第4章 スキルアップ事業教材開発事業

I.目的

内閣府では、平成15年度より交通事故被害者支援事業を立ち上げ、交通事故の被害者に対する支援の充実を図るため、担当者用マニュアル、そのマニュアルのダイジェスト版と理解を促進するためのビデオ及び自助グループ立ち上げ用マニュアル(小冊子)を作成してきた。

本事業は、前事業の成果を受け、さらに交通事故被害者に対する支援活動の高度化を目的として、支援担当者用の研修教材等を開発するものある。

II.事業内容

本事業は、以下のとおりである。

  1. 平成17年度に作成した「自助グループ支援マニュアル」のビデオ版の作成
  2. 意見交換会で挙がった問題点等を反映させた「自助グループ支援マニュアル(改訂版)」の作成

III.自助グループ支援マニュアルの改正点について

「自助グループ支援マニュアル」は、面接相談や直接的支援と同様に犯罪被害の回復と被害者支援の充実のために必要である自助グループを効果的に運営できることを目的に作成したものである。

意見交換会では、被害者支援センターと交通事故相談所が、会合などを定期的に実施し、互いの業務内容を把握することによって連携を強め、被害者への対応を的確に実施することが大切であるとの認識で一致した。

本マニュアルは、自助グループを効果的に運営できることを目的としているが、交通事故被害者にとって、加害者に対する損害賠償請求も重要な問題である。自助グループを効果的に運営する方法とは別に、交通事故相談所の存在意義や役割を記載することも検討する必要がある。

IV.自助グループ支援マニュアルビデオ作成について

1.主旨

自助グループは、被害者支援センターに付随したものとしてその存在意義は大きいが、まだ立ち上げていない被害者支援センターも多い。したがって、これから自助グループを立ち上げようと考えている被害者支援センターに対し、自助グループを効果的に正しく運営できることを目的としたビデオを作成することとした。

ビデオは、活字では理解を得られない事項も、具体的な図や表などを駆使することで、わかりやすく表現できるとともに、臨場感や高揚感を得ることができるため、教材としては非常に効果がある。平成16年度事業においても、「担当者マニュアル(ダイジェスト版)」とともにビデオによる「交通事故被害者の抱える問題とその精神的影響」を作成し、好評を得ている。

2.シナリオについて

ビデオのシナリオは、以下の要旨に従って作成した。

(1)自助グループ活動について

交通事故被害者の遺族が負った計り知れない心の傷は、個人の力だけで問題を解決したり、対処していくのが困難な場合もあり、また、周囲からの二次的被害により孤立してしまうこともある。

このような時に、自助グループ活動を通じて、同じようなつらさを抱えた遺族同士が集い、お互いに支え合い、励まし合うことが、孤立感を軽減し、生きる力を取り戻すための大きな力となることを紹介する。

(2)自助グループ活動の意義と目的

被害者の遺族は、関係者や周囲の人たちから励ましの言葉をかけられることがあるが、それに応えるのは難しいことであり、一方で周囲の励ましに応えることができない自分は弱い人間と自らを責めるようになる。ここでは、実際の被害者の方の心境を述べてもらうとともに、(社)被害者支援都民センターが実施したアンケート結果の紹介と(社)被害者支援都民センター大久保事務局長による事故後の被害者遺族の心境と自助グループの意義についての解説を行う。

(3)自助グループ活動の進め方

ここでは、自助グループを進めるに当たって事前準備として行うべき内容と、自助グループ活動を実施している時に、ファシリテーターが気をつけなければならない注意点等を役者によって紹介する。

(4)自助グループの効果

(社)被害者支援都民センター大久保事務局長により、自助グループ活動の効果を9項目に渡って解説するとともに、実際の被害者の方に活動に参加した結果、どのように心が変化したかを述べてもらう。

(5)心(こころ)の回復のために

自助グループ参加者の中には、あまりにも心の傷が大きすぎるため、日常生活や社会生活が困難になり、自助グループ活動に参加するだけでは十分に回復できない遺族もいる。そこで、このような遺族に対してはどのように対応すれば良いのかを、国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部犯罪被害者等支援研究室中島室長による専門家に相談した方がよい“こころの状態”とその対応についての解説を行う。

(6)エピローグ

エピーグでは、支援センターにおける自助グループは、面接相談や直接的支援と同じように、被害者支援の一環として大きな役割を果たしている。また、自助グループの活動は、単に定例会だけでなく、全国規模の被害者支援フォーラムへの参加や、自治体が行う公報啓発活動への参加、全国の支援センターが行う被害者支援キャンペーンに対する協力、さらには少年院や交通刑務所での教育活動など、その活動の範囲を広げて社会貢献に結びつけることもできので、日本の各地に自助グループが立ち上がり、効果的に運営ができることを期待する内容とする。

V.まとめ

平成17年4月に「犯罪被害者等基本法」が施行され、「犯罪被害者等基本計画」が策定された。その目的の中に「犯罪被害者等は、目に見える被害に加え、配慮に欠けた対応による新たな精神的被害や再被害の不安、望む限りの情報が得られないことや望むような関与ができないことによる疎外感・無力感、さらには周囲の目や誤解に基づく中傷、無理解な対応や過剰な報道等による名誉や生活の平穏の阻害、孤立感等を踏まえ、総合的に取り組む・・・」と書かれていることからもわかるように、交通事故被害者等が置かれる現状には依然として厳しいものがある。

「犯罪被害者等基本計画」における「4つの基本方針」は、

  1. 個人の尊厳が重んじられその尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること
  2. 被害の状況や原因等、被害者が置かれている個々の事情に応じて適切に行われること
  3. 再び平穏な生活を営むことが出来るまで必要な支援を途切れることなく受けられこと
  4. 被害者等の名誉や生活の平穏を害することが無いよう、国民の総意を形成しながら展開されること

となっている。

また、「5つの重点課題」は

  1. 損害回復・経済的支援等への取組
  2. 精神的・身体的被害の回復・二次被害や再被害の防止への取組
  3. 刑事手続きへの関与拡充
  4. 支援等のための体制整備への取組
  5. 国民の理解の増進・協力の確保等への取組

となっている。

また、平成18年に出された第8次交通安全基本計画でも交通事故被害者への支援の必要性が明記されていることからも、被害者へのさらなる支援体制の充実が重要である。

被害者支援センターで電話相談、面接相談、直接的支援等と同じように自助グループ活動も、支援の一つである。そのため、被害者支援センターに付随した「自助グループ」の存在意義は大きく、被害者(遺族も含む)の回復のためにも、被害者支援センターの活動を充実するためにも不可欠である。

しかし、その意義や必要性がわかっていても、実践するには不安が大きく立ち上げることに躊躇する被害者支援センターも多い。また、立ち上げたとしても、被害者や関係機関からの信頼感を得ていなければ日常の被害者支援や自助グループ活動は充実していかない。

一方、被害当事者が仲間同士励まし合いたいと考え、当事者同士の自助グループを立ち上げても、その後継続的に運営するには精神的・経済的不安や負担を感じることも多く、かえって被害者同士で傷つけあってしまうこともある。

また、多岐に亘る被害者の要望に沿うためには、交通事故相談所等と民間被害者支援センターは意見交換会や勉強会を開催し、連携を密にして多方面から被害者の回復を支えていかなくてならないことを共通認識とする必要がある。

そのため、このマニュアルが、被害者と支援に関わる人たちの双方に活用され、日本の各地に自助グループが立ち上がることに役立つと共に、効果的に継続的に運営できることを願っている。なお、法制度の整備に伴い今後マニュアルの改正が必要である。