令和2年7月豪雨における戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の研究開発技術活用実績について


令和2年8月26日
政策統括官(科学技術・イノベーション担当)
プレスリリース

 令和2年7月豪雨による災害において、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP※)国家レジリエンス(防災・減災)の強化(以下「SIP国家レジリエンス」という。)において研究開発を進めている技術が現場での災害対応に活用されるととともに、その有効性が確認されました。

【活用した研究開発技術】

  • 1.SIP4D(エスアイピーフォーディー)(基盤的防災情報流通ネットワーク)
  • 2.D24H(ディートゥエンティフォーエイチ)(災害時保健医療福祉活動支援システム)
  • 3.衛星データ即時一元化・共有システム
  • 4.線状降水帯観測・予測システム
  • 5.市町村災害対応統合システム 

※SIPとは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト。(現在の第2期はH30~R4の5年間)

【具体的な活用状況】

1.SIP4Dによる災害関連情報の活用
【研究開発機関:防災科研・日立製作所等】 (参考資料 p2)

 SIP第1期の研究成果であるSIP4Dは、効果的な災害対応のために必要とされる様々な分野の災害情報をデジタル地図上に集約し災害対応機関間で共有するシステムである。発災当日から防災科研現地支援チームをISUT(災害時情報集約支援チーム、内閣府防災との合同チーム)として熊本県・鹿児島県に派遣し、災害情報の収集・活用をSIP4Dを用いて支援した。
 ハザード情報、SIP国家レジリエンスで解析した衛星画像(下記③参照)、道路・停電・通信・断水状況、避難所状況、医療機関状況、災害廃棄物状況、孤立集落状況など非公開情報を含む刻一刻と変わる災害関連情報を災害対応機関間で共有し、様々な状況の可視化により、被災状況の把握、ライフラインの復旧、孤立集落の解消などの支援に活用された。

2.D24Hの熊本県保健医療調整本部での活用
【研究開発機関:芝浦工業大学・東京工業大学等】 (参考資料 p3)

 D24Hは、保健医療福祉分野全てに、防災情報の配信、保健医療福祉情報の共有、支援活動に必要な情報分析を自動で行うシステムである。熊本県保健医療調整本部においてD24Hを使い、D24Hで収集した避難所情報、SIP4Dが集約した情報、厚労省提供の福祉施設情報、全ての医療機関の情報を一元表示した。
 これにより保健医療調整本部、日赤チーム、DMAT及び災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT(ディーヒート))などの迅速な保健医療活動支援が行われた。

3.衛星データ即時一元化・共有システム
【研究開発機関:防災科研・JAXA・富士通・東京大学等】 (参考資料 p4)

 衛星データ即時一元化・共有システムは、政府等が広域的な被災状況を迅速に把握し、的確な初動対応を行うため、国内外の多数の衛星データを活用し被災状況の解析を行うシステムである。7月4日早朝に九州南部で線状降水帯が発生し甚大な被害が生じたため、同日昼頃に地球観測衛星だいち2号(ALOS-2)の緊急観測が行われ、15時には衛星データから浸水範囲を解析、同システムを通じて府省庁等の災害対応機関へ提供した。その後も、新たに観測された衛星データや解析結果の一元化および共有を継続して行った。
 同災害では災害級の大雨が多発したため、国際災害チャーター(災害発生時に地球観測衛星のデータを国際的に提供し合う枠組み)の発動が検討され、発動時の観測エリアの設定においても本システムの洪水予測が貢献した。
 同災害において、災害前からの定常観測、発災後の緊急観測、国際災害チャーター等との連携により、17機の地球観測衛星と連携し、約120の解析結果を提供することができた。

4.線状降水帯観測・予測システム
【研究開発機関:防災科研・日本気象協会等】 (参考資料 p5)

 線状降水帯観測・予測システムは、水害・土砂災害からの避難エリアの指定や、避難勧告・指示の判断のための観測と分析を組み合わせた予測システムである。同システムは、九州地方の9自治体(北九州市,朝倉市,東峰村,日田市,うきは市,八女市,阿蘇市,熊本市,鹿児島市)へ実証実験として試験配信を実施している。
 同システムは、7月3日16時に実証実験の協力自治体である鹿児島市と熊本市に早期警戒メールを配信した。その後、同日21時半頃から鹿児島県周辺で線状降水帯を自動検出し、また7月4日0時40分頃に熊本県南部で発生した線状降水帯を自動検出した。
 また、7月6日の九州北部での豪雨では、13時10分に線状降水帯の発生に対して、8時30分に「線状降水帯の発生可能性」を予測し、実証実験の協力自治体である福岡県東峰村に早期警戒メールを配信した。さらに、2時間前には「線状降水帯の発生の恐れ」を実況情報として提供し、11時20分には2時間以内に線状降水帯発生を予測、12時40分には2時間以内に数十年に一度の大雨を予測して情報提供し、避難判断をサポートする情報として有効性を確認した。

5.市町村災害対応統合システム
【研究開発機関:九州大学・河川情報センター・応用地質・KDDI等】(参考資料 p6)

 市町村災害対応統合システムは、市町村長が避難勧告等を適切に発令できるよう、大量の防災気象情報や災害情報をAIにより分析し総合的なリスクマップを作成して、避難対象エリアや避難勧告・指示タイミングの判断支援を行うシステムである。同システムは、上記(1)のSIP4D及び上記(4)の線状降水帯観測・予測システムとデータ連携をしつつ、福岡県東峰村および茨城県常総市で実証実験中であり、7月6日の九州北部での豪雨では、東峰村と現地情報を共有しながらシステムを監視し、AIを使って導き出したハザード(土砂災害危険度)、脆弱性(避難対象エリア内の人の位置や避難所までのアクセス等)、それらの評価結果を統合したリスク評価、リスク評価に基づく発令区域ごとの避難判断支援情報まで、一連の情報を6時間先まで予測して東峰村へ提供し、システムの実用性を確認した。

参考資料

問合せ先

内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付
安全社会グループ 担当:詫間・櫻井
電話:03-6257-1336(直通)