高齢社会対策説明「高齢社会フォーラム・イン東京」
本多 則惠 内閣府高齢社会対策担当参事官
高齢社会対策を担当しております、内閣府参事官の本多と申します。今回このフォーラムでお話をさせていただくのも3回目になります。どうぞお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
今回は「高齢社会白書」の概要版に沿って説明をさせていただきます。今回は高齢者の社会的孤立をテーマにしていますが、まず基本的なデータから紹介します。
(「高齢社会白書(概要版)」参照。以下でカッコ内に示す図表番号は、白書概要版で示される図表番号)
I. 高齢化の状況
65歳以上の人口が総人口に占める割合(高齢化率)は、約4人に1人、正確にいうと22.7%です。75歳以上人口も10.8%にまで及んでいます(表1-1-1)。
今、人口推計は2055年まで出ていますが、2055年までいくと2.5人に1人が65歳以上で、4人に1人が75歳以上です(図1-1-4)。
これからどんどん高齢化が進んでいくのですが、65歳から74歳ではなく、75歳以上のいわゆる後期高齢者のところが増えていくのが、今後の高齢化になります。高齢化率が7%、14%ときて、日本はもう21%を超えて、超高齢社会とおっしゃる方もいますが、私どもでは本格的な高齢社会という言い方をしています。
4ページに、平均寿命の延びを書いています(図1-1-7)。
今の時点で男性が79.29、女性が86.05です。これが今後さらに延びて女性は90歳を超えるわけですが、では平均寿命の延びがここで止まるのかというと、そういうわけではなく、これは推計が2055年までしか出されていないのでここまでなのです。ただ、普通このカーブを見ていくと、これはさらに延びていくでしょう。樋口先生がおっしゃっていた人生100年時代も、推計上それに近い数字が出てくるのもそう遠くないと思っています。
その下に、社会保障給付費の動きを書いています(図1-1-11)。
棒グラフの全体が社会保障給付費で、その中で青い部分が高齢者関係の給付費です。これを見ると高齢者関係はどんどん増えてきているわけですが、2000年を過ぎたあたりから、国民所得に占める社会保障給付費が比率として24%ぐらいで横ばいになっています。このあたりから、社会保障給付の制限を意識的にやってきているのがお分かりいただけるかと思います。
5ページに、国際比較を書いています(図1-1-13)。
日本が2005年あたりから、高齢化率で断トツ世界一になっています。どうしてもこういうグラフを見ると日本だけに注目してしまうのですが、上のグラフで欧米を見ると、日本ほどではないにしろ、欧米各国もかなりのスピードで高齢化が進んでいくことは間違いないわけです。
欧州連合でも、高齢化の問題に非常に注目しています。まだ確定ではないのですが、2012年をヨーロピアン・イヤー・オブ・アクティブ・エイジング(ヨーロッパの高齢化年)と位置づけて、ヨーロッパ全体で高齢化の問題を考えるきっかけにすると聞いています。先駆けて高齢化している国として、日本モデルを輸出していこうという話もありましたが、まさにこの年に合わせて日本の経験を聞きたいので、日本の経験を話してくれないかというオファーも受けているところです。そこで胸をはって話せるような日本の施策なり、あるいは民間の取り組みをちゃんと作っていかないといけない。本当に注目されていると思う次第です。
II. 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向
1) 高齢者の家族と世帯の変化
6ページのグラフには、65歳以上の人がいる世帯の数の伸び、あるいは世帯の種類──三世代世帯なのか、一人暮らしなのか等──が書いてあります(図1-2-1-1)。
一番下のオレンジ色の部分が単独世帯です。最後の特集のところで孤立の話が出てきますが、先取りして言うと、想像できるように、一人暮らしの方は孤立しやすいです。ただ、今の高齢者のいる世帯の中では、単独世帯の方は実はまだ少数派なのです。一番多いのが高齢夫婦のみの世帯で約3割。一人暮らしの方は22%ぐらいです。意外と多いのが65歳以上の親と未婚の子のみの世帯で、2割弱います。こういった世帯は、以前は少なかったのですが、そこが増えてきていて、今の高齢者世帯の全体像は、多様な世帯類型が混ざっているという感じになっています。
未婚の子との同居世帯は増えているのですが、全体としては、子どもと一緒に暮らさない世帯は増えてきています。ここには挙げていませんが、国際比較の調査で見ると、一旦別居してしまうと子どもと接触する頻度は、日本はアメリカやドイツやフランスよりも低いというデータがあります。イメージとして、欧米は個人主義で、日本は家族とのつながりを大事にする社会ではないかと思っていたのですが、一旦別居してしまったら、接触頻度だけが親子関係を表すものではないのかもしれませんが、電話や会う回数は、日本は欧米よりも少ないのが実態です。
以上は世帯数で見たグラフですが、今度は人数ベースで見た一人暮らしの高齢者の変化です(図1-2-1-10)。
一人暮らしの女性の数は男性を上回り続けています。直近の2005年では、女性は19%が一人暮らし。それに対して男性は9.7%ですが、今後急増するのは男性の一人暮らしです。女性の一人暮らし比率にも迫る勢いで伸びていき、2030年では、大まかに言うと男女とも約2割は一人暮らしとなります。
一人暮らしが必ず悪いとも言えず、それはそれでライフスタイルとしてあると思います。
ただ、下のグラフ(図1-2-1-11)を見ると、単独世帯の方は他の世帯に比べて多少、心配事を抱えている、そういったものを感じやすい状態にあるということも言えると思います。
2) 高齢者の経済状況
続いて、高齢者の経済状況を紹介しています。
高齢者世帯は、1人当たりで計算をすると、全世帯平均の所得とあまり差はなく、全世帯の平均は1人当たり207万円ですが、高齢者世帯では192万円です(表1-2-2-2)。所得の内訳を円グラフで見ると、高齢者の6割は年金だけで所得を得ています(図1-2-2-3)。
世帯主の年齢別に1年間の支出額を見ると、29歳までが高いのですが、その次に高いのが実は60代です(図1-2-2-5)。
これは、30代・40代は子どもも同居していて、世帯の人数が多いこともあるかと思います。
また支出の状況を見るのに、人数が多いほど共通経費が省けるわけなので、単純に平均するのがいいかどうかもあるのですが、試しに単純に平均の人数で割ってみると、60代・70代は案外、支出額が低くないことがお分かりいただけると思います。
その下のグラフは、貯蓄の分布を見たものです(図1-2-2-7)。
高齢者で4,000万円以上の貯蓄を持っている方は17%いて、世代の中での格差が大きいのが高齢者の特徴と言えるかと思います。そういう羨ましい高齢者の方も多いのですが、一方で忘れてはいけないのが、生活保護を受けている方の割合も高齢者が高いことです(図1-2-2-9)。
全人口の平均では1.20%ですが、65歳以上では2.28%です。しかも、少しずつですが、その割合が上がっています。
3) 高齢者と健康・福祉
11ページには、要介護等認定を受けている方の数の推移を書いています(図1-2-3-10)。
制度ができて以来、どんどん増えていることがお分かりいただけると思います。
その下の表では要介護の方の比率を書いています(表1-2-3-11)。
これを見ると、74歳までで要介護の認定を受けている方は3.1%で、これはかなり低い数字だと思います。その一方で、75歳以上になると21.6%です。やはりこの年齢をはさんで状況が相当変化すると言えます。
次のページは、どういう方が介護をしているかを書いたものです(図1-2-3-15)。
要介護者からみた主な介護者の続柄を見ると、まず同居の家族が6割です。その中で配偶者が一番多くて25%、次いで子ども、子どもの配偶者です。これを括って性別で見ると、7割は女性がやっています。年齢別で見ると、男性でも女性でも、すでに60歳以上の方が介護者の過半数で、いわゆる老老介護のケースが相当多くなっていると言えると思います。
その下に、最近、介護離職──介護のために仕事を辞めてしまう方の存在も問題になってきているので、介護を理由に離職をした方の数字を拾ってみました(図1-2-3-16)。
これを見ると、一番新しいデータで、1年間に14万4,800人が家族の介護や看護を理由に離職・転職をしています。その約8割は女性なのですが、男性も2万5,600人と、少なからぬ方が離職・転職を余儀なくされています。
4) 高齢者の就業
13ページは高齢者の就業関係です。今、高齢者の雇用については政策的に、定年年齢や継続雇用の年齢を65歳まで段階的に延ばしていくことで進めています。長期的にはその効果が出て、60代前半の就業率はかなり上がってきています。ただ、足元では景気が悪いせいで少し下がっています(図1-2-4-7)。
高齢者雇用は進んでいるのですが、今、政策的に進めているのは、企業が定年を65歳まで引き上げるか、あるいは継続雇用・再雇用をする制度です。
今の制度では、全員を再雇用・継続雇用しなさいとまでは言っていないので、中には継続雇用されない方もいます。ただ、それでは先々、年金とのすき間が空いてしまうかもしれないので、そこをどうしようかという議論が、これから進展していくのではないかと思います。
5) 高齢者の社会参加活動
14ページは、社会活動の関係です。これは後ほど関係のものが出てくるので省きます。
15ページに、コラムの抜粋を書いています。ここでは男性介護者の活動について取り上げてみました。介護をする人のネットワークは、女性を主体としたネットワークは以前からあったのですが、最近の動きとして、男性介護者が中心の集まりがいくつか出てきています。それを全国でつなげるチャレンジが行なわれて、平成21年3月に、男性介護者と支援者の全国ネットワークが立ち上げられました。これは立命館大学の津止先生がやっていらっしゃいます。ネットワークをするにも、男性介護者の会の数自体がまだまだ少ないと思うのです。ただ、今の段階ですでに『男性介護体験記』を発行して、152人の男性介護者の体験を集めています。
このネットワークを立ち上げた津止先生のお話を、私も一度伺ったことがあります。意外だったのは、こういう運動をやっていらっしゃる方は、特に我々役人に対してはまずその制度・政策をこういう風にしてほしいと要望するのが通常なのですが、津止先生はそういうことをほとんどおっしゃらない。男性介護者は一番何を希望しているのかとお聞きすると、「まず自分の話を聞いてほしい。それが男性介護者の一番の願いです」とおっしゃるのです。こういったネットワークなり介護者の会で、お互い話を聞き合うこともしていらっしゃいます。
津止先生から言われたのは、男性が介護をする立場になった時、予期せずそういう立場を迎える方がほとんどで、それがショックを大きくしていて、なかなか頭を切り替えて介護に取り組むことができないでいる。まず男性も自分がいつかは介護をすることがあるかもしれないという、イメージトレーニングではないのですが、そういった経験をすることが大事で、そのためにも現に介護をされている男性の話を男性が聞くのがいいのではないか。例えば企業でやる退職準備のセミナーで男性介護者を呼んで、話を聞く機会を作れないかという提案をいただきました。それを聞くまでそういうニーズがあると思わなかったので、目から鱗が落ちる思いがしました。
III. 高齢者の社会的孤立と地域社会
次の第3節が、今回の特集の「高齢者の社会的孤立と地域社会」です。
社会的孤立についての情報は、例えばNHKが「無縁社会」という特集を組むなど、かなり注目されてきていると思います。そういった問題提起は色々な所でされていて、それはそれで非常に重要だと思います。ただ、この「白書」では、ただの問題提起で終わりたくないと思い、その気持ちを副題に込めました。~「孤立」から「つながり」、そして「支え合い」へ~です。暗い話が多いのですが、最後には何かしら今後の希望を持っていただけるようなものにしたい、という気持ちを込めて作りました。
1) 社会的孤立に陥りやすい高齢者の特徴
まず前半の「暗い編」です。
この「白書」を作ることを念頭に置きながら、内閣府でいくつか調査をしました。高齢者の生活実態に関する調査がメインです。そこで孤立をしているかどうかの状況を調べようと思ったのですが、何を尺度にしたらいいのかと思ったのです。
1つは会話の頻度。もう1つは困った時に頼れる人がいるかどうか。もう1つは友人や近所との付き合い。この3つをとりあえず尺度として調べてみようと思いました。
そうしたところ、かなりはっきりした傾向が見られたのではないかと思います。
まず男性の一人暮らしの方の4割が、週に2、3回、あるいはそれ以下しか話をされていないという状況です(図1-3-1)。
余談になりますが、私はフランスに留学していたことがあります。語学が本当にできなかったので日常会話がなく、まさに週に2、3回しか人と話をしない状況がしばらく続いたことがありました。役所が嫌で留学したようなところがあったのですが、行ってみて初めて「役所は実は温かい、いい所だったな」と思うぐらい、会話ができないのは人の気持ちを弱くすると思いました。
ですから、そういう方が4割もいる男性の一人暮らしの方は本当に心配です。おしゃべりな女性でも一人暮らしになってしまうと、3割の方が会話の頻度が相当少なくなります。あとは健康状態の良くない方、あるいは離婚を経験した方や未婚の方も会話が少ないです。
もう1つ心配なのは、暮らし向きが苦しい方です。大変苦しいという方の中では、2割ぐらいの方が会話の頻度が少ないということになっています。
その下のグラフ、頼れる人がいない人の割合も大体似たような傾向です(図1-3-2)。
これも男性の一人暮らしが突出していて、24.4%が頼れる人がいません。
それから暮らし向きが苦しい方です。本来は頼れる人が必要な方ですが、頼れる人がいません。未婚の方も2割ぐらいです。
次に友人との付き合いです(図1-3-3)。
家族がいないと、逆に友人との付き合いは自由にしやすいというメリットがあるといいと思うのですが、このグラフを見る限りそれは逆で、むしろ家族がいない方は友人との付き合いも少ないという結果になっています。
その下のグラフは近所との付き合いですが、一人暮らしの男性の2割は近所付き合いがほとんどなく、未婚の方もそういう方が多くなっています(図1-3-4)。
家族関係と友人関係と地域関係は、持っている人はすべて持っていて、残念ながら、ない人はすべてないという傾向が、ここから見られると思います。
2) 高齢者の社会的孤立の背景
高齢者全体としては比較的状況は悪くありません。その1つの要因としてあるのは、今の高齢者の方は離婚したり未婚で過ごした方が数としては少ないということです。全体で3,398人に調査をしていて、その中で未婚の方は94人だけです。離別の方は141人でした。そういう経験のある方は孤立しがちなのですが、全体ではまだ少数なのです。
ただ、今後についてはどうか。17ページに、婚姻率が下がっているグラフ、あるいは離婚が急増しているグラフを入れていますが、今の高齢者の孤立問題は実はほんのまだ序の口で、今の未婚・離婚の増加を考えると、これからまさにこの部分は深刻化していくと思います(図1-3-5、図1-3-6)。
これから子どものいない方、まして孫のいない方はどんどん増えていきますが、そこでは1960年生まれで、生涯子どもがいないであろう人は18%なのです。ここからさらに30年下の1990年生まれの世代は、子どものいない人が37%になるだろうと言われています。さらに孫のいない人が半分ぐらいになるということで、血縁の家族を持たない形がどんどん増えていくので、それに伴って孤立の問題も深刻化する恐れがかなりあります。
今の高齢者が孤立している要因として考えられるのは、1つは雇用労働者化、いわゆるサラリーマン化が進行したことです。自営業や農業に比べて、どうしても近所との付き合いが希薄になりがちです。今の高齢者の方は相当サラリーマン化が進んだ世代なので、それが1つの要因です。
もう1つは、逆説的ですが、生活の利便性が向上したことです。昔であれば、家族なり地域に頼らないと冠婚葬祭をはじめ日常生活がままならなかったのですが、今はコンビニエンスストアもあり、色々なサービスもあります。身近にいる、若い特に独身の男性に聞くと、地域の近隣は誰も知らないし、コンビニと職場と家の往復だけで暮らしているという人も結構います。それで成り立っているうちはいいのですが、いざ困った時に、市場で買えないもの、お金で買えないものについては何も手に入れられない、という状況が生まれてくるわけです。それも孤立の要因になっていると思います。
もう1つ重要だと思うのは、暮らし向きと社会経済的境遇です。先程、暮らし向きが苦しい人は、友人付き合いをしていない人や頼れる人がいない人が多いというデータがありました。付き合いをするにもお金がいるのかもしれませんし、高齢期になって今お金がないから、といった要因もないとは言いませんが、これはおそらく今お金があるかどうかということよりも、高齢になるまでの間で安定した職業や家庭に恵まれずに、それが高齢期に至った時の暮らし向きの悪さと孤立と両方の問題を生んでいるのではないかと思っています。暮らし向きが苦しくて人付き合いがないのだから、では所得保障をすればいいかと言うと、そんな単純な問題ではないと思われます。
3) 高齢者の社会的孤立が生み出す問題
では孤立がなぜ問題なのかということです。
1人のほうが好きだ、人付き合いは好きではないという方も多いので、孤立を100%問題視するのは抵抗のある方もいるかと思います。それは全くその通りです。価値観は人それぞれなので、孤立、即、悪いこととは思いません。ただ全体で見ると、やはり孤立している方、人付き合いがない方は、寂しい生活や他の問題が生じている事を示しています。
18ページの下のグラフは、近所付き合いをしている方とか友人がいる方のほうが、生きがいを感じている割合が高いということを示しています(図1-3-7)。
もちろん友人がいなくても近所付き合いをしていなくても生きがいを感じている方もいるので、人それぞれですが、確率的にいうと、付き合っている方のほうが生きがいを感じていると言えます。
19ページの上のグラフは、国際比較です(図1-3-8)。
60歳以上の方がどういう時に生きがいを感じるかを聞いたものです。これも先程の子どもとの接触頻度ではないのですが、意外な気がしました。子どもや孫など家族との団らんの時に生きがいを感じている人、友人や知人と食事や雑談をしている時に生きがいを感じる人が、日本は他の国に比べて少ない。若い世代と交流している時を挙げた方も少ない。
もう1つ、他人から感謝された時に生きがいを感じる人も日本は少ないのです。ただ、お隣の韓国もあまり多くありません。多いのはアメリカ、ドイツで、4割ぐらいの方が他人から感謝された時が生きがいだと言っています。日本はこれが極めて少なくて、少し寂しい気持ちのするデータです。
その次に、孤立死のデータを挙げています(図1-3-9)。
孤立死については大雑把に言うと、看取られずに一人で亡くなって、その後しばらく発見されずにいた状態というぐらいが共通している認識ではないかと思いますが、特にどこかで正式に定義をされてはいないし、全国を調べたデータもありません。
ここでは入手可能なものとして、死因が分からない死体の検死をしている東京都の監察医務院のデータを掲載しています。
東京23区内で、自宅で亡くなった65歳以上の一人暮らしの方の数は、平成20年では2,211人となっています。もしかすると一人暮らしでも誰かに看取られていた可能性はありますが、お一人で亡くなっていた可能性も高い数字ではないかと思います。
その右のグラフは、都市再生機構(UR機構)の賃貸住宅での孤立死の発生状況です。両方のデータとも絶対的な数字は限られたものなので、これでどうしたというわけではないのですが、どちらからも言えるのは、孤立死が増えているということです。UR住宅は年齢別に見ていますが、意外な感じがしたのは、孤独死で発見される65歳未満の方も実は結構いるのです。そういった孤立死の問題もあります。
20ページには、高齢者による犯罪の増加のデータを挙げています(図1-3-10)。
高齢者と犯罪というと、どちらかというと被害者としての高齢者が問題になることが多いのですが、実は高齢者による犯罪が増えています。
平成11年から20年にかけて、検挙された人数が約3倍になっています。
これは高齢者が増えれば当然増えるだろうと思われるかもしれませんが、高齢者人口に犯罪者が占める比率で見ても増えていて、比率も2.3倍になっています。
全体として見ると軽い犯罪が多いのですが、再犯に注目すると、再犯した人ほど単身暮らし、あるいは他に係累がない人が多くなっていて、社会的な孤立が犯罪を繰り返す要因の1つとなっていると言えるかと思います(図1-3-11、図1-3-12)。
下のグラフは、高齢者が被害を受けるほうで、消費契約のトラブルです(図1-3-13)。
これは消費生活センターで相談を受けたものですが、振り込め詐欺、オレオレ詐欺は消費生活センターではなくて警察に行く場合が多いと思うので、これは物の売り買いがメインです。
これを見ると、訪問販売や電話勧誘販売の被害が多いです。これが孤立とどう関係するかというと、色々な事例を見ていると、いらない物を次々買わされたり、脅しまがいで買わされています。こうした被害は身近に相談できる方がいれば防げるものが多いのではないかと思われるので、孤立から発生する問題として挙げています。
4) 「孤立」から「つながり」、そして「支え合い」へと向かう取組
こういった状況に対して、どういう取組をしていったらいいのでしょうか。
孤立死の問題も契機として、すでに自治体では見守りなどの事業を始めています。今回の「白書」では、そういった施策・対応を網羅的に把握するところまではできていません。むしろそういった取組を進める上で、何をポイントにしてやったらいいかということに絞って紹介しています。
1つ目のポイントは、元気な高齢者に孤立した高齢者の支え手になっていただくことです。
これも調査をしています。60歳以上の方に、高齢者世帯に何か手助けをしているか、これから手助けをしたいと思うかと聞いてみました。そうすると、今手助けをしている方は29%でしたが、今後手助けをしたいという方が8割いらっしゃいました(図1-3-14)。
実際には今手助けまでできていなくても、やりたいという気持ちがある方が8割もいらっしゃる。ここは今後活用すべき資源だと思います。この気持ちを行動につなげていくような所が必要です。気持ちを持っていれば、困っている人が目の前に来た時にそのまま行動に結びつくかというと、なかなかそうはいかないと思うのです。そこは何かしら背中を押してくれるものなり、取り組みやすい場なりが必要だと思います。
そこで2つの例を紹介しているのが、22ページのコラムです。
コラム3が、さわやか福祉財団でやっているインストラクターの研修です。地域活動をやっていくには、自分で1からやるのは大変だけれども、信頼できる人やよく知っている人の活動のお手伝いから始めるのであれば、敷居は相当低くなると思うのです。まさに引っ張っていく立場の人を育てるのがインストラクター養成研修の目的ではないかと私どもは理解しています。具体的な仕組みとしては、実際に地域でボランティアやNPOを立ち上げた方たちで、さらに他の団体の支援もしていきたいという意欲のある方を集めて、必要な研修をして団体の活動を支援できるリーダーを生めば、その1つの団体だけではなく、その地域で団体をどんどん増やしていけるわけです。インストラクターの数自体は現在174人で多くはないのですが、その方たちが次々とそういう団体を生み出していける金の卵ということで、そのコアな部分の研修を財団でしていらっしゃるのです。研修では、現場の経験をしてもらうとか、あるいは自分の団体のことだけではなく、行政との対話や他の団体を見てもらう機会を設けます。一度研修をして終わりではなく、その後にフォローアップの機会も設けています。非常にきめ細かな研修の仕組みになっていると思いました。
コラム4は、地域通貨の取組です。これもさわやか福祉財団が取り組んでいらっしゃいます。地域通貨はご存知の方も多いと思います。地域で支え合いや助け合いをする際に、その地域で通用するチケットやポイントのような仕組みを作って、きっかけを作ろうということです。通貨を広めること自体が目的というよりも、支えてほしいというニーズを誰が持っていて、支えられる力のある人は誰か。それを表面化させるためのきっかけであると理解しています。そういった取組も全国でかなり広まっています。ここでは秩父の商店街の取組を紹介しています。
2つ目のポイントとして、人との「つながり」を持てる機会づくりを挙げています。
これはいきなり支え合うところまでいかなくても、特に引きこもっている高齢者の方も多いので、まずは人と接触のある場所に出てきていただく。それが支え合いにつながる端緒になるだろうということです。
そこでコラム5で「居場所」づくり、コラム6で自治体の見守り活動を紹介しています。「居場所」については、今回の『さぁ、言おう』の8ページから、京都で行なわれた「ふれあいの居場所普及サミット」の話が出ています。先程の堀田先生の話にも出てきた、女性ばかりで男性に元気がなかったというものです。これを見ていただくと具体的なイメージがわくと思います。
男性に元気がないという話がありましたが、私はインストラクターの方たちが集まった場所に一度伺ったことがあり、そこでインストラクターの元気な女性たちに「ご主人はこの活動についてどうか」と聞いたところ、旦那様がその活動を非常に応援してくれていると、ニコニコしながらおっしゃっていました。実は去年、このフォーラムを福岡でやった時にエイジレスの表章をやって、そこで配食サービスをやっている方を表章したのです。女性の方でしたが、表章が終わった後お話をしていたら、「うちは主人が全然理解がない。お前はうちのことをやらないで外の年寄りの世話をするのかと非協力だった。それがこの表章のお話があって、お前もちょっとはいいことやっていたのかもしれないな、と言ってくれた」と、涙ながらに感謝の言葉をくださいました。男性はいきなり支え合うところまでいかなくても、支え合いの活動をやっている奥さんをにこやかに送り出すとか、少なくとも邪魔をしない。銃後の妻ではないけれども、支え合いをする女性を支える夫も、まずは第1歩として「あり」なのかな、と思っている次第です。
「居場所」については、3つのタイプを紹介しています。1つ目が、横浜の「ふらっとステーション・ドリーム」です。ここの島津さんは今日の午後の分科会でお話をしていただけると思います。ここにもおじゃましました。ここは空き店舗を利用して、毎日やっています。1人でフラッと来て、もしかしたら少し認知症も入っていらっしゃるのかなというお年寄りが、周りのお話をニコニコして聞きながら400円のランチを食べていらっしゃった姿が非常に印象的でした。毎日オープンのカフェタイプの「居場所」があります。また、特に食事を出すわけではないのですが、場所があってお茶を飲めるという、流山の例があります。もっと気軽に始められるタイプのものです。それから社協が全国で「ふれあい・いきいきサロン」という名称でやっていますが、毎日ではなくて週に1回とか月に1、2回とか日を決めて集まるタイプもあります。これは取り組む側としてもやりやすいと思います。こういった所でふれ合う中で、実はあの人はこんなに支えてほしいというニーズがあるのだ、ということも伝わってくると思います。
コラム6では、日野市がやっている見守りの活動を紹介しています。
今回、「支え合い」ということで地域の互助をかなり強調したのですが、1つ忘れてはいけないのは、孤立している高齢者の中には、本当に経済的に困っている方、あるいはごみ屋敷に引きこもっているなど、社会生活上の相当な困難を抱えている方もいらっしゃることです。何でもかんでも民間ボランティアで対応できるかというと、そうではない。難しいケースには行政や専門家も対応しないといけません。
3つ目のポイントとしては、民と官の「協働」によるネットワークを挙げています。地域によって役割分担も変わってきますが、それぞれのネットワークで考えていくことが重要と思っています。
IV. 平成22年度の高齢社会対策
駆け足になりますが、施策の中でも、孤立に関係した部分のみ簡単に紹介します。
30ページに、市町村地域包括ケア推進事業とあります。地域包括ケアの研究会報告が出ましたが、これをまずモデル事業の形で進めようというものです。
まず介護保険の外の、地域生活を支えるためのサービスや見守り活動のネットワークを支援する事業を、全国50カ所でモデル事業的に立ち上げます。このコアになるのが地域包括支援センターになります。併せて、集合住宅で24時間365日対応の窓口を設置するモデル事業もやっています。ここが、地域包括支援センターが核になった部分です。
もう少しボランティア・メインなところが、地域福祉等推進特別支援事業です。これはまさに互助の仕組みをやってもらおうということです。ただ、地域主権の時代でもあり、やり方自体は自治体で考えていただくというモデル事業です。1つ特徴的なのが、財源の確保も地域でいろいろ考えてみよう。募金をするとか寄付の仕組みを設けて、それで互助を恒常的に進められる仕組みを考えよう、ということをここでやっています。
地域包括ケアの関係については、ここではモデル事業なのですが、介護保険の第5期の計画が2012年から始まります。それに向けた検討が厚生労働省の審議会で始まっています。そこでも、介護保険制度そのものと併せて、それとセットになる地域包括ケアの議論もされます。そちらでの議論を期待したいと思っています。
社会的孤立をテーマにして、どちらかというと役所のほうが後追いになっているかもしれませんが、民と官で何かしなければいけないという問題意識は非常に高まっていると思います。ここに今日お集まりの方は、地域でリーダー役になっていける皆様だと思います。今後の皆様方のご活躍を祈念いたしまして、私の話とさせていただきます。
どうもありがとうございました。
午後の分科会にもぜひご参加いただきますよう、お願いいたします。