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交通事故被害者の受ける精神的影響とその対応(ダイジェスト版)

交通事故被害者の受ける精神的影響とその対応(ダイジェスト版)

まえがき

平成16年中の交通事故による死者数は7,358人であり、昭和45年に交通安全対策基本法が施行されて以来、最少死者数に抑えることができました。しかしながら、交通事故発生件数や負傷者数は過去最悪の水準で続いているなど、交通事故情勢は大変厳しいものとなっております。新たな交通事故被害者が日々増加し続ける中、交通事故は、いつ我が身に振りかかってもおかしくない、非常に身近な出来事と言えます。そして、ひとたび交通事故に遭遇すれば、被害者や遺族の方々は深い悲しみや辛い体験を長い間抱えながら生活することになり、その回復には多方面からのきめ細かな支援が必要となります。しかし、まだ被害者支援の枠組みが十分に整備されているとは言えない状況にあります。
そこで、内閣府では、国民が互いに支えあう、安全で安心できる交通社会の実現を目指し、平成15年度から交通事故被害者支援事業を実施しています。
本書は、平成15年度事業において、被害者支援のリソースの充実や支援担当者の技能の高度化を目的に、交通事故被害者の精神的影響に焦点をあてて作成した「交通事故被害者の支援−担当者マニュアル−」を基礎とし、支援担当者のみならず、交通事故被害者に接する機会のある関係機関の方々に、精神的影響とその対応について広く知っていただくことを目的として、「導入用ビデオ」と併せて作成したものです。
ぜひ、被害者の方々が抱える問題等の理解のため、本書とビデオを役立てていただき、その結果、一人でも多くの交通事故被害者が回復に向け再び歩み出すことができるような土壌が醸成できれば幸いです。
なお、本書及び「交通事故被害者の支援−担当者マニュアル−」は、内閣府のホームページ(https://www8.cao.go.jp/koutu/index.html)にも掲載してありますので、こちらも併せてご活用下さい。
最後に、本書とビデオの作成に御尽力いただいた委員の先生方には、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。

平成17年3月
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付 参事官(交通安全対策担当) 二見 吉彦

◇執筆者紹介◇ 本書執筆に携わった委員

■冨田 信穗(とみた のぶほ)
[現職] 常磐大学人間科学部教授
社団法人いばらき被害者支援センター理事長
全国被害者支援ネットワーク副会長

■大久保 恵美子(おおくぼ えみこ)
[現職] 東京都公安委員会指定 犯罪被害者等早期援助団体
(社)被害者支援都民センター 事務局長

■中島 聡美(なかじま さとみ)
[現職] 国立精神・神経センター 精神保健研究所 成人精神保健部 成人精神保健研究室長

第1章 総論

I.はじめに

1.本書のねらい
交通事故の発生に伴い、被害者(被害者本人およびその遺族や家族をいう。以下同じ。)は様々な困難な問題に直面し、身体的、精神的、経済的に大きな打撃を受ける。それらの問題の解決は容易ではなく、また打撃からの回復は困難であることが多い。このことは種々の調査の結果からも明らかになっているところである。
本書は被害者が直面する様々な問題のうち、特に精神的な問題を取り上げ、(1)その実態を明らかにすると同時に、(2)被害者の精神的な回復を支援するために、日常業務において交通事故の被害者に接することの多い人や、今後接する可能性のある人に対して、被害者に対応する際にはどのようなことに配慮すべきかなどについて、出来る限り具体的に分かりやすく解説しようとするものである。
なお、本書は既に出版された『交通事故被害者の支援−担当者マニュアル−』の「ダイジェスト版」である。本書の内容について詳しく知りたい方には、内閣府のホームページから容易に入手できる「オリジナル版」をぜひ参照していただきたい。

2.交通事故の被害者に対する支援の必要性
交通事故の被害者が様々な問題に直面し、被害者の直面する身体的、精神的、経済的な打撃が大きいことは既に指摘したとおりである。
ところで、人間には本来問題を自力で解決し、打撃から回復する力、すなわち問題解決力や回復力を備えているものである。従ってこのような問題を解決し、打撃から回復するのは、基本的には本人の自助努力に委ねられるはずであり、交通事故の被害者にも基本的には自助努力が求められることになる。
しかしながら、交通事故の被害者の直面する問題と打撃は、極めて大きなものであるから、被害者の自助努力のみに委ねることは適当ではない。そこで、本人の自己決定を尊重しながら、本人自らの問題解決や立ち直りを支援することが必要となる。
従来このような支援は、家族や地域に委ねられていたが、核家族化、都市化、近代化の進展に伴い、家族や地域からの支援を受けることは次第に困難になってきている。そこで、被害者を支援するための枠組みや制度を整備することが重要となる。このような支援制度あるいは救済制度のうち、医療や経済的問題に関するものは次第に充実してきている。しかし精神的影響については、社会の理解も十分ではなく、また本人の立ち直りを支援する制度も未だ整備されていない。本書の内容が、被害者の精神的影響やそれからの回復の支援に限定されているのも、他の問題を無視しているからではなく、この問題についての理解やその適切な対応を望むからに他ならない。

II.交通事故の被害者の受ける精神的影響と被害者への支援

1.交通事故被害者の受ける精神的影響
交通関係の人身事故の数は多いため、われわれはそれに慣れてしまっているところがある。しかし、重傷を負った被害者本人や、身近な人を失った遺族にとっては、その精神的影響は非常に大きなものである。交通事故被害者に対する精神的支援は、従来十分になされていたとは言えないので、今後これを充実させなければならないことは既に強調したとおりである。
ところで、交通事故の被害者は法律上の問題にも直面することが多い。例えば刑事手続きとの関連においては、加害者に対する刑事手続きが開始された場合、その刑事手続きに被害者が関与する制度は、刑事訴訟法などの改正により充実してきたが、まだ十分とはいえない。そのことから、これに対する被害者からの不満も聞かれる。また、自動車損害賠償保障制度や任意保険制度が整っているとはいえ、被害者が適切に受けた損害を回復するためには大変な苦労が伴う。
このような、刑事手続きおよび民事手続きをめぐる不満や煩わしさが、上述の被害者の精神的影響をさらに悪化させることもある。従って、交通事故被害者に対する精神的支援は、法律の専門家と共同して行われるのが望ましい場合もある。
それでは、交通事故の被害者に対しては、どのような精神的支援策がとられるべきであろうか。交通事故被害者だけに特別な固有の支援策はない。しかし、犯罪の被害者(もちろん、交通事故の被害者も犯罪の被害者となりうる)に対する心理臨床的アプローチが近年発展しているので、これを参考にしながら交通事故被害者に対する支援策を充実させてゆくことが現実的であると思われる。具体的には、精神科医師、心理臨床家、訓練を受けたボランティア等によるカウンセリング的対応、自助グループの活動の促進などが有効であると考えられる。また、精神的支援のみならず、被害直後の危機介入サービスや生活支援サービスも充実させてゆくことが重要であると思われる。さらには、一般の人も交通事故が被害者に与える精神的影響やそれへの対応について、基礎的な事柄を知ることもきわめて重要である。
これらの支援活動については後に詳しく論じられるが、ここでは危機介入サービスと自助グループの活動の二つにつき、ごく簡単に言及したい。

2.危機介入サービス
危機介入サービスとは、被害直後のいわば混乱時期において、被害者の直面している問題を直接取り扱うサービスをいう。このサービスはアメリカ合衆国においては、かなり一般的に行われているものであるが、わが国においても次第に一般的なものになりつつある。 危機介入サービスの内容としては、様々なタイプの被害者に対する様々な活動が開発され実施されているが、交通事故被害者に対しては次のような活動が有効であると思われる。 被害を受けた直後の被害者本人はもちろんのこと、被害に関する告知を受けたり、身元の確認を行なったりする遺族等も、混乱状況に陥ることが多い。このような場面において、被害者の傍らに付き添い、精神的に支援することは危機介入サービスのうち最も基本的な活動の一つである。また医療機関や福祉機関などを紹介したり、食事や着替えのための衣服を提供したりすることも、重要な活動である。また、緊急カウンセリングも有効であろう。
これらの、危機介入活動を行う者に求められる資質については後に詳しく論じられるが、次の点が特に強調される。
(1)被害者に対して、現在の安全と安心感を保障し、落ち着いて話ができるように持って行くことができること。
(2)被害者の被害直後の様々な反応が異常なものではなく、正常なものであることを明確に説明することができること。
(3)今後発生が予想されることを説明し、それに対してどのように準備したらよいかについて実際的な情報を提供することができること。

3.自助グループ
同種の苦痛や感情を有している被害者と一緒にいることにより、精神的な安心感を得られ、また、人との絆があることも確認でき、それらを通じて回復への契機を得ることはしばしばある。このように被害者の回復の過程の各段階において、適切な自助グループに参加することは有効であるとされている。 わが国でも以前から、医療や社会福祉の領域において、数多くの自助グループが存在し、活動を行ってきた。最近では犯罪被害者支援の分野においても自助グループの活動が行われるようになった。交通事故の被害者の自助グループの活動も既に行なわれているが、今後ますます活発な活動が行われることが期待される。

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III.今後の課題

交通事故の発生は多いために、その被害も社会全体では非常に大きなものとなる。既に説明した通り、交通事故の被害者に対する支援策は次第に充実してきているが、まだ十分とはいえない。とりわけ精神的支援についてはさらに充実させる必要がある。以下では、交通事故の被害者に対する支援活動を充実させるために特に留意すべき事柄について、述べることとする。

1.被害者調査
交通事故の被害者に対して効果的な支援活動を行うためには、被害の実態を正確に把握することが何よりも重要である。この被害の実態については、数多くのルポルタージュや手記などによってある程度明らかにされている。しかし、より体系的、一般的なデータを収集するためには、多数の被害者を対象とした調査票による調査や面接調査を行うことが必要である。このような調査も既にいくつか実施されているが、十分というわけではない。今後さらに様々な実態調査が行われることが期待される。

2.警察官の対応
交通事故は発生件数が多いため、警察官は現場検証や調書の作成に追われ、これから進行する刑事手続きについて説明したり、自動車損害賠償保障制度などについて説明したりする余裕はほとんどない。1996年に制定された「被害者対策要綱」に基づき、刑事手続きや精神的支援に関する事柄を説明する「被害者の手引き」が作成され、被害者に手渡されるようになった。また、被害者や遺族と接触する警察官が、被害者の受ける精神的影響の大きさをより正確に理解できるように、警察官に対する講習なども行われている。このように警察による対応は改善されているが、今後もさらに充実した対応がなされることが期待される。
一方で、交通事故、特に死亡事故を担当する警察官のストレスは非常に大きなものである。今後、被害者に対する手厚い配慮を行うことが期待されると、警察官のストレスはさらに大きくなると予想される。そこで、警察官に対する十分なケアを行う必要がある。 さらに、諸外国で実施されているように、関係者に対する死亡の告知などは、警察官ではなく、訓練を積んだボランティアに任せるという仕組みを作ることも検討する必要がある。

3.保険会社、各種相談窓口、民間機関
交通事故による経済的損失の回復には、保険会社の果たす役割が非常に大きい。
保険会社やその関係団体は、各種の相談窓口を持っており、またその他の様々な公的・私的機関も相談窓口を設けている。保険会社やこれらの相談窓口の担当者は、必ずしも、被害者の深刻な精神的影響を十分理解し、かつ、それに配慮しているわけではない。また、精神的影響に適切に対応できるように、特別に訓練されているわけではない。従って、これらの担当者に対するより充実した訓練・教育を行うことが重要である。

第2章 交通事故による精神的反応

I.はじめに

交通事故で重傷を負ったり、家族が交通事故で死亡したりすることは、大変な精神的苦痛をもたらし、その後も様々な精神的な反応が出現する。被害者に関わる人が適切に対応するためには、このような精神的反応を理解することが重要である。ここでは、交通事故の被害者及び遺族、頭部外傷後遺症などの重症の後遺障害をきたした被害者の家族によく見られる精神的反応についてとりあげる。

II.交通事故の被害者の精神的反応

1.交通事故とトラウマ
犯罪や災害、事故などの強い恐怖を体験すると、誰もが様々な精神的反応をきたす。精神的反応が一時的なものにとどまらず、精神的な後遺症として、トラウマ(心の傷、心的外傷)を形成する。精神的な後遺症としては、PTSD(外傷後ストレス障害)やうつ病などがあげられる。特に、交通事故によってひどい怪我を負い、生命の危険を感じたような場合にはトラウマになりやすい。また、実際には怪我をせず、又は怪我が軽度であった場合でも、自分が死ぬのではないかという強い恐怖を味わった時にはトラウマになる可能性がある。その他に、悲惨な事故現場を目撃した周囲の人や、救急隊、警察官なども強い精神的打撃を受けることがある。家族や恋人など被害者に近い立場にいる人も、被害者が悲惨な目にあったということに直面することによって強い衝撃を受ける。亡くなった場合には、突然の死というショックや悲しみ、喪失感を激しく感じるようになる。このように一つの事故であっても多くの人々がトラウマになってしまうことが考えられる。

2.どのような精神的反応があらわれるか
交通事故後の反応の多くは、事故にあった場合の人間の正常な反応で、時間の経過とともに回復していく。しかし、死亡事故や重傷を負うような事故では、精神疾患に至る場合もある。事故の直後から急性期(1ヶ月から数ヶ月以内)では、解離性障害や急性ストレス障害が、慢性期(事故から数ヵ月後)では、PTSD(外傷後ストレス障害)やうつ病、恐怖症などの精神疾患があらわれる。また、対人関係の問題や、仕事や家事への支障など社会生活機能の低下なども問題となる。

(1) 急性期の反応
[1]急性期の被害者によくみられる反応
事故の直後では特に、あまりにショックが強くて事故が起こったことを受け入れられず、事故の否認(信じられない、現実と思えない)、感覚や感情の麻痺(悲しみを感じない、寒さや空腹を感じない、冷静にみえる)、思考の麻痺(どうして良いかわからない、頭が真っ白、呆然としている)、解離(健忘、現実感がない感覚)がおこる。このような時の被害者は表情がなく、問いかけに対してきちんと応答できないことや、あとで自分のとった言動を覚えていないことがある。また、自分の身辺にほとんど注意を払わないので、周囲が気をつける必要がある。そのほか、恐怖感とともに動悸や呼吸が速くなる、冷や汗のような生理的な反応があらわれる。けがを負ったことや仕事に行けなくなったことなどに対して気分の落ち込みを示す場合や、逆に興奮や高揚することもある。自分が事故に遭ったことを受け入れられない否認や周囲への怒り、どうすることもできないという無力感、事故の起こった原因を自分に求めることによる自責感なども生じる。寝付きにくい、途中で目が覚めるなどの睡眠障害や、事故のシーンが突然頭に思い浮かぶ、神経が敏感になってイライラする、集中できない、ちょっとしたことで驚くなどの症状や事故を思い出させるようなものを避けるということがある。

[2]急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)
トラウマとなる出来事から1ヶ月以内に生じる特徴的な不安、解離などの症状が2日以上続く場合には急性ストレス障害と診断される。急性ストレス障害は4つの症状があり、侵入・再体験、回避、過覚醒に加えて解離性の症状があることが特徴である。ここでの解離性の症状は、生き生きとした感情が感じられないという感覚や、以前楽しめていたことで喜びを感じることが困難になるという感情の麻痺や、ぼうっとしていて集中力がないという感じ、自分が自分の体から離れているような感覚、何か生きている世界が現実のものと感じにくい感覚、事故のことなどの詳細が思い出せないなどの症状である。

(2) 慢性期(事故から数ヵ月後)にみられる症状
事故からしばらくするとしだいに精神的な落ち着きをとりもどすが、世界、自分、他人についての見方(認知)の変化があらわれることがある。事故にあったことで、世界はいつ危険がふりかかるかわからない、人は信用してはいけないと感じたり、自信を喪失したりする。そのことによって今までのような社会生活が送れなくなり、仕事や対人関係に支障を来すことになる。また、身体的障害を負った人では、回復しないのではとか、後遺症が残ることなどに強い不安を感じている。また、回復が思うようにならなかったりすることで、苛立ちや怒りが生じ、医療関係者の対応や治療についての不満という形であらわれることもある。また、はっきりとした診断はつかないものの、頭痛や、めまい、易疲労感、胃腸障害、身体の痛みなどの様々な身体愁訴に悩まされることもある。また、後遺症が残っているといつまでも事故を思い出すきっかけとなり、精神的な回復に影響を与える。

[1]外傷後ストレス障害(PTSD: Posttraumatic Stress Disorder)
PTSDは、トラウマ後の精神疾患として最も有名なものである。アメリカの精神医学会が出版している精神科診断マニュアルであるDSM-W-TRの診断基準を下記に示した。

外傷後ストレス障害の診断基準

A.その人は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある. (1) 実際にまたは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を,1度または数度,あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を,その人が体験し,目撃し,または直面した.

(2) その人の反応は強い恐怖,無力感または戦慄に関するものである. 注:子供の場合はむしろ,まとまりのないまたは興奮した行動によって表現されることがある.

B.外傷的な出来事が,以下の1つ(またはそれ以上)の形で再体験され続けている.

(1) 出来事の反復的,侵入的,かつ苦痛な想起で,それは心像,思考,または知覚を含む.

注:小さい子供の場合,外傷の主題または側面を表現する遊びを繰り返すことがある.

(2) 出来事についての反復的で苦痛な夢

注:子供の場合は,はっきりとした内容のない恐ろしい夢であることがある.

(3) 外傷的な出来事が再び起こっているかのように行動したり,感じたりする(その体験を再体験する感覚,錯覚,幻覚,および解離性フラッシュバックのエピソードを含む,また,覚醒時または中毒時に起こるものを含む).
注:小さい子供の場合,外傷特異的なことの再演が行われることがある.

(4) 外傷的出来事の1つの側面を象徴し,または類似している内的または外的きっかけに暴露された場合に生じる,強い心理的苦痛

(5) 外傷的出来事の1つの側面を象徴し,または類似している内的または外的きっかけに暴露された場合の生理学的反応性

C.以下の3つ(またはそれ以上)によって示される,(外傷以前には存在していなかった)外傷と関連した刺激の持続的回避と,全般的反応性の麻痺:
(1) 外傷と関連した思考,感情,または会話を回避しようとする努力
(2) 外傷を想起させる活動,場所または人物を避けようとする努力
(3) 外傷の重要な側面の想起不能
(4) 重要な活動への関心または参加の著しい減退
(5) 他の人から孤立している,または疎遠になっているという感覚
(6) 感情の範囲の縮小(例:愛の感情を持つことができない)
(7) 未来が短縮した感覚(例:仕事,結婚,子供,または正常な寿命を期待しない)

D.(外傷以前には存在していなかった)持続的な覚醒亢進状態で,以下の2つ(またはそれ以上)によって示される.
(1) 入眠,または睡眠維持の困難
(2) いらだたしさまたは怒りの爆発
(3) 集中困難
(4) 過度の警戒心
(5) 過剰な驚愕反応

E.障害(基準B,C,およびDの症状)の持続期間が1ヵ月以上

F.障害は,臨床上著しい苦痛または,社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.

△該当すれば特定せよ
急性 症状の持続期間が3カ月未満の場合
慢性 症状の持続期間が3カ月以上の場合

△該当すれば特定せよ
発症遅延 症状の発現がストレス因子から少なくとも6カ月の場合

高橋三郎、大野裕、染谷俊幸訳:DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版. 医学書院,2003.

◎PTSDの3つの症状

○侵入・再体験(B)
思い出したくないのに事故の記憶が勝手によみがえってしまう症状である。大変生々しくその時の光景が浮かんだり、音やにおいがしたりすることもある。そのため、思い出すと、その時の恐怖も再現されてしまい、動悸がしたり、呼吸が速くなったり、冷や汗をかいたりする。特に、現実感がなくなり、あたかもその事故の時の状態に戻ってしまったようになる場合には、(解離性)フラッシュバックと呼ばれている。この症状があると、被害者にとっていつまでも事故が過去のことにならず、現在の問題として体験され続けることになってしまう。思い出すきっかけは特にない場合もあるが、事故に関連した出来事(事故現場を通る、車に乗る、救急車のサイレン、事故のニュースなど)に接すると思い出す場合が多い。

例1
車が大破する交通事故を経験した女性。本人の怪我は軽度であったが、車が大きな音をたてて壊れ、やっと這い出てきた。それ以降、車に乗っていて対向車が向かってくると、「ボンッ」というその時の音が聞こえて、恐怖にすくんでしまう。怖くて車に乗ることができない。

○回避・麻痺(C)
記憶を思い出すことは被害者にとって極めて苦痛なため、被害者は可能なかぎり思い出す状況を避けようとする。できるだけ事故やそれに関係することを考えないようにしたり、話さないようにしたりする。そのため社会生活に影響があらわれる。例えば、保険の請求をしたいと思っても、保険の書類を見ることや電話をすることさえも苦痛で、後回しになってしまい、手続きが遅れる、十分な交渉ができないという問題が生ずる。事故現場が通勤途中であった場合には、通勤ルートを変えなくてはならず、費用や時間がかかったりする。車に乗ることや運転することの恐怖があると、通勤や子どもの送り迎え、日常生活などに多大な支障を来す。そのほかにも、事故の時の記憶が失われる(健忘)、今まで興味を持っていた社会活動への関心が失われる、他人から孤立しているように感じるなどの症状があらわれる。感情の麻痺によって、喜びや愛情といった感情もあまり感じなくなると、何をしてもおもしろくないというようになってしまう。

例2
自分が車を運転していて、対向車がぶつかり重傷を負った男性。車にはなんとか乗れたものの、対向車が向かってくると事故を思い出してパニックになってしまう。交通量の多い通りを避けていくため、通勤に非常に時間がかかるようになってしまった。

○過覚醒(D)
神経が敏感になっている状態である。このような状態が続くと、不眠(寝つきが悪い、何度も目を覚ます)、イライラしてちょっとしたことで怒りが爆発する、仕事や本を読むことに集中できない、ちょっとした物音などにとびあがるように驚くなどの症状が続くことになる。イライラして家族にあたったりするために家族関係が悪くなったり、仕事や学業の機能が低下するなど対人関係や社会生活への影響があらわれる。
PTSDの診断は上記の3つの症状を満たし、1ヶ月以上持続し、被害者が苦痛を感じ社会的機能の障害などが発生している場合に行われる。
交通事故によるPTSDの有病率は、事故から1年以上経過した事例においては、10%から20%前後という研究が多い。どういう場合にPTSDになりやすいかということでは、(1)事故の時に死の恐怖や生命の危機を認知すること、(2)事故の直後に侵入症状や回避症状が強くみられること、(3)急性期に麻痺、離人症、現実感消失などの解離症状があることなどが有力な因子としてあげられている。

(1)うつ病
交通事故におけるうつ病の有病率は、23%から67%であり、かなり多くの人に見られることがわかる。事故によって今までの人生が大きく変化するとともに、健康や、今までもっていた安心感、平穏な日常、金銭、車といった様々な喪失体験をすることや、事故に対する不安等の心労なども原因となる。うつ病になると以下のような症状があらわれてくる。 身体反応:不眠(中途覚醒、早朝覚醒、浅眠、時に過眠)、食欲の低下(時に過食)、やせ、性欲の低下、易疲労感、だるさ、頭痛、便秘、口渇
精神反応:抑うつ気分、意欲・関心の低下、集中力の低下、思考制止、悲観的思考、自殺念慮、自殺企図
上記のような症状のために、仕事や、人と交わることが困難になると、職場に行けなくなったり、外出せずひきこもりがちになったりする。重症になると、自殺念慮や自殺企図という問題も生ずるため、治療が必要である。

(3)運転・車恐怖症
交通事故に遭うと、また事故に遭うのではないか、あるいは自分が事故を起こすのではないかという不安を感じるようになる。さらに車に乗ると事故を思い出したりすることから運転や車に乗ることに対して恐怖感を抱き、避けるようになることがしばしばみられる。運転はできるが、事故現場を通れないなどの制限があったり、通勤や買い物などやむをえない場合しか乗らなくなったり、ひどい場合には全く運転できない、あるいは車に乗ることさえもできないというレベルまで様々である。このような運転恐怖があると社会生活に支障を来すというだけでなく、車の運転ができないということで自信の喪失という問題も生ずる。

(4)パニック障害
パニック障害は、強い不安や恐怖とともに突然、動悸、発汗、息苦しさなどの症状が発作的に出現し、患者は自分が死ぬのではないか、あるいはどうして良いかわからないという状態を感じる疾患である。過呼吸発作を伴うこともある。実際に身体的な異常はないのだが、精神的に苦痛な体験であり、またこの発作がおこるのではという恐怖からきっかけになる状況を避けたり、外出できなくなったりするようになる。

III.交通死亡事故遺族
交通事故によって愛する家族を突然失うことはその家族にとって大変つらい出来事である。いかなる形であっても死はその身近な人にとって苦痛で耐えがたい思いを強いるものであるが、病気と異なって事故の場合は、突然予期しない形で現れ、また、加害者が存在しなければ起きなかったという理不尽さから死を受け入れがたくさせ、複雑な葛藤を生み出すことになる。

(1) 一般的な悲嘆反応
急性期(数週間から数ヶ月):最初は出来事の衝撃のために死の事実を受け入れられない「ショックと否認」の状態となる。死を現実のものと考えることができないためである。感情が麻痺してしまい、つらいとか悲しいという気持ちがわいてこないために、涙さえ出てこない場合がある。この時期が過ぎると、次第に死を現実のものとして感じるようになるため、激しい悲しみに襲われる。
慢性期(数ヶ月後):数ヶ月たつと死を受け入れ、遺族自身の生活を再建するということが行われるが、この過程で、喪失に対する悲哀や抑うつ、怒り、不眠や身体的不調など様々な症状があらわれてくる。
遺族によくみられる症状を以下にあげた。

悲しみ、怒り、罪悪感と自責感、不安感、孤独感、疲労感、無力感、故人への思慕、身体的症状(腹部の空虚感、胸部の圧迫感、喉の緊張感、音への過敏さ、離人感、息切れ、筋力の衰え、体に力が入らない感じ、口の渇き、睡眠障害、食欲の障害)、思考・認知(故人についての考えへのとらわれ、故人の声や姿が見えるという幻覚)、行動(ぼうっとしている、周囲への注意の低下、引きこもり、故人を思い出させるものの回避する、遺骨など故人のものをいつまでも手放せないなど)

(2) 複雑な悲嘆反応(病的な悲嘆、あるいは外傷性悲嘆)
前述の悲嘆反応は、病死など死に対して一般的に見られる反応である。しかし、交通事故死の場合は、予期されない突然の死であり、かつ人為的なものである。このような場合には通常の悲嘆反応より症状が複雑になったり、長期化したりすることが見られる。その症状を以下にあげた。
(1)非現実感が長期間続く
(2)罪悪感が激しい
(3)誰かを非難してしまう
(4)裁判等が終わるまで悲しむことができない
(5)強い無力感と怒り
(6)故人のやり残したことへのとらわれ
(7)事故の原因や死について理解したいという強い欲求
(8)PTSDやうつ病、不安神経症、アルコールや薬物依存症などの精神疾患

IV.後遺症を抱えた被害者とその家族
遷延性意識障害や高次脳機能障害など交通事故によって脳に高度の障害を負った被害者では、本人だけでなく、その家族に多大なストレスが生ずる。脳外傷ではその部位や重症度に応じて様々な症状が出現する。その障害を負った部位の身体機能の麻痺、失調、知覚の異常、精神機能、認知機能の障害、意識障害や、場合によっては生命の危機を伴う。身体機能の障害と異なり、脳機能障害の場合、被害者本人が病状について理解することが困難なことが多く、被害を自身の問題として対処できず、家族がそれに代わって対処せざるを得ないことである。このような脳障害を負った家族の抱える問題を以下にあげた。

1.介護の問題
高次脳機能障害者を介護する家族では、身体的な負担もさることながら、精神的な負担が非常に大きいことが言われている。特に、障害に起因する本人の問題行動をなかなか受け止められず、それに振り回されて疲れてしまうということがある。特に、興奮や攻撃性の問題、意欲がなく無為に見えること、徘徊すること、障害を認識できていないことや何度注意しても学習できないことなどは、なかなか家族に受け入れがたい問題である。また、介護によって行動が制限されること(外出できない、社会参加できない、プライバシーが保てない)、介護に時間をとられること、経済的な不安、将来の不安(本人がどうなるのか、親がいつまでも面倒をみられない)などもある。
また、特に交通事故など突然の出来事によって本人がこのような障害を負うと、それ以前の本人の生き生きとしていた姿とのギャップが大きく、現在の姿を受け入れることが極めて困難となる。介護によって精神的疲労がたまると、家族の精神健康が障害され、うつ病に至る危険性がある。

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2.事故の処理が後回しになることの問題
事故の直後は生命の危機が考えられるような状態が多く、家族はひたすら本人の安否を気づかい、回復を祈る毎日となる。その結果、賠償を求める、裁判を起こすなどの余裕がない。一方的に、司法関係者、保険会社、加害者側の提供するものを受け入れるだけになってしまうこともある。情報も不足しているため、後からもっとできたのではという後悔を感じる場合がある。また、その後も介護しながらでは十分に対応できないという葛藤が続く。

3.支援体制の乏しさ
遷延性意識障害や、高次脳機能障害は医療の高度化に伴って出現してきた問題であるが、現在では医療や福祉での支援がまだ不十分である。在宅での介護になった場合の家族を支援する体制や回復のためのリハビリテーションの開発、介護にかかる費用の補助などについては、家族会などの活動によって学会や国、地方公共団体が取り組みをはじめようとしている段階であるため、現在は個々の家族の負担が極めて大きい状態である。

第3章 交通事故被害者への対応

T.はじめに
(社)被害者支援都民センターは、平成14年5月東京都公安委員会の指定を受け「犯罪被害者等早期援助団体」に指定された。そのため、悪質な交通犯罪により被害を受けた被害者本人や大切な家族を奪われ遺族となった被害者に対し電話相談・面接相談だけではなく、直接警察から連絡を受け、被害者の元へ出向き必要な支援を行う「直接的支援活動」も行なっている。
本章では、IIで被害者(遺族も含む)と接する時の基本的な対応を述べた後、IIIで被害者支援都民センターが行った、被害者遺族が求める支援内容についての調査結果を述べる。その後、IVで支援専門機関としての支援内容である、「危機介入(早期支援)」、「緊急カウンセリング」、「死亡告知」、「電話相談」、「面接相談」について述べる。さらに、Vとして自助グループ活動の意義と効果について述べることとする。
以下は、MADD(飲酒運転に反対する母親の会:アメリカ合衆国の民間組織)から、刊行されているパンフレット類を参考にして、まとめたものである。

II.被害者(遺族も含む)と接する時の基本的な対応

1.精神的支援を必要としている被害者にとって、最も助けとなること
(1)自分や家族に起こった理不尽な事故について、何度でも繰り返し話ができること。ただし、話したい、聞いてもらいたいと強く思う時と、その事故に関することに触れられることも苦痛で、そっとしておいて欲しい時がある。興味本意で聞いているのか、本当に心配して聞いてくれているのかを被害者は見抜くことができる。

(2)悲しみ・怒り・苦しみ・憤りなど、全ての感情を否定されることなく、当然の気持として受け入れてもらえること。

(3)同じような境遇に置かれている被害者や、その苦悩を乗り越えてきた被害者たちと一緒に、安心して心おきなく感情を吐露し分かち合い、話し合えること(自助グループ)。

2.被害者と会って話しをする時の手順
(1)自己紹介をする
・被害者は人を信用できない心境に陥っているため、しっかりと自己紹介をすることにより、自分の立場を簡潔に説明する必要がある。

(2)ゆっくりと話を聞き、決して話をせかさない
・被害者は、信頼できる人か否かを見極めてから話を始める。そのため、話しを急かされると本当の気持は話せなくなる。
・被害者の沈黙をおそれずに、話し出すのをじっと待つ時間が大切。
話し始めは、必ずしも事故とは関連のない話題から始めることも多い。支援を必要とすることを話し出すには時間がかかるのが当然のことである。
・被害者の目を見て、しっかりうなずいて積極的に聞く姿勢を示す。
・涙を流す人も多いのでティッシュを用意しておく。ティッシュを手渡すことは、泣き止みなさいという合図になることもあるため、横に置いておくだけで良い。
・落ち着いて話せない時や、黙っている時間が長い時には「話をすることも辛いのですね」、「他の被害者の人たちも皆そのことについて話すのがとても大変なのです」、「あわてなくていいですよ。時間はあるからゆっくりしてください」などと言い、話がスムーズにできなくて当然であり、何も気にすることはないことを伝える。

(3)どのような理由であっても、被害者の話を途中で遮らない
・被害者と話をしている人には、周囲の人も話しかけたり電話を取り次いだりしないようにする。
・話を遮られると、被害者の話に価値を見出していないという印象を与える。
・被害者の気持ちが軽くなるような話に変えようと考えることは、被害者の辛い話を聞きたくないと思っている、という印象を被害者に与える。

(4)被害者の心情を認めて、共感し、そして支持する
・被害者自身「自分は非常識なことを言っているのかもしれない。人として口にしてはいけないことを言っているかもしれない」などと考えながら話をしている。そして、話しながらも被害者は、「自分の発言内容を批判や批評、否定されたら堪えられない」などと考え、人の反応に敏感になっている。
・すべての感情を受け入れてもらえた時、「口では非常識なことを言ったけれど、冷静に自分なりにもう一度考えてみよう」と、気持ちの余裕を持てるようになる。
・心から出た下記のような言葉が役に立つ場合も多い。
「このような辛いことから立ち直るのは、とても大変なことです。人が考えている以上に困難で、長い時間がかかるのが普通です」
「あなたが今、思っていることや感じていることは、被害者であれば誰でもが思ったり、感じたりして当然のことです」
「様々な気持を無理に抑える必要はないですよ」
「人の思惑など気にすることなく、そのままの感情を出して良いのですよ」

(5)被害者が本当に必要としていることは何なのかを見極める
・信頼関係がない場合、被害者は本心を話さず、一見関係がないと思えることから話し始めることが多い。
・被害者が何を必要として、何を求めているのかを注意深く洞察する。
例えば
精神的支援を求めているのか
同じような被害者の仲間を求めているのか
刑事手続きに関する情報を求めているのか
損害賠償に関する情報を求めているのか
加害者側からの接触に対する対応について知りたいのか
日常生活に関する支援を求めているのか
家族内の問題(夫婦関係・子供の養育・不登校や非行)を抱えているのか
社会生活上の問題(仕事・近隣との関係など)を抱えているのか 等

(6)必要な情報を提供する
・情報がなくカヤの外に置かれることで、被害者は、不安や不信感が増大し疑心暗鬼に陥りやすくなる。そこで、警察の被害者支援室の存在、検察庁の被害者支援員制度、行政機関の相談窓口、法律相談所、適切な医療機関、精神保健福祉センター、保健所などの情報を提供する。できれば、担当者の名前を教えることが好ましい。

3.精神的支援を必要としている人に接する時、留意すること
・話した内容は、誰にも知られることなく秘密は守られることを伝え、安心感を与える。
・被害者は事故直後からしばらくの間は、心身がマヒ状態にあり、身体の怪我の具合や精神的打撃の大きさに自分自身が気付いていないことが多いため、話しの中から気付かせる対応が必要である。
・精神的支援を受けることが一般的になっていない社会なので、被害者も必要性を理解していない。そのため、十分に時間をかけて話しを聞き、感情を吐き出すことの効果を実感させる。
・被害者は、様々な思いや感情を繰り返し話すことにより、自分の心理状態を整理し、事故を過去のことと自分の中に位置付け、自己コントロール感を取り戻すことができるようになる。
・「精神的支援を受けるのは弱い人であり、恥ずかしい」という偏見や思い込みが強い被害者が多いことを知った上で対応する。
・被害者が持つ、悲哀・恐怖・罪悪感・怒り・憤怒などは我慢するものではなく、外へ出しても良いものであり、そして、それらの感情はすべて受け入れてもらえるものである、という安心感を与える。
・怒りや悲しみの後に出て来る落ち込み(うつ状態)は被害者であれば誰にでも出てくるものであり、長期間続く場合もあることを伝えておく。
・被害者の持つ感情は、信頼できる人に繰り返し体験を語り、受け入れてもらえることにより、徐々に改善され、これからの生き方や、やるべきことなどを考えていく気持ちが持てるようになる。
・質問をする時は、「はい」「いいえ」で応えられる聞き方をしないで、被害者自身が考えて説明しながら答えるような聞き方をする。

(1)悲哀について
・亡くなった家族や、怪我をした被害者が「どんなにかあなたにとって大切な人であったかがよくわかる」という意味のことを、話を聞きながら伝えることが必要である。
・被害者が自殺を考えていることが察せられる時には、誰(何)に対して一番憤りを感じているかを見つけ出して、その人(物)に向かって怒りを表すことのできる会話をする。
・信頼関係ができているのであれば、心の底から「死んではいけない」と言ってあげる。

(2)恐怖について
・怪我をした被害者や突然遺族となった人は、ちょっとしたきっかけ(事故の時敏感になった視覚・聴覚・嗅覚に関連すること等)で恐怖が蘇り混乱することがあるが、誰にでも起こる当たり前のことであることを教える。
・被害者自身が恐怖について話ができる時には十分に話をさせる。話をすることにより恐怖が深まり逆効果の場合は時期を待つ。
・事故の時何をしていたのか、どう思ったのか、家族はどうしていたのかなどを聞き、被害者自身が口に出して説明ができるようにすると、コントロール感を取り戻すのに役に立つ。
・恐怖を感じないようにするため、被害者自身が今何をしているのか、何をしたいと思っているのかなど、被害者本人の工夫を聞きそれを認め支持する。
・コントロールできない恐怖感でも、時間の経過とともに少しずつ薄れていくことを伝える。
・被害者が理性的に物事を考えることができるように「今回の事故から、どのくらいたてば恐怖が薄れると思うか」「今後どのように生きていこうと思っているか」などを聞き、支持する。

(3)罪悪感について
・遺族は、自分が生きていることにも罪の意識を感じ、いつも自分を責めている。その自責の念が高じて「遺された者が普通に暮らしていては、亡くなった人に申し訳ない」と考え、自滅的になり仕事を辞め、家庭も崩壊させ周囲からも孤立し、あえて不幸な人生を歩きだす遺族も多い。
・事件や事故は何時、誰に突然起こるかわからないものであり、それが起きたことについては「あなたは何の責任もない。悪いのは加害者である」と、折に触れて伝え続けることが大切である。
・被害者が持っている罪悪感(私があの時こうしていれば、被害を避けることができたのではないかなど)について、全部話をさせた後、そのことがどんなに辛いことであるかを認める。そして、「しかし、それは被害者や家族の過失でも責任でもない」、「その時々で最善の方法を選んできたはず」、「加害者がいなければ事故は起きなかった」などと、被害者に過失はなかったという意味のことを繰り返し言い、安堵感を与える。

(4)怒りや憤怒について
・日本の社会は、不幸な出来事に対しては「耐え忍ぶことが美徳」とされるため、被害者の抑え切れない怒りや悲しみに対し、周囲の人は困惑することが多いが、当然の感情として受けとめることが必要である。
・女性は、怒りを我慢して許すように教えられてきている。男性は、感情を表すことは弱さの表れだと思っている。しかし、もともと人間は自分にとって理不尽なことが起きた時は怒るように出来ていることを指摘し、怒りは当然の感情であることを伝える。
・被害者自身も、怒りを我慢できない自分は人間として未熟だと思われていないか等を気にしているがゆえに、「我慢するように」と人から言わることを恐れて敏感になっている。 ・怒りを感じることは当然である、と同調・共感をして被害者の話しを聞くことが大切。「怒りを大切にしなさい。我慢しなくて良いのですよ」と、助言すると、被害者は「ようやく分かってくれる人に出会えた」と思うことができ、人への信頼感を取り戻す。
・怒りを心に閉じ込めていると、肉体的(肩・首・腰の痛み・心臓病・胃腸障害・高血圧・がん等)、精神的(睡眠障害・抑うつ状態・自殺願望等)、社会的(仕事上の能率・人間関係等)にも問題が出てきて、その後の生活にも支障を来す。

(5)何か行動を起こす時は、理性的な判断のもとに行うように勧める
・どのような感情を持ってもよいが、行動には良い悪いがあるため、社会通念上道徳的な考えに基づいて行わなければならないことを、被害者に伝える。
・行動を起こす時はできるだけ多くの案を被害者自身に考えさせ、その中から自分で理性的に、1つ選ばせるようにする。

(6)自己回復力を育むために役立つ対応方法
・被害者が自分で決めることができるように被害者の考えを尊重する。
・被害者は、安心して話ができる人に出会えた時、本心を話しながら自分の気持ちを整理し、理解して、その中から今後の身の振り方を考えることができるようになるものであることを伝える。
・被害を乗り越えるには、長い時間がかかって当然であることを教える。
・日本では早く立ち直る人が立派な人であるという教育を受けてきているため、早くしっかりしなければと自分にムチ打つ被害者が多いが、本当の立ち直りには何年もかかることを折に触れ伝える。
・早く元気になろうと頑張り過ぎると、何年もたってから突然に間違った形(うつ病・自殺)で出現することもあることを伝える。
・何年たってからでも、時々発作的に被害にあった時のことを思い出し苦悩することがあるが、それも当然のことであることを伝える。
・時々うつ状態になったり無気力になったりすることは、よくあることなので、何もできない自分を責める必要はないことを伝える。
・本当に悲しいことは、話をすること自体に苦痛を伴うため、かえって身内同士では話し合えないことが多いことや、同じ家族であっても、悲嘆からの立ち直り方や掛かる時間に違いがあることを教える。
・仏壇の前に座ることが辛いことや、お墓を見るのが辛いため、お墓参りができないことや、お線香の臭いが苦痛なことも、遺族として当然の感情であり、周りの人の価値観や思惑に振り回されることなく、自分が納得できる形で供養してあげればよいことを伝える。

(7)役に立つ受け答えの言葉の例
−被害直後の場合−
・交通犯罪でお亡くなりになった(重症を負った)ことに対しまして、心からのお悔やみ(お見舞い)を申し上げます。
・この度の許せない交通犯罪に対し、私も心からの憤りを感じています。どんなにか苦しいことと思います。
―日常生活支援の場合―
・何かお手伝いをさせてください。買物や食事の支度をしましょう。
・食事を作ってきましたので、食べてください。
・子供さんを公園に連れて行って遊ばせていますね。
・このこと(事故・司法制度上の不備・家族間の不和・二次被害)などは、あなたにとって大変辛いことだと思います。
―感情を受け止める場合―
・あなたはその人を本当に大切に思っていたのですね。
・○○さん(亡くなった)についてお話を聞かせてください。お写真を見せてください。
・○○さん(亡くなった)は、本当に皆から大切にされて(好かれて)いたのですね。お友達がたくさんいたのですね。
・悲しんでいいのですよ、泣いて良いのですよ。泣けて当たり前です。
・怒るのが当然です。
・そのこと(亡くなったこと)を認めるのは、誰でもとても辛いことです。
・あなたと同じ状況にいる被害者の方たちも、皆あなたと同じ気持ちです。
・今までと同じように仕事や家事ができなくなって当たり前です。
・何をする気力もなくて当然です。
・無理に頑張る必要はありません。自分の感情を素直に出して良いのですよ。
・本当に辛いことは、人は一生忘れられなくて当たり前なのです。

以上のような言葉は様々な場面で役に立つものであるが、言う人が被害者を目の前にした時、心からそう思い自然に出た言葉でなければ被害者の心には響かず、かえって傷つくだけになる場合もある。
極限状態にある被害者に接する時は、接する人の人間性が直接的に問われることを知っておく必要がある。

4.被害者にしてはいけないこと

(1)「もしあなたがあの時○○をしていなければ(○○でなかったら)」などと言って、被害者が持つ罪悪感を助長しない
・遺族はいつも自分を責める材料を探し、無関係なことでも事故に結びつけて苦しんでいる。しかし一方では、「あなたの責任ではない」と言ってもらうことで安心したい気持ちが強い。そのため、不用意な「責任を感じさせる言葉」を使わない。
・被害者が理性的に自分自身を責めている時は「それは本当であるかもしれないし本当でないかもしれない。どちらにしてもそれが起こるとは決して望んでいなかった」、「その時はそれが最善の方法だったのでしょう」などと言い、被害者の言葉を肯定しない。

(2)被害の状況を他の人と比べない
・被害者になる苦しみは、被害者自身にしかわからないため、他の被害者より軽い、重いなど、第三者が比べてはいけない。被害者自身がどう感じているかを尊重しなければならない。

(3)強くなることを勧めてはいけない
・外見上、どんなに強く見える被害者でも、被害者は誰も強いなどとは思っていない。「強い」などと言われると困惑し、「必死で堪えているのに誰にも理解してもらえない」と思ってしまう。

(4)「○○○と思うべきではありません」などと言ってはならない
・感情はそのまま無条件に認めなければいけない。他の人にとって理に適わないと思うことでも、被害者が感情全部を発散できるようにしなければ、被害者はより理性的な考え方で、自分自身の問題を自分で解決できるようにならない。

(5)話をする時は、被害者の苦悩から離れてはいけない
・被害者の話を止めることは、被害者が抱えている問題に関わりたくないということを意味する。被害者は、自分の感情を抑えられず、周囲の人に攻撃的な話し方をする場合があるが、しっかり受け止めることで信頼感が生まれる。

(6)被害者に接する人自身が自分の感情を押し込めて話をしてはいけない
・被害者に接する人が、人間としての感情を出さなければ、被害者自身も感情を出そうとは思えないので、回復につながらない。

(7)自分の考えや心情で、被害者を説得してはいけない
・接する人の政治的信条や宗教観・道徳観・価値観等を押しつけてはいけない。

(8)被害者に接する人ができないことを約束してはいけない
・わからないこと、できないことなどを聞かれたり求められたりした時は、なぜ答えられないのか、なぜ約束できないのか、その理由を正直に伝える。

(9)被害者にとって、二次被害になりやすい言葉の例
・強くなって、前向きに生きて行ってください。
・あなた1人が苦しいのではありません。
・どんなに嘆き苦しんでも、愛する人は戻ってこないのですよ。
・泣かないでください。
・泣いてばかりいると、○○さんは成仏できません。
・あなたの苦しみや悲しみは、良くわかります。
・早く元気になりなさい。
・時間がすべてを解決してくれます。
・辛いことは、早く忘れるようにしましょう。
・○○さんは人生を全うしました。
・起きてしまったことは、考えないようにしましょう。
・他にも子どもがいるじゃありませんか。
・また誰か良い人が見つかりますよ。
・良い人だったから早く天国に行ったのですよ。
・命が助かっただけでも良かったと思わなければ。

5.被害者が医療を必要としている時

[1] どのような場合に医療機関を紹介したらよいのか
被害者や遺族のすべてが精神的医療を必要とするわけではないが、中にはPTSDやうつ病にかかった場合など医療を必要とする場合がある。以下に、どのような場合に受診を勧めるべきかをあげた。

(1)医療機関(精神科、心療内科)の受診を勧めたほうがよい場合
食欲がない、眠れない、やせてきた、疲れやすい、不安や気分の落ち込みなどの症状があり、日常生活に軽度の支障を来している

(2)特に精神科の治療を早く勧めたほうがよい場合
・「死にたい」などの自殺願望や、自殺を考えるような言動が見られる場合、また、「自分は明日にでも死ぬ」というような強い確信を持っているような場合、「自分は生きる価値がない」、「生きる意味がない」というような発言があり、自暴自棄な印象を与える場合
・自殺の意志は不明確であるか、ない場合でも、手首を切るなどの自傷行為がある場合
・不安発作(呼吸が苦しくなり、死ぬのではないかというような発作)や漠然とした強い不安があり、社会生活上困難をきたしている場合
・フラッシュバックや、悪夢、過覚醒などPTSDを疑わせる症状がある場合
・解離症状(健忘、離人感、感情の麻痺など)が見られる場合
・抑うつ気分、早朝覚醒、意欲の低下などが続いており、うつ病が疑われる場合
・その他、情緒的不安定、精神的な不調により、日常生活や社会生活に支障を来している場合(学校や会社を休むなど)

精神科紹介の絵

特に、自殺について強い気持ちを持っている時や自傷行為がある場合には緊急対応が必要となるため、入院病棟を備えていたり、精神科救急を行っている医療機関を紹介するのが望ましい。

(2) 精神科などの医療機関はどのように探したらよいのか
個人で探す場合にはインターネットで検索するのが便利である。また、近所にどのような精神科医療機関があるかについては、保健所や精神保健福祉センターにて問い合わせることが可能である。

(3) 精神科での治療
精神科では、(1)薬物療法、(2)精神療法が受けられる。PTSDやうつ病では有効な薬が存在する。また、医療機関によっては心理カウンセラーによるカウンセリングを受けることもできる。

III.被害者が求める支援(被害者支援都民センターでの調査結果から)
(社)被害者支援都民センターでは、被害者遺族の求める支援を把握するために、13年1月に遺族73名にアンケート調査を行った結果、以下のような結果になった。

1.被害者遺族が希望している支援の内容
(1)直接的な支援として希望する内容
・葬儀や仏事の手伝い
・警察、検察、裁判所、病院などへの付添い
・家事や育児の援助
・書類の作成の手伝い
・マスコミ対策への助言と援助
・経済的支援など

(2)情報提供を希望する内容
・事故の捜査状況や加害者に関する情報
・刑事司法や刑事手続きに関する助言と情報
・被害者支援者や被害者支援センターの紹介
・被害に関する補償制度や加害者からの損害賠償方法などについて
・同じような被害者の紹介など

(3)精神的支援を希望する内容
・悲しみや怒りなど、すべての感情をそのまま当然のことと受けとめて支持してもらえること
・現在起きている精神的症状や今後の見通しについて教えてもらえること
・自分が受けた被害について何度でも安心して話しをすることができること
・必要に応じて医療の専門家を紹介してもらえることなど

(4)同じような被害者や遺族と一緒にいられることを希望する内容
・同じような被害者を紹介してもらえること
・自助グループへの参加希望など

回復している絵

2.調査結果の分析
被害からの年数の経過と共に希望する支援内容にも変化が出てくる。
・事件直後には、日常生活全般にわたる支援や、捜査や司法に関する情報提供、精神的支援など多くの支援を必要としている。
・被害後1年くらい経過した頃から、同じような被害者と話しをしたいと考えられるようになり、仲間を求める人が増えてくる。
・精神的支援や経済的支援、家事手伝いなどは長期にわたって必要としていることから、何年経っても、被害者の心の傷は癒されることはなく、長期にわたる継続的支援が必要とされている。

3.調査結果からの結論
(1)被害直後の遺族は遺族自身も、自分にどのような支援が必要なのかもわからず茫然自失の状態にある。そのため、支援者側が積極的に介入し、多岐にわたる遺族への支援を的確に判断し、関係機関とも連携しながらその時期に応じた支援を提供する必要がある。
(2)精神的支援として、身近な所でいつでも安心して電話相談・面接相談を受けることができる体制づくりと、必要に応じ専門家の治療が受けられるシステム作りが必要である。
(3)多くの遺族は同じ仲間との交流を求めているので、参加しやすいように身近な所で参加できる自助グループを各地に設立するための支援とその自助グループを効果的に運営するための支援が必要とされている。
(4)現在不足している家事手伝い等の日常生活支援や、経済的支援については、既存の福祉関係機関との連携を密にし、サービスを提供するシステムを作る必要がある。
(5)被害から1年以内に希望する支援内容と、1年以上経ってから希望する支援内容では、やや異なってくる。そのため、支援組織は事件直後の短期支援サービスプログラムと長期にわたる遺族の支援の要望に応えるため、長期支援サービスのプログラムが必要である。

IV.被害者支援専門機関としての支援

1.危機介入(早期支援)
交通犯罪によって傷を負ったり、あるいは大切な家族を亡くしたりするという体験は、衝撃が大きく、自分の力だけで乗り越えることが困難な状況に陥る。また、ものを考える力も判断力もなく、茫然自失の状態となり、心身ともに極限状態に追い込まれる。
このような危機状態に陥った時には、できるだけ早く周囲からの支援を得られることが望まれる。例えば、警察での事情聴取の際の付添いや保険会社との交渉をはじめとする関係機関などとの対応の代行、病院での付き添いなどの支援である。また、遺族であれば、通夜・葬儀などと次々に対応を迫られ、混乱を極めるため、役所への各種届け出手続きの代行や書類作成の代行などの支援を得られることが望まれる。
そのうえ、自分のことだけでなく家族への対応や家族の生活を維持するために行わなければならないことが多々ある。仕事に行くだけでなく、家事全般や子育てなども今までどおり行っていかなければならないが、精神的にも身体的にもできる状況にはない。
被害直後は、家族、親類、近所の人、親しい友人などが日常生活を手伝うなどして被害者を支える場合が多いが、周囲の人の手伝いも期限がありそう長くは続かない場合が多い。
また、刑事手続きの支援や、その後の被害者の精神的支援のためには、刑事司法や精神面での専門的な知識を持った支援者が必要とされることも多い。
そのため、被害直後から訓練された犯罪被害相談員(各都道府県の公安委員会から認定された相談員)による適切な支援が必要とされる。
被害直後からその時期に応じた適切な支援を受けた被害者は、被害からの回復も早く、被害後の自分なりの生活を再構築できると考えられる。

被害直後の支援としては、自宅や病院へ訪問し、被害者自身が安全感や安心感を持つことができ、自分の気持ちを十分に支援者に出すことができるように配慮しつつ、被害者の気持ちをすべて受け止めながら、被害者の受ける精神的影響などを伝え、次に起きてくる刑事手続き等に関する情報提供を行うことが中心となる。
通夜・葬儀においては、葬儀社を探すことから始まる。内容や費用等については、当事者である家族では決断ができず、業者の言いなりになりがちな場合もある。親族であっても地域性や近所との付き合いが分からず、どこまで介入してよいのか判断がつきにくいため、客観的な立場で助言できる支援者の支援が必要となる場合もあると思われる。
混乱している時は、親類や友人などへの連絡などでも、スムーズに出来ないこともあるため、支援者はその状況をすばやく判断し、代行できることは代行を申し出る。その際、気をつけることは、細かなことでも一つ一つ遺族に確認をしながら進めていくことが大切である。
場合によっては、買い物、子守りなど身の回りの具体的な支援の希望もあるが、犯罪被害相談員にできることには限度もあるため、できるだけ既存の福祉制度の活用や行政の窓口を活用することも重要である。
また、加害者から連絡(自宅訪問、通夜や葬儀への出席、お見舞い金の提示、示談交渉など)がきた場合の対応についてのアドバイスも必要である。被害者は、判断力が低下しており何も決められない精神状態にあることを理解し、被害者のおかれている状況を的確に判断しつつ、その気持ちを受け止め細心の注意を払いながら支援する必要がある。
犯罪被害相談員は2名の派遣を原則とし、直接被害者に接する支援者と周囲の人や関係者に気配りをしながら、支援が効果的に行えるよう配慮する役割を分担し、協力し合いながら対応する。精神的症状の有無を観察しながら、時期に応じた心理教育や様々な情報提供を行うことで、より早く被害者が支援者に信頼感を持つことができれば、被害者自身が本来持っている自己回復力で感情や行動をコントロールする力を取り戻すことができるため、支援者は自分の役割を熟知し支援することが大切である。

(1)最初に会う時の心構え
最初に会う時は、混乱状況に置かれている被害者の心身の状況や問題点の把握に努める。そして、具体的に、被害者の身体面への影響(ケガの状態、眠れているのかいないのか、眠れないのは寝つけないのか朝早く目が醒めるのか、食事は摂れているのかなど)や精神的影響(麻痺状態・過覚醒・フラッシュバック・回避症状など)の有無などを把握する。 また、現在の生活状況、周囲からの支援状況などを聞き、被害者が希望している支援を的確に判断すると共に、被害者の回復の視点をどこに当てるのかを考慮しながら、被害者に必要な支援(情報提供・電話相談・面接相談・直接支援・専門家や関係機関への紹介など)を提供する。
被害直後の被害者は、今自分に何が必要なのかも理解できない状態におかれている場合が多いため、支援は積極的に、それでいて押しつけにならないような形で、被害者への働きかけを行い、犯罪被害相談員の存在

(2)その後の接触での心構え
複数回の接触の中で、被害者が自分の感じる怒りや悲しみ、自責の念などを表出してくる時は、それを当然のことと受け止め支持することで、安心して気持ちを出せるように対応する。
それと同時に、被害者の状況に応じて、被害者を支援するために必要な関係機関、関係者などと連絡をとり、適切な支援が提供できるように調整することも支援者の大きな役割である。必要な時に多方面から円滑に協力が得られ、適切な支援を提供できるように、日頃から関係機関・団体や専門家、既存の被害者支援連絡協議会(各警察署単位で設置されている場合が多い)との連携を密にしておくことが重要である。
支援に当たっては、必要以上のことを支援者が背負い込んだり、できるかどうか分からない約束をしたり、支援者個人の価値観を植えつけたり、評価をしたりということがないように気をつける。
被害者と適切な距離を保ちつつ支援を行うためには、「被害者の意思の尊重」と「支援者の判断による積極的介入」との間で、微妙なバランスを保つことが要求される。また、被害直後の被害者に関わることは、支援者にとっても衝撃が大きいため、事例検討の開催や支援者自身のメンタルケアも十分に行われなければならない。

2.緊急カウンセリング
危機介入(早期支援)が日常生活の回復のために、支援者から危機に陥っている人たちへ半ば強引に手助けをすることと考えるならば、緊急カウンセリングは危機に陥った人が助けを求めて、支援者に歩み寄ってくることに対する精神的支援と考えられる。
しかし、日本では「緊急カウンセリング」がその明確な意味の下に活用されることは極めて稀であるように思われる。特に重い傷を負った被害者自身に対する緊急カウンセリングは、治療を含めて医療機関に委ねられるものであり、支援者が直接関わることはほとんどない。
むしろ、直接的支援として行われる危機介入と同時に、カウンセリングマインドを軸に据えた感情の受け止めと情報提供、と捉えたほうが実状に合っていると思われる。
交通死亡事故は、元気な姿で出掛けて行った家族が、何の予告もなく突然無言の帰宅をするという非情な事態である。混乱状態にある被害者の自宅へ出掛けて行くことが多く、茫然自失の被害者に付き添い、すべての感情は当然のことと受け止めながら、情報提供しつつ、心理状態、身体状態、日常生活状況、社会生活状況、職場での状況などに気を配ることから支援が始まる。様々な支援を行う時、その基本となるのは、被害者が安心して感情を表出できる信頼関係である。

(1)遺族への支援体制
犠牲となったのが父・母・子ども・祖父母・その他の場合によって求められる支援は多少異なる場合もあるが基本的には同じと考えて良い。

(2)回復過程を支えていく継続的支援を
いずれにしても、通常の形をとらない緊急カウンセリングは、その後の被害者の回復に大きな影響を及ぼすことになる。事故からしばらくは無我夢中で生活をしているが、親戚縁者が帰り、通常の生活パターンに戻った時に、以前とは全く違った生活になっていることを思い知らされ、衝撃を受けることがあるという精神状態についても説明しておくことが必要である。
状況によっては、その場にいる親類や知人・友人に、犯罪被害相談員の役割を理解してもらうことにより、いつでも電話をかけたり手紙を送ったりできる関係をつくっておくことも大切である。被害者に「いつでも助けを求めることができる人がいてくれる」という気持ちを持ってもらうことは、精神的な回復の第一歩となる。
緊急カウンセリングは、被害者がたどる長く辛い回復の過程を支え、危機介入以降の継続的支援につなげていくという大切な役割を担っている。

3.死亡告知
日本では、多くの場合、警察による犯罪被害者初期支援制度が行われているため、現段階では事故直後に支援者が死亡告知することはない。しかし、将来的には役割として出てくる可能性もあると思われる。そこで、アメリカの被害者支援センターで実践されている方法を紹介することとする。
被害者支援の危機介入プログラムにおいては、亡くなったことを遺族に伝えることが支援者の役割としてある。実践活動を行ってきた経験上、被害者がどのような形で亡くなったかというのは、遺族の精神的回復に大きな影響を及ぼしていると思われる。 被害者や遺族は、事件に関する記憶の細かい部分は抜け落ちることが多いが、死亡を知らされた方法やその時の状況は鮮明に記憶に残っている。

[1]実際の方法
死亡告知は、電話ではなく自宅へ出向いて直接、家族などに伝える。夜遅く伝える時は警察にも一緒に行ってもらう。
(1)死亡告知内容
・だれが
・いつ
・どこで
・どのような形で亡くなったか
の事実のみを伝える。
(2)死亡告知の手順
A 自己紹介
・名刺を渡し、名前と所属機関を伝える。
B 家へ入ってよいかどうかを確認してから、家に入れてもらう
・この時、家へ入れてもらうことが大切。
・玄関先で少し話したあとに、戸を閉められると正確に伝えることができない。
C 玄関に出てきた家族以外にも、家族がいるか否かを聞く
・他にも家族がいる場合は、呼んでもらって全員に一緒に伝える。
D 告知をする時は座ってもらう
・立ったままでいられず、倒れるようなことがあれば、正確に伝えることができない場合もある。
E はっきりした表現で伝える
・「大変お気の毒です。ご家族の○○さんが△△(殺人事件・傷害事件・交通事故・その他)で亡くなりました。」とはっきり言う。
・「大変です」とか、「深刻な状態です」などとは言わない。
告知の絵

(3)告知後
A 伝えた後、聞いた側の反応を待つ
・無表情の人
・怒りをあらわにする人
・泣きわめく人
・取り乱す人
など、様々である。
B 抱きかかえたりせず一緒にいる
C 遺族側から聞かれなければ、具体的情報があっても伝えない
D 遺族側の質問に対し、はっきりしていることは答えるが、推測では決して伝えない
・質問で多いのは「誰が犯人なのか」と聞かれること。
・質問する時は、はっきりした答えを求めているので、後で訂正すると信頼感を失うことになる。
・あいまいなことを伝えることは遺族を混乱させ、その後の回復に影響がある。
(2) 終了のタイミング
親戚、友人などが来れば終了する。
(3) 告知を通じて常に配慮すること
人間が本来持っている"自己回復力"を削(そ)がないようにする。
(4) その他
(1)滞在時間
・遺族の状況により異なるが、一般的には、親戚や友人、被害者の支援組織などが来れば終了する。
(2)手渡す資料など
・被害者に関する小冊子(交通事故被害者の手引き、全国の被害者支援組織一覧パンフレット、検察の被害者支援)など、必要な資料を渡す。
4.電話相談
交通事故の被害者からの電話相談への対応は、その他の犯罪の被害者への対応と、様々な共通部分があるように思われる。
被害者が自ら受話器をとって、相談機関に電話をかけるためには、かなりの勇気とエネルギーが必要であると思われるので、相談を受ける側はまずそのことを心に留めて話を聴かなければならない。
交通事故の被害者からの相談や求められる支援の内容は、被害状況によってかなり違ってくる。
(1)電話相談の対応で留意すべき事項
(社)被害者支援都民センターへの電話相談では、事故後の補償に関するものが一番多い。そのような相談では自賠責保険、任意保険についての質問、示談への対応、支払い能力のない加害者への対応、民事裁判への対応など、アドバイスや情報を求められる場合がほとんどであるため、ある程度の法的知識は必要である。
相談内容によっては、弁護士を紹介するなど、他機関との連携により支援する場合や、実際の生活の中での具体的支援を実施する必要性のある場合もある。
交通死亡事故及び重傷を負うような事故の被害者の場合は、直後に相談がくることはほとんどなく、数週間後、数カ月後あるいは数年後のこともある。
事故から時間が経っている被害者からの相談内容は、精神的支援を必要とするものが多く、具体的には「なかなか立ち直れない」、「辛い状態がいつまで続くのか」、「本当に立ち直れるのか」というように、不安や焦りなど、心理的な問題を抱えている場合が多い。
なかには「夫(妻)と気持ちを共有することができず、助け合うことができない」、「残された子供に心を配ることができない」など、家族が危機的状況になっていて、それぞれに精神的支援が必要な場合もある。
また、警察・検察への対応、遺族の場合は、通夜や葬儀などの対応に追われたり、周囲の人からの心ない言葉に傷ついたりと、心身共に疲れ果てて相談電話をかけてくる被害者や、刑事裁判に納得できず、その怒りをぶつけてくる被害者も多い。
このような被害者の相談に対応するに当たって留意すべき点がいくつか挙げられる。
A まず傾聴すること。怒り、悲しみ、苦しみの気持ちをじっくり聴く。被害者が安心感を持つと事故や被害の内容、自分の感情などについて話せるようになる。自分のことは話さず、客観的な話ばかりする場合でも、電話を掛けてきたその背後には話したいとの気持ちがあるはずなので、心配りが必要である。
B 被害者の言葉を簡単に言い換えたり、要約したりしない。被害者が支援者との間に気持ちのずれを感じはじめると、次第に話すことができなくなり「分かってもらえない」という失望感につながってしまう。
C 死亡事故の場合、亡くなった人との生前の関係で、遺族の中でも思いに差があることを理解する。そのことを伝えることが、被害者の「気付き」になり、安心感につながることもある。
D 裁判中の場合、現実の対応に追われて心身のケアがおろそかになっていることがあるので、日常生活に関することなども聞き、気付いたことは伝える。本人と周囲の人との考え方に違いがあり、心身共に行き詰まっている場合には、話をする中から、何が大切か気付かせたり、一緒に考えたりする過程が大切である。
E 悲しみや怒りの感情が出てきて、ちょっとしたことで泣いてしまったり、不安定になることを訴えたり、生活感覚(食べる、着る、寝るなど)や季節感覚が失われていることを訴える場合は、「当然で、正常な反応である」ことを伝える。
F 今後起きることが考えられるフラッシュバックや、記念日反応(事故が起きた日・亡くなった日・故人のお誕生日等のように、思い出すことが辛くなった日)についてもあらかじめ伝えたほうがよい場合もある。

(2)電話相談を受ける場合の心構え
交通事故に限らず、事件や事故に巻き込まれてしまった被害者は、それまでの人生を一方的に理不尽にも奪われ、日常生活、家庭生活、社会生活も寸断され、これまでの人間関係の継続も困難になり、将来への夢や希望も失い、ささやかな喜びや楽しみを感じることもできなくなってしまう。それは、体験者でなければ判かり得ない想像を絶する苦痛と苦悩なのである。
相手の姿が見えない電話相談において、そのような過酷な状況に置かれている被害者に対してできる支援は限られている。しかし、その困難の中で自らその電話を掛けてきた被害者のために、電話だからこそできる支援もあるはずである。
被害者は「話したいと思った時に、信頼できる人に、話したい」という思いを持っている。その被害者の思いを心に留めて、電話相談を受けることが大切である。

電話相談の絵

5.面接相談
被害者の受ける精神的影響についてはこれまでに述べてきたが、これら一連の症状は、多くの被害者やその遺族が体験するものであり、自分では受け止めきれない大きな出来事に遭遇した、人としての当然の「心的反応」なのである。しかし、このような状態が長期間にわたって続くと、日常生活や家庭生活、社会生活が破綻したり様々な影響が出てきたりすることもある。そのため、1日も早くこのような状況から回復し、他者に対する信頼感や、自分自身の自尊心を取り戻すために面接相談を行う。
この面接相談には、一連の流れがある。以下、その流れに添って初回、中期、終期の面接の注意点について述べてみたいと思う。

(1)初回面接相談時の注意点
初回面接相談は、被害者を支援するうえで重要な役割を果たす。面接相談時の雰囲気をくつろいだものとするためには、刺激的な置物などは避け、花などは色の淡いもの、大きくないものをさりげなく飾ったり、観葉植物を置いたりするなどの環境整備が必要である。テーブルの上にはさりげなくティッシュペーパーや時計を備えておき、照明なども明るすぎないことに気を配る。また、支援者の服装の色は黒・茶・灰色などのように地味な色彩のものにし、華美なアクセサリーなどは身に付けない。このような様々な配慮を通じて、この場所が安心感と安全感に守られている空間だと感じてもらうことが大事である。
実際の面接相談では、相談室に入って来た被害者に挨拶をし、支援者は起立して迎え入れる。面接受付用紙に家族構成、同居の有無、被害にあった日、相談したいことなどを書ける範囲で記入してもらうようにする。
被害者は、この段階では直感的に支援者を観察しており、真摯な態度で被害者に向き合う姿勢がないと信頼感を得ることができないため、支援者自身の人間性が問われ、緊張する場でもある。
その後、面接前に、被害者が話される内容については秘密が守られること、一回の面接時間は45分〜60分くらいを目安としていることを伝える。
支援者が特に気をつければいけないのは、面接相談には自ら限界があると自覚し、できない約束はしないことである。情報については、確実なものを伝えることである。支援者が知りたいと思う情報を被害者に聞く時は、なぜ知りたいのかについて丁寧に説明する必要がある。それを怠ると、被害者が不信感を抱くこともあり得るからである。
被害者は支援者側に何を求めているのかをまず支援者が理解し、支援者側は何ができるのかを知らせることが必要である。そして、今どのような日常生活を送っているのか、食事や睡眠は取れているのか確認する。家族との関係や安全が確保されているなど、こちらから言葉をかけることによって明らかにしていく。これら一連の過程の中で、被害者は「受け入れられている」と感じ、安心感を持ち、この支援者に話してみようと思えるようになるのである。被害者は言葉に出せたことでほっとすることができる。
しかし、なかには言葉にすることができない被害者もいる。精神的打撃の大きさに圧倒され、沈黙せざるを得ない状況になることもある。その場合、沈黙はどういう意味があるのか聴き分ける必要がある。そして話しにくい場合は、記録としての日記などをつけてみることを提案する。初期の面接相談では、日記(記録)を素材にして面接を進めることはとても有効な場合がある。被害と向きあう主体的な取り組みのはじまりになるのである。 人に支援を求めることは自分の弱さなのではないかという気持ちから、できることなら支援など受けたくないと思う被害者もいる。しかし、そうではなく、「被害を現実として受け入れようとする勇気」であることを伝える。
この時期は、精神的反応による様々な症状が現れることが多いが、様々な症状は多くの被害者に起こり得ることで、異常なことではないことを告げる必要がある。自分が異常になったのではないことを知ることは、自尊心を取り戻す第一歩となる。

相談の絵

(2)中期面接時の注意点
中期になると、少しずつ支援者との人間関係もスムーズになり、安心感が増し、自己の感情のコントロールができてくるようになり、精神的症状に苦しむ回数が減ってくる。そして、日常生活や社会生活が何とかできるようになり、周囲の人との疎外感なども徐々に解消されていく。
支援者との面接相談を通して「この辛い体験や、亡くなった家族を忘れることはできない。しかし、自分を心配してくれる人が側にいる」と感じられるようになる。
すべての感情をそのままに受け入れられる体験を積み重ねることで、十分に感情を吐き出すことができるようになり、その体験が元来持っている自己回復力を育むのである。
また、言語によって自己の経験や感情を的確に表現し、それがそのまま受容され理解された時、被害者はどうにもならない現実や、どうにもできない自分を受け入れることができるようになる。それができて初めて、被害に遭った現実を自分の中で受け止め、生きていけるようになる。

(3)終期面接相談時の注意点
終盤になると、被害者は感情のコントロールを始め、閉ざされていた人間関係が回復し、地域の人との交流を再開したり、自分なりの楽しみを見つけたりすることができるようになる。そこで新たな生きる意味を見いだし、これからの人生を再構築していくことができる。
また、この時期は感謝の言葉が出始めることもある。その時は、互いに面接の終結のタイミングを感じ合えることもあるため、面接相談の流れを振り返り、回復のプロセスを共有しあって、終結とする。ただし、遺族や重症を負った被害者の場合、面接を終了しても、自助グループでの支援を継続した方が良い場合も多いため、被害者と相談し自助グループへの参加を進めることも大切な支援であることを知っておかねばならない。
なお、面接に携わる支援者として被害者に向き合う時、感受性豊かで温かな人間として対等に被害者に接しているか否かを常に自分に問いつつ、関わっていくことが大切である。

X.自助グループの意義と効果

自助グループとは、「同じような悲しみや苦しみを抱えた者同士がお互いに支え合い励まし合う中から、自分が抱えている問題の解決や克服を図る」ことを目的に集う活動をいう。

1.自助グループの目的

(1)悲嘆を取り除くのではなく、乗り越えるのを支え合う。
(2)自分の考えや気持を素直に語る事により、新しい被害者にとっても、時間が経った被害者にとっても、交流する中から各々が希望を持てる場になる。
(3)回復の過程は似ていても被害者自身の方法や時間で回復することを実感する場でもある。

2.参加する者の目的
(1)自分自身が抱えている問題に対処する。
(2)被害に遭うことで破壊され、失われた人や社会への信頼感を取り戻し、健全な自己愛を再構築する。

3.自助グループの効果
[1] 実践活動から
(1)仲間の存在そのものが孤立感を軽減する
・被害者は皆、自分でも整理の出来ない怒りの感情を持て余し、自己嫌悪に陥ることが多いが被害者であれば当然の感情と分かるだけでも安心できる。
(2)安心して感情を吐露できる
・話すことにより、自分でも気付かなかった感情に気付くことは回復のために大切なことである。
(3)社会への信頼感を取り戻す
・被害者だけでなく、犯罪被害者相談員や精神科医、警察官、弁護士等が参加するため、被害者支援に取り組んでいる人々と出会える。その結果、社会に対する怒りを和らげ、"それでもこの世は捨てたものではない"と思える場になる。
(4)新たな被害者が、それ以前に被害にあった被害者に会い、回復していることを見て希望が持てるようになる。
(5)自分の体験談が他の被害者に役立つことを実感し、「こんな私でも他の人の役に立てるという実感」を持てることが自尊心を取り戻し回復に役立つ。
(6)周囲や関係者から受ける二次被害は、被害者に共通のこととわかるだけでも安心感を持つことができ、苦難に立ち向かう勇気を得ることができる。
(7)怒りの気持や、悲しみから抜け出せない自分だが、弱いのではなく被害者として当たり前の感情だと分かり、気持にゆとりが持てる。
(8)他の被害者がどのようにして回復してきたのか、どのように工夫して生きているかを知り、今後の生き方の参考になる。
(9)仲間の話しの中から、自分なりの回復のきっかけを掴むことができる。
例えば
・カウンセリングを受けよう
・民事裁判をしよう
・亡くなった家族の持ち物や部屋を片付けよう
・納骨をしよう
・自分なりの法事をしよう
・被害者の実態や命の大切さを社会に訴え社会を改革しよう 等
(10)情報を得ることができる。
・被害者支援の現状や動きを知り、今後のことなどを考えることができる。
(11)仲間の中で、対人関係能力が育ち、再び社会に対してや周囲の人に対しての人間関係の再構築と信頼感を取り戻すための場所になる。
(2) 自助グループ参加者への調査結果から
(1)参加前の状況
・自助グループ参加当時は、「不安や不眠」、「家事や仕事の能力が落ちたと思う」、「人と会うのがわずらわしい」、「気持がうつ的」、「遺族となった実感が持てない」、「故人のことが頭から離れない」、「自分が弱い存在であるように感じる」、「加害者に激しい怒りを感じる」などを訴える遺族が大多数だった。
(2)参加して1年経過した時の状況
・社会機能障害、抑うつ状態は改善している。
・「家事や仕事への意欲や興味を持てる」、「近所の人や友人との疎遠な感じが軽減された」、「社会から疎外されている感じが軽減された」、「喜びや楽しみを感じたり、笑ったりすることができる」など、一般的な精神健康状態が回復していた。
(3) 調査結果からの結論
自助グループに参加することによって気分や社会生活が改善していることがうかがわれたことから、自助グループの中で感情の表現や安心できる関わり、また、社会参加への意欲、将来への希望などがもたらされたのではないかと考えられる。
このことからも自助グループは、そこでの安心できる人間関係の構築と人間的な繋がりを取り戻し、感情の回復や意欲の改善をもたらす効果があると考えられる。



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