第3章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 3
第1節 生活安定のための施策
3.経済的自立の支援
(1)年金制度等による所得保障
障害のある人に対する所得保障は、障害のある人の経済的自立を図る上で極めて重要な役割を果たしており、障害基礎年金や障害厚生年金の制度と、障害による特別の負担に着目し、その負担の軽減を図るために支給される各種手当制度がある。
我が国は、国民皆年金体制が確立され、原則として全ての国民がいずれかの年金制度に加入することとされている。これによって、被保険者期間中の障害については障害基礎年金や障害厚生年金が支給されるほか、国民年金に加入する20歳より前に発した障害についても障害基礎年金が支給されることから、原則として全ての障害のある成人が年金を受給できることになり、年金は障害のある人の所得保障において重要な役割を果たしている。
年金制度は、全国民共通の基礎年金とサラリーマンや公務員に対し基礎年金の上乗せとして厚生年金が支給されるという、いわゆる2階建ての体系がとられている。
年金制度による障害のある人の所得保障については、1985年改正の際の障害福祉年金から障害基礎年金への移行による大幅な年金額の引上げや支給要件の改善など、これまで着実にその充実が図られてきた。
近年では、2004年改正の際、障害を有しながら働いたことを年金制度上評価する仕組みとして障害基礎年金と老齢厚生年金等の併給を可能とする障害年金の改善等が行われているほか、2011年4月からは、障害年金受給者に対する、子や配偶者がいる場合の加算の対象範囲が拡大されている。
2012年には、社会保障・税一体改革の一環として、年金制度の枠外で、障害基礎年金受給者等に対して福祉的な給付金を支給する「年金生活者支援給付金の支給に関する法律」(平成24年法律第102号)が成立し、2019年10月から実施されている。また、2013年には、障害基礎年金等の支給要件の特例措置(直近1年間において保険料の滞納がないこと)の延長が行われている。
1985年の年金制度の改革に伴い、それまで重度の障害のある人に対して支給されていた福祉手当についても見直しが行われ、特に重度の障害のある人を対象とする特別障害者手当と、障害基礎年金が支給されない重度の障害のある児童に支給される障害児福祉手当とに改編された。同時に、特別障害者手当の支給額が福祉手当と比較してほぼ倍額に引き上げられた。このほか、障害のある児童の父母等に対しては、従来より、特別児童扶養手当を支給している。
これらの年金及び手当については、毎年物価の変動等に合わせて支給額の改定が行われている。
また、「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」(平成16年法律第166号)により、1991年度より前に国民年金任意加入対象であった学生や、1986年度より前に国民年金任意加入対象であった被用者の配偶者のうち任意加入していなかった間に障害を負ったことにより障害基礎年金を受給していない者について、上記に述べたような国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情を踏まえ、特別障害給付金の支給が行われている。
その他、都道府県・指定都市において、保護者が生存中掛金を納付することで、保護者が死亡した場合等に、障害のある人に生涯年金を支給する障害者扶養共済制度(任意加入)が実施されている。
(2)個人財産の適切な管理の支援
認知症の人、知的障害のある人、精神障害のある人など、判断能力の不十分な人々の財産管理の支援等に資する成年後見制度及び成年後見登記制度について周知を図っている。
また、都道府県・指定都市社会福祉協議会等では、認知症高齢者、知的障害のある人、精神障害のある人等のうち判断能力が必ずしも十分でない人の自立を支援するため、日常生活自立支援事業において、福祉サービスの利用に伴う預金の払い戻しや預け入れの手続等、利用者の日常的な金銭管理に関する援助を行っている。
~「障害のある人が、生涯安心して暮らしていけるように」~
「障害者扶養共済制度(愛称:しょうがい共済)」は、障害のある人を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、その保護者が亡くなったときなどに、障害のある人に一定額の年金を一生涯支給する制度である。
この制度は、保護者に万一のことがあっても、遺された障害のある人が安定した生活を送れるように、また、障害のある人の将来の生活に対して保護者が感じている不安を軽減できるようにという関係者の想いから、一部の地方自治体独自の制度として始まった。それが、1970年に、社会福祉事業振興会(現:独立行政法人福祉医療機構)が地方自治体独自の制度を補完することにより、全国規模の制度へ発展したものである。現在は、すべての都道府県・政令指定都市で実施されている。
● 制度の仕組み
障害者扶養共済制度への加入を希望する保護者は、都道府県・政令指定都市の担当窓口に申し込み、審査により加入要件(※1)を満たしている場合に、制度に加入することができる。加入者は、毎月一定の掛金を支払い、支払われた掛金は、地方自治体から福祉医療機構に納められ、さらにそれが生命保険契約を締結している生命保険会社へ保険料として支払われている。
そして、加入者が亡くなった場合などに、生命保険会社から福祉医療機構に保険金が支払われ、福祉医療機構は、その保険金を信託銀行に信託して運用しながら、障害のある人に毎月年金を支給する仕組みになっている。
● 障害のある人を支えるための様々なメリット
障害者扶養共済制度には、①一般的に生命保険における保険料が、「純保険料」と「付加保険料」(※2)から成り立っているのに対し、その掛金(保険料)は「純保険料」のみで設定されているため、低く抑えられていること、②各種の税制優遇措置(※3)があることなど様々なメリットがある。
また、公的年金や生活保護を受給していても、この制度の年金を受け取ることができることから、公的年金等の上乗せとしての役割も果たしている。
付加保険料…保険事業の運営に必要な事業費
掛金の全額が所得控除の対象となる。年金を受け取る際も、所得税、住民税、相続税、贈与税がかからない。
● 掛金と年金額
掛金の月額は、加入時の年度の4月1日時点の保護者の年齢に応じて決まる。
次の2つの要件を両方とも満たした以後の加入月から、掛金は免除される。
① 年度初日(4月1日)の保護者の年齢が、65歳となったとき
② 加入期間が20年以上となったとき
障害のある人1人に対し、2口まで加入することができる。
保護者が死亡し、又は重度障害になったときから、障害のある人に対して、生涯にわたり毎月2万円(2口の場合は毎月4万円)の年金が支給される。