特集 自転車の安全利用の促進について
第2章 自転車の安全利用の促進について(自転車安全利用五則)
第6節 関連する交通安全対策

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特集 自転車の安全利用の促進について

第2章 自転車の安全利用の促進について(自転車安全利用五則)

前節までは,自転車安全利用五則の概要と,各ルールの必要性について交通事故統計を示しながら説明した。本節では,こうした現状を踏まえた交通安全対策について紹介することとする。

第6節 関連する交通安全対策

1 自転車通行空間

(1)安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会とガイドラインの発出

ア 安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた検討委員会(~平成24年)

自転車の走行空間の整備を進めるため,国土交通省及び警察庁では,平成20年1月に,自転車道や自転車専用通行帯等の整備を集中的に進める「自転車通行環境整備モデル地区」を全国で98地区指定した。

その後,98か所のモデル地区等における自転車通行環境整備の取組の評価や検討を,有識者で構成される「安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた検討委員会(委員長:久保田尚・埼玉大学大学院理工学研究科教授)」で行い,平成24年4月,同委員会から「みんなにやさしい自転車環境~安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた提言~」が提言された。これを受けて,同年11月に「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」が発出され,

○自転車ネットワーク計画の作成(手順を含む)

○自転車通行空間の設計に係る基本的な考え方

等が示された。

イ 安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会(平成26年~28年)

平成24年11月に「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を発出し,自転車の通行空間の整備が進められたところであるが,同ガイドライン発出後においても,自転車ネットワーク計画を策定した市町村が一部にとどまっていることなどを踏まえて,平成26年12月から,有識者で構成される「安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会(委員長:屋井鉄雄・東京工業大学大学院総合理工学研究科教授(当時))」において,自転車ネットワーク計画の策定が進まない原因や,自転車通行空間の整備が進まない原因を検討し,自転車ネットワーク計画策定の早期進展に向けた提言,安全な自転車通行空間の早期確保に向けた提言がなされた(平成28年3月)。

ウ 安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン(平成28年7月)

「安全で快適な自転車利用環境創出の促進に関する検討委員会」の提言を受けて,平成24年11月に発出した「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を平成28年7月に改定した。

※「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」
(平成28年7月国土交通省道路局,警察庁交通局)の詳細については以下のURLを参照。
https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_000722.html

現在は,このガイドラインに基づき,歩行者,自転車及び自動車が適切に分離された安全で快適な自転車通行空間の整備を計画的に推進している。

また,自転車通行空間を効果的,効率的に整備するため,自治体による自転車ネットワーク計画の策定を促進している。

自転車通行空間の基本的な整備形態として,自転車道,自転車専用通行帯,車道混在(自転車と自動車を車道で混在)があるが,これらを設置する際には,車道を通行する自転車の安全性の向上の観点から,自動車の速度や交通量を踏まえ,自転車と自動車を分離する必要性について検討することとされている(特集-第29図)。

第29図 交通状況を踏まえた整備形態の選定の考え方(「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」)
トピック
【事例】自転車ネットワーク計画が位置付けられた地方版自転車活用推進計画(愛知県一宮市)

愛知県一宮市の自転車活用推進計画では,自転車ネットワーク計画として

・長期的に目指す面的なネットワークを設定

・計画総延長を明示

・整備形態を,区間毎に計画中で明示

・整備優先順位等を示し,当面の事業目標を設定

を行っており,参考にすべき計画となっている。

【事例】自転車利用空間の質を向上させる整備事例(静岡県静岡市)
(普通自転車専用通行帯(有効幅員を確保することと合わせ,平坦かつコンパクトな街渠を整備し,通行空間の質を向上))
2 安全教育

自転車は,幼児から高齢者まで幅広い層が利用する身近な交通手段であり,配達や通勤・通学を始め,様々な目的で利用されているが,交通ルールやマナーに違反する行動も多く,歩行者と衝突した場合には加害者となる側面を有している。

そのため,警察,地方公共団体等関係機関団体が連携し,幼児から成人に至るまで,自転車利用者としての安全に道路を通行するために必要な技能と知識の習得について,心身の発達段階やライフステージに応じて段階的かつ体系的に行うよう配意しながら交通安全教育を行うとともに,スケアード・ストレイト教育技法(【事例】スケアード・ストレイト教育技法による自転車交通安全教室の実施(鳥取県)参照)や自転車シミュレーターの活用等による参加・体験・実践型の交通安全教育など,趣向を凝らした交通安全教育を展開している。

また,新型コロナウイルス感染症の影響を受け,外出自粛や新しい生活様式が普及したことにより,自転車を利用した配達業務へのニーズが高まっている中,これらの事業者が,交通ルールの遵守徹底や安全対策の実施を自転車配達員に注意喚起するなどの取組が広まっている。このように,企業による従業員への交通安全教育も重要である。

以下では,警察,地方公共団体等関係機関団体が連携し,また,自転車シミュレーターを始めとする体験型の交通安全教育や,スケアード・ストレイト教育技法を用いた交通安全教育など,趣向を凝らした交通安全教育の例を紹介する。

トピック
【事例】自転車交通安全教育イベントにおける啓発活動の実施(岐阜県,岐阜県警,岐阜第一高等学校)

岐阜県警察は,岐阜県環境生活部県民生活課等と合同により,岐阜第一高等学校が交通安全教育の一環として実施している「自転車の日」において,高校生や自転車が関係する交通事故情勢,自転車の交通ルールを学ぶためのクイズ,乗車用ヘルメットの着用の努力義務化に関する講話,白バイ隊員による危険な場所における安全確認に関するワンポイント教育等の自転車安全利用啓発イベントを実施した。

(交通安全講話)
(自転車シミュレーターを用いた交通安全教育)
トピック
【事例】フードデリバリーサービス事業者に対する交通安全講習会の実施(神奈川県)

神奈川県警察では,(一社)日本フードデリバリーサービス協会と連携し,同協会に加盟するフードデリバリーサービス事業者における自転車配達員に対して,交通事故の発生状況や正しい自転車の通行方法,交通事故発生時の措置,自転車運転者講習制度等について講義を実施したほか,自動車教習所の教習コースにおいて,実車を用いた安全走行や日常点検に関する実技指導を行った。

(実車を用いた交通安全教育)
トピック
【事例】高齢者に対する交通安全教育の実施(群馬県)

群馬県警察では,(一社)日本損害保険協会,前橋市老人クラブ連合会との連携により,高齢者に対して,自転車シミュレーターを活用し,交通事故の危険性や高齢者の特性を踏まえた行動を体感することで今後の運転を見直すことを促す交通安全教育を実施した。

(自転車シミュレーターを用いた交通安全教育)
トピック
【事例】スケアード・ストレイト教育技法による自転車交通安全教室の実施(鳥取県)

鳥取県警察では,全国共済農業協同組合連合会鳥取県本部等と連携し,スタントマンが,自転車による交通違反が原因となって発生する交通事故や見通しの悪い交差点における交通事故等を再現するスケアード・ストレイト教育技法による自転車交通安全教室を実施した。

(スケアード・ストレイト教育技法を用いた交通安全教育)
3 点検整備

(1)自転車点検整備の広報啓発

自転車を安全に利用するためには,故障や不具合がない自転車に乗ることが大切である。自転車に乗車する前には,ライトは明るく点灯するか,ブレーキの効き具合,タイヤの状況,反射材が割れていないか,車体の状況,ベルが鳴るかなどを確認する必要がある。

内閣府では,自転車安全利用五則を周知するとともに,日常からの自転車の点検について注意喚起を促すため,リーフレットをホームページに掲載している。また,都道府県,都道府県警察等の関係機関においても,自転車の点検整備の重要性について,広報啓発を積極的に行っている。

(「自転車交通安全講座」リーフレットの一部)

(2)自転車点検整備の関係機関・団体の取組

関係機関・団体では,自転車点検整備に関して各種取組を展開している。以下,趣向を凝らした取組の例を紹介する。

トピック
【事例】自転車販売店と連携した取組(沖縄県)

沖縄県警察では,所轄警察署による自転車交通安全教育に併せ,八重山農林高校と地元自転車販売店等と連携し,通学で使用する自転車について,自転車販売店による点検を実施している。点検の結果,修理が必要な自転車を使用する生徒については,当該箇所を保護者に伝え,修理が完了した後に通学に使用させている。

(自転車販売店による点検の実施)
トピック
【事例】自転車安全利用促進事業に対する区市町村補助事業(東京都)

自転車事故を未然に防ぐためには,点検整備等を推進することが有効である。このため,点検整備等を促進する事業を行う区市町村に対して,東京都が助成することにより,自転車の安全利用の促進を図っている。

【事業スキーム】

区市町村の事業実施経費の一部(補助率2分の1)を東京都が補助する。ただし限度額あり。

【補助事業体系 】

○住民等が自転車点検整備を受ける際に負担する費用

○出張型の自転車点検整備(会場として学校,駐輪場など)の実施に係る経費

○その他,自転車点検整備の支援の実施に係る事務経費

4 指導・取締り

(1)自転車に係る指導取締り(自転車指導啓発重点地区・路線の選定及び公表)

交通指導取締りを行う警察では,歩道上における自転車と歩行者の交錯,車道における自転車の右側通行,信号無視等の実態から自転車関連事故が現に発生し,又は発生が懸念され,自転車交通秩序の実現が必要であると認められる地区・路線を「自転車指導啓発重点地区・路線」(以下「重点地区等」という。)として選定している。重点地区等においては,重点的・計画的に,指導啓発活動及び指導取締りを推進することとしている。なお,重点地区等については,各都道府県警察のウェブサイト等で公表している。

トピック
【事例】自転車利用者の交通違反に対する公開指導取締り(警視庁)

警視庁では,ウェブサイトで公表している重点地区等のほか,自転車の危険な走行に対する苦情の多い場所及び事故が多発している場所を中心とした指導取締りを強化しており,令和4年10月には,都内の重点地区等において,公開指導取締りを行った。

(令和4年10 月の公開指導取締り状況)

(2)自転車運転者講習制度

危険な違反行為(15類型)を3年以内に2回以上繰り返した自転車運転者(14歳以上)は,都道府県公安委員会の命令により,「自転車運転者講習」を受講しなければならない。

対象となる違反行為は,酒酔い運転,遮断踏切立入りのような悪質,かつ,危険な行為から,信号無視,通行区分違反や指定場所一時不停止など,事故につながりやすい危険な行為となっている(自転車運転者講習を受講するまでの流れは特集-第30図,対象の違反行為,その件数や割合については特集-第10図,第32図参照)。

自転車運転者講習の受講件数については特集-第31図のとおり。

第30図 自転車運転者講習を受講するまでの流れ
第31図 自転車運転者講習受講件数の推移(平成30年~令和4年)
第32図 危険行為の割合(平成30年~令和4年合計)
5 ヘルメット関係

自転車ヘルメットの着用については,これまでも関係機関・団体が積極的に広報啓発を展開しており,各地で趣向を凝らした対策が行われている。

(1)学校教育機関での取組

高校生の自転車ヘルメットの着用促進を図るため,例えば,埼玉県,栃木県等の多くの都道府県では,県内の高等学校を自転車ヘルメット着用モデル校として指定・委嘱し,周知啓発活動等を展開することにより,自転車利用者の交通安全意識を高めて自転車安全利用の促進を図ることとしている。

トピック
【事例】自転車ヘルメット着用モデル校の指定(埼玉県)

埼玉県警察では,埼玉県県民生活部防犯・交通安全課及び埼玉県教育局と連携し,約9割の生徒が自転車通学である熊谷高校(ほか県内3校)を自転車ヘルメット着用モデル校に委嘱し,委嘱状と共に乗車用ヘルメットを贈呈し,乗車用ヘルメットの着用促進を図っている。

(委嘱式の様子)

(2)自治体の取組

都道府県や市町村では,自転車乗用時にヘルメットを着用してもらうために,趣向を凝らした施策を行っている。ヘルメットを着用したくなるためのモニター調査,ヘルメット購入の費用面での補助等,各地で進めている施策について紹介する。

トピック
【事例】高齢者ヘルメット着用促進モニター制度(長野県)

長野県内在住の高齢者の方の中から,ヘルメット着用モニターを選任し,自転車利用時におけるヘルメット着用を通じて,着用に関する意見等を聴取した。令和4年7月1日から令和4年11月25日まで実施し,モニター74名からアンケート聴取を行い,アンケート結果について,県公式ホームページで公表するとともに,県内の自転車販売店や関係機関・団体等へ情報提供した。

モニターは,数種類のヘルメットの中から好きなデザインのヘルメットを選択し,自転車に乗車する際は活用することとしている。提供するヘルメットは,帽子タイプのヘルメットや,スポーツタイプのヘルメット等を用意し,その選択割合についても調査しており,モニターの約7割が帽子タイプを選択した。

アンケートの中では,「これまでヘルメットを着用していなかった主な理由」「着用したヘルメットの改善点や意見」「ヘルメット着用促進に有効だと思う手段」等を聴取しており,主な意見は以下のとおり。

【これまでヘルメットを着用していなかった主な理由】

○購入するほどの必要性を感じていなかったから

○生活圏(短距離)でしか乗らないから

○みんな着用していないから 等

【着用したヘルメットの改善点や意見】

○サイズの選択肢が増えると良い

○盗難防止の機能があると良い

○帽子タイプのヘルメットに関しては「帽子(布地)を取り替えられると良い」 等

【ヘルメット着用促進に有効だと思う手段】

○交通安全教室の充実やヘルメットの安全性等の周知

○ヘルメット購入代金の補助制度の導入

○デザインの工夫,多様化 等

(スポーツタイプ)
(帽子タイプ)

(ヘルメット着用努力義務化の広報用ポスター)

長野県では,改正道路交通法(令4法32)により,全ての年齢層の自転車利用者に対して,乗車用ヘルメットの着用の努力義務を課すことにつき,広報啓発用ポスターを作成した。同ポスターにも,ヘルメットにも多種多様なタイプがあることなどを周知している。

(長野県作成の広報用ポスター)
トピック
【事例】おもてなしヘルメット購入支援事業補助金制度(鳥取県)

鳥取県を訪れる観光客や宿泊客を対象とした自転車の貸出しサービスを行う事業者に対して,新品の自転車乗車用ヘルメット購入に必要な経費を補助している。これにより,自転車を利用する観光客等のヘルメット着用を推進し,自転車利用中の交通事故による頭部損傷被害の軽減を図っている。

(ヘルメットを貸し出している状況)
(ヘルメットの着用を指導している状況)
トピック
【事例】自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例の制定(大分県)

大分県警察では,自転車を利用して通学する学生等の乗車用ヘルメット着用の努力義務化を内容とする大分県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例が令和2年12月に公布され,令和3年4月に施行されたことに伴い,関係行政機関と連携し,自転車乗用中死傷者における乗車用ヘルメット着用率が他の学齢と比較して低い傾向にある高校生に対し,乗車用ヘルメットの着用促進に向けた取組を推進した結果,条例施行後の令和4年4月における自転車通学の高校生の乗車用ヘルメット着用率が95.4%(大分県教育庁の調査結果)に至った。

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