第1章 障害の有無により分け隔てられることのない共生社会の実現に向けた取組

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2021年6月、事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けること等を内容とする「改正障害者差別解消法」が公布された。本章では、第1節で「障害者差別解消法」及び同法の改正に伴い改定された基本方針等の「改正障害者差別解消法」の施行に向けた取組を紹介し、第2節で「障害者基本法」に基づき、政府が講ずる障害者のための施策の最も基本的な計画である「障害者基本計画(第5次)」(2023年度から2027年度までの5年間)を取り上げる。

第1節 改正障害者差別解消法の施行に向けて

○ 障害者差別解消法の経過

「障害者差別解消法」の施行3年後の検討規定による見直しの検討を経て、2021年6月に「改正障害者差別解消法」が公布。施行は2024年4月1日。施行に向けて改定した「基本方針」が2023年3月14日に閣議決定。

障害者の状況

厚生労働省の調査によると、我が国の障害者数の概数は、身体障害者(身体障害児を含む。)436万人、知的障害者(知的障害児を含む。)109万4千人、精神障害者614万8千人となっている。これを人口千人当たりの人数でみると、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は49人となる。複数の障害を併せ持つ者もいるため、単純な合計にはならないものの、国民のおよそ9.2%が何らかの障害を有していることになる。また、いずれの区分も障害者数は増加の傾向にある。

○ 「障害者差別解消法」の概要

全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除くことが重要である。

<障害の「社会モデル」とは>

「障害者差別解消法」は、障害の「社会モデル」の考え方を踏まえている。これは障害者が日常生活又は社会生活で受ける様々な制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生じるものという考え方である。

<「不当な差別的取扱いの禁止」・「合理的配慮の提供」>

① 不当な差別的取扱いの禁止

不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は場所・時間帯などを制限すること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害する行為。「基本方針」では、社会的障壁を解消するための手段(車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等)の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも該当することを明記。

※「不当な差別的取扱い」の具体例

・受付の対応を拒否する

・本人を無視して介助者や支援者、付添いの人だけに話しかける

・保護者や介助者が一緒にいないとお店に入れない

② 合理的配慮の提供

障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことが求められる。

2024年4月1日に施行する「改正障害者差別解消法」により、事業者による「合理的配慮の提供」は、努力義務から義務へと改められる。

※「合理的配慮の提供」の具体例

・意思を伝え合うために絵や写真のカードやタブレット端末などを使う

・段差がある場合に、スロープなどを使って補助する

・障害者から「自筆が難しいので代筆してほしい」と伝えられたとき、代筆に問題がない書類の場合は、障害者の意思を十分に確認しながら代筆する

※ 建設的対話の重要性

合理的配慮の提供に当たっては、社会的障壁を取り除くために必要な対応について、障害者と行政機関等・事業者双方が対話を重ね、共に解決策を検討していくことが重要となる。このような双方のやり取りを「建設的対話」という。「基本方針」では、建設的対話を行うに当たっての考え方を示している。

<環境の整備>

「障害者差別解消法」は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている。これには、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規定の整備等の対応も含まれる。障害を理由とする差別の解消のための取組は、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である。

○ 「改正障害者差別解消法」の概要

障害を理由とする差別等に関する意識の現状と変化について

国民の約94%が「障害のある人が身近で普通に生活しているのが当たり前」(共生社会の考え方)と思っている。また、「合理的配慮の提供」が行われなかった場合、「障害を理由とする差別」に当たる場合があると思う人は、この10年間で大きく増加しており、障害を理由とする差別の解消等について、広く国民が関心を持っていることがうかがえる。

※内閣府は、障害及び障害者に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とすることを目的とした「障害者に関する世論調査」をおおむね5年ごとに実施しており、直近では2022年11月に実施

○ 障害者の差別解消に向けた取組等

▼国や地方公共団体の相談窓口等担当者が相談対応業務で参考とする相談対応ケーススタディ集を公表
▼「改正障害者差別解消法」の周知啓発のためのリーフレットを作成して、内閣府ホームページで提供
▼「障害者差別解消法」の理解促進を目的とした「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」(左)を開設。ポータルサイト内に「合理的配慮の提供」等の具体例を障害の種類などに応じて検索できる「障害者差別解消に関する事例データベース」(右)を公開
▼【北九州市の取組】
障害者差別解消条例及び合理的配慮の提供の周知のために主に事業者に対してリーフレットを配布
▼【株式会社ミライロの取組】
障害者手帳をスマートフォン上でデジタル化するデジタル障害者手帳を運営

第2節 障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進

○ 第5次基本計画の位置付け及び策定

政府が講ずる障害者のための施策の最も基本的な計画である「障害者基本計画(第5次)」(以下「第5次基本計画」という。)について、政府において障害者政策委員会の意見に即した案が作成され、2023年3月14日に閣議決定した。対象期間は2023年度から2027年度までの5年間。

○ 第5次基本計画の構成

「第5次基本計画」は、「Ⅰ 障害者基本計画(第5次)について」、「Ⅱ 基本的な考え方」及び「Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」で構成されている。「Ⅱ 基本的な考え方」では、計画全体の基本理念及び基本原則を示すとともに、各分野に共通する横断的視点や、計画を実施するに当たり留意すべき社会情勢の変化、施策の円滑な推進に向けた考え方を示している。「Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」では、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を11の分野に整理し、それぞれの分野について、第5次基本計画の対象期間に政府が講ずる施策の基本的な方向を示すとともに、関連する施策を記載している。

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