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障害者施策トップ意識啓発20年度心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター作品 > 平成20年度入賞作品 高校生・一般市民部門 最優秀賞

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出会いふれあい心の輪「心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター」作品集
〜平成20年度入賞作品〜

【高校生・一般市民部門】  ◆最優秀賞

ありのままに受け止め、受け入れてくれた子どもたち

野口理絵
(愛媛県・29歳)

 私は、重度の運動障害(脳性マヒ)を持っている。そんな私を、私以上にありのままに受け止め、受け入れてくれた子どもたちがいる。それは、私が指導員ボランティアとしてお世話になった児童クラブで出会った子どもたちである。彼らと手探りのなかで関係を築き、深めていった一年九ヶ月。彼らと交わした言葉一つ一つが、彼らとかかわった時間すべてが、私にとって大切な宝物である。
 彼らのほとんどが障害者に初めて出会う子どもたちだった。彼らは、私の障害について率直に質問してくれた。「何で歩けんの?」「事故?病気?」「どっか痛いの?」「罰が当たったんでしょ?」等々。私の言語障害について、子どもたちは特に関心があったようで、「なんで、そんな変な声なん?」「意味、全然わからん!」「ちゃんと日本語しゃべってよ!」等の言葉が飛び交った。だが、こうした子どもたちの方が、私の言葉が解らないとき、「今度は書いてお話しよう!」って紙と鉛筆を持ってきてくれたり、「もう一回、言って!」って解るまで何回も聞いてくれたりと、熱心に耳を傾けてくれた。いったん別の話題に移り、私がリラックスして話せるようになった頃に、もう一度さきの言葉を聞き直してくれた子どもたちもいた。
 私にとって電動車いすは、私の行動範囲を広げてくれるもの。それ以上でもそれ以下でもないが、子どもたちは違った見方をしてくれた。「わぁ、すごい!」「マシーンに乗ってる!!」など興味津々。目をキラキラさせて寄ってきてくれた。そして、「乗せて!!」って電動車いすに座っている私の膝の上に来てくれる子どもたちもいた。ときには、「(野口だけ電動車いすに乗って)ずるい!!」とまで言い出す子どもも……。《へぇ、そんな見方もあるんだな》気がつけば「いいでしょ、いいでしょ」って、電動車いすに乗っていることを自慢している自分がいた。
 子どもたちとの関係の深まりを振り返ってみると、以下の四つの段階が見られた。
 第一段階は、子どもたちが私に異常なくらい優しくしてくれる時期。私に対する遠慮や過剰な労りなど、子どもたちとの間に距離を感じることが多かった。いつも私に付きっきりで一緒に遊んでくれ、世話をしてくれる子どもたちもいた。その優しさはたいへん嬉しかったが、一種の“義務感”を子どもたちが感じているようで、私は戸惑った。《その“義務感”から子どもたちにストレスが溜まらなければいいなぁ》と私はそればかりを願っていた。
 第二段階は、少しずつ私に慣れてくれて、ちょっとした悪ガキの部分を見せてくれる時期。愛情表現の一つとして(軽い)パンチやキックがとんでくるようになった。子どもたちは、私とともに楽しめる特別ルールを考えて、遊びに誘ってくれるようになった。その一方で、友達との遊びに夢中だと、私が側に行っても「あっちに行っとって!」って言われたことも……。《それだけ気の置けない仲になったんだなぁ》と、私はとても嬉しかった。
 第三段階は、子どもたちの暴言や暴力が酷くなり、おフザケの世界との区別が付かなくなる時期。たとえば、「バケモノ」「キモイ」など厳しい言葉を浴びせられたり、愛情表現(のはず)のパンチやキックもだんだんエスカレートしたり……。“親しき仲にも礼儀あり!”ということ、“遊びの世界”や“おフザケの世界”から逸脱してはいけないということ、それらをどう伝えていけばよいのだろうと模索する日々が始まった。《一つ一つのかかわり(経験)を通して、少しずつ理解してもらえるといいなぁ。そして、“ほどよい関係”が築けるといいなぁ》と願いながら、日々、子どもたちと格闘していた。
 そして、第四段階。おフザケとの区別も付いて、気を遣っているのではないちょっとした優しさも見られて、ベストな関係が持てる時期へと到達する。
 これら四段階の関係の深化の過程は、すべての子どもに共通していた。数ヶ月のかかわりで第四段階まで到達したこともあれば、一年以上もかかったこともある。だが、どれも、子どもたちと一緒に過ごす日々のなかで、心と心のぶつかり合いのなかで、時間をかけて築いたものだと思う。
 このような貴重な経験ができたこと、私は幸せに思う。だから、子どもから「(野口は)歩くとかできんやん?悲しい??」って尋ねられたとき、私は偽りなく答えることができた。「うん、悲しいときもあったけどね。でも、いまは悲しくないよ。だってね、こうやってみんなと遊べるし、とっても楽しいよ!」って……。
 いま私は、大学の恩師の言葉を思い出す。「人を色眼鏡で見ないで済む子ども時代から、障害を持っている人と接して欲しい」共に生きる社会、なかでも、障害を持つ者と持たない者が共に生きる社会について、何度もご講義くださった先生の言葉である。児童クラブで子どもたちと過ごした当たり前の日々が、試行錯誤の日々が、先生がおっしゃっていた“共に生きる社会”なのかなぁと、いま懐かしく振り返る。子どもたちは、これから障害児者をはじめ様々な人たちと出会うだろう。そのときも、あのときと同じように、色眼鏡で人を見ないで欲しい。その人たちと共に暮らす(生きる)ことを当たり前に感じて欲しい。心から、そう願う。
 私の障害のことも私のことも、私以上に受け止め、受け入れてくれた子どもたち。そして、私が児童クラブを離れて一年半以上が経つ今も、道端や店先で出会うと駆け寄ってきてくれる子どもたち。心からありがとう。

 

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