第三分科会「高齢社会フォーラム・イン東京」
「少子高齢化社会におけるシニアの役割」
河合 和
高齢社会NGO連携協議会 理事
(財)シニアルネサンス財団 事務局長
〔当分科会の趣旨・進め方の説明〕
当フォーラムで分科会を主催するようになって、今年で十年になります。毎年、テーマは変わっていますが、一つの共通する底流がありました。それは「シニアの社会参画」というキーワードです。
午前中の講演にもありましたが、高齢化が進展する中で、孤立するシニアが増加しています。理屈の上では高齢者の社会参画が進めば、シニアの孤立は問題になりません。しかし現実には、社会参画する意志があってもなかなかうまくいかない、地域の輪の中に溶け込めないというシニアが大勢います。
どうすればシニアを地域社会に定着させることができるのでしょうか?そこで最近注目を集めているのが、学校という存在です。学校は教師と子供たちだけのものではありません。学校は地域の共有財産であり、地域コミュニティの中核となるポテンシャルを秘めています。
今回は、学校を活用して地域社会の再構築を実践している方々をパネラーとしてお招きしました。それらの実例を聞きながら、新しい地域社会のあり方や、シニアの関わり方などを探っていきたいと考えています。
最初に、千葉県で小学校の施設を活用して地域づくりを実践し、秋津モデルと呼ばれる仕組みを作り上げた岸さんのお話しをうかがいたいと思います。岸さんはデザイン広告会社を経営するかたわら、地元でコミュニティ作りに奔走。『中高年パワーが学校とまちを作る』(岩波書店)、『学校開放でまち育て』(学芸出版社)といった、コミュニティ作りに関する著作を多数出版しています。
〔パネリスト〕
- 岸 祐司 (学校と地域の融合教育研究会副会長、秋津コミュニティ顧問、埼玉大学・日本大学非常勤講師)
- 渡邊良光 (江戸川区 総務部職員課能力推進係)
- 榊原 誠 (川崎市立川中島小学校校長)
〔記録者〕
- 森 徹(ライター)
■各パネリストからの報告
◇学校開放でまち育て:岸 祐司
○秋津コミュニティの活動
最初に秋津コミュニティに関わるようになった経緯から説明します。 私には子供が3人いるのですが、長女が2歳だった30年前、都心から千葉県の秋津というところに引っ越しました。秋津は東京湾の埋め立て地にあり、まちができて今年で三十年になります。
まちの中心部にある秋津小学校は、30年前にまちの誕生とともに設立されました。私は娘が通っていた縁で、PTAに関わるようになり、7年間にわたって役員を務めました。
小学校区内の人口は7199人、内65歳以上1682人(2010年現在)、児童数352人、高齢化率23.4%のまちです。高齢化率は日本全体の平均より少し高いといったところです。ただ、30年前を調べてみますと65以上の方は64人しかいませんでした。つまり秋津というまちは、30年前に、30~40代だった団塊の世代が、新天地を求めてどっとやってきて出来上がったまちといえます。児童数も開校3年目がマキシマムで、それ以降は減少の一途をたどっています。できたばかりのまちも30年経てば、高齢化してしまうというわけです。
そこで1992年、高齢化社会に備えるため、秋津コミュニティという生涯学習を推進する団体を設立しました。さらに1995年には、学校や教育委員会の許可を得て、児童数の減った秋津小学校の空きスペース(秋津小学校コミュニティルーム)を利用するようになりました。学校の施設である教室や花壇、陶芸窯などを使ってさまざまなサークル活動を行ったのです。
現在、秋津コミュニティには工作クラブやパソコン倶楽部など約40のサークルがあり、日常的に生涯学習を実践しています。また、自分たちが学ぶだけでなく、児童たちに自ら経験を伝えるという活動もしています。開放スペースでは放課後や休日に世代間交流である「秋津・地域で遊ぼう!」という教室を自主運営。ほかにも公立小学校を使ったさまざまな授業外活動を行っています。
以上のような実績が認められ、秋津小学校は2006年に習志野市教育委員会から「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」の指定を受けました。これは千葉県では初のことでした。
○秋津コミュニティの特徴
活動中の秋津コミュニティの特徴をまとめると、下記のようになります。
①秋津小学校の授業に年間のべ2万人の住民が参画
秋津コミュニティでは、小学校の授業や行事にも積極的に参加しています。たとえば生活科の授業で「昔遊び」体験を指導したり、食育の一環として地域住民が児童と給食をともにしたり(仲良し給食)、落語(国語)、茶道(総合学習)といったプログラムも実施しています。地元住民であるシニアのもつ豊富な経験と知識を教育現場にフィードバックしているのです。
②秋津小学校コミュニティルームを年間のべ1万人が利用
秋津コミュニティでは、生涯学習の拠点として小学校を中心とした既存の公共施設を有効活用しています。
各サークルは放課後や休日も利用できる空き教室4室、敷地300平米、陶芸窯などを利用して積極的な活動を展開。体育館を利用した健康体操、教職員だけでは手の及ばない花壇の手入れなどを行っています。「秋津・地域で遊ぼう!」という趣旨で、「水彩画教室」「ビーズ教室」「ミサンガ教室」「科学教室」「工作教室」「うどん作り教室」などを開催しています。主に平日の活動は主婦が担当し、休日はお父さん方にがんばってもらっています。なかには日帰りハイキングを企画して、子どもたちを引率してくれるご夫婦もいます。
また、月に2回「サロンあきつ」と称して、小学校のコミュニティルームを地域のシニアに開放しています。もともとは地元の別施設にあったのですが、運営者の方から「人が集まらない」という悩みを聞き、それならば学校に設けてみてはどうかと提案しました。子供たちとふれあえるほうが、集まりやすいと思ったからです。予想通りサロンを学校内に移転すると、集まってくるシニアの数が増えるようになりました。さらにシニアの方たちも何かお返しをしたいということで、授業に参加したり、「お汁粉パーティ」を開いたりしてコミュニケーションを深めています。
一般に子供とシニアの交流というと、子供が歌を歌うといった一方通行的な慰問が多いのですが、秋津ではシニアの側もアクションを起こすことによって、双方向的な関係を構築しています。
③人つなぎは「子縁(こえん)」で推進
秋津コミュニティでは「子縁(こえん)」概念をベースとした地域作りをめざしています。核家族化が進展した現在、地縁・血縁は崩壊状態にあり、それに代わる新しい仕組み・概念が必要となってきます。地域には子を持つ親はもちろん、子供をもたない夫婦、または子供と同居していないシニアなど、さまざまな人がいます。「子縁(こえん)」とは、子供を媒介として、あらゆる人たちを結びつけようという考え方です。
学校は学校だけ、子育ては親だけ、地域のことは行政だけという縦割りでは、うまくいきません。秋津では、地域の住民と学校とを結びつけることによって、新しいネットワーク(子縁)を作り出しています。
④学校・教育委員会・住民みんながWin&Win
秋津コミュニティでは、Win&Winの関係を重視しています。学校、教育委員会、地域住民、それぞれにメリットがある活動にしようということです。私は広告デザイン会社を経営しているのですが、これはビジネスの世界では当たり前の考え方です。そのためには情報公開と説明責任といった透明性が求められます。
一部の人間にしかメリットがない、あるいは一部の人間にだけ過剰な負担がかかるというやり方では、活動は長続きしません。学校と地域住民にとって得るものがある、学社融合の発想こそが重要なのです。学校を利用するからといって、教職員に負担を押しつけるのではなく、例えばカギの管理は住民が自主的に行うというように、住民の側がうまくサポートしてあげることが必要かと思います。どうすることでみんなが幸せになれるのか。そのことをしっかり考えることが、良好なWin&Winの関係につながるのです。
○秋津コミュニティの成果 ふるさと意識の醸成
コミュニティの中心である秋津小学校で学んだ児童たちは、秋津に対してどのような意識をもっているのでしょうか。校区にある習志野市立第七中学校には、秋津小学校を含めた3つの小学校から生徒が集まっています。その第七中の生徒に対して調査を行ったところ、秋津小学校の卒業生と他の小学校の間に、特徴的な差異が認められました。
秋津小の出身者は他の生徒に比べ、卒業後も母校を訪れる回数が多かったのです。小学生時代にシニアや幼児(秋津小は幼稚園が併設されている)といった異世代と交流したことによって、ふるさと意識のようなものが醸成されたのではないでしょうか。
※修士論文『地域に開かれた学校における子供の環境認知』白百合女子大大学院生 滝瀬容子(当時)より。
さらに高校生に追跡調査を行ったところ、秋津小の卒業生は他の同世代の若者に比べ、「今の自分が好きだ」といった自尊意識やコミュニケーション能力が高いことが分かりました。「三つ子の魂百まで」ではないですが、世代間交流は児童の成長にとっても有益であると感じています。
それでは、父兄の側はコミュニティに対してどのような思いを抱いているのでしょうか。
※東洋英和女学院大学・香川芙美さんの卒業論文より抜粋。
Aさん「活動に参加しているうちに子供好きになったね。今では地域のスポーツクラブでよその子の世話をして楽しんでるよ。」
Bさん「コミュニティに参加するようになって、親子のふれあいが子供の人格をよい方向に育てるということに気づいたよ。子供にとって一番大事なのは大人とふれあう時間だね。」
以上のようにコミュニティの活動は、子供だけではなく「おやじ力の向上」にも寄与していることが分かります。地域の大人、シニア、家族、そして教職員。地域全体で学校を支えることにより、新たな関係性を向上させているのです。
○時代の変化を読み取ろう
マーケティングの手法を現代社会にあてはめると、地域社会の再生、生涯学習が必要であるということが分かってきます。平均的寿命が伸びた現在、日本人のライフスタイルは急激に変化しています。人生60年の時代であれば会社を退職し、子育てが一段落すれば、それで終わりでした。しかし長寿社会となった今、退職後にも膨大な時間が待ち受けています。現役時代から、退職後に地域で過ごすためのライフプランを考えておく必要があるのです。ですから積極的に子育てやPTA、子供会などに参加してみてください。早い段階から行事に参加すれば、地域にスムーズに溶け込むことができるはずです。
○実践するうえでのキーワード
最後に地域活動を行ううえで重要な4つのキーワードを提示しておきます。
①できる人が、できるときに、無理なく、楽しく!
多くの人はこの反対をやっているように思います。「できない人が、できないときに、無理して、楽しくない」と。だから子供が卒業したら、二度と学校とは関わりたくないという人が大多数になるのだと思います。
教職員の側も「休日になぜ出勤しなければならないのか」「自分だって子供がいるのだから自分の地域で活動したい」と考えているはずです。まずはお互いが状況をよく知り、どうすることがみんなにとってWin&Winになるのかということを考えるべきなのです。各自が負担を感じずに継続できる活動をめざしましょう。
②楽しくゆっくり"わたし流"に!
コミュニティ活動は、強制されてやるものではありません。自分なりに楽しみを見つけて、自分のペースで行うようにしましょう。
③自主・自立・自己管理
小学校のような公共施設を借りるときに重要な考え方です。秋津では自分たちで掃除をし、カギの管理も行っています。自主運営でなければ余分な行政費用がかかるし、先生たちの無休出勤を強制することにもなります。そして学校のカギを住民が預かることで、自治意識と「おらの学校」意識の向上を図っているのです。
④自助、共助、最後に公助のまち育て
実は0歳~14歳の人口と、まだまだ動けるシニア57歳~65歳の人口というのは、ほぼ同じぐらいで、どちらも約1700万人います。元気なシニアは、孫世代の子供に対して一対一で対応することができるのです。こうした人材を地域や学校の活性化に活かさない手はありません。子育ては学校といった縦割りの発想ではなく、学校作り・子育ち・まち育てを三位一体のものと考え、地域全体でサポートしましょう。
以上です、ありがとうございました。
コーディネーター:ありがとうございました。続いては江戸川区で江戸川人生総合大学を立ち上げました渡邊さんに、お話しいただきます。
◇江戸川総合人生大学の取り組み:渡邊 良光
○江戸川総合人生大学とは
みなさんこんにちは。江戸川区役所に勤務している渡邊と申します。私は区役所の職員ですが、本日は江戸川総合人生大学(以下総合人生大学)の立ち上げに関わったということで、ご指名を受けました。 総合人生大学は、平成16年、地域貢献を志す人を応援するため、江戸川区が設立した学びと実践の場で、さまざまな知識や経験を持った人たちが、年齢を超えて学ぶ市民大学のような存在です。大学という名前はついていますが、学校教育法等で定められた正規の大学ではありません。大学は下記の3つの理念に基づいて運営されています。
①「共育」「協働」の社会づくり
②「ボランティア立区」の推進
③「地域文化」の創造と継承
学長はテレビなどでもおなじみの北野大先生に努めていただいています。設立委員の頃からのメンバーで、総合人生大学の理念に共感していただき、引き続き学長に就任していただきました。
総合人生大学というのは、少し変わった名前のように思われますが、これは下記のような理念に由来があります。
①人生を通して学ぶことは有意義である。
②社会の役に立てる人生は素晴らしい。
③これまでの人生経験や知識を地域に活かす。
以上のような考えから、江戸川総合人生大学という名称がつけられました。地域住民がそれぞれの人生の中で得た知識や経験を、地域にフィードバックしてもらいたいという願いがこめられています。子育てを終えた方のもつ育児ノウハウ、退職されたサラリーマンのもつ専門知識。総合人生大学は、人生の節目で得られたものをうまく結びつけるために生まれた学校ともいえます。
○多様な学びのスタイル
総合人生大学は正規の大学ではありませんが、大学と同じ様な学部学科構成を有しています。
・地域デザイン学部
江戸川まちづくり学科(まちづくり)
国際コミュニティ学科(国際交流)
・人生科学部
子ども支援学科(子育て支援・地域教育)
介護・福祉学科(地域と高齢社会)
科構成は上記の通りで、各学科の定員は25名程度、2年制ですので合計で200名の学生が在籍しています。学習内容は、基礎的なことを学ぶための講義もありますが、体験学習やグループワーク、発表、イベントといった、その場にいなければ得ることのできない学びを重視しています。
また総合人生大学では、学生参加による大学運営というものをめざしています。もちろん行政もタッチはしていますが、できるだけ学生が主体となって運営できるようにしているのです。実際に学生による運営会議で意見交換を行い、クラス運営やカリキュラムなどを決めています。学生や卒業生の活躍を発信する情報誌『ひと あい えどがわ』も、学生の編集委員が作り定期的に発行。ほかにも学生が中心となって、大学祭などを開いています。こうした運営の経験も一つの学びであり、体験学習のような効果があると考えています。
ちなみに総合人生大学は有料で、年間3万円の授業料をいただいています。これは本学が、ボランティア活動を行いたいけれども知識がない、あるいは行動に移したいけれどきっかけがないという方々、要するに有料であっても学びたいという意志をもった方を対象にしているためです。あくまでも自発的なものであり、自分で必要なことを学び、できる範囲で地域に還元してくださいというシステムなのです。
○授業内容と成果
総合人生大学の開講日・時間帯は、平日の昼間が中心となっています。これは本学が勤労世代ではなく、退職者、あるいは子育てを終えた主婦の方々を対象にしているためです。
授業内容についてですが、学科ごとに大まかなカリキュラムは決まっていますが、これを学びなさいということを強制しているわけではありません。大枠の中で自発的に課題を見つけ、できる範囲で、できることを学んでもらう態勢をとっています。
まず1年次には、共通基礎科目、専門科目を学び、知識と経験を高めます。2年次は、ボランティア団体などで活動する社会活動体験を通して、課題認識と実践力を高めます。実際に活動を行うのはどうなのか? という意見をいただくこともありますが、実践的な活動を行わないと、学んだことも机上の空論に終わってしまいます。ですから本学では、フィールドワークや社会活動体験を重視しています。また、既存の団体で体験するだけでなく、授業をきっかけに新しい団体を立ち上げてはどうかと提案する場合もあります。
以上のようなカリキュラムの成果として、これまでに30以上のボランティア団体が生まれました。もちろん組織にはなじまないということで、個人で活動されている方もいますし、既存の団体に加入した方もいます。トータルでみれば卒業生の7割前後の方が、学習成果を活かしてボランティア活動に従事しています。
○総合人生大学の将来
総合人生大学は今年で6年目になりますが、まだまだ課題もたくさんあります。ただ、行政としては地元にニーズがある限り、続けていきたいと思っています。ボランティア活動に取り組む意志があっても、なかなかきっかけがつかめないという話を耳にします。総合人生大学という仕組みがあれば、そういった意志をもった人たちにとっても、いいきっかけになるのではないかと思っています。
コーディネーター:ありがとうございました。続きましては、地域との連携を実践している川崎市立川中島小学校の榊原校長に、コミュニティ・スクールの現状や課題についてお話ししていただきます。
◇川中島小学校の挑戦:榊原 誠
○学校紹介
みなさんこんにちは。川崎市立川中島小学校で校長をしている榊原と申します。モットーは「あ・た・ま」で、これは「明るく、楽しく、前向きに」の頭文字をつないだものです。私は学校の広報官でもあり、ゼネラルマネージャーでもあると思っています。一部では「群れることを嫌う変人校長」などとも呼ばれているようですが、とにかく明るく、楽しく、前向きにやっていきますので、今日はそのつもりで聞いてください。
川中島といいますと、古戦場で有名な長野の川中島を連想される方が多いのではないでしょうか。インターネットなどでも"川中島小学校"で検索すると、長野の川中島小学校が表示されるようです。しかし、最近は本校もHPの更新に力を入れているので、川崎市立川中島小学校も上位に表示されるはずです。
本校は平成18年度に川崎市初のコミュニティ・スクールとなり、今年で5年目を迎えました。以来、「参画・協働・共汗・共創」を合い言葉に、本日の議題でもある地域の活力を取り入れながら「子どもが主役」となる多彩な教育活動を推し進めてきました。
本校では年度の初めに、学校としての目標を策定します。いわゆるマニフェストのようなもので、それを学校運営協議会に承認していただくところから1年がスタートします。学校運営協議会は、地域の住民、保護者、学識経験者、児童などで構成されており、シニア世代から子供まで幅広い世代が委員として活動しています。教職員だけではなく、地域全体で学校の運営を考えていこうというわけです。もちろん立てた目標に関しては、期末ごとに達成できたかどうかを評価します。
○コミュニティ活動
地域との連携をめざす川中島小学校には、さまざまなコミュニティがあります。各コミュニティでは教職員と委員が中心になって少なくとも毎月1回、定例会と分科会を開催。もちろんシニアの方々にも活躍いただいています。
・子どもコミュニティ
本校の基本理念である「子どもが主役」を体現したコミュニティです。4~6年生で構成される子どもコミュニティ委員と大人のコミュニティ委員が会議を開き、子どもたちの要望を学校運営に反映させています。実際に子どもコミュニティの要望で実現したものもあります。
・情報発信コミュニティ
より多くの地域の人に学校を知ってもらうため、ホームページや掲示板などを活用。情報発信にも力を入れています。
・学び・創造コミュニティ
教育内容の充実を図るため、外国語活動、食育、緑化活動、映画制作など多岐にわたる活動を行っています。講師として中日ドラゴンズの井端弘和選手をお招きしたこともあります。また本校では、児童による本格的な映画制作にも力を入れており、宇宙飛行士の野口聡一さんが特別出演したこともあります。
・幼・保・小・中・高・大連携コミュニティ
地域には児童からシニアまであらゆる世代の人々が含まれています。我々はあらゆる世代と、あらゆる場面で連携したいと考えています。
近隣の幼稚園・保育園の園児が授業に参加、大学生によるダブルダッチの実演見学など、世代の違う学校とも交流を深めています。
・子どもの健康・安全コミュニティ
子どもたちが安心して学校生活を送れるよう、地域住民が力を合わせています。校区にある町内会のパトロールや子ども110番への協力など、地域全体で子どもを守るという意識が高まっています。おかげで以前は多かった防犯メールに配信される不審者情報も減少しました。
健康面では企業による食育出前授業や、朝食啓蒙活動などを実施しています。
・学校評価コミュニティ
地域の人たちの理解を得るためには、情報の開示と評価が大切だと考えます。期末ごとにとる学校評価は、貴重な教育への生の声ですから、それらを分析し学校運営に反映させています。
・ファンドコミュニティ
コミュニティ運営のため、活動資金を管理するファンドコミュニティを設置しています。バザーや運動会の飲料販売などで資金を調達し、講師への謝礼やボランティアの交通費などに活用しています。
○教育への参画が地域を元気にする
学校教育の中にシニアが入ってくるのは非常によいことです。子どもたちは地域で育てるべきだと思いますし、あらゆる世代の人たちに関わりを持って欲しいと願っています。
私たちがコミュニティ・スクールを作るときにまず考えたのは、子どもたちに自信をつけてもらおう、自尊意識や自己肯定感をもってもらおうということでした。実際、学校に幅広い人が集まることによって、子どもたちは自分への関心の高さを知り、自分たちの良さを発見していきました。
一方、教育に参画したシニアや異世代の人も、自分の知識や経験を伝えることで、充実感を味わうことができます。これこそまさに、先ほど岸さんのおっしゃったWin&Winの関係ではないでしょうか。
学校という場を利用しながら、地域のみなさんが一つの方向に向かい、子どもたちを育てていくという取り組みを続けていけば、シニアに限らず地域全体も元気になるはずです。
■質疑応答
【質問1】:三鷹市でNPO活動を行っている者です。地域の活動をする上で、資金面はどのようにしているのでしょうか? 行政からの援助もあるでしょうが、不足分はどうしているのでしょう。それからもう一点。学校長や教職員はだいたい数年単位で異動があると思います。地域に詳しくない人が異動してきた場合、どのように活動を継続すればよいのでしょうか?
【岸】:秋津小は、習志野市教育委員会がコミュニティ・スクールに指定したので行政からお金が払われます。年間約10万円ほどです。委員は地方公務員の特別職ということになっておりますので、会議に出席するたびに手当が付きます。
秋津小の場合、最初からコミュニティ・スクールをめざしていたわけではありません。指定を受ける前から、授業への参画、学校施設の開放等を行うことで、地域の生涯学習の拠点にしようと活動していました。指定を受ける前は、教育委員会から年間3万円の支給を受けるだけでした。たったの3万円です。ただ、活動中の水道光熱費に関しては、行政に負担してもらいました。
ではなぜ3万円で活動できたのか?「生涯学習は自分たちの利益になることなので、基本的には自分たちで金を出す」という考え方があったからです。自分たちの楽しみでやっているのですから、園芸にしろ陶芸にしろ、材料代などは全部参加者が負担します。学校の施設を借りているのだから、それが当たり前なのです。
また、我々は学校の下請けではありませんから、できる人が、できるときに無理なく、楽しく、という方針でやっています。しかし学校にとっては、授業等の予定もありますから、やりたいときだけ参画しますというのでは、都合が悪い場合もあります。そのためにサークルという形態をとっているのです。もし個人に頼るシステムだと、その人がいなくなってしまえば、活動自体が停止してしまいます。ところがサークルにしておけば、交代で代役を務めることが可能なため、活動を継続することができます。システムと組織があれば、個人になにかあっても問題はないのです。
質問にあったように、もし校長先生が異動になっても地域にシステムが残っていれば、活動を継続することができるはずです。
【榊原】:お金についてですが、川崎市からコミュニティ・スクールに対する援助金をいただいています。さらに特別非常勤講師、川崎市独自の給付金、自ら応募して獲得する助成金、民間の研究助成(論文提出)などのインカムがあります。
こうしたお金を何に使っているかというと、研究授業の講師代や謝礼に活用しています。もちろんボランティアでお願いできる部分もあるのですが、講師やプロの演奏家(琴や三味線の授業)を呼んだ場合には、それなりの謝金や交通費が必要となります。
【岸】:足として海外の情報を話したいと思います。イギリスでは学校理事会というのですが、日本と比較するとかなり踏み込んだ活動をしています。たとえば学生の理科のレベルが低かったとします。すると地域住民が資金を集めて、優秀な理科の教師を呼んでくるというようなことまでするのです。日本ではまだそんな発想は生まれていませんが、住民がそのぐらい深く教育に関わってもいいのです。
今まで学校の中だけで抱え込んでいた問題を、地域住民が一緒になって解決し、開かれた学校にすることによって、よりよい教育を構築しましょうということです。
【質問2】:江戸川区の実施している「すくすくすくーる」の現状と課題について教えてください。
【渡邊】:「すくすくすくーる」は平成15年に始まった事業で、全73カ所の小学校で実施しています。学童保育と学童クラブを統合したようなもので、学校の施設を利用した、放課後の子どもたちの居場所作り事業です。従来の学童クラブの場合は学年の制限がありましたが、「すくすくすくーる」に態勢を変えたとき、その枠組みを外しました。
「すくすくすくーる」の登録には一般と学童クラブの2種類があって、一般の場合は自由な学び場・遊び場として自己責任で利用していただきます。一方、学童クラブ登録(育成料がかかる)では、就労等によって放課後留守になる家庭の児童を預かっています。
「すくすくすくーる」になって、何が変わったかということですが、学校が開放されたことによって、市民の方が学校に入ってくるようになりました。また、教職員側も「放課後の第二の学校」ということで、積極的に協力してくれるようになりました。
地域の目が入ることで安全性も高まりますし、学校に関与したかったという住民の受け皿にもなります。「すくすくすくーる」で日本舞踊を教えているシニアの方は、「百人の孫ができたようだ」と喜んでいました。
現在、年間1万5千人のボランティアの方が関わっていて、制度の重要な担い手となっています。最初のうちは、反対の声もあったようですが、連携がうまくいったおかげで、地域で子どもを育てる仕組みができたと感じています。
【榊原】:川崎市では平成15年から、すべての公立小学校で、児童を対象にした放課後健全育成事業「わくわくプラザ」という仕組みをスタートさせました。学校内にある施設で、児童を預かっています。
【質問3】:PTAは形骸化していると思うのですが、その辺をどう考えますか? 地域と学校が連携するにあたって、それは問題にならないのでしょうか?
【榊原】:とかく対立的に語られがちですが、教員もPTAの中に含まれているのです。父兄も学校も、子どもを育てていく観点から見れば、お互いに手を携えるべき立場にあります。川中島小学校に関しては、PTAの方々も協力的でうまくいっていると思います。教員も人間ですから、あまり突き上げられるとまいってしまいます。地域全体で一緒に汗を流し、成果を共有するという考え方が大事ではないでしょうか。
【質問4】:パネラーのみなさんは、地域社会のシニアの方々をうまく引き込んでボランティアなどで活用していますが、どのようにして人を集め、確保しているのでしょうか?
【榊原】:学校のほうでも、どうやって引き込もうかということで頭を悩ませています。川中島小学校では、防犯パトロールや、生活科の授業で昔遊びというプログラムがあって、その講師としてシニアの方に来ていただいています。そうしたきっかけを大事にしながら、実績を積み重ね、現在につなげています。
シニアが学校に来て交流が深まれば、子どもたちと会話する機会が増えます。実は今の子どもたちは、学校の外で面識のない大人に声をかけられると逃げてしまいます。これは防犯上仕方のないことかもしれません。しかし、地域の大人が学校に入ることで面識ができれば、子どもたちも挨拶をするようになります。それによって大人たちも明るくなっていき、「学校に行けば楽しいよ」といったことが口コミで広がります。こうした輪を少しずつ広げていくことが、大切ではないでしょうか。
【渡邊】:多摩のほうで「お父さんお帰りなさいパーティ」をやって、約500人を集めたという話を聞いたことがあります。そこで江戸川総合人生大学でも、真似してやってみたのですが、結局10人ぐらいしか集まりませんでした。これは地域性もあるのですが、アピールの仕方にも問題があったのかなと考えています。単にPRするだけでは、あまり効果がないように思います。
総合人生大学でいえば、一期生の人に、こんなことをやっているから楽しいよと言ってもらう、あるいは実際の活動を見せて面白そうだと思ってもらう、そうしたやり方が効果的なのかなと考えています。
〔まとめ〕
【コーディネーター】:パネラーのみなさん、最後に一言ずつまとめの言葉をお願いします。
【岸】:子どもには、内発的に成長しようという力が備わっていますが、お母さん方は先回りして、なんでもしてあげようとします。ですから保護者の方には、できるだけ成長を見守って欲しいと言っています。“子育て”ではなく“子育ち”です。学校作りと子育ちをやっていれば、結果的にまちも育っていきます。
それから最後にひとつ。学校の先生は非常に多忙で大変な立場にあります。私たちは、学校と対立するのではなく、先生の応援団であり続けようと思っています。それが秋津コミュニティの一貫したスタンスです。
【渡邊】:シニアの方の持つ知識や経験は、まちにとって貴重な財産です。しかし、その財産をうまく地域に還元できていないという方も多くいます。そういった人にとって、江戸川総合人生大学のような仕組みは有用だと思います。ただ、仕組み作りは必ずしも行政だけがやることではありません。秋津コミュニティのように、地域住民の手で作り上げてもいいのです。ぜひ、みなさんの手で埋もれた人材を掘り起こして、活気ある地域を作ってください。
【榊原】:新しい一歩を踏み出せば、新しい出会いがあります。シニアのみなさんには常に新しいことにチャレンジしていって欲しいと思います。最近、子どもコミュニティでできたスローガンがあります。「笑顔、やる気、絆が深まる川っ子パワー」というものです。子どもたちは非常に素晴らしい力をもっているのだと実感しました。本日は長い時間ありがとうございました。