のスコープやコスト、品質、リスク等の適切な管理のための知識・手法の体系化を行い、高いプロジェクトマネージメント能力を有する技術者を養成する。
熟練技能者が保有する高度な技能のデジタル化・データベース化・ソフトウェア化を行うことにより、再現性のある技術へ転換し、現在熟練技能者が有する技能の実質的な保全・継承を行う。また、設計段階で精緻なシミュレーションを行うことにより製品開発・製造の高度化・効率化を実現する、情報通信技術を活用した次世代の設計・製造技術の基盤の整備に努める等情報通信技術(IT)と製造技術(MT)の融合による新たな生産システムを構築する。
技術革新をより加速していくためには、技術者がより知的な作業に集中できる環境を整え知的生産活動を支援する仕組みが必要である。このため、設計・製造プロセスに係る要素技術や過去の成功・失敗事例、公的機関等の技術指導事例などを、知識或いはデータとして蓄積し体系的に整理し広く提供していく。また、20世紀後半に生み出された人工物質・素材等が、環境への影響、安全性の評価を欠いたまま利用され、後に生命や地球環境に重大な悪影響を及ぼしたことを真摯に受け止める必要がある。これに対する反省に立って、その開発や利用・導入の前には、長期的な安全性についての評価や社会生活・自然環境に対するリスク・アセスメントを徹底するとともに、その情報を公開し、不断の見直しを図る。

(7)学協会の活動の促進

 学協会は、公的研究機関等と並んで幅広い人材と知識が集約されていることから、日進月歩に進展する科学技術に関する情報を広く社会に発信し、産学官及び外国との研究者レベルの交流を促進し、科学技術政策への提言を行うとともに、研究システム改革を推進する役割を果たすことが期待されている。このため、国としてもこれらの活動が活発に行われるよう、学協会を積極的に支援する。
今後、社会や研究者のニーズに応えることが期待される非営利の民間団体についても、情報流通、技術移転、研究交流、研究支援等の活動を拡大することが期待されており、国としても必要な環境整備を行う。

III.科学技術活動の国際化の推進

 我が国に世界一流の人材や情報を結集することを通じて、世界水準の優れた成果を創出し、これら成果により人類が直面する課題に対応すべく科学技術活動を国際化する。特に、近年、我が国から優秀な研究者や民間研究資金の流出が懸念されており、国際的にも開かれ国内外の優秀な研究者が集まる世界水準の研究環境の構築が必要である。

1.主体的な国際協力活動の展開

 地球温暖化等環境問題、食料問題、エネルギー問題、淡水管理、感染症対策、災害の防止や被害の低減等の地球規模の問題の解決を目指した研究や国際的な取組が必要となる基礎研究については、国際的な英知を結集して推進すべく世界に向けて具体的な国際協力プロジェクトを提案し実施するとともに、得られた成果は世界に還元していく。 この際、特にアジア諸国とのパートナーシップ強化も念頭に置く。また、知的財産権の保護、標準化の推進に関しても、制度等の国際的な調和に向けて先導的な役割を果たしていく。これらの積極的な国際活動を通じ、優れた人材を養成し、更にレベルの高い活動を展開する。

2.国際的な情報発信力の強化

 我が国の科学技術活動が国際的に認知され、評価され、その結果、世界一流の人材や最新の情報が我が国に結集するようになるためには、研究成果、研究者、研究機関に関する情報の積極的な海外への発信が重要であり、研究成果の英語での発表を強化するための支援を行うとともに、学協会とも連携しつつ、国際的水準の論文誌の刊行等、情報の組織的な発信を行うための環境を整備する。

3.国内の研究環境の国際化

 我が国の研究環境を国際化するためには、国際的な舞台での経験のある優れた外国人研究者をはじめとする人材が数多く日本の研究社会に集まり、同等に競争し、活躍できるようにする必要がある。具体的には、

  • 公的研究機関においては、フェローシップ等により日本で研究開発に従事し、成果を上げた若手の外国人研究者を評価して、能力に見合う処遇をするなど、優れた外国人研究者が我が国において研究を継続できるようにする。
  • 公的研究機関においては、外国人研究者が定着するよう、処遇の改善、英語の使用、国際社会との交流の自由度の確保、滞在に係る支援等受入れ体制・環境の整備充実を図る。
  • 競争的資金については、日本で研究する外国人研究者も応募できるよう英語による申請を認めるとともに、英語による成果の発信を推進する。
 特に、新設される公的な研究拠点については、最初からこのような国際的環境を具備するよう国として指導する。また、筑波研究学園都市及び関西文化学術研究都市についても、内外に開かれた国際研究開発拠点として育成・整備する。
 一方、日本人研究者も若い時期から、国際的な研究環境での経験を積めるように、海外の優れた研究機関で活躍できる機会を拡大するとともに、海外の一流の研究者と切磋琢磨できる交流の機会を拡大する。また、日本人研究者は国際的なネットワークを拡大するよう努める。

第3章 科学技術基本計画を実行するに当たっての総合科学技術会議の使命

1.運営の基本

総合科学技術会議は、内閣総理大臣のリーダーシップの下、総合戦略及びこれに基づき策定される科学技術基本計画に示された重要政策が、我が国全体として的確、着実に具現化されるよう、政策推進の司令塔として、省庁間の縦割りを排し、先見性と機動性を持って運営を行う。その際、経済財政諮問会議、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)等と密接な連携をとることとする。
総合科学技術会議は、21世紀の人間社会のあり方を視野に置き、常に世界に開かれた視点を持ちつつ、人文・社会科学とも融合化した「知恵の場」として、積極的に活動する。また、「社会のための、社会の中の科学技術」という認識の下に、科学技術の両面性に対して市民がもつ期待と不安の感情に配慮し、生命倫理など科学技術に関する倫理と社会的責任を重視して運営を行う。

2.重点分野における研究開発の推進

 総合科学技術会議は、基本計画が定める重点化戦略に基づき、各重点分野において重点領域並びに当該領域における研究開発の目標及び推進方策の基本的事項を定めた推進戦略を作成し、内閣総理大臣及び関係大臣に意見を述べる。特に重要な領域については、必要に応じて専門調査会を設けるなどの方法により、戦略を作成する。
科学技術の進歩が激しく、社会も急速に変動する現在、総合科学技術会議は、広範な分野にわたる第一線の専門家の助言を得て重点分野の最新の動向を把握するとともに、急速に生じてきた科学技術に対するニーズへの対応について、継続的な検討を行う。その結果、推進戦略に変更の必要が生じた場合には、柔軟かつ機動的に対応する。

3.資源配分の方針

 総合科学技術会議は、基本計画、重点分野における研究開発の推進戦略等を踏まえて、関係府省における施策の取組を把握し、不必要な重複など府省縦割りの弊害の有無や実施中の施策の効果を評価する。それを踏まえ、より効果的・効率的な取組を実現するとの観点から、次年度における特に重点的に推進すべき事項、質の高い科学技術推進のための科学技術に関する予算の規模等について内閣総理大臣に意見を述べる。その上で、総合科学技術会議は、次年度の重要な施策、資源の配分に関する考え方を明らかにし、関係大臣に示す。さらに、総合科学技術会議において示された考え方を踏まえた資源配分が行われるよう、必要に応じて予算編成過程において財政当局との連携を図る。

4.国家的に重要なプロジェクトの推進

 国家的に重要なプロジェクトについて、特に府省の枠を越えて実施すべきプロジェクトに対しては、上記の資源配分の方針に加え、総合科学技術会議は、その実施体制等が最も効果的・効率的なものとなるよう、不必要な重複の排除等の調整に必要な意見を述べる。さらに、プロジェクトの実施段階においても、総合科学技術会議は、実施状況や施策の効果に関し必要な評価を行うことにより、国全体として整合性を持った効果的・効率的な施策の推進を図る。

5.重要施策についての基本的指針の策定

 研究開発評価に関する大綱的指針は制定後既に3年を経過しており、基本計画を踏まえて速やかに改定する。また、研究者の流動化その他の科学技術システム改革に関する施策についても、基本計画を踏まえ、必要に応じ、基本的な指針を取りまとめる。

6.評価

 総合科学技術会議は、大規模な研究開発その他の国家的に重要な研究開発について評価を行い、その結果を公開するとともに、推進体制の改善及び予算配分に反映させるよう関係府省に提示する。また、基本的な政策や重要事項に係る方針等に反映させるため、必要に応じ、各府省における科学技術の施策について評価を行う。

7.基本計画のフォローアップ

 総合科学技術会議は、以上のような取組を行うとともに、基本計画に掲げる施策の実施状況を、関係府省の協力の下、フォローアップし、必要に応じ意見を付して、内閣総理大臣及び関係大臣に提示する。特に基本計画で実施計画を求めた項目については、総合科学技術会議はできるだけ早く実施計画の提出を求める。フォローアップは毎年度末に行い、3年を経過したときにより詳細なフォローアップを実施し、必要に応じて基本計画に掲げた施策の変更などに柔軟に対応する。
また、総合科学技術会議は、関係府省の協力も得つつ、民間の活動も含め国内外の科学技術活動の実態の把握を行う。
なお、我が国の研究開発の実施体制の在り方については、今後とも総合科学技術会議で検討を進める。

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