高齢社会対策説明「高齢社会フォーラム・イン東京」

小林 洋子
内閣府高齢社会対策担当参事官

小林参事官の写真

只今ご紹介いただきました、内閣府の参事官をしております小林でございます。本日はお暑い中、高齢社会フォーラムにご参加いただきまして、ありがとうございます。

私からは高齢社会対策の現状と課題について、「高齢社会白書」に沿って説明させていただきたいと思っております。

※資料『高齢社会対策の現状と課題~平成23年版高齢社会白書より~』

第1章 高齢化の状況

第1節 高齢化の状況

<高齢化の現状>

人口に占める65歳以上の割合は現在、23.1%で年々、上昇しています。総人口は減少時代に入っているのですが、平成21年から平成22年は若干増加しており、増加の大部分は65歳以上となっています。
高齢化の現状

<高齢化の推移と将来推計>

2055年には、総人口に占める65歳以上の割合が4割を超えることが予想されます。2.5人に1人が2055年には65歳以上になるということです。75歳以上も4人に1人という数字になっていくことが予想されています。
高齢化の推移と将来推計

<平均寿命の推移>

先ほど樋口先生から人生100年時代というお話がありましたが、厚生労働省「簡易生命表」によると、2009年においては、平均寿命は男性が79.59歳、女性が86.44歳になっています。2055年の推計では女性は90歳を超えています。これは平均値が90歳を超えるので、まさに100歳の人も元気でいられる社会になると思われます。
平均寿命の推移

<高齢化率の国際比較>

世界と比べた日本の高齢化率の状況です。左側が欧米、右側がアジアと比べたものです。
日本は世界のどの国も経験したことのない高齢社会となっており、お手本がない状況です。これからさらに高齢化率が高くなっていきますが、未曽有の事態であり、手探りで進んでいくしかないと考えております。
高齢化率の国際比較

第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向

<高齢者の世帯構造の推移>

まず家族状況がどうなっているかというグラフです。65歳以上のいる世帯はすでに4割を超えています。そのうち単独世帯と夫婦のみ世帯が過半数を占めています。以前は通常に見られた三世代同居は年々減少を続けており、2009年時点で17.5%です。
高齢者の世帯構造の推移

<一人暮らし高齢者数の将来推計>

一人暮らしの高齢者は非常に増えています。女性のほうが一人暮らしの比率は高いのですが、男性の一人暮らしが急速に伸びつつあります。
一人暮らし高齢者数の将来推計

<支出と貯蓄>

支出については、全世帯平均が年間122.3万円なので、高齢者世帯のほうが全世帯平均を上回っている状況です。貯蓄現在高の分布については、全世帯平均が1,638万円、65歳以上平均が2,305万円なので、平均値で見ますと、65歳以上の平均のほうが高くなっております。
支出と貯蓄

<所得と生活保護>

世帯人員一人当たり平均年間所得は、高齢者世帯が192.9万円、全世帯が208.4万円なので、大きな違いはないということです。生活保護の受給者の数は全体と65歳以上のいずれも伸びていますが、人口に占める生活保護受給者の割合は、平均の数字よりも高齢者の数字のほうが高くなっています。前述したように貯蓄は平均値で見ると高齢者は多いのですが、生活保護を受けるような状態になるリスクも高齢者が大きいと言えるでしょう。
所得と生活保護

<要介護者数>

高齢者の要介護者数は、介護保険法ができた当初の平成13年度は288万人だったのですが、平成20年度は452万人で、急速に増えている状況です。
要介護者数

<労働力人口>

労働力人口は、働いている人と失業している人を足した人数です。その労働力を見ると、平成21年から22年は減っていますが、65歳以上の労働力人口は微増しています。労働力人口に占める65歳以上の割合は増加し続けている状況です。
労働力人口

<グループ活動への参加割合>

先ほどは働くということでしたが、こちらのグラフは高齢者のグループ活動への参加割合です。何らかのグループ活動に参加している割合は、10年前と比較するとかなり伸びています。平成10年と平成20年で見ると、「参加したものがある」は平成10年は約44%でしたが、平成20年は約6割の方が「ある」としています。これは趣味の活動や運動も入っていますが、グループ活動をしている人は、昔と比べるとかなり増えています。
グループ活動への参加割合

<東日本大震災における高齢者の被害状況>

これは例年にはない数字ですが、今年の白書では、今回の東日本大震災における高齢者の被害状況を掲載しています。発生日から1カ月間に収容されたご遺体の検視等を終えて年齢が分かった方が1万1000人いらっしゃるのですが、この中で65.2%、約3分の2が60歳以上の方であったという数字です。
東日本大震災における高齢者の被害状況

第3節 地域における高齢者の「出番」と「活躍」

<1>社会的孤立の実態
今年の白書では、地域における高齢者の「出番」「活躍」について特集を組んでいます。

<会話の頻度>

一人暮らしの方は会話の頻度が少ない人が多いのですが、その傾向は特に男性に表れています。また、近所づきあいがほとんどない、親しい友だちがいないという人も、会話の頻度は比較的、少ない状況です。
会話の頻度

<困ったときに頼れる人がいない割合>

属性別に見ると、一人暮らしの男性は「頼れる人がいない」と答えている人が多く、近所づきあいがない人、親しい友人・仲間を持っていない人も同様です。これは先ほどと同じ傾向を示しています。
困ったときに頼れる人がいない割合

<地域のつながり>

全体を見ると「地域のつながりが必要だ」と思っている人は9割を超えていますが、実際に「自分が居住する地域ではつながりがある」と思っている人は77%です。地域のつながりを必要と思っている人と実際にそれを感じている人にはギャップが生じています。
都市規模別に見ると、都市規模が大きいほどギャップが大きく、町村部になると、差は縮まります。
地域のつながり

<2>国際比較調査で見る日本の高齢者の特徴
次に、昨年、内閣府で実施した国際比較調査の結果を紹介しています。調査対象は日本のほか、韓国、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの4か国です。

<会話の頻度>

ほとんど毎日、会話をしている人の割合は、日本は88.3%で、アメリカに次いで2番目に高くなっています。
会話の頻度

<困ったときに頼れる人の有無、友人の有無>

日本は、別居の家族や親族を挙げる人はほかの国と遜色ないのですが、友人や近所の人を挙げる割合がほかの国と比べると低い状況にあります。ただし、これは意識調査ですので、昔に比べて近所のつきあいが少なくなっていることが影響している、という見方もあります。なお、これは震災前に聞いたものです。
相談し合ったりお世話をし合うという、かなり濃密なおつきあいをしている親しい友だちの有無について、日本と韓国は「いない」と答えた人の割合が欧米に比べて高くなっております。特徴的なのは、欧米は同性と異性の両方の友人がいる人が多いのですが、日本と韓国は異性の友人がいる人はあまりいません。活動をするときも、同性でかたまることが多いと思われます。
困ったときに頼れる人の有無、友人の有無

<3>高齢者の社会的孤立を防止し、高齢者自身を「地域」の支え手に
社会的孤立にはどのような問題があるのか。ここでは4つの問題点を挙げています。

<生きがいの低下>

まず、社会的に孤立すると生きがいを感じられなくなるのではないか、ということです。
どういう人があまり感じていないか、というと、困ったときに頼れる人がいない人のうち、55%の人が「生きがいを感じていない」と言っています。
生きがいの低下

<高齢者の消費者被害>

2つ目の問題点としては、高齢者の消費者被害です。数は減ってきていますが、振り込め詐欺の被害者は6割以上が65歳以上です。孤立化を防ぐことで、消費者被害を防ぐことにもつながって行く、と考えております。
高齢者の消費者被害

<高齢者による犯罪>

初犯の人と再犯の人を比べると、再犯は単身者が占める割合が非常に高いことがわかります。白書に掲載している別のデータでは、再犯のほうが親族なども含めて人との接触機会の少ない割合が高い状況もあります。
高齢者による犯罪

<孤立死>

テレビ番組の「無縁社会」でも問題になりましたが、やはり孤立死は傾向としては増え続けているという気がしています。孤立死・孤独死を防止するためにも、地域のつながりがますます大事になっていくと考えております。
孤立死

<見守りや居場所づくりの事例>

見守りや居場所づくりの事例

  • 事例<1>は、足立区の「あんしんネットワーク事業」です。これは区民の「あんしん協力員」や、商店街、老人クラブ、新聞配達員などの「あんしん協力機関」が様子がおかしい身近な人を発見したときに地域包括支援センターに連絡をして、地域包括支援センターが民生委員(専門相談協力員)と協力しながら必要な支援を行なっている事例です。

  • 事例<2>は、新潟市の「うちの実家」です。有償の助け合い活動の事務所が、自然発生的に子どもから高齢者までいろいろな方の居場所となりました。それが発展して、常設型の地域の茶の間である「うちの実家」を開設した取組です。

  • 事例<3>は、静岡県袋井市の「もうひとつの家」です。時間通貨の取組を行なっています。「周(しゅう)」というカードがあり、自分が助けられたときに「ありがとう」と言って渡し、自分が助けたらもらうことができます。ありがとうの気持ちがカードで回っていくので通貨という表現になっています。この「周」があることで、困ったときに気兼ねなく頼むことができます。この取組は全国40カ所以上にあると聞いております。

  • 事例<4>は、秋田県鹿角市の「谷内高砂会」です。老人クラブが運営しておりまして、高齢者の組織体が高齢者を支えている1つの例です。月1回、一人暮らしの高齢者などに声をかけて昼食会を開催しています。欠席した人には電話で安否確認をしています。また、子どもが訪問して三世代で過ごす取組もしています。

<高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を促進している事例>

高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を促進している事例

  • 事例<1>は、全国で実施されている介護支援ボランティア制度で、ここでは横浜市の「ヨコハマいきいきポイント」を取り上げています。高齢者が介護支援のボランティアに参加すると、活動時間に応じて換金可能なポイントが付与される制度です。

  • 事例<2>は、町田市の「たがやす」です。農家が担い手不足なのでそこに援農ボランティアを派遣して、そのボランティアが草むしりや種まきをすると若干の謝礼と収穫した野菜をもらえます。特徴的なのは、ボランティア会員100人のうち男性が7割であることです。ほかのボランティアの事例を聞くと、「女性はたくさん来るけれど男性はなかなか来てくれなくて」というところが多かったのですが、ここの援農ボランティアは男性のほうが多いということです。

  • 事例<3>は、子育て支援ボランティアです。女性を中心とした活動で、宮城県岩沼市の「岩沼市生活学校」を取り上げています。放課後対策事業に参加して、放課後に学習アドバイスや季節行事を行なっています。また、子どもの安全や救命方法を学んで活動に生かしています。

  • 事例<4>も学校関係で、連雀学園三鷹市立第四小学校のコミュニティスクールです。課外活動の指導にあたるボランティアが、高齢者を中心に活躍しています。

<今後の取組の方向性>

以上のような事例も踏まえて、今後どのような取組が望ましいかをまとめております。
今後の取組の方向性

 「ア 取組主体の多様化」では、見守りや居場所づくりもそうですが、従来、自治会や町内会や老人クラブは活躍していましたが、それにプラス、市民団体、NPO団体、地元企業などいろいろな主体に参加してほしいということを書いています。

 「イ 多世代交流の促進」では、先ほど、いろいろな年代の人が集(つど)っている事例を紹介しましたが、若い人が数十年後の地域のあり方を考えるきっかけ、自分たちの将来を考えるきっかけになるので、いろいろな年代の人が集う取組が望ましいと考えています。

 「ウ 有償の仕組みを含めたきっかけづくり」については、樋口先生からも、応分の仕事をして応分の報酬をというお話がありました。ボランティア活動、社会参加活動をする際の1つのきっかけづくりとして、無償もいいと思うのですが、有償の仕組みも可能性としてあり得るのではないかと思っています。

 最後に、「エ 男性による活動の促進」です。現場からは、「社会参加活動はなかなか男性が来なくて」といったお話も聞いております。先ほど、孤立化の状況のところで、一人暮らし世帯が増えることを申し上げましたが、地域から孤立する危険性は男性のほうが高い、と思っております。男性が参加できる活動にはどういうものがあるのか。ボランティア活動は目的がはっきりしているので、参加しやすいのではないかと思われます。男性が参加意向のある分野は、地域の環境美化活動、町内会の役員、伝統文化、交通安全・犯罪防止等です。先ほど同性の友だちが多いという話をしました。ぜひ、今日ご参加の、特に男性の方は、そういった様々な活動に友人を引っ張ってくださるとありがたい、と思っております。

コラム

<コラム>

コラムも数点書いております。先ほど樋口先生から、高齢者は災害弱者というだけではないというお話がありました。コラム<7>は、まさに東日本大震災の被災地で活躍されている高齢者を取り上げています。今日の第3分科会のパネリスト、あかねグループさんの活動も紹介しております。

第2章 高齢社会対策の実施の状況

最後に、高齢社会対策の実施の状況です。22年度と23年度でどのような対策をしているか、簡単に紹介させていただきます。

<平成22年度 高齢社会対策の実施の状況(主な取組)>

主な取組はここに記載された通りですが、社会保障改革については、政府・与党社会保障改革検討本部で議論を始めたということを書いております。
年金については、持続可能で安定的な公的年金制度の確立として、年金確保支援法案について記載しています。
それから地域の支え合いによる生活支援の推進です。これはまさに地域独自の取組を応援しようというものです。高齢者の地域社会における課題の解決に向けて取組む自治体に、支援を実施しています。一人暮らし世帯等が地域で安心して暮らせるよう、見守り活動への支援を行なう事業もあります。これは、23年度も引き続き実施している事業です。
平成22年度 高齢社会対策の実施の状況(主な取組)

<平成23年度の高齢社会対策>

平成23年度の高齢社会対策

  • 1つ目は、社会保障改革の推進です。検討を始めたということを平成22年度に書いておりましたが、23年度は、閣議決定にしたがって、検討を進めています。6月30日に社会保障・税一体改革成案が決定しましたが、この成案では、自助と共助と公助のバランスに留意して、国民1人1人が「居場所」「出番」を持って日本の社会を支えていくという理念が書かれています。また、社会保険を、共助の一環として強化していくことも書かれています。それから「新しい公共」にも触れられています。先ほど堀田先生からもお話がありましたが、地域の支え合いについては、新しい公共としてまさに皆様方に期待するところが大きいと思います。

  • 2つ目は、今後の高年齢者雇用に関する研究会です。これは「生涯現役社会を目指して」ということで、6月20日に報告書がまとまったところです。今日、第2分科会でシニアの就活と起業という話もあります。研究会報告で謳われているのは、「希望者全員の65歳までの雇用確保策」「年齢に関わりなく働ける環境の整備」です。この方向性は、社会保障と税の一体改革の中でも打ち出されています。

  • 3つ目は、地域包括ケアシステムです。堀田先生のお話もありましたが、介護保険法の中で、まさに住み慣れた地域で自立して生活が送れるよう、定期巡回・随時対応型訪問介護看護等の新しいサービス類型をつくるということです。

  • 4つ目は、改正高齢者住まい法についてですが、介護・医療と連携してサービス付き高齢者向け住宅の登録制度を創設し、それに対して融資等の支援をするということです。これもまさに地域で暮らし続けるための住宅制度です。

いろいろお話ししてまいりましたが、今年の白書のテーマは高齢者の「出番」「活躍」です。皆様方のように様々な分野で活躍なさっている方がますます増えることを祈念しまして、私からの説明を終えさせていただきます。