第4章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 6
第1節 生活安定のための施策
6.福祉用具の研究開発・普及促進と利用支援
(1)福祉用具の普及
福祉用具の公的給付としては、補装具費の支給と日常生活用具の給付(貸与)がある。
補装具費の支給は、身体に障害のある人の日常生活や社会生活の向上を図るために、身体機能を補完又は代替するものとして、義肢、装具、車椅子、視覚障害者安全つえ、補聴器等の補装具の購入、借受け又は修理に要した費用の一部について公費を支給するものである。なお、2018年度より、購入を基本とする原則は維持した上で、障害のある人の利便に照らして「借受け」が適切と考えられる場合に限り、借受けに要した費用が補装具費の支給の対象となった。
日常生活用具の給付(貸与)は、日常生活を営むのに著しく支障のある障害のある人に対して、日常生活の便宜を図るため、特殊寝台、特殊マット、入浴補助用具等を給付又は貸与するものであり、地域生活支援事業の一事業として位置付けられ、実施主体である市町村が地域の障害のある人のニーズを勘案の上、柔軟な運用を行っている。
2013年度から、「障害者総合支援法」の対象となる難病患者等も、補装具費や日常生活用具給付等事業の対象となった。
なお、身体に障害のある人の使用に供するための特殊な性状、構造又は機能を有する一定の物品の譲渡等については、消費税は非課税とされている。
(2)情報・相談体制の充実
福祉用具の情報については、公益財団法人テクノエイド協会において、福祉用具の製造・販売企業の情報や福祉用具の個別情報にかかるデータベース(福祉用具情報システム:TAIS)を構築しており、インターネットを通じてこれらの情報を提供している。(公益財団法人テクノエイド協会:http://www.techno-aids.or.jp/)
また、国立障害者リハビリテーションセンターでは、2018年度に、補装具を始めとする支援機器やその支給制度の普及等を目的として、障害のある人や身体障害者更生相談所等地方公共団体、医療従事者、補装具関係事業者等に向け、総合的な情報発信等を行うための取組を開始した。小児筋電義手の普及促進に向け、関係機関、関係者と連携し、「小児筋電義手専門職養成研修会」等を実施するとともに、ネットワーク構築の強化や情報の収集に努めている。
(3)研究開発の推進
少子高齢化が進展する中、福祉用具に対するニーズは高まっており、利用者への十分な選択肢の提供や費用対効果等がより重要な課題となっている。このため、研究開発の推進、標準化や評価基盤の整備等、産業の基盤整備を進め、福祉用具産業の健全な発展を支援することを通じて、良質で安価な福祉用具の供給による利用者の利便性の向上を図っている。身体に障害のある人が使用する福祉機器の開発普及等については、真に役立つ福祉機器の開発・普及に繋がるよう、公益財団法人テクノエイド協会に委託して、「福祉用具ニーズ情報収集・提供システム」を運用し、福祉機器のニーズと技術シーズの適切な情報連携に努めている。
また、2010年度より「障害者自立支援機器等開発促進事業」において、障害のある人の要望を反映したテーマで募集を行い、各種専門職による評価体制と障害当事者の試験評価を組み込み、試作機器等を製品化するための開発費用の助成を行っている。
さらに、2014年度より、障害のある人の個別具体的なニーズを的確に反映した機器開発が促進されるよう、利用者と開発者が意見交換を行う場を設けるとともに、開発中の機器について、実証実験の場を紹介すること等により、適切な価格で障害のある人が使いやすい機器の製品化・普及を図ることを目的として、「シーズ・ニーズマッチング強化事業」を実施している。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所では「障害者の自立と社会参加ならびに生活の質の向上」のために、国立機関として、障害のある人に対する総合的リハビリテーション技術や、福祉機器等に関する研究開発及び評価法の研究開発のほか、制度検討の基礎となる研究を行っている。ロボット等の先進技術の応用に係る調査・技術開発等を通じて、障害者の新たな社会参加シーンの拡充を目指す研究に取り組んでいる。そのほか、脳波を利用して意思伝達や運動補助などを行うブレインマシン・インターフェース(BMI)研究の中で開発したリアルタイム脳信号解析技術を、ニューロフィードバックトレーニング(自らの脳活動等の変化を本人にリアルタイムで提示し、その活動を思い通りに変化させるトレーニング)に応用することで認知行動機能を調節する新しい認知リハビリテーション手法の研究開発にも取り組んでいる。また、各種認識技術を応用した重度運動機能障害者向けICT機器操作環境の構築に資する研究(障害者対策総合研究開発事業(国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)))、座席型モビリティ機器を使う重度肢体不自由者の為の12時間自動シーティング技術開発(科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(日本学術振興会))、筋骨格モデルを包含したスマート走行センシングによるシニアカーの安全評価基盤の創成(科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(日本学術振興会))などに取り組んでいる。
さらに、障害者の支援機器開発に携わる医療・福祉・工学分野の人材育成モデル構築に資する研究(厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業))、障害者のための自立支援機器開発を学ぶ人材育成プログラムの普及、技術革新を視野に入れた補装具の構造・機能要件策定のための研究(厚生労働行政推進調査事業費補助金(障害者政策総合研究事業))等を実施し、福祉用具の利活用や普及促進にも取り組んでいる。
1993年度より「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(平成5年法律第38号)に基づいて、福祉用具の実用化開発事業を推進している。本事業では、障害のある人や高齢者、介護者の生活の質の向上を目的として優れた技術や創意工夫のある福祉用具の実用化開発を行う民間企業等に対し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて研究開発費用の助成を行っている。制度発足以来、2021年度までに237件のテーマを採択している。
障害のある人を含め誰にとっても、より安心・安全で、また識別・操作等もしやすく、快適な生活用品、生活基盤、システム等の開発を支援する観点から、個々の人間のレベルでの様々な行動を計測し、理解・蓄積することにより、人間と製品・環境の適合性を客観的に解析し、個々の人間の行動特性に製品・環境を適合させる基盤技術の研究開発を実施している。
〈2021年度新規採択テーマ〉
・3Dデータを活用した足部疾患対応インソールの設計と開発
スマートフォンを利用して、遠隔で3Dプリント硬性カスタムインソールを開発・提供している企業が、本開発では足の3Dデータを取得し、デジタル上での足型に合わせたインソール適合を実現し、全国の足部疾患等をもつ患者へ硬性インソールの提供を目指す。また、実証試験により、患者15-20人を対象としてデータ取得を行う予定。
~開発助成とシーズ・ニーズマッチング交流会~
厚生労働省では、障害のある人の自立や社会参加を支援する機器の実用的製品化を促すため、「障害者自立支援機器等開発促進事業」を実施している。この事業では、支援機器の開発を行う企業等に対する開発助成のほか、支援機器に対する開発側のシーズ(技術)と障害のある人のニーズ(要望)とのマッチング交流会を行っている。
【支援機器の開発に対する助成採択例】
没入型VRによる視空間認知障害者のためのADL自立促進システムの開発
脳卒中後の合併症として代表的な半側空間無視により視空間認知障害を呈した障害当事者に対し、VR( Virtual Reality)技術を活用し三次元的かつ定量的に障害領域を特定する評価システムとADL( 日常生活動作)の訓練システムを開発している。この開発により、従来は二次元的な紙面評価にとどまり、実際のADL場面での評価との間に生じていた乖離の解決が期待される。これにより実際のADL場面に則した障害領域において、訓練を実施することができADL障害の緩和が期待できる。
【シーズ・ニーズマッチング交流会】
「シーズ・ニーズマッチング交流会」は2014年度から毎年開催されており、2021年度で8回目となる。開発に取り組む企業や研究者と、ニーズを持つ障害のある人やその支援者などが集まり、体験や交流を行うことで、ニーズを反映した支援機器の開発を促すことなどを目的にしている。2021年度は、遠隔地からでも交流会に参加できるよう、Web開催と会場開催のハイブリッド開催となった。Web開催では、2021年10月から2022年1月まで4か月に渡り毎月新しいコンテンツを定期配信した。その他、基調講演、関係各所との共催イベントについても開催した。
(4)標準化の推進
より優れた福祉用具の開発・普及を推進するためには、安全性を含めた品質向上、互換性の確保による生産の合理化、購入者への適切な情報提供に資する観点から、客観的な評価方法・基準の策定と標準化が不可欠である。このため、図表4-17のとおり、2021年度までに日本産業規格(JIS)を活用した福祉用具の標準化を推進した。これにより、介護保険対象の主要な品目についてはおおむね標準化が進んだ。
一方、障害のある人や高齢者等日常生活に何らかの不便さを感じている人々にも使いやすい設計とするためのアクセシブルデザインの推進について、様々な分野で関心が高まっている。そのため、2021年度までに、「規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針(JIS Z8071)」を始め、43規格が制定されるなど、各原案作成団体からのニーズに応じて、アクセシブルデザインに関するJIS開発が行われている。
特に包装分野においては、2021年度に、「包装-アクセシブルデザイン-第4部:取扱い及び操作性(JIS S0021-4)」を制定した。これにより、既に制定されている3つのJISを含め、包装のアクセシブルデザインに係る一連の規格開発が完了した。
また、国際規格作成への貢献も積極的に行っており、国際標準化機構(ISO)の福祉用具技術委員会(ISO/TC173)、義肢装具技術委員会(ISO/TC168)、人間工学技術委員会(ISO/TC159)、高齢社会技術委員会(ISO/TC314)及び包装技術委員会(ISO/TC122)に参加している。ISO/TC173/SC2(用語と分類)では幹事国を、TC173/SC7(アクセシブルデザイン)及びTC159/SC3(人体計測及び生体力学)では議長国及び幹事国を担っている。ISO/TC173では、歩行支援用具、座位変換形車椅子、体位変換用具等について、各国の意見調整、規格原案検討を進めている。
施策年度 | 施策内容 |
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2008年度 | 移動・移乗支援用リフト関係5規格(JIS T9241-1~5)【制定】 車いす用可搬形スロープ(JIS T9207)【制定】 在宅用電動介護用ベッド(JIS T9254)【改正】 |
2009年度 | 入浴用製品3規格(JIS T9257~9259)【制定】 ハンドル形電動車椅子(JIS T9208)【制定】 |
2010年度 | 福祉用具-ポータブルトイレ(JIS T9261)【制定】 福祉用具-和式洋式変換便座(JIS T9262)【制定】 福祉関連機器用語[支援機器部門](JIS T0102)【改正】 |
2011年度 | 福祉用具-入浴用いす(JIS T9260)【制定】 福祉用具-歩行補助具-歩行器(JIS T9264)【制定】 福祉用具-歩行補助具-エルボークラッチ(JIS T9266)【制定】 |
2012年度 | 福祉用具-歩行補助具-歩行車(JIS T9265)【制定】 福祉用具-補高便座(JIS T9268)【制定】 福祉用具-ベッド用テーブル(JIS T9269)【制定】 |
2015年度 | 福祉関連機器用語-義肢・装具部門(JIS T0101)【改正】 車いす用可搬形スロープ(JIS T9207)【改正】 移動・移乗支援用リフト関係2規格(JIS T9241-1,4)【廃止】 移動・移乗支援用リフト関係3規格(JIS T9241-2,3,5)【改正】 移動・移乗支援用リフト関係2規格(JIS T9241-6,7)【制定】 福祉用具-車椅子用クッション(JIS T9271)【制定】 福祉用具-車椅子用テーブル(JIS T9272)【制定】 福祉用具-体位変換用具(JIS T9275)【制定】 在宅用電動介護用ベッド(JIS T9254)【改正】 |
2016年度 | 在宅用床ずれ防止用具3規格(JIS T9256-1,2,3)【改正】 福祉用具-据置形手すり(JIS T9281)【制定】 ハンドル形電動車椅子(JIS T9208)【改正】 在宅用電動介護用ベッド(JIS T9254)【改正】 病院用ベッド(JIS T9205)【改正】 手動車椅子(JIS T9201)【改正】 電動車椅子(JIS T9203)【改正】 福祉用具-歩行補助具-シルバーカー(JIS T9263)【制定】 |
2017年度 | 福祉用具-固定形手すり(JIS T9282)【制定】 福祉用具-留置形手すり(JIS T9283)【制定】 電動6輪車椅子の試験方法(JIS T9209)【制定】 |
2019年度 | 福祉用具-歩行補助具-歩行車(JIS T9265)【改正】 |
2020年度 | 福祉用具-歩行補助具-多脚つえ(JIS T9267)【制定】 馬乗り形電動車椅子-安全要求事項(JIS T9210)【制定】 |
2021年度 | 車椅子用可搬形スロープ(JIS T9207)【改正】 |