トピックス
高齢者の交通安全に向けた取組~認知症高齢者の増加も見据えた交通安全対策~
1.高齢者に係る交通事故防止対策について
警察では,ゾーン30※を始めとする生活道路対策の推進,バリアフリー対応型信号機の整備,自転車通行環境の確立等により,高齢歩行者・自転車利用者の安全確保を図っている。また,道路標識の高輝度化・大型化,信号灯器のLED化,高齢運転者等専用駐車区間制度の運用等により,高齢運転者が安全に安心して自動車を運転できる交通環境の整備を推進している。さらに,高齢者の移動手段としての公共交通の重要性が増大していることを踏まえ,地域公共交通の活性化及び再生に向けた取組について,関係機関・団体等との連携を図っている。
また,関係団体等と連携し,特に,運転免許を持たないなど,交通安全教育を受ける機会のなかった高齢者を中心に事故多発交差点等における個別指導等を行うとともに,高齢者に対する参加・体験・実践型の交通安全教育を積極的に推進している。
高齢運転者に対しては,更新時講習における高齢者学級や高齢者講習等において,高齢運転者の運転特性や交通事故の特徴等に応じた講習を行っている。
また,交通事故件数等が増加傾向にある75歳以上の高齢運転者に係る交通事故防止対策を推進するため,
- <1> 一定の違反行為をした75歳以上の高齢運転者に対する臨時認知機能検査の導入
- <2> 臨時認知機能検査で認知機能の低下が自動車等の運転に影響を及ぼすおそれがあると判断された者に対する臨時高齢者講習の導入
- <3> 運転免許の更新等の際の認知機能検査で認知症のおそれがあると判断された者に対し,その者の違反状況を問わず,臨時適性検査(専門医の診断)を行い,又は医師の診断書の提出を命ずることを可能とする制度の見直し
等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」(平27法40)が,平成27年6月に公布された。本改正と併せて,70歳以上75歳未満の高齢運転者及び75歳以上の高齢運転者のうち認知機能検査で認知機能が低下しているおそれがないと判断されたものに対する講習を合理化するとともに,認知機能検査で認知機能が低下しているおそれがあると判断された者等に対する講習内容の充実に努めることとしている。
【事例】
福井県警察では,ドライブレコーダーを活用した高齢運転者の交通事故抑止対策を実施している。日常的に自家用自動車を運転する75歳以上の高齢運転者を対象に,一定期間(約1週間)ドライブレコーダーを貸出し,高齢者自身の運転車両に取り付けたドライブレコーダーの記録映像をもとに,警察官が運転診断や安全運転指導を行い,高齢運転者自身に運転上の問題点等を自覚させている。
2.運転適性相談の充実について
警察では,障害者及び認知症を含む一定の症状を呈する病気等にかかっている者が安全に自動車等を運転できるか個別に判断するために運転適性相談窓口を設置している。運転適性相談窓口では,専門知識の豊富な職員を配置するとともに,相談者のプライバシーに特段の配慮をしている。また,患者団体や医師会等との密接な連携を取りながら,必要に応じて相談者に専門医を紹介するなど,運転適性相談の充実を図っている。あわせて,運転免許センターや警察署にポスターを掲示するなどにより,運転適性相談窓口の周知徹底に努めている。
※熊本県の取組
熊本県では,国の財政支援制度(地域医療介護総合確保基金)を活用し,運転免許センター内に医療系専門職員(看護師)3名を配置して,警察職員が行う運転適性相談時に医療的側面から病状の把握・相談等の支援を行っているほか,病状に応じて医療機関への受診勧奨等を実施し,認知症等の早期発見を促進するとともに,高齢者等の交通事故防止を図っている。
3.運転免許証の自主返納について
認知機能や身体機能の低下等を理由に自動車等の運転をやめる際には,運転免許の取消しを申請して運転免許証を返納することができるが,その場合には,返納後5年以内に申請すれば,運転経歴証明書の交付を受けることができる。この運転経歴証明書は,金融機関の窓口等で犯罪による収益の移転防止に関する法律(平19法22)の本人確認書類として使用することができる。
警察では,運転経歴証明書制度の周知を図るとともに,運転免許証を返納した者への支援の強化に努めるなど,自動車等の運転に不安を有する高齢者等が自主的に運転免許証を返納しやすい環境の整備に向けた取組を進めている。
【参考】自治体が行っている様々な運転免許証自主返納の支援施策
〇岡山県警察の取組
「おかやま愛カード」とは,運転免許証を自主的に返納された県内に居住する65歳以上の高齢者(以下「高齢者」といいます。)の方の申請により,県警察が発行するカードで平成28年4月1日現在,2万9,000人以上の高齢者が利用されています。
「おかやま愛カード」の協賛店や協賛車でこのカードを提示しますと,商品や運賃の割引などのサービスが受けられます。
平成28年4月1日現在約1,800を超える協賛店,県内全域の主要路線バス,2,500台を超えるタクシーのほか,鉄道も井原鉄道,水島臨海鉄道,智頭急行が協賛しており,運転免許証を自主返納された高齢者の生活支援を行っています。
4.鉄道交通における取組について
平成28年3月1日に,認知症の症状が見られた男性が電車にはねられて死亡した事故に関する最高裁の判決があったところであり,こうした事故が少しでも減るよう交通安全対策を進めていくことが必要である。
鉄道交通の分野においても,認知症の方を含む高齢者の安全確保にも資するよう,駅のホームドアの整備,非常押ボタンの操作等の緊急措置の周知徹底,踏切における非常押ボタンの整備,障害物検知装置の高規格化等を推進しているところである。
また,高齢者の見守り活動を活用した地域ぐるみの安全確保の取組など,ハード,ソフトの両面から取組を推進している。
関係省庁連絡会議の活用
今般の最高裁判決を受けて,政府としても,関係省庁で構成する「認知症高齢者等にやさしい地域づくりに係る関係省庁連絡会議」を積極的に活用し,認知症の方による事件・事故に社会としてどのように備えていくのか,実態把握の方法などについて検討していくこととしており,認知症や高齢の方にやさしい地域づくりに向けて一丸となって取り組んでいく。
「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」について
我が国の認知症高齢者の数は,2012(平成24)年で462万人と推計されており,2025(平成37)年には約700万人,65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれている。今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気となっている。
厚生労働省では,団塊の世代が75歳以上となる2025(平成37)年を見据え,認知症の人の意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し,新たに「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン)を関係府省庁と共同で策定した(平成27年1月27日)。
新オレンジプランでは,対策の柱のひとつとして「Ⅴ認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進(4)安全確保」において「認知症の人や認知機能が低下している人による交通事故を未然に防止するための制度の充実,交通安全の確保」を推進していくこととしている。
交通安全フォーラムの開催について
- 内閣府では,交通安全意識の高揚を目的として,交通安全フォーラム」を毎年度開催している。平成27年度は11月17日に静岡県,静岡市との共催により,『誰もが安全,安心を実感できる交通社会の実現に向けて-高齢者を交通事故から守るために-』をテーマに開催し,約320人の参加があった。
- この日のフォーラムでは,ご出席いただいた有識者から,高齢者を交通事故から守るための対策の重要性等について,意見が述べられた。
基調講演(実践女子大学人間社会学部 松浦常夫教授)
松浦教授からは,高齢運転者の事故防止の観点から,次のようなお話があった。
高齢運転者の事故増加の主な要因の一つに,老化による心身機能の低下があるが,夜間や雨の日の運転をしないといった運転制限,運転前の体調に気をつけるといった運転準備,運転中にわき見をしないといった注意集中など,「補償運転」を実践することで,事故の危険性を低下できる。高齢者のうち,運転技能を高いと自己評価するものの,客観的には運転技能は低いというギャップのある方は,補償運転をあまりしないという傾向があるので,運転技能を正しく自己評価し,補償運転を実践して交通事故防止に取り組んでいただきたい。
パネルディスカッション(コーディネーター 安全教育研究所所長 星忠通氏)
出雲信久氏(静岡県警察本部通部参事官兼交通企画課長)からは,体調不良時や夜間等には運転を控えてもらう「段階的な運転自粛の推進」や3年以内に複数回事故を起こした高齢者の自宅訪問による個別指導に取り組んでいる。』,川守田拓志氏(北里大学 医療衛生学部専任講師)からは,「夕方・夜間及び高齢になると視覚機能が低下することから,ライトの早期点灯,さらに速度を落として運転することが事故防止に効果的である。」といった貴重なお話をいただいた。また,浅茅陽子氏(女優)からは,自発光式反射材の効果を来場者に実感いただくために,実演をいただくとともに着用促進の呼びかけが行われた。