第2編 海上交通
第1章 海難等の動向

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第2編 海上交通

第1章 海難等の動向

1 近年の海難等の状況

我が国の周辺海域において,交通安全基本計画の対象となる船舶事故隻数の推移をみると,第9次交通安全基本計画期間(平成23~27年度)の年平均では2,256隻であったものが,令和3年では1,932隻となっており,約1割減少した(第2-1図)。船舶種類別では,プレジャーボート,漁船,貨物船の順で事故隻数が多く,小型船舶(プレジャーボート,漁船及び遊漁船)の事故隻数は,全体の約8割を占めている(第2-2図)。

※遊漁船
「遊漁船業の適正化に関する法律」(昭63法99)第2条第2項に規定する「遊漁船」をいう。

第2-1図 船舶事故隻数及びそれに伴う死者・行方不明者数の推移。いずれも減少傾向にある
第2-2図 船舶種類別の船舶事故隻数の推移。プレジャーボート、漁船、貨物船、遊漁船、旅客船、その他。令和3年は、プレジャーボート、漁船、貨物船の順に多い

このような船舶事故の状況において,船舶自動識別装置(AIS)を活用した次世代型航行支援システムの運用を始め,海難防止思想の普及,民間団体の海難防止活動の展開,気象・海象情報の提供の充実等の各種安全対策を計画的に推進しており,一定の成果が認められるが近年の国民の余暇志向の高まりに伴い,ウォーターアクティビティが急速かつ広範に国民に普及し,運航のための初歩的な知識・技能の不足した運航者が増加しており,引き続き安全対策を推進する必要がある。

※船舶自動識別装置(AIS)
AISは,船名,大きさ,針路,速力などの航海に関する情報を自動的に送受信する装置で,総トン数300トン未満の旅客船及び総トン数300トン以上の船舶であって国際航海に従事するもの並びに総トン数500トン以上の船舶であって国際航海に従事しないものへの搭載が義務付けられている。

船舶事故による死者・行方不明者の数は,第9次交通安全基本計画期間の年平均で91人であったものが,令和3年では63人となっており,約3割の減少となった(第2-1図)。

また,交通安全基本計画の対象となる船舶からの海中転落者数の推移をみると,第9次交通安全基本計画期間の年平均人数では174人であったものが,令和3年では142人となっており,約2割の減少となった。これに伴う死者・行方不明者の数は,第9次交通安全基本計画期間の年平均で106人であったものが,令和3年では80人となっており,約2割の減少となった(第2-3図)。

第2-3図 船舶からの海中転落者数及び死者・行方不明者数の推移。海中転落者数、死者・行方不明者数。どちらも減少傾向にある

第11次交通安全基本計画では,海難における死者・行方不明者を減少させるために,救助率を95%以上とする目標が定められており,海上保安庁において,救助・救急体制の充実強化,民間救助組織等との連携・協力に努めた結果,令和3年の救助率は95%であった。

※救助率
要救助海難の乗船者数及び海中転落者数(自力救助を除く。)のうち,救助された乗船者数及び海中転落者数の割合

2 令和3年中の海難等及び海難救助の状況

(1)海難等の状況

ア 船舶事故等の状況

令和3年の船舶事故は,1,932隻,181万総トンであり,次のような特徴が見られる。

(ア) 船舶種類別状況

船舶種類別では,プレジャーボートが1,019隻(53%),漁船が428隻(22%),貨物船が198隻(10%),遊漁船が80隻(4%),タンカーが57隻(3%),旅客船が33隻(2%),その他が117隻(6%)であり,小型船舶の事故隻数が全体の79%を占めている(第2-2図)。

(イ) 事故種類別状況

事故種類別では,衝突が396隻(21%),運航不能(機関故障)が290隻(15%)等である(第2-4図)。

(ウ) 距岸別状況

距岸別では,港内が852隻(44%),港内を除く3海里未満が846隻(44%),3海里以上12海里未満で発生した海難が173隻(9%)等となっており,12海里未満で発生した事故が全体の97%と大半を占めた(第2-4図)。

(エ) 事故原因別状況

事故原因別では,見張り不十分が326隻(17%),操船不適切が259隻(13%),船体機器整備不良が162隻(8%)等運航の過誤によるものが全体の60%を占め,これに機関取扱不良206隻等を加えた人為的要因に起因するものが全体の72%を占めた(第2-4図)

(オ) 海中転落事故の状況

船舶からの海中転落者数は142人で,これを船舶の用途別にみると,漁船が65人(46%)で最も多く,プレジャーボートが42人(30%),小型船舶以外の船舶が32人(22%),遊漁船が3人(2%)である(第2-4図)。

第2-4図 船舶事故等の状況 内訳。(イ)事故種類別状況、(ウ)距岸別状況、(エ)事故原因別状況、(オ)海中転落事故の状況の4つのグラフ。(イ)は、衝突、運航不能(機関故障)、乗揚の順に多い。(ウ)は、港内、港内を除く3海里未満、3海里以上12海里未満の順に多い。(エ)は、見張り不十分、操船不適切、船体機器整備不良の順に多い。(オ)は、漁船、プレジャーボート、小型船舶以外の船舶の順に多い

イ 死者・行方不明者の発生状況

令和3年における,船舶事故による死者・行方不明者数は63人(前年より7人減少)(第2-1図)であり,このうち49%がプレジャーボート,43%が漁船によるものである。

また,船舶からの海中転落による死者・行方不明者数は,80人(前年より3人増加)であり,このうち47%が漁船,23%がプレジャーボートによるものである。

ウ ふくそう海域における大規模海難の発生状況

令和3年における,ふくそう海域における大規模海難の発生数はゼロであった。

(2)海難救助の状況

ア 海難船舶の救助状況

令和3年は,海難船舶1,932隻の中で自力入港した597隻を除いた1,335隻のうち,1,105隻が救助され,自力入港を除く海難船舶隻数に対する救助された隻数の割合は83%であった。海上保安庁は,巡視船艇延べ1,144隻,航空機延べ161機を出動させ,海難船舶485隻を救助した(第2-5図)。

第2-5図 海難船舶の救助状況の推移。自力入港、全損又は行方不明、海上保安庁以外の救助、海上保安庁救助、自力入港を除く海難船舶隻数に対する救助された隻数の割合。いずれも微減傾向にある

イ 人命の救助状況

令和3年は,海難船舶の乗船者7,665人の中で自力救助の4,741人を除いた2,924人のうち2,874人が救助され,自力救助を除く海難船舶の乗船者に対する救助された人数の割合は98%であった。

海上保安庁は,巡視船艇延べ1,638隻,航空機延べ262機を出動させ,海難船舶の乗船者986人を救助した。

3 令和3年中の小型船舶の事故等及び海難救助の状況

(1)海難等の状況

令和3年の小型船舶の事故隻数は1,527隻であり,前年より23隻減少した。これに伴う死者・行方不明者数は46人であり,前年より5人増加した。

この1,527隻についてみると,次のような特徴がみられる。

ア 船型別状況

船型別では,プレジャーボートが1,019隻(67%),漁船が428隻(28%),遊漁船が80隻(5%)である。このうち,プレジャーボートの事故隻数の内訳は,モーターボートが769隻(75%)(うち,ミニボート121隻),手漕ぎボートが98隻(10%),水上オートバイが93隻(9%),ヨットが59隻(6%)であり,ミニボートの事故が増加傾向にある(第2-6図,第2-7図)。

第2-7図 小型船舶の船型別事故隻数の状況及びプレジャーボートの事故隻数内訳(令和3年)。小型船舶とプレジャーボートの2つのグラフ。小型船舶は、プレジャーボート、漁船、遊漁船。プレジャーボートで7割近くを占める。プレジャーボートは、モーターボート、手漕ぎボート、水上オートバイ、ヨット。モーターボートが7割を越えている
第2-7図 プレジャーボートの船型別船舶事故隻数の推移。モーターボート、ヨット、手漕ぎボート、水上オートバイ、ミニボート(モーターボート内数)。モーターボートが突出して多く、ミニボート、手漕ぎボートと続く

イ 事故種類別状況

事故種類別では,衝突が284隻(19%),運航不能(機関故障)が248隻(16%),浸水が163隻(11%),乗揚が161隻(11%),運航不能(推進器・舵障害)が125隻(8%),運航不能(無人漂流)が110隻(7%)転覆が109隻(7%),火災・爆発が64隻(4%),単独衝突が32隻(2%)等である(第2-8図)。

第2-8図 小型船舶の船型別・船舶事故種類別発生状況(令和3年)。衝突、単独衝突、乗揚、転覆、浸水、火災・爆発、運航不能(機関故障)、運航不能(推進器・舵障害)、運航不能(無人漂流)、運航不能(その他)、その他。プレジャーボート、漁船、遊漁船、総計毎に示している。総計では、衝突、運航不能(機関故障)、運航不能(その他)の順に多い
ミニボート(運航不能)を救助する巡視船。ミニボートに乗船している人を救助している巡視船の乗組員

ウ 事故原因別状況

事故原因別では見張り不十分が267隻(17%),機関取扱不良が188隻(12%),船体機器整備不良が150隻(10%),操船不適切が146隻(10%),気象・海象不注意が134隻(9%)等の人為的要因に起因するものが全体の72%を占めた(第2-9図)。

第2-9図 小型船舶の船型別・事故原因別船舶事故発生状況(令和3年)。操船不適切、見張り不十分、船位不確認、気象・海象不注意、水路調査不十分、船体機器整備不良、その他の運航の過誤、機関取扱不良、積荷、火気可燃物取扱不良、材質構造不漁、不可抗力等、その他。プレジャーボート、漁船、遊漁船、総計毎に示している。総計では、最も多い不可抗力等を除くと、見張り不十分、機関取扱不良、船体機器整備不良の順に多い
(2)海難救助の状況

ア 海難船舶の救助状況

令和3年は,プレジャーボート等の海難船舶1,099隻の中で自力入港した204隻を除いた895隻のうち774隻が救助され,自力入港を除くプレジャーボート等の海難船舶隻数に対する救助された隻数の割合は86%であった。海上保安庁は,巡視船艇延べ946隻,航空機延べ102機を出動させ,プレジャーボート等海難船舶423隻を救助した。

イ 人命の救助状況

令和3年は,プレジャーボート等の海難船舶の乗船者2,607人の中で自力救助の844人を除いた1,763人のうち1,734人が救助され,自力救助を除くプレジャーボート等の海難船舶の乗船者に対する救助された人数の割合は98%であった。

海上保安庁は,巡視船艇延べ946隻,航空機延べ102機を出動させ,プレジャーボート等の海難船舶の乗船者794人を救助した。

知床遊覧船海難事故(令和4年5月1日現在)

令和4年4月23日,北海道知床沖航行中の遊覧船「KAZU I(カズワン)(総トン数:19トン)」が沈没し,乗員乗客26名のうち14名の方が亡くなり,12名の方が依然行方不明という痛ましい海難事故が発生した。

ア 概要

4月23日13時13分頃,北海道知床沖航行中の遊覧船「KAZU I」が浸水している旨の海難情報を海上保安庁にて入手。その後,関係機関(海上保安庁・自衛隊・北海道警察等)や民間救助船(観光船・水難救済会所属漁船等)が連携し,捜索救助活動等を実施している。なお,海上保安庁巡視船の水中ソナーや海上自衛隊掃海艇の水中カメラにより,4月29日,水深約120メートルの海底で遊覧船「KAZU I」を発見した。

イ 事故発生後の対応

事故発生後,関係機関や民間救助船による捜索救助活動を開始した。

国土交通省本省に事故対策本部を設置したことを始め,現地においても対策本部を設置し,情報収集及び共有並びに被害に遭われた乗客のご家族等への捜索状況の提供等を行っている。

被害に遭われたご家族等への支援を行うために設置している公共交通事故被害者支援相談窓口を,4月24日以降24時間体制とするとともに,必要な情報提供やご家族等からの質問・要望等への対応を行っている。また,現地に到着されたご家族等に対しては,相談窓口の連絡先等を記載したコンタクトカードを配布するなど,ご家族等に寄り添った丁寧な対応を行っている。

運輸安全委員会は船舶事故調査官を現地に派遣し,4月24日から事故原因の調査に着手している。

4月24日より,海事局及び北海道運輸局の職員が有限会社知床遊覧船(北海道斜里町)の事務所に立ち入り,特別監査を実施している。

4月25日より,全国の運輸局等において,旅客船事業者に対する緊急安全総点検を実施している。

4月28日,小型船舶を使用する旅客輸送における安全対策を総合的に検討するための「知床遊覧船事故対策検討委員会」を設置した。

本件事故を受け,4月24日,全国の運輸局等及び関係団体に対して,旅客船の安全確保の再徹底について,注意喚起の文書を発出した。

引き続き,関係機関や民間救助船による捜索活動等を実施している。

※ 一般社団法人日本旅客船協会,一般社団法人日本長距離フェリー協会,一般社団法人外航客船協会

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