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障がい者制度改革推進会議 差別禁止部会(第3回)
議事録

○棟居部会長 時間を過ぎておりますので、まだちょっとおそろいではありませんが、定刻を過ぎております。定刻になりましたので、これより第3回「障がい者制度改革推進会議差別禁止部会」を開催させていただきます。
本部会は、当初、3月に予定しておりましたが、3月11日に起きた東日本大震災の影響で延期となりました。この未曾有の大震災では多くの命が失われ、また、被災された皆さんは将来の展望を見出すことができない不安な状態に置かれています。その中で、障害のある人たちも甚大な被害を受けることとなりました。ここに亡くなった皆様の御冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心からのお見舞いを申し上げます。
差別禁止部会は、一般傍聴者の方にも公開いたします。
また、会議の模様は、インターネットを通じても幅広く情報提供いたします。
なお、御発言に際してのお願いとして、発言を求めるときは、まず挙手いただき、指名を受けた後、御自身のお名前を述べられてから、可能な限りゆっくりと御発言いただくようお願いします。
本日の会議は18時までを予定しております。
それでは、東室長から、委員、オブザーバー及び専門協力員の出席状況と資料説明をお願いします。
○東室長 こんにちは。担当室の東です。
本日は、浅倉委員、山本委員、引馬専門協力員が御欠席でございます。野沢委員が遅れて御参加の予定でございます。
なお、相澤専門協力員は本日が初めての御出席になります。
また、日本商工会議所の松本委員が交代されて御参加されておられますので、まず、相澤専門協力員からごあいさつのほどをお願いします。
○相澤専門協力員 皆さん、はじめまして。一橋大学法学研究科の相澤美智子と申します。本日から参加させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
私の専門は労働法で、これまでは主にアメリカの雇用差別禁止法に当たります、1964年、公民権法第7編の研究を行ってきました。私はもともと、日本の、男女雇用平等問題に強い関心を抱いておりまして、そのような関心からアメリカ法の研究をしてきたのですが、このたび、東室長から差別禁止部会へのお誘いをいただき、障害者差別ということについては今後の自分の研究課題としていきたいと思いまして、ですので、会に貢献するというよりは、むしろ勉強させていただこう、という気持ちから参加させていただくことになりました。
差別禁止部会へのお誘いがありましたのは、昨年の秋だったのですけれども、その当時、私は育児休業中でございました。休業はこの3月31日で終了し、4月1日に職場復帰いたしましたが、東室長には、あらかじめ、差別禁止部会には、職場復帰してから参加させていただきたいとお話し申し上げて、そのように了承していただきましたので、本日が初参加となりました。これからどうぞよろしくお願いいたします。
○東室長 それでは、松本委員。
○松本委員 日本商工会議所の松本と申します。現在、産業政策第二部というところで、雇用、労働、環境エネルギー関係なども担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○東室長 どうもありがとうございました。
本日の議事は、差別禁止に関する諸外国の法制度についてということで、ヒアリングとして2名の研究者の方からヒアリングを行います。
資料でありますけれども、議事次第、座席表に続きまして、資料1が長谷川珠子先生からいただきました「アメリカの障害者差別禁止法制」です。資料2が高橋賢司先生から提出していただきました「ドイツの障害者差別禁止法制」についてであります。
また、参考資料としまして「障害者基本法の一部を改正する法律案(新旧対照表)」というものがございます。
お手元にありますでしょうか。御確認お願いいたします。
以上です。
○棟居部会長 続きまして、先日3月11日に第3回障がい者制度改革推進本部が開催され、障害者基本法改正案が了承されておりますので、その中から本部会に関連する箇所について、齊藤企画官より説明していただきます。齊藤企画官、よろしくお願いします。
○齊藤企画官 企画官の齊藤でございます。座ったままで説明させていただきたいと思います。
今、資料の確認のございました参考資料の3ページをご覧いただきたいと思います。こちらに「障害者基本法改正案」における差別禁止の条文がございますので、御説明をさせていただきます。
現行の障害者基本法におきましては、3条、基本的理念の第3項におきまして、障害を理由とする差別の禁止が規定されておったところでございますけれども、今回の改正案では、この差別の禁止を新たに条として起こしまして、第4条として規定をしてございます。その第1項には、現行の基本法の差別の禁止の条文をそのままの形で移動をしてございます。下のところに(新設)と振ってございますが、資料作成上のルールに従うとこうなりますと、その右隣を見ていただきますと、現行の「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別」云々の部分が削除という形になり、隣の条に移行したということでございます。
次に、同条の第2項を新設いたしまして、障害者権利条約における合理的配慮の内容を規定してございます。すなわち、条約第2条において、「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するため、必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した、又は過度な負担を課さないものをいうという定義がございます。この定義を本改正案の構造、すなわち、定義は別途第2条にございますので、社会的障壁、第2条第2項ですけれども、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念、その他一切のものをいうことでございますが、この社会的障壁の除去を必要としている障害者が現に存し、その実施に伴う負担が過重でないときは、1行飛ばしまして、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないと規定してございます。
併せて、条約の同じく第2条において、障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む)を含むというふうに規定されてございますので、その部分は、今、飛ばした所でございますが、それすなわち、社会的障壁の除去を怠ることによって、前項の規定に違反することとならないよう規定することによって、第4条第2項全体で条約の合理的配慮の部分を規定したところでございます。
なお、「合理的配慮」という文言そのものはこの条文には出てきてございません。それは、まさしく今後、日常生活、社会生活上のさまざまな場面で具体的にどのような対応が求められ、どのような対応を怠った場合に差別に当たるのかについて、まさに本差別禁止部会におきまして御議論いただく内容でございますので、その結論を待たずに内容を確定することができる。したがって、条文中には直接その文言を使用しておりませんが、その文言を使用しなくても、この差別禁止条約における合理的配慮の内容は、今、見ていただいたような形に工夫することによって、すべて条文上盛り込んだということでございます。
次に、第3項におきまして、本条の差別禁止規定を実行あらしめるために、国は、差別禁止違反行為を防止するための情報の収集、整理、提供を行う旨を明記してございまして、これらを具体的にどのような形で進めるのか等におきましも、この差別禁止部会において今後御議論いただけるものと考えているところでございます。
改正案における本部会関連部分は、以上でございます。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
ただいまいただきました御説明についてご質問ございますでしょうか。ございましたら、挙手、お名前、先ほどお願いしたような要領でお願いします。
○太田委員 日本障害フォーラム(JDF)の太田と申します。ありがとうございます。
ただいま企画官から合理的配慮の部分について御説明をいただきましたが、もう少し、私の頭が悪いんでしょうか、わからないんですが、権利条約による「合理的配慮」という表現ではなくて、「合理的な配慮」というふうにしたのはなぜなのか。また、権利条約では合理的配慮をしないことは差別に当たるという趣旨のことが言われていたかのように記憶していますが、それを社会的障壁の除去とした背景というのは何かあるのでしょうか。教えていただければ幸いです。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
今の御質問に直にお答えいただきますか。それとも、類似の御質問があれば、幾つか併せてということもあり得るかもしれませんが、今の御質問に直接お答えいただいた方が多分よろしいと思うんですけれども、いかがでしょうか。
ちょっと私が誤解があると何ですので、先に付言させていただいてよろしいでしょうか。
権利条約で合理的配慮というのは、差別禁止ということといわば一体であって、それに対して、今回示されました改正案では、社会的障壁という4条の2項のところですね。その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならないというふうに、1項の差別禁止そのものとは別立てに書き分けてあると。つまり、合理的配慮、合理的な配慮という、極めて近しいというか、合理的配慮という言葉そのものは出てくるんだけれども、差別禁止と一体のものとしてはどうもこの法案ではとらえられていないのではないか。社会的障壁という方にのみ出てくるという位置付けはなぜなのかというふうに理解しました。それでよろしいですか。
○太田委員 基本的には私の国語力の問題かもしれませんが、今の御説明だと、ほとんど同じで、わざわざ変える必要があったのかなという素朴な思いがあって、発言しました。
○齊藤企画官 済みません。最初の説明がちょっとわかりにくかったということのようでございます。
この条文の立て方というのは、極めて法技術的なものでございまして、4条の第1項で差別の禁止と。第2項においては、先ほどの途中で申し上げた、それを怠ることによって、前項の規定に違反することとならないよう、これは、逆に、それを怠ると前項の規定に違反することとなるということを、この配慮につなげるために裏側から書いたということでございまして、条文が1項と2項に分かれているから、2項は差別の禁止とは切り離されているということではなくて、今のフレーズで1項と2項が一体として差別の禁止をしているということでございます。
社会的障壁ということが唐突に出てきて若干わかりにくいというふうなことは、実は以前から御指摘いただいているところなんですが、社会的障壁は、逆に社会モデルというものを今回の法律に盛り込むに当たって、一般用語では環境とかいろいろなことで言われているものをどう表現するかといったときに、新たにこの改正案で盛り込んだ概念でございまして、したがって、こことは別のところで定義することがあったということで、第2条で先に定義が出てきております。
条約でも、実は、何をどう配慮するのか、また、条約では、調整や変更という言葉を使っていますから、何をどうという目的語が実はよくわからない文章になっておりまして、どうしても法技術的な、それを明確に書かないと条文として成り立たないので、それを整理をするという形になるということでございまして、第2項の部分が差別の禁止と切り離れた別の条文ということでは決してございません。
○棟居部会長 ありがとうございました。
太田委員、よろしいですか。追加の質問をされますか。
○太田委員 私の能力の限界でしょうが、ますますわからなくなってしまったんですが、恐縮です。1項と2項は関連性があるものと齊藤さんは今おっしゃったように思います。1項の「それを怠る」というのは、2項の社会的障壁の除去ということを指すのであって、恐らく1項のことを直接指すのではないんだろうと思われるんですが、今、齊藤さんは、「それを」というのは1項のことだとおっしゃったように思うんですが、私の記憶違いでしょうか。
○棟居部会長 企画官、お願いします。
○齊藤企画官 重ね重ね済みません、よく伝わらなくて。
「社会的障壁を除去すること」というのは、条約でいうところの「特定の場合において必要かつ適当な変更及び調整であって」のところを受けてございまして、その条約の文言上も実は何をという目的語が書いていないわけですね。ただ、そのままにしますと、日本国政府でつくる法律の案としては、そのまま、「何を」という部分を入れずに書くことができないものですから、何を調整、変更するのかということを明記する必要があると。それは何をかというと、社会的障壁の除去であって、定義第2条の第2号で書いてあるように、それは、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となる一切合切のものと。それは制度であろうと、事物、物理的な障壁のようなもの、それから、さらには目に見えない慣行ですね。それから、観念のようなもの、そういったもの一切を含むもの、それを条約でいうところの変更や調整をする目的語というふうにとらえてございます。ですから、おおよそこういった障害がある方が日常生活、社会生活を営む上で障壁となるようなものを除去するというのが、この2項で書かれている目的語であって、「それ」というのは、「除去」を受けてございます。
先ほどの説明で言いたかったのは、「それ」ではなくて、「前項の規定に違反することとならないよう」というフレーズで1項と2項がつながっているというふうに申し上げたかったのでございます。1項では差別をしてはならないと。「差別をしてはならない」というものの中に、条約でいうところの「合理的配慮の否定を含む」というのを盛り込むために、2項として、それを怠ることによって前項の規定に違反するという言葉でそれをあらわしているということでございます。
○棟居部会長 どうしましょう。御関連ということであれば、太田委員、もう一問お願いします。
○太田委員 もうこれ以上はあれなので、私の能力の限界を超えて、ちょっと理解し難いことを申し添えて、ただ1点、「合理的配慮」という言葉を「合理的な配慮」という言葉に言い換えられたのは意味があるんでしょうかということと、能力の限界ではありますが、これは、権利条約にいう差別の重要なフレーズでありますので、私の能力の限界の中では、置いておく必要のないものだと感じたので、言います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
じゃ、お願いします。
○齊藤企画官 「合理的配慮」という言葉を使っていないということに関しても、済みません、最初の説明が十分にこなれていなかったんだと思います。まさに権利条約で「合理的配慮」という新しい概念として規定されているものを、今回、この改正案に盛り込もうといろいろ検討はいたしました。ただ、まず、新しい、他の法令等でも使用されていない、まさに我が国の法体系上まだ存在していない概念でございますので、それを盛り込もうとすると、その内容をきちんと規定をして、何がそれに含まれるのかということをしっかりと確定をしないと使えないというふうな制限がございます。
他方で、まさに具体的に個々の日常生活や社会生活の場面でどういった配慮、どういった対応が求められ、それを怠ると差別に当たる、合理的配慮を欠いているというふうになるか、まさに、今、この部会で検討していただいている内容でございまして、その結論はまだ出ていないというその前後関係から、その結論が出ない限り、概念は確定しない。概念が確定しないと、その言葉そのものが使えないというふうな構造になってございまして、ただ、その言葉を直接使わなくても、今見ていただいていたように、それぞれ条約で合理的配慮又はその否定が差別に含まれるという内容をきちんと書き下すことによって、同じ構造の合理的配慮の規定を第2項でつくったというふうなことでございます。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
恐らく今後の差別禁止部会で議論していくときに、コツンと鉱脈みたいなものに当たってくる、その大きな議論だと思いますので、今、企画官とのやりとりだけで答えが出てしまうと、この部会も解散せざるを得ないということにもなりますので、私としては温めていきたいと。太田さんにもどんどん啓発していただきたい。という議論をまた吹っかけていただきたい、そういうテーマだと思いました。
今、企画官に1点だけ、私の方から差し出がましいですが確認させていただくと、とりあえずこの4条の1項、2項で、何かここでの議論に一定の枠がはまったというふうに余りかたく考えなくてもよろしいということでよろしいんでございましょうか。
○齊藤企画官 枠というのはどういう御指摘か微妙なところはありますけれども、要は、条約の考え方は条文できちんと表現をいたしましたと。ただ、具体的な内容に関しては、全く私ども、現段階では何が当たる、何が当たらない、また、どういう立て方かすらわからない状態でございますので、それはまさにこの部会で御議論いただいて、こういうふうに整理をしていく、また、こういうものがあったらすべて部会でしっかりと御議論いただいて結論をいただきたいというふうに思ってございます。
○棟居部会長 承知しました。1項と2項がどういうふうに一体化できるのか、あるいは、やはり平行線のものが残るのかといった点も意識しながら、今後、議論を深めていければと思います。じゃ、どうも御提案ありがとうございました。
松井委員、お待たせしました。
○松井委員 松井です。ありがとうございます。
これは確認をさせていただきたいんですけれども、今の齊藤企画官の説明ですと、この部会でもって合理的配慮をきちんと定義すれば、それは障害者差別禁止法にちゃんと入るんだというような理解でいいのかどうかということと、推進会議でも、差別とは一体何ぞやという差別の定義をやれということが出ていましたけれども、今回、障害者基本法改正法案の中では定義されていないんですけれども、差別の定義についても、この中できちんと議論して規定されれば、それによって差別禁止法に正式に入ってくるというふうな理解でよいのかということを確認させていただきたい。ただ問題は、例えば労働とか教育にも当然合理的配慮の問題は入っていますので、ここで結論が出ないと、労働関係の法律にも、あるいは、いわゆる学校教育法というか、教育法関係の法律にも入らない。だから、ここの議論が一体いつになって結論が出るのかということにもなりますけれども、すべてそれによって、ある意味ではストップがかかって進まないということは非常に困ると思うんですね。現実に、権利条約の仮訳では、合理的配慮というのはちゃんと訳として入っているわけですので、そういう意味で全く新しい言葉ではないのではないかと思います。そこの今後の見通しですね。ここできちんとできない限りは進まないという理解でよいのかということを確認させていただきたいと思います。
○棟居部会長 また大きな御質問ですけれども、企画官、お願いします。
○齊藤企画官 まさに今、御説明をした、今現在、きちんと概念が確定していないから、その言葉自体入らなかったということと、今後、議論をしていただいて確定をしました。その後どうするかというのは、実はちょっと違う話でございまして、正直申し上げて、今、私がこうだというふうな結論は申し上げにくいんです。つまり、2つパターンがあって、そもそも「合理的配慮」という言葉を定義しなくても、もう考え方はしっかりと基本法に書いてあるわけです。要は、これは障害者施策全体の最上位の基本法でございますので、そこで概念、考え方はもう既に示してありますので、これから差別禁止法制その他、今おっしゃっていただいた、個々の労働であれば労働、教育であれば教育の中で、それを踏まえてどう規定していくかというふうな方向で、この考え方を実現していくということも可能ですし、それだけでなくて、逆に、しっかりと確定したんだから、基本法にもそれを入れたほうがいいという判断がその時点でなされることもあり得るとは思いますけれども、要は、言葉が直接使えないけれども、考え方はしっかり盛り込んだという整理で、今、この法律は全然不整合になってございませんので、直ちに、じゃ、言葉が確定したから、定義を入れなければいけないという結論にはならないということでございます。
○棟居部会長 では、追加の御質問ということで、松井委員、お願いします。
○松井委員 何回も質問して申しわけございません。松井です。
少なくとも権利条約では、合理的配慮をしないことは差別に当たるということが規定されているわけですね。今回、先ほど確認させていただいたように、差別とは一体何かということの規定は基本法ではしていない。企画官の理解では、そういうことは規定していないけれども、これは、実質的には合理的配慮をしないことは差別に当たるというふうに明確に読み取れると理解していいとおっしゃるわけですね。
○松井委員 何回も質問して申しわけございません。松井です。
少なくとも権利条約では、合理的配慮をしないことは差別に当たるということが規定されているわけですね。今回、先ほど確認させていただいたように、差別とは一体何かということの規定はここではしていない。最初、企画官の理解では、そういうことは規定していないけれども、これは、実質的には合理的配慮をしないことは差別に当たるというふうに明確に読み取れると理解していいとおっしゃるわけですね。
○棟居部会長 ごめんなさい。ちょっと概念的なお話になっているので、答えにくいんじゃないかなと第三者的に思いますけれども、企画官、どうでしょうか。
○齊藤企画官 まさにおっしゃっているとおりで、権利条約が先ほど来何度か出てきているように、差別禁止、その差別には合理的配慮の否定を含むんだと書いてあります。合理的配慮は合理的配慮で定義がされていると。その合理的配慮という言葉をそのまま新たな概念として盛り込んではございませんけれども、同じように差別を禁止する。その差別に当たると、社会的障壁という概念を入れていますけれども、その除去を怠ることが差別に当たるんだと書いてあって、考え方はきちんと表現、言葉では一言一句同じじゃないというだけで、考え方はちゃんと入っているということでございまして、そこから先は、正直申し上げて、この基本法に限らず、条約をどう国内法で担保していくのかというときに、要は、全く引き写しの一つの大きな法律をつくらなければいけないというのが条約から直ちに求められているわけではなくて、全体の法体系の中でそれぞれ適切な形で担保していくということだと思いますので、そのうち、基本法では条約の最も根幹の考え方をしっかり書きました。あとは、例えば差別禁止法制というものの中で、それがどういうふうにしっかり担保されていくのかという制度ができるでしょうし、個々の教育や労働やその他の部分では、またそれはそれで、その法体系に沿った形で担保の仕組みがそれぞれ違っても、それは直ちに条約から直接それを引き写した法律をつくらないから実現していないということではないと考えてございます。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
私、ちょっと概念論争かなと思いましたのは、私の専門である憲法ですと、4条の1項、これは非常にわかりやすいというのか、不合理な差別の禁止、特に障害者に対して障害を理由とする差別、これは不合理だということで、差別してはいけませんという不作為の義務付けがなされておる。これが国内の法体系でストンとくる。しかし、そこまでしかこないのかというと、条約に適用するためには、合理的な配慮という積極的な作為義務にまで踏み出す。これはもちろん解釈、運用次第なんですけれども、そののりしろの部分というか、従来の法体系からすると一歩踏み出しておる、あるいは日本の憲法を頂点とする国内法でカバーし切れていなかったかもしれない、そういう部分があるわけで、それを2項ということで別立てでされて、この部会でそこをしっかり議論しろということかなと思ったんですが、そういう理解でもよろしいんですか。イエス・オア・ノーでお願いできれば。

(齋藤企画官に確認)
○棟居部会長 大変ありがとうございました。
ということで、異質なものがいろいろ混じっておるけれども、1つには統一的な理解も必要だし、他方で、異質さもずっと認識し続ける必要があるかもしれません。
川島委員、お願いします。
○川島委員 ありがとうございます。川島です。
1点、質問がございまして、まず、実質的に4条の2にリーズナブル・アコモデーション、合理的配慮の考え方が入っているということも理解できましたし、条約の規定をそのまま引き写さなくて合理的配慮の規定を国内法化するという趣旨も理解しております。
ただ1点、4条の2の解釈で若干混乱が生じるのではないかなということ、一見するとそういう懸念が出てくるのが、これは海外でも議論があるのですけれども、「合理的な配慮」と言ったときに「合理的な」という言葉が何を意味しているのかという論点がありまして、それが相手方に過重な負担を課さないという意味で「合理的」という言葉を使う場合は、実は2項を見てみますと、既に過重な負担がないときということなので、つまり、「合理的な」という言葉が、もし「過重な負担がない」という意味を持つと、言葉が重複するわけですね。そうしますと、条約の解釈のときに、いわゆるウィーン条約法条約に基づいて条約を解釈したときに、「合理的な配慮」と言ったとき、「合理的」という言葉が「過重な負担がない」という意味になった場合に、ここでいう「合理的な」という言葉はどういうふうに解釈するのかというと、これは、効果的なとか、必要かつ効果的な配慮をしなさいといった意味になるのかなと思うわけですね。つまり、過重な負担のない効果的な配慮をしなければならないと。そのときに、ここで「合理的」という言葉が、これはリーズナブルという単語だと思うので、これは「理にかなった」という意味ですね。そうなると、理にかなった配慮の、理にかなったというのも多義的ですので、これは効果的な、実効的な、エフェクティブな、というような言葉にすれば、条約の「合理的配慮」の趣旨を障害者基本法の中に日本らしく折り込むといった場合に、より適切になるのではないかというような感想を、この文言を読んで思ったのですけれども、その点はいかがでしょうか。
○棟居部会長 ありがとうございました。お願いします。
○齊藤企画官 まず最初に、2つの合理的、又は負担との関係の整理をしていただきまして、おっしゃっていたとおり、後者、つまり、合理的というのは過重じゃないということではないと。厳密に言いますと、議論する中で、どこをどう切っていくかというのはいろいろなバリエーションが当然ある中で、当初、過重を抜けば合理的な内容の一つに過重性というのもあるかと思ったんですけれども、過重でないというのを前に出しましたので、今、この条文の立て方上、「合理的」に「過重性」は入っていない。
じゃ、エフェクティブというお話もいただきましたけれども、そこはまさに御感想として承らせていただきます。ただ、合理的ということに関して、効果があるというところだけではなくて、例えば効果がある方は、当然、複数あり得るわけですね。また、もっともっとたくさんあるかもしれない。これも効果的であるし、これも効果的であるし、これも効果的だろうと。ただ、当事者、又は関係者がその問題を解決する上で、何をとるのかということに関して、余り、そもそもこれでいいのにこっちをというのは、多分、そこは効果があっても合理的でないというふうな判断がなされるのかなと、いろいろなことを考えました。
ただ、結論として、具体的に、どういうことはこの合理的の言葉の範疇で、どういうところが外だというところを、固くというか、ぎりぎり狭くするような趣旨でこの言葉を使ってございませんで、まさにそこも含めて新たな差別禁止法制の中で、どういうふうに合理性を判断していくのかというところも含めて、この部会の射程にしていただければなと思って、こういう規定にしました。
エフェクティブというのは、正直言って、最も効果的なことが最も合理的というふうにいくと、どちらかの当事者に、よりこっちでやりたいというふうな余地が余りなくなる、若干客観的な概念かなということを思うのですけれども、そうでもないでしょうか。
○棟居部会長 どうぞ、川島さん。
○川島委員 御質問ですので、お答えしますと、今の感想のレベルなのですけれども、例えばここを「必要かつ効果的な配慮」というふうにしたところで、「必要かつ効果的な配慮」というのが1つであるわけでは必ずしもないわけですね。複数、「必要かつ効果的な配慮」というのがあって、どれを選ぶかというのは、また別の次元の問題になってくるわけですね。
そこで、ポイントは、社会的障壁の除去にとって必要で効果的な配慮をしなくてはいけないというところが、何よりもここでのポイントだと思うのですね。つまり、そういうような効果的な配慮というのが複数あっても、別に普通に素直に言葉を読んでも問題はないというふうに私は理解しておりました。
○棟居部会長 ありがとうございました。
また横からで恐縮ですけれども、「負担が過重でない」というのが外に飛び出していると。合理的な配慮の中に本来含まれておる概念じゃないかという論争というのか、意見交換がなされたと思うんですけれども、例えば、国が補助金で負担が過重でない仕組みを制度的に設けておると、それは負担が過重であるというエクスキューズは消えていくわけですね。すると、言わば必要かつ合理的な配慮というのがかなり一義的な義務になっていくという運用もあるかもしれないなというふうに、かなりこれは概念論としてはいろいろはみ出たりあるのかもしれませんけれども、運用面では、負担が過重でないというのは、今言ったような将来の見込みを考えますと、おもしろいのかなという気も感想としては持ちました。いずれにしましても、この部会はまだまだやることがたくさんあるということで、論点がたくさん出たんじゃないかと思います。
恐れ入ります。大変恐縮ですが、一言ずつということで、かつ、連続でお願いできますか。そして、企画官にまとめてお答えできる範囲でということでお願いします。
○大谷委員 大谷です。
合理的な配慮、合理的配慮については聞きませんけれども、第1項の権利利益に関して、第3条で新しく項を立てられて、基本的理念が地域社会における共生等というふうに変更されています。第3条の本文はいいと思うんですけれども、「次に掲げる事項を旨として」となっているところ、これは、従来の第3条の本文が、尊厳にふさわしい生活を保障される権利といったところまではそのまま引きながら、「次に掲げる事項を旨として図られなければならない」という1、2、3、3つ挙げられているんですけれども、「旨」の取扱いなんですけれども、これは、1つの権利として構成するのではなくて、解釈というか、内容に含まれているという趣旨で、1、2、3というふうに挙げられている趣旨なのかどうか。特に、2の「可能な限り、どこで誰と生活するかについて」の地域生活のところですね。「共生することを妨げられない」といった表現をされているんですけれども、「妨げられない」という表現になった経緯とか、それが第4条のその他の権利利益の中の権利とまでは明確に言えなくても、その他の権利利益の中に第3条の2が入るというか、そのまま直接的な形で想定されているのかどうかとか、その辺、第3条と第4条の関連について御説明いただいたほうがいいなと思っているんですけれども、いかがでしょうか。
○棟居部会長 済みません、第3条、第4条の関連ということについて御質問いただきました。ごめんなさい、時間の関係で、続きましてお願いします。
○池原委員 池原ですけれども、2つあります。
1つは、社会的障壁という第2条に定義規定に出てくるのは非常に重要な概念だと思うんですけれども、この定義自体が、ちょっと省略して読むと、社会生活を営む上で障壁となるような一切のものという、ほとんど同語反復みたいな定義になっていて、もうちょっと障壁というものの解釈の手がかりというのがあるとしたら、少し教えていただきたいというのが1つです。
もう一つは、4条の2項の議論で出ている合理的な配慮ですが、この規定は、主語がない規定になっていて、要するに、配慮がされなければならないということになっているんですが、誰が誰に対して配慮をしなければいけないのか、あるいは誰が誰に対して配慮を求めることができるのかという点についての解釈上の根拠があれば教えていただきたいと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。では、どうぞ。
○川内委員 東洋大学の川内です。
同じく第4条ですが、第2項では社会的障壁があるということ、それから、それは除去されていないことを確認して、そして、実施に伴う負担が過重であるかないかというのを確認して、それから、それが合理的、先ほどだと効果的な配慮であるというのを判断するという手順が全部含まれているわけですね。そのことについては、ここでは具体的なことは何も書かれていなくて、先ほどの御説明だと、就労とか教育とか、私の専門だと交通アクセスとか、こういうものがこれからつくられていく法律の中で具体的なことを書かれればいいという御説明だったと思うんですが、第3項では、国の役割というのが書いてあるんですね。国は、ここでは情報の収集、整理及び提供を行うものとしているわけです。なぜわざわざここで、国はこれだけの役割に限定したのか。先ほど申し上げたように、これからいろいろな下部の法律ができてくるとしたらば、そういうものをどんどんつくっていくとか、あるいは第2項を実際に行うためにこういう体制をつくるとかということが書かれてしかるべきなのに、第3項では、なぜか「情報の収集、整理及び提供」だけを書いてあるんですね。それがどうしてなのかというのを教えていただきたい。以上です。
○棟居部会長 いずれも大きな問題ですけれども、ちょっと難しいかもしれませんが、一言ずつということで、企画官、お願いします。
○齊藤企画官 それでは、できるだけ簡潔に。
まず、3条と4条の1項の関係について、まず、基本的に、4条の1項、また、旧3条の3項ですが、具体的に個々の場合に、これが当たる、当たらないということを直接判断するというよりも、そういったことをそれぞれの局面でしっかりと見極める必要があるんだということを基本法として規定しておりまして、逆に、3条のどれが当たるとか、どれが当たらないというふうに限定して4条の1項を用意したわけではない。つまり、差別その他権利利益の侵害をしてはだめだということを規定して、そこには、当然ここに例示されているようなことも内容によっては配慮し、ここに規定されていないことも入るというふうな、それぞれの条文ごとに、この部分はここの行為に当たるとか、当たらないとかいうことを判断するために設けられている規定ではないんですね。ですから、逆に言うと、まさに先ほど、差別の定義もまだないというふうにおっしゃっていただいたところですけれども、恐らく今後御議論をいただく中で、合理的配慮を議論するだけではなくて、そもそも差別の定義を議論していただかないと、多分議論は進まないはずでございまして、そういう中でこの差別その他の権利利益の侵害というものがまず何なのか、全部は無理にしても、その典型的なものをきちんと整理をされていくと思われますし、そういったときに、3条のはじめのところは「権利」と書いてあるけれども、後ろでは「旨」なので、旨は必ずしも権利と読めるのか、読めないのかというふうに議論をするために必要ないというふうに認識してございます。まさに具体化、これまではまさに基本法のみのこういう差別はしてはいけないという規定しかなかったところに、具体的に何が当たるのか、どうなのか、これから制度設計されていくはずですので、その中で議論してほしいと思ってございます。
それから、社会的障壁の内容についてですが、おっしゃるとおり、実はまさに社会モデルを導入するためには、どうしても規定する必要がある概念ということでございまして、読んでいただいている、一切合切のものと書いてございます。つまり、障害を有する方が生活を営む上で、障壁、まさに条約ではバリアと書いてあるそれですけれども、となりうるものは入る、できるだけ広い定義になってございまして、逆に、これそのものにこの法律上の効果が実際にあるわけではなくて、4条の障壁の除去という中で、具体的にこういうもの、ああいうものというふうに今後議論していただいて、それがもう少し考える端緒というか、そういうものが必要だとおっしゃっていただいて、大変このように答えるのは申しわけないんですけれども、正直私どもでこういうものが想定されるとか、そういったことで御提示するほどに、まだ実はこの部分の情報の収集なり整理が進んでいません。この部会を進めながら、皆さんと一緒に考えざるを得ないと思ってございます。
それから、4条3項でございます。4条3項は、単にこの差別の禁止という枠内で国がやるべきことを書いてあって、ただ、そもそもこの基本法全体における位置付けとして、3条から5条までは基本原則という形で、第6条において国の責務、基本原則にのっとって障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に実施をする責務があると。さらに、法律の後半にいけば、個別の政策分野ごとにこういうことをやる、ああいうことをやるというふうに、それぞれの場面で具体的に求められることを書くという条文の構成になってございます。
ただ、どこかに盛り込むというよりは、差別の禁止というふうに新たに条を立てる上で、この関連で規定をすることがより適切と思ったことをポジティブに抜き出して参考にしたということでございまして、差別の禁止に関して、これ以外のことをやらないというふうに読むのではなくて、これはこの関連で明記をされているという条文の構造でございます。
○棟居部会長 企画官、どうもありがとうございました。
なお、これからもこの法案等について、この部会の議論は、整合性、あるいは連携を図っていかなければならないことは言うまでもございません。ということで、今後も資料提供等のお願いをするかと思いますけれども、その節はよろしくお願いします。
以上で、企画官からの御説明につきまして、一応打ち切らせていただきます。
それでは、議事に入らせていただきます。
本日は、2名の研究者からのヒアリングを通じてアメリカとドイツの差別禁止法制についての共通理解を深めていきたいと思います。
最初に、福島大学准教授の長谷川珠子さんからアメリカの障害者差別禁止法制について、御報告をお願いします。
○長谷川准教授 ただいま御紹介していただきました福島大学の長谷川珠子と申します。
本日は、このような場で御報告させていただく機会をいただきまして、大変光栄に思っております。どうぞよろしくお願いします。
私は、これからアメリカにおける障害者差別禁止法について報告をしていくんですけれども、大体報告時間は1時間ぐらいあるだろうと思ってここにやって来たんですが、部会が始まる前に「30分でお願いします」と言われ、また、今の前半の議論をお聞きしていると、恐らく大分予定よりも時間がなくなっているのだろうと思いますので、部分、部分、はしょりながらお話をしたいと思います。
報告の後、質疑応答の時間がとってあるようですので、御質問等ありましたら、その場で聞いていただければと思います。
私の報告は、I、II、IIIというところで大きく3つの部分に分かれております。1つ目が歴史的な背景、Iの部分、その次がIIとしてADAの概要、アメリカで一番中心的な役割を果たしている障害者差別禁止法の内容はどういったものかということを詳しく見ていきたいと思います。そして最後、IIIのところで、実際、差別を受けた場合、どのような救済が用意されているのかという救済に着目して御説明をしたいと思います。
では、早速、「I アメリカにおける差別禁止法の構造」を見ていきたいと思います。
これは、アメリカに限らず、どこの国においてもだと思いますけれども、現在ある法律というもの、制度、何でもいいですけれども、そういったものをよく理解するためには、そこに至った歴史的な背景を、簡単でいいと思いますが、少なくとも少しは押さえる必要があろうかと思います。ということで、アメリカにおいて差別禁止法がどのような発展を遂げてきたのかということを簡単に御説明します。
古く歴史をさかのぼれば、これよりもはるか昔からアメリカでは差別というものが法律によって規制されてきたんですけれども、今日は、1964年に制定された公民権法から歴史を見ていきたいと思います。
1964年にアメリカでは公民権法という法律が制定されました。言うまでもないことですが、黒人に対する差別が非常に社会問題化されていたアメリカで、このような差別禁止法をつくることは非常に重要であったと言えます。
公民権法の内容というものは、公共施設や雇用、住宅、教育、投票など、そういった社会生活上の重要な場面において、人種、皮膚の色、宗教、性、又は出身国に基づく差別を禁止するというものでした。公民権法の存在は非常に大きく、もしこの法律が制定されていなければ、その後の障害者差別禁止法なども制定されてこなかったであろうと言えると思います。
アメリカでは、差別の禁止ということが非常に重視されて、世界の中でも非常に早くから差別禁止法が取り入れられてきたということが言えます。
障害については、公民権法の中に取り入れられることはありませんでしたが、1973年のリハビリテーション法が制定されるに至り、ここの中で差別禁止ですとか、平等という観点が持ち込まれることになりました。
リハビリテーション法の内容は非常に多岐にわたりますけれども、その中の一部で、連邦政府や連邦政府から財政補助を受ける事業、あるいは連邦政府と一定額以上の契約を結ぶ民間企業に対して、障害を理由とする差別を禁止するという条項が置かれることになりました。
その後、1975年には、全障害児教育法が制定され、さらにその後の1990年には名称が変更されて、障害者教育法という法律が制定されています。この中で教育の分野における障害を理由とする差別が禁止されるなどしていました。
そのほかにもさまざまな障害に関連する法律が制定されてきて、その後、1990年に制定されたのが、皆さんよく御存じの障害をもつアメリカ人法、いわゆるADAです。
1990年のADAが制定されるまでは、適用の場面ごとに法律が別々に存在していたりですとか、そもそも障害は差別禁止法の対象となっていなかったり、そういったことがある中で、ADAは障害を理由とする包括的な差別禁止法として登場し、世界的にも非常に注目を集めることとなりました。
このADAですけれども、第1編で雇用差別を禁止するということに加え、第2編では、地方公共団体、州政府、連邦政府などの公共サービスや公共交通機関によるサービス提供、そういった分野における差別の禁止ですとか、さらに第3編では、民間企業によって運営される施設サービス提供の分野における差別の禁止等が定められています。
そういった意味で、雇用の分野だけではないということで、包括的な障害者差別禁止法であると言うことができます。
ただし、今日の報告では、私の専門分野が労働法、雇用分野ということがありますので、雇用の分野を中心にADAの紹介をしたいと思っております。
なお、アメリカでは2008年に新しい動きが2つありました。1つがADAの改正です。改正内容については、後ほど紹介したいと思います。
もう一つの動きが2008年に制定された遺伝子情報差別禁止法というものです。この法律は、遺伝子情報に基づいて差別をすることを禁止したりですとか、あるいは本人に断らずに勝手に遺伝子情報を入手することなど、そういったことを禁止した法律となっております。
次に、「2.アメリカ労働法における差別禁止法の役割」というところを見ていきたいと思います。
ここでどういったことをお話ししたいかといいますと、結論から言いますと、言うまでもないことかもしれませんけれども、日本とアメリカとでは、雇用差別禁止法が担う役割というもの、果たす機能というものが大きく違っている。違うところがたくさんあるということをきちんと理解しておく必要があろうということです。
では、どのような違いがあるのかということですが、アメリカでは、原則として随意的雇用の原則(employment at will)という原則が妥当しています。これはどういったことかといいますと、期間の定めのない雇用契約の場合、雇用契約に期間が定められていない場合には、いずれの当事者、労働契約ですので、当事者というのは、使用者と労働者の当事者も、いつでも自由に労働契約、雇用契約を解約することができるということが随意的雇用の原則の内容です。
したがって、労働者側もいつでも仕事を自由に辞めることができるということが言えますが、それと同様に、使用者側であっても、いつでも、どのような理由であったとしても、たとえ理由なんかなかったとしても、労働者を解雇できるということを意味します。一言で言うと、解雇が自由であるということがアメリカでは妥当しています。
これに対して日本はどうかといいますと、日本の場合、使用者側からの解雇には非常に厳格な規制が置かれています。日本で使用者が労働者を解雇しようとする場合には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければならないということが現在では労働契約法の16条に定めが置かれています。したがって、自分の会社で働いている労働者が病気になったりとか、けがをしたり、あるいは障害を負ったりといった場合に、そのことを理由に労働者を解雇すると、日本の場合には解雇権の濫用として、そのような解雇は無効と判断される可能性が非常に大きいということが言えます。
アメリカの場合、もし差別禁止法が存在していなければ、解雇は自由ですので、障害を負った労働者を解雇することは自由にできるということが言えますが、そのような状況のアメリカにおいては、差別禁止法の果たす役割というのが非常に重要ということが言えます。原則として解雇は自由だけれども、障害を理由とする解雇は許されない。そういった意味で、アメリカで差別禁止法の果たす役割は大きいということが言えます。
このほか、安全配慮義務、健康配慮義務というものが日本では使用者に課せられていまして、使用者は自分のところで働いている労働者の健康とか安全に対して、ちゃんと健康で働けるように配慮しなければならない義務というものを労働契約法上負っておりますので、ある意味、差別禁止法で言うところの合理的な配慮、合理的配慮に類似の責任を既に日本の使用者は負っている場面があるということが言えます。
また、言うまでもないことですけれども、日本には雇用率制度がありますが、アメリカにはそのような雇用率制度はありませんので、そういった意味でも日本とアメリカの状況というのは大きく違っているということが言えます。
ですので、これから私はADAの説明をしてまいりますけれども、ADAが置かれている下にある土台というものが、日本とアメリカでは随分違うということを最初にわかっていただきたく、このようなお話をさせていただきました。
では、IIとしてADAの中身に入っていきたいと思います。
最初に、障害者差別禁止法の特徴を見ていきたいと思います。
<1>、<2>、<3>と3点挙げております。まず<1>ですけれども、障害、ディスアビリティの定義が非常に柔軟で、かつ包括な定義となっているという点が、障害者差別禁止法といいますか、ADAの特徴だということが言えます。
後で説明いたしますように、ADAは、障害の定義として、その人の1つ又はそれ以上の主要な生活活動を実質的に制限する身体的又は精神的機能障害が障害に当たると定めております。障害の種類ですとか障害の定義で障害の範囲を区切るという形はとっておらずに、包括的な定義を設けることで、差別に苦しむ可能性のある人たちを保護の対象として広くカバーしようということが意図として見られています。
しかし、その反面で、何が障害なのかわからないという不確実さ、例えば裁判になったときに、当該労働者が障害者であるのかどうかということが使用者にも労働者にもわからない。そういった予測可能性の低さにつながるという問題点も指摘されています。
次に、特徴の<2>ですけれども、差別の定義、これも特徴があると言えます。従来、雇用差別禁止法のもとでは、差別的な意図を含む不利益取扱いである直接差別が禁止されていました。その後、それに加えて、差別的な意図は含まないが、中立的な基準ですとか、中立的な方針を適用することによって、結果的に差別的な効果が生じるという間接差別についても禁止されるようになっていきました。
このような、従来、差別として認められていた直接差別と間接差別、これらの差別に加えて、ADAでは、合理的配慮を提供しないことも差別の一つの類型なのだということを規定した点が、1990年の当時にあっては非常に特徴的であったということが言えます。
特徴の3つ目ですけれども、これは、職務遂行能力が要求されるという点が特徴として挙げられるかと思います。差別が禁止されるのは、あくまでも合理的配慮が提供されれば、あるいは提供されなくても、どちらでも構いませんけれども、その人がちゃんと職務の本質的機能を遂行できる場合だけであるということが言えます。働く能力がない者については、少なくとも差別禁止法の対象とするものではないということが言えます。
では、これらの特徴を踏まえて、ADAのそれぞれの規定を見ていきたいと思います。
まず、障害の定義について見ていきますと、ADAは、先ほど述べました障害の定義、すなわち、その人の1つ又はそれ以上の主要な生活活動を実質的に制限する身体的又は精神的機能障害という一般的な障害の定義に加えて、そのような機能障害の記録と、そのような機能障害を持つとみなされること、これらについても障害に含まれると定めています。
これら障害の3つの類型ですが、これらを含めて非常に広い範囲をカバーするものと考えられていました。ADAが制定された当初、ADAの前文には、アメリカ全土では4,300万人の障害者がいるということも明記されておりました。アメリカの人口は大体3億人だとすれば、7~8人に1人の割合で障害者は存在するという認識がADAの制定当初にもあったということが言えるかと思います。
しかしながら、ADAが制定されて以降、自分は差別を受けたということで裁判所に訴えるケースが当然出てくるわけですけれども、そういった訴えを受けて、裁判所は障害の定義を非常に狭く解釈しました。ADAに基づいて自分は差別を受けたと訴えた原告、つまり障害者に対して、あなたはADAに定めるところの障害者には該当しないので、そもそも保護の対象ではないといった判断が続きました。
そのような裁判所の傾向は、1990年の連邦最高裁判所判決によって決定的となりました。その後も最高裁の判決を受け継ぐような形で下級審も障害の範囲を狭く解釈するということになりましたので、それを受けて、連邦議会はADAを改正するということで対応をとりました。この改正が2008年になされたADAの改正です。
この改正の中では、障害の範囲を明確化するということで、もともとあった身体的又は精神的機能障害、そのような機能障害の記録、機能障害をもつとみなされることという3類型はそのまま残して、それらの内容をもっと明確にわかりやすく規定する。文言を増やすということで対応したのと、あとは、裁判所がADA上の文言を解釈するに当たっては、最大限広くその文言を解釈すべきという解釈準則も定められることになりました。
また、それ以前の裁判で争われていた、障害の影響を緩和するような器具ですとか薬剤、投薬によって障害の程度が軽くなる場合はどうなのかといった問題に対しては、緩和措置ですとか矯正器具、そういったものを障害認定の際には考慮しない。障害者側には有利に判断すべきということが定められました。また、みなされる障害に対しては、合理的配慮は提供しなくてもよいということの定めも置かれています。
障害の定義についてはこれぐらいにして、先ほどの議論でも問題となっていた、禁止される差別とはどういったものなのかということを見ていきたいと思います。
まず、ADAは、一般原則として、いかなる適用事業体も、応募手続、労働者の採用、昇進、解雇、報酬、職業訓練、並びにその他の雇用上の規定、条件及び特典に関して、適格性を有する人を障害を理由として差別してはならないと一般的な規定を置いております。
適用対象事業体というのは、使用者などを含む概念ですけれども、この使用者というのは、従業員を15人以上雇用する民間の使用者であるということが言えます。
このように、ADAは、採用から退職や解雇に至るまでの雇用の全局面において差別を禁止しているということが言えます。
次に、(2)以下でADAの定める具体的な雇用差別類型を見ていきますけれども、最初に一言断っておきますと、ADAは直接差別、間接差別に加えて、合理的配慮を提供しないという第3の差別類型を持ち込んだと、先ほども私は説明の中で申しましたけれども、実際、ADAの条文を見てみると、直接差別とか間接差別という文言が出てくるわけではありません。ADAでは、これから紹介する7つのタイプをADAが禁止する雇用差別として規定しております。
これは全部見ていきますと時間がなくなりますので、重要と思われる、全部重要ですけれども、幾つかはしょって紹介したいと思います。
<1>で定めているのは、いわゆる意図的な差別ということが言えます。
<2>、非常に特徴的ですが、御質問があれば、後でお話ししたいと思います。
<4>、これはADAで取り入れられた非常に特徴的な規定だと思います。これは、従業員本人が障害者でない場合でも、従業員の家族ですとか友人ですとか、関係を持っている人、その人が障害者であるということを理由として、障害を持っていない従業員本人を差別することもADAは禁止しています。これはわかりやすい例で言いますと、例えば、その職に応募してきた人の配偶者が障害者であるという場合、それが使用者側にわかった場合に、その配偶者の介護とかで頻繁に欠勤したり、早退するのではないだろうかというふうに使用者が勝手に考えて、この応募者を不採用にする場合。これは配偶者の障害を理由として不利益に取り扱っておりますので、このような場合もADAは認めない。そういったものは差別に該当すると評価しています。
<5>が非常に有名な、合理的配慮を提供しないことが差別に当たるといった規定です。
ADAでは、適格性を持ってちゃんと仕事ができる障害者の身体的・精神的機能障害に合理的配慮を提供しないことは、差別に当たるというふうに明確な形で規定しております。ただし、配慮を提供することが使用者の事業の面にとって過度の負担になるということを使用者が証明できる場合はこの限りではないという規定の仕方になっております。
<6>ですけれども、これは、いわゆる間接差別的な差別的インパクトと呼ばれる差別を規定したものと評価されています。
<7>については、試験などについては、ちゃんと障害者もその人の能力が十分に発揮できるような形で試験などを受けさせなければならないということも書いてあります。
駆け足でしたけれども、差別の類型というのはそのような形であるということで説明を終えまして、次、(3)としては、その他の禁止される取扱いとして、むやみやたらと健康診断をしてはならない。なぜかというと、その人に障害があるかどうかということを診断して、それをもとに何か職務上不利益に扱うことがないようにということで、健康診断などについても細かい規定が置かれていますし、報復差別の禁止として、例えばADAに基づいて訴えたことを理由に不利益な取扱いをするとか、同僚のために証言をした人に対して報復的な取扱いをするなど、そういったこともADAは禁止されています。
次に、(4)で、許される行為。使用者はこのような場合には、たとえ障害者に対して不利益な取扱いをしたとしても違法とはならないということの定めが、以下、説明するところです。
まず1つ目、職場における他者又は障害者自身の健康又は安全に対して直接の脅威を及ぼさないという資格基準を設定することです。
次の2つ目の合理的配慮を提供してもなお、食品を取り扱うことにより他者に感染するような感染症を患う人に対して、採用又は雇用継続を拒否すること。
1つ目と2つ目に関しては、ほかの人に何か脅威が与えられるような場合には、たとえ障害を理由に不利益な取扱いになったとしても許容されるということが定められています。
薬物使用などに対しても不利益取扱いは認められています。
次に、4として合理的配慮の内容について見ていきたいと思います。
(1)として合理的配慮概念の形成ということで、ここはADAが制定されたときに合理的配慮という概念が突然出てきたものではないんですよということを紹介したかったんですけれども、詳しくお話しする必要があれば、後から御質問の中で対応したいと思います。
では、次、(2)として、ADAにおける合理的配慮というのはどういったものかということで、レジュメには条文を載せさせていただきました。
ADA101条の9項ですが、職務の再編成ですとか、パートタイム化、勤務割を変更することですとか、いろいろなことが置かれていますけれども、これに限られるものではないと。ほかのものもいろいろ入ってくるのですということが考えられています。
EEOCという後ほど説明する雇用機会均等委員会というところでADAの施行規則を定めておりまして、ここには、合理的配慮が必要となる場面というのは大体3つぐらいの場面があるのではないかということで、<1>、<2>、<3>と定めています。
まず、1つ目<1>が、採用プロセスにおける配慮。試験を受けたりですとか、そういった場合に合理的配慮が必要になるだろうということ。
<2>としては、職務遂行に関する配慮。職務遂行上、さまざまな配慮が必要になるだろうけれども、そういったものが<2>で含まれる。
最後、<3>ですが、これは、均等な利益及び特典の享受に関する配慮です。これは、職務遂行とかには関連しないとしても、ほかの人が得られている特典、例えば、食堂ですとかカフェテリアとか、そういったものが使えるのであれば、障害者も当然同じような形で使えるようにすべきだということ、こういったことも合理的配慮の対象となってくるということが言えます。
次、(3)として、使用者が合理的配慮義務を負わない場面にはどういったことがあるかということを見ていきたいと思います。
まず、1つ目、これは合理的配慮を提供しても、なお、障害者は職務の本質的機能を遂行できない場合には、使用者は合理的配慮を提供する必要はありません。
みなされる障害の場合にも提供の必要はないということは、先ほども説明しました。
3つ目、ここが重要だと思いますが、合理的配慮を提供することが使用者にとって過度の負担となる場合。過度の負担については、著しい困難又は費用を必要とする行為とADA上定められていますが、そういった場合にも合理的配慮を提供する必要はありません。この「過度の負担」の判断基準について、ADAは条文の中でさまざまな基準を定めています。すごく詳しく条文上定められているんですけれども、一部抜いて書いたものがレジュメに挙げたものです。
まず、配慮の性質や配慮にかかる費用ですとか、当該事業所の財政状況や従業員数、事業への影響、さらには企業全体の財政状況など、そういったさまざまなものを加味して、過度の負担かどうかを判断するということになっています。
したがって、これらの判断基準を見ますと、例えば、労働者の年収の何%を超えれば過度の負担になるのだといった、すぐに答えが出てくるものではなくて、事案ごとに個々に判断する必要が出てくるということは、そのとおりなんですけれども、大企業であれば、過度の負担と判断されるコストは非常に高くなるであろうし、中小企業であれば、少ないコストであっても過度の負担と判断されることになる。企業の規模によって過度の負担かどうかの判断が変わってくるということが言えます。
時間も余りないのですが、先ほど川島さんの御質問のところで、「合理的な」というのはエフェクティブと効果的なという意味というふうに読めるのではないかというようなお話がありましたけれども、その点、アメリカでも議論がありまして、Undue Hardship、つまり過度の負担というものと合理的な配慮、Reasonable Accommodation とが、どういう関係にあるのか、重なるものなのか、重ならないものなのかという議論がありまして、これは、1つの裁判例での裁判所の意見なんですけれども、リーズナブルというのは、決してエフェクティブという意味ではない。なぜかというと、アコモデーションという合理的配慮の配慮の方にエフェクティブという意味は含まれているのだ。効果的でないような配慮はあり得ない。とすると、リーズナブルをエフェクティブと読むのはおかしいということで、どういうふうに読むべきかというと、そこは、配慮から得られるベネフィットと、配慮にかかるコストを比べたときに、日本語で何て表現していいかわからないですけれども、妥当なものなのか。余りにも高いコストがかかるけれども、効果がちょっとしかないようなもの、そういったものはリーズナブルではない。コストとベネフィットが釣り合っているものがリーズナブルという意味だと解釈した裁判例があって、非常に有力な裁判例としてよく引用されていたりします。
なので、過度の負担とアンデューハードシップとの関係で、リーズナブル・アコモデーションを見るときに、先ほど私が言いましたように、大きな企業とか公共団体とかであれば、過度の負担の上限というのは非常に高くなってしまうであろうけれども、例えばトヨタであれば、これぐらいは払える。そんなの過度の負担にもならないであろうというコストであっても、そのコストをかけて得られるベネフィットが非常に小さいものなのであれば、そのようなものはリーズナブルではないので、過度の負担の抗弁を使用者はできないけれども、リーズナブル・アコモデーションではもはやないということで、使用者としてはその責任を免れることができるという場面があるという裁判例が見られています。
すみません。長くなりましたが、アメリカではそういった議論があるということです。
(4)の財政的な支援については省略させていただきます。
次、IIIとして差別に対する救済で、これは行政上の救済と裁判上の救済があります。行政上の救済の中心的な役割を担うのがEEOCという機関です。これは、雇用機会均等委員会と言いまして、1964年に公民権法第7編が制定されたときに、公民権法第7編を実施する機関として創設されました。
連邦が定める雇用差別禁止法についての施行規則ですとか、各種のガイドラインを作成する権限と、あとは、雇用差別に対して救済を行う権限を有しています。
このEEOCですけれども、2009年、2010年あたりで、全米でスタッフ数は2,200名、予算は約3.5億ドルということになっております。このEEOCがどのようなプロセスで差別の救済をしていくかということを(2)で見ていきたいと思います。
アメリカでは、労働者または応募者が、自分は差別を受けたかもしれない、雇用差別を受けたかもしれないと思った場合、直接裁判所に訴えることはできません。雇用差別を受けたと思った人は、必ず最初にEEOCへの申立てをしなければなりません。そういった申立てを受けたEEOCは、その差別の実質的な解決に向けて、さまざまな調査ですとか説得などを行っていくことになります。
EEOCが本当に差別があったかどうかということを調査するわけですけれども、調査した結果、確かにこれは差別かもしれないと考えた場合には、EEOCは協議や説得などを通じて、当事者間で差別の実質的解決を図ることになります。
EEOC自体が当事者間でちゃんと紛争が解決するように促していくこともありますし、別の方法としては、メディエーションに付すということも手続としてはあります。
このような形で、当事者間で実質的に解決できるように促すというのがEEOCの大きな役割なんですけれども、その実質的な解決が困難な場合には、EEOCが自ら原告となって使用者を提訴することができます。ただし、そのような事件というのは非常に少数でして、多くの場合には、EEOCが申立人に訴権付与状というものを送達することになります。これは、EEOCでの手続を経ましたので、これをもって裁判所に訴えて構いませんよという書状で、これを持って裁判所に行くことで提訴が可能になるというものです。
次、申立件数や処理内容について見ていきますと、2010年の申立件数を見てみますと、全体で見ると10万件ほどありまして、そのうち障害というのは2万5,000件、25%程度。人種差別ですとか報復差別が多いので、障害は2番目、3番目あたりですかね。性差別もありますが。
ただ、割合を足していって、100を大きく超えるんですが、差別を訴える場合に、単独で障害者差別ですと訴えるのでなくて、障害差別でもあるし、報復差別でもあるし、例えば自分が実質的なマイノリティであれば、人種差別も受けたというふうな複合的なもので訴えることが多いので、割合が100を大きく超えるということになっています。
処理内容ですけれども、どういった形で最終的に処理がなされているかというと、和解に至るケースが10%程度、有利な条件での申立取下げ。これは障害者側に有利な条件での申立取下げが6%で、行政的な終結が16%。これは、使用者側の事業者に文書を出したけれども、ちゃんと送付できなかったとか、そういった形でやむなく終わるというのが行政的な終結です。
あと、合理的根拠なしというのは、EEOCがいろいろ調べたけれども、どうもそれは差別ではなかろうと。その内容はいろいろあると思いますけれども、差別の合理的根拠なしというものが6割以上あるということです。
差別の合理的根拠があると判断されるのは5%前後でして、そのうち自主的解決に至った件数は1.8%、自主的解決に至らなかった件数は3.1%という形になっています。
次、司法上の救済を見ていきたいと思いますけれども、司法上の救済、日本に比べると非常に充実していると言えるかと思います。まず、差別行為の差止めができますし、採用命令もすることができます。採用差別があったという場合には、使用者にその障害者を雇いなさいという命令を出すこともできる。あるいは職場復帰の命令ですとか、バックペイ、フロントペイ。賃金を後で払うとか、そういったものですとか、あとは合理的配慮の提供、弁護士費用の負担など、こういったものが救済として挙げられています。
金銭的な救済ですけれども、これは、意図的な差別の場合にのみ補償的損害賠償と懲罰的損害賠償が認められています。この懲罰的損害賠償。アメリカだと、映画ですとかニュースなどで、非常に高額な賠償額が認められているということがニュースになったりしますけれども、一応、雇用差別禁止法の場合には損害賠償額の上限が定められています。その上限額がレジュメに掲げたとおりです。501人以上の従業員数を抱える企業ですと、30万ドルというのが上限になりますが、これはあくまでも原告1人当たりの上限額ですので、原告がたくさんいるような場合には非常に高額の損害賠償金が認められているということになっています。
ということで、途中はしょったところもたくさんありましたけれども、また、時間をちょっとオーバーしてしまいましたが、私からの報告は以上です。どうもありがとうございました。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
それでは、質疑に移る前に、ここで15分間の休憩をとります。15分ですので、再開は、私の時計ですと、今、3時37分ぐらいなんですが、皆さん、お手元の時計で15分休憩ということでご理解ください。どうもありがとうございました。

(休憩)
○棟居部会長 時間がまいりましたので、再開させていただきます。
それでは、先ほどの長谷川さんの報告に関する討議に移ります。御質問の方は、先ほどと同じように、挙手をしていただいて、お名前からお願いします。どうぞ。
○太田委員 JDFの太田でございます。2点ほど質問させていただきたいと思います。
まず1点目、先生のお話の中で、アメリカは随意雇用という制度があって、極端な話、理由がなくても労働者を解雇できるというような話がありました。実態として、障害を理由としなければ、理由なしに解雇できてしまう、解雇しているんじゃないかというひねくれたとらえ方をしてしまうんですが、そういう点はいかがでしょうか。
2点目です。これは、もし答えが難しかったら、お答えされなくても構いませんが、公民権法が出発点にあった。人種や宗教などで一切の差別をしてはいけないという公民権法が出発点であった。アメリカの差別を見ていくときに、非常に公民権法が私たちに勇気を与えるものであり、胸を打つものでございます。資料で配られた障害者基本法改正案の中で、例えば第3条の2項で、どこで生活するかについて、「可能な限り」という文言が入っているんですが、私たちは「可能な限り」という文言が気になってはいるんですが、アメリカの差別禁止法や公民権法の中で「可能な限り」という書きぶりの法文はありますでしょうか。
以上2点です。
○棟居部会長 ありがとうございました。長谷川さん、お願いします。
○長谷川准教授 長谷川です。御質問ありがとうございました。
まず、1点目のエンプロイメントアットウィル原則がある中で、理由を述べずに解雇した場合、それが使用者の内心としては、本当は障害を理由としているのに、何も述べずにとか、あるいはほかの理由を述べて結果的に解雇した場合は規制できないんじゃないかという御質問でよろしいですか。
○棟居部会長 それでよろしいと思います。
○長谷川准教授 おっしゃるとおりでして、それが差別禁止法の一番難しいところだと思います。裁判になった、訴訟になるということを前提で考えると、裁判では労働者の側、障害者の側が、自分は障害を理由に不利益な取扱いを受けたのだということを証明する責任を負うことになります。なので、言葉としては、あなたは障害者だから解雇するのだということをたとえ言っていなかったとしても、ほかの間接的な証拠、普段から使用者は障害者に対して偏見的な発言をしていたですとか、そういった間接的な証拠を積み重ねて、差別の意思があったというふうに推定する、そういった作業が必要になってきます。
ただ、そうは言っても、その証明というのは非常に難しいので、アメリカでは、立証責任を労働者側と使用者側双方に分配するという方法で、一定程度労働者側の証明責任の負担を軽くしていると言えます。
一応3段階に証明責任というのを分けられているんですけれども、第1段階として、労働者側、障害者側が、差別があったと、差別的な意図があったことを推定させるような一応の証明をすればよい。その証明程度というのは非常に低くて構わないというふうにされていて、そういった証明を障害者側が成功した場合には、次に使用者側に証明責任が移って、そのような不利益な取扱いの結果となった判断には、差別的ではない理由がちゃんとあると、適法な理由がちゃんとあるのだと、こうこうこういう理由があったから、そのような不利益な取扱いをしたのだということを証明する責任が使用者側に移る。
さらに、それが成功した場合には、第3段階目として、また労働者側に証明責任が返ってきまして、いやいや、使用者が今述べたような差別的ではない理由というのは単なる口実にすぎない、それはうそだということをまた証明することができるという形で証明責任が移るといった形をとって、直接的な言葉としては障害を理由として解雇するとは言っていないけれども、そういった理由があったんだということを証明していくことになります。
ただ、このあたりは恐らく相澤先生が非常にお詳しいので、補足するところがあれば、是非お願いします。
○棟居部会長 相澤さん、お願いできますか。
○相澤専門協力員 一橋大学の相澤です。
補足と申しましても、枠組み自体は、今、長谷川さんがおっしゃってくださったとおりなので、そこについての補足はないんですけれども、強調しておきたい点といたしましては、立証責任の分配がなされていても、最終的に裁判所が審議不明状態に陥ったときに、だれが証明責任を負っているかという意味での究極的な証明責任あるいは説得責任というのは、労働者である障害者側にあるということです。今のアメリカの裁判の実態に注目いたしますと、連邦裁判所がかなり保守的な裁判官で占められていますから、原告が差別が存在したと、裁判官を説得する、すなわち、究極的な立証責任を果たし、勝訴する、というのがなかなか難しい状況になってきていることが指摘できると思います。立証責任の分配があるということで、差別の証明に関する負担感が両当事者間ですごく公平に分担されているかというと、そうではない、そのような楽観的な見方は妥当でない、というのが、私がアメリカ法についての研究を行いながら、常々思ってきたことです。補足としてはそのぐらいです。
○棟居部会長 ありがとうございました。非常にポイントを突いた御質問をいただいたということだったと思います。
2点目について、長谷川さん、いかがでしょうか。
○長谷川准教授 長谷川です。
2点目の御質問というのは、3条2項に書かれているところの「可能な限り」ということだったんでしょうか。
○太田委員 3条2項のみならず、随所に「可能な限り」という文言が入っているんですが、こういうのはアメリカの法律にはあるんでしょうか。
○長谷川准教授 「可能な限り」という文言ではありませんが、例えばADAで、合理的配慮を提供しなければ差別に該当するというふうに定めた条文などを見てみますと、……。
○棟居部会長 ちょっと横から恐縮ですが、先ほどの太田さんの御質問ぶりからすると、公民権法が出発点だと。これは非常に胸を打つものがあると。しかし、実際には可能な限りといういわば逃げ道が随所にあって、理念と現実はかなりギャップがあるんじゃないかという御質問というか、御意見に近いような印象を私は持ちましたが、それはよろしいですか。
○太田委員 差別禁止法を考えていく、差別禁止法をつくっていくときに、公民権法の運用ということが非常に大きな影響を私に与えてくれていると。そして、今、差別禁止法をつくろうとしているわけですが、今回、資料として出されている障害者基本法の中で「可能な限り」という文言があると、「可能な限り」という文言が入ることによって、公民権法の精神と違うものがあるんではないかなと直観的に思えてしまい、それで、アメリカの法文では、こういう要因があるのかないのかをお尋ねしたいと思います。
○棟居部会長 もしございましたら、長谷川さん、一言コメントを、今のに対してコメントをいただければと。非常に大き過ぎるので、多分事実で補っていただくと大変なことになると思います。
ちょっと私の勝手な感想を言うと、障害の定義のところは、ADAでは、当初、柔軟で包括的だったということですね。公民権法の人種等から出発した、いわば定義上もこれはかなり明らかだというのとは、ADAの場合には、最初からいわば間口は広いというか、あいまいという意味で違うアプローチをとっていたわけで、しかし、その分といいますか、今、太田さんが御指摘されたようないろいろな逃げ道があって、ある意味のバランスがとれておったのかもしれないけれども、先ほど御紹介のあった2008年ADA改正で障害の範囲を明確化してしまうということになると、結局、逃げ道ばかりが残るというか、目立つというか、そこで、公民権法の崇高な理念と何かバランスを失しているような、ちょっと宿題が残ったような、これはこれからまた勉強させていただきたいと思いますけれども、何かそこで御意見というか、コメントがもし長谷川さんにいただければと思います。
○長谷川准教授 これは私の解釈が含まれるところだと思いますけれども、特に雇用の場面ということを強調して言いますと、差別禁止法ですので、職務遂行能力が求められるということが大前提となっているということを考えると、「可能な限り」という文言は、公民権法とかADAにはないかもしれませんが、やはりそこで何らかの一定の制限がかかってきてしまうし、でも、別にそれが悪いことというよりも、差別禁止法がそういったことを前提とした法律であるというふうに私は思っています。すみません、御質問とかみ合っていないことはわかっているんですが、そのように思います。
○棟居部会長 竹下さん。
○竹下委員 関連して質問しようと思っていたんだけれども、今の長谷川さんの説明が私は理解できていないのかもしれません。判例が障害者の範囲を狭めたということになるのかも知れませんが、ADAに基づく訴えに対して適用外にした判例を見ていると、そうではなくて、軽度の障害とか、あるいはADAが想定していなかった障害を判例は排除したと見た方がいいのではないか。すなわち、2008年法の改正によって逆に適用範囲を広げたのではないかと僕は理解したんですが、それは違うんでしょうか。
○棟居部会長 かなり学問的というか、学会風になってきましたが。
○竹下委員 例えば、ごめんなさい、僕の知っている1つの判例は、たしか日本企業に勤めていた女性が、腱鞘炎か、肘か何かの変形か忘れましたけれども、その障害を持った方の配置転換を求めたのに対して、それを拒否した企業をADAで訴えたときに、その原告に対してADAの適用はないとした判例じゃなかったですかね。
○棟居部会長 長谷川さん、どうぞ。
○長谷川准教授 長谷川です。
私の報告で言葉足らずだったと思いますけれども、2008年の改正で障害の範囲を明確化したということの意味は、狭めたという意味では全くありません。当初の1990年のADAの障害の定義が非常に包括的でいろいろなものを含むのだと考えられていたにもかかわらず、裁判所がそうじゃなくて非常に範囲をどんどん狭めるような判断をしてきたので、狭められないように障害の定義を明確化したという意味です。かつ、なお、その文言を裁判所が解釈するに当たっては、最大限その文言を広く解釈するようにという解釈準則も2008年の改正法で定められることになりました。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
では、続きまして、松井委員、お願いします。
○松井委員 松井です。
先ほどのことについて関連の質問なんですけれども、ADAは、雇用差別を是正する意味では有効ではないといわれています。つまり、ADAができて以降、障害者雇用は伸びたのかというと、必ずしも伸びていない。逆に減っているじゃないかという議論がある。これには、逆の意見もありますので、客観的にどうかわかりませんが、そういうこともあって、結局、さっきおっしゃったように障害についての解釈を広げて、これまでの対応できなかったことを対応できるようにするということだったと思うんです。2008年の改正後、まだまだ日が短いので、本当に効果があったのかどうかということはわかりませんけれども、いただいたデータは2010年。これ以前に比べて改善されたんでしょうか。もしわかれば教えていただきたいということです。
○棟居部会長 お願いします。
○長谷川准教授 長谷川です。
2010年、これはEEOCの処理の内容ですので、裁判所の判断とは違ってくるのであろうと思います。それが前提ですが、和解なり、それぞれ処理内容の項目はありますけれども、その割合というのは、2008年前とでは余り大きくは変わっていないです。なので、このデータだけからは、2008年改正の影響がどう出ているかというのは読み取れないですね。あと、裁判例もまだほとんど出てきていない状況です。
○棟居部会長 伊東副部会長、お願いします。
○伊東委員 伊東でございます。
EEOCについてもう少し教えていただきたい。6ページに書かれている今の御説明によれば、訴訟を起こすときには、EEOCの判断をもらい、訴権付与状を付けて訴訟を起こすことで提訴が可能となるということですが、例えば、EEOCの判断について当事者が納得できない場合には、訴える機会がなくなってしまうということになるのでしょうか。
また、EEOCの判断にどのくらいの期間を要しているのか?
○棟居部会長 お願いします。
○長谷川准教授 長谷川です。
EEOCは、申立てを受けてから180日間、専属的な管轄権を有するとされています。なので、1つ目の御質問と2つ目の御質問、両方にお答えできるかと思うんですけれども、180日を過ぎてもなお当事者間での自主的な解決が至らないような場合には、障害者側がEEOCに訴権付与状をくださいというふうに言えば、訴権付与状は障害者側に送られるという道もあります。それか、もう少しEEOCの中で自主的な解決を進めていきたいと思えば、もちろん180日たってもEEOCでの手続は続けられますが、大体の場合は180日というのをめどにしているということです。
○松井委員 ネガティブな判断がEEOCで出た場合に、例えば、障害当事者にしろ、雇用者サイドにしろ、それに対してまだ納得しないという場合に、持っていくところがなくなりますね。
○棟居部会長 長谷川さん、お願いします。
○長谷川准教授 長谷川です。
その場合には、自主的解決が不可能ということになれば、訴権付与状が出るので、裁判にいけるということになります。
○松井委員 ありがとうございました。
○棟居部会長 山崎委員、お願いします。
○山崎委員 山崎です。ありがとうございます。
EEOCについて4つほどお尋ねいたします。
○棟居部会長 1つずつ手短にお願いします。
○山崎委員 はい。今のところも関連もありますが、当事者間の自主的な解決を図るという点では非常によく機能していると思いますが、問題は、調整に相手方が応じない場合もあると思いますが、それに対する調整のやり方があるか、ないかはいかがでしょうか。
○棟居部会長 どうぞ。
○長谷川准教授 長谷川です。
私も、そのあたり、非常に疑問がありまして、先日、アメリカに行ったときに伺ってきたんですけれども、EEOCに強制力はない。出てこいというふうなことはできない。裁判所のようにすることはできないですし、EEOCがこのとおりのことをしなさいというふうに命令することもできないと私は理解しております。
ただ、実質的なこととして、EEOCでの手続にちゃんと乗ってこない使用者というのは、後ほど裁判になったときに非常にそれが不利な取扱いがなされますので、もちろん差別していなければ当然出てきて、差別していないことを言えばいいのにもかかわらず、出てこないということは、何か悪い意味があるのではないかというふうにマイナスに評価されてしまうので、現実としては使用者としては、EEOCからの何か資料を出しなさいとか、来て話し合いに応じなさいということには、ほとんどの使用者は応じるというふうには聞きました。
○棟居部会長 山崎委員。
○山崎委員 2つ目ですが、先ほど、裁判での立証責任の分配の話があって、非常に興味深く伺ったんですが、これは、EEOCで非公開の場で、当事者間でやる場合も、おおむねこういう順番で立証していく、EEOCの職員さんが恐らく真ん中に立って交互に聞いていくことになると思うんですが、大体流れとしてはこういう感じになされているものでしょうか。
○棟居部会長 長谷川さん、どうぞ。
○長谷川准教授 長谷川です。
そこはちょっとわからないんですが、イメージでは、そうではないのではないか。やはり裁判とは随分違うやり方にやっているのではないかと思います。
○棟居部会長 山崎委員。
○山崎委員 これが最後でございます。EEOCの話ですが、当事者にとってどの程度使い勝手がいいかどうかというのはすごく大事なことだと思います。心理的に利用しやすいということと、あと、場所的に利用しやすい。その点で、これは連邦の制度ですから、本体はワシントンDCにあるとおもいますが、これは各州にも支所というのはあるのでしょうか。
○棟居部会長 長谷川さん、お願いします。
○長谷川准教授 長谷川です。
各州に支所がありますし、ホームページなどからも申立てを受け付ける。あと、電話ですとか、そういったことも対応していますので、この制度さえ知っていれば、比較的アクセスはしやすいのではないかと思います。
○山崎委員 ありがとうございました。
○棟居部会長 では、相澤協力員、お待たせしました。相澤さんの質問で切らせていただきたいと思います。よろしく。
○相澤専門協力員 相澤です。
質問は2点ほどあります。1点目は、2008年の法改正に関連することです。法改正以前から、「合理的配慮」という文言をどのように解釈すべきかということが争点になってきたというお話でした。そして、「リーズナブル(合理的)」という文言についてですね、コストとベネフィットが釣り合っているものがリーズナブルであって、そうじゃなければ、合理的とは判断されないという、そのような判例が形成されてきたということでしたが、その点について、2008年の法改正では、コスト・ベネフィットの釣り合いがとれているということが「合理的」の具体的中身をなすのだ、というような判例を追認するような細かい規定がなされたんでしょうか、それとも判例を否定するような規定がなされたのでしょうか。これが1点目の質問です。
○棟居部会長 じゃ、1点ずつお願いします。長谷川さん。
○長谷川准教授 長谷川です。
2008年のADA改正は、ほとんどの部分が障害の定義に関する変更だけでして、リーズナブル・アコモデーションですとか、アンデューハードシップに関する規定というのは変更は全くありませんでした。これは、一部で評価されているのは、結局今まで裁判例というのが障害者でないということで敗訴する。そこで終わってしまうということなので、その後、求めた配慮というのがリーズナブル・アコモデーションだったのか、それとも過度の負担だったのかという、そこまで全く裁判で争われていないと。裁判例の蓄積もないので、そこでの議論が、裁判上はほとんどない、少ないと。なので、障害の定義を広げて2008年で改正したことによって、今までそこで止まってしまっていた裁判が、障害として認め、次の段階として、求めている配慮というのは、リーズナブル・アコモデーションなのか、アンデューハードシップなのかということで、次の段階に行くことによって、裁判例がその部分で増えてくる。裁判例の蓄積を連邦政府として待つという対応をとったのではないかという評価がされています。ということもあって、2008年改正では合理的配慮と過度の負担についての改正はなされなかった。
ただ1点、合理的配慮に関連することとしては、みなされる障害には合理的配慮を提供する必要はないですということが明記された。そこだけだと思います。
○棟居部会長 では、2点目、どうぞ。
○相澤専門協力員 2点目は、法改正が実現したアメリカの社会状況についての質問なんですけれども、2008年というのはブッシュ政権の時代で、この政権は非常に保守的な政権だったわけですけれども、こういう保守的な政権の下で総じてポジティブな方向での法改正が実現した、要因はどこにあったんのでしょうか。
○棟居部会長 長谷川さん、お願いします。
○長谷川准教授 ありがとうございます。
そのあたりは、私が答える材料はないんですが、ただ、1990年のADAのときも、保守政権、パパブッシュのときだったので、そこがどう影響しているのかというのはわからないんですが、ただ、障害者団体は非常に大きくてパワーがありますので、そういった選挙とかがある場合に、障害者団体の力が大きな影響を持っているということは言えるのではないかと思います。保守政権であろうとなかろうと、無視できない声というのが障害者団体の声なんだろうなと思っています。
○棟居部会長 どうもありがとうございました。
それでは、以上で長谷川さんの御報告に関する討議を終わらせていただきます。
以上で、アメリカの障害者差別禁止法制についてのヒアリングも終了いたします。
どうも長谷川さん、ありがとうございました。(拍手)
それでは、続きまして、本日2つ目のヒアリングに移ります。
立正大学准教授の高橋賢司さんから「ドイツの障害者差別禁止法制」についての御報告をお願いします。
○高橋准教授 立正大学の高橋です。今日はよろしくお願いいたします。
ドイツの差別禁止法制、特に雇用に関わる部分について御報告させていただきたいと思います。
2006年には障害者などに対する差別やハラスメントを禁止します一般平等取扱法が制定されています。均等処遇と訳すこともあるんですけれども、ここでは日本労働学会の先生方の訳語で一般的な一般平等取扱法と訳させていただきたいと思います。
この法律は、雇用と職業に関する平等取扱いの実現のための一般的な枠組みの制定に関するEC理事会指令2000/78などを国内法に置き換える措置として制定され、施行されたものです。2006年6月8日に連邦政府が法案を連邦議会に提出しまして、7月7日に連邦参議院で通過しています。8月18日には法律は施行されています。
レジュメにありますとおり、この法律の目的は、障害などを理由とする不利益取扱いは、回避され、除去されなければならないというものです。
他国とは異なりまして、ドイツでは、施行細則やガイドラインというのは存在しませんで、ドイツ全体の統一法の形式をとっています。また、平等取扱いを促進し、分析し、支援するなどを目的としまして、連邦反差別機関という行政機関が設置されています。これは2006年に設置されているんですけれども、この点についてもこの報告では報告したいと思っています。
一般平等取扱法と並びまして、社会法典第9編81条2項というところに障害者に対する差別禁止規定というのが設けられています。これは雇用との関係なんですけれども、「使用者は、重度障害のある従業員に対して、障害を理由として不利益取扱いをしてはならない。個別には、一般平等取扱法の規定が適用される」と規定されています。
また、報告では述べませんが、非常に重要なんですが、障害者の解雇につきましては、州の統合局と呼ばれます行政機関の承認が必要とされています。その承認をめぐって、行政機関の州で争い得る行政救済措置も解雇との関係ではとられていまして、解雇との関係ではここがメインのルートになります。
この点については、報告では特に詳しく述べませんが、何か御質問がありましたら、今日持ち得る資料の限りでお答えいたします。
また、解雇制限法1条5項というところでは、整理解雇に当たって、重度障害者を解雇してはならないと規定されています。これらにつきましては、何か質問がありましたら、お答えするということにいたしたいと思います。また、専門外の教育ですとか、公的な交通などとの関係では今回報告いたしません。
まず、一般平等取扱法の概念規定ですが、障害者の概念規定というのはございません。社会法典第9編2条1項の規定が参照されます。その中では、それを読みますと、「ある人の身体的機能、知的能力又は精神的健康が、かなりの蓋然性で6か月より長く、その年齢に典型的な状態とは異なる場合で、そのため、社会生活への参画が侵害されている場合には、障害がある」と定められています。
また、ここも大事な点なんですが、少なくとも障害の程度が50に達する場合には重度障害者とされます。
また、これとは異なる概念ですが、「重度障害者と同等の者」という概念がございまして、「重度障害者と同等の者」とは、障害程度が30以上50未満の障害者で、先ほど言いました要件などを満たすもので、かつ、適切なポストを得られない、又は維持できないという場合になります。適切なポストを得られないというのは、採用との関係で就職が困難であるということになりまして、維持できないといいますのは、解雇される危険があるということを指すとコメンタールでは説明されています。
これらの社会法典第9編2条の1項ないし3項の障害の概念が、一般平等取扱法との関係でも参照されています。
規制対象ですが、民間企業では使用者となります。派遣の場合は派遣会社、家事労働者の場合には委託者になります。連邦、州などの公務員なども保護の対象となります。
不利益を受けます従業員の保護に関する法規定は、主に従業員という概念によって画されます。レジュメにありますとおり、この法律における従業員とは、労働者、職業訓練にある従業員、それから、労働者類似の者とみなされる者となります。それから、家事労働者などがあります。
ドイツで特徴的なのは、労働者という概念のみならず、「労働者類似の者」という概念が規定されていることにあります。この意味は、判例では「社会的保護の必要性がある場合」とされていまして、より具体的に申し上げますと、雇用が社会的類型的に労働者と対比しうる程度に従属性の程度が存するという程度に社会的保護の必要性がある。社会的な重要性の程度があるという場合、達するという場合に、社会的保護の必要性があると判例では理解されています。
具体的には、フリーランス、請負契約により職務に従事する者、一人会社を経営する者が含まれます。恐らく関心の持たれるところだと思いますのは、政府草案によりますと、作業所に従事する障害者も労働者類似の者とされています。
この労働者類似の者とされることの効果といたしまして、労働時間、休暇、疾病の場合の賃金、母性保護規定、労働安全衛生などが適用されます。労働時間、休暇、疾病の場合の賃金、母性保護、労働安全衛生が適用されるとコメンタールでは説明されています。
差別の禁止事項ですけれども、これはレジュメにありますとおり、社会法典の一般的な規定と並んで、一般平等取扱法では、先ほど、1条の目的規定がありまして、それと並べる形で7条に規定がありまして、7条の中で、レジュメにありますような不利益取扱いの禁止規定がございます。
また、2条におきましては、次に関連する事項については、不利益取扱いは違法であると規定されていまして、採用及び昇進、就労条件ないし労働条件、職業訓練等が定められております。
そして、直接差別と間接差別の禁止規定が設けられています。一般平等取扱法の3条1項に概念規定がございまして、つまり、1条に掲げられる諸事由、これは、障害とか人種など、それぞれありますけれども、そのいずれかに基づいて、対比しうるような状況のもとで、他の者が経験した、若しくは経験しうるよりも不利益な取扱いを経験する場合には、直接的な不利益な取扱いとなると規定されています。
連邦労働裁判所は、ドイツの上告審ですが、その判例では、この方は右の腕が麻痺しているということで、障害程度100の肢体障害となっている場合なんですけれども、重度障害者として認定されている方です。この方が、公法人であるトリア専門大学の採用に応募しようとしたという事案です。これは経理のポストの採用でございまして、この方は、経理に3年半従事していた経験が他企業でありまして、また、商学修士を持っていました。
その際に、連邦労働裁判所は、そうした事情を考慮しまして、重度障害者に対する障害を理由とした不利益な取扱いをなされたとして直接差別が認められています。
また、別の事件ですけれども、被告の州の警察の駐車スペースの監視職員、日本でも駐車スペースの監視の方がいますが、その応募をめぐって問題になった採用差別なのですが、この方は、神経皮膚炎というのを患っていました。障害程度40だったんですけれども、この場合に、被告の州は、神経皮膚炎がわかったという段階で、監視業務に不向きであるとして、州の警察長官が本人に直接監視業務は不向きであるということを通知したという場合でした。それを認定いたしまして、直接差別というのが認定されています。つまり、不利益取扱い障害によるものだということを推定できるということを認めています。
ドイツの連邦労働裁判所の判事が来日したときに、この判決が重要であるということを教えていただいたものですが、これらの2つの事件は、実際には正当化事由が争われていますので、その争点も重要ですので、後ほど紹介したいと思います。
また、間接差別の規定がございまして、つまり、外観上中立的な規定、基準、手続より、1条に掲げられる諸事由のいずれかに基づき、対比しうる状況の下で、他の者よりも、特別な方法で、ある者が不利益な取扱いを受ける場合、間接的な不利益な取扱いとなると定められています。
それから、積極的な是正措置、ポジティブアクションについて、レジュメにありますとおり規定されています。
政府の草案によりますと、これもECの理事会指令2000年の43、5条や理事会指令2000/78、7条1項などの指令が国内法にドイツ語に置き換えられたということになっています。その措置は、客観的な基準に基づいて必要かつ相当なものでなければなりません。積極的な是正措置といたしましては、主に男女差別をめぐって問われていますのはご承知のとおりだと思います。
ドイツでは、障害者に対する優遇というのは、これらの指令によって推断される促進の要請に基づく場合には、女性の優遇と同様に、適法であると述べられています。これはコメンタールの説明になります。
特に関心がここで持たれるところではないかと思いますが、社会法典第9編における重度障害者などについての保護のための規定、例えば雇用率の制度があるのですが、学説からは異論もあるんですけれども、立法者によりますと、これは、本条5条に服するものではなく、社会法典第9編の雇用率を含む規定は、積極的是正措置としては理解されていません。学説では、これは積極的な是正措置に当たるけれども、必要かつ相当なもので、客観的基準によるものである限りには、それは正当化されると説明されていまして、いずれの説明によりましても違法ではないとなります。
それから、正当化事由のお話に移りたいと思います。
法律の8条1項によりますと、差別的取扱いは、その理由が職務の本質的かつ重要な要請である場合には、その目的が正当かつ、その要請が正当である限りで適法であると定められています。
職務の存在について重要なのは、職務に関連しているかどうかというところです。正当化には、そこの「一定の」というところを補っていただきたいんですけれども、一定の身体的機能、知的能力、又は精神的健康が、一定の職業上の要請であることが被告によって主張・立証されることが必要とされます。これは連邦労働裁判所の判例ですが、つまり、証明責任の問題が先ほど議論になりましたけれども、ドイツは2段階になっていまして、まず、従業員の方が不利益取扱いが障害に基づくものであるとの事実を主張します。そして、使用者の側が、その理由が職務の本質的かつ重要な要請であり、そして、その目的が正当かつ、その要請が相当なものであるということを主張・立証しなければいけないというふうになります。この2段階となっています。
レジュメには詳述していませんが、証明責任について先ほど述べました専門のトリア大学の事件が問題になっていまして、先ほど述べましたとおり、ポストといたしましては経理のポストの募集でございます。「経営学学士を求む」という公募だったのですが、この人は商学修士を持っていた。そして、中規模の会社において、他企業で3年半経理職にあったという場合でした。ポイントは、一定の身体的な能力が職業上の要請かという点でございまして、一定の身体的な機能が職業上の要請であり、それがないということが必要とされます。つまり、本人は適正がないなどの理由があるかどうかというところが問題となります。
連邦労働裁判所は、商学修士として大学の修了をしていたのは明らかである。明らかに専門的な適正を欠くとは言えないと言いまして、また、中規模の事業所において3年半経理で働いていたことを原告は指摘している。このため、専門的な適正の欠如も実務経験の不十分性も推定されないと述べまして、一審原告の上告を認容いたしました。つまり、処遇上の要請との関係では、専門的な適正が原告に欠けるものではないと判断されているわけです。一定の専門的な適正があれば、身体的な機能の欠如による職務ができないということではないということになるわけです。
また、他の事件ですけれども、先ほど挙げた事件ですけれども、駐車スペースの応募の事件におきまして、この方については、健康上不向きであるということをベルリンの警察長官が原告に対して通知しています。これは、被告州が警察の州の方が医師の検査をさせまして、それに基づいてそのような通知をしたということです。
それによりまして、正当化との関係で、これでは身体的な知的な能力、又は精神的な健康が一定の処遇上の要請であることが被告州によって立証されたとは言えないと判断されています。このように判断されているわけです。
次に、ハラスメントにつきましては、レジュメにあるとおりでございまして、時間の関係もありますので、詳細は省略いたします。
次に、差別禁止の違反の効果のところに移りたいと思いますが、不利益取扱いの禁止に反する合意は無効となります。また、契約上の義務にも反することになります。
また、金銭補償や損害賠償が可能となっています。1項におきましては、不利益取扱いに違反がある場合、15条の1項におきましては、禁止の違反がある場合には、使用者は損害賠償義務を負うとなっていまして、これは、使用者が義務違反を主張しない場合には適用しないと規定されています。
そして、2項におきましては、財産的損害でない損害を理由として従業員は相当な金銭賠償を請求しうる。不採用については、3か月の報酬を超えて得ることはできないということが規定されています。
立法者によりますと、1項は、実態的な損害、つまり、財産的な損害を規定しています。2項につきましては、非財産的な損害を念頭に置いています。つまり、2項については、非財産的な損害、人格的利益の侵害に対する制裁というのが念頭に置かれているということになります。
また、法律学的な話になるんですけれども、1項は、使用者に義務違反に責任がある場合にのみ実態的な損害について賠償責任はあることになります。1項はつまり、使用者の義務違反を主張しない場合には責任がないということになるわけですけれども、責任の推定規定であると理解されています。
これに対して2項につきましては、使用者の責任の有無、つまり、故意・過失とは無関係に補償が行われるということになっています。1項による損害賠償請求と2項による補償請求というのは同時になしうるというふうに説明されています。
さらに、ドイツでは給付拒絶権というのが認められています。これは、主にハラスメントとの関係で問題になってきます。
それから、報復の禁止なんですけれども、16条に規定がありまして、使用者は、異議申立権、給付拒絶権、補償及び損害賠償権の請求を理由として、不利益な取扱いをすることは許されないと規定しています。これは報復の禁止になりまして、EC理事会指令2000/78の11条が二次的被害の禁止を定めているんですけれども、ドイツ法はこれを置き換えたことになっています。これにより、異議申立権、給付拒絶権、補償及び損害賠償権に対する報復の禁止が規定されています。
合理的な配慮について話を移させていただきます。
ドイツでは合理的配慮と呼ばれる項そのものは存在しません。これに相当する雇用請求と呼ばれる問題になります。
EC理事会指令2000/78では、相当な予防措置をとることを法律上求めていますが、ドイツでは、社会法典81条において、既に雇用請求、後に述べます雇用請求の規定を設けていましたので、ヨーロッパ法上の要請を既に満たしていた。そこで追加的な立法は必要でないとされました。これについて詳しい説明は、後で説明することも可能です。
その81条の4項ですけれども、障害や障害の影響を考慮に入れて、以下の請求権を有するとなっていまして、能力、知識をできるだけ活用、発展するという規定。
それから、職業訓練について、企業内措置に当たって優先的な考慮。
それから、同じく職業訓練で企業外についての参加が定められています。
また、障害に適した就労場所の設置と維持ということが規定されています。
それから、技術的な援助を含む職場の形成ということで、括弧内、背や腰の傷害者と書きましたが、障害の字が間違っていました。大変失礼いたしました。
そして、過度の負担が使用者に課される場合、これらの請求権はないものとされますが、後に述べますとおり、過度の負担につきましては、公的な援助、給付金が得られることになっています。ですので、ここに規定されていることは、過度の負担のうち、公的な援助を受けても期待できないという場合には、これらの雇用請求権というのは要求されないんだという理解になっています。
より具体的にレジュメ5ページのところで、第9編81条4項をめぐる判例というところを見ていきたいと思います。時間との関係もありますので、1例を示すのにとどめさせていただこうかと思います。ほかの2つの判例については、御質問がありましたらお答えいたします。
能力と知識に応じて雇用請求できるということの例といたしまして、障害者は、他の就労の割り当てを請求できる。つまり、負担の軽減された雇用が可能だとされた事案があります。どういう事案だったかと簡単に申し上げますと、36歳の方だったんですけれども、障害程度50の方で、膝関節の疾病を理由に労働不能にありました。太ももの義足をしていたという場合です。そして、材料の搬入とごみコンテナの清掃を職務として行っていました。これは、従来の清掃員としての仕事は行えなかったために、材料の搬入とコンテナの清掃を職務として行っていました。
ところが、その後、評定で労働災害を負いまして、義足の破損によって、再び原告は手術を受けたという場合でした。そのため、再び労働不能に陥りました。この労働災害を理由として、再び労働不能に陥ったというところで訴訟になるのですが、被告会社は継続雇用を拒みまして、賃金を支払いませんでした。そこで原告は、労働裁判所に清掃員としての継続雇用の請求、賃金請求、この2つを請求いたしました。労働裁判所は請求を棄却いたしまして、控訴により一審原告は賃金請求のみ続けました。
二審ですけれども、州労働裁判所は、控訴棄却で、原告は負けてしまいまして、連邦労働裁判所に上告したんですけれども、州労働裁判所に破棄差戻しされています。
それに当たりまして、レジュメにあるように、他の就労の割当てを請求できるという旨の説示を連邦労働裁判所が行いまして、より軽微な労働で雇用を請求できるということは、社会法典81条4項1文から生じると説示されました。そこで、資材等並びごみコンテナの清掃、従来行っていた職務と関連するような職務で障害に即した雇用が被告には可能だということはあり得ないことではないと説示されまして、どういう職務が行われるかについてを認定するために破棄差戻しされました。実質勝訴のような形をとっています。
このような形で雇用請求というのが問題になっていきます。
それから、ドイツ法で特徴的なところなんですけれども、これも訴訟の多いところなんですが、パートの短縮された労働時間というのが問題になってきます。つまり、パートタイムの短縮された労働時間の請求を行えうることになっていまして、これは81条の5項に規定があります。裁判例では一審のレベルなのですが、健康上の理由から8時間から4時間ないし5時間への労働時間短縮が必要であるということが認められています。
それから、重度障害者は、時間外労働、深夜労働の免除を請求することができると規定されています。これも重要な規定で、訴訟が比較的あります。
レジュメ5ページの中段に戻って恐縮ですけれども、これらの雇用請求、パートタイムの労働時間短縮請求、時間外労働免除請求等これらの規定がありますが、これらについての適用対象者は、大事な点なのですが、立法上は、重度障害者及びこれと同等の者とされています。これは68条の1項に規定がありまして、以上述べましたことは、重度障害者というふうに規定されていますけれども、68条1項がありますので、これらの雇用請求、パートの短縮請求、時間外労働、深夜労働免除請求というのは、いずれもこれと同等の者についても適用されることになります。
それから、冒頭で行政的な救済があるということを述べさせていただいたと思うのですけれども、連法反差別機関という行政機関がございまして、そこから委託される機関があるんですけれども、一般平等取扱法27条2項によりますと、反差別機関の権限といたしまして、狭義のあっせん、和解のための紛争解決をなしうるというふうになっています。これの連邦反差別機関と言いますのは、2006年に設立されまして、連邦家庭・高齢者・女性・青少年省の一機関として設立されています。
財政規模といたしましては、2010年で260万7,000ユーロの支出となっています。
そして、職員数は少ないんですけれども、2010年で25人とされていまして、本部はベルリンにありまして、支部はありません。そして、ベルリン以外の都市で紛争が生じた場合には、連邦から委託されたNGOなどが、同機関と同様の権限を持つこととされています。
取扱件数といたしましては、連邦反差別機関に対しては、情報提供や、これは電話などで情報提供を求めるということですけれども、それから、あっせん、先ほど申しました和解などのあっせんですけれども、これを求めてきたのが全体で8,810件。これは2006年8月から2009年10月でございまして、2009年の新件は5,690件となっています。不利益取扱いとの関係では、障害事由の場合が869件となっています。件数としては非常に少ないと思います。
そして、救済のプロセスなのですが、まず、労働者が不利益な取扱いを受けたという場合には、両当事者、使用者と労働者が承諾した場合のみあっせんが開始されることになります。その際、反差別機関は、使用者による態度決定を求めることができまして、つまり、使用者の正当化事由についての事実や理由の主張を求めることができます。同機関に証拠提出命令などの権限はありません。これは、日本で言う個別紛争の各都道府県のあっせんに非常によく似ていると思います。そして、上述のとおり、狭義のあっせん、和解のための紛争解決が図れることとなっています。
ただ、行政の救済の欠点といたしましては、両当事者が承諾したときのみあっせんが開始されるという点にあります。また、同機関はベルリンにしかありませんので、その他の市に居住する者は、NGOなどの委託を受けた機関が同機関と同じサービスを提供することになるんですけれども、ただ、それでもアクセスする機関というのは非常に少ないために、これらの行政サービスを受けるのは非常に難しいということをベルリンの反差別機関の担当者からインタビューで伺いました。
また、最終的には和解による解決が図られるんですけれども、補償になりがちで、その場合、補償の額が低くなりがちだという点が指摘されています。
そういたしますと、メインのルートは、これはアメリカ法とはイメージが違いますので、頭の切りかえが必要なんですけれども、司法的な救済の方がメインとなります。行政的な救済を経てからでないと司法的な救済は受けられないわけではありません。両者併存していますので、同時に進めることもできますし、行政的な救済を終えてから司法的救済に移ることもできます。また、行政的な救済がなくても司法的な救済に移ることもできます。
こちらは、労働裁判所全体の統計はあるのですが、2009年では49万4,512件の訴えがありまして、このうち約25万件は解雇無効の訴えになります。ただ、統計からは、障害を理由とした差別事件がどの程度あるかというのはわかりませんでした。ただ、弁護士や裁判官の話を伺いますと、連邦の反差別機関やその委託の機関というのは余り用いられず、こちらの司法がメインになるということの説明を受けました。実際、行政機関の差別事件に限定されているというのを考慮したとしても、司法権はほぼ49万で、労働裁判所の方が49万で、この行政機関の方は新件は5,600件程度になりますので、圧倒的に行政救済の方が少ないということになろうかと思います。
それから、レジュメにありますとおり、行政の救済、職場の救済というのもあります。異議申立権というのがあるということになっていまして、上司や人事課に異議申立てができるというふうになっています。
最後に、雇用率制度なんですけれども、今日の報告の中では、差別禁止ともう一つ、雇用率制度について話してほしいと委託されていますので、それについて簡単に御紹介いたします。
既に御承知の方が多くいらっしゃると思うのですが、対象の障害者というところからお話しさせていただきますと、先ほど述べました社会法典第9編2条1項の規定、2項ないし3項の規定というのが重要となります。障害者の定義が2条1項で規定されていまして、重度障害者、重度障害者と同等の者という定義付けがございます。これに当たっては「医学的鑑定業務の手引」というのが用いられています。この翻訳は高齢障害者雇用支援機構の方から出ていますので、こちらの方でごらんいただくことができます。
そして、細かいことですけれども、障害が重度でない青年や若年成人も新たに対象とされています。また、最低週18時間雇用されるパートタイム労働者も参入できるというふうになっています。
それから、高齢者パートという制度があるんですけれども、この場合は18時間未満で参入ができるというふうになっています。この運用については私は具体的には存じ上げません。ですので、全体といたしましては、雇用率を算定するに当たりましては、重度障害者と重度障害者と同等の者、これが参入に当たって考慮されるという構造になっています。
その認定方法ですけれども、障害の存在と程度、重度障害なのか、あるいは同等の者となるのかにつきましては、まず、障害程度について認定を受ける必要があるのですが、これは援護法に基づく管轄の官庁によって行われるとされています。
具体的には、州と市のレベルで行われることとされています。最近の行政組織の改革によって、州の権限が委譲されつつありまして、ノルトラインベストファーレン州、これはケルンとかデュッセルドルフとかがある州ですけれども、そこでは市と郡に委譲されています。それに対してベルリン州では、ベルリン州自体でやっているということになっています。ですので、どの程度市に委譲されているかというのは、州によって異なっています。
また、同等の者の認定に当たりましては、先ほど述べましたとおり、採用に当たって、こんなふうになっているとか、解雇に当たって雇用が脅かされていることの認定が必要ですので、これについては連邦雇用エージェンシーが行うというふうにされています。
そして、雇用率の運用主体は、州の統合局で行うこととされていまして、納付金との関係では、連邦社会労働大臣となっています。
雇用率は、民間部門、公的な部門ともに5%となっていまして、対象事業所は20名以上となっています。これは公的な部門も同じです。企業、公的な部門における従業員者数20名以上となっています。
実雇用率につきましては、2008年統計ですと、全体で4.3%、民間企業で3.7%、公的な部門で6.1%となっています。
この公的な部門というのは、連邦州市だけじゃなくて、そこから委託されているセクターも含まれていると言われています。
そして、御承知のことと思いますけれども、納付金制度がありまして、雇用率未充足の場合には、企業は納付金を納めなければなりません。その額はレジュメにあるとおりとなっています。
この納付金は、以下の給付金として利用されます。
先ほど、雇用請求との関係で申し述べるのを忘れたんですけれども、補助的な労働力、これはジョブコーチが必要な場合ですけれども、それから、通常の費用とは言えない費用と結び付く場合、労務の提供を減少する場合などにおきましては、納付金が利用されることとなります。つまり、雇用率を満たした企業が納付金を納めるのですが、その納付金の一部がこうした形で給付金として利用されることになっています。
これは雇用請求との関係では重要なことでして、例えば通常の費用とは言えない費用と結び付く場合というのは、例えば、事業所において施設の中で施設をつくる、スロープをつくったり、必要とされるエレベーターをつくるような場合ですけれども、2009年のヘッセン州、これは訪ねていただいた資料なんですけれども、2,700ユーロ、個々の場合に平均で支給されているということでした。
それから、前後して申しわけありませんが、ジョブコーチが必要な場合、72条1項1号aですけれども、連邦全体では2007年で1,868例あるということです。
それから、労務減少がある場合に相当な範囲で給付金が与えられるということになっていまして、この内容といたしましては、賃金補助があります。通常の場合は、賃金は50%、12か月支払われます。国の統計ですけれども、2008年の統計で3万1,339件の給付金がこの場合に支給されているということになっています。
この最後のところは、この賃金補助の部分は、一般企業、統合企業と呼ばれる企業があるんですけれども、社会的企業と位置付けられるものに、政府の行っている統合政策の一環で、統合企業と呼ばれる企業があるんですけれども、それに対する賃金補助として利用されています。
以上のように雇用率制度が運用されていることになっています。
私の報告といたしましては、以上になります。
○棟居部会長 どうも高橋さん、ありがとうございました。
それでは、ここでもう一度休憩をとらせていただきたいと思います。ただ、休憩後に6時までに終わらなければいけませんので、討議の時間が短くなってしまいますと何ですので、時間厳守ということで、今、私の時計では5時3分。15分以内に開始ということで、15分以内といいますか、5時15分か16分ぐらいにスタンバイということでお願いします。

(休憩)
○棟居部会長 それでは、再開します。
それでは、先ほどの高橋さんの報告に関する討議に移ります。御質問の方、お願いします。どうぞ、太田さん。
○太田委員 2点あります。
JDFの議論の中で、ヨーロッパの国々は、包括的な人権法があるから、差別禁止法制が容易にできたのではないかという議論があります。一般的に一般平等取扱法と重度障害者法との関係の中で、そういう兆しというのは、やはりドイツにも一般平等取扱法があったから重度障害者法ができたのでしょうかというのが1点目です。
2点目は、雇用率の差別禁止の問題です。法定雇用率が達成された企業は、変な言い方をしますが、障害者を雇わなくてもいいという考え方があるんでしょうか。その2点です。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 1点目ですけれども、従来、重度障害者法という法律があったんですけれども、これと一般平等取扱法との関係ということだったと思いますが、まず、社会法典の規定がつくられたときに、重度障害者法やほかのリハビリテーション調整法などの法律がすべて統合されました。その結果、重度障害者法という法律は廃止されています。ですが、より細かな規定が社会法典の中にありまして、雇用との関係では、社会法典第9編、今、時々出てきたと思うんですけれども、その詳細な規定が適用されることになります。
それで、一般平等取扱法との関係になりますと、ちょっと複雑なんですが、今日、御紹介した幾つかの事件というのは、多くは、社会法典第9編の81条2項との関係で問題になっています。ただ、それは社会法典の第9編81条2項の旧法との関係で訴訟になることが多いんですが、それで、81条2項が改正されまして、レジュメにあります個別的には一般平等取扱法の規定が適用されるとありますが、従来、この規定はありませんで、なかったときに81条2項の規定が判例で問題になっています。多くの事件はそれとの関係で問題になっています。
ですが、現在では一般平等取扱法の規定が優先的に適用されるということになりますので、81条2項の旧法で問題になった事件というのは、現在の一般平等取扱法との関係で問題となります。
2番目の質問、雇用率で使用者が雇用率を達成した場合の問題ですが、その先の御質問の趣旨がわからないんですが。
○太田委員 雇用率を達成すれば、雇わなくていいのか。
○高橋准教授 そういうことは義務としてはもちろん5%になるわけですけれども、もちろん任意で5%を超えてももちろん問題はありません。ただ、義務として課されるのは5%までとなります。
○太田委員 要するに、5%を超えた場合に、障害を理由に雇わないということができるか。5%を超えたら、それ以上障害者が応募してきても、障害を理由に。
○高橋准教授 それについては特に判例というのを見たことがないんですけれども、特に雇用率との関係でそれが争われた事件というのは、私が知る限りでは見たことがありません。
○太田委員 もう一点、反対に、納付金を払えば、雇用率を達成しなくても構わないんでしょうか。
○高橋准教授 一応基本的には納付金を納めればよいということにはなっています。というか、納付金そのものがサンクション、制裁になっていますので、未達成の場合には、サンクションとして納付金を納めなければならないということに法制上なっています。
○棟居部会長 川島委員、どうぞ。
○川島委員 今の御質問とも関連するのですけれども、レジュメの8ページの、ドイツの雇用率制度は、従業員数20名以上の企業を対象としているとされているのですけれども、いわゆる差別禁止の文脈では、必ずしも従業員が20名以上じゃないケースもあるかと思うのですけれども、その場合はどうなるのかと。つまり、差別禁止というのは、アメリカの場合、15名だったと思うのですけれども、ドイツの場合、差別禁止法の対象となる企業の規模というのはどのぐらいなのかというのが1点。
また、それと関連するので御質問させていただきますが、納付金制度のもとでの納付金を原資とした合理的配慮の助成のお話なのですけれども、これはあくまでも雇用率制度のもとで雇用された人にだけ適用されるのでしょうか。それとも雇用率制度とは関係なく、つまり、就職する際に、ある程度の、一定の合理的配慮が必要になる人に対しても、雇用率制度のもとでの納付金から助成をすることによって、使用者はその過重な負担の抗弁というものを使えなくなってしまうのか、その2点につきまして御教示をお願いいたします。
○棟居部会長 高橋さん、どうぞ。
○高橋准教授 まず1つ目の御質問ですけれども、一般平等取扱法との関係では、使用者の概念に制限がありませんので、特に規模の制限はありません。
2番目の質問ですけれども、雇用率だけではなくて、第9編の雇用請求の関わる章につきましては、先ほど申し上げましたとおり、重度障害者だけではなくて、重度障害者と同等とされる者についても適用があるというふうに68条に規定があります。したがいまして、まず、これらの人たちは雇用請求はできるという建前になっています。そして、この雇用請求をした場合に、先ほど、最後に御紹介いたしました社会法典第9編の72条の3つの場合を挙げましたけれども、ほかに2つあるんですけれども、メインはこの3つでしたので、3つを紹介いたしましたけれども、ジョブコーチが必要な場合ですとか、使用者の施設で何か装備をしないといけないとか、賃金補助ができるということについて、国から、厳密には州の統合局から納付金を通じた給付金が得られるという構造になっています。
○棟居部会長 松井委員、どうぞお願いします。
○松井委員 さっきの川島さんの質問とも関連するんですけれども、現在、ドイツの場合は、合理的配慮の財源となっているのは納付金だけなんでしょうか。というのは、日本でも納付金でやるべきか、あるいは税金でやるべきかという議論がありますけれども、いずれにしても、合理的配慮というのは場合によっては恒久的な形で提供することが必要な人がいますね。だから、短期でやるのはいいけれども、恒久的にどんどん増えてくると、本当に納付金会計で大丈夫なのかというのが1つあると思うんですね。3つ質問があるんですが、とりあえずそれをお答えください。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 これについては、納付金だけではなく、ほかの財源もあると聞いたんですけれども、ただ、主要な財源は納付金だと伺いました。
それとの関係で特に問題になるのは、給付金というのは、企業だけではなくて、統合のための企業にも使われます。そうなっていますので、実際にあった話なんですが、ある州の話なのですが、バーデン・ヴュルテンベルクというシュツットガルトのある州なんですけれども、納付金がどうしても州の中で足りなくなってしまったために、統合のための企業の創設も認可できないという事例が2つあったという話をドイツの州で聞きました。ですので、やはり納付金不足という問題は、多くの州で抱えている問題だと聞いています。ですが、ヘッセン州で聞きましたときには、納付金不足という問題は余り論じられていないと言っていましたので、州の状況によって異なっているようです。
○棟居部会長 では、松井委員、2つ目、お願いします。
○松井委員 連邦反差別機関というのは、最初、説明された一般平等取扱法に基づいて設置されたと理解していいと思うんですけれども、それ以前にはそういう機関というのはドイツではなかったんでしょうか。
それから、もう一つは、先ほどのアメリカのEEOCに比べて非常に規模が限定されているというか、予算的にも人員的にも、先ほどおっしゃったように、設置されているところもベルリン以外のところは設置されていないということですが、そういう意味では、反差別機関をつくることについては、ドイツ国内でかなり反対というか、かなり問題があったんでしょうか。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 反差別機関が連邦の機関としてできるときにどういう議論があったのかということについては熟知していないんですけれども、制定された後、施行されて1年たったときに、取扱件数がかかっている税の支出に比して低いのではないかということが連邦議会で議論になっていて、議員が質問して、そして局の長が答えるというやりとりがございました。そういうことはニュースなどで報道はされています。
それから、連邦差別機関以前に何か行政機関があったかという御質問だったと思うんですが、一番機能としているものとして有名なのは、先ほど申し上げました統合局のところで解雇についての承認をする。これについては、ワイマールのころからあった規定に基づいて、局の名前は違いますけれども、昔からあります。差別との関係では、各市に反差別機関というのはあるんですけれども、雇用の関係で問題になるのは、その市の行政の職員との関係だというふうに市の反差別機関で話を聞いたことがあります。それ以外に機関があったかどうかということについては、私も存じ上げません。
○棟居部会長 ありがとうございました。もう一つ。
○松井委員非常に簡単なんですけれども、3ページ目で幾つか「政府草案」という表現で説明されたでしょう。これは草案であって、実態は違うのかという、そこの確認だけさせてください。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 積極的是正措置のところであります「政府の草案」といいますのは、連邦議会に出したときの草案になりまして、大体ドイツ法を研究する人たちは、まず、連邦議会の草案を見ることから始めまして、連邦参議院で草案が出るときには大体の場合は修正になりますので、修正された部分についての説明になります。連邦議会の最初の草案のところに総論的な説明と、一般的な状況の認識と、なぜ法律が必要になったかという総論的な説明がありまして、かつ、条文の改正された点ですとか、新設された点についての説明がありますので、一般にはDrucksache と言うんですけれども、連邦議会の草案を研究者の方では用いています。
○棟居部会長 ありがとうございました。
ほか、御質問は。では、池原委員、お願いします。
○池原委員 私がよく理解できなかったというか、聞き落としたのかもしれないですけれども、4ページのところで合理的配慮に関してですが、御説明によると、つまり、社会法典9編81条3項に合理的配慮に相当する適切な措置という規定があって、4項にそれについての具体的な内容が明らかにされていると。ただ、この3項は訴求可能な請求権ではなくて、規範的な意味ではないということですね。そうすると、4項に書いてある具体的内容というのも規範的な意味がないということになるんでしょうか。合理的配慮の裁判規範性みたいなものはどうやって導いているんですか。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 3項は一般的な規定になっていまして、目的規定として定められたものになっています。4項のところで、ここにありますとおり、知識と能力をできるだけ多岐に発展させるような労働というふうに、例えば請求権としてはありまして、ほかに就業場所の設置や意義などが規定されているわけですけれども、これらについては訴求可能というふうになっています。
それと、休み時間のときに御質問いただきまして、補足したいと思うんですけれども、これらの請求があったときに、72条に関わる場合には、72条は8ページのところにあるんですけれども、このとき、納付金から支給される給付金によって、それぞれに該当すれば、72条と重度障害者納付金支出規則に基づきまして支給されるという構造になっています。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、西村委員、お願いします。
○西村委員 連合の西村です。質問は2つあります。
まず1点目ですが、ドイツにおける障害者差別禁止法制とされる社会法典は、アメリカのADAと同等に障害者の差別を禁止する法律としてとらえていいのでしょうか?先ほどの説明では、一般平等取扱法の絡みも出されながら説明されていたのと、前回の学習会で、フランスでは障害者に特化した差別禁止法でやっていないという説明があったので、ドイツについてのとらえ方が1点目です。
○棟居部会長 では、まず1点目の御質問に高橋さんお願いします。
○高橋准教授 御質問の趣旨に答えているかどうかわかりませんけれども、基本的には、アメリカなどで行われている差別の禁止と変わらないと思っています。社会法典は、構成としましては、年金ですとか、医療保険などもほかの編には規定されていますし、失業に関する給付なども規定されています。第9編におきまして障害者の雇用に関する編がありまして、そこに包括的な規定が置かれているというふうになっています。そこに差別禁止があるというだけになります。
○西村委員 わかりました。
あと、判例の中で、十分に聞き取れなかったのかもしれないんですが、障害を持つことによって職場復帰云々かんぬんの中で、労働時間の短縮というところでのお話があったかと思います。これに絡めて2点なんですけれども、1つは、労働時間を短縮することによって、給与の取扱いがどうなっているのかということです。障害者に関わる具体的な労働時間短縮の事例としては、腎臓機能障害のために人工透析を受けていて、勤務時間が短くなったり、メンタル、精神疾患のため短時間労働に移行した場合とか、重度障害のため体力的に週40時間働くことが難しいといったものがありますが、その人の障害のために労働時間を短縮した場合の給与関係について、不利益な扱いになるのか、そうではないのか、そこら辺のところを教えていただければと思います。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 まず、労働時間短縮ですけれども、特にパートタイムになる場合は、労働時間短縮請求というのが認められまして、これは使用者の同意が必要ではありません。請求をまずする。使用者の側に、パートタイムにすることについての拒否事由がある場合には、使用者は労働時間の短縮請求を認めないということができるんですが、そういった形で法律上はできています。
それで、パートタイムの労働時間の法律の中では、就業促進法という法律なんですけれども、その中では、時間に比例した賃金の請求というのが認められていますので、ですから、労働時間に即して正社員と比較して均等処遇との関係で、時間に比例した賃金を労働者は請求できるというふうになっています。
正社員の場合ですと話は異なってきまして、正社員の枠内で時間を短縮するという場合は、これは日本と同じような形になります。ですので、しかし、それで不利益取扱いとなるというのは聞いたことはございません。
○棟居部会長 高橋さん、ありがとうございました。
では、伊東副部会長、お願いします。
○伊東副部会長 伊東でございます。1点だけお伺いします。
今日のお話は、雇用に関するところが中心でしたが、1ページ目にある「障害者」、「重度障害者」の定義について、次回でも結構ですので、是非お願いしたい。
○棟居部会長 この点、いかがでしょうか。高橋さん。
○高橋准教授 この点については、報告の中でも述べさせていただいたんですけれども、実際には医療的なガイドラインのようなものがありまして、医学的鑑定業務の手引と訳されているものなんですけれども、これは高齢障害者雇用支援機構の方から翻訳が出てきまして、非常によくできた翻訳だと僕は感動したんですけれども、その中で、例えば、両腕を欠いた場合には障害程度100とか、そういうことが詳細に規定されています。
○棟居部会長 ありがとうございました。
それでは、山崎委員、お願いします。
○山崎委員 山崎です。ありがとうございます。
ドイツで障害を持っていらっしゃる方が雇用差別を受けたときに、先ほど司法救済と行政救済が同時進行で可能であると。しかし、どちらかというと司法救済の方がはやっているといいますか、よく使われているというお話でしたね。それがなぜかということで、私が素人っぽく考えると、1つは、日本に比べてドイツの方が裁判を利用することについて敷居が低いのではないか。例えば、聞いた話ですと、訴状自体を裁判所の事務局が手伝って書いてくれる。これは本当かどうかわかりませんが、日本に比べたら裁判に対して敷居が低いから。それが1つ。
2つ目が、差別禁止の実体法が整備されている。だから、裁判に訴えて実効のある解決が望みやすいという背景があるということ。
3つ目は、2006年に連邦の反差別機関がまだできたはかりで、まだそんなにポピュラーでない。そのあたりで結果的に司法救済の方がよく使われているのではないかと素人っぽく推測していますが、そのあたりのことを教えていただきたい。もう一つありますが、ここで切ります。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 先生のおっしゃるとおりでございまして、まず1つには、司法が非常に利用されやすい形になっていまして、これは弁護士の先生方にもよく僕は説くところなんですけれども、ドイツでは訴訟保険というのがありまして、学生でも5ユーロ程度払えば保険に入ることができまして、学生は医療保険には入っていますので、それにプラスちょっと払えば、簡単に払うことができて、例えば賃貸借でもめたら弁護士をつけることができます。会社に入りますと、保険の額はもうちょっと高くなるんですけれども、それでも保険ということによって訴訟のリスクをかなり分散されています。ですので、まず、お金の問題というのが1つそこで片付けられることになります。これはぜひ日本でもいつか導入できたらいいなと思ったりもするんですけれども。
もう一つには時間の要素もありまして、ドイツの一審というのは、まず、和解弁論というのがありまして、これは1人の裁判官がやるんですけれども、その場合に精密な事実認定というのを行いませんで、特に和解弁論で問題になるのは解雇で、補償金などが問題になりますので、このぐらいでどうですかということを片方の弁護士が言ったときに、合意すれば、簡単に合意が成立します。それで合意が成り立たないときには、3人の裁判官による手続に移っていきます。そのときには、精密司法になるんですけれども、その場合でも私の持っている統計だと、1年以上の手続になっている場合が2%程度に2009年の統計でなっていますので、非常に短いということになると思います。ですから、一番裁判で危惧される、日本で危惧されるところのお金の問題と時間の問題というのが解決されているのではないかと思いますので、まず、司法といくのはよくわかるところだと思いますし、それによって裁判を受ける権利というのがきちんと守られることになるんだと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
2点目、お願いします。
○山崎委員 連邦の反差別機関のことですが、これは、地域というか、地方に足腰がないので、連邦が委託したNGOが政府と行政と同等の権限を持って調査とかあっせん調停に当たるというものすごい制度だと思いますが、これを日本で具体的に制度設計する場合に、少しは参考になると思います。例えば連邦がNGOに委託する場合に、どういう資格といいますか、要素が整っていれば、受託させることができると認定するのか、そのガイドラインがあれば少し教えていただきたいと思います。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 まず、認定についての規定というのは特にないと思います。
それから、ガイドラインについては私も存じ上げないんですが、その点については伺ったことがないので、先生のせっかくの御質問に答えられないんですけれども、日本でも個別紛争の労働あっせんのところで、今、委託というのが行われていると聞いています。社労士さんなんかが関わったりということをなさっていると思うんですけれども、こうした制度設計というのは十分あり得るんだと思っていますが、それを拡張して権限をきちんとする。ドイツでも日本でも、恐らく会社の手続と、証拠が十分認定されないとか、補償額が高くならないとか、そういう問題というのは日独ともに行政機関では残念ながら課題として抱えていると思いますので、実際、県の職員の人なんかに話を聞いても、そういう矛盾を日本でも感じているということを伺いますので、そうした点について、今後、行政機関の救済として充実したものにする必要というのは、日本では特にあるんじゃないかなと思います。日本であるというのは、欠陥が多いという意味ではなくて、ドイツと比べても行政機関に対する信頼と期待というのはあると思いますので、その点は今後考える必要があるんだろうなと思います。
○棟居部会長 ありがとうございました。
山崎委員は以上でよろしいですね。ほかの方はいかがでしょうか。
では、遠藤オブザーバー、お願いします。
○遠藤オブザーバー 資料2の5ページ目に「能力と知識に応じて完全に活用し、発展させうる雇用を請求しうる」というくだりがあるわけですが、その後に「使用者が従前の職務で雇用できないとき」と書いてあります。このことは、新規雇い入れのときにも適用されうる内容なのかどうかというのが1点目です。
2点目として、「障害に即した負担の軽減された雇用」を見つけるような場合、既存の職務だけではなくて、職務の再編成までを含むような対応まで求められうるのかどうなのかをお尋ねします。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 まず、従前の雇用で雇用できないとき、他の割当てを請求できるというのは、主に既に事業の中に入っている場合でして、その中で障害を理由として職務が遂行できないという場合に、かなり軽減された雇用を請求しうるという問題になります。ですから、新規採用を特に念頭に置いた規定ではありません。
職務の再編成がそういう場合でも必要なのかということですけれども、条文上は、職務の再編というのは必要ということになっています。企業の組織の再編というのが必要ということになっているんですけれども、これがどの程度まで必要なのかというのは判例ではちょっと明らかではありません。
○棟居部会長 以上で遠藤オブザーバーよろしいですか。もう一点、どうぞ。
○遠藤オブザーバー 例えば、職務の再編成というのが当該職場において難しいような場合、実は既存の職務でも該当しうるものは存在するのですが、そこには既に他の障害者の方が選任されている。このような場合で、何か具体的な事例として争われたケースがもしあるようでしたら御案内ください。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 僕も読んだ記憶はあるんですけれども、今すぐにという形では御説明できなくて済みません。
○棟居部会長 以上で遠藤オブザーバーは切らせていただきまして、川島委員、お待たせしました。お願いします。
○川島委員 2点あるのですけれども、簡単な質問です。
まず、レジュメの1ページの差別禁止法の対象障害者なのですけれども、この中に次の障害が含まれるかということで、まず、外貌ですね。顔の傷とかあざとか、そういった障害を持っている方はこの中に含まれるのか。含むとみなすでもいいのですけれども、あとは、過去に障害があった方も含まれるのかというところですね。あと、障害があるとみなされた人とか、将来、障害を持つ蓋然性があると考えられている人。そういったいわゆる障害の定義というものが、現在だけじゃなくて過去、未来、みなし、あとは、活動制限がない容貌についての障害にまで含まれているかどうかということが1つでございます。
○棟居部会長 では、その1つ目につきまして、高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 個々の疾病とか障害がどの程度入るかということについて、今お答えできないんですけれども、その点、済みません。
それから、この規定からしますと、恐らく過去の障害についてはなかなか入りにくいんじゃないかと思います。現在障害があり、その後も6か月以上長く労働不能が予見されるという場合だと思います。精神的健康などいろいろな健康が阻害されているということが前提になると思いますので、恐らく、過去の障害についてはこの規定からはなかなか難しいのかなと思います。
○棟居部会長 もう時間はほとんどないんですけれども、川島委員の御質問は、要するに、これはいわゆる医学モデルというものにかなり偏った立法で、少し世界の水準とはかけ離れているという印象をお持ちなんでしょうか。ちょっと私が聞くのもあれですが、一言。
○川島委員 ひとこと言いますと、いわゆるADAのとき、長谷川さんのお話の中で問題となったように、障害者とみなされないということで、ほぼ法的な保護を受けられない人が出てくるのではないかという、間口の段階で法的救済を得られないという人が出てくるのではないか、ということを、余りにも重度障害者と、言葉は重度ですけれども、現在の障害者に限定してしまうと出てくるのではないかな、ということが印象としてございました。こちらの方は私も調べてみたいと思いますけれども。
それで、ポジティブアクションのことについても簡単にお伺いしたいのですけれども、先ほどポジティブアクションで、割当雇用の制度というのはいわゆるポジティブアクションではない、という政府の意見、見解があったとおっしゃられた後に、3ページですけれども、その下に、いわゆる割当雇用制度は女性の待遇と同じように適法であるというふうに理解してよろしいでしょうか。つまり、一般平等取扱法5条のもとでのポジティブアクションではなくて、基本法3条3項2文のもとでの許容される措置として、雇用率制度というものがドイツでは考えられているというふうにこの文章を読んでよろしいのでしょうか。
○棟居部会長 高橋さん、お願いします。
○高橋准教授 ここは報告のときにも申し上げたんですけれども、下のポツは、学説という意味でございまして、政府はそもそも5条に反しないと言っているんだけれども、学説は、5条の問題だったとしたとしても、客観的な基準に基づいて相当な場合には適法とされるので、この場合には5条との関係でも適法であると述べたもので、片方が政府草案で、片方が学説ということになります。
○棟居部会長 ありがとうございました。
もう時間がそろそろまいっております。もし非常に短い質問、ワンフレーズでお一人1問だけということがあれば、今すぐお手を挙げていただければ、あるいは。
よろしいですか。では、どうもありがとうございました。高橋さん、本当にありがとうございました。(拍手)
以上で、ドイツの障害者差別禁止法制についてのヒアリングを終了します。
これをもちまして、本日の議事は終了しました。
それでは、最後に、東室長から今後の予定などの連絡をお願いします。
○東室長 担当室の東です。お疲れさまでございました。
次回は第4回となります。5月13日金曜日です。韓国とイギリスの差別禁止に関する法制度についてのヒアリングということを予定しております。
なお、今後の差別禁止部会は、毎月第2金曜日の14時から18時までを定例とさせていだくと考えておりますが、少しピッチを上げる必要がある場合もあると思いますので、これを基本にプラスアルファということで組めればなと思っているところです。
以上です。
○棟居部会長 ありがとうございました。
本日の差別禁止部会の概要につきまして、この後、記者会見において、私と東室長から説明させていただきます。
本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございました。
以上で閉会させていただきます。

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