第二分科会「高齢社会フォーラム・イン東京」
「高齢者の地域活動と情報の在り方」
升田 忠昭
高齢社会NGO連携協議会 理事
(N)グローバルスカイ 理事長
〔趣旨・目的〕
第二分科会のテーマは「高齢者の地域活動とその情報の在り方」です。高齢者に関する報道は日々あふれるほどあり、NPOの活動についても多々報道されていますが、高齢者に関するNPO等の地域活動についての情報量は極めて少ないのが現状です。この分科会では、高齢者による高齢者のための地域活動と、その活動の情報の発信の在り方、そしてその活動の情報を提供するメディアの立場の3点から、その現状と問題点、将来への模索を皆さまと考えてみたいと思います。
まず3名のパネリストの方々からそれぞれのテーマで30分ほどプレゼンテーションをして頂きます。その後15分の休憩をはさみ、皆様との意見交換に入りますので活発なご意見、ご質問を宜しくお願い致します。
〔パネリスト〕
- 浄園 潤 (東京都江戸川区福祉部すこやか熟年課課長)
- 太田敦子 (NHK報道局生活情報部記者)
- 堀内正範 (元朝日新聞社「知恵蔵」編集長、地域支え合い活動家)
〔記録者〕
- 横山理恵子 (元「高齢社会」誌 編集者)
■第一部 「パネリストより提言」
◆江戸川区の特徴:浄園 潤
「高齢者」は「熟年者」であり生涯現役
まず、江戸川区の紹介をさせていただきます。江戸川区では高齢者の方を"熟年者"と称しています。これは昭和50年代に当時の中里区長が提唱したことに始まります。人生に熟達し、これまでの時代を築いてこられたことに敬意を表すとともに、かつ生涯現役であるとのイメージを含んでおり、江戸川区ではすっかり定着しています。私が所管する「すこやか熟年課」は、これから紹介する「くすのきクラブ」への支援をはじめ、介護保険制度以外の種々の施策を実施しています。
ユニークな施策のひとつに家賃の差額助成があります。これはアパートの建て替え等の事情で転居せざるを得なくなった熟年者が、できるだけ住みなれた地域で暮らし続けられるように、転居先の家賃との差額を助成していくというものです。また、日常生活動作に支援を要する熟年者が在宅生活を維持するために住宅改造をする場合、調査のうえ必要であるとの判断に至れば、介護保険制度の住宅改修費を超える額の支援も行ったりしています。
現在、江戸川区の人口は外国の方を合わせると68万人を超え、平均年齢は41.7歳と若い区ですが、65歳以上の熟年者も約12万人になります。14歳以下の人口は約95,000人で、これは人数も人口割合も23区で1位であり、区の大きな特徴のひとつです。
○こころ強い情報伝達のパートナー
熟年世代と行政をつなぐ会員2万人の「くすのきクラブ」
「くすのきクラブ」連合会は、昭和33年に発足し、現在206クラブで約2万名の熟年者が活動されている団体です。教養、趣味、健康保持、ボランティア活動、子供の登下校の見守り、外出困難な熟年者への友愛訪問など、幅広く活動されています。
私どもは毎月、約30名からなる役員会と、206クラブの会長が一堂に介する定例会を行い、必要な区政情報や熟年者の暮らしに必要なさまざまな情報提供、例えば「オレオレ詐欺」など、直接、消費者センターの所長が、直近の具体事例をもとに情報提供と注意を喚起するとともに、情報の共有化が行われています。定例会に参加した206クラブの会長はそれぞれ地元に帰り、各情報を会員の皆さまに周知します。つまり2万人の会員の皆さまに短期間に情報が伝達され、活かされる仕組みが機能しています。
熟年者が元気であることは、本人はもとより、家族にとっても幸せなことであり、元気で生活していること自体が、社会貢献につながっていると考えています。
「くすのきクラブ」の代表的な活動のひとつに、昭和55年から続いている「リズム運動」があり、生きがい、健康づくりに多いに役立っています。各会場には、リズム運動を指導するリズム指導員がいます。その指導員の方々とも毎月打合せを行い、各会場に参加されている熟年者の方々に指導員を通じて必要な情報を提供しています。このリズム運動は、くすのきクラブだけでなく自主活動団体もあり、そこでも指導員から、同様の情報が提供されています。
熟年者の活動のイメージをお持ちいただくために、何枚かの写真を持参しました。「リズム運動大会」の様子です。普段は別々の203会場で行っているリズム運動を、2会場に集まり実施します。毎年、各会場は2,000名を超える参加者で活気に満ちあふれ交流の場となります。くすのきクラブ定例会の様子と「さわやか体育祭」の様子です。この写真は、千人を超える熟年者が大合唱している「合唱祭」の様子で、三度の入れ替えが行われ実施されているものです。
また、就労を通じた生きがいの場である「熟年人材センター」も支援しています。江戸川区は全国に先駆けて昭和50年に高齢者事業団を設立しました。現在、会員は3,700名、90歳を超えて仕事をしている方もいます。年間契約額は11億円に達します。また、趣味、教養を通じた生きがいの機会の場を提供する「カルチャーセンター」は拠点が6箇所あり、106教室、2,500名の方が学び、そのほか自主活動している330教室、6,500名の方々が学ばれております。
○個性豊かな団塊世代の注目を集める江戸川総合人生大学
「くすのきクラブ」の世代より少し年齢が若くなるかも知れませんが、「江戸川総合人生大学」があります。これは「共育・協働」という理念のもと、当初から地域貢献を目指し地域を学ぶことを基本に、さらに学んだことを地域で実践していこうと、平成16年に開校されたものです。
地域デザイン学部、人生科学部からなり、まちづくり、国際交流、子供支援、介護・福祉などについて学びます。学長は北野大さん、NHK元解説員の村田幸子さんらが教授をつとめています。
定員100名で2年間学びます。すでに卒業生による29グループが、地域活動を展開しています。また、区のボランティアセンターでは、環境や福祉など様々な分野の約230団体が登録されており、ホームページで自由に閲覧が可能です。地域活動に参加したい方々が、これらの情報をもとに自身の活動に繋がればと期待をしています。
◆報道の持つ二つのやくわり:大田 敦子
孤立化する声なき高齢者を代弁し、状況を改善する
社会における高齢者の役割を正当に評価し、積極的に伝える
昨年もこの席でお話をさせて頂いたせいかお見かけした方も多く嬉しく思います。
私が所属しているNHKの生活情報部は、生活者の視点から情報を発信するため3年前に発足したもので既存の部署の中では一番多く高齢者に関するニュース、情報を出しているところだと思います。例えば、先日国際フォーラムで行われた「オヤノコト・エキスポ」という、高齢者とその子供世代を対象にした展示会や、話題のiPad が文字の拡大や自分のペースに合わせた使い方ができることで中高年に人気があるとか、高齢者の熱中症になった際の対処などを取り上げました。
○急増する1人暮らしの高齢者
この1年関心を持ち続けているのは急増する1人暮らしの高齢者をどう支えていくかということです。今年4月に10年を迎えた介護保険を振り返る企画を朝のニュース番組で取り上げました。この10年で3世代同居が減り高齢所帯が急増し、65歳以上に占める1人暮らしの割合は15%、10年後には15.5%になると予想されています。400万人から530万人に増えるのです。同居家族がいることを前提として制度設計されている介護保険が、この状況ではどうなるのかという問題に直面しています。
品川区の80代の1人暮らしの女性を取材しましたが、認知症を発症していることに周囲も本人も気づかないまま、消費者被害に再三会ったことで、消費者センターから地域包括センターにようやく繋がったケースでした。その女性は社協と成年後見人がついたことで、今では自立した生活が出来るまでになりましたが、ここで浮かび上がったのは介護保険は申請方式であるため本人や周囲が働きかけなければ辿り着かないという現実です。後見人制度についても同様です。いかに速やかに発見し地域のサービスに結びつけ、暮らし続けられるようにしていくかが課題です。
去年新宿の戸山団地を取材した際に1500所帯にアンケート調査を行いました。その中から色々な明るい動きも出てきています。NPOや自治体が、ひきこもりを防ぐために開いた「カフェ」の数も増え、孤独死などに繋がらないよう、特に男性の1人暮らしを対象にした「集う場」も出来てきました。
市民後見人制度については東京大学と筑波大学で大規模な育成プロジェクトを行っており2年間で900人近い受講生が1年のカリキュラムで学びます。受講される方の平均年齢は60歳位、退職された方、子育ての終わった方と様々で中には80代の方も。非常に熱心で自分たちより年齢が高い認知症の方を支援していこうという気持ちで活動されており心強い思いがしました。
○新しいライフスタイルの出現
仲間の記者が取材したもので興味深かったものは今の低成長時代の中で若い人を支える高齢者役割についてです。今や共働きは当たり前ですが、不況で更に増え続け保育所も不足している事態の中で、高齢者が孫の育児をする、子育ての一時期を担うというケースが増えています。時代の変化の中で生じた、自分達が経験した子育てと今の時代の子育ての常識との差、その違いを埋める「孫育て教室」が人気だそうです。
また、「近居」といって収入の伸びが期待できない若い世代が、親世代と同居はしないが親の近くで暮らすという現象の増加です。保育所が見つからなければ実家に預け、買い物時には、ちゃっかり援助してもらうなど、お互いプライベートを確保しつつ適度な距離を保つ。子の世代からは子育て支援、経済的支援を期待、親世代は精神的な支え、安心感を得るという住み方・暮らし方です。
千代田区では近居をする子育て世代に月々最大8万円の補助をし、これまでに300所帯が移り住み、お祭りなどの地域活動に変化が見え始めているそうです。このような支援制度は北区や大阪でも広がっていて新しいライフスタイルと呼べるかも知れません。
このように高齢者に関する報道には2つの役割があり、ひとつは孤立し情報の発信手段がない方の声を伝え状況を改善すること、ひきこもりの人達を突き放さずその背景、要因を探し問題点を明るみに出し本人の権利を守るということです。認知症300万人の時代も遠くないからには、より報道機関としての目を配っていかなければと考えています。
また同時に、高齢者とその高齢社会をエンパワーメントし勇気づける。高齢者の役割を正当に評価し積極的に伝えていくことです。孫育て、近居は既に経済行動の中に組み込まれているように思いますし、少子化時代の労働力として正当に評価されるべきです。但し、正当な評価というのはシルバー人材センターなどにおいてもそうですが、必ずしも金銭的な対価の問題ではないと認識しておくべきだと思います。
○地域に根付いた活動団体は基調な情報源
報道機関が今後どうあるべきかを考えると、NHKの場合、高齢者に関する話題は概して非常に反応が良いのですが、視聴者モニターの意見などから、高齢者だけでなく40-50歳代の子世代の関心も高いことが窺えます。高齢者のいる家庭で役立つリアルタイムの情報が求められているのですが、実際に現場を取材する記者自体の年齢が非常に若く、このような若い記者がどうやってリアルタイムな高齢者情報を出していかというのが課題です。そのためには、より多くの情報源を持ち、自身がステレオタイプに陥らないことだと思います。私は、去年このセミナーに参加したことがきっかけで様々な地域活動をされているNPOの方々と出会い、新たな取材へと繋がってシニア世代の知恵に触れた思いで報道に役立てることができました。
報道機関も皆様からの現場の情報を欲しているのだと知っておいて頂きたいと思います。
◆地域社会に貢献する:堀内 正範
情報も、人材もプールできる地域シニア大学校
今日の第二分科会では、高齢社会のまだ見定めえないところをどうやっていったらいいかを考えたり、積極果敢に討論していければと思います。今この時期に、地域社会に参画して活性化させようという高齢者の活動が、各地で泉の眼のように噴き出してきています。それを情報としてどう横に繋いでいくのかがこれからの問題です。簡単なことではありませんし、慌てずにコツコツと作業を続ける我慢も少なからず必要です。サッカーのサポーターのように大人数で集まることも大事ですが、水玉模様のように、あそこでもここでも活動しているという事実が重なっていくというのも知識や活動のあり方です。情報が集まって響き合うまでにはもう少し時間を要すると思います。
○「2世代+α型」ではなく「3世代同等型」の社会の実現を
皆さん「高齢者」「高齢社会」というキーワードにはそれぞれのイメージをお持ちだと思います。「高齢者」については65歳以上とすぐ思いつくのは国際基準がそうだからで、一般的には50歳から、55、60、70、75歳からというような色々な「から付き」の基準もあります。私はあまり狭く絞らずに50歳からを考えています。30歳、40歳代のコミュニティから少しずれ始め、長い高齢期を考えるバトンゾーンの時期にあります。高齢準備期にあるこの人々を含めると、約5000万人が高齢者側のコミュニティにいることになります。この5000万の人々が暮らしやすい「モノ、場所、しくみ」を考え、積み上げていくことが新しい高齢社会に向かっている証です。
「青少年」「中年」「高年」の3つの世代が同等に、暮らしやすい「モノと場所としくみ」が各地域にバランスよく存在しているのが高齢社会の姿であり、そこに向かっているのが安心できる社会です。「3世代同等型」の社会にしていくのは高齢者自身で、女性はその意味でよくやっているのですが、男性の方がどうして良いのかわからないという状況が各地で見られる。そこをどうクリアするかという大きな問題があります。
我が国では、医療、介護、福祉などの「社会保障」については、財政難のなかでも力を入れてきています。が、このままでは、高齢世代をαとする「2世代+α型」の社会であり、負担は増え続けます。今後は7、8割もの健常な高齢者みんなが参画して社会を活性化していく「3世代同等型」の社会にすることで、経済も財政も強くする。「強い高齢社会」の形成こそが国難を救う力だといえると思います。
情報には人に関すること、物に関することの両方がありますが、先程、親のことを子供が考える視点に立ったイベントの話が出ましたが、高齢者向けに考えられた新しい物を開発するのは大事なことですし、それを展示するフェアなどもこれからの課題だと思います。
○創立40年、兵庫県「いなみ野学園」の優れた特徴
人に関するもので、皆さんと考えてみたいのは、公立の「地域シニア大学校」についてです。
江戸川区ではすでに総合人生大学という名前で実施しているようですが、まだ差があって、大体のところは生涯学習講座とかシルバー人材センターなどで情報をプールしている段階です。一歩進んで自治体あるいは官民共同で大学校を設立して、そこに地域の高齢者、定年を迎えた人など、もっと地域のこと高齢期に必要な知識を学びたい人が集まって学生となり、3年あるいは4年のカリキュラムで勉強して地域に根付いた活動をする。人に関することのほか、物やサービスに関する情報を全てプールできる場として「地域シニア大学校」が一番いい形ではないかと考えています。
私が調べた中で最も優れていると思う学校が兵庫県の「いなみ野学園」です。県レベルの学校で満60歳以上の県在住者が学生となる。年間の費用は入学時6千円、授業料として2万4千円。4年間学ぶことになります。その上に2年制大学院がある。1969年創立で40年の歴史があり、2万人の卒業生が県内で色々な活動をしている。1999年の国際高齢者年には独自に「いなみ野宣言」を出しています。高連協の前身が「高齢者憲章」を出しましたが、おそらく他にはないことだと思います。「いなみ野学園」の何が優れているのかというと、その4つの専門講座にあります。
・健康福祉学科―健常な高齢者がもっている興味と暮らし方に含めて福祉も組み込む。卒業生は健常な高齢者として体の弱い仲間たちとの交流、ボランテイア活動にも積極的に参加する。
・文化学科―郷土の歴史、伝統、文化を守りながら勉強するので、卒業生はそれぞれの地元の伝統や歴史を研究し守っていくようになる。
・園芸学科―自分の庭の草花、果樹について学ぶことに始まり、隣近所、公園など緑のまちづくりに繋がっていく。卒業生が多くなるほど街の緑が大事にされるようになる。
・陶芸学科―手作り技術が得意な人たちが実作をしたり関係する意匠の集積にあたっている。
それぞれの講座を取った人たちは60歳からの友人を得て、新しい同窓生という関係が続く。個人には高年期の豊かな人生を、一方で自治体には町づくりの人材が増えることになる。教養講座やクラブ活動も充実している。年間30回の120時間、4年間で卒業となります。
○フロントランナーとして、次世代に残してやろうという思いで
情報をどのように作り、どう伝えていくのかはそれぞれにポジションがあり難しい部分があると思いますが、フロントランナーである自分達がやっていることは新しいことであり、そういう立場にあることを十分に認識しておかなければいけないと思います。
世代間での問題というのが必ず出てくるのですが、その場合は先輩として「自分が木陰で憩うことのない木を植える」という言葉にあるように、次に来る世代に残しておいてやろうという思い、願いを込めながらやっていくのがいいのではないか、そうすれば若い人たちも納得し、先輩がやってくれていることへの理解に辿り着くようになるのだと考えています。
■第二部 「質疑応答」
【男性】私は「いなみ野学園」の講師をしていたので懐かしく拝聴しました。75歳を過ぎてあと4-5年の間に何ができるだろうかと不安を感じています。団塊世代についても価値観や人間関係がよく理解できず、どう付き合ったらいいものか。今やデジタル化・ITの時代で、様々な情報がインターネットで手に入りますが、果たして高齢者は活用出来ているだろうか。テレビや新聞は、高齢者の怒りを代弁し、高齢者の人権を守る報道をして欲しい。
【男性】私は63歳で全国介護者支援協議会の会長をしていますが、本当に情報を欲しい人、老人会などに出てこない人などに、どのように情報を流したらいいかと悩んでいます。今後はコミュニティFMなども活用して高齢者の地域活動についての情報を伝えていくつもりです。先日、北海道の赤平市で電動カーの安全運転講習をやりましたが、NHKの地元の記者に来てもらいその日のうちに地域で放送することができました。大都市圏と違って、地方だとこういう対応もできるのだと実感しました。
【浄園】江戸川区では「FMえどがわ」や「ケーブルテレビ」などで、地域活動関連の情報も流されています。区の広報紙(月3回)は、20万部以上が発行され、地域活動に関する記事の掲載もありますが、見落とされてしまうことも考えられ、情報提供には、今後も力を入れて行きたいと思います。
【太田】地方局にはローカル放送の枠がありますが、全国放送になるとなかなか難しく限られた枠の奪い合いとなり、いかに効果的に出すか、何故取り上げるかのニュース性やテーマ性を考慮する必要がある。せっかく取材しても紹介しきれないことも多々ある。その分放送した際の反響も大きいので選りすぐったことで得られる効果もあり、皆さんからの情報をどう伝えるかよく考えなければと思います。
【男性】高齢者を活性化する手段として、まず、シルバー大学校などの学校に行くことだと思います。レベルが高くなくても普通の科目と体操と音楽があれば良い。全員が入れる形で江戸川のように行政と民間と受益者が応分に負担するという構成にすれば、そこから積極的に高齢社会に参画する人も出てくるし、色々なパターンができあがると思います。
【男性】世田谷老人大学の17期生です。大学は社会、文化などの5コースで2年間です。寝たきり老人をつくらないよう体操と授業を、午前午後組み合わせています。卒業後も2年間学び、その後は仲間で集り先生に講義をお願いする自主授業を15年程続けました。
【堀内】いずれにしてもシニア大学校にはいろんな人材と情報がプールされ、そこに行けば色々な情報があり、横にも繋がっていくということは確かです。
【男性】85歳になる世田谷大学の卒業生です。友人のひとりは卒業生仲間をとりまとめています。
【男性】NPO「シニア大楽」を主催しています。様々な分野のシニア講師500名を登録し、各地に供給しています。最近感じるのは、これまで行政側で行ってきたことが民間に移行されてきているということです。ただ、民間人がコアになると、広域にわたるイベントなどの際、人集めの問題がありマスメディアに頼らざるを得ないのですが、首都圏のメディアは大き過ぎる。シニアは新聞を読むので高齢者専用ページを設けてもらえれば、媒体の活性化にもなると思います。
【女性】1933年生まれの後期高齢者で、社会福祉法人で理事長と施設長をしています。厚木市の「輝き厚木塾」をご紹介します。私は太極拳の生徒として参加し1年間通えたら初級試験を受けるつもりです。他にも俳句やちぎり絵など、いろいろな講座があります。
すべてワンコインの受講料で、まず1カ月勉強し、気に入れば続けるというシステムです。大きな特徴は受講生を高齢者に限っていないことで、20代の生徒も一緒に世代を超えて学ぶ素晴らしさがあります。
【男性】江戸川区の場合を知りたいのですが、職員の方がボランティア活動をされている事例はあるのでしょうか。今後、アクティブシニアのボランティアなど、社会参加が増える中で、公共の立場の方も共に参加されるとより盛り上がるようになると思うのですが。
【浄園】その通りですね。江戸川区では、環境活動や緑のまちづくりに参加したり、町・自治会の役員をしていたりとか、地域活動に参加している職員が存在しています。私は良いことだと思っています。
【男性】入間市から来ました。地域の活性化については行政側から働きかける事と、市民サイドからやっていく事とがあると思います。このバランスをとることが重要だと思いますが、世の中の流れが速く行政が追いつけない部分がでてきているので、その分、民間のボトムアップをしっかりしていかなければならない、地域に問題意識をもつ人を集めなければならないと感じます。入間市には毎年リタイアした団塊世代が3千人戻ってきているので人材はあるはずですが、地域のアクティブメンバーがなかなか育たない。人材探しに注力するため「団塊元気サイト」を開設したり、フォーラムも開催したのですが、100名くらい集まったものの活動に残ったのは僅か2-3人。このギャップをどう埋めるかが課題です。
【堀内】今のお話で関心をもったのは毎年多くの団塊世代が地元に戻ってくるということ。その人達が同じテーマで動き出したらこれは新しいものを作っていく人たちになり得ます。彼らが各自拠点をもって何かをやりだし中心になるような人が出てくると、幾つもの活動ができてくる。それに加えて入間市が、何かふるさとで第3のステージを作ってほしいというようなメッセージを広報から出せば、集まって来るのではと思います。
【男性】首都圏に通勤するのみで、地域に関心を持たなかった人たちが定年になって、住民としての自覚が持てるのかということです。これまで不義理をしていた地元に急になじめるかという問題です。そうなると、地域の枠にはめず、行政の枠も外して、同じ志をもった人が集まるのが良いのではと思います。
【男性】私は所沢に住んでいます。18年前に、小手指メンズフィットネスを、公民館の旗振りで始めました。地域に戻ってきた男性のために運動教室を始めたところ、仲間づくりに役立つことがわかり、メンズカレッジへと発展しました。15回くらいの講座が終了すると、その後はメンズクラブになり、テニスや囲碁などを楽しんでいます。クラブに入会できるのはメンズカレッジの卒業生としていますが、今では50名ほどに増えています。
【男性】地元の公民館に行ってみると、ダンス教室とか勉強会とかいつも満杯です。基本的には、地元に定着する意思があるかということで、生きがいをもって地域で生きていくという意識をもつことが大事なのではと思います。身近にできる活動から始めてみてはどうか。孤立化しないかたちでの仲間づくりが必要だと感じています。
【女性】墨田区の「てーねん・どすこい倶楽部」の会員で、セカンドステージセミナーを行っています。"100歳まで元気でいきいき暮らそう"というキャッチフレーズで、毎回150人くらいの人が参加します。年に4回行っています。
【男性】神奈川と東京の太極拳クラブの理事をやっています。65歳です。横浜の青葉区に住んでいます。非常に地域活動が盛んなところですが、女性の参加は多くても男性は100名中10人程度という状況です。「あおばみん」というネットを持って情報発信しているのですが、なかなか男性には届かない。女性と男性の興味のポテンシャルの違いなのか、男性も何らかの危機感は感じているはずですが、なかなか行動に移せないという気がします。
【男性】江東区の職員です。シニア世代の地域活動を後押しする仕事を2年間担当しています。地元の介護施設やボランテイア活動団体に協力して頂き、各種の地域活動を行っています。区報やホームページで参加者募集をしています。50-70歳代をターゲットにしているのですが、HPを見て応募してきたという人をほとんど見たことがありません。シニア世代に申込みをしてもらうにはどうしたら良いかメディア側からの意見を伺いたい。
【太田】私も教えて頂きたいくらいです。私達にとっても自治体が発信される情報は大事な情報源ですので、区報やHPなど常時チェックさせて頂いています。自治体側からの時宜を得た情報とか、タイムリーな動きがあると食いつく傾向にあります。実際に活動を取材した感想を言うと、男性リーダーが1人に他は全員女性というような団体が多く女性の方がメールなどの対応も早いですね。我々としても多くの人に見てもらいたいので、頂いた情報をこちらで更に加工して流しますので共闘して頑張るようにしましょう。
【男性】宇都宮市の職員です。市の取り組みとして「みやシニア」というシニアの相談窓口を設け、セカンドライフ支援講座も月2回行っています。男性には理性に訴えるような働きかけをすると反応が出やすいのではと思います。多数に呼び掛けるとういうより、一人ひとりに訴えるような気持ちで対応しています。といってもなかなか出席率が上がらないのが悩みですが、何とか地域デビューに結びつけようと努めています。
【浄園】シニア世代の地域デビューついて参考になる意見を多くいただきました。
江戸川区には「総合人生大学」で学び地域にデビューするという、ひとつのシステムがあります。地域に戻り、そこに根差して生きていきたいという気持を、具体的に活動に結び付けていく研究は、今後も続けていきたいと思っています。
【太田】メディアとして皆様のご期待に十分に応えられるような報道をしているのかというと難しい面もあるとは思いますが、こういう生の声を聞き、個々に引き合わせて頂くことで、高齢の方も誰もが生き生きと力を発揮できる社会、そのような望ましい社会の実現のために役立てていければと思っています。
【堀内】60歳から65歳を私は「平和団塊」と呼んでいます。昭和22-24年生まれが団塊世代と言われ約700万人ですが、昭和21年と25年を合わせると1000万人です。何故平和団塊と言うか。大正生まれのご両親が戦禍のあと、この子たちは平和な時代に生きて欲しいとの思いを託してきたからです。これは百年の大計です。戦後60年以上経ち、高齢期をきちんと迎えていなければ、父母の思いが通じたとはいえない。仕事をしていても、引退暮らしをしていても萎えないこと。萎えることがデフレーションです。デフレは経済だけではない。1000万の人々が力を落としてしまうとどんなに失うものが大きいか。何も大人数で集まらなくても、少人数のグル―プをいくつか持てばやがて力は重なってくる。今日発言の多かった団塊世代の方々に特にそう申し上げたいと思います。
【コーディネーターより】
ご出席の皆様方、パネリストの方々長時間ありがとうございました。熱のこもった意見交換ができました。本日のテーマである「高齢者の地域活動と情報の在り方」が現時点において、我々の、皆様の最大の関心事であることが理解できました。なおかつこのテーマはこの分科会で終わることなく、より一層皆様と一緒に研鑚しその結果を共有していくことが大事だとつくづく感じた次第です。今日は本当にご出席ありがとうございました。