第1回区分所有法改正に係るヒアリング・意見交換議事概要

1. 日時

平成14年6月28日(金)17:30〜18:30

2. 場所

永田町合同庁舎 2F 大会議室

3. 出席者

配付資料(法務省提出)

資料1

建替え決議の要件・手続及び団地の部分に関する問題点の整理

資料2

「建物区分所有法改正要綱中間試案」に関する意見募集の結果について

資料3

「建物区分所有法改正要綱中間試案」に関する意見照会の結果について


議事概要

吉田参事官:中間試案を公表後は、パブリックコメントと関係機関、大学等に対する意見照会を行った。その取りまとめをしたものをお手元に配布。部会の席上で同じ資料で説明。これには、賛成意見を述べているものは拾っていない。選択肢があるものや反対意見があるものだけを載せてある。以下、建替え決議関係について紹介する。
意見照会の回答数は29通。送付先は170程。老朽化について年数だけにすることに賛成が10件。ただし、年数について50年とするものもあった。乙案に賛成するものが9件。いずれの案にも反対という意見もあった。これは甲案、乙案ともに合理的根拠に欠けており、維持の費用を基準にして考えるべきという意見。損傷、一部の滅失その他の場合に関する意見については、甲案に賛成するものが6件、乙案に賛成するものが13件あった。それから、全般に関する意見としては、決議要件の緩和に関するものが3件。客観的要件は不要というものが4件。

福井教授:この4件の内訳は。後で団体名だけ教えてほしい。

吉田参事官:意見募集は一般から来たもの。FAXやeメールで来たものをまとめたもので46通来ている。老朽化の場合に関する意見について、反対するものが19件、そのうち年数を要件とするのは不適当というのが17件あった。それから、年数要件に賛成するものは、甲案と乙案合せて6件あった。損傷、一部の滅失その他の場合に関する意見としては、乙案に賛成するものが13件あった。全般に関する意見として、反対するものが4件。そのうち客観的要件は不要というものが3件あった。
その後の法制審部会での審議の状況については、ご指摘を踏まえ、6月4日の部会では、中間試案で掲げた案と並べて多数決の5分の4のみとする案を資料として改めて配布し、対等な立場で比較検討していただくという趣旨でご議論いただきたいと申し述べた。今後、7月2日と7月18日に審議し、8月6日に最終的に取りまとめを行う。

福井教授:議事録はないのか。

吉田参事官:まだできていない。でき次第お渡しする。

福井教授:どういう議論が出たのか。

吉田参事官:賛成意見も反対意見も両方あった。手元のメモによれば、私的自治を尊重する観点から多数決のみでいいのではないかという意見があった。また、区分所有権の性質から最低限財産権としての中味を保証するという観点から、一定の年数を設けることの合理性を述べる立場の意見があった。

福井教授:事務局からはどういうふうに説明したのか。

吉田参事官:それぞれの案の問題点を示した。

福井教授:どういう資料を出したのか。6月4日にどのような資料に基づき説明をしたのかを聞かないと判定のしようもない。今なければ、会議が終わるまででもいいので、大至急誰かに命じて取り寄せてほしい。

吉田参事官:(法務省からの取り寄せを指示)

福井教授:法務省としてはどういう方針で取りまとめるつもりか。委員の分布が一つの要素だというのはわかるが、別途法務大臣として5分の4のみとする案を検討することを最大限尊重するとした、法制審という独立の機関とは別にコミットしている事実がある。その立場からどのように取りまとめるのか。

吉田参事官:まだどちらの方向で決めるということは申し上げられない。

福井教授:閣議の内容について、法務省としての人格ではどのように受け止めているのか。

吉田参事官:3か年計画の中で、5分の4以上の合意のみとすることを含めて検討するという取り決めがされているので、十分な議論をして結論を得たいと思う。

福井教授:もう一度経緯を含め確認するが、5分の4の決議に付加的要件を課すという案は、法制審のどの段階で誰が発案したものか。法制審の委員から具体的な提案があったわけではないと記憶しているがそれでよいか。

吉田参事官:文献などを参考にしながら、資料でたたき台として案を示した。

福井教授:誰のどの文献か。年数要件と損傷の場合に再建築費を基準とする要件について。

吉田参事官:具体的には鎌野教授の論文等に年数要件は掲げられている。損傷の場合の再建築費については、法制審を立ち上げる前の委員会に日弁連の意見書が出されているが、それに記載されている。

福井教授:甲案と乙案をベースとして採択した理由は何か。

吉田参事官:議論の経過として、最初の段階で、多数決のみの案を提示していたが、議論の中では要件を維持するという意見の委員が多かったもの。

福井教授:誰かが言っていたというよりも、理論的・実質的根拠としてはどういう点に合理性があると判断したのか。事務局として、甲案、乙案、注書きとしたからには、自ずと軽重を認識していたはずである。

吉田参事官:内部で考えたらこういうことが考えられるということは言えるかもしれないが、それは委員会の決定とは違う。

福井教授:委員の集約という立場でなく、民事基本法を所管する立場の法務省としてどういう合理性があると思うか。

吉田参事官:区分所有権の性質からして、しかも既存の建物に適用がある場合に、多数決だけで財産権を奪うという法改正ができるかという点が一番の問題だと認識。

福井教授:少数者の財産権保護という点か。

吉田参事官:そういうことになると思う。

福井教授:少数者の財産権保護として、再建築費の2分の1要件は具体的にどういう機能を果たすのか。

吉田参事官:部会でも多少議論になっている。いずれにしても多数決で財産権を奪われる立場からしたら、年数や復旧にこういう費用がかかるというような判断基準が満たされたとしても特段のメリットはない。ただ、所有権という性質からしたら、どこで合理的な理由を付けて強制的に財産権を奪うかということ。何らかの根拠がないとできないのではないかということ。前々回の部会でも一部から出た意見。

福井教授:甲案と乙案それぞれどういう意味で少数者の財産権の保護になると位置付けられるのか。

吉田参事官:区分所有権ということで権利を取得したという権利者の立場からすると、最低限所有権の対象について、何年でということについては、そう簡単には説明できないが、ただ最低限年数を保証するという程度のことは、所有権という権利の中味としては必要なのではないかということ。

福井教授:年数以外の機能的陳腐化あるいは社会的な情勢と齟齬を来たすことについてはどのように考えるか。

吉田参事官:陳腐化や効用に基づくニーズにより多数の人が建替えを希望する状況が起こり得るとは思うが、ただその場合でも30年以前にしかも全員一致でなくやっていいものか。今の区分所有権という権利の性質を変えてやっていいものかということ。

福井教授:それには憲法や実定法上の根拠があるか。憲法29条3項の財産権の具体化法だと思うが、その意味で憲法解釈論として出てくるのか。

吉田参事官:部会では憲法を具体的にあげて駄目だと言う委員はいない。ただ、財産権の中味の話になるので、補償があるから内在的制約なり権利の中味として法律で変えられるのだというように踏み切って判断するのかどうかということ。

福井教授:憲法そのものには財産権の内容は法律で定めると書いてあり、憲法の解釈の限界論から出てくるのかどうか。

吉田参事官:議論では直接は出ていない。

福井教授:議論で出たかだけではなく、法務省の公的見解や学説判例はあるのか。

吉田参事官:憲法問題でどうこうというものについては、見た記憶はない。

福井教授:財産権の保護という観点を前提にするのであれば、30年未満でも機能的陳腐化と5分の4以上の大多数が考える場合に、それらの人々の財産権についてはどのように考えるか。

吉田参事官:30年未満の問題については、現在中間試案で掲げている年数の方ではない案でも、損傷滅失その他の事由で維持回復にこういう費用がかかるということなので、本来備えるべき機能を満たしていないという場合についてはそれで救えると考えている。

福井教授:狭いとか設備が古くてシャワーがついてないとかいろいろ切迫したニーズが当事者にはあるが、そういうのは読めるのか。

吉田参事官:単に狭いということだと、それは読めないと思う。

福井教授:狭くて子供が大きくなってもう堪らないとか、あるいはこの設備では配管も取り替えられないので給湯もできないし水もチョロチョロしか出ないとか、プロパンガスで都市ガスが来ていないとか、いろいろあり得るが、年数が短くてもこんな不自由な家には住みなくないという人が80%以上出てきているケースがあり得る。現にこれまでの建替え総件数の4分の1は30年未満。そういう人達が自分達の財産権を発動したいという時に5分の4決議がなされる。5分の1以下の人が5分の4以上の人が財産権を発露するのを差し止める権利を持つことになる。それはどうやって合理化できるのか。

吉田参事官:多数者が我慢しなければならないというのはご指摘の通りだが、区分所有権はそれぞれ独立した所有権として作られているので、最低限どこまで我慢することにするかという、最終的には権利調整の話だと思う。

福井教授:ただ少数者から奪うだけで補償しないわけではなく、そこにその形態で住む権利がある場合でも正当な補償というのが憲法上の要件。現在のマンション建替え円滑化法でも現行の区分所有法でもそうだが、その分の対価は払うということで、市場価値として従前従後で等価だから、どんなに泣き叫んでも追い出していいというのが、既に皆様方が所管の区分所有法の建て前。それと違い年数をさらに付加する合理性がわからない。

吉田参事官:現行法でも、持っている財産の金銭的な価値の補償はもちろん与えられており、それはいずれのスキームを取っても排除する余地は全くない。現行法でも、かなり堅い要件の下での建替え決議の制度と迷惑行為などの義務違反者に対する競売請求の制度があるが、これは、財産権で補償されているからそれでいいのではなく、現行の区分所有法の中味として、それなりの奪う合理的な根拠が掲げられている。もちろん、かなり性質が違うので、年数要件が完全に代替し得るかという点はあるが。

福井教授:年数はどちらかというと建物の効用維持期間のことか。一旦取得した財産権は、少なくとも30年位は安心感を持って使えるという意味で言っているのか。

吉田参事官:我々だけの考えではないが、年数にはそういう意味があるのではないか。

福井教授:とすると、30年位は通常の使用で使えるはずだと考える人もいるかもしれないが、機能的陳腐化とか狭くとか設備がボロくなったとかという場合には、30年経たなくてもこんな財産権では困ると言う人が大多数になる。そういう意味では、30年というのは、大多数の人が困るという代替指標であり、自己目的化するのはおかしい。委員の頭の中にあるのは、およそ建物がどれくらい経てば陳腐化するのかという時の一つの客観指標として持ってきたものではないか。

吉田参事官:30年というのは具体的な状況を捨象したもので、その後は多数決という私的自治に任せるというもの。

福井教授:30年が金科玉条の憲法やバイブルのようなものか。30年も経てば効用発揮期間は過ぎただろうということのいわば徴表として出てきているのではないか。30年自体が自己目的という意見を持った委員はいるか。

吉田参事官:自己目的という意味にもよるが、そういうことはないだろう。ただ、一定の線を引くとすると、指標としてはそれしかないのではないか。

福井教授:自分にとっての耐用年数は40年と考えている人がいるとする。その人にとってみれば、31年だろうと32年だろうとやはり財産権を犯されていることになる。その問題についてはどう考えるか。

吉田参事官:結局どこかで線を引かなければいけないという話になる。

福井教授:26年とか27年とか経って、当時の日本のマンションは非常に劣悪なので、古くなるだけではなく、機能的にも材質的にも劣化して住むに耐えないというのがいっぱいある。極端な場合0.1%しか反対者がいない。99.9%が26年の段階でこんな家には住めないという場合でも、皆さんの要件だととにかく待たないといけない。その合理性は何か。

吉田参事官:単なる陳腐化だと対応できない。日常生活に一般的な水準からみて満たしていないということを・・・。

福井教授:それを何で政府が強制する必要があるのか。要するに、99.9%の人が堪らないと言っている時に0.1%の人の絶対的拒否権を認めないといけないという合理性は何か。

吉田参事官:区分所有権の目的として、そういう権利関係、法律ができている ということである。

福井教授:これから作ろうとしている法律についての合理性を聞きたい。

吉田参事官:もっと違う性質の権利はもちろんあり得る。

福井教授:マンションの財産権で社会経済的には大多数の人が納得しているケースで、それにストップをかける社会経済的合理性や意味を教えて欲しい。

吉田参事官:社会経済的合理性ということより、所有権として、そういう形で譲渡、権利取得、保有されているので、所有権の内容としては、多数の人が陳腐化なりで建物を維持したくないとなっても、多数意見だけでは排除できないということ。

福井教授:何で40年や25年ではなくて30年なのか。何か理論的根拠はあるのか。

吉田参事官:理論的な根拠ということにはならない。

福井教授:ではなぜ大多数の人が社会経済的にも陳腐化したと考えている時に、当然少数者に補償するという人権保護は前提とした上で認めるということにどういう支障があるのか。

吉田参事官:所有権の性質として補償だけではやはり足りないのではないかということ。

福井教授:足りないという言い分はわかったが、何で年数が合理的な根拠になるのかがさっぱりわからない。土地収用法は、土地の適正かつ合理的な利用に供する事業、公益上の必要性のある事業という事業認定の要件を満たしたら、今建っている家が新しいとか古いとかに関係なく、これからやる事業と今の土地利用とを天秤にかけ、これからやる土地利用の効用の方が費用も勘案して大きければゴーサインを出しなさいと決めている。これがいわば憲法29条3項の実現法の唯一の典型的な法令。皆さんの意見は、効用は関係なく年数だけで切るもの。収用法の考え方とも違う特異な考え方を何で区分所有権についてだけ用いるのか。区分の合理性を教えて欲しい。区分所有法には比較の観点が必要ないという理由は何か。

吉田参事官:収用法は、行政処分が介在した公益目的を認定した上で行うもの。

福井教授:収用法では、失われる利益と得られる利益を比較考量している。このような視点が全くなくてよいのか。

吉田参事官:全くなくてよいということではないと思う。ただ、客観的な明確な基準で処分の強制を根拠付ける理由としては、年数という選択しかないのではないかということ。

八田主査:結局権利調整の問題。どこで境界線を引くかについて先験的には何もない。法律の内側から出てくる問題ではなく、国民が皆で考えて判断すべき政策的な問題。また、一般的にストックをいつ処分するかについて、通常は物理的な寿命はあまり考えず、経済的な寿命で考える。周りの環境がどうなるかとか、ある工場の製品が流行遅れの物になるとか、設備としては長生きしても使えなくなることがある。マンションも同じ。ある財産の今までの使用を止めるかどうかについては、基本的には年数ではなくて、経済的寿命の方が短い場合にはそれで決まるというのが、普通の経済活動である。そうすると、処分するかどうかを判断する時の主体として、学者、役人、法律家が外で決める必要はなく、持っている人が損得で決めるのが最善。5分の4というのは、少数者にとって随分有利だが、そこで5分の4が賛成すれば経済的寿命がそろそろ終わりだと判断しているのだろう。そういう観点から、我々はおそらく5分の4のみとするのが一番合理的だろうと思って、最大限尊重し検討してくれと言っている。そこに30年という普通のストックの処理とは関係ない、財産を持っている人にどうでもいい基準が入ってきており、政策的判断としておかしいのではないか。経済的寿命が物理的寿命よりも短い時には、物理的寿命は関係ない。

久米専門委員:付加的要件を付けることで建替え決議が成立しなくなり、それによって救われるというのは、どういう例が想定されるのか。

吉田参事官:反対している立場からしたら、30年経っていても足りない。30年という要件を付加しても、30年経つ前に財産権を奪われるか否かにしか結論の違いはなく、反対している人が救われることにはならない。

福井教授:しかし財産権の保護が理由ということと噛み合っていないのでは。要するに誰か得する人がいるならまだしもだが。

八代委員:ある夕刊紙によれば、地上げ屋がマンションの所有権の5分の4を買い取って、貧しい5分の1の老人を追い出すことができないようにすべきという論理があったが、これについてはどう考えるか。

吉田参事官:年数要件でそういう人が救われることにはなろう。

八代委員:少なくとも30年の規制があればそういう人達は助けられることになろう。しかし、バブル期と現在との環境の変化も重要であり、そうした懸念は少ないはずだが、審議会では地上げ屋対策という意見はなかったのか。

吉田参事官:そういうことを想定されている委員もいないことはないが、それを救うために年数要件を付けるという議論はなかった。

福井教授:私的自治なので、詐欺的あるいは脅迫的部分を阻止すればいい。それから久米先生の質問の続きでもあるが、物理的年数が金科玉条で経済的判断は無視されるという議論はわかったが、再建築費の2分の1というのは具体的にはどういう機能を果たすのか。まず、何で今建っているマンションと同じ広さ・仕様の物の再建築費なのか。次に、何で効用の方は考えないで、費用の方だけで判断しても合理的なのか。三つ目は、何で2分の1なのか。

吉田参事官:第一点については、乙案の問題点だという議論もあるが、年数と同じような性質の問題であり、維持に一定以上の費用がかかり、どこかで線を引かなければならない時にそれを具体化するという観点から考えたもの。

福井教授:2分の1の定量的、実証的論拠はあるのか。

吉田参事官:そこを超えたら建替えが合理的だとかいうようなものではない。

福井教授:普通マンションを建て替えると余裕容積を使うので面積は広くなる。同じ面積の物を建ててその再建築費を考慮する人を想定できるか。

吉田参事官:本来ならば、実際に建てる建物と比較するべきではないかという考え方はもちろんあると思う。

福井教授:実態認識として、今と同じ面積・仕様で建てる場合の再建築費を考慮する人を想定できるか。

吉田参事官:実態的には普通は実際に建てる建物と比較するだろう。

福井教授:実際に建てる建物の効用と費用を普通の人は考える。それと今住んでいる古いマンションの効用とメンテナンス費用とを併せた四つの要素をそれぞれ差し引きして考えると思う。それが我々が考える社会経済的な合理性。5分の4がそう考えた場合には、他の付加的要件で邪魔する理由はないと我々は考えるが、これについてはどう考えるか。

吉田参事官:判断の基準としては、指摘のような判断過程を経ることはあると思うが、結局話しとしてはそれだけでいいのかということに戻る。多数の人が合理的だと考えていることについて、不合理だとか権利の濫用だという事態が生じることを考えているのではなく、反対している立場の人、しかも区分所有権として所有権を取得している立場の人との関係で、強制的に権利を奪う根拠として客観的な基準が必要ではないかということである。

福井教授:そこでまた久米先生の質問に戻るが、ボロマンションの同じ面積・仕様の再建築費用の2分の1という要件で、5分の4が合意していても、なおかつこの要件を付けることで建替えを阻止する効果として、どのようなメリット、受益する人を想定しているのか。乙案を作って、これだけ大々的に宣伝している以上は、さぞかし論理的、実証的理由があるだろうと想像するが、乙案の網を被せたことで財産権がより保護されることになる人とかケースを具体的に教えてほしい。

吉田参事官:再建築費用と比較して2分の1という物凄い多額の維持修復費用がかかる事態になって初めて建替えが認められるということなので、反対者の立場からしても、相当保護されているということになる。

福井教授:何で再建築費の2分の1を超えるまで邪魔したらハッピーになるのか。

吉田参事官:どこまで邪魔してもいいということではなく、どこかで線を引くしかない問題である。

福井教授:どこかで線を引くというのもわからないでもないが、どこかで線を引く時に、事もあろうにボロで狭いマンションの再建築費の2分の1を基準にするという最も奇怪と思える案をわざわざ代表選手に挙げた理由を聞きたい。

吉田参事官:一つは積極的に提案として意見があった。

福井教授:誰の提案か。

吉田参事官:日弁連からの提案があった。また、米国のFEMAという災害復旧庁のようなところで建替え費用の補助の基準として使われている。

福井教授:それは財産権侵害法令ではないのではないか。

吉田参事官:もちろん違う。

八田主査:結局二つの権利の調整の問題。基本的には政策判断。線を引く場合に、多数決要件を変えて例えば10分の9にするとかならばわかる。しかし、年数や建築費の要件は別な線の引き方であり、それは実に無駄な基準ではないか。むしろ線を引くならば投票の割合で引くのはどうか。

福井教授:今追加的に取り寄せられた資料が配られたが、3月に議論した論点が全く出ていない。これで総合規制改革会議の議論をフェアに紹介したことになるのか。最大限尊重という意味はもっと重いもの。何でもっと丁寧に説明してもらえないのか。

吉田参事官:この資料は問題点しか挙げていないもの。当日は、これに加え3か年計画の内容も配布して説明している。

福井教授:皆さんが内在的に理解していなければ、代弁して説明できないのではないか。例えば、総合規制改革会議として法制審のメンバーに説明する機会や、我々以外にもいるこういう学説を唱える人のレクチャーを設けるとか、もう少し工夫としてもらいたい。怒られたからとりあえず出しましたというのではなく、内在的に受け止めてもらい、いい制度にするための建設的な意見交換の場をより積極的に設けてもらえばと思うが。

吉田参事官:議論としては、ほとんど2時間半、この論点についてずっとやった。賛成する意見と反対する意見がそれぞれ述べられるという審議がされた。

福井教授:どういう形で説明したのかまだ見せてもらっていないので、コメントのしようもない。具体的にどういう学説、提案を披露したのか。建設省のかつてのレポートや、久米教授のエコノミスト論文とかをフェアに披露したのか。

吉田参事官:それはしていない。

福井教授:そういう議論も重たく受け止めてもらい。一私人の学説ではなく、公的機関としてお願いしているので、もう少しきちんと扱ってほしい。

吉田参事官:例えば久米先生の論文を紹介するとかか。

福井教授:例えば、久米先生が説明する時間を20分でも30分でももらうとか、私も同席してもいいが、そのように総合規制改革会議サイドの意見をフェアに開陳させてもらい、疑問点があれば、むしろ法制審の委員から直接に受けて、より前向きのディスカッションができるということもあり得る。例えばそういうこともあり得るし、少なくとも久米先生の論文や、私も最近短いエッセイを書いているが、そういうものは配ってもらった方がいい。さらに96、7年頃の建設省住宅局のレポートにはこういう考え方がかなり明確に出ている。ある意味では、背景に分厚いものがあるのに、このような扱い方では寂しい。

八田主査:あるいは、今日の議事録でもいいかもしれない。我々は、要するに法務省として最大限尊重して議論をしてほしいと考えている。法務省として最大限尊重して取り上げていると感じられない。我々は、非常に重要な問題だと思っている。特にこれから建替えが進んでいく時に、これまでできたことができなくなるのは何としてでも避けたい。いろいろ立場はあるだろうが、最大限尊重ということを再確認してほしい。今福井先生が指摘した点も是非とも考慮してほしい。

福井教授:最大限尊重という手続論としてもう少し前向きにやってもらいたいというお願いが一つ。また、手続論を抜きにしても、今3月の時よりも大分議論が詰まったと思うが、単純な年数や再建築費というよりは、効用や、機能的なことや、当事者の意識等を全く無視することの不合理をある程度理解してもらえたと思う。もう少し中味の点でも、実質的議論として前向きに受け止めてもらいたい。一回できたら10年も20年も変わらない法律で、以降のマンション居住者みんなを拘束するのだから、実質的にハッピーな暮らしができるように知恵と力を貸してもらいたい。

吉田参事官:まだ実質議論が2回残っている。時間の関係もあるが、資料の配布等は考えられるので検討させてもらう。

福井教授:説明も。それから、法制審としての議論とは別に、法務大臣としての人格も閣議当事者としてはあることをくれぐれも認識願いたい。

久米専門委員:最後に質問をしたい。回答は後日紙でも口頭でも結構。先程、再建築費の2分の1等の線を設定することによって、反対者の立場を守ることが必要だということであった。例えば、再建築費の4割の補修費用しかかからないが、余剰容積があって物凄く良い建替えになることが考えられるため、99.9%の人が諸手を挙げて賛成しているが、一人の反対で建替えができないケースと、一方は、再建築費の6割の補修費用がかかるが、あまり条件がよくないため、かろうじて賛成が8割しかないが、一応多数決要件をクリアーするため2割の反対を押し切って建替えができるケースとがあったとする。この両ケースの比較は、どう考えても再建築費基準が反対者の権利保護に役立っていないと言える明白な例だと思われるが、如何か。

八田主査:5分の4のみでいければ、日本中で長いこと感謝されると思う。宜しくお願いしたい。

以上

(文責 総合規制改革会議事務室


内閣府 総合規制改革会議