第1章 平成17年度事業の概要

I 目的

増え続ける交通事故により、毎年多数の被害者・遺族が生じている現状を踏まえ、平成13年3月に作成された第7次交通安全基本計画では、「被害者対策」の充実を重点・新規施策の一つに特記し対策の充実を図っている。これに基づく政府の取組としては、すでにいくつかの行政機関が支援を提供しているが、相互連携の枠組みが必ずしも整備されておらず、また、行政が提供するに適さない支援活動も多い(精神的な立ち直り、家事育児の援助等)ことから、被害者の要望に応じた十分な支援がなされるには至っていない。しかし、この点について、近年、交通事故の被害者自身による自助グループや専門相談員を擁する民間被害者支援組織が各地に誕生しつつあることから、これらと連携し、全体としての支援サービスを質量ともに向上させることが可能な状況になりつつある。

内閣府では、平成14年度に「交通事故の被害者に関する調査研究」を実施し、その結果、交通事故の遺族・被害者は、身体的苦痛、精神的ショックはもとより、経済的な負担、家事や育児の負担、介護や看病の負担など多様な困難に直面し、周囲からの支援を希望していることが明らかになっている。

本事業は、交通事故の被害者支援に関するリソースの充実等を行うことにより、支援の高度化を図り、国民が互いに支えあう、安全で安心できる交通社会を形成することを目的として平成15年度から実施しており、今年度が3年目になる。

II 事業の概要

平成17年度においては、以下の事業を行った。

(1)研修教材等開発事業

本事業においては「パートナーシップ事業」の成果を活用して、自助グループを立ち上げ、更にはその活動を継続させるために役立ちうる事柄をまとめた『自助グループ支援マニュアル』、及びその別冊として『交通事故によってご家族を亡くされた方へ−心の回復のために−』を作成した。

交通事故被害者遺族が被害、とりわけ精神的被害から立ち直るために利用しうる手段は多様であるが、被害者が相互に話し合い、かつ支えあう場である自助グループは極めて有効である。しかしながらこの自助グループの立ち上げ及びその継続は、人的資源及び財政的資源の観点から、極めて困難であることもまた事実である。この点に鑑み「パートナーシップ事業」においては「立ち上げ支援」及び「継続支援」を行ってきたが、これらを継続し定着させるには、この事業の成果を活用したマニュアルの作成は効果的かつ効率的である。このような考えの下に作成された『自助グループ支援マニュアル』の内容については、本報告書の第2章及び『自助グループ支援マニュアル』の通りであるが、「自助グループの意義と目的」、「自助グループの進め方」、「自助グループの効果」、「自助グループ活動Q&A」などに関して、具体的かつ実用的な記述がなされている。また、別冊の『交通事故によってご家族を亡くされた方へ−心の回復のために−』は、自助グループに参加する交通事故被害者遺族の方々に役立つのみならず、それ以外の交通事故被害者遺族の方々にも広く役立つものである。

自助グループ活動の発展のため、この『自助グループ支援マニュアル』及び『交通事故によってご家族を亡くされた方へ−心の回復のために−』が広く活用されることを期待するものである。

(2)パートナーシップ事業

交通事故被害者遺族の被害からの回復における自助グループの果たす役割については、既に述べたところである。本事業においては主たる事業として、二箇所の支援センターにおける自助グループの立ち上げ支援、並びに四箇所の支援センターにおける継続支援及び継続研修を行った。また従たる事業として、自助グループの効果を測定するために、自助グループへの参加者を対象とする質問票による調査を実施した。これらの事業の詳細については、本報告書の「第3章パートナーシップ事業」の通りである。なおこの章においては、この事業に携わった支援センター等の職員や自助グループの参加者の氏名が示されている。この点については本人及び関係者の了解を得ていることを念のためここに記しておく。

(3)パイロット事業

本事業は、海外における交通事故被害者支援事業につき、先進的事例を研究し、わが国への適用を検討しようとするものである。平成17年度においては、アメリカ合衆国の各州において運営されているVictim Impact Panelを対象とすることとし、文献的研究及びアメリカ合衆国カリフォルニア州における専門家による現地調査を行った。Victim Impact Panelにはさまざまな形態があるが、本事業で取り上げたものは、飲酒運転につき有罪判決を受けた者に対して、飲酒運転による事件の被害者及び遺族がその打撃を語る会合に出席するよう裁判官が命じる司法処分である。この司法処分によって違反者に参加が義務付けられる会合の運営は、MADDなどの民間機関が中心となって行われている。

本報告書の第4章においては、この制度につき、法律上の位置づけ、運営状況、再犯予防及び被害者の回復に対する効果などについて紹介されるほか、アメリカ合衆国運輸省高速道路交通安全局の刊行による、この運営に関するマニュアルも紹介される。

この制度は、交通事故被害者がその経験を語るという点において自助グループと類似している点もあり、被害者が精神的打撃から回復するのに役立っているといわれている。この制度はまた、わが国の犯罪被害者等基本法及びそれに基づく「犯罪被害者等基本計画」においても検討されるべきであるとされている、刑事司法への被害者等の参加に関するものであり、わが国においても参考になりうるものと思われる。

III まとめ

平成17年度に実施した事業の成果については、既に述べたとおり、以下の各章及びこの事業による刊行物に詳細に示されている通りである。これらの成果が十分活用されて、交通事故被害者に対する支援が充実したものとなり、交通事故被害者の被害からの回復が促進されることが期待される。