第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1
第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
1.特別支援教育の充実
(1)特別支援教育の概要
障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。現在、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、「通級による指導」(※1)においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。特別支援教育は、発達障害も含めて、特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。
2021年5月1日現在、特別支援学校(小学部・中学部)及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに小・中学校の通級による指導を受けている児童生徒の総数は約54万人(※2)となっており、増加傾向にある。
※1:通級による指導
小・中学校及び高等学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、ほとんどの授業(主として各教科などの指導)を通常の学級で行いながら、一部の授業について障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う指導形態。対象とする障害種は、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱。
※2:通級による指導を受けている児童生徒の総数は、2019年5月1日現在の数。
(2)多様な学びの場の整備
ア 特別支援教育に関する指導の充実
① 特別支援学校等における教育
障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導、通常の学級における指導といった多様な学びの場が提供されている。2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始されている。また、障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。2021年5月1日現在、特別支援学校の小学部1,217人、中学部729人、高等部794人の児童生徒が、この訪問教育を受けている。
2017年4月に新特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、2019年2月に新特別支援学校高等部学習指導要領を公示し、(ア)重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性、(イ)障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、(ウ)キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させた。また、新特別支援学校学習指導要領等の円滑な実施のため、学習指導要領の趣旨を踏まえた教育課程の編成や、一人一人の障害の状態等に応じた指導方法の改善・充実について、先導的な実践研究を実施した。
幼稚園、小・中学校及び高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。また、2018年8月には、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)を一部改正し、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒、小・中学校の特別支援学級の児童生徒及び小・中学校、高等学校において通級による指導を受けている児童生徒について、個別の教育支援計画を作成することとし、当該計画の作成に当たっては、当該児童生徒等又は保護者の意向を踏まえつつ、医療・福祉・保健・労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととしている。
② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実
特別支援学校の児童生徒にとっては、その障害の状態等によっては、一般に使用されている、教科書発行者の発行する検定済教科書が必ずしも適切ではない場合があり、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版の教科書、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)、知的障害者用の国語、算数(数学)及び音楽の教科書を作成している。
さらに、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定済教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。
また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※3)の普及を図っている。
具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、2021年度に使用された、小・中学校の検定済教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、ほぼ全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。このほか、通常の検定済教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げ箇所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材を提供できるよう、関係協力団体(大学・特定非営利活動法人等)に効率的な製作方法等の調査研究を委託し、成果物である音声教材を無償提供するなど、その普及推進に努めている。
さらには、近年の教育の情報化に伴い、2020年度から実施されている新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、2018年に「学校教育法」(昭和22年法律第26号)等の改正等を行い、2019年度より、視覚障害や発達障害等の障害等により紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の困難を低減させる必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書(※4)を使用することができることとなった。これに関し、文部科学省では、2021年度において、特別支援学校及び特別支援学級を含む全国約4割の小中学校等に、学習者用デジタル教科書を1教科分提供する事業等を実施した。
※3:教科用特定図書等
視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定済教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定済教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定済教科書に代えて使用し得るもの。
※4:学習者用デジタル教科書
紙の教科書の内容の全部(電磁的に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。
例えば、以下のような活用方法により、教科書の内容へのアクセスが容易となることが期待される。
①文字の拡大、色やフォントの変更等により画面が見やすくなることで、一人一人の状況に応じて、教科書の内容を理解しやすくなる。
②音声読み上げ機能等を活用することで、教科書の内容を認識・理解しやすくなる。
③漢字にルビを振ることで、漢字が読めないことによるつまずきを避け、児童生徒の学習意欲を支える。
④教科書の紙面を拡大させたり、ページ番号の入力等により目的のページを容易に表示させたりすることで、教科書のどのページを見るかを児童生徒が混乱しないようにする。
⑤文字の拡大やページ送り、書き込み等を児童生徒が自ら容易に行う。
③ 学級編制及び教職員定数
公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下「義務標準法」という。)及び「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」(昭和36年法律第188号)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。
・学級編制
1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。
・教職員定数
公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。
2011年4月の「義務標準法」の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。
また、2017年3月の「義務標準法」の一部改正により、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしている。このほか、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、高等学校における通級による指導の制度化に伴い、2018年3月に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律施行令」(昭和37年政令第215号)を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。
④ 教員の専門性の確保
特別支援教育担当教員の養成は、現在、主として大学の特別支援教育関係の教職課程等において行われている。また、幼稚園、小・中学校及び高等学校の教員養成においても、2017年11月の「教育職員免許法施行規則」(昭和29年文部省令第26号)の改正により、教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目を必修化したところである。2019年4月から、中央教育審議会の審査に基づき、文部科学大臣の認定を受けた大学において新しい教職課程が始まっている。
また、教員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教員等に対する研修や講義配信を行っているほか、独立行政法人教職員支援機構においても、各地域の中心的な役割を担う教員を育成する学校経営研修において、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。さらに、都道府県等教育委員会においては、小学校等の教師等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修においても、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。このほか、放送大学において、現職教師を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。
また、教員免許更新制における免許状更新講習においても、必修領域の事項の一つである「子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)」の中で特別支援教育に関する内容を扱うことが規定されている。
2022年3月31日には、「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議報告」(※5)を公表し、特別支援教育を担う教師の専門性の向上のための養成・採用・研修等について、教育委員会、学校、大学等の関係の皆様に取り組んでいただきたい方向性を示した。
※5:特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議報告
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/173/
mext_00031.html
⑤ 特別支援学校教諭免許状
2007年度より、従来、盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教諭の免許状が、特別支援学校の教諭の免許状に一本化されている。同時に、特別支援学校教諭免許状の取得のためには、様々な障害についての基礎的な知識・理解と同時に、特定の障害についての専門性を確保することとなっている。また、大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与することとしている。
なお、特別支援学校教諭免許状については、「教育職員免許法」(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼稚園、小・中学校及び高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、専門性確保の観点から保有率を向上させることが必要である。
特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、全体で86.5%(2021年5月1日現在)であり、全体として前年度と比べ1.6ポイント増加しているが、特別支援教育に関する教師の専門性の向上が一層求められている中で、専門の免許状等の保有率の向上は喫緊の課題となっている。このため、各都道府県教育委員会等において教師の採用、配置、現職教師の特別支援学校教諭等免許状取得等の措置を総合的に講じていくことが必要であり、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の通信講座による研修等、免許状保有率の向上に資する取組を行っている。
⑥ 外部人材の積極的な登用
特別支援教育の推進に向け、教師以外の外部人材の登用も積極的に進めている。障害のある子供の学校における日常生活上・学習活動上のサポートを行う「特別支援教育支援員」の配置にかかる地方財政措置の拡充や、学校における「医療的ケア看護職員」の配置にかかる経費の一部補助等を進めるほか、地方公共団体において、こうした外部人材の配置がより促進されるよう、2021年8月に、特別支援教育支援員や医療的ケア看護職員を学校教育法施行規則上に位置付けた。
イ 学校施設のバリアフリー化
文部科学省では、学校施設の整備について、障害のある幼児児童生徒が支障なく学校生活を送るために障害の種類や程度に応じたきめ細かな配慮を行うよう、学校種ごとの学校施設整備指針を作成し、施設の計画・設計上の留意点を示している。このほか、2020年5月の「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)の改正等を踏まえ、学校施設のバリアフリー化に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示した「学校施設バリアフリー化推進指針」を改訂するとともに、公立小・中学校等において2025年度末までの5年間に緊急かつ集中的に整備を行うための整備目標を定め、地方公共団体等に対し学校施設のバリアフリー化を一層推進するよう依頼した。また、報告書「災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~」では、災害時に避難所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性について示している。これらの指針や報告書等は、地方公共団体等に配布するとともに、研修会等を通じて普及啓発に努めている。
さらに、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープ、バリアフリートイレなどのバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っている。
ウ 専門機関の機能の充実と多様化(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(https://www.nise.go.jp/nc))
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、我が国における唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や高等学校における通級による指導などに関する「指導者研究協議会」を実施しているほか、インターネットを通じて、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義の配信や特別支援学校の教師の免許状保有率の向上に資する免許法認定通信教育を実施している。また、全ての学校を始めとする関係者に必要かつ有益な情報を提供するため、インターネットを活用し、発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センターウェブサイト」や文部科学省、厚生労働省、国立障害者リハビリテーションセンターと共同運営する「発達障害ナビポータル」、合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及び支援機器等教材活用に関する様々な情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信を行っている。さらに、研究成果の普及等を行う「研究所セミナー」を開催しているほか、地域における特別支援教育の理解・啓発の進展を図るため、ブロック毎に行う「特別支援教育推進セミナー」を実施するなど理解啓発活動も行っている。
このほか、都道府県及び市町村が直面する課題について、その解決を図るため参画した都道府県及び市町村教育委員会と共同して実施する「地域支援事業」や、国際的動向や諸外国の最新情報の収集及び海外との研究交流を行う「国際事業」等を行っている。(参照:https://www.nise.go.jp/nc)。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、2021年10月1日に創立50周年を迎えた。
この50周年の記念事業として、記念式典・記念講演・記念植樹を行うとともに、50年誌を作成した。記念講演では、堀口明子株式会社沖ワークウェル代表取締役社長から、『夢を拡げる働き方~ICTを活用した企業と学校の取組~』と題し、株式会社沖ワークウェルの取組として多くの障害のある方が在宅勤務する様子や特別支援学校生向けの遠隔職場実習などが紹介された。
本研究所は、1971年の創立以来、全国の教育関係者に向けて研究成果の発信や、専門的な教員研修の実施などの取組を進めてきたところである。
これからも我が国唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、インクルーシブ教育システムの構築に向けて、国や地方公共団体、関係機関等と連携・協力しつつ、教育実践を研究するフィールドを有し、実践的な研究と研修を一体的に行うことができる法人の強みを生かしながら、特別支援教育を取り巻く国内外の情勢の変化も踏まえた国の政策課題や教育現場の課題に柔軟かつ迅速に対応する業務運営を行い、もって障害のある子供一人一人の教育的ニーズに対応した教育の実現に貢献していく。
(3)充実した支援体制の整備
ア 切れ目ない支援体制整備
2012年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」において、インクルーシブ教育システムを構築する上で、教育委員会や学校等は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要であり、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークを形成することが有効であることなどが示された。
文部科学省では、特別な支援が必要な子供が、就学前から卒業後にわたる切れ目ない支援を受けられる体制の整備に必要な経費(①連携体制の整備、②個別の教育支援計画等の活用、③連携支援コーディネーターの配置、④普及啓発などに係る経費)の一部を補助する事業を実施するなどして、教育委員会や学校等における取組を推進している。
イ 教育と福祉等の連携
発達障害を始め障害のある子供への支援における教育と福祉の連携については、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されている。文部科学省と厚生労働省では、両省連携による、家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを2017年12月に発足させ、2018年3月に、教育と福祉の連携を推進するための方策及び保護者支援を推進するための方策について報告書を取りまとめた。両省は2018年5月に報告書の趣旨を広く周知するため、自治体向けに通知を発出し、各自治体における、教育委員会と福祉部局の連携の促進や、地域における支援の情報や相談窓口について記載されたハンドブックを作成するなどの保護者支援の取組の充実を促した。
文部科学省では、2018年8月に、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)の一部改正を行い、「個別の教育支援計画」の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととした。また、2019年度から3年間にわたり、学校と放課後等デイサービス事業所などの障害児通所支援事業所の連携促進に資するため、連携に際してのマニュアルを作成するモデル事業に取り組んだ。
ウ 発達障害のある子供に対する支援
「学校教育法の一部を改正する法律」(平成18年法律第80号)により、幼稚園、小・中学校及び高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。
2016年6月には「発達障害者支援法の一部を改正する法律」(平成28年法律第64号)が公布され(2016年8月施行)、発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、小・中学校、高等学校等における発達障害の可能性のある児童生徒等に対する支援の充実につなげるため、2020年度まで、学習上のつまずきなどに対する教科指導の方向性の在り方、通級による指導の担当教師等に対する研修体制の在り方や必要な指導方法、学校における児童生徒の多様な特性に応じた合理的配慮の在り方に関する研究を実施した。また、2020年度より、発達障害の可能性のある児童生徒等に対する指導経験の浅い教師の専門性向上を図るため、研修等の機会の充実や指導・助言などのサポート体制の整備など、関係機関とも連携した支援体制の構築に取り組む事業を開始した。さらに、2021年は、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための自立活動や通級による指導について、学びの保障や指導の質の向上などの観点から、ICTを活用した自立活動の効果的な指導の在り方の調査研究を開始した。
また、文部科学省と厚生労働省の両省共催で例年2月に開催している「発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」について、2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、発達障害支援の地域連携に係る取組等を紹介する動画を作成し、両省のホームページより配信した。
エ 医療的ケアが必要な子供に対する支援
文部科学省が実施した学校における医療的ケアに関する調査の結果によると、特別支援学校や小・中学校等に在籍する医療的ケアが必要な幼児児童生徒の数は増加傾向にある。また、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年法律第81号)が2021年6月に成立し、2021年9月に施行された。このような状況を踏まえ、文部科学省では、学校において関係者が一丸となって医療的ケアに対応できるよう、医療的ケアの環境整備の充実を図るため、教育委員会や学校等における取組を支援している。
とりわけ、学校において中心となって医療的ケアを行う看護師については、学校において教員と連携協働しながら不可欠な役割を果たす支援スタッフとして、その名称を医療的ケア看護職員とし、その職務内容について学校教育法施行規則に規定するとともに、教育委員会等における医療的ケア看護職員の配置に係る支援や研修に関する調査研究を行っている。
さらに、近年、小・中学校等においても医療的ケア児が増加傾向であることから、教育委員会等における医療的ケアに関する体制の整備等の参考となるよう、「小学校等における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全に受け入れるために~」を2021年6月に公表するとともに、小・中学校等で医療的ケア児を受入れ、支える体制の在り方について調査研究を実施している。
加えて、厚生労働省が、2020年4月の診療報酬改定において、医療的ケア児が通う学校の学校医又は医療的ケアに知見のある医師に対して、医療的ケア児が学校生活を送るに当たって必要な情報を主治医が提供した場合の評価を新設するとともに、医療的ケア児が普段利用している訪問看護ステーションから学校が必要な情報提供を受けられる機会を拡充したことを受けて、文部科学省では、主治医から学校医等への診療情報提供に基づく医療的ケアの流れやその際の留意事項等を整理し、教育委員会等に通知した。
オ 私学助成
私立の小学校から大学までの学校(特別支援学校を含む)における障害のある児童・生徒・学生等の就学への配慮や、特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園等の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育環境の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、「私立学校振興助成法」(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。
カ 家庭への支援等
文部科学省と地方公共団体は、障害のある子供の特別支援学校や小・中学校への就学の特殊事情に鑑み、これらの学校に就学する子供の保護者等の経済的負担を軽減するため、その負担能力に応じて就学奨励費を支給している。2020年度からは、新たにオンライン学習に必要な通信費についても補助対象とし、2021年度にはさらに補助対象者の拡充、補助上限額の引き上げを行った。
2021年1月、文部科学省が開催した「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の報告が公表された。文部科学省では、本報告や、中央教育審議会「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」等も踏まえ、特別支援教育の推進に取り組んでいる。
本報告では、特別支援教育を巡る状況や基本的な考え方、障害のある子供の学びの場の整備・連携強化、特別支援教育を担う教師の専門性の向上、ICT利活用等による特別支援教育の質の向上、関係機関の連携強化による切れ目のない支援の充実といった内容が盛り込まれており、これも踏まえ、2021年6月には、障害のある子供の学びの場の適切な選択に資するよう、「障害のある子供の教育支援の手引」の改訂を行った。本手引においては、障害のある子供の教育支援の基本となる「教育的ニーズ」を整理するための考え方を示すとともに、教育相談・就学先決定のプロセスや障害種毎の教育的対応を提示した。さらに、別冊として、医療的ケア児の受入れに際し、関係者が理解しておくべき基本的な考えを示した「小学校等における医療的ケア実施支援資料」を作成した。文部科学省では、各種会議での説明や周知等を通じ、各関係者に対し、本手引の内容が各地域で徹底されるよう努めている。
また、2021年9月24日には、特別支援学校の教育環境を改善する観点から、特別支援学校を設置するために必要な最低限の基準である「特別支援学校設置基準」を策定・公布した。
さらに、特別支援教育を担う教師の専門性向上にかかる施策を検討・推進するため、2021年10月より、「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議」を開催し、特別支援教育を担う全ての教師の専門性向上や、教職課程コアカリキュラムの策定等について議論を行っている。
文部科学省では、引き続き、障害の有無にかかわらず誰もがその能力を発揮し、共生社会の一員として共に認め合い、支え合い、誇りを持って生きられる社会の構築を目指していく。
「 障害のある子供の教育支援の手引」(文部科学省)
URL:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/
1340250_00001.htm