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障害者施策トップ意識啓発20年度心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター作品 > 平成20年度入賞作品 高校生・一般市民部門 優秀賞

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出会いふれあい心の輪「心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター」作品集
〜平成20年度入賞作品〜

【高校生・一般市民部門】  ◆優秀賞

出発、これからの私

石井麻莉子
(千葉県・25歳)

「石井さん、この仕事お願い」
「はい。(よーし、頑張ってみよう)」
 変わらないようで少しずつ変化のある新しい毎日、今私は時々疲れたりもしますが、元気に過ごしています。あたかもあの時のあのつらい日々がなかったかのように、私は少しずつ変わっていきました。それは平成16年の秋のことでした。
 平成15年の4月から私は働き始め、仕事を通じていろいろな人と出会い、人脈も広がり毎日精一杯過ごしていました。時々仕事で失敗をして落ちこんだりもするものの、職場の周りの人にカバーをしてもらいながら経験を積んでいく日々に充実感を感じていました。
 しかし平成16年の秋頃から自分の異変に気づき始めました。「石井さん大丈夫?」
「はい……」「じゃあこの仕事やっておいてくれるかな」「はい……。(え〜やーだなぁ)」なんだか疲れる、なんだか眠れない、なんか違う……。この時私は自分の心が風邪をひいた(病気になった)ことを気づくのに、少し時間がかかりました。
 病気であることをお医者さんから告げられたとき、私はパニック状態でした。頭の中がごちゃごちゃになりました。私は入院しました。小さなことで不安になったり、怒ったり、自分の感情をコントロールできなくなっていました。そして精神に障害を持つ人になってしまいました。
 2ヶ月後、退院できましたがそこには思っていなかった現実が待っていました。家族との関係、毎日の服薬や服薬による副作用、療養休暇という社会からの隔離などでした。そして何よりもつらかったのは、友達がだんだん遠のいていってしまうかのように感じたことです。「やっぱり病気になったから友達減っちゃったのかな」いいえ、本当は自分が友達を離れさせる原因を作っていたのかもしれません。人のことを苦手になってしまったのです。誰かと誰かがヒソヒソと小声で話しているのを見ると、ああ私の悪口を言っているんだな、あの人嫌だな、と思ってしまったり、人といる時少し離れられたりすると、私のことが嫌なのかな……と思ってしまっていたのです。私はこういうことを信頼できるお医者さんに話しました。しいて良かったと言えることは、私は嫌なことや何かあったときには、何でも家族やお医者さん、カウンセラーさんに話したことです。そして私の負の考えから前向きな正の考えに導いてくださるように、たくさんの言葉をいただきました。「あのね、ヒソヒソと小声で話していた人達はあなたがその話を聞いたらショックを受けるんじゃないかと、気を遣っていたんだよ。だけどね、気になる気持ちも分かるんだ。だからあなたが間違っているという意味じゃないよ。それとね、離れられたのは距離が近くて緊張するか、たまたまですよ。あなたは普通の人ならさほど感じないものまで感じてしまいますね。それは良く言えばとても感受性が強いのだよ。でもね、強すぎても疲れてしまうからあまり良くないんだ。ほどほどに、まあいいかと思うことも大事だよ」
 こうして私は三歩進んでは二歩下がりつつ、病気とつきあってきました。今では友達が減ったとはあまり思っていません。友達が私の様子を伺いつつ、そっとしておいてくれているのかな、という気持ちに近いです。私は薬で回復したのももちろんあると思いますが、それより周りの人に支えられて今も生きているのだ、と実感しています。つらい、苦しい、逃げたいと思うことはありますが、そんな時そのつらさをわかってくれる人に話をし、聞いてもらい慰められ、励ましてもらえれば少し元気が出ます。30%元気が出たら、80%くらい元気になるように、少しずつ大事に元気な心を育んでいけば良いと思います。私が元気になってきたのは、周りの人の励ましの言葉やアドバイスだけではありません。苦手と思っていた人とコミュニケーションがとれた時、友達からご飯や何かのお誘いを受けた時、面白い話をして一緒に笑い合えた時、自分のことをわかってもらえた時……様々な行動も伴っています。それは病気になって家の中に閉じこもっているだけでは得られないものです。私は結局2年間自宅療養をしてきました。そして職場に復帰させていただきましたが、私の休んでいた2年間は職場に復帰してからの2ヶ月間に等しいくらいでした。今となっては2年の月日が少しもったいなかった気もしますが、その2年間がなくては今の私もなかった、と思います。人より少しまわり道をしてきたけれど、ゆっくり歩いていこう、そう思います。
「石井さん、次はこの書類をお願いね」
「はい!」(仕事を任せられるって何て有難いんだろう)私が嬉しいことは、健康な人と同じように対等な目線で仕事を与えられ、普通に会話をし、人間関係を築き上げていくことです。こういう”普通”が私(達)のように心が敏感な人(精神障害者)も、体が大変な人(身体障害者)も、ゆっくりと発達する人(知的障害者)も、その人がより幸せに過ごせ、自分の持っている能力を伸ばせるのではないかと思います。私(達)の精神の病気はどうやら登山で例えるとすると、健康な人は休み休み登るかもしれませんが、そうはせずに一気に登ってしまい、転落してしまう、というように思います。そして一旦転落すると立ち上がるまでにとても時間がかかるのです。私も転落しましたが、時間をかけて今やっと出発地点まで登ってきました。これから、です。人に生かされていることと前向きに良い方へ考えることを病気が教えてくれました。もしかしたら病気は私を成長させてくれるものかもしれません。出発点の今、これからの未来が楽しみです。

 

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