第3章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 5
第1節 生活安定のための施策
5.スポーツ・文化芸術活動の推進
(1)スポーツの振興
ア 障害者スポーツの普及促進
2019年度「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」によると、障害のある人(成人)の週1回以上のスポーツ・レクリエーション実施率は25.3%(成人全般の実施率は53.6%(2019年度「スポーツの実施状況に関する世論調査」))にとどまっており、上昇傾向にはあるものの、地域における障害者スポーツの一層の普及促進に取り組む必要がある。
2018年度から引き続き、地域における障害者スポーツの振興体制の強化、障害の有無を問わず身近な場所でスポーツを実施できる環境の整備を図る取組や、障害者スポーツ団体と民間企業とのマッチング等により障害者スポーツ団体の体制の強化を図り、他団体や民間企業等と連携した活動の充実につなげる取組を実施している。さらに、2019年度からは、様々なパラスポーツを試したい者に対して、スポーツ車いす、スポーツ義足等の障害者スポーツ用具のレンタル等を実施するとともに、スポーツ用具の保守・調整や使い方の指導を行える人材等を備えた拠点(障害者スポーツの普及拠点)を整備することを目指し、関連の取組を順次実施している。
また、2018年度から2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)を契機に、全国の特別支援学校で地域を巻き込んだスポーツ・文化・教育の祭典を実施するとともに、特別支援学校を地域の障害者スポーツの拠点としていくことを目指す「Specialプロジェクト2020」を実施している。
イ 障害者スポーツの競技力向上
スポーツ庁では、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(2016年10月)や「第2期スポーツ基本計画」(2017年3月)に基づき、パラリンピックの競技特性や環境等に十分配慮しつつ、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。
具体的には、障害者スポーツの競技団体を含む各競技団体が行う強化活動に必要な経費等を支援する「競技力向上事業」を実施している。
また、「ハイパフォーマンス・サポート事業」により、パラリンピック競技大会でメダル獲得が期待される競技を対象に、スポーツ医・科学、情報による専門的かつ高度な支援を戦略的・包括的に実施している。なお、2018年8月からジャカルタ(インドネシア)で開催された第18回アジア競技大会・アジアパラ競技大会において、東京2020大会を見据えたケアや映像分析等サポートのトライアル(試行的取組)を実施した。
さらに、2017年度から「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」において、東京2020大会等に向けた我が国アスリートのメダル獲得の優位性を確実に向上させるため、競技用具の機能を向上させる技術等の開発を実施している。
加えて、トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方についての調査研究に関する有識者会議「最終報告」(2015年1月)を踏まえ、オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な拠点としてナショナルトレーニングセンターの拡充整備に取り組んでおり、2019年6月末に完成した。また、同センターの周辺のバリアフリー化の促進に向け、関係省庁等連絡会議を開催し、関係機関が連携して取組を進めている。
◯全国障害者スポーツ大会
2001年度から、それまで別々に開催されていた身体に障害のある人と知的障害のある人の全国スポーツ大会が統合され、「全国障害者スポーツ大会」として開催されている。2008年度から、精神障害者のバレーボール競技が正式種目に加わり、全国の身体、知的、精神に障害のある方々が一堂に会して開催される大会となっている。本大会は、障害のある選手が、競技等を通じ、スポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害のある人の社会参加の推進に寄与することを目的として、国民体育大会の直後に、当該開催都道府県で行われている。2019年度の第19回大会は、精神障害者の卓球競技が正式種目に追加され、茨城県において開催される予定であったが、台風により中止となった。なお、2020年度の第20回大会については、鹿児島県で開催される予定である。
◯全国ろうあ者体育大会
本大会は、聴覚に障害のある人が、スポーツを通じて技を競い、健康な心と体を養い、自立と社会参加を促進することを目的として、1967年度から開催されている。2019年度は、第53回となる夏季大会が鳥取県・島根県で開催され、10競技に選手・役員合わせて約1,400人が参加した。なお、2020年度の第54回夏季大会については、九州ブロックで開催される予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行を受け中止となった。
◯デフリンピック
4年に一度行われる、聴覚に障害のある人の国際スポーツ大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は1924年にフランスのパリで第1回大会が開催され、2017年には、トルコのサムスンにおいて第23回大会が開催された。冬季大会については1949年にオーストリアのゼーフェクトで第1回大会が開催され、2019年12月にイタリアのヴァルテッリーナ、ヴァルキアヴェンナ地方で開催された第19回大会では、日本選手団として選手15名が参加し、6名が入賞した。
◯スペシャルオリンピックス世界大会
4年に一度行われる、知的障害のある人のスポーツの世界大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。順位は決定されるものの最後まで競技をやり遂げた選手全員が表彰される、といった特徴がある大会である。
夏季大会は1968年を第1回(米国・シカゴ)としており、2019年3月にアラブ首長国連邦のアブダビにおいて第15回大会が開催された。冬季大会は1977年を第1回(米国・コロラド州)としており、2017年にはオーストリアのシュラートミンクにおいて第11回大会が開催された。
また、スペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人とない人が共にチームを組みスポーツを楽しむ取組も進めており、世界大会の種目にも採用されている。
◯パラリンピック競技大会
オリンピックの直後に当該開催地で行われる、障害者スポーツの最高峰の大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は、1960年にイタリアのローマで第1回大会が開催され、オリンピック同様4年に一度開催されている。2016年には、ブラジルのリオデジャネイロにおいて第15回大会が開催された。次回は、2021年、東京において開催が予定されている。冬季大会は、1976年にスウェーデンのエンシェルツヴィークで第1回大会が開催されて以降、オリンピック冬季大会の開催年に開催されている。2018年3月には、韓国の平昌(ピョンチャン)において第12回大会が開催された。次回は、2022年に中国の北京で開催が予定されている。
スポーツ庁では、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)を契機として共生社会を実現するため、障害の有無にかかわらずスポーツに親しめる環境づくりを進めている。
夏季のパラリンピック競技大会が同一都市で2回開催されるのは東京2020大会が史上初であり、開催国として東京2020大会を成功に導くために、2016年度からパラリンピック教育を推進する「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」を実施している。事業は主に2つあり、①学校現場でのパラリンピック教育の取組を促進するために、パラリンピアンやパラアスリートなどを学校に派遣し、自身の体験やエピソードに関する講演やパラ競技体験などを児童生徒と共に実践したり、②多くの児童生徒にパラ競技への興味関心を高めてもらうため、競技会場にてパラ競技を実際に観戦し事前事後に選手や競技に関する学習をしたりと、様々な活動を通じてパラリンピック教育を推進している。これらの活動によりパラ競技への興味関心を高め、共生社会への理解促進をより一層進めていく。
また、各地においても、県民パラスポーツ大会や、学校区、大学、企業対抗など様々なレベルでのパラスポーツの体験会・交流会が実施されるなど、これらの取組はさらに広がりを見せている。このような動きが広がる中で、近年は、特に障害のある人と障害のない人が同じスポーツに参加する取組に注目が集まっている。知的障害のある人にスポーツの機会を提供するスペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人とない人が同じチームで練習を積み試合を行う「Unifi ed SportsⓇ」の取組が進められているほか、一般社団法人日本障がい者サッカー連盟による、障害のある人と障害のない人が一緒にサッカーを楽しむ「JIFFインクルーシブフットボールフェスタ」など、互いの理解や心のバリアフリーを目指した多くの取組が行われている。また、従来のスポーツ大会に障害のある人の部門が併せて設けられる試みや、障害のある人のスポーツ大会に同一のルールで障害のない人が参加できる大会も広がってきている。
引き続き、これらの様々な取組の普及を通じて、多くの方に障害者スポーツの魅力を伝えていくとともに、スポーツを通じた共生社会の実現に向け取り組んでいく。
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ボッチャ競技の様子
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車いすポートボールの様子
2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に向けて、国立障害者リハビリテーションセンターは、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会と連携し、選手のメディカルチェックの実施とともに必要に応じた診断書を発行し、練習環境の支援を行っている。また国立スポーツ科学センターと協定を結びパラリンピック・アスリートの医科学研究を共同で進めている。
夏季の大会では暑さの問題が懸念されるため、研究所を中心に体温調節システムの開発を行い、選手の練習を支援するとともに一般の障害者の外出支援につながる研究開発を行っている。
選手のプレーを支える道具と体のフィッティングもパラスポーツの重要な要素であり、病院・研究所の各部門で用具の調節、開発を実践している。
【車椅子アスリートを対象とした体温調節支援のための研究事例】
【競技用具のフィッティング】
(2)文化活動の振興
我が国の障害者による文化芸術活動については、近年、障害福祉分野と文化芸術分野双方から機運が高まっており、広く文化芸術活動の振興につながる取組が行われている。
東京2020大会を見据え、関係者相互の情報共有やネットワークの構築を図るとともに、障害のある人の芸術文化の振興に資する取組について、広く関係者による意見交換を行う「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた障害者の芸術文化振興に関する懇談会」を2015年度から文化庁と厚生労働省が共同で開催してきた。
厚生労働省では、2013年に開催された「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」の中間とりまとめを受け、2014年度からは芸術活動を行う障害のある人やその家族、福祉事業所等で障害のある人の芸術活動の支援を行う者を支援するモデル事業を実施し、事業で培った支援ノウハウを全国展開すべく、2017年度からは障害者芸術文化活動普及支援事業を実施し、障害のある人の芸術文化活動(美術、演劇、音楽等)の更なる振興を図っている。
また、障害のある人の生活を豊かにするとともに、国民の障害への理解と認識を深め、障害のある人の自立と社会参加の促進に寄与することを目的として、「第19回全国障害者芸術・文化祭にいがた大会」(2019年度)を、「第34回国民文化祭・にいがた2019」(2019年度)と一体的に開催した。
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オープニングフェスティバル
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展示
さらに、文化庁では、障害のある人の優れた文化芸術活動の国内外での公演・展示の実施、助成採択した映画作品や劇場・音楽堂等において公演される実演芸術のバリアフリー字幕・音声ガイド制作への支援、特別支援学校の生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供等、障害者の文化芸術活動の充実に向けた支援に取り組んでいる。
また、国立美術館、国立博物館は、障害者手帳を持つ人について展覧会の入場料を無料としているほか、全国各地の劇場、コンサートホール、美術館、博物館などにおいて、車いす使用者も利用ができるトイレやエレベーターの設置等障害のある人に対する環境改善も進められている。
2018年6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が成立・施行されたことを受け、国は、2019年3月、同法に基づく基本計画を作成した。この計画に基づき、上記をはじめとする障害者による文化芸術活動の推進に関する施策をより総合的かつ計画的に推進しているところである。
オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典のみならず文化の祭典でもあり、「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(平成27年11月27日閣議決定)において、日本文化の魅力を発信していくこととしている。2016年3月に、関係府省庁、東京都、大会組織委員会を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」を開催した。その中で2021年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、障害のある人にとってのバリアを取り除く取組等成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシー創出に資する文化プログラムを「beyond2020プログラム」として認証するとともに、日本全国へ展開することを決定した。2020年3月末時点で約16,000件の事業を認証した。
近年、障害福祉分野と文化芸術分野双方からの、障害者による文化芸術活動への機運の高まりを受けて、議員立法により「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が成立し、2018年6月に公布、施行された。
本法は、文化芸術が、これを創造し、又は享受する者の障害の有無にかかわらず、人々に心の豊かさや相互理解をもたらすものであることに鑑み、「文化芸術基本法」(平成13年法律第148号)及び「障害者基本法」(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、障害者による文化芸術活動の推進に関し、基本理念、基本計画の策定その他の基本となる事項を定めることにより、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮及び社会参加の促進を図ることを目的とするものである。
本法に基づき、関係省庁による障害者文化芸術活動推進会議や文化芸術及び福祉関係者等を委員とする障害者文化芸術活動推進有識者会議の議論等を経て、2019年3月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」を公表した。計画には、法律に定める3つの基本理念を基本的な視点とし、2019年度~2022年度までを対象期間として、鑑賞・創造機会の拡大や作品等の発表機会の確保など、11の項目における具体的な施策の方向性を記載しており、計画に基づき、障害のある人による文化芸術活動の充実に向けた各種取組を実施している。また、法律では地方公共団体による計画の策定が努力義務とされていることから、地方においても計画が策定され、それに基づく取組が推進されるよう、あわせて支援していくこととしている。
厚生労働省では、障害のある人の自立と社会参加を促進する観点から、芸術文化活動の振興を図っている。2017年度からは、地域の障害のある人の芸術文化活動の支援拠点となる「障害者芸術文化活動支援センター(支援センター)」を全国に整備する「障害者芸術文化活動普及支援事業」を実施しており、2019年度は30の都道府県で事業に取り組んでいる。
支援センターは、それぞれの地域の現状を把握し、芸術活動に関する相談支援、必要とされる人材育成、多分野の関係者とのネットワークづくりなどを行っている。この取組を通じて、障害のある人を中心に、家族、支援者、住民、福祉団体、文化団体、教育機関などがつながり、地域に新たな活力が生まれ、誰もがお互いを尊重し合う豊かな地域社会の基盤が生まれている。また、支援センターのない地域においても、こうした支援が行われるよう広域的・全国的な支援機関も設けており、全国各地で、様々な障害のある人が、美術、音楽、演劇、舞踊などの多様な芸術文化に参加できる環境づくりを進めている。今後、全都道府県にこの仕組が広がるよう取り組んでいく。
※本事業及び各センターの詳細については、専用サイト(http://renkei-sgsm.net/)を参照のこと。
文化庁は、障害者週間に会期を重ねて、2019年12月4日から8日まで、国立新美術館において「ここから4-障害・表現・共生を考える5日間」展を開催した。『ここから-アート・デザイン・障害を考える3日間-』展(2016年10月開催)、『ここから2-障害・感覚・共生を考える8日間』展(2018年3月開催)、『ここから3-障害・年齢・共生を考える5日間』展(2018年12月開催)を継承する展覧会で、本展では、障害のある人たちが制作した「表現の持つ根源的なよろこび」が感じられる作品に加え、障害・障壁への気づきをうながすマンガ・アニメーションや、身体感覚を際立たせる映像・メディアアートなども紹介した。障害の有無を超越し、多様な作品が「ごちゃまぜ」に共存する空間を通じて、創造的に生きることの原点を実感できる機会となるよう企画した。
本展には、約20組の作家が参加し、作品は「1:いきる-共に」「2:ふれる-世界と」「3:つながる-記憶と」「4:あつまる-みんなが」「5:ひろげる-可能性を」の5つのキーワードを通じて紹介し、表現手法にとらわれることなく、多様な表現が入り混じる空間として構成した。またより幅広い視点で「共生」を考えていくため、「関連企画」として「アイヌ文化にふれる」と題し、2020年にオープンする「ウポポイ(民族共生象徴空間)」のコンセプトムービーなどの上映も行った。更に出展作家を招いて作品についての話を聞いたり、「ゆるスポーツ」を紹介したりするイベントや、手話通訳付きでの監修者らによるギャラリートークも行った。展示には、マンガ作品を半立体的な「触図」に仕上げることで触れながら鑑賞する作品を含め、来場者の鑑賞をサポートするアート・コミュニケータを配置する試みも実施するなど、鑑賞支援の取り組みを進めることで、より多くの人に「ひらかれた」展覧会とした。
本展には、約2,600人が来場し、作品を観覧した。来場者の中には障害のある方や年配の方、外国人の方の姿も数多く見られた。
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展示会場の様子
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覆面とロック(レコジャケ・シリーズ)》
マスカラ・コントラ・マスカラ
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《トントンボイス相撲》
世界ゆるスポーツ協会 トントンボイス相撲チーム -
マンガ作品を半立体的な「触図」に仕上げた試み
《触れる・感じる 4コママンガ『ぼのぼの』》
いがらしみきお+渡邊淳司+東京藝術大学AMC