第2章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1

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第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策

1.特別支援教育の充実

(1)特別支援教育の概要

障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。現在、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、障害に応じた特別の指導(いわゆる「通級による指導」(※1))においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。特別支援教育は、発達障害も含めて、特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。

2017年5月1日現在、特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに小・中学校及び高等学校の通級による指導を受けている幼児児童生徒の総数は約49万人となっており、増加傾向にある。なお、このうち義務教育段階の児童生徒については、義務教育段階の全児童生徒数の約4.2%に当たる約41万7千人である。

※1:通級による指導
小・中学校及び高等学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、ほとんどの授業(主として各教科などの指導)を通常の学級で行いながら、一部の授業について障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う指導形態。対象とする障害種は、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱。

図表2-1
特別支援教育の対象の概念図(義務教育段階)
資料:文部科学省

(2)多様な学びの場の整備

ア 特別支援教育に関する指導の充実

① 特別支援学校等における教育

障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導といった多様な学びの場が提供されている。2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始され、2018年度は45都道府県において実施、2019年度からは全都道府県において実施されている。また、障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。2018年5月1日現在、小学部1,242人、中学部769人、高等部869人の児童生徒が、この訪問教育を受けている。

2017年4月に新特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、2019年2月に新特別支援学校高等部学習指導要領を公示し、①重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性、②障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、③キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させた。また、新特別支援学校学習指導要領等の円滑な実施のため、学習指導要領の趣旨を踏まえた教育課程の編成や、一人一人の障害の状態等に応じた指導方法の改善・充実について、先導的な実践研究を実施した。

幼稚園、小・中学校及び高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。また、2018年8月には、学校教育法施行規則を一部改正し、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒、小・中学校の特別支援学級の児童生徒及び小・中学校、高等学校において通級による指導を受けている児童生徒について、個別の教育支援計画を作成することとし、当該計画の作成に当たっては、当該児童生徒等又は保護者の意向を踏まえつつ、医療・福祉・保健・労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととしている。

② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実

特別支援学校の児童生徒にとっては、その障害の状態等によっては、一般に使用されている検定教科書が必ずしも適切ではない場合があり、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版の教科書、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)及び音楽の教科書、知的障害者用の国語、算数(数学)及び音楽の教科書を作成している。

なお、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。

また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※2)の普及を図っている。

具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、2018年度に使用された、小・中学校の学習指導要領に基づく検定教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、ほぼ全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。このほか、通常の検定教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げか所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材がボランティア団体等により製作されており、文部科学省においても必要な調査研究等を行うなど、その普及推進に努めている。

加えて、障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術(ICT)などの活用を進めることが重要であることから、企業・大学等が学校・教育委員会等と連携して行う、ICTを活用した教材など、児童生徒の障害の状態等に応じた使いやすい支援機器等教材の開発の支援を実施した。

さらには、近年の教育の情報化に伴い、2020年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、2018年に学校教育法等の改正等を行い、2019年度より、視覚障害や発達障害等の障害等により紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の困難を低減させる必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書(※3)を使用することができることとなった。

※2:教科用特定図書等
視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定教科書に代えて使用し得るもの。

※3:学習者用デジタル教科書
紙の教科書の内容の全部(電磁的に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。

③ 学級編制及び教職員定数

公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号)(以下「義務標準法」という。)及び公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(昭和36年法律第188号)(以下「高校標準法」という。)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。

・学級編制

1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。

・教職員定数

公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。

2011年4月の義務標準法の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。

また、2017年3月の義務標準法の一部改正により、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしている。この他、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、高等学校における通級による指導の制度化に伴い、2018年3月に高校標準法施行令を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。

④ 教職員の専門性の確保

特別支援教育担当教師の養成は、現在、主として大学の特別支援教育関係の課程等において行われている。また、幼稚園、小・中学校及び高等学校の教員養成においても、教職に関する科目において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」について取り扱うこととしているほか、特別支援教育について学ぶ科目を開設している大学もある。また、2017年11月に教育職員免許法施行規則の改正を行い、教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」を新たに独立した事項として設け、2019年4月以降に入学する者については1単位以上修得することを定めた。

また、教職員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教職員等に対する研修や講義配信を行っているほか、独立行政法人教職員支援機構(2017年4月に「独立行政法人教員研修センター」から名称変更)においても、各地域の中心的な役割を担う教職員を育成する学校経営研修において、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。さらに、都道府県等教育委員会においては、小学校等の教師等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修においても、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。この他、放送大学において、現職教師を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。

また、教員免許更新制における免許状更新講習においても、必修領域の事項の一つである「子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)」の中で特別支援教育に関する内容を扱うことが規定されている。

⑤ 特別支援学校教諭免許状

2007年度より、従来、盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教諭の免許状が、特別支援学校の教諭の免許状に一本化されている。同時に、特別支援学校教諭免許状の取得のためには、様々な障害についての基礎的な知識・理解と同時に、特定の障害についての専門性を確保することとなっている。また、大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与することとしている。

ただし、特別支援学校教諭免許状については、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼稚園、小・中学校及び高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、専門性確保の観点から保有率を向上させることが必要である。

特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、全体で79.8%(2018年5月1日現在)であり、全体として前年度と比べ2.1ポイント増加しているが、特別支援教育に関する教師の専門性の向上が一層求められている中で、専門の免許状等の保有率の向上は喫緊の課題となっている。このため、各都道府県教育委員会等において教師の採用、配置、現職教師の特別支援学校教諭等免許状取得等の措置を総合的に講じていくことが必要であることから、文部科学省において、特別支援学校教諭等免許状の取得に資する取組を実施した。

/文部科学省
第2章第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
TOPICS
特別支援学校学習指導要領等の改訂について

【1.特別支援学校の教育課程】

特別支援学校の幼稚部では、いずれの障害種においても幼稚園教育要領における健康、人間関係、環境、言葉及び表現の5領域に自立活動(※)を加えた6領域で構成されている。

小学部から高等部では、視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者又は病弱者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の教育課程については、高等学校までの教科等に自立活動(※)を加えて編成することになっている。また、知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の教育課程については、特別支援学校学習指導要領において、障害の特性等を踏まえた教科等の枠組みが設定されている。

※個々の幼児児童生徒が障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服しようとする取組を促す教育活動。
(例:視覚障害者である児童に対する白杖を用いた歩行指導 等)

【2.今回の改訂の基本的な考え方】

文部科学省では、2017年4月に特別支援学校幼稚部教育要領、小・中学部学習指導要領、2019年2月に特別支援学校高等部学習指導要領の改訂を行った。

今回の改訂は、2016年12月の中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について」を踏まえ、「社会に開かれた教育課程の実現」、「育成を目指す資質・能力」、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善、各学校におけるカリキュラム・マネジメントの確立など、初等中等教育全体の改善・充実の方向性を重視している。

また、障害のある子供たちの学びの場が柔軟に選択できるようになったことを踏まえ、幼稚園、小・中学校及び高等学校の教育課程との連続性を重視している。

さらに、障害の重度・重複化、多様化への対応と卒業後の自立と社会参加に向けた取組を一層充実している。

【3.教育内容等の主な改善事項】

教育内容等の主な改善事項としては、以下に示す3点があげられる。

①学びの連続性を重視した対応

子供たちの学びの連続性を確保する視点から、重複障害者等に関する教育課程の取扱いについて、基本的な考え方を規定した。

例えば、各教科の目標・内容の一部を取り扱わないことや、前の学年の目標・内容に替えることができる規定を設けている。

知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校については、小・中・高等学校の学習指導要領と同様に、育成を目指す資質・能力の3つの柱(※)に基づき、各教科等の目標及び内容を整理した。

※「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」

また、特に必要がある場合には、小・中・高等学校の学習指導要領の各教科等の目標及び内容の一部を取り入れることができることなどを規定した。

さらに、各段階間で内容のつながりを整理するとともに、従来は一つの段階のみで示されていた中学部について、新たに二つの段階を新設していることや、小学部の教育課程に新たに外国語活動を設けることができるなどの充実を図っている。

②一人一人に応じた指導の充実

視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者及び病弱者である子供に対する教育を行う特別支援学校においては、既述のとおり小・中・高等学校の学習指導要領に示された各教科の指導を行うこととしており、その上で、学習指導要領において障害の特性等に応じた指導上の配慮を充実するとともに、コンピュータ等の情報機器(ICT機器)の活用等について規定している。

(例)視覚障害:空間や時間の概念形成、点字等の読み書きの指導の重視

聴覚障害:音声、文字、手話、指文字等を活用して、発表や話し合いなどの学習活動を取り入れた、意思の相互伝達の充実

肢体不自由:体験的な活動を通した的確な言語概念等の形成、思考力・判断力・表現力等の育成

弱:間接体験、疑似体験等を取り入れた指導方法の工夫、姿勢の変換や適切な休養の確保

③自立と社会参加に向けた教育の充実

今回の改訂では、上記のほか、

・卒業後の視点を大切にしたカリキュラム・マネジメントを計画的・組織的に行うこと

・幼稚部、小学部、中学部段階からのキャリア教育の充実

・生涯学習への意欲を高めることや、生涯を通じてスポーツや文化芸術活動に親しみ、豊かな生活を営むことができるよう配慮すること

・障害のない子供との交流及び共同学習の充実

などを規定している。

文部科学省では、今後とも様々な場等において丁寧な説明を行う等、今回の改訂に係る趣旨・内容について周知徹底を図っていく。

特別支援教育に関する学習指導要領等の改訂

/文部科学省
第2章第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
TOPICS
学習者用デジタル教科書の制度化

教育の情報化に対応し、2020年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、一定の基準の下で、必要に応じ、紙の教科書に代えて「学習者用デジタル教科書」を使用できることとする学校教育法等関係法令の改正が行われ、2019年度より施行された。

特に、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒については、文字の拡大や音声読み上げ等の機能により、教科書の内容へのアクセスが容易となり、効果的に学習を行うことができる場合には、教育課程の全部においても、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できることとなった。

学習者用デジタル教科書のイメージ
学習者用デジタル教科書の制度化に関する法令の概要

例えば、以下のような活用方法により、教科書の内容へのアクセスが容易となることが期待される。

①文字の拡大、色やフォントの変更等により画面が見やすくなることで、一人一人の状況に応じて、教科書の内容を理解しやすくなる。

②音声読み上げ機能等を活用することで、教科書の内容を認識・理解しやすくなる。

③漢字にルビを振ることで、漢字が読めないことによるつまづきを避け、児童生徒の学習意欲を支える。

④教科書の紙面を拡大させたり、ページ番号の入力等により目的のページを容易に表示させたりすることで、教科書のどのページを見るかを児童生徒が混乱しないようにする。

⑤文字の拡大やページ送り、書き込み等を児童生徒が自ら容易に行う。

(「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」(平成30年12月、文部科学省)より)

学習者用デジタル教科書の制度化の詳細については、文部科学省ホームページ(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/seido/1407731.htm)を参照。

イ 学校施設のバリアフリー化

文部科学省では、学校施設の整備について、障害のある幼児児童生徒が支障なく学校生活を送るために障害の種類や程度に応じたきめ細かな配慮を行うよう、学校種ごとの学校施設整備指針を作成し、施設の計画・設計上の留意点を示している。このほか、学校施設のバリアフリー化に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示した「学校施設バリアフリー化推進指針」を策定するとともに、具体的な取組を事例集として取りまとめている。また、報告書「災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~」では、災害時に避難所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性について示している。これらの指針や事例集等は、地方公共団体等に配布するとともに、研修会等を通じて普及啓発に努めている。

さらに、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープなどのバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っている。

また、私立の特別支援学校並びに小・中学校の特別支援学級において、障害に適応した教育を実施する上で必要とする設備の整備を学校法人が行う場合に、国がその一部を補助している。補助対象となる設備には、立体コピー設備、FM等補聴設備、VOCA(音声表出コミュニケーション支援装置)、携帯用防犯ベル、スクールバスなどがある。

学校施設のバリアフリー化の事例(スロープ・多目的トイレの設置)

ウ 専門機関の機能の充実と多様化

① 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(http://nc.nise.go.jp/)は、我が国における唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や高等学校における通級による指導などに関する「指導者研究協議会」を実施しているほか、インターネットを通じて、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義の配信や特別支援学校の教師の免許状保有率の向上に資する免許法認定通信教育を実施している。また、全ての学校を始めとする関係者に必要かつ有益な情報を提供するため、インターネットを活用し、発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センター」、合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及び支援機器等教材活用に関する様々な情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信を行っている。さらに、研究成果の普及等を行う「研究所セミナー」(東京都)を開催しているほか、「教材・支援機器等展示会」(全国4か所)、「発達障害地域理解啓発事業」(全国3か所)を実施するなど理解啓発活動も行っている。

このほか、2016年度に「インクルーシブ教育システム推進センター」を設置し、地域や学校が直面する課題を研究テーマとし、その解決を目指す「地域実践研究」、諸外国の最新情報の発信を行うとともに、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に十分に教育を受けられるよう、一人一人の教育的ニーズに応じた多様で柔軟な仕組みの構築に関する相談支援等を通して、地域や学校における取組を強力にバックアップしている。

② 特別支援教育センター

都道府県の特別支援教育センターにおいて、当該都道府県における特別支援教育関係職員の研修、障害のある子供に係る教育相談、特別支援教育に係る研究・調査等が行われている。

(3)充実した支援体制の整備

ア 学校における支援体制整備

文部科学省では、障害のある子供に対する特別支援教育を充実するため、学校における支援体制の整備や留意事項などを示し、学校や教育委員会などの取組を促進しており、障害のある子供への支援体制の整備、巡回相談や専門家チームによる支援、研修体制の整備・実施、関係機関との連携など、支援体制整備の推進に係る経費の一部を補助している。

特別支援教育体制整備状況等調査(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/1343888.htm)によると、小・中学校においては、「校内委員会」の設置、「特別支援教育コーディネーター」の指名といった基礎的な支援体制はほぼ整備されており、「個別の指導計画」の作成、「個別の教育支援計画」の作成についても着実な取組が進んでいる。また、幼稚園・高等学校における体制整備は進みつつあるものの、小・中学校に比べると課題がみられる。

さらに、公立幼稚園、小・中学校及び高等学校に在籍する障害のある子供をサポートする「特別支援教育支援員」の配置に係る経費が各市町村に対して地方財政措置されている。

イ 切れ目ない支援体制整備(教育と福祉等の連携)

文部科学省では、障害のある子供に対して、就学前から就労に至るまで一貫した切れ目ない支援体制を整備するため、自治体等が、(1)特別な支援を必要とする子供への就学前から学齢期、社会参加までの切れ目ない支援体制整備、(2)看護師、外部専門家の配置をする場合に要する経費の一部を補助している。

また、発達障害を始め障害のある子供への支援における教育と福祉の連携については、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されている。これを踏まえ、各自治体の教育委員会や福祉部局が主導し、支援が必要な子供やその保護者が、乳幼児期から学齢期、社会参加に至るまで、地域で切れ目なく支援が受けられるよう、文部科学省と厚生労働省では、両省連携による、家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを2017年12月に発足させ、翌年3月に、教育と福祉の連携を推進するための方策及び保護者支援を推進するための方策について取りまとめた。報告書には、具体的な今後の対応策として、各地方自治体において、教育委員会や福祉部局が主導し、学校と障害福祉サービス事業者との関係構築の場を設置することで教育と福祉の連携を加速させることや、相談窓口の整理を行うなど保護者支援の取組を充実させることなどを掲げている。両省では、同年5月に連名の通知を各地方自治体に対して発出し、報告書の趣旨を広く周知するとともに、自治体の好事例等も併せて示し、教育と福祉の一層の連携の推進に向けた積極的な取組を促した。加えて、同年8月には、各自治体の福祉サービス等の情報が保護者に分かりやすく届くよう、作成・配布を求めている保護者向けのハンドブックについて、ひな型を示し、各自治体の取組を後押しした。さらに、同年8月に、学校教育法施行規則の改正を行い、「個別の教育支援計画」の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととした。

図表2-2
切れ目ない支援体制整備充実事
資料:文部科学省

ウ 発達障害のある子供に対する支援

学校教育法(昭和22年法律第26号)の一部改正(2006年)により、幼稚園、小・中学校及び高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。

2016年6月には発達障害者支援法(平成16年法律第167号)の一部改正が公布され(同年8月施行)、発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、小・中学校、高等学校等における発達障害の可能性のある児童生徒等に対する支援に当たって、①特別支援教育の視点を踏まえた学校経営構築の方法、②学習上のつまずきなどに対する教科指導の方向性の在り方、③通級による指導の担当教師等に対する研修体制の在り方や必要な指導方法、④学校における児童生徒の多様な特性に応じた合理的配慮の在り方、⑤学校と福祉機関との連携支援、支援内容の共有方法に関する研究を実施した。

また、文部科学省と厚生労働省の両省主催で「発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」を開催した。

エ 医療的ケアが必要な子供に対する支援

特別支援学校等には、日常的に医療的ケアを必要とする幼児児童生徒が在籍しており、学習や生活を行う上で適切に対応することが必要である。

2011年6月に公布された介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(平成23年法律第72号)による社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正により、2012年4月から一定の研修を受けた介護職員等は一定の条件の下にたんの吸引等の医療的ケアができるようになったことを受け、特別支援学校等の教師等についても、制度上実施することが可能となった。

これに関して、文部科学省としては、特別支援学校等において安全かつ適切な医療的ケアを提供するために必要な検討を行うため、2011年10月より「特別支援学校等における医療的ケアの実施に関する検討会議」を開催し、特別支援学校等において医療的ケアを必要とする児童生徒等の健康と安全を確保するに当たり留意すべき点等について整理を行い、都道府県・指定都市教育委員会等に通知(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1314510.htm)した。

また、制度の開始から5年を経て、人工呼吸器の管理を始めとした高度な医療的ケアへの対応や訪問看護師の活用など、新たな課題もみられるようになってきていることから、2017年10月に設置した「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」において、有識者による議論が行われた。この検討会議の最終まとめを受けて、小・中学校等を含む全ての学校における医療的ケアの基本的な考え方や医療的ケアを実施する際に留意すべき点等を整理し、各都道府県教育委員会等に対して周知を図った。

2018年5月1日現在、医療的ケアを必要とする幼児児童生徒が特別支援学校に8,563人、小・中学校に970人在籍しており、文部科学省では、特別支援学校や小・中学校における医療的ケアを必要とする児童生徒の教育の充実を図るため、看護師の配置に必要な経費の一部を補助している。また、学校において高度な医療的ケアに対応するため、医師と連携した校内支援体制の構築や、医療的ケア実施マニュアル等の作成など、医療的ケアの実施体制の充実を図るモデル事業を実施した。

オ 私学助成

私立の特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園等の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育条件の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。

カ 家庭への支援等

教育の機会均等の趣旨及び特別支援学校等への就学の特殊事情に鑑み、保護者の経済的負担を軽減し、その就学を奨励するため、就学のために必要な諸経費のうち、教科用図書購入費、交通費、寄宿舎居住に伴う経費、修学旅行費等について、保護者の経済的負担能力に応じて、その全部又は一部を助成する特別支援教育就学奨励費が保護者に支給されている。

/文部科学省
第2章第1節 特別支援教育の充実
TOPICS
学校における医療的ケアの実施に関する検討会議まとめ

学校に在籍する喀痰吸引や経管栄養等の医療的ケアが日常的に必要な児童生徒等(以下「医療的ケア児」という。)は年々増加するとともに、人工呼吸器の管理等の特定行為以外の医療的ケアを必要とする児童生徒等が学校に通うようになるなど、医療的ケア児を取り巻く環境が変わりつつある。このため、特定行為以外の医療的ケアを含め、小・中学校等を含む全ての学校における医療的ケアの基本的な考え方を再度検討し、医療的ケアを実施する際に留意すべき点等について整理するために2017年10月に設置した「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」において、有識者による議論が行われ、2019年2月に最終まとめが取りまとめられた。

この最終まとめでは、1.医療的ケア児の「教育の場」、2.学校における医療的ケアに関する基本的な考え方、3.教育委員会における管理体制の在り方、4.学校における実施体制の在り方、5.認定特定行為業務従事者が喀痰吸引等の特定行為を実施する上での留意事項、6.特定行為以外の医療的ケアを実施する場合の留意事項、7.医療的ケア児に対する生活援助行為の「医行為」該当性の判断、8.研修機会の提供、9.校外における医療的ケア、10.災害時の対応が示された。

具体的には、

・ 医療的ケア児の可能性を最大限に発揮させ、将来の自立や社会参加のために必要な力を培うという視点に立って、医療的ケアの種類や頻度のみに着目して画一的な対応を行うのではなく、一人一人の教育的ニーズに応じた指導を行うことが必要である。

・ 健康状態がすぐれずに長期間欠席していた医療的ケア児や訪問教育を受ける医療的ケア児の指導上の工夫の一つとしては、遠隔教育などICTの効果的な活用による指導時間の増加等が考えられる 。遠隔教育は医療的ケア児と教師の対面による指導を代替するものではなく、あくまで対面による指導を補完し、教育の充実につなげるものとして活用されるべきものである。

・ 学校における医療的ケアの実施に当たっては、医療の専門的知見が不可欠であり、教育委員会や学校における検討や実施に当たっては、地域の医師会、看護団体その他の医療関係者の協力を得て、小児医療や在宅医療などの専門的知見を活用することが必要である。

・ 保護者の付添いの協力を得ることについては、本人の自立を促す観点からも、真に必要と考えられる場合に限るよう努めるべきである。やむを得ず協力を求める場合には、代替案などを十分に検討した上で、真に必要と考える理由や付添いが不要になるまでの見通しなどについて丁寧に説明することが必要である。

などがあげられている。

学校における医療的ケアの実施体制(例)

「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」の詳細については、文部科学省ホームページ(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1413967.htm)を参照。

病気療養児に対する遠隔教育の取組について

医療の進歩等による入院期間の短期化や、短期間で入退院を繰り返す者、退院後も引き続き治療や生活規制が必要なために学校への通学が困難な者への対応など、病院や自宅等で療養中の病気療養児を取り巻く環境は、近年大きく変化している。こうした状況のもと、病気療養児の教育機会を確保するとともに学習や学校生活に関する不安感を解消し円滑な復学につなげるため、遠隔教育等を活用した取組を進めている。

小・中学校段階については、2018年9月に通知を発出し、受信側において児童生徒の体調管理や緊急時に適切な対応を行うことができる体制を整えるなどの一定の要件の下、受信側に教科等に応じた相当の免許状を有する教師を配置せず、同時双方向型の授業配信(※1)を行った場合、校長は指導要録上出席扱いとすること及びその成果を当該教科等の評価に反映することができることとした。

また、高等学校段階については、一定の要件の下に行われる遠隔教育に加え、通信制課程に準じた特別の教育課程を編成すること(面接指導時間の減免のための遠隔教育・オンデマンド型(※2)の授業を含む)により単位認定をすることができる特例制度や、特別支援学校高等部の訪問教育において、遠隔教育・オンデマンド型の授業により単位認定をすることができることとする制度が設けられている。

さらに、2016年度から2018年度までは「入院児童生徒等への教育保障体制整備事業」を実施し、2019年度からは「高等学校段階における入院生徒に対する教育保障体制整備事業」を実施しており、在籍校・病院・教育委員会等の関係機関が連携して病気療養児を支援する体制の構築方法に関する調査研究を推進している。

引き続きこうした取組を通じて、病気療養児に対する教育の充実を図っていく。

※1 インターネット等のメディアを利用してリアルタイムで授業を配信し、同時かつ双方向的にやりとりを行うものをいう。

※2 別の空間・時間で事前に収録された授業を、学校から離れた空間で、インターネット等のメディアを利用して配信を行うことにより、視聴したい時間に受講するものをいう。

小・中学校等における病気療養児に対する同時双方向型授業配信を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(通知)
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