【高校生区分】 ◆優秀賞 中田 彩姫(なかた あき)

「すべての人」に安心と楽しみを
中田 彩姫 (兵庫県立日高高等学校 3年 兵庫県)

みなさんは、ユニバーサルツーリズムという言葉を知っていますか。ユニバーサルツーリズムとは、すべての人が楽しめるように創られた旅行であり、高齢や障害等の有無に関わらず、誰もが気兼ねなく参加出来る旅行を目指したものです。

私は今年三月、視覚障害者の方とその家族が集う会にボランティアとして参加しました。その会は、地域の眼科で行われ、地域で暮らす視覚障害者の方とその家族が交流し、意見交換をしたり、悩みを相談したりする会です。そこには、弱視から全盲まで様々な視覚障害を持つ方がおられました。私は視覚障害について、授業で習うような基礎知識しかなく、病気や支援方法は少し分かっていましたが、当事者の方の内なる思いやニーズなどは知りませんでした。だからこそ、このボランティアに参加して視覚障害について、もっと多様な視点で学びたいと思ったのです。

参加された視覚障害者の方は全部で十五人程度であり、三つのグループに分かれ、冒頭で述べたユニバーサルツーリズムをテーマに意見交換が行われました。私も一つのグループに参加させていただき、当事者である視覚障害者の方から地域で暮らす中でどのようなところに困っているのかや、もっとこうなれば良いのにというニーズについて聞きました。

討論の中で「駅の無人化」について話題が挙がりました。田舎の方では今年に入ってから駅の無人化が進んできており、駅には駅員さんがいません。これはICカード乗車券の普及や鉄道事業者側の経費削減という都合によるものだと考えられますが、田舎の駅には都会の駅のように、音声による駅構内の案内や点字での案内パネルなどが十分に普及されておらず、却ってバリアを生み出してしまっているのです。

ある一人の男性は「駅員さんはいないし、音声案内もないから切符を買う場所が分からない。一人の時や初めて行く場所ならなおさらだ。」と言いました。その方は、既に運転免許を返納しており、外出時の移動は公共交通機関を利用しています。移動の安全や安心が保障されていないとなると、かなり不安だと思います。私たちも視点を変えてみると、普段利用する駅では無人化になったとしても、不自由なく利用出来るかもしれませんが、初めて行く駅ではどこに何があるか分からず困ってしまいます。このように、駅の無人化に伴い不便になってしまった人がいるのが現状です。

また、他の女性は「昔、宿泊先を探している時に視覚障害であることを伝えたら宿泊を断られた。」と言っていました。なぜ断られてしまったのかその女性は「もし、宿泊中に避難を要する状況になった場合、視覚障害者の方を手引き出来る従業員がいないのではないか。視覚障害者の方に適切な支援が出来る従業員がいないのではないか。」と考えました。私はそれを聞いて、駅の無人化や障害者の方の宿泊を断ることが、ユニバーサルツーリズムを推奨している国による適切な対応なのかと疑問を抱きました。全ての駅や宿泊施設がそうとは限りませんが、このようなケースも実際にあったということに変わりはありません。旅行において、移動や宿泊は欠かせないものです。「すべての人」が楽しめる旅行にするためには、もっと視野を広げて考えなければいけないと思います。例えば、駅の無人化については、無人化が進んでいますが最低でも一人は駅に配置しておいたり、宿泊施設については、視覚障害者の方を手引き出来る従業員を研修などを経て養成しておくなど、視覚障害だけに限らず、様々な障害や疾病を持つ方に適切な対応が出来るようにしておく必要があると思います。ですが、駅や宿泊施設だけが取り組むのではなく、一緒に利用している私たちも取り組むべきです。もし、視覚障害者の方が駅員さんがいなくて困っているのであれば、宿泊先で困っているのであれば、周りにいる私たちが手を差し伸べれば良いのではないでしょうか。全てのことを駅や宿泊施設に任せっきりにするのではなく、私たち利用者も「すべての人」が楽しめるようにするために、協力すれば良いのではないでしょうか。だからこそ知る必要があるのです。私たちから視覚障害について学ぶことが必要です。「視覚障害のことなんて分からないから無理だ。」と目を背けて逃げていては、いつまで経ってもユニバーサルツーリズムは実現されないと思います。ある宿泊先では断られてしまったが、別の宿泊先では手引き案内やサポートが手厚く、安心して利用出来たなど場所によってもサービスのばらつきがあるようです。「すべての人」が楽しめるように、安心出来るように、根本的な対応や支援は統一しておくべきだとも思います。

今年五月、新型コロナウイルスが五類へと引き下げられ、旅行をする人が増えたのではないでしょうか。視覚障害者の方に耳を傾け、ニーズに応えることが出来れば、旅行を心から楽しむことができ、ユニバーサルツーリズムもより実現に近づくのではないかと思います。私はこのボランティアに参加して、視覚障害者の方の内なる声を聞き、日常生活上での思いを初めて知ることが出来ました。例に挙げた駅の無人化や宿泊に関することは、私も気づかなかったので、自分自身ももっと視野を広げないといけないと思いました。

私たちは視覚障害者の本当の気持ちは分からないかもしれませんが、相手の立場になって考えることは出来ます。今後、旅行だけに限らずとも「すべての人」が心から安心して暮らせるように、困っている人を見かけたら勇気と自信を持って「何かお手伝いしましょうか。」と声が掛けられるように、視覚障害やその他の障害についてもっと知り、そして学び、行動に移せる人になりたいです。